結論
酉島製作所は、大型・高圧のポンプに絞った創業 100 年超のメーカーだ。海水淡水化プラントの高圧ポンプでは世界首位級にあり、売上の 6 割強を海外が占める。
筆者の結論は「適正」だ。事業の質は悪くない。ただ、10 年先の利益を今から高く見積もれるほど、利益率が安定していない。今の時価総額は、中立の筋書きを割り引いた値のそばにある。
稼ぎの柱は三つある。新しく納めるポンプ、納めたポンプの保守・部品、そして 2026 年 7 月に買った新日本造機の蒸気タービンとプロセスポンプだ。保守は売上の約 3 割にすぎないが、利益の大半を生んでいる。
弱点は利益率だ。売上は 6 期連続で過去最高なのに、営業利益率は 5% 台まで下がった。大型の海外案件は、値段が入札で決まる。量が増えても利益が付いてこない。
新日本造機は、約 150 億円で営業利益 24 億円の会社を買う取引だ。買い値は安い。ただ、石油化学向けの需要は脱炭素で先が読みにくい。この買収がうまくいくかどうかが、10 年後の筋書きを分ける。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見て、この会社の良さは「止まれないインフラに使う、数の少ない機械」を売っていることだ。悪さは、その機械の大半が入札で売られ、利益が顧客の発注の波に左右されることだ。
株主が持ち帰れる利益は、見かけより小さい。設備投資は重くないが、大型案件では前受金と未収金の波が資金繰りを動かす。税引き後の利益は、自己資本のおよそ 9% を稼ぐ程度だ。
経営の資本配分は、おおむね合格だ。持ち合い株を売って買収の資金に回し、配当と自社株買いも続けている。新日本造機の買い値も、利益に比べて安い。
気になるのは、利益率の目標と実績の差だ。売上の目標は前倒しで達成したが、営業利益は届いていない。数が増えても稼ぎが増えない状態が続けば、買収の効果も薄まる。
筆者は、今の値段に十分な安全域があるとは見ない。かといって高すぎる値段でもない。持ち続けたいと思える会社だが、買い増しを急がせる材料は足りない。
何で稼ぐ会社か
収益は大きく三つに分かれる。
一つ目は新設のポンプだ。会社は「ハイテクポンプ」と「プロジェクト」に分けている。ハイテクポンプは、発電所や化学プラントのように止まれば困る設備向けの特注品だ。プロジェクトは海水淡水化や上下水道の大型案件で、ポンプを数十台から数百台まとめて納める。エジプトの国家案件では 200 台超を受注した。
二つ目はサービスだ。納めたポンプの点検・部品交換・改造を、世界 16 拠点の網で請け負う。2024 年度は売上の 34% を占め、会社のなかでいちばん利益率が高い。
三つ目が新日本造機だ。住友重機械工業から買った会社で、石油化学プラント向けの蒸気タービンとプロセスポンプを造る。2025 年 12 月期の売上は約 190 億円、営業利益は約 24 億円だった。
地域は海外が 6 割強を占める。2026 年 3 月期は中東が 248 億円と前の期の 1.6 倍に伸び、全体の 4 分の 1 を超えた。一方でアフリカは半減し、アジアも減った。国内は官需が 26%、民需が 12% で、上下水道や排水の更新が土台になる。
優良さと弱いところ
堀は「作れる会社が少ない」ことと「納めた実績」だ。値決めの力ではない。
大型・高圧のポンプを造れるメーカーは、世界でも数えるほどしかない。海水淡水化では、世界の主要プラントのほぼすべてにポンプを納めてきた。2024 年には、大流量で高効率の液化水素ポンプを世界で初めて実現した。
納めた実績は、そのまま保守の受注につながる。世界 16 拠点の網で、保守の売上比率は 10% 台から 30% 台へ上がった。ここは長く続く収益だ。
ただし、新設の大型案件は入札で値段が決まる。売上総利益率は 27.2% から 26.2% へ下がった。会社は営業利益率 10% を 2029 年度の目標にするが、足元は 5.4% だ。
経営は選択受注で海外案件の損を抑えてきた。それでも 2016 年 3 月期には赤字を出している。自己資本比率は 50% で、財務は堅い。
筆者は、この会社を「技術は一流、稼ぐ力はまだ二流」と見る。堀は普通の厚さにとどめた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界のポンプ市場は、調査会社の推計で 600〜780 億ドル、年 4〜5% の成長とされる。推計の幅が広いのは、どこまでをポンプと数えるかが違うからだ。最大の用途は水と排水で、約 4 分の 1 を占める。
酉島の主戦場は、そのなかの大型・高圧・特殊の領域だ。市場は小さいが、顧客は国や大手企業で、一件が大きい。
海水淡水化は水不足の国で投資が続く。ただ、足元の需要はやや弱いと会社自身が説明している。中東の新規案件が遅れれば、受注が 60 億円ほど下振れる可能性がある。
電力は追い風だ。北米では生成 AI のデータセンターで電力需要が急に増え、会社は大型の受注を取った。水素・アンモニアのポンプは、まだ売上が小さい新しい芽だ。
競争相手は荏原製作所、スルザー、KSB、フローサーブといった世界の大手と、国内の鶴見製作所などだ。大型案件では、中国・韓国勢の安値も無視できない。
新日本造機が戦う蒸気タービンとプロセスポンプは、石油化学と製油所が顧客だ。設備の更新と法定点検が収益の土台になるが、脱炭素で新設の投資は読みにくい。
