結論
THK は、直動案内(LM ガイド)で世界シェア約 5 割、国内約 7 割を握る機械要素部品の雄だ。筆者の結論は明快である。今の株価は構造改革の完遂をほぼ満額で織り込んでおり、割高と見る。総合は割高(−55%)になった。
2026 年 2 月、採算の低い自動車部品事業を投資ファンドに譲ると発表した。売上の 4 割を占める事業だ。株価は 25 年ぶりの高値圏まで上がった。残る産業機器に資源を集め、ROE 10% 超を目指す。AI 向けの半導体投資も急回復し、2026 年 12 月期は営業利益の会社予想を 2 度引き上げた。追い風は強い。
中立は、会社の目標をそのまま達成する姿に置いた。10 年後の営業利益は約 450 億円、ROE は約 10%。それでも PER は 12 倍で、時価総額は今を 4 割台半ば下回る。目標を全部達成してもなお割高、というのが筆者の見立てだ。
今の値段は、構造改革の完遂に加え、半導体投資の勢いがそのまま続く前提まで払っている。かなり楽観的な値段である。
バリュー投資の観点から
筆者がまず目を引かれるのは、直動案内という狭い土俵で、世界シェア 5 割を守り続けた事実だ。品番が顧客の図面に書き込まれ、替えるには設計変更が要る。この堀は 50 年かけて築かれ、簡単には崩れない。株主の取り分になる利益を生む土台として、申し分ない事業だと見る。
問題は、経営がこの堀を活かし切れなかったことだ。採算の低い自動車部品を 10 年近く抱え、2020 年と 2025 年に赤字を出した。ROE は資本コストを下回るのが常だった。これは事業の競争力でなく、資本の使い方の規律の問題である。だから改善の余地は大きい。2025 年の構造改革は、遅れてきた是正だ。
安全域はどうか。今の株価は、構造改革の完遂と半導体投資の持続を、かなり先に織り込んでいる。会社の目標がそのまま実現する中立でも、割り引いた本質価値は今の時価総額に届かない。優良な事業を、優良さが証明される前の値段で買える時期は、すでに過ぎた。これが筆者の見立てだ。
何で稼ぐ会社か
THK の祖業は、1972 年に世界で初めて商用化した直動案内「LM ガイド」だ。直線の動きを転がりで支える部品で、工作機械、半導体装置、産業用ロボット、医療機器、物流設備など、自動化機械の可動部に入る。ボールねじ、ボールスプライン、電動アクチュエータ、FA センサへも広げ、機械を動かす「関節」を幅広く手がける。
2026 年 6 月、祖業とは別に営んできた自動車部品事業を、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに譲った。ステアリングやサスペンション部品の「THK リズム」と、その海外子会社 5 社だ。売上の 4 割を占めたが、採算は産業機器より明らかに低く、長く ROE を押し下げていた。譲渡後の THK は、直動案内と機械要素部品、FA ソリューションに絞った専業メーカーになる。
顧客は、工作機械やロボットを作るマシンビルダーと、その機械で生産ラインを組むマシンユーザーの両方だ。近年は、部品だけでなく、アクチュエータのモジュールや IoT・AI を合わせた FA ソリューションへ広げている。開発体制も製品別から技術分野別に組み替え、利益への寄与が大きい製品に人材を集めている。
優良さと弱いところ
筆者が THK の強みと見るのは、直動案内という土俵の規模だ。世界シェアは約 5 割、国内は約 7 割。1972 年の商用化から積み上げた広い品番がある。そして品番が顧客の設計図面に書き込まれる。替えるには設計変更が要り、これが価格を決める力を支えてきた。筆者はこれを本物の堀と見る。
資本効率は長く弱かった。自己資本比率は 55% 台と重い。ROE は 2025 年 12 月期に −26.7% まで落ちた。自動車部品の譲渡損が主因だ。2020 年 12 月期も赤字で、循環の谷での利益の振れも大きい。採算の低い自動車部品を長く抱えたこと自体が、資本の使い方の甘さを示している。
2025 年に「聖域なき構造改革」へ踏み切り、採算の低い事業を切り離した。固定費と変動費の削減目標を、数字で示した点は評価できる。独立社外取締役は 45%、女性取締役は 18% で、日本の製造業では改革的な構成だ。ただし ROE 10% 超は、まだ目標にすぎない。実現には時間がかかると筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
機械要素部品と FA 機器は、自動車、産業機械、半導体装置という複数の最終需要に部品を売る。どの需要が強いかで、業績の表情が変わる。
2026 年は、中国と台湾を中心に、AI 向けの半導体投資が急に回復した。THK の産業機器は、2026 年 12 月期の上期だけで、売上が 3 割強、営業利益が 2.7 倍に伸びた。自動車や工作機械の投資の先送りは残る。だが半導体とデータセンターの勢いが、それを打ち消している。
