結論
ミクロン精密は、円筒形の部品の外側を削る心なし研削盤(センタレスグラインダ)の専業メーカーだ。山形で作り、自動車部品やベアリングなどの加工に使われる。筆者の結論は、今の値段はやや割高。ただし差は 1 割ほどで、適正に近い。時価総額は 91 億円と、現預金と有価証券の約 117 億円を下回る。
事業の質は悪くない。売上総利益率は 36% で、営業利益率は均すと 1 割を超える。経産省のグローバルニッチトップ企業で、Caterpillar のグローバルサプライヤにも選ばれた。借金はなく、自己資本比率は 85% に達する。
弱みは、受注の波と顧客の偏り、自動車の電動化だ。長期の納入契約はなく、受注は景気で大きく振れる。
結論を割高に傾けたのは、現金の使い方だ。現金は 2% 台の利息しか生まず、資本コストの 8.8% に遠く届かない。しかも配当と自社株買いを合わせても利益の 4 割前後で、現金は年々積み上がる。10 年後の中立は純利益 9〜10 億円。この現金が株主に戻るほど、評価は上がる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、安全域の厚い会社だ。事業は小さいが、手元の現金と有価証券は時価総額を上回る。借金がなく、事業が止まっても数年は耐えられる。
事業の経済性は、悪くない。必要な投資は小さく、利益のほとんどを株主に回せる。受注の山谷は避けられないが、均せば営業利益率は 1 割を超える。
堀は、中程度だ。精度とノウハウの積み重ねで顧客の信頼を得ているが、電動化と中国製の追い上げで守れる範囲は狭まる。筆者はこの堀を強いとは見ない。
資本配分は、評価が割れる。自社株買いは安い値段で続け、増配もした。ただし現金の積み上がりが早く、株主に戻る速度が遅い。
だから払ってよい値段は、事業の価値に、戻りの遅れを割り引いた現金を足したものだ。10 年で見ると、現金が低利で眠る分だけ、今の時価総額を少し下回る。安全域は厚いが、安く買えるとまでは言えない。現金の使い方が変わるかどうかが、一番の分かれ目になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、心なし研削盤と内面研削盤(円筒の内側を削る機械)の製造・販売だ。単一事業で、2025 年 8 月期の売上のうち研削盤が約 8 割、部品・保守が約 2 割を占めた。
心なし研削盤は、円筒形の加工物を中心で支えず、砥石と調整砥石で外周を削る。自動車のシャフトやベアリングなど、同じ形の部品を大量に高精度で作る工場に向く。受注生産で、1 台ごとに原価を管理する。
顧客は世界 28 か国以上にいる。Caterpillar(建設機械・エンジン)が売上の約 1〜2 割を占め、メキシコの代理店も約 1 割だ。米国・タイ・中国に販売子会社を置き、現地の需要を直接取り込む。受注は半年分前後を抱える受注生産で、納期は数か月から半年かかる。
部品・保守は、納めた機械が動き続ける限り入る。利益率が高く、景気の波を和らげる。
2026 年 8 月期は、売上が前期比 10% 減の 52 億円、営業利益は 6 億円。ただ、営業外で為替差益などが 10 億円入り、純利益は 11 億円と大きく見えた。来期は売上 66 億円、営業利益 8 億円を見込む。
優良さと弱いところ
堀は、精度とノウハウだ。心なし研削盤は、砥石の振る舞いや加工物の挙動を読む職人技が要る。同社は「他社が手を出しにくい難しい研削」に挑み、航空機や医療など自動車以外にも用途を広げている。Caterpillar のグローバルサプライヤに選ばれたのは、日本企業として異例だった。
利益の質は良い。営業利益率は過去 12 年に 7〜24% で、中央値は 12% ほどだ。赤字は 2008〜2010 年のリーマン後に 3 期あっただけで、直近 10 年は黒字を保つ。借金はなく、自己資本比率は 85% に達する。
ただ、価格を決める力は強くない。受注は競合との相見積が多く、中国メーカーが低価格機で追い上げる。長期の納入契約は無く、受注の山谷が大きい。筆者がいちばん気にしているのは、顧客の偏りと自動車の電動化が、数量にじわじわ効くことだ。
経営は、現金を溜めすぎている。配当は倍に増やし、自社株買いも続けるが、純利益より現金の積み上がるほうが速い。ROE は過去 10 年の中央値が 6% 台にとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
工作機械は、受注の波が大きい業界だ。2026 年は半年ごとに受注が急増しており、日本工作機械工業会の上期の受注額は前年同期比で 3 割以上伸びた。AI 関連の半導体・電子部品向けと自動化投資が牽引する。
心なし研削盤が使われる自動車部品は、電動化で構成が変わる。エンジンのバルブ周りの部品は減るが、モーター軸、減速機、ブレーキ、ベアリングなど、円筒形の精密部品は残る。航空機、医療機器、電子部品の精密加工は新しい需要だ。
競合は、国内の同業、ドイツの老舗、台湾・中国のメーカーだ。中国は国産化を進め、汎用機では価格競争が強まる。高精度の用途で優位を保てるかが分かれ目になる。顧客の自動車部品メーカーは、受注の先延ばしで景気に合わせて設備投資を調整する。
米国の関税は、販売価格と受注の判断を揺らす。為替は円安が追い風で、営業外の為替差益として利益を押し上げる年もある。ただ、150 円で固定して見ると、この効果は中立に置いた。
