結論
小倉クラッチは、車のエアコンのコンプレッサーを入り切りする電磁クラッチの大手だ。工場の機械や建設機械に使うクラッチやブレーキも作る。筆者の結論は、10 年の価値は今の時価総額の 3 分の 2 ほどで、割高とみるものだ。純資産に対しては 3 分の 1 の値段だが、稼ぐ力が資本コストに届かない。
主力のカーエアコン用クラッチは、電動化で需要が縮む。電動コンプレッサーは、エンジンのベルトでなくモーターで回るので、クラッチが要らない。輸送機器用は売り上げの 7 割を占める。ここが 10 年で 4 割強減る、というのが中立の見立てだ。
借入が重い点も効いてくる。純負債は約 100 億円で、時価総額の 1.6 倍ある。借り換えで金利が上がれば、薄い利益はさらに削られる。
一方で、一般産業用が下支えする。営業利益は 10 年後も 13 億円台を保つとみる。ただ、それだけでは資本コストを賄えない。会社も今期の営業利益を 6 億円と、前期の半分以下に見込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、10 年後も存在し、今より強い事業かが出発点になる。主力のカーエアコン用クラッチは、電動化で今より弱くなる側にある。
見かけの割安さには、だまされない。時価総額は純資産の 3 分の 1 だが、純資産は稼ぐ力の裏づけにならない。ROE が資本コストの半分にも届かない会社では、ためた利益は、その額面の価値に届かない。
株主のものになる利益、つまり事業を維持するための投資を引いた後の利益はさらに少ない。減価償却は年 18 億円、設備投資は 15 億円。維持に近い額が出ていく。
経営は利益志向への転換を掲げ、方向は評価できる。ただ、目標と実績の距離が遠い。計画を信じて高く払う理由はない。
安全域は、純資産の厚さにはない。借入が重く、床は売れる資産から負債を引いた後の小さな額にある。見極めは、輸送機器用の台数がどこで下げ止まるかにかかる。
何で稼ぐ会社か
小倉クラッチは群馬県桐生市に本社を置く。1964 年に車用エアコンのクラッチを作り始めた。電磁石の力でつなぎ、切る部品である。累計の供給は 4 億台を超えると会社は説明し、世界トップクラスを自負する。
事業は大きく 2 つある。輸送機器用が売り上げの約 7 割(289 億円)を占める。中身はカーエアコン用クラッチと、変速機の油圧を制御するソレノイドなどだ。一般産業用は約 3 割(123 億円)で、事務機器、工作機械、建設機械、昇降機に使うクラッチとブレーキ、糸や紙の張力を保つ制御機器である。
海外売上は 5 割を超え、米国、フランス、中国、タイ、インド、フィリピンに子会社を持つ。連結従業員は約 1,760 人。10% を超える販売先はなく、顧客は分散している。
稼ぎは薄い。2026 年 3 月期の営業利益率は 3.3%、輸送機器用は 2.7% だった。過去 12 年に営業赤字の年が 3 回ある。製品は完成車メーカーの部品表に入って長く売れる一方、値決めの力は弱い。株主には取引先持株会などが並ぶとされるが、上場の親会社は確認できない。
優良さと弱いところ
一言でいえば、技術に誇りのある専業部品メーカーだが、稼ぐ力が弱い会社だ。
強みは 2 つある。1 つ目はカーエアコン用クラッチで積み上げた量産の経験と顧客の信頼。2 つ目は一般産業用の幅広い品ぞろえで、自動車に頼らない収益の柱を持つ点だ。
弱みは明らかだ。主力が電動化で縮む製品であり、有報も電磁クラッチへの依存度の高さを自らのリスクに挙げている。自動車向けは値下げ要請が毎年続き、原価の上昇を価格に移しにくい。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 3.5% で、資本コストの半分に満たない。直近の純利益 15 億円は投資有価証券の売却益に押し上げられ、稼ぐ力そのものではない。会社も今期の営業利益を 6 億円と見込む。
経営は 2024 年に「規模から利益へ」と舵を切り、不採算品の撤退と在庫の圧縮を進める。方向は正しいが、実績はこれからだ。堀の評価は普通にとどめる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
カーエアコン用クラッチの市場は、成熟しながら縮み始めている。ベルト駆動のコンプレッサーを積む新車が減るからだ。
世界の新車販売は年 1 億台弱。このうち電気自動車は 2025 年に約 25% に達した(IEA ベース)。電気自動車とハイブリッド車の多くは、電動コンプレッサーを使う。これにはクラッチが要らない。日本国内の電気自動車の比率はまだ低く、ハイブリッドを軸にした複数路線が続くため、縮みは世界より遅い。有報も「電気自動車偏重の見直し」を不確実性に挙げる。