競合は、直動案内では日本精工が参入している。ニードルベアリングには IKO(日本トムソン)が強い。精密減速機では、ナブテスコとハーモニック・ドライブ・システムズが、ロボットの関節をほぼ握る。THK が本格的に入るには時間がかかる。
ヒューマノイドロボット向けの減速機市場は、2032 年まで年 9 割超の急成長が見込まれる新市場だ。日本精工は 2028 年の関節アクチュエータの投入を公表した。THK はまだ研究の段階にある。
10 年で見ると、自動化とロボット化の拡大と、自動車の EV 化による部品構成の変化が綱引きになる。中国と韓国の技術向上で、汎用品の価格が削られる懸念もある。2026 年 10 月は AI 投資の山に近い。10 年後がどの局面に当たるかで、利益は上下に振れる。
資本政策と M&A
資本政策の軸は、必要自己資本を 3,000 億円程度に絞ったことだ。配当は配当性向ではなく、自己資本配当率(DOE)8% を基本にする。機動的な自社株買いも組み合わせる。
現預金は、早期にネットニュートラル(純有利子負債ゼロ)まで下げる。中長期では、純有利子負債を EBITDA の 1〜2 倍まで許す。保守的だった貸借対照表を、積極的に使う方向へ変えた。
最大の M&A は、2026 年 6 月に終えた自動車部品の譲渡だ。売上の 4 割を手放す決断は、資本コストを意識した見直しとして好感され、株価上昇の起点になった。
成長投資は、半導体、ロボット、医療など高成長の 7 分野の販売強化と、FA ソリューションの拡大を掲げる。そのための提携や買収も視野にあるが、具体的な案件はまだ見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、堀の強さと改革の本気度を挙げる。THK は直動案内で世界シェア約 5 割を持つ。採算の低い自動車部品を手放し、残る産業機器の稼ぐ力がそのまま見える形になった。2026 年 12 月期は、上期だけで営業利益が前年の 2.7 倍に増えた。通期の予想は、260 億円から 480 億円へ、短い間に 2 度引き上げられた。
半導体の設備投資は、AI データセンターを起点に、循環の序盤から中盤にあるという。工作機械やロボット向けの回復も、これから本格化する余地がある。
10 年で見ると、ヒューマノイド向けの減速機とアクチュエータの市場は、年に 9 割超のペースで伸びる見込みだ。THK が研究中の技術が実用になれば、新しい柱になりうる。
資本政策の転換も大きい。必要自己資本を 3,000 億円程度に絞り、DOE 8% と自社株買いを組み合わせる。計画どおりに進めば、ROE は 10% 超まで上がる。固定費 60 億円、変動費 144 億円という削減目標も示した。改革の本気度が見える、という主張だ。
慎重な見方
慎重な見方は、まず実績を突く。THK の ROE は 2025 年 12 月期に −26.7% まで落ちた。2020 年にも赤字を出している。自動車部品を手放しても、残る産業機器の営業利益率は 6.0% にすぎない。営業利益 400 億円超へ届くには、固定費 60 億円と変動費 144 億円の削減が、計画どおり進む必要がある。日本の製造業が、これほど踏み込んだ削減を数年で終えた例は少ない。
足元の回復は、AI 向け半導体投資という特定の循環に頼る。中国の設備投資は、過去に何度も反転した。
ロボットでも立場は弱い。精密減速機は、ナブテスコとハーモニック・ドライブ・システムズが寡占に近い。ヒューマノイド向けでは、日本精工が 2028 年の投入を公表し、THK より先を行く。中国と韓国の技術向上は、直動案内の価格にもじわじわ効く。
株価はすでに 25 年ぶりの高値圏だ。PBR は 1 倍割れから 3 倍まで急に上がった。構造改革と AI 投資ブームのどちらかが崩れれば、評価は大きく縮む、という主張だ。
どちらに重みを置いたか
堀そのものは、強気の見方に分がある。50 年かけて築いた世界シェア 5 割は本物で、筆者も疑わない。ただ、株価の正当性は慎重な見方が重い。会社の ROE 10% 超の目標を達成する中立でも、10 年後の時価総額は今を 4 割台半ば下回る。確率で重ねると、5 割強下回る。
構造改革の実行と半導体投資の持続、この 2 つに値段がかなり頼っている。筆者は中立に最も重みを置きつつ、構造改革が進まない下方にも相応の確率を残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,567 円5,118 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,658 円1,858 億円)。 今の値に割り戻すと 3,436 円3,851 億円、今との差 −39.5%、 期待の年率 +0.9%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 10,024 円1.12 兆円 | 2,543 円2,850 億円 | +121.4% | +8.3% | 1,508 円1,690 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,127 円6,867 億円 | 2,248 円2,520 億円 | +47.6% | +4.0% | 1,843 円2,065 億円 |
