結論
新東工業は、鋳物をつくる設備と、金属の表面を磨いて強くするブラスト装置の会社だ。筆者の結論は「適正」である。純資産の半分ほどの値段で売られているが、自己資本が稼ぐ力に見合っていない以上、割安とは言えない。
前期は最終赤字になった。2024年に約400億円で買った仏エラスチコスの減損が200億円出たためだ。買収した会社は、欧州の不振と中国勢の攻勢で想定を大きく下回った。資本の使い方で大きくつまずいた、と筆者は見ている。
一方、事業の土台は悪くない。ブラスト装置と、その消耗品・保守で食べる形が収入の6割近くを占める。景気で機械の注文が減っても、消耗品は動き続ける。減損でのれんの重荷も消えた。
問題は利益の薄さだ。営業利益率は過去10年、おおむね2〜5%にとどまった。会社は4年後に営業利益150億円を掲げるが、筆者の中立はそこへ届かない水準に置いた。10年後の中立でも自己資本利益率(ROE)は資本コストを下回る。
確率の加重と資本コスト7.75%の割引で本質価値を出すと、今の時価総額をわずかに上回る程度だ。政策保有株の売却と自己株式の消却が進めば上振れの余地はあるが、まだ約束の段階にある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を持ち続けたいかと問うと、答えは「条件つき」になる。事業は理解しやすい。設備を売り、消耗品と保守で稼ぐ。だが、その事業が資本コストを上回る利益を出し続けた実績が、乏しい。
筆者が見る第一の点は、資本配分だ。利益率が低い会社が、高い値段で海外の会社を買った。結果は、のれんの大半の損失処理である。経営者が資本を預かる責任の重さを、どこまで感じているかが問われる。
第二の点は、安全域だ。純資産の半分の値段なので、一見すると安い。だが、ROEが資本コストを下回る会社の帳簿は、額面より少ない価値しか持たない。ただし、約350億円の上場株という売れる資産があり、悲観のときの下支えにはなる。
第三の点は、10年先の姿だ。消耗品と保守の比率が上がれば、利益は安定する。自動車の電動化は鋳造にとって逆風だが、表面処理の用途は広い。中立でも、会社の目標までは届かないと筆者は見る。
結論として、今の値段は事業の実力をほぼ織り込んでいる。政策保有株の売却と資本効率の改善が実際に進めば、見方を改める余地がある。それまでは、確信度を低めにおく。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は二本立てだ。一つは設備を売ること、もう一つは設備を使い続ける顧客に消耗品と保守を売ることである。
最大の柱は表面処理事業で、売上の6割近くを占める。鉄の粒を高速でぶつけて、鋳物のバリを落としたり、ばねや歯車の表面を強くしたりするブラスト装置と、そこで使う研削材(投射材)が中心だ。顧客は自動車・航空機・建機の部品メーカーである。
2番目の柱は鋳造事業だ。鋳物の型を砂でつくる造型機、砂を再生する装置、鋳造ラインを丸ごと納める。国内では首位で、トヨタ系をはじめとした自動車部品の鋳造工場が主な顧客だ。ここは自動車の設備投資に左右されやすい。
残りは、集じん機などの環境事業、物流向けの搬送装置、粉粒体の処理、特殊機械、セラミックス部品だ。それぞれの規模は小さい。
会社は部品・消耗品の売上比率を6割近くまで高めている。機械は景気に左右されるが、部品と消耗品は顧客の稼働に連動するので、利益の下支えになる。
近年は海外のM&Aで規模を広げた。エラスチコスの買収で欧州・北米の研削材と装置を手に入れ、ドイツのAGTOSも傘下に入れた。2026年にはボッシュからセラミック3D造形の受託事業を引き継いだ。
金属・セラミックス・ガラスなど、素材に形を与える技術を広げる方針だが、その広がりが利益に結びつくかは、これからの実績で判断するしかない。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、国内の鋳造設備での首位と、ブラストの消耗品・保守の網にある。機械を入れた顧客は、同じメーカーの研削材と部品を使い続けやすい。
ただし、堀が分厚いとまでは言えない。ブラスト装置の世界では、ノリカン傘下のホイールアブレーターやレスラー、AGTOSなどが競っており、上位数社で自動機の6割ほどを占めるという調査もある。新東工業は一角を占めるものの、独走ではない。
筆者がいちばん気にしているのは資本の使い方だ。利益率は低いのに、買収で大きな賭けに出た。エラスチコスのように高い値段で買い、数年で半分以上を損として認めた事例は、投資家にとって厳しい。
財務は堅い。自己資本比率は49%で、純負債は自己資本の16%ほどだ。上場株を中心にした政策保有株も約350億円ある。ここは安全域になる。
一方で、ROEは過去10年の中央値が3%台と、資本コストに遠く届かなかった。自己資本は厚いのに、利益が追いついていない。中計は4年後にROE8%を掲げるが、資本コストをなお下回る目標だ。
経営の姿勢は変わりつつある。配当は純資産の2%以上を下限とし、政策保有株の縮減も方針に入れた。ただ、実行の規模はまだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
同社の需要は、自動車と鉄鋼・機械の設備投資に連動する。受注が景気で大きく振れる点は、工作機械と同じ性格だ。
鋳造設備は、自動車の電動化で転機を迎えている。エンジンブロックなど、鉄の鋳物の需要は長い目で減る。一方、電気自動車の大型アルミ一体鋳造や、電池・モーターの部品向けの設備には、新しい需要がある。全体では横ばいから微減、と筆者は見る。