電動コンプレッサーの市場自体は、調査会社の予測が大きくばらつきながら拡大する。ベルト駆動の台数は、その裏返しで減る。コンプレッサーを作る側も電動に軸足を移しており、ベルト駆動の仕様は減っていく。
一般産業用は、工場の自動化と搬送機械の需要に左右され、景気で数量が振れる。人口減で国内の成熟需要は横ばい前後と置く。中国勢との価格競争もある。
自動車メーカーは部品の値下げを毎年求める。物価が年 3% の世界では、部品メーカーが価格に転嫁しきれず、利益率を削られやすい。
資本政策と M&A
還元は控えめだ。配当は安定の維持が方針で、2026 年 3 月期の配当性向は 1 割ほどにとどまる。利益の大部分は借入の返済に回る。
借入が重く、有利子負債は純資産の 9 割近い。会社は借入の比率を下げると明記し、棚卸を 7% 減らす計画を持つ。自社株買いの実績は確認できない。
資産の整理は進む。2026 年 3 月期に三菱重工、ニデックなど上場株 4 銘柄を全部売った。2024 年には子会社の東洋クラッチを吸収合併し、2026 年にはインド子会社の解散・清算を決めた。
上場株は 41 銘柄で約 11 億円。群馬銀行や東和銀行が大半を占める。売却の方針が数字で開示されているわけではなく、含み益を価値に足すほどの額もない。
TOB の発表は確認できなかった。時価総額が純資産を大きく下回り、買収の対象になりうるが、実際の動きはまだ見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電動化の見通しは行き過ぎだ。車の世界は内燃機関、ハイブリッド、電気自動車が並び立つ。日本、東南アジア、インド、アフリカではベルト駆動の車が長く残る。
同社は累計 4 億台の実績があり、品質と量産の経験を持つ。会社は利益志向への転換を掲げ、不採算品を撤退させ、棚卸を減らす。その効果が出れば、輸送機器用の利益率は 3.8% を超える。
一般産業用も、自動化と省力化の需要で伸びる。アクチュエーターやステアバイワイヤ向けのクラッチなど、動力源に依存しない製品が育てば、主力の縮みを埋められる。
時価総額は純資産の 3 分の 1 にすぎず、利益が少し回復するだけで、再評価の余地が大きい。海外で 5 割を稼ぐ拠点網も、需要の強い地域に置き換えながら生かせる。借入は返済が進めば金利上昇の影響が小さくなり、配当性向も 1 割と低いので増配の余地もある。
経営は規模より利益を優先すると明言し、2026 年に入ってもインド子会社の清算と上場株の売却で資産を整理している。実行力の表れで、続けば利益率は想定より早く上がる。
慎重な見方
主力の運命は、製品の構造に決まっている。電動コンプレッサーにクラッチは要らない。電気自動車が増えるほど、需要は不可逆的に減る。
自動車メーカーの値下げ要請は毎年続く。物価が年 3% の世界では、部品メーカーが原価の上昇を価格に移せず、利益率が薄いまま固定する。同社は過去 12 年で 3 回、営業赤字に落ちている。
借入も重い。純負債は約 100 億円で、時価総額の 1.6 倍ある。借り換えで金利が上がれば、薄い利益はさらに削られる。
新製品の話は、実績が伴わない。2024 年の計画は営業利益率 5% を掲げたが、会社自身が今期の営業利益を 6 億円に見込む。計画の水準には届いていない。純資産に対する安さは、稼ぐ力のなさの裏返しだ。電動化が進むほど、同社の売り上げの 7 割を占める輸送機器用は、固定費を負担しきれなくなる。一般産業用も中国勢との価格競争と景気の波にさらされ、利益率は 4.7% にとどまる。自動車の穴を埋める力はない。
どちらに重みを置いたか
強い論点は慎重な側にある。主力製品の需要減は構造で、確率で打ち消せない。一般産業用が守る分、悲観を最大にはしなかった。
確率は、中立を 35% と最も重く置き、やや悲観と悲観を合わせて 46% にした。楽観側は合わせて 19%。純資産に対する値段の低さは、稼ぐ力が資本コストに届かない会社の評価としては安全域にならない、と判断した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,150 円92 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 885 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 3,044 円46 億円、今との差 −29.2%、 期待の年率 +5.0%(資本コスト 9.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 17,331 円259 億円 | 3,008 円45 億円 | +373.0% | +16.8% | 1,017 円15 億円 |