業界全体の市場規模は 1.5 兆円ほどで、同社は小さなニッチのプレーヤーだ。強みは、顧客との長い関係と、機械の精度を守り続ける調整の技能である。
資本政策と M&A
還元は、配当と自社株買いの両方だ。配当は 2026 年 8 月期に前期の 2 倍に増え、来期も増やす計画だ。自社株買いは 2025 年に 2 回、2026 年 2 月にも実施した。自己株式は発行済みの約 4 割に達するが、消却はしていない。
現金は積み上がっている。純現金は 6 年前の約 30 億円から 117 億円まで増えた。配当性向は 2 割弱と低く、総還元でも利益の 4 割前後にとどまる。
買収の実績は無い。海外は自前の販売子会社で広げる。TOB や非公開化の公表もない。
経営陣と従業員には、株式交付信託で株を渡す制度がある。投資有価証券を 2026 年 8 月期に 14 億円積み増しており、現金の運用先として債券や投資信託を持つ形が増えた。
筆者は、配当を厚くし、自己株式を消却する踏み込みを待ちたい。現金の積み上がりが続く限り、少数株主に戻るのは時間がかかる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の時価総額は 91 億円で、手元の現金・預金と有価証券の約 117 億円を下回る。事業の価値がゼロでも元は取れる計算だ。借金はなく、自己資本比率は 85%。事業が数年止まっても耐えられる。
事業は、均せば営業利益率が 1 割を超える。来期は売上が 28% 増える計画で、足元の工作機械の受注は 3 割以上伸びている。心なし研削盤は自動車のモーター軸、ベアリング、航空機、医療機器の部品加工に使われ、電動化でも需要は残る。部品・保守が利益の下支えになる。
会社は自社株買いを続け、配当は前期の 2 倍に増やした。自己株式は発行済みの 4 割に達し、1 株あたりの価値は上がっている。株主還元の方針は強まる方向だ。
グローバルニッチトップの認定と、Caterpillar のサプライヤ選定は、他社が簡単には崩せない信頼の証だ。為替が円安のうちは、外需の収益も押し上げられる。さらに、無借金のため、金利が上がるほど受取利息が増える。
慎重な見方
安いのには理由がある。受注は景気で大きく振れ、長期契約はない。売上は 2026 年 8 月期に 10% 減った。顧客は Caterpillar とメキシコの代理店で 2 割を超え、偏りが大きい。
自動車の電動化は、内燃機関向けの設備需要を確実に減らす。中国メーカーは低価格機で追い上げており、汎用機では価格を決められない。為替差益などの営業外の利益に頼った 11 億円の純利益は、本業の力ではない。本業の営業利益は 6 億円しかない。
現金は大きいが、株主に戻る保証はない。配当性向は 2 割弱、総還元でも 4 割程度で、現金は年々積み上がる。投資有価証券を積み増す動きは、現金の使い道を探しあぐねている姿にも見える。
事業の ROE は 10 年の中央値で 6% 台と、資本コストを下回る。現金を足しても、取り出せなければ価値にならない。しかも売上の 2 割超が 2 社に集中し、1 社の発注の増減で年の業績が大きく動く。
どちらに重みを置いたか
安全域の厚さは事実で、強気の見方に分がある。ただ、現金が低利で眠る間は、10 年後の価値が今の値段を大きく上回らない。中立は営業利益率 14% 前後にとどめ、現金には戻り方 0.75 を掛けた。確率は中立を最も厚くし、悲観側は楽観側と同じ厚さに置いた。差が小さな割高に出たのは、現金の取り崩しが遅く、10 年を資本コストで割り引くと価値が目減りするためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/08 期)
確率で加重した株価時価総額 3,533 円161 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 807 円37 億円)。 今の値に割り戻すと 2,230 円101 億円、今との差 +16.1%、 期待の年率 +8.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,914 円269 億円 | 1,231 円56 億円 | +272.0% | +14.0% | 715 円33 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,780 円218 億円 | 1,011 円46 億円 | +201.5% | +11.7% | 1,274 円58 億円 |
| 中立 | 34% | 3,901 円178 億円 | 879 円40 億円 | +148.8% | +9.5% | 1,625 円74 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,890 円86 億円 | 571 円26 億円 | +28.1% | +2.5% | 542 円25 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,226 円56 億円 | 308 円14 億円 | −20.1% | −2.2% | 184 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,533 円161 億円 | 807 円37 億円 | +125.9% | +8.5% | 4,340 円197 億円 |
