結論
岡野バルブ製造は、原子力・火力発電所の高温高圧バルブをつくり、定期検査で直す会社だ。国内の電力向けでは数少ない専業で、東京電力など電力会社が主な顧客である。
筆者の結論は、事業は強いが値段は先を織り込みすぎている、というものだ。確率で重みを付けた10年後の価値は、今の時価総額を大きく下回る。
足元の業績は確かにすごい。2026年9月期は営業利益が前期の2倍を超える見通しで、配当も引き上げた。原因は、原発の安全対策工事である特重施設向けの弁と、再稼働に伴う点検工事が同時に来たことだ。
ただし特重施設の工事は期限のある一度きりの波である。それが過ぎたあとに、同じ利益率が残るとは限らない。過去12年の営業利益率はほとんどが1桁で、最高でも14.5%にとどまる。
救いは財務だ。自己資本比率は82%、純現金は時価総額の2割ある。つぶれる会社ではない。ただ、配当を利益の1割ほどしか出さないので、現金はたまる一方で、資本効率は上がりにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の事業そのものは良い。原発の弁は壊れにくく、交換や保守で長く稼げる。借金もない。
問題は、オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益の持続性である。今の営業利益には、期限のある特重施設の工事が大きく含まれる。特別な年の利益を永遠に続くものとして払うのは、バリュー投資が最も避ける誤りの1つだ。
次に、資本の使い方である。利益の9割を会社にとどめ、現金が積み上がる。この資金が高い利益率で再投資されるなら良いが、売上規模は小さく、使い道は限られる。ためた現金は、株主から見ると利息しか稼がない。
安全域は、割高な場合には存在しない。純現金と含み益がある分、悲観でも崩れ方は浅いが、今の値段は中立の筋書きの利益をかなり先取りしている。
筆者は、事業としては持ち続けたいが、この値段では買いたくない、と考える。資本政策が変わり、配当や自社株買いが利益の3割を超えて動き出すなら、見方は変わる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は3つある。国内の発電所向け弁の製造、アジア向けの輸出、そして定期検査や廃炉に伴うバルブの保守工事だ。報告セグメントはバルブ事業の1つだけで、3つの内訳は開示されていない。
製造の中心は、蒸気の温度や圧力が極めて高い場所で使う弁である。1926年に発電所向け高温高圧弁の国産化に成功した。1932年には超硬合金ステライトを使った弁を開発し、1968年にはBWR(沸騰水型)原発向けの弁を敦賀1号機に納めた。会社は国内の火力発電所向けで9割、BWR原発向けで8割のシェアを持つと説明している。ただし自己申告で、第三者の裏づけはない。
直近の主な案件は、東海第二・柏崎刈羽の特重施設用弁、上越火力の弁、ベトナムとシンガポール向けの鋳鋼弁だ。保守は福島第一原発の廃炉関連が中心で、柏崎刈羽、女川、島根の点検工事も受ける。
売り方に癖がある。販売の4割は関連会社の岡野商事経由で、同社は発行済株式の21.9%も持つ。製造の一部は子会社の岡野クラフトに外注する。ドローンやIoTによる設備点検の新事業も始めたが、受注はまだ振るわない。
決算期は11月から9月に変わり、2025年9月期は10か月決算だった。売上は70億円、営業利益は8.6億円。年換算すると売上は84億円ほどで、規模は小さい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、原子力用バルブを納める資格と実績にある。原発の弁には厳しい品質保証が要り、電力会社は実績のない会社に重要な弁を任せない。福島第一の廃炉工事のように、自社の弁を知り尽くした会社に回る仕事もある。
しかし、堀の外側は薄い。顧客は電力会社という少数の買い手で、価格は交渉で決まる。東京電力向けだけで売上の1割を超える。販売の4割を握る岡野商事との関係が変わると、売上の見え方も変わる。
収益性は長く低かった。営業利益率は2014年から2021年まで、おおむね0〜7%で、2019年には赤字になった。原発が止まっていた間は、保守も新規もなかったからだ。10年のROEの中央値は3.8%にすぎない。
転機は2023年からだ。再稼働と特重施設の工事が重なり、営業利益率は11%、14.5%と上がった。筆者が気にするのは、この利益率が景気ではなく、工事の期限で決まっている点だ。
経営は慎重で、無借金に近い。ただ資本の使い道に工夫は乏しい。現金は積み上がるが、自社株買いは確認できず、配当性向は1割前後だ。売上規模の拡大を優先課題に掲げるが、数値目標のある中期計画はない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の決め手は国の原子力政策である。第7次エネルギー基本計画は、2040年度の電源の2割程度を原子力とし、従来の依存度低減から「最大限活用」へ転じた。2026年7月には、廃炉にした原発の建て替えを2040年代までに2〜5基進める行動指針も正式に決まった。
当面の需要は3つある。第1に特重施設で、期限までに工事を終える必要があるため、2020年代後半に弁の納入が集中する。第2に再稼働で、原発が動けば定期検査が戻り、保守工事が増える。第3に福島第一の廃炉で、数十年続く仕事だが、年ごとの量は読みにくい。