資本政策と M&A
還元は DOE(純資産に対する配当の率)3.0% と配当性向 35% を目安にした累進配当だ。今期も増配を予想している。2025 年 5 月からは最大 10 億円の自社株買いを行い、自己株は 2026 年 4 月に消却した。
2025 年 12 月には、保有株を公開買付けに応じて売り、28 億円の売却益を出した。持ち合い株を整理する姿勢は評価できる。
筆頭株主は原田記念財団で、持株比率は約 9.7% だ。りそな銀行、三井住友銀行、タクマなどが続き、安定株主が厚い。
最大の資本の使い道が新日本造機の買収だ。価格は 149 億円で、手元資金を 60 億円残す前提で決めた。利益は 18 億円あるので、買い値は純利益の約 8 倍にとどまる。会社は 2021 年にも豪州のポンプ会社を買っており、買収を使う会社だ。
買収で借入は増える。ただ、前受金が厚く、財務の余裕はまだある。
点検済み(費用点検):今の -24 億円には連結前の新日本造機(営業利益 24 億円)の年換算が入る。同じ範囲では今は約 0 で、中立 -8 億円は軽くない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
酉島は、世界でも数少ない大型・高圧ポンプの専業で、需要の波が来るたびに受注を積み上げてきた。海水淡水化では主要プラントのほぼすべてに納め、液化水素ポンプでも世界初の実績を持つ。水の不足、電力の不足、脱炭素という三つの大きな流れは、どれも 10 年続く。
利益の質も変わる。保守の比率が上がれば、売上が増えるほど利益率が上がる。保守は納めた台数に比例して積み上がるので、2022 年からの大型受注の山は、これから数年かけて保守の収益に変わっていく。
新日本造機の取得は、この流れを加速する。石油化学向けのタービンとプロセスポンプという新しい顧客を得て、保守網を使った売り込みもできる。買い値は純利益の約 8 倍と安く、買ってすぐ利益が増える。
会社が掲げる営業利益率 10% は、無理な数字ではない。新設の利益率が 5% 台に戻り、保守が 4 割に近づけば、全体で 9〜10% に届く。そのとき ROE は 11〜12% になり、倍率も上がる。
慎重な見方
酉島の問題は、売上が増えるほど利益率が下がってきたことだ。売上は 6 期連続で過去最高なのに、営業利益率は 9% 台から 5% 台へ落ちた。会社は中計で 10% を掲げ続けているが、一度も届いていない。
原因は構造にある。新設の大型案件は入札で、値段は競争相手が決める。外注に出す割合が高いハイテクポンプが増えれば、粗利率はさらに下がる。粗利率の低下は 2 期続いている。
地域の偏りも大きい。2026 年 3 月期は中東が全体の 4 分の 1 を超えた。中東情勢の悪化で案件が遅れれば、受注は一気に 60 億円ほど減る。アフリカは 1 年で半減した。大型案件は、ひとつ外れると穴が大きい。
新日本造機も、買い値の安さだけでは安心できない。2023 年 12 月期の営業利益は 4 億円にすぎず、石油化学向けの受注の波が大きい会社だ。脱炭素で製油所や石化の新設が細れば、当てにした相乗効果は出ない。
売上が 1,000 億円を超えても、ROE 10% に届くには利益率が今の 1.5 倍に上がる必要がある。その前提で倍率を積むのは危うい。
どちらに重みを置いたか
事業の強さについては強気の見方に説得力がある。ただ、利益率が上がるという主張には、まだ実績がない。中計の目標が何年も届かないままなので、確率は慎重な見方へ少し寄せた。
中立は営業利益率 7.6% とした。過去 6 期の平均並みで、新日本造機が混ざる分だけ少し高い。強気の筋書き(営業利益率 10%)の確率は 8%、やや強気は 21% にとどめ、慎重側のやや弱気を 24%、弱気を 12% とした。
弱気に 12% を置いたのは、大型案件の失敗と買収の不発が同時に起きる筋書きを、軽く見ないためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,979 円1,311 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,089 円287 億円)。 今の値に割り戻すと 3,174 円836 億円、今との差 +21.5%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,141 円2,669 億円 | 1,596 円420 億円 | +349.3% | +16.2% | 939 円247 億円 |
| やや楽観 | 21% | 7,488 円1,971 億円 | 1,330 円350 億円 | +237.6% | +12.9% | 1,852 円487 億円 |
| 中立 | 35% | 5,659 円1,489 億円 | 1,102 円290 億円 | +158.8% | +10.0% | 2,366 円623 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,239 円589 億円 | 950 円250 億円 | +22.1% | +2.0% | 765 円201 億円 |