表面処理は事情が違う。ブラストは自動車だけでなく、航空機・造船・建設機械・風力の部品にも使う。世界の装置市場は15億ドルほどとされ、年5%前後の伸びという調査もある。中国は数量で全体の4割近くを占めるが、価格競争が激しい。
欧州は景気が低迷し、前期の消耗品の販売減がエラスチコスの減損につながった。中国勢が安い研削材を欧州に持ち込む動きも出ている。
搬送装置は、物流向けが堅調な一方、自動車向けは設備投資の抑制で落ちている。環境事業の集じん機は、規制と工場の新設に連動する地味な需要だ。
業界全体の見方は、機械業種のノートに合わせる。受注は循環し、中国の自給率上昇が外需の重しになる。AI関連の半導体・電子部品向けは追い風だが、同社の売上への寄与はまだ小さい。この会社の強みは、受注の波があっても消耗品が下支えする点にある。
資本政策と M&A
還元の方針は、安定配当と業績連動だ。純資産に対する配当率(DOE)2%以上を目安にし、前期は赤字でも配当を落とさなかった。今期は増配を見込む。自己株式の取得は、これまで大きくは行っていない。
M&Aは、この会社の大きな論点だ。エラスチコスを約400億円で買い、わずか2年で200億円の減損を出した。その後もAGTOSの買収、ボッシュのセラミック3D造形事業の承継と、手を広げている。額は小さくなったが、買収で成長を取る姿勢は変わっていない。
政策保有株は上場で57銘柄あり、簿価で約350億円分を持つ。時価総額の6割にあたる。中計は売却を方針に掲げるが、額と期限は示されていない。ここが動けば、資本の効率は大きく変わる。
大株主は信託銀行と金融機関が中心で、特定のオーナーや親会社はいない。時価総額が小さく、純資産を大きく下回る水準が続くなら、買収や物言う株主の標的になりやすい。筆者は、その可能性を無視できないと考える。
還元の点検(P3 2026-10-19):方針は DOE 2%以上の目安で、自社株買いは大きく行わない。DOE 2%台前半の配当は10年で約260〜290億円。中立の還元を純利益の合計の52%から45%に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
減損で、のれんの重荷はいったん消えた。これから先は、欧州の再建と消耗品・保守の増加が、利益率を押し上げる。会社は営業利益150億円を4年後の目標にしているが、今期予想は73億円で、すでに前期の倍近い。
ブラストの用途は広い。航空機・造船・風力・医療機器など、強い部品を必要とする産業は増えている。そこに、半導体と電子部品向けのセラミックス、3D造形が加わる。ボッシュから承継した事業は、欧州に拠点を持つ新しい種になる。
政策保有株は時価総額の6割もある。売却して自己株式の消却に回せば、一株あたりの価値は大きく変わる。DOE2%以上という還元の下限も、売却益を使えば無理なく守れる。
さらに、純資産の半分の値段という事実が、買収や株主の圧力を呼ぶ。26%ほどの確率で買収されるという見方もある。経営は、資本効率の改善に本気で取り組まざるをえない。
鋳造事業も、電気自動車の大型アルミ鋳造や、鋳物の自動化に新しい需要がある。国内首位の地位は、設備更新の需要を取り込める強みだ。10年で営業利益率が7%台に乗れば、ROEは資本コストを上回る。
慎重な見方
この会社は、過去10年、ROEが資本コストを上回った年がほとんどない。営業利益率は2〜5%で、売上が伸びても利益が増えなかった。会社の目標である営業利益150億円は、過去最高の水準をはるかに超える。
買収の実績も厳しい。エラスチコスの価格は約400億円で、2年で200億円を減損した。欧州の低迷と中国勢の台頭は一過性でなく、構造的な変化だ。次の買収で同じことが起きても、不思議ではない。
鋳造事業は、電動化で逆風を受ける。エンジンの鋳物は長い目で減り、設備更新の需要も細る。搬送事業も、自動車向けの投資抑制で減収減益になっている。
表面処理も安泰ではない。ホイールアブレーターやレスラー、中国の低価格勢と競っており、研削材の値下げ圧力は強い。消耗品が下支えになるというが、価格が下がれば下支えも細る。
政策保有株の売却も、約束にとどまる。額と期限が示されていない以上、期待を織り込むのは危うい。今期予想の営業利益73億円は、前期から大きく回復する計画だが、前期の低い基準に比べた数字に過ぎない。
自己資本の厚さは安心に見えるが、稼げない資本は価値を生まない。純資産の半分の値段は、割安ではなく、妥当な値段かもしれない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には、のれんの重荷が消えたこと、政策保有株という売れる資産があることなど、根拠がある。だが、過去10年の利益率とROEの実績は、慎重な側に分がある。
筆者は、中立を会社の目標より低い営業利益127億円(10年後)に置いた。確率は、やや悲観にやや厚めに寄せ、楽観は1割にとどめた。結果として、本質価値は今の時価総額を1割ほど上回る水準で、総合は「適正」になった。政策保有株の売却が実際に動けば、この見方は変わる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,400 円1,257 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 550 円288 億円)。 今の値に割り戻すと 1,516 円795 億円、今との差 +35.1%、 期待の年率 +10.1%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,901 円2,568 億円 | 859 円450 億円 | +413.3% | +17.8% | 576 円302 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,406 円1,784 億円 | 708 円371 億円 | +266.6% | +13.9% | 905 円474 億円 |