波が引いたあとの姿が焦点になる。特重施設の納入が終われば、製造は更新工事と新規の受注に頼ることになる。原発の運転が長くなれば弁の交換は増えるが、新設の弁が出るのは2030年代半ば以降と遅い。
火力は、老朽設備の更新とLNG火力の補修が中心で、横ばいから緩やかな増加とみる。海外は、ベトナムやシンガポールなどアジアの火力向け鋳鋼弁が伸びしろだが、現地メーカーとの価格競争がある。
競争は、国内の原子力用では同業が少なく、首藤バルブ製作所など数社が競合で、大手重電メーカーの手配の仕方も影響する。世界の原子力用バルブ市場は調査会社によって数字が大きくぶれる(2025年で約15億ドル前後)。市場規模は不確かで、国内の電力向けは数十億円から百億円台と筆者は推定する。
資本政策と M&A
還元は控えめである。配当は安定的・継続的を基本とし、2026年9月期は中間・期末とも前期より増やす計画だ。それでも配当性向は1割前後で、自社株買いの実績は確認できない。
手元には純現金42億円と、投資有価証券14億円がある。政策保有株の一部を売却して2025年9月期の純利益を押し上げた。この現金は売上84億円の会社には厚すぎる。仕掛品や受注の運転資金を引いても、25億円ほどは事業に要らないと筆者は見る。
ただし、その現金が少数株主に戻る保証は薄い。関連会社の岡野商事が21.9%を持ち、経営と販売の両面で結びつきが強い。このため、現金の価値は帳簿の半分で数えた。
M&Aは見当たらない。規模が小さく、買い手にとっては原子力用バルブの資格と実績が魅力だ。大手重電や商社が取り込む可能性はあるが、岡野商事の持分があるので、友好的な話以外は進みにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
原子力政策が転換した今、10年はこの会社にとって長い追い風になる。特重施設の工事で弁を取り、再稼働で保守も戻った。2026年9月期の営業利益率は19.5%の見通しで、過去の最高を5ポイント上回る。会社の予想が2027年9月期も同水準で続くのは、その場限りの利益ではないことを示す。
再稼働が進めば、国内で動く原発は、10年のうちにさらに増えていくとみられる。定期検査のたびに、弁の点検・交換が発生する。運転期間が60年に延びれば、交換の需要はさらに増える。保守は売上の3分の1ほど(筆者の推定)を占め、価格も物価並みに上げやすい。
2030年代に入れば、廃炉原発の建て替えが動き出す。新しい原子炉には大量の弁が要り、国内の高温高圧弁で実績のある岡野バルブは受注の有力候補になる。輸出も、アジアの火力新設で道が開ける。
財務も強気を支える。純現金は42億円、自己資本比率は82%で、逆風に耐える体力は十分だ。株価が上がれば、東証の資本効率の要請を受けて還元を増やす圧力も強まり、資本効率の改善が価値を押し上げる。
強気の見立てでは、10年後の売上は1.9倍、営業利益は29億円に届く。
慎重な見方
特重施設の工事は期限のある波であり、過ぎればすぐ空洞が来る。2026年9月期の営業利益の倍増は、その波の頂上の数字だ。会社自身も下期は保守が減り、採算の良い案件も少ないと言っている。利益率は過去12年で14.5%が最高で、19%台が続くと見るのは無理がある。
原発政策は選挙のたびに揺れる。再稼働が止まれば、保守も新規も一度に消える。2011年以降の停止期を思い出せばよい。2019年には赤字に落ちている。顧客は電力会社の少数で、東京電力だけで売上の1割を超える。
競争もある。原子力用の弁は、発電設備を納める重電大手が一括で手配する形に寄る可能性がある。海外のバルブ大手が国内の更新需要を狙う可能性もゼロではない。販売の4割を占める岡野商事との関係が変われば、売上の安定は揺らぐ。
さらに、資本政策に難がある。現金が増えても還元は1割で、関連会社が株式の2割を持つため、少数株主に戻る見込みは薄い。規模の小さい会社に10年分の高い倍率を払う理由はない。
慎重な見立てでは、10年後の営業利益は今の年換算とほぼ同じ名目額にとどまる。物価が3割上がる中で実質は縮む。
どちらに重みを置いたか
事業の実力は強気の見方が正しい。ただし、足元の利益には期限のある工事の分が大きく含まれる。筆者は、波が引いたあとに利益率が12〜14%へ戻る中立を中心に置き、悲観側の確率をやや厚めにした。特に、会社自身が下期を慎重に見ていること、過去の利益率が低かったことが、慎重な見方の裏づけになる。強気の見方は、政策の追い風と建て替えの構想という、10年で効く材料を持つので、楽観側にも2割台の確率を残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 14,881 円239 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,989 円32 億円)。 今の値に割り戻すと 8,423 円135 億円、今との差 −29.8%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 29,651 円476 億円 | 3,423 円55 億円 | +175.6% | +10.7% | 3,969 円64 億円 |