| 中立 | 32% | 4,748 円5,321 億円 | 2,097 円2,350 億円 | +20.6% | +1.9% | 2,190 円2,455 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,748 円1,959 億円 | 767 円860 億円 | −55.7% | −7.8% | 553 円620 億円 |
| 悲観 | 12% | 937 円1,050 億円 | 152 円170 億円 | −80.8% | −15.2% | 131 円146 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,567 円5,118 億円 | 1,658 円1,858 億円 | +9.7% | +0.9% | 6,225 円6,976 億円 |
今の株価時価総額 5,676 円6,361 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 12% ロボット・半導体の構造的な拡大が10年続き、ROE改善が定着する 利益 551 億円 · PER 20.4 倍 · 株価時価総額 10,024 円1.12 兆円
AI と自動化の投資による半導体装置とロボット向けの需要が、10 年続く。THK はヒューマノイド向けの減速機とアクチュエータでも、一定の採用を取る。産業機器の営業利益率は 20% 前後まで上がる。
中国と韓国の追い上げには、高機能品と切り替えコストで対抗し、世界シェアは大きく崩れない。自社株買いも続き、株主への還元は、自動車部品を抱えていた時期を大きく上回る。
ROE は 16% まで上がり、資本配分の規律が構造として根づく。自己資本は 3,400 億円台まで積み上がり、必要水準の 3,000 億円を上回る。会社が掲げた目標を、大きく超えて走る姿だ。THK にとって最も恵まれた 10 年になる。
- 半導体・ロボット・工作機械向け:数量 32.2(世界の半導体製造装置・ロボット・工作機械向け精密直動部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 84(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 2,701 億円・営業利益 540 億円。営業利益率20.0%
- 一般産業・医療・物流・鉄道航空機向け:数量 61.6(世界の一般産業・医療・物流・インフラ関連の機械要素部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 32(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,982 億円・営業利益 248 億円。営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 551 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.4 倍。全体の PER 20.39 倍、時価総額 11,235 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体・ロボット向けの構造的な需要拡大と、資本効率改善の定着が10年間続く必要があり、複数の好材料が揃って初めて実現する。
やや楽観 22% 緩やかな構造改革の定着と着実な成長 利益 396 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 6,127 円6,867 億円
半導体とロボット向けの需要は、循環を伴いながら長い目で伸びる。THK はシェアをほぼ保つ。産業機器の営業利益率は 15% 前後で安定し、自己資本は 3,700 億円前後まで積み上がる。
一般産業、医療、物流向けも底堅い。ROE は 10% 台で、資本コストを上回り続ける。中国と韓国との競争は続くが、高機能品では設計への組み込みという切り替えコストが効く。
ヒューマノイド向けでは、日本精工など先行する競合を追う形になる。それでも機械要素部品の裾野の広さが下支えになる。構造改革と事業の成長が、ともに着実に進む 10 年だ。
- 半導体・ロボット・工作機械向け:数量 26.8(世界の半導体製造装置・ロボット・工作機械向け精密直動部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 74(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,968 億円・営業利益 335 億円。営業利益率17.0%