| 中立 | 33% | 2,470 円1,294 億円 | 546 円286 億円 | +168.8% | +10.4% | 995 円521 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,112 円583 億円 | 422 円221 億円 | +36.7% | +3.2% | 384 円201 億円 |
| 悲観 | 10% | 672 円352 億円 | 229 円120 億円 | −19.7% | −2.2% | 90 円47 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,400 円1,257 億円 | 550 円288 億円 | +162.9% | +10.1% | 2,950 円1,546 億円 |
今の株価時価総額 1,122 円588 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 欧州の再建と消耗品の拡大で、利益率が7%台へ 利益 175 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 4,901 円2,568 億円
欧州の再建が軌道に乗り、ブラストの消耗品と保守が世界で伸びる。航空機・造船・風力・医療機器など、強い部品を求める産業が裾野を広げ、表面処理の数量は10年で4割増える。中国勢との価格競争は続くが、品質と保守の網で守る。
鋳造は、電気自動車の大型アルミ鋳造や鋳物の自動化需要を取り込み、国内首位を保つ。セラミックスと3D造形は、半導体・電子部品向けで新しい柱に育つ。
利益率はすべての事業で改善し、会社全体の営業利益率は7%台に乗る。政策保有株の売却資金で自己株式を消却し、自己資本は増えすぎない。ROEは資本コストをはっきり上回る。
このとき会社は、安いが資本を使いきれない会社から、資本を回して稼ぐ会社へと変わっている。
- 表面処理事業(ブラスト装置・研削材・保守):数量 140,800(世界の表面処理市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 138.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,943 億円・営業利益 155 億円。市場の伸び年2.5%とシェア1割増、消耗品の値上げで価格1.38倍
- 鋳造事業(造型機・砂処理・鋳造ライン):数量 46,000(世界の鋳造設備市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 136.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 626 億円・営業利益 44 億円。アルミ鋳造向けで数量1.15倍
- 環境・搬送・特機・セラミックスほか:数量 56,110(対象市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 134.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 752 億円・営業利益 53 億円。セラミックス・3D造形・半導体関連で数量1.55倍
倍率:事業の純利益 175 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.12 倍、時価総額 2,471 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:のれんの減損後の再建、消耗品の積み上げ、政策保有株の売却がすべてそろう必要があり、過去の利益率の実績からは確度が低い。5%以上は置く。
やや楽観 22% 再建は進むが、会社の目標には届かない 利益 130 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,406 円1,784 億円
欧州の立て直しが進み、表面処理は世界の市場並みに伸びる。ブラストの消耗品と保守の比率が上がり、機械の注文が減る年でも利益が崩れにくくなる。
鋳造は、電動化の逆風を新しい用途で吹き返し、数量は微増にとどまる。その他の事業も、セラミックスと環境関連が少しずつ伸びる。
営業利益率は6%前後まで改善し、2007年3月期の高さに迫る。会社が掲げる4年後の150億円は、10年でようやく届く水準だ。
政策保有株の売却は少しずつ進み、DOE2%以上の配当は守られる。自己株式の取得も加わる。ROEは資本コストにあと少しで届かない。
会社の言い分は、おおむね実現する。ただし、資本効率が他社の優良な水準に並ぶところまでは行かない。