| やや楽観 | 23% | 21,062 円338 億円 | 2,490 円40 億円 | +96.3% | +7.0% | 5,417 円87 億円 |
| 中立 | 35% | 15,149 円243 億円 | 1,929 円31 億円 | +42.3% | +3.6% | 5,977 円96 億円 |
| やや悲観 | 20% | 4,917 円79 億円 | 1,245 円20 億円 | −48.7% | −6.4% | 1,232 円20 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,929 円31 億円 | 809 円13 億円 | −77.2% | −13.7% | 274 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 14,881 円239 億円 | 1,989 円32 億円 | +40.6% | +3.5% | 16,869 円271 億円 |
今の株価時価総額 12,000 円193 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 再稼働と建て替えが重なり、国内の電力向けを広く取る 利益 28 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 29,651 円476 億円
再稼働が相次ぎ、定期検査が10年間ほぼ止まらずに続く。原発の運転期間の延長で、弁の交換需要も膨らむ。廃炉原発の建て替えが2030年代前半に動き出し、国内の高温高圧弁で実績のある当社が有力な受注先になる。製造の市場は今の1.6倍、保守は1.5倍まで広がり、当社のシェアも保つ。
アジアの火力向け輸出も、現地の新設に乗って1.6倍になる。利益率は、2026年9月期の予想(19.5%)の一部が定着し、全体で15%台に達する。
配当は株価の上昇と東証の要請に押されて利益の3割まで引き上がる。それでも現金は積み上がり、10年後の自己資本は250億円ほどになる。
- 国内の弁の製造:数量 120(国内の発電所向け高温高圧弁の市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 80.4%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 97 億円・営業利益 16 億円。市場120億円(実質)× シェア60.0%、営業利益率16.5%
- 輸出(アジア向け鋳鋼弁):数量 224(アジアの火力発電所向け鋳鋼弁で当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 9.4%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 21 億円・営業利益 3 億円。狙える市場224億円(実質)× シェア7.0%、営業利益率12.0%
- 保守(定期検査・廃炉):数量 225(国内の発電所のバルブ保守・工事の市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 32.2%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 72 億円・営業利益 12 億円。保守市場225億円(実質)× シェア24.0%、営業利益率17.0%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 16.15 倍、時価総額 476 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原子力政策の追い風が10年続き、建て替えの発注が2030年代前半に前倒しで始まる必要がある。会社の2026年9月期の利益率が構造だと証明される筋書きで、条件が多いので1割強にとどめた。
やや楽観 23% 特重施設の波のあとも、保守と更新で高い水準を保つ 利益 21 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 21,062 円338 億円
特重施設の納入が終わったあとも、更新工事と運転延長に伴う交換で、製造の市場は今の1.3倍を保つ。保守は稼働する原発の増加で1.3倍に増える。シェアは製造で6割、保守で23%と、今よりわずかに上がる。
営業利益率は14%台前半に落ち着く。2024年11月期の14.5%に近いが、それを超えない。
配当性向は27%へ上がるが、現金の積み上がりは続く。10年後の自己資本は230億円ほどになる。
輸出は、アジアの火力新設の一部を取って1.3倍にとどまる。会社の説明する「製造と保守の二軸」が、波のあとも崩れずに働く形だ。
- 国内の弁の製造:数量 100(国内の発電所向け高温高圧弁の市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 80.4%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 80 億円・営業利益 12 億円。市場100億円(実質)× シェア60.0%、営業利益率15.0%