| 悲観 | 12% | 646 円170 億円 | 570 円150 億円 | −53.5% | −7.4% | 146 円38 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,979 円1,311 億円 | 1,089 円287 億円 | +132.3% | +8.8% | 6,068 円1,597 億円 |
今の株価時価総額 2,612 円687 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 水・電力・水素が同時に伸び、利益率が 10% に届く 利益 155 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 10,141 円2,669 億円
海水淡水化の更新、北米の電力、水素・アンモニアが同時に伸び、新設ポンプの市場が 10 年で 1.25 倍になる。会社はシェアを 7% まで上げ、大型案件の値段も守る。
保守は納入台数の積み上がりで市場が 1.3 倍に広がり、保守網を生かしてシェアも 3.2% へ伸びる。新日本造機は、酉島の営業網で石油化学・ガス向けに売り込み、売上が 400 億円を超え、営業利益も今の 2 倍を超える水準へ育つ。
営業利益率は 10% に届き、会社が掲げる中計の目標を 10 年後に実現する筋書きだ。ROE は 12% 台になる。ただし、これだけの伸びを 10 年続けるには、液化水素の商用化など新しい需要が立ち上がることが前提になる。
- 新設ポンプ(ハイテクポンプ・プロジェクト):数量 12,500(大型・高圧・特殊ポンプの新設市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 9.4%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 1,173 億円・営業利益 76 億円。市場 1.25 倍・シェア 7.0%、利益率 6.5%
- サービス(保守・部品・改造):数量 15,600(同じ領域のポンプの保守・部品・改造の市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 4.3%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 669 億円・営業利益 100 億円。市場 1.3 倍・シェア 3.2%、利益率 15%
- 新日本造機(蒸気タービン・プロセスポンプ):数量 17,250(石油化学・製油所向け蒸気タービンとプロセスポンプ(保守を含む)の世界市場(億円、実質)× シェア)× 価格 2.4%(実質の市場に対する売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 416 億円・営業利益 58 億円。市場 1.15 倍・シェア 1.8%、利益率 14%
倍率:事業の純利益 155 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.22 倍、時価総額 2,669 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:複数の需要が 10 年続き、利益率まで中計どおりに届く必要がある。中計の目標は何年も届いていないので 1 割を切る確率にとどめる。
やや楽観 21% 保守が厚みを増し、営業利益率が 9% に近づく 利益 122 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 7,488 円1,971 億円
新設ポンプの市場は 1.2 倍に伸び、シェアは 6.65% へ少し上がる。保守は市場が 1.25 倍になり、シェアは 3.0% まで伸びる。
新日本造機は、酉島の海外網に乗って国外の売上を伸ばす。石油化学向けの更新需要と、蒸気タービンの法定点検が下支えになり、利益率は 12.8% を保つ。
営業利益率は 8.8% まで上がる。中計の 10% には届かないが、過去の最高水準(9% 台)に近づく。保守の比率が高まり、値上げもある程度通る筋書きだ。
10 年のあいだに、北米の電力向けと中東の更新が順に受注を支え、大型案件の穴を別の地域が埋める。外注費の上昇は値段に転嫁でき、粗利率は 28% 台を取り戻す。売上は 2,000 億円を超え、ROE は 10% 台になる。
- 新設ポンプ(ハイテクポンプ・プロジェクト):数量 12,000(大型・高圧・特殊ポンプの新設市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 8.9%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 1,069 億円・営業利益 56 億円。市場 1.2 倍・シェア 6.65%、利益率 5.2%
- サービス(保守・部品・改造):数量 15,000(同じ領域のポンプの保守・部品・改造の市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 4.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 603 億円・営業利益 86 億円。市場 1.25 倍・シェア 3.0%、利益率 14.2%