- 表面処理事業(ブラスト装置・研削材・保守):数量 130,000(世界の表面処理市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 136.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,768 億円・営業利益 115 億円。市場の伸び年2.5%・シェア微増、価格1.36倍
- 鋳造事業(造型機・砂処理・鋳造ライン):数量 43,200(世界の鋳造設備市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 135.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 583 億円・営業利益 35 億円。数量1.08倍、微増
- 環境・搬送・特機・セラミックスほか:数量 47,060(対象市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 134.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 631 億円・営業利益 35 億円。数量1.30倍
倍率:事業の純利益 130 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 1,677 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:のれんの重荷が消え、消耗品の比率が上がるので、利益率が過去の最高圏に乗る可能性は十分ある。ただし中計の150億円の目標には届かない。
中立 33% 営業利益は過去最高並み。ROEはまだ資本コスト未満 利益 92 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,470 円1,294 億円
減損でのれんの負担は消え、欧州は黒字化する。表面処理は市場並みに伸び、消耗品・保守が下支えする。
鋳造は電動化の逆風と新しい用途が釣り合い、数量はほぼ横ばいだ。搬送や環境などの小さな事業は、緩やかに伸びる。
営業利益率は5%に届かず、過去10年の最高だった5%台に近づく程度だ。会社の目標の営業利益150億円には届かない。
還元は配当を中心に続き、政策保有株の売却は一部にとどまる。自己資本は少しずつ積み上がり、ROEは6%ほどで資本コストを下回る。
事業そのものは崩れない。ただ、資本を厚く持ちすぎた構造は変わらず、稼ぐ力はその厚さに見合わない。普通の、少し効率の悪い製造業という姿になる。
- 表面処理事業(ブラスト装置・研削材・保守):数量 122,000(世界の表面処理市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 134.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,635 億円・営業利益 82 億円。市場の伸び年2%、シェア維持、価格は物価並みの1.34倍
- 鋳造事業(造型機・砂処理・鋳造ライン):数量 42,000(世界の鋳造設備市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 134.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 563 億円・営業利益 28 億円。数量1.05倍、ほぼ横ばい
- 環境・搬送・特機・セラミックスほか:数量 41,630(対象市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 134.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 558 億円・営業利益 25 億円。数量1.15倍
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.9% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 1,187 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の営業利益率が過去の最高圏の下限に乗るという、中心的な置き方。会社の目標より低い。
やや悲観 25% 中国勢と電動化に押され、利益率は3%台にとどまる 利益 50 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,112 円583 億円
中国勢の低価格ブラスト装置と研削材が、欧州と東南アジアで広がる。表面処理は、数量が伸びる一方で価格が物価に届かず、利益が増えない。
鋳造は、エンジンの鋳物が減り、設備更新も遅れて、数量が1割ほど減る。搬送も自動車向けが細る。
営業利益率は3%台にとどまり、10年前とほぼ同じ水準になる。配当は守るが、自己株式の取得はほとんど出ない。政策保有株の売却は、あっても小さい。
新しい買収が再び期待を下回れば、また減損が出るかもしれない。
鋳造と搬送の落ち込みを、消耗品と保守の下支えが何とか受け止める。営業利益は黒字を保つが、自己資本ばかりが積み上がり、ROEは4%を下回る。事業は成り立つが、優良とは呼べない。