- 輸出(アジア向け鋳鋼弁):数量 182(アジアの火力発電所向け鋳鋼弁で当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 8.0%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 15 億円・営業利益 2 億円。狙える市場182億円(実質)× シェア6.0%、営業利益率11.0%
- 保守(定期検査・廃炉):数量 200(国内の発電所のバルブ保守・工事の市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 30.8%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 62 億円・営業利益 10 億円。保守市場200億円(実質)× シェア23.0%、営業利益率15.5%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 14.89 倍、時価総額 338 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再稼働が計画どおり進めば成り立つ水準で、会社の2027年9月期の予想とも矛盾しない。ただし政策の揺れで外れる余地があるので、中立を超える確率にはしない。
中立 35% 特重施設の波が引き、利益率は13%前後に戻る 利益 16 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 15,149 円243 億円
特重施設の納入が終わり、2020年代末に製造は一度落ち込む。その後、運転延長に伴う交換と火力の更新で、製造の市場は今の1.1倍に戻る。保守は稼働する原発の増加で1.2倍になる。シェアは今と同じ水準を保つ。
営業利益率は13%で、過去12年の最高(14.5%)を下回る。2026年9月期の19.5%は工事が重なった特殊な年だったと見る。
配当は利益の25%へ上がると見るが、会社の姿勢から大きくは増えない。10年後の自己資本は210億円ほどになり、ROEは8%を割る。
輸出は、アジアの火力向けで1.15倍にとどまり、現地メーカーとの値引き競争で利益率は1割程度に抑えられる。新事業の設備点検は、黒字にならないまま費用だけが残る。
- 国内の弁の製造:数量 85.0(国内の発電所向け高温高圧弁の市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 77.7%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 66 億円・営業利益 9 億円。市場85億円(実質)× シェア58.0%、営業利益率14.0%
- 輸出(アジア向け鋳鋼弁):数量 160(アジアの火力発電所向け鋳鋼弁で当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 6.7%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 11 億円・営業利益 1 億円。狙える市場160億円(実質)× シェア5.0%、営業利益率10.0%
- 保守(定期検査・廃炉):数量 185(国内の発電所のバルブ保守・工事の市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 29.5%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 55 億円・営業利益 8 億円。保守市場185億円(実質)× シェア22.0%、営業利益率14.5%
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 13.61 倍、時価総額 243 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工事の期限による一時的な山と、再稼働に伴う構造的な増加が混ざる。過去12年の最高が14.5%なので、利益率は13%前後と置き、確率は最も厚くした。
やや悲観 20% 特重施設の穴が長引き、保守も細る 利益 8 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 4,917 円79 億円
特重施設の納入のあと、新しい大型案件が出ず、製造の市場は今の0.9倍に細る。シェアも重電大手の手配に押され、5割へ下がる。保守は再稼働が一部で止まり、横ばいにとどまる。
営業利益率は固定費が重くなり、8%台に落ちる。2014年から2021年の水準に近い。
配当は利益の25%で、現金は積み上がらず使われもしない。
輸出は、現地メーカーの攻勢で0.85倍に細る。新事業の設備点検も育たず、本社費と新事業の費用が重しとして残る。物価で人件費や材料費が3割上がる中、値上げが通らなければ、利益は削られる。
福島第一の廃炉関連は続くが、これだけでは固定費を賄えず、赤字すれすれの年が増える。10年後の売上は今の年換算とほぼ同じ名目額で、実質では3割目減りする。