- 一般産業・医療・物流・鉄道航空機向け:数量 59.3(世界の一般産業・医療・物流・インフラ関連の機械要素部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 31(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,847 億円・営業利益 233 億円。営業利益率12.6%
倍率:事業の純利益 396 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.34 倍、時価総額 6,867 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革が完全な目標水準には届かないものの着実に進み、半導体・ロボット向けの需要も緩やかに拡大するという、実現性が比較的高い組み合わせ。
中立 32% 中立:産業機器専業として構造改革の目標をおおむね達成 利益 319 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 4,748 円5,321 億円
中立は、産業機器の専業として、会社の目標をおおむね達成する 10 年だ。半導体とロボット向けの需要は、循環を繰り返しながら年数 % で伸びる。一般産業、医療、物流向けは人口動態を映し、緩やかな伸びにとどまる。
産業機器の営業利益率は 13% 前後で安定し、営業利益は約 450 億円に届く。会社の目標の 400 億円超を、おおむね達成する姿だ。自己資本は 3,200 億円前後。ROE は 10% 近くと、目標の水準に迫る。
自動車部品という緩衝材はない。業績の振れはやや大きくなる。それでも DOE 8% の配当と自社株買いは、安定して続く。優良な専業メーカーとして評価は定着するが、特段の割安さも割高さもない 10 年になる。
- 半導体・ロボット・工作機械向け:数量 25.0(世界の半導体製造装置・ロボット・工作機械向け精密直動部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 70(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,758 億円・営業利益 264 億円。営業利益率15.0%
- 一般産業・医療・物流・鉄道航空機向け:数量 58.4(世界の一般産業・医療・物流・インフラ関連の機械要素部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 30(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,761 億円・営業利益 190 億円。営業利益率10.8%
倍率:事業の純利益 319 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.68 倍、時価総額 5,321 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自動車部品事業を手放した専業メーカーとして、会社目標に近い水準へ緩やかに収れんしていくという中心シナリオ。
やや悲観 22% 構造改革が道半ばにとどまり、競争も激しくなる 利益 156 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 1,748 円1,959 億円
固定費と変動費の削減は、部分的にとどまる。産業機器の営業利益率は 8% 前後で足踏みする。中国と韓国のメーカーが、直動案内の汎用品でシェアを広げ、値下げ競争が強まる。
ヒューマノイド向けでも、日本精工など競合に先行され、新市場の取り込みは限られる。自社株買いは抑えられ、自己資本は必要水準の 3,000 億円前後で足踏みする。ガバナンスの改革も、資本配分の規律を根本から変えるには至らない。
ROE は 5% 前後と、資本コストを下回る状態が 10 年続く。構造改革の看板は残るが、実態が追いつかない 10 年になる。
- 半導体・ロボット・工作機械向け:数量 23.1(世界の半導体製造装置・ロボット・工作機械向け精密直動部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 48(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,117 億円・営業利益 67 億円。営業利益率6.0%
- 一般産業・医療・物流・鉄道航空機向け:数量 71.6(世界の一般産業・医療・物流・インフラ関連の機械要素部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 23(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,675 億円・営業利益 156 億円。営業利益率9.3%