- 表面処理事業(ブラスト装置・研削材・保守):数量 110,000(世界の表面処理市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 130.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,430 億円・営業利益 50 億円。市場は伸びるがシェアが減り数量1.10倍、価格1.30倍
- 鋳造事業(造型機・砂処理・鋳造ライン):数量 36,800(世界の鋳造設備市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 130.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 478 億円・営業利益 17 億円。電動化で数量0.92倍
- 環境・搬送・特機・セラミックスほか:数量 38,010(対象市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 130.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 494 億円・営業利益 15 億円。数量1.05倍
倍率:ROE 3.9%がkを大きく下回り、稼ぐ力(純利益÷k=12.1倍)の7割強に置いた。利益の質は低い。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.8 倍・時価総額 440 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:ROEが資本コストを下回り続けた実績、買収に失敗した直近の経緯、自動車への依存を考え、慎重な側に厚く置いた。
悲観 10% シェアを構造的に失い、資産の価値で測る会社になる 利益 −12 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 672 円352 億円
中国勢が品質でも追いつき、ブラスト装置と研削材の世界でシェアを失う。欧州の子会社の再建は進まず、追加の減損を出す。
鋳造は、電動化で国内の設備更新が細り、数量が3割減る。搬送や環境も、自動車の投資抑制で縮む。
営業利益は赤字に転じ、利益ではなく持っている資産が値段を決める。上場株と土地を売って、配当を守るのが精いっぱいだ。
配当と自己株式の取得は、現金の積み上げではなく、上場株や遊休地の売却でまかなう。会社は縮小均衡に入り、株主は、かろうじて残った資産の価値を頼りにするしかない。
欧州の子会社の損失処理は、これで終わらない。ブラストの消耗品は価格競争で値下がりし、下支えの役目を果たせなくなる。もう優良な会社ではない。技術と顧客の網は残るが、稼ぐ力は失われている。
- 表面処理事業(ブラスト装置・研削材・保守):数量 80,000(世界の表面処理市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 115.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 920 億円・営業利益 0 億円。シェアを失い数量0.8倍、価格は物価に届かず1.15倍
- 鋳造事業(造型機・砂処理・鋳造ライン):数量 28,000(世界の鋳造設備市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 115.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 322 億円・営業利益 3 億円。電動化で数量0.7倍
- 環境・搬送・特機・セラミックスほか:数量 28,960(対象市場(億円・実質)× 当社シェア(%))× 価格 115.0%(名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 333 億円・営業利益 2 億円。数量0.8倍
倍率:稼ぐ力が消えるので、売れる資産の税後(約352億円)を床にした。PBRはこの額を今の自己資本1,111億円で割った値。
確率:中国勢への技術の追い上げと電動化の逆風が重なり、欧州の再建も失敗する。10年の長さを考えれば、このくらいの確率は置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
表面処理事業(ブラスト装置・研削材・保守)
鉄の粒を高速でぶつけて金属部品の表面を整え強くするブラスト装置と、使い続けるほど減る研削材、保守を売る。エラスチコス、AGTOSなど欧州の子会社を含む。
| 数量世界の表面処理市場(億円・実質)× 当社シェア(%) | 価格名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100,000 | 100.0% | 1,000 | 12 |
| 10 年後 中立 | 122,000 | 134.0% | 1,635 | 82 |
取り方:ブラスト装置の世界市場約15億ドル(2,250億円)に研削材・保守を足した対象市場を約8,000億円とみて、シェア12.5%と推定。開示は2025年3月期の外部売上778億円と、前期のエラスチコス通年化で、2026年3月期の1,000億円・営業利益12億円は筆者の推定。volume=市場(億円)×シェア(%)、rev_factor 0.01で億円に換算する。
鋳造事業(造型機・砂処理・鋳造ライン)
鋳物の型をつくる造型機、砂の再生装置、鋳造ラインの設計・納入と、その保守。国内首位で、顧客は自動車部品の鋳造工場が中心。