- 新日本造機(蒸気タービン・プロセスポンプ):数量 16,500(石油化学・製油所向け蒸気タービンとプロセスポンプ(保守を含む)の世界市場(億円、実質)× シェア)× 価格 2.1%(実質の市場に対する売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 354 億円・営業利益 45 億円。市場 1.1 倍・シェア 1.6%、利益率 12.8%
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.12 倍、時価総額 1,967 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海水淡水化の更新、北米電力、新日本造機の売り込みが半分うまくいく筋書き。実現する可能性はあるが、実績が足りない。
中立 35% 堅実に伸びるが、利益率は過去の平均並みにとどまる 利益 96 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 5,659 円1,489 億円
新設ポンプの市場は実質で 1.15 倍、保守は 1.2 倍、新日本造機の領域は 1.05 倍と、世界の水・電力・石油化学の需要に沿って育つ。会社のシェアは、新設でわずかに上がり、保守で少し上がる。
利益率は、新設が 4% 台に戻る。外注費と原材料高を値段に転嫁できる分だけ改善し、中計の目標までは行かない。保守は 13.5% を保ち、新日本造機は 11.5% に落ち着く。
営業利益率は 7.6% で、過去 6 期の平均並みだ。売上は 1,800 億円台に乗る。ROE は 9% 台で、資本コストを少し上回る程度の、堅実だが突き抜けない会社として落ち着く。
- 新設ポンプ(ハイテクポンプ・プロジェクト):数量 11,500(大型・高圧・特殊ポンプの新設市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 8.4%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 971 億円・営業利益 39 億円。市場 1.15 倍・シェア 6.3%、利益率 4.0%
- サービス(保守・部品・改造):数量 14,400(同じ領域のポンプの保守・部品・改造の市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 3.7%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 531 億円・営業利益 72 億円。市場 1.2 倍・シェア 2.75%、利益率 13.5%
- 新日本造機(蒸気タービン・プロセスポンプ):数量 15,750(石油化学・製油所向け蒸気タービンとプロセスポンプ(保守を含む)の世界市場(億円、実質)× シェア)× 価格 1.9%(実質の市場に対する売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 306 億円・営業利益 35 億円。市場 1.05 倍・シェア 1.45%、利益率 11.5%
倍率:事業の純利益 96 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.16 倍、時価総額 1,455 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業の実力と過去 6 期の利益率の平均に合わせた置き方で、強気と慎重の言い分の落としどころ。
やや悲観 24% 入札の値下げと中東の偏りで、利益率が今の水準に張り付く 利益 59 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 2,239 円589 億円
中東の大型案件が減り、海水淡水化は更新が中心の落ち着いた市場になる。新設ポンプの市場は 1.08 倍にとどまり、シェアは 5.9% に下がる。入札の値下げ圧力が続き、新設の利益率は 2.5% に沈む。
新日本造機は、石油化学の新設が細り、シェアが 1.2% へ落ちる。相乗効果は出ず、利益率は 9% まで下がる。のれんの一部を減損する。
営業利益率は 5.7% と今の水準に張り付く。保守は堅調だが、新設の弱さを埋めきれない。ROE は 6% 台で、資本コストを下回る。
売上は名目で 1,500 億円台まで伸びるが、物価の分が大きく、数量はほとんど増えない。値上げは外注費と人件費の上昇に食われ、利益の増えない成長になる。配当は DOE の目安で続くが、買収で増えた借入の返済が自由に使える資金を細らせる。
- 新設ポンプ(ハイテクポンプ・プロジェクト):数量 10,800(大型・高圧・特殊ポンプの新設市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 7.9%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 854 億円・営業利益 21 億円。市場 1.08 倍・シェア 5.9%、利益率 2.5%