今の株価時価総額 1,921 円87 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 自動車以外の需要が育ち、受注が高水準で続く 利益 14 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 5,914 円269 億円
ミクロンの心なし研削盤が、EV のモーター軸、医療機器、航空機の部品、電子部品の精密加工へ広がる。自動車以外の売上比率が上がり、特定の顧客への依存が薄まる。受注台数は今より 25% 増え、機種の高精度化で単価も物価を上回って上がる。部品・保守は納入済みの機械の増加に合わせて伸びる。営業利益率は 17% 台に乗り、過去の山 24% には届かない。米国・タイ・中国の販売子会社が現地需要を取り込む。余った現金は自社株買いと配当に回り、自己株式は消却される。ただし受注に長期契約がなく、10 年続く姿は最良の部類だ。現金は事業の拡大と新製品の開発に使われても、なお厚みが残る。
- 研削盤:数量 62.5(出荷台数(台、推定))× 価格 1.14(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 10 億円。自動車以外が伸びる
- 部品・保守:数量 2,025(稼働中の自社機(台、推定))× 価格 0.01(1 台あたり年間の部品・保守売上(億円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 6 億円。納入台数の増加
- その他(テスト売上):数量 18.0(件数(件、推定))× 価格 0.07(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)71 億円。全体の PER 15.64 倍、時価総額 269 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医療・航空機・電子部品向けが自動車の落ち込みを補って余りあるほど育つ筋書き。工作機械の受注は 2026 年に入って急増しているが、山を 10 年に延ばすことはしない。確率は 1 割。
やや楽観 22% 受注は回復し、営業利益率は 12〜13% を保つ 利益 12 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 4,780 円218 億円
世界の自動車部品・ベアリング向けの設備更新が続き、受注は回復する。台数は今より 15% 増える。EV 化で内燃機関向けは細るが、モーター軸やトランスミッション部品の研削で相殺される。単価は物価並みに上がる。営業利益率は 12〜13% で、会社の来期予想とほぼ同じ。部品・保守は安定した収益源で、営業利益の約 4 割を稼ぐ。米国向けの関税や為替の振れはあるが、利益を大きく削るほどではない。純利益は 11 億円台に乗り、配当と自社株買いは増える。ただ、中国メーカーとの競争は続き、値上げは物価に追いつく程度。会社の来期予想が好調の年を映していることを思えば、これは無理のない水準だ。
- 研削盤:数量 57.5(出荷台数(台、推定))× 価格 1.10(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 63 億円・営業利益 8 億円
- 部品・保守:数量 1,875(稼働中の自社機(台、推定))× 価格 0.01(1 台あたり年間の部品・保守売上(億円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 5 億円
- その他(テスト売上):数量 15.6(件数(件、推定))× 価格 0.07(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)71 億円。全体の PER 14.37 倍、時価総額 218 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2027 年 8 月期の会社予想(売上 28% 増・営業利益率 12.7%)が、ほぼそのまま物価込みで続く姿。足元の工作機械の受注は強く、実績の延長線上にある。
中立 34% 受注は波を描きつつ、物価の分だけ利益が増える 利益 9 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 3,901 円178 億円
自動車向けの内燃機関部品は細るが、電動化部品、医療・航空機の需要が補う。台数は 10 年で 5% 増にとどまる。単価は物価並みに上がり、部品・保守は納入済みの機械が増えるぶん伸びる。営業利益率は 14% 前後で、過去 12 年の中央値 12% より少し高い。会社の予想(来期 12.7%)が好調な年の姿であることを考えれば、均した値としては妥当だ。受注残は半年分前後で推移し、需要の変動はこれからも避けられない。余った現金は少しずつ株主に戻るが、積み上がる速度のほうが速い。純利益は 9〜10 億円。
- 研削盤:数量 52.5(出荷台数(台、推定))× 価格 1.09(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 6 億円。台数 5% 増・利益率 10%