| やや楽観 | 14% | 12,073 円181 億円 | 1,671 円25 億円 | +219.6% | +12.3% | 1,924 円29 億円 |
| 中立 | 35% | 7,699 円115 億円 | 1,003 円15 億円 | +102.4% | +7.3% | 3,046 円46 億円 |
| やや悲観 | 28% | 2,268 円34 億円 | 535 円8 億円 | −34.8% | −4.2% | 785 円12 億円 |
| 悲観 | 18% | 1,464 円22 億円 | 0 円0 億円 | −66.0% | −10.2% | 264 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,150 円92 億円 | 885 円13 億円 | +63.6% | +5.0% | 7,035 円105 億円 |
今の株価時価総額 4,300 円64 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 電動化の波が緩く、新しい駆動部品も根づく 利益 22 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 17,331 円259 億円
電動化の速度が今の予測より遅れ、ベルト駆動のコンプレッサーを積む車が世界で今の 8 割以上残る。加えて、会社が掲げるアクチュエーター、ステアバイワイヤ向けクラッチ、水素向けブロワが量産に乗り、輸送機器用の売り上げは台数ベースで 15% の減にとどまる。
一般産業用は工場の自動化と省力化の需要を取り込み、実質 2 割伸びる。値決めの力は限られるが、不採算品を整理した効果が出て、全社の営業利益率は 5.9% に届く。
この筋書きでも、稼ぐ力は資本コストにまだ届かない水準にとどまる。自己資本はためた利益で厚くなるが、利益率が低いままなら倍率は上がらない。
- 輸送機器用(カーエアコン用クラッチ・ソレノイド・過給機):数量 6.1(クラッチ換算の販売数(百万台相当))× 価格 5.37(1 台あたり売上(千円))→ 売上 329 億円・営業利益 16 億円。輸送機器用 営業利益率 5.0%
- 一般産業用(電磁クラッチ・ブレーキ・張力制御):数量 3.7(販売数(百万個相当))× 価格 5.56(1 個あたり売上(千円))→ 売上 207 億円・営業利益 16 億円。一般産業用 営業利益率 7.5%
- その他(防災機器・オイルミスト除去装置ほか):数量 1.0(販売数(百万件相当))× 価格 0.64(1 件あたり売上(千円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。その他
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 232 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内燃機関と軽いハイブリッドが長く残り、アクチュエーターなど新製品も採用される二つの条件が重なる必要がある。会社の計画の達成実績が乏しいので 5% にとどめた。
やや楽観 14% 電動化は進むが、主力の縮みは緩やか 利益 14 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 12,073 円181 億円
電動化は予測どおり進み、ベルト駆動のコンプレッサーを積む車は今の 7 割に減る。それでも途上国や商用車、ハイブリッドの一部が残り、輸送機器用の台数は 3 割減で止まる。
値上げは原価の上昇を追いきれず、物価の 3 分の 2 ほどしか通らない。一般産業用は小さく伸び、利益率は 6% に上がる。全社の営業利益率は 4.7% で、過去の山を超えるが、不採算品の整理と棚卸の削減が効いた結果と見る。借入は着実に減り、利払いの負担も軽くなる。配当は利益の 2 割まで引き上げられ、自己資本も厚みを増す。一般産業用では、搬送機械やロボットの需要が追い風になり、売り上げは今の 1.5 倍近くに伸びる。