倍率:ROE 4.8% が k 7.25% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.9 倍まで。構造改革が遅れ、中国勢の価格圧力で利益が細り、ROE が k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 11.73 倍に置いた。
確率:ROE10%超の目標が完全には実現せず、中国・韓国メーカーとの競争も強まるという、構造改革と事業環境の両方で下振れが重なる想定。
悲観 12% 構造的に優位性を失い、普通の部品メーカーになる 利益 25 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 937 円1,050 億円
中国と韓国のメーカーが、直動案内の高機能品でも品質で追いつく。THK の世界シェアは大きく下がる。ヒューマノイド向けでも、日本精工など先行する競合にシェアを奪われ、新市場で存在感を築けない。
自動車部品という緩衝材はすでにない。産業機器の不振が、そのまま全社の業績に響く。構造改革は道半ばのまま、営業利益率はほぼゼロ近くまで落ちる。自己資本は積み上がらず、ROE は 1% 程度にとどまる。
かつての「直動案内の世界王者」という評価は失われる。競合がひしめく普通の機械要素部品メーカーとして、値が付く。THK にとって最も厳しい 10 年だ。
- 半導体・ロボット・工作機械向け:数量 22.0(世界の半導体製造装置・ロボット・工作機械向け精密直動部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 30(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 660 億円・営業利益 20 億円。営業利益率3.0%
- 一般産業・医療・物流・鉄道航空機向け:数量 70.0(世界の一般産業・医療・物流・インフラ関連の機械要素部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 19(実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,344 億円・営業利益 20 億円。営業利益率1.5%
倍率:設備投資の谷と中国勢の台頭で、堀が崩れて利益がほぼ消える構造悲観。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 1,050 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:中国・韓国メーカーの技術力向上でシェアを大きく失い、ロボット向けの新市場でも競合に完全に先行されるという複合的な下振れが、10年という期間では起こりうるため相応の確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体・ロボット・工作機械向け
半導体製造装置・産業用ロボット・工作機械に組み込まれるLMガイド・ボールねじ・アクチュエータなどの需要。
| 数量世界の半導体製造装置・ロボット・工作機械向け精密直動部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20.6 | 53 | 1,082 | 97 |
| 10 年後 中立 | 25.0 | 70 | 1,758 | 264 |
取り方:産業機器事業(継続事業、売上2,404億円)のうち、半導体・ロボット・工作機械向けを45%と推定し、億ドル換算の市場規模×シェアで表した。会社が『高成長が見込まれる重点7分野』に半導体・ロボット・工作機械を挙げていることを根拠にした。数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア35%。
一般産業・医療・物流・鉄道航空機向け
医療機器・物流設備・鉄道車両・航空機・一般産業機械などに組み込まれる直動案内・機械要素部品の需要。
| 数量世界の一般産業・医療・物流・インフラ関連の機械要素部品の需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 58.8 | 23 | 1,323 | 46 |
| 10 年後 中立 | 58.4 | 30 | 1,761 | 190 |
取り方:半導体・ロボット・工作機械向けを除いた残り(55%)を、医療・物流・鉄道航空機・EV関連などの裾野の広い需要と見て、億ドル換算の市場規模×シェアで表した。数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格に入れた。今の価格はシェア15%。この分野は市場が大きく分散しているためシェアは低めに置いた。
リスクと懸念
構造改革が計画どおりに進まない
