結論
ハーモニック・ドライブ・システムズは、ロボットの関節に使う小型で精密な減速機「波動歯車」を日本で初めて製品にした会社だ。筆者の結論は大幅な割高である。人型ロボットが当たっても、今の値段には届きにくいと見る。
事業の質は高い。産業用ロボットや半導体製造装置の関節に欠かせず、一度設計に入ると替わりにくい。だが稼ぐ力の戻りは遅い。営業利益率は 2019 年 3 月期の 25% から直近は 4% まで落ち、今期の会社計画でも 1 割強にとどまる。
株価を押し上げているのは人型ロボットへの期待だ。しかし AI ロボット向けの受注は直近の年間で 25 億円ほど、売上の 4% にすぎない。中国の緑的諧波が同じ市場で量を取りに来ており、実質の値段は下がっていくと見る。
10 年後の中立は、売上が 2.4 倍、営業利益率が 15% 前後。それでも時価総額は今の 3 割にとどまる。楽観の筋書きでも、今の水準に並ぶのがやっとだ。良い会社と、良い値段は別の話である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず事業の本質を見る。この会社は、ロボットが増えるほど必要になる部品を作っている。金脈を掘る人ではなく、掘る人にツルハシを売る側に近い。事業そのものは好ましい。
次に、10 年後も強いかを問う。ロボットの数は増えるので、需要は消えない。しかし参入者が増え、同じ性能のものが安く手に入るようになれば、部品の値段は実質で下がる。ここが、持ち続けたいかの分かれ目になる。
さらに、株主のものになる利益を考える。同社は工場の稼働率が低く、今は利益が戻る途中だ。中立の筋書きで 10 年後に純利益は 150 億円ほどになり、これは今の時価総額の 3% にあたる。この利益に買い手が払う値段は、ふつう 10 倍前後だ。
最後に安全域だ。今の値段は、人型ロボットが数百万台規模で普及し、同社が高い取り分を保つ未来を、すでに払い込んでいる。うまくいっても得られるものが小さく、外れた時の損が大きい。価値を測る限り、安全域はない。素晴らしい会社でも、値段次第では良い投資にならない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は「減速装置」だ。モーターの速い回転を、遅くて力強い動きに変える部品で、ロボットの腕や手首、半導体装置のウエハー搬送、航空・宇宙機器の位置決めに入る。売上の 78% を占める。残る 22% は、減速機とモーターを一体にしたアクチュエーター(動く部品)などのメカトロニクス製品だ。
波動歯車は 1955 年に米国で発明され、1970 年に同社が日本で世界初の商品化に成功した。薄い金属の輪をたわませて歯車を回す構造で、小型・軽量なのにガタつきがほとんど出ない。ロボットの関節に求められる性質をそのまま満たす。
売上の地域別は、日本 41%、欧州 28%、北米 20%、中国 7%。工場は日本のほか、米国マサチューセッツ州とドイツにある。北米の工場は月産約 8,000 台でほぼ満杯、国内は稼働率が 5 割ほどで、固定費の重さが利益率を押し下げてきた。
用途の内訳は会社が出していない。外部の推計では産業用ロボット向けが最大で、半導体・フラットパネル製造装置向けが続く。医療、航空宇宙、防衛、車載、工作機械向けが残りを分け合う。
新しい柱は AI ロボットだ。人型ロボットは 1 台に多数の関節を持つので、減速機の使用数が桁違いに増える可能性がある。ただし量産の時期は読みにくく、顧客は北米の新興企業が中心で、一部の大口顧客は在庫消化のため注文を止めている。
優良さと弱いところ
筆者は、技術の質は高いが、利益の質はまだ証明されていないと見る。
強みは三つある。第一に、波動歯車という発明元の技術と、半世紀分の品質データだ。ロボットメーカーは壊れにくさを最優先にするので、実績は選ばれる理由になる。第二に、設計に入ると替えにくい点だ。減速機はロボットの動きの精度を決めるため、一度採用した型番を変えるには試験をやり直す必要がある。第三に、無借金に近い財務で、自己資本比率は 7 割を超える。
弱みは利益率の不安定さだ。営業利益率は 2015 年 3 月期に 27% あったのに、2024 年 3 月期と 2025 年 3 月期はほぼゼロまで落ちた。受注が半導体やロボットの投資循環に左右されるうえ、国内工場の稼働率が低いので、売上が減ると利益が一気に消える。
もう一つは競争だ。中国の緑的諧波は 2025 年の売上が前年比 47% 増と伸び、価格と納期を武器に中堅の顧客を奪っている。波動歯車の基本特許はとうに切れており、堀、つまり他社がまねできない強みは、特許ではなく実績と信頼にある。この堀は時間とともに薄れうると考える。
経営は、株主還元を配当性向 35% へ引き上げる方針を出した。一方で、2024 年 3 月期には大きな赤字を出しており、資本の使い道が一貫して上手とまでは言い切れない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の源は二つある。工場の自動化と、人型ロボットだ。
自動化の側では、人手不足が世界で続くので、産業用ロボットの台数は長い目で増える。ただ足元は、中国向けの設備投資が弱く、日本の売上の伸びを中国の落ち込みが一部打ち消している。半導体製造装置向けは、データセンター用の先端半導体が支える一方、それ以外は回復が鈍い。同社の営業利益は今期、会社計画で 62 億円から 85 億円へ上方修正されたが、2019 年 3 月期の 169 億円にはまだ遠い。
人型ロボットの側では、北米の新興企業が量産に入りつつある。同社は 2024 年に約 100 億円の戦略投資を掲げ、2026 年度に 100〜200 億円の売上を狙ったが、実際の受注は 25 億円ほどだった。立ち上がりは、当初の期待より遅い。新しい中期経営計画(2026〜2030 年度)は、AI ロボット部品の売上を 5 年で 7 倍にする目標を掲げている。
競争の形は変わりつつある。中国の緑的諧波は中国で首位、来福諧波が 2 位で、人型ロボット向けの量でも先行する。ナブテスコは大型関節向けの減速機(RV)が強いが、小型の波動歯車とは棲み分けだ。人型ロボットの普及が精密減速機の数量を跳ね上げる可能性はある。ただその果実を、日本勢がどれだけ取れるかは別問題だ。数量は伸びても価格は実質で下がり、取り分が薄まる展開を、中立とみる。
資本政策と M&A
筆頭株主は KODEN ホールディングスで、