- 輸送機器用(カーエアコン用クラッチ・ソレノイド・過給機):数量 5.0(クラッチ換算の販売数(百万台相当))× 価格 5.13(1 台あたり売上(千円))→ 売上 259 億円・営業利益 10 億円。輸送機器用 営業利益率 3.8%
- 一般産業用(電磁クラッチ・ブレーキ・張力制御):数量 3.4(販売数(百万個相当))× 価格 5.40(1 個あたり売上(千円))→ 売上 184 億円・営業利益 11 億円。一般産業用 営業利益率 6.0%
- その他(防災機器・オイルミスト除去装置ほか):数量 1.0(販売数(百万件相当))× 価格 0.60(1 件あたり売上(千円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。その他
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 147 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が掲げる利益志向への転換が一定程度進む筋書きで、実績のある範囲に収まる。
中立 35% 主力は半分近くまで縮み、産業用が下支えする 利益 8 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 7,699 円115 億円
中立では、ベルト駆動のコンプレッサーを積む車が世界で今の 6 割に減り、輸送機器用の台数は 4 割強減る。電動コンプレッサーにはクラッチが要らないからだ。ソレノイドなどの新しい柱が埋めるのは一部にとどまる。
自動車メーカーからの値下げ要請は続く。物価の上昇は原価に回り、値上げは 10 年で 1.24 倍と、物価の 1.34 倍に届かない。利益率は 2.5% に落ちる。
一般産業用は台数が横ばいで、値上げが物価並みに通り、利益率は今の 4.7% をほぼ保つ。全社では営業利益 13 億円台と、今とほぼ同じ金額になるが、売り上げの規模は 8% 小さくなる。今の水準を守れるかどうかは、不採算品の撤退が計画どおり進むかにかかる。
- 輸送機器用(カーエアコン用クラッチ・ソレノイド・過給機):数量 4.2(クラッチ換算の販売数(百万台相当))× 価格 4.97(1 台あたり売上(千円))→ 売上 208 億円・営業利益 5 億円。輸送機器用 営業利益率 2.5%。値下げ要請で単価は 1.24 倍にとどまり、物価の 1.34 倍に届かない
- 一般産業用(電磁クラッチ・ブレーキ・張力制御):数量 3.2(販売数(百万個相当))× 価格 5.32(1 個あたり売上(千円))→ 売上 170 億円・営業利益 8 億円。一般産業用 営業利益率 4.7%
- その他(防災機器・オイルミスト除去装置ほか):数量 1.0(販売数(百万件相当))× 価格 0.62(1 件あたり売上(千円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。その他
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.7% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 84 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化の予測と同社の現状の利益率の両方から素直に出る姿で、いちばん重く置く。慎重な見方も通るが、実績のある産業用が守る分、悲観より中立に寄せた。
やや悲観 28% 主力が急速に縮み、再編の費用が重い 利益 3 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 2,268 円34 億円
電動化が前倒しで進み、輸送機器用の台数は今の 45% まで減る。値下げ要請が強まり、単価は 1.20 倍にとどまる。固定費の重い国内外の工場を持て余し、利益率は 1% まで下がる。
一般産業用は守るが、自動車向けの稼ぎが細るため、全社の再編費用が年 2 億円ほどかかる。営業利益は 6 億円台に細る。
借り換えで利払いが増え、純利益は 3 億円前後。配当は最低限を保つが、自己資本は減損で伸びない。国内の自動車向け工場の稼働率が下がり、固定費の重さが利益を直撃する。会社は拠点を減らして対応するが、費用が先に出る。
- 輸送機器用(カーエアコン用クラッチ・ソレノイド・過給機):数量 3.2(クラッチ換算の販売数(百万台相当))× 価格 4.81(1 台あたり売上(千円))→ 売上 156 億円・営業利益 2 億円。輸送機器用 営業利益率 1.0%