| 数量世界の鋳造設備市場(億円・実質)× 当社シェア(%) | 価格名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40,000 | 100.0% | 400 | 18 |
| 10 年後 中立 | 42,000 | 134.0% | 563 | 28 |
取り方:2025年3月期の鋳造事業は外部売上417億円・利益16億円。2026年3月期は400億円・営業利益18億円と推定。対象市場を約4,000億円、シェア10%と置く。
環境・搬送・特機・セラミックスほか
集じん機などの環境事業、物流向けの搬送装置、特殊機械、粉粒体処理、セラミックス部品と3D造形(ボッシュから承継)をまとめた。
| 数量対象市場(億円・実質)× 当社シェア(%) | 価格名目の価格指数(今=1.0。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 36,200 | 100.0% | 362 | 14 |
| 10 年後 中立 | 41,630 | 134.0% | 558 | 25 |
取り方:2025年3月期の環境120億円・搬送92億円・特機94億円に、セラミックスなどを足して連結1,762億円との差から362億円と推定。対象市場約6,000億円、シェア約6%。営業利益は推定。
リスクと懸念
海外買収の失敗の再発
エラスチコスの買収では、約400億円のうち200億円を2年で減損した。欧州の低迷と中国勢の台頭は、AGTOSやボッシュから承継したセラミックス事業にも及びうる。経営が買収で規模を取る姿勢を続ければ、同じ損失が再び出る恐れがある。
自動車の電動化と鋳造需要
エンジン鋳物向けの造型機や砂処理装置は、電気自動車の普及で長期に細る。大型アルミ鋳造などの新しい需要はあるが、国内首位の設備の更新需要を埋めるとは限らない。鋳造事業は売上の2割強を占める。
中国勢の価格攻勢
中国は世界のブラスト装置の数量の4割近くを占め、安い装置と研削材が欧州や東南アジアにも出始めた。消耗品が収入の6割近くを占める構造なので、価格が下がれば利益の下支えも細る。
低い利益率と資本効率
営業利益率は過去10年で2〜5%台、ROEの中央値は3%台だった。会社は4年後の営業利益150億円、ROE8%を掲げるが、過去の最高水準をはるかに超える。計画が未達になれば、評価はまた下がる。
政策保有株の売却が進まない
上場57銘柄、簿価約350億円の政策保有株は時価総額の6割にあたる。売却が方針に入ったが、額と期限は示されていない。売却が遅れれば資本効率の改善は期待に終わり、売却を前提にした評価は危うい。
受注の循環
設備投資に連動する資本財で、自動車や中国向けの需要が落ちると受注が減る。搬送事業は自動車向けの投資抑制で、前期の第3四半期に減収減益になった。消耗品が下支えするが、機械の落ち込みは利益を大きく動かす。
今後の分かれ目
- 政策保有株の売却額と期限が具体的に示され、売却資金で自己株式の取得・消却が始まる
- 自己資本が圧縮され、ROEが資本コストに近づく。中立よりも強気の筋書きの確度が上がる
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の73億円に届く
- 減損後の再建が軌道に乗ったとみなせ、中立の利益率の置き方に根拠が増える
- エラスチコスなど欧州子会社で追加の減損が出る
- 買収に失敗する経営という見方が強まり、やや悲観・悲観の確率を上げるべき局面になる
- 中国勢が品質でも追いつき、欧州・東南アジアで研削材の価格が下がる
- 消耗品の下支えが弱まり、表面処理の利益率が低下する
- 大型の買収や、物言う株主による提案が出る
- 純資産の半分の値段を前提に、再編や資本政策の見直しが一気に進む可能性がある
- 電気自動車向けの大型アルミ鋳造設備で大きな受注を獲得する
- 鋳造事業の数量が増え、電動化の逆風が弱まる
見ておくもの
- 2027年3月期の営業利益(会社予想73億円)と上期の進捗
- エラスチコス・AGTOSの黒字化と欧州の消耗品の売上
- 政策保有株の売却額と、自己株式の取得・消却の発表
- 部品・消耗品の売上比率(目標6割)
- 自動車向けの鋳造設備と搬送装置の受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PBR約0.5倍)を見ずに、ROEとk 7.75%から出した。中立は10年後のROEが6%でkを下回るため、PERの上限1÷k=12.1倍の8割に置いた。楽観でもROEは9%台で、上限の9割にとどめた。やや悲観は稼ぐ力の7割強、悲観は売れる資産の税後(約352億円、定期預金などの半分を含む)で測り、過去の倍率は使っていない。純負債は時価総額の3割(3か月超の定期預金など約104億円を足すと約1割強)だが、純現金ではないので余った現金は分けない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.4→14.12 倍・やや楽観 PER 10.3→12.9 倍・中立 PER 9.7→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本7.5% + quality +0.75% = 8.25%。買収の失敗や政策保有株の動きは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。