ROE 10% 超は、固定費 60 億円と変動費 144 億円の削減に支えられた目標だ。産業機器の営業利益率は、2025 年 12 月期でなお 6.0% にとどまる。外部の支援を受けて進めるが、日本の製造業がここまでの削減を数年で終えた例は少ない。未達なら株価の前提が崩れる。
半導体投資の反動
2026 年 12 月期の急な回復は、AI 向け半導体装置の設備投資に強く頼る。中国の半導体投資は何度も反転してきた。循環が一巡すれば、業績とともに倍率も縮みうる。
自動車部品の緩衝材を失う
売上の 4 割を占めた自動車部品を 2026 年 6 月に手放し、産業機器の一本足になった。景気の波を受けやすい単一事業への集中が高まり、需要が落ちる局面では業績の振れが従来より大きくなりうる。
ロボット向けで競合に先行される
精密減速機は、ナブテスコとハーモニック・ドライブ・システムズがほぼ握る。ヒューマノイド向けでは、日本精工が 2028 年の関節アクチュエータの投入を公表した。THK はまだ研究段階で、先行者の利益を取り損ねる恐れがある。
中国・韓国メーカーの台頭
直動案内の汎用品では、中国と韓国のメーカーが技術を高めている。長い目では、価格を決める力とシェアの両方が削られる懸念がある。堀は設計への組み込みだが、高機能品以外では代替が進みやすい。
財務の組み替えが途上にある
自己資本比率は 55.3% まで下がり、自己資本は 2,613 億円と、会社が掲げる必要水準の 3,000 億円を下回る。純有利子負債を EBITDA の 1〜2 倍まで許す方針は、改革が順調なことが前提だ。計画から外れれば、貸借対照表の余力も細る。
ガバナンスは移行の途中
指名諮問委員会や報酬諮問委員会の見直しなど、体制は改善の途上にある。独立社外取締役は 45% と改革的だ。だが創業家出身の取締役が経営の中核に残る。資本配分の規律がどこまで変わるかは、これからの実績で判断する。
今後の分かれ目
- 2026 年 12 月期以降も営業利益の上方修正が続いたら
- 構造改革が計画を上回って進んでいると見て、楽観とやや楽観の確率を上げてよい。産業機器の営業利益率が 2 桁後半に乗るかを確かめる。
- 半導体関連の設備投資が反転し始めたら
- 足元の急回復が、循環の一局面だったと見る。中立からやや悲観の確率を上げ、工作機械や一般産業向けの受注で裏を取る。
- 必要自己資本の 3,000 億円に届き、自社株買いが本格化したら
- 資本効率の改善が実行の段階に入ったと見て、楽観側の確率を上げる。自己株の消却が進むかも確かめる。
- ヒューマノイド向けの減速機やアクチュエータで、具体的な採用が出たら
- 10 年の楽観とやや楽観の確率を上げてよい。日本精工など先行する競合との技術差が縮んだかを見る。
- 中国・韓国メーカーが、高機能品でもシェアを伸ばし始めたら
- 悲観側の確率を上げ、堀の持続性を見直す。
- 自動車部品の譲渡後に、新規事業や M&A が発表されたら
- 単一事業への集中リスクが和らぐと見て、中立側へ寄せる。資本コストを上回る案件かどうかで、投資の規律を確かめる。
見ておくもの
- 産業機器事業単体の営業利益率の推移(2027〜29年度目標400億円超への到達度)
- 自己資本配当率(DOE)8%と自己株式取得の実施状況、自己資本3,000億円への収れん
- 半導体・AI向け設備投資の受注動向(中国・台湾向けの増減)
- ヒューマノイドロボット向け減速機・アクチュエータの採用実績
倍率と資本コストの決め方
継続事業の産業機器を、半導体・ロボット・工作機械向けと一般産業向けに分け、実質の市場規模にシェアと物価並みの価格を掛けて売上を積んだ。利益には正当化 PER(k 7.25%、g 4%、堀は強いので残る割合 2/3)を当て、中立は上限の 8 割に置いた。会社の目標(営業利益 400 億円超、ROE 10% 超)を達成する中立でも、10 年後の時価総額は今を大きく下回る。今の株価に寄せた箇所はなく、結果をそのまま出した。やや悲観は稼ぐ力、悲観は純現金と売れる資産の床(約 1,050 億円)で測った。基準年の純利益 −699 億円は、譲渡に伴う事業再編損 816 億円を含む一過性の値なので、自己資本の流れの起点は過去 5 期の中央値 184 億円に置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.75→20.39 倍・やや楽観 PER 13.3→17.34 倍・中立 PER 12→16.68 倍・やや悲観 PER 10.97→11.73 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。自動車部品事業の譲渡に伴う一過性の損失や構造改革の実行リスクは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.25%。
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