- サービス(保守・部品・改造):数量 13,200(同じ領域のポンプの保守・部品・改造の市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 3.4%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 442 億円・営業利益 53 億円。市場 1.1 倍・シェア 2.5%、利益率 12%
- 新日本造機(蒸気タービン・プロセスポンプ):数量 15,000(石油化学・製油所向け蒸気タービンとプロセスポンプ(保守を含む)の世界市場(億円、実質)× シェア)× 価格 1.6%(実質の市場に対する売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 241 億円・営業利益 22 億円。市場は横ばい・シェア 1.2%、利益率 9%
倍率:ROE 6.4% は k 7.5% を下回る。正当化 PBR =(ROE − g)÷(k − g)=約 0.6 倍、PER に直すと約 9.4 倍。ためた利益は額面より低い価値として扱う。
確率:入札の値下げと中東の偏りは、すでに足元で出ている懸念。利益率の低下が続く筋書きを、中立より少し重く置く。
悲観 12% 大型案件の失敗と買収の不発が重なり、低収益に戻る 利益 25 億円 · PER 6.8 倍 · 株価時価総額 646 円170 億円
大型案件で採算の崩れる事故が起き、中東の発注も止まる。新設ポンプの市場は 0.95 倍に縮み、シェアは 5% へ下がる。新設の利益はほぼゼロになる。
中国・韓国勢の安値攻勢で、保守の値段も下がる。新日本造機は、脱炭素で石油化学の投資が縮み、売上が 180 億円台に細る。取得の価値は大きく傷み、のれんと資産を減損する。
営業利益率は 3% 台に落ち、2016 年 3 月期に近い低収益の会社に戻る。選択受注の規律と海外案件の管理が崩れた会社の姿で、10 年かけて利益が大きく削られる。
配当は減らさざるを得ず、財務の余裕も使い切る。株式市場は、稼ぐ力を戻せるかどうかを疑い続ける。ただし保守の収益と自己資本の厚さは残るので、会社が消えるほどの筋書きではない。
- 新設ポンプ(ハイテクポンプ・プロジェクト):数量 9,500(大型・高圧・特殊ポンプの新設市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 6.7%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 637 億円・営業利益 3 億円。市場 0.95 倍・シェア 5.0%、利益率 0.5%
- サービス(保守・部品・改造):数量 12,000(同じ領域のポンプの保守・部品・改造の市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 3.1%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 370 億円・営業利益 37 億円。市場は横ばい・シェア 2.3%、利益率 10%
- 新日本造機(蒸気タービン・プロセスポンプ):数量 13,500(石油化学・製油所向け蒸気タービンとプロセスポンプ(保守を含む)の世界市場(億円、実質)× シェア)× 価格 1.3%(実質の市場に対する売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 181 億円・営業利益 9 億円。市場 0.9 倍・シェア 1.0%、利益率 5%
倍率:ROE 3.2% が k 7.5% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値。PER は 1÷k = 12.5 倍が上限で、目減りは ROE÷k = 0.40 に比例するので、上限 × 0.60 × 0.9 で 6.8 倍になる。6.8 倍に置いた。やや悲観の 9.4 倍より低い。純現金はなく、売れる資産も確認できていないので、床の資産では値を支えない。
確率:大型案件の失敗、中東の停止、新日本造機の不発が重なる筋書き。2016 年 3 月期の赤字の前例があり、1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
新設ポンプ(ハイテクポンプ・プロジェクト)
発電・化学向けの特注ポンプと、海水淡水化・上下水道の大型案件に納める新しいポンプ。
| 数量大型・高圧・特殊ポンプの新設市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10,000 | 6.2% | 622 | 10 |
| 10 年後 中立 | 11,500 | 8.4% | 971 | 39 |
取り方:世界のポンプ市場(約 650 億ドル、約 9.8 兆円という調査会社推計の中央)のうち、酉島が戦う大型・高圧・特殊の領域を約 1 兆円と推定。2024 年度の構成比(保守 34.1%)から保守を約 3 割と置き、残りの約 620 億円を新設とした。営業利益は保守が最も高い利益率という説明から逆に割り振った推定。
サービス(保守・部品・改造)
納めたポンプの点検・部品交換・改造と、データを使った予防保全。世界 16 拠点で行う。