- 一般産業用(電磁クラッチ・ブレーキ・張力制御):数量 3.0(販売数(百万個相当))× 価格 5.16(1 個あたり売上(千円))→ 売上 155 億円・営業利益 7 億円。一般産業用 営業利益率 4.5%
- その他(防災機器・オイルミスト除去装置ほか):数量 1.0(販売数(百万件相当))× 価格 0.55(1 件あたり売上(千円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。その他
倍率:事業の ROE 1.5% は資本コスト 9.5% を大きく下回る。稼ぐ力の床(純利益÷k)が 32 億円なので、その範囲内の 8.0 倍に置いた。
確率:主力の専業度が高く、電動化が速まると台数が一気に減る。過去 12 年で営業赤字の年が 3 回あることを踏まえ、悲観を厚くした。
悲観 18% 主力が崩れ、産業用の利益だけでは足りない 利益 −4 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 1,464 円22 億円
電動コンプレッサーへの切り替えが想定より速く進み、輸送機器用の台数は今の 3 割まで落ちる。世界の工場の稼働率が下がり、国内外の拠点を閉じる費用がかさむ。
単価も崩れ、輸送機器用は赤字になる。一般産業用だけでは本社費を賄えず、全社で営業赤字になる。借入が重いので、資産を売って返済する局面に入る。
この局面では稼ぐ力ではなく、売れる資産の値段が株主の取り分を決める。投資有価証券、遊休地、在庫を売り、負債を引いた後に残る分が床になる。借入の返済を優先すると、株主への還元は止まり、配当もゼロになる。会社の存続自体は借入の借り換えが続くかにかかり、取引銀行の姿勢が株主の取り分を左右する。
- 輸送機器用(カーエアコン用クラッチ・ソレノイド・過給機):数量 2.2(クラッチ換算の販売数(百万台相当))× 価格 4.50(1 台あたり売上(千円))→ 売上 97 億円・営業利益 −3 億円。輸送機器用 営業利益率 -3.0%
- 一般産業用(電磁クラッチ・ブレーキ・張力制御):数量 2.8(販売数(百万個相当))× 価格 5.00(1 個あたり売上(千円))→ 売上 140 億円・営業利益 4 億円。一般産業用 営業利益率 2.5%
- その他(防災機器・オイルミスト除去装置ほか):数量 1.0(販売数(百万件相当))× 価格 0.50(1 件あたり売上(千円))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。その他
倍率:赤字なので稼ぐ力では測れず、売れる資産の税後から負債を引いた額(22 億円)を床に置いた。今の自己資本 199 億円に対する PBR は 0.11 倍。
確率:電動化が前倒しされ、同時に自動車メーカーが内製や他社に切り替える筋書き。専業部品メーカーとしてはありうる深さなので、18% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
輸送機器用(カーエアコン用クラッチ・ソレノイド・過給機)
ベルトでエンジンにつながるコンプレッサーを入り切りする電磁クラッチが柱。パワートレイン用ソレノイドなども含む。
| 数量クラッチ換算の販売数(百万台相当) | 価格1 台あたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.2 | 4.01 | 289 | 8 |
| 10 年後 中立 | 4.2 | 4.97 | 208 | 5 |
取り方:輸送機器用の売上 288.7 億円(2026/03、有報)を、クラッチ換算で年 720 万台・1 台あたりの売上を千円単位で 4.0 と置いた推定。台数は開示がなく、世界のベルト駆動コンプレッサー付き新車の数と同社の取引規模からの推定。セグメント利益 7.9 億円(2.7%)。
一般産業用(電磁クラッチ・ブレーキ・張力制御)
事務機器・工作機械・建設機械・昇降搬送機械向けのクラッチとブレーキ、張力制御機器。
| 数量販売数(百万個相当) | 価格1 個あたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.1 | 3.97 | 123 | 6 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 5.32 | 170 | 8 |