- 部品・保守:数量 1,725(稼働中の自社機(台、推定))× 価格 0.01(1 台あたり年間の部品・保守売上(億円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 5 億円
- その他(テスト売上):数量 13.2(件数(件、推定))× 価格 0.06(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)71 億円。全体の PER 13.09 倍、時価総額 178 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工作機械は 3〜4 年で受注が山と谷を繰り返す。2026 年 8 月期は売上が 10% 減ったが、受注は戻り始めている。10 年を均せば、数量は微増、単価は物価並みと置くのが自然だ。
やや悲観 22% 電動化で内燃機関向けが細り、受注が 3 割落ちる 利益 6 億円 · PER 6.8 倍 · 株価時価総額 1,890 円86 億円
EV への移行が速まり、自動車向けの台数は 15% 減る。中国の研削盤メーカーが低価格機で追い上げ、汎用機では価格を上げにくい。単価の上がりは物価の 3 分の 2 にとどまり、営業利益率は 8% 台に下がる。部品・保守は底堅く、利益の下支えになる。金利は上がるが、無借金で利益にはむしろ追い風だ。顧客の Caterpillar など大口の設備投資が絞られる年は、受注が半分まで落ちる。余った現金は戻り方が弱まり、自社株買いの規模は小さくなる。部品・保守が黒字を保つので赤字は避けられるが、本体の機械は損益がほぼゼロになり、固定費の重さがそのまま利益を削る。
- 研削盤:数量 42.5(出荷台数(台、推定))× 価格 1.04(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 2 億円。台数 15% 減・価格競争
- 部品・保守:数量 1,500(稼働中の自社機(台、推定))× 価格 0.01(1 台あたり年間の部品・保守売上(億円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 3 億円
- その他(テスト売上):数量 10.8(件数(件、推定))× 価格 0.06(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の ROE は 5.4% で資本コスト 7.75% を下回る。稼ぐ力(純利益÷k)から見て、PER の上限 11.4 倍より低い 6.8 倍に置いた(上限の 6 割。構造的に利益の質が低い筋書きなので、7 割へは引き上げない)。余った現金は筋書きで額を書かず、やや悲観の 0.75 倍で足している。
確率:内燃機関向けの需要が想定より速く縮み、中国メーカーの低価格機に価格を押される筋書き。2020〜2021 年は営業利益率が 7% 台に落ち、10 年のうちに複数回起きうる。
悲観 12% 工作機械の需要が構造的に縮み、赤字の期が続く 利益 2 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,226 円56 億円
世界の製造業の設備投資が数年止まる。自動車向けの受注が半減し、中国製に価格で負けて国内外のシェアを落とす。営業利益は赤字に近づき、固定費の重さで利益率が下がる。部品・保守だけが黒字を保つ。現金は赤字の穴埋めと自社株買いの休止で守られるが、新製品への投資は続く。投資有価証券には評価損が出て、自己資本は今より小さくなる。稼ぐ力は小さいため、価値は持っている現金と有価証券、在庫と工場の売れる価値の床で決まる。経営陣が事業を縮小して現金を株主に戻すか、買収に使うかで結果は大きく分かれる。ただし清算されない限り、その価値を少数株主が取り出す手段は限られる。
- 研削盤:数量 30.0(出荷台数(台、推定))× 価格 0.92(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 −1 億円。台数 4 割減・赤字
- 部品・保守:数量 1,275(稼働中の自社機(台、推定))× 価格 0.01(1 台あたり年間の部品・保守売上(億円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 2 億円
- その他(テスト売上):数量 6.0(件数(件、推定))× 価格 0.06(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の ROE は赤字に近く資本コストを大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k)ではなく、純現金と売れる資産の税後を床とみて、今の自己資本 136 億円(2025 年 8 月期末。直近は 148 億円)に 0.41 倍を掛けた(床の 56 億円と同程度。減損と評価損で自己資本は今の水準まで戻る)。無借金の純現金会社で、EV ÷ 営業利益の倍率は意味を持たない。
確率:2008〜2010 年のように世界の設備投資が止まる、または電動化と中国製に置き換わって高精度研削の優位が薄れる筋書き。赤字は過去 20 年に 3 回あり、小さくない確率で置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