| 数量同じ領域のポンプの保守・部品・改造の市場(億円、今の値段で測った実質)× シェア | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12,000 | 2.6% | 307 | 40 |
| 10 年後 中立 | 14,400 | 3.7% | 531 | 72 |
取り方:2024 年度のサービス比率 34.1% と、新設の伸びで比率がやや下がったことから、2026 年 3 月期は約 3 割(約 307 億円)と推定。市場は新設の市場とほぼ同じ規模の約 1.2 兆円と置いた。営業利益率は約 13% の推定。
新日本造機(蒸気タービン・プロセスポンプ)
石油化学・製油所向けの蒸気タービンとプロセスポンプの製造・販売・保守。2026 年 7 月に住友重機械工業から取得。
| 数量石油化学・製油所向け蒸気タービンとプロセスポンプ(保守を含む)の世界市場(億円、実質)× シェア | 価格実質の市場に対する売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15,000 | 1.3% | 192 | 24 |
| 10 年後 中立 | 15,750 | 1.9% | 306 | 35 |
取り方:2026 年 3 月期の連結には入っていないので、取得の開示にある 2025 年 12 月期の実績(売上 191.7 億円・営業利益 24 億円)を足した擬似連結とした。市場は約 1.5 兆円と推定し、シェアは約 1.3%。
リスクと懸念
利益率が上がらない
売上が過去最高を更新し続けても、営業利益率は 9% 台から 5% 台へ下がった。入札で決まる新設の値段、外注費、原材料高が重なると、中計の営業利益率 10% は遠のく。
中東への集中
2026 年 3 月期は中東の売上が 248 億円で、全体の 4 分の 1 を超えた。地政学の悪化や顧客の予算の見直しで案件が遅れれば、受注が 60 億円ほど下振れる可能性を会社も示している。
新日本造機の取り込み
石油化学向けの受注は波が大きく、2023 年 12 月期の営業利益は 4 億円まで落ちた。脱炭素で新設が減ると、相乗効果は出にくい。のれんの減損も起こりうる。
大型案件の採算悪化
海外の大型プロジェクトは工期が長く、設計変更や材料高、為替で採算が崩れやすい。2016 年 3 月期には赤字を出した。選択受注の規律が緩むと、また起こる。
海水淡水化需要の鈍り
会社は足元の海水淡水化の需要を「やや減」と説明している。中東・北アフリカの投資が一巡すると、世界首位の地位だけでは売上を支えきれない。
為替
売上の 6 割強が海外で、ドル・ユーロ・中東通貨の動きが営業外の損益を大きく動かす。2027 年 3 月期は営業利益が増える予想なのに、経常利益は減る見通しだ。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 2 期続けて 7% を超えたら
- 強気の筋書きの確率を上げてよい。保守の比率が上がり、利益の質が変わったことを意味する。
- 中東で大型案件の発注が数件遅れたら
- 受注残の取り崩しが先に来る。やや弱気の筋書きに重みを移し、アフリカ・アジアの回復があるかを見る。
- 新日本造機の営業利益が 2 期続けて 15 億円を割ったら
- 買収の効果は薄いと判断する。のれんの減損の有無と、石油化学向けの受注残を確認する。
- 北米の電力向けの大型受注が続いたら
- 新設の売上は伸びるが、利益率が付いてくるかを見る。値段の交渉力が戻っていれば、中立より上の筋書きが現実味を帯びる。
- 中計の新しい目標で営業利益率を引き上げたら
- 会社が利益率を最優先に置いた証拠になる。具体策(保守比率・値上げ・外注の見直し)が数字で示されているかを確認する。
- 配当や自社株買いが DOE 3% を大きく超えて増えたら
- 資本の使い道が尽きた合図かもしれない。成長投資と買収の余地が小さくなっていないかを確認する。
見ておくもの
- 営業利益率(新日本造機を除く既存事業と、含めた全体の両方)
- 受注高・受注残と、受注のうち中東・北米電力・アフリカの割合
- 売上総利益率(外注費・原材料高の影響)
- 新日本造機の売上・営業利益(石油化学向けの受注の波)
- 新しい中期経営計画の営業利益率・ROE の目標と、保守比率の目標
倍率と資本コストの決め方
三つの稼ぎを、市場の大きさ × シェア × 営業利益率で積み、利益から倍率を式で置いた。中立の PER は 12.6 倍で、正当化 PER の上限 13.3 倍の約 95%。今の株価からは出発していない。結果として中立の 10 年後は今の時価総額の約 1.7 倍、確率をかけた価値は今の値段とほぼ同じ。財務は今と同じ形(家賃・リースを営業費用に入れた形)でそろえた。新日本造機は、2025 年 12 月期の実績を足した擬似連結を起点にした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→17.22 倍・やや楽観 PER 13.3→16.12 倍・中立 PER 12.6→15.16 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.5% = 8.0%。新日本造機の取り込みの不安は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。