- 国内の弁の製造:数量 65.0(国内の発電所向け高温高圧弁の市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 69.7%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 45 億円・営業利益 5 億円。市場65億円(実質)× シェア52.0%、営業利益率10.5%
- 輸出(アジア向け鋳鋼弁):数量 120(アジアの火力発電所向け鋳鋼弁で当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 5.4%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。狙える市場120億円(実質)× シェア4.0%、営業利益率7.0%
- 保守(定期検査・廃炉):数量 150(国内の発電所のバルブ保守・工事の市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 26.8%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 40 億円・営業利益 4 億円。保守市場150億円(実質)× シェア20.0%、営業利益率10.0%
倍率:ROE 4.3% は k の 8.0% を大きく下回る。構造的に負けた会社で、ためた現金を除く事業の利益に対して 8 倍とした。
確率:2011年以降の原発停止期や2019年の赤字の実績がある。波が引いたあとの空洞が深く長い形は、現実的な範囲にある。
悲観 10% 原子力政策が逆戻りし、売上が3分の2に縮む 利益 2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,929 円31 億円
事故や政策の逆戻りで、再稼働が長く止まる。保守は新規もなく、製造は更新のみで、市場は今の6割に縮む。シェアも競合や重電大手に奪われ、売上は名目でも今の年換算(84億円)の7割を割る。
営業利益率は2%台に落ち、固定費が重い。仕掛品の評価損も出て、自己資本は減る。
現金の使い道は少数株主に決められず、半分しか数えない。
輸出は、現地メーカーとの価格競争に敗れ、ほぼ消える。福島第一の廃炉関連は続くが、一件あたりの採算が悪く、全体の利益を支えるには足りない。
仕掛品の評価損や固定資産の減損で自己資本は削られ、配当も維持できなくなる。それでも無借金で純現金があるため、倒産には至らないが、株主にとっては長く収益のない会社になる。
- 国内の弁の製造:数量 45.0(国内の発電所向け高温高圧弁の市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 60.3%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 27 億円・営業利益 2 億円。市場45億円(実質)× シェア45.0%、営業利益率6.0%
- 輸出(アジア向け鋳鋼弁):数量 70.0(アジアの火力発電所向け鋳鋼弁で当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 4.0%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。狙える市場70億円(実質)× シェア3.0%、営業利益率3.0%
- 保守(定期検査・廃炉):数量 120(国内の発電所のバルブ保守・工事の市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 22.8%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。保守市場120億円(実質)× シェア17.0%、営業利益率5.0%
倍率:事業の利益が薄く、ROE は k を大きく下回る。稼ぐ力(事業の純利益 ÷ k)と余った現金の半分の合計と、純現金と売れる資産の税後の床を比べ、大きい方の 31 億円とした。自己資本に掛ける PBR は今の 120 億円で 0.26 倍。
確率:政策が逆戻りしたり、重大な事故や規制強化で原発が長く止まったりする場合。発生は稀だが起きれば深い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の弁の製造
原子力・火力発電所向けの高温高圧弁の新設・更新分。特重施設用弁、火力の主蒸気系の弁など。
| 数量国内の発電所向け高温高圧弁の市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア | 価格当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 75.0 | 59.0% | 44 | 5 |
| 10 年後 中立 | 85.0 | 77.7% | 66 | 9 |
取り方:報告セグメントは1つで内訳は非開示。2025年9月期(10か月)の売上70億円を年換算して84億円とし、製造を5割強、輸出を1割弱、保守を4割と筆者が推定した。国内の電力向け高温高圧弁の市場を75億円、会社の自己申告(火力9割・BWR原発8割)を割り引いてシェアを約6割とした。営業利益率は12%と置く。