研削盤
心なし研削盤(センタレス)と内面研削盤、およびその周辺装置の販売。
| 数量出荷台数(台、推定) | 価格1 台あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 50.0 | 0.80 | 40 | 3 |
| 10 年後 中立 | 52.5 | 1.09 | 57 | 6 |
取り方:2026 年 8 月期の売上 51.8 億円のうち、研削盤を約 40 億円(前期の 45.9 億円から約 13% 減)と推定した。台数は開示がなく、1 台約 0.8 億円で年 50 台とした。数量は実質、物価・高精度化は単価に入れた。
部品・保守
納入済みの機械に使う砥石以外の部品、修理、保守サービス。
| 数量稼働中の自社機(台、推定) | 価格1 台あたり年間の部品・保守売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 1,500 | 0.01 | 11 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1,725 | 0.01 | 17 | 5 |
取り方:売上は前期 11.3 億円とほぼ同じと推定し、稼働中の機械を約 1,500 台と推定した。台数は開示がなく、1 台あたり年 75 万円ほどとした。
その他(テスト売上)
主に国内向けのテスト加工の売上。
| 数量件数(件、推定) | 価格1 件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 12.0 | 0.05 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 13.2 | 0.06 | 1 | 0 |
取り方:前期は 0.6 億円。件数は推定。規模が小さく、全体への影響は限られる。
リスクと懸念
受注の波と長期契約のなさ
長期の納入契約がなく、顧客の設備投資の判断で受注が半分になる年がある。2025 年 8 月期末の受注残は前期比 3 割減で、2026 年 8 月期は売上が 10% 減った。
自動車の電動化
エンジン部品向けの研削は減る。モーター軸などで相殺できるかは未知数で、数量の下振れは構造的になりうる。
大口顧客への偏り
Caterpillar とメキシコの代理店で売上の 2 割超を占める。1 社の設備投資の中断で売上が大きく動く。
中国メーカーの追い上げ
汎用機では低価格機が台頭し、価格を決める力が弱い。高精度の用途で優位を保てなければ、利益率は 1 桁に落ちる。
為替と営業外収益
2026 年 8 月期の純利益 11 億円のうち、為替差益が 6 億円を占めた。円高に振れると、営業外の収益は逆に損失になりうる。本業の営業利益は 6 億円。
現金の戻りが遅い
純現金が 117 億円あり、時価総額を上回る。配当性向が低く、現金を投資有価証券に回す動きもあり、株主への還元が追いつかないおそれがある。
今後の分かれ目
- 来期の売上が会社予想の 66 億円に届き、受注残が積み上がったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。営業利益率 13% 以上が定着する証拠になる。
- 自動車向けの受注が 2 期続けて減り、他分野の比率が上がらなかったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。電動化の影響が数量に表れている。
- 自己株式の消却や、配当性向 4 割超の方針が出たら
- 現金の戻り方を 1.0 に近づけてよい。余った現金の評価が上がる。
- 現金が投資有価証券や不動産に回り続け、純現金の増加が止まらなかったら
- 戻り方を 0.5 に下げる。現金の価値を割り引く。
- 円高が急激に進み、為替差損が出たら
- 純利益は一時的に下がるが、営業利益が崩れなければ事業の価値は変わらない。
見ておくもの
- 四半期の受注高・受注残と、自動車以外の比率
- 営業利益率と、営業外収益の内訳(為替差益)
- 自己株式の取得・消却と配当方針
- 現預金・有価証券・投資有価証券の残高
- Caterpillar など大口顧客の売上比率
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から出した。ROE が資本コストに近い筋書きは PER の上限を 1÷k の 11.4 倍とし、利益の質に応じて上限の 6〜9 割に置いた。今の PER や同業の倍率は使っていない。余った現金は、毎年の還元実績から戻り方 0.75 を掛けた。数量は実質、物価の 1.34 倍は価格にだけ入れた。償却は小さく物価では増やしていない。リースは小さく、新リース会計の影響は軽い。数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。ここでは 2026 年 8 月期の決算を起点にしている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→15.64 倍・やや楽観 PER 9.4→14.37 倍・中立 PER 9.1→13.09 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。