取り方:一般産業用の売上 123.1 億円(+4.1%、有報)を、年 310 万個・1 個あたりの売上を千円単位で 4.0 と置いた推定。台数の開示はない。セグメント利益 5.7 億円(4.7%)。
その他(防災機器・オイルミスト除去装置ほか)
防災機器、オイルミスト除去装置、不動産などの小さな事業。
| 数量販売数(百万件相当) | 価格1 件あたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 0.49 | 5 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 0.62 | 6 | 0 |
取り方:その他の売上 4.9 億円(有報)。規模が小さいので 1 件の括りで置いた推定。セグメント利益 0.2 億円。
リスクと懸念
主力製品が電動化で不要になる
電動コンプレッサーはモーターで回るため、電磁クラッチが要らない。電気自動車と多くのハイブリッド車で需要が消える。有報も電磁クラッチへの依存度の高さを自らのリスクに挙げている。同社は技術の陳腐化を恐れる側に立っている。
自動車メーカーからの値下げ要請
取引先は自動車メーカーとそのティア 1 で、毎年の原価低減が前提になる。物価が上がっても転嫁は遅れる。10 年でみると単価が物価に届かず、利益率が低いまま固定する危うさがある。
借入が重く、金利上昇に弱い
有利子負債は 175 億円で、現金を引いた純負債は約 100 億円。利益が薄い会社にとって、借り換えで金利が 3.5% 前後に上がる影響は大きい。10 年で年 3 億円ほど利益が減る。
赤字の年が多い
過去 12 年に営業赤字の年が 3 回ある。利益率の山が低く、少しの需要減で赤字に落ちる。純利益が一過性の売却益で膨らむ年もあり、足元の利益が稼ぐ力を示しているとは限らない。
海外拠点の整理が続く
米国、欧州、中国、東南アジア、インドに子会社が並ぶ。2026 年 1 月にはインド子会社の解散・清算を決めた。拠点の閉鎖費用や為替の動きで、利益が振れる。
利益志向の計画が未達の恐れ
2024 年の中期計画は、2027 年 3 月期に営業利益率 5% を掲げる。しかし会社自身が今期の営業利益を 6 億円に見込み、計画から遠い。目標が遠いほど、投資家は計画を割り引いて見る必要がある。
今後の分かれ目
- 電動コンプレッサーの採用が、予測より 2〜3 年早く広がったら
- 輸送機器用の台数が中立の見立てより先に落ち、やや悲観の筋書きに確率を移す。
- 水素・燃料電池向けのブロワやステアバイワイヤ向けクラッチが量産に入ったら
- 主力の縮みを埋める柱ができ、楽観寄りの筋書きに確率を移す。
- 不採算品の撤退が進み、輸送機器用の利益率が 4% を超えて定着したら
- 中立の利益率を上げ、倍率の見方も見直す。
- 借入を返し、純負債が 50 億円を切ったら
- 金利上昇の影響が和らぎ、資本コストの借金の項目を軽くする。
- 自動車メーカーが内燃機関車の延命を長く続けたら
- ベルト駆動の台数が緩やかに減るだけになり、楽観寄りに確率を移す。
見ておくもの
- 電動コンプレッサーの採用率と、ベルト駆動を積む車の台数
- 輸送機器用の営業利益率(3.8% を超えて定着するか)
- 不採算品の撤退と棚卸の圧縮の進み方
- 純負債と借り換えの金利
- アクチュエーターなど新製品の量産開始
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE と資本コスト 9.5% から置いた。ROE が k に届かないので、PER は 1÷k の 10 倍を上限に、中立は 7 倍とした。今の株価・過去の PER・PBR・同業の倍率は使っていない。時価総額が純資産の 3 分の 1 であることは、割安の根拠にしていない。悲観の床は、売れる資産の税後から負債を引いた額(22 億円)で置き、帳簿の自己資本は床にしなかった。新リース会計基準で BS の形は変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に含む形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9→10.53 倍・やや楽観 PER 8→10.53 倍・中立 PER 7→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +2.5% を足して 10.0%。同じ領域の会社(+1.0〜+1.8%)より高いのは、主力が電動化で不要になる側にあり、借入も重いため。