輸出(アジア向け鋳鋼弁)
ベトナム・シンガポールなどアジアの火力向け鋳鋼弁と部品。
| 数量アジアの火力発電所向け鋳鋼弁で当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア | 価格当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 140 | 5.0% | 7 | 1 |
| 10 年後 中立 | 160 | 6.7% | 11 | 1 |
取り方:輸出の額は非開示。有報が輸出案件に触れている程度なので、年換算売上の1割弱(約7億円)と推定し、狙える市場を140億円、シェアを5%とした。営業利益率は為替差損も出ており9%と置く。
保守(定期検査・廃炉)
原発の定期検査、福島第一の廃炉関連、火力の点検工事に伴うバルブの分解・整備・交換。
| 数量国内の発電所のバルブ保守・工事の市場(億円、実質)× 当社シェア | 価格当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 150 | 22.0% | 33 | 4 |
| 10 年後 中立 | 185 | 29.5% | 55 | 8 |
取り方:福島第一の廃炉関連、柏崎刈羽・女川・島根の点検工事が中心という有報の記述から、年換算売上の4割弱(約33億円)と推定した。国内の保守市場を150億円、シェアを22%、営業利益率を13%とした。
リスクと懸念
特重施設の工事が終わったあとの空白
2026年9月期の利益は、期限のある特重施設用弁の納入と、前倒しの定期検査が重なって大きく膨らんだ。会社自身も下期は保守が減ると見ている。納入が終われば製造は大型案件を欠き、利益率が過去の水準へ戻るおそれがある。
原子力政策と再稼働の揺れ
需要の大半は原発の運転と点検に連なる。選挙や事故、規制の変更で再稼働が止まれば、保守も新規も一度に消える。2011年の事故後に停止期があり、2019年は赤字に落ちた。今の追い風が続く保証はない。
少数の顧客と関連会社への依存
東京電力向けが売上の13.7%で、販売の約4割は関連会社の岡野商事経由だ。電力会社の発注方針が変わる、あるいは岡野商事との関係が変わると、売上の見え方と価格交渉力に響く。
現金が株主に戻らない
純現金は42億円で時価総額の2割にあたるが、配当性向は1割前後で、自社株買いの実績も確認できない。関連会社が株式の約2割を持つので、株主総会で還元を迫る力も限られる。現金は帳簿の半分でしか数えていない。
品質トラブルと現場の労災
原子力用の弁は一つの不具合が大きな影響を及ぼす。製品の欠陥や、定期検査の現場での労災が起きれば、納入停止や信用の失墜につながる。有報もこれを主なリスクに挙げている。
新事業の迷い
ドローンやIoTを使った設備点検の新事業は、実証は計画どおりだが受注が振るわない。売上規模の拡大を急いで赤字の新事業に資金を使えば、利益率を押し下げる。
今後の分かれ目
- 柏崎刈羽・女川・島根などの再稼働が予定どおり進み、定期検査が途切れず続いたら
- 保守の市場が広がり、中立より上の筋書きに確率を移してよい。受注残の積み上がりと営業利益率が目安になる。
- 廃炉原発の建て替えが、電力会社の具体的な発注計画になったら
- 2030年代の新設需要が確かになり、楽観の確率を上げる。当社が候補に入るか、受注の先行指標を確認する。
- 特重施設の納入が終わり、受注高が前年を大きく下回ったら
- 波が引いたと判断し、やや悲観側に重みを移す。受注残が売上の1年分を切るかが分かれ目だ。
- 配当性向を3割へ上げる、または自社株買いを始めたら
- 現金の戻り方を0.5から引き上げる材料になり、価値を押し上げる。
- 岡野商事が株式を売却する、あるいは第三者が買収を提案したら
- 資本政策が動く契機で、現金の戻りと事業価値の双方が再評価される。TOBの確率は上げてよい。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残高
- 柏崎刈羽・女川・島根・東海第二の再稼働と定期検査の予定
- 配当と自社株買いの方針、配当性向
- 岡野商事向け売上の比率
- 新事業(設備点検)の受注
倍率と資本コストの決め方
数量×価格で3つの部門を積み上げ、10年後の利益と倍率を式から決めた。今の株価は見ていない。2026年9月期の営業利益率19.5%は、特重施設という期限のある工事が重なった年で、中立ではそのまま使わず13%に戻した。強気側(15%台)はこの実績の一部が定着する形で表した。倍率は、中立を1÷k(12.5倍)、強気側を式の上限の9割台に置いた。今の時価総額(219億円)を基準にした調整はしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→16.15 倍・やや楽観 PER 13→14.89 倍・中立 PER 12.5→13.61 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% + quality 0.5% = 8.0%。政策の揺れや岡野商事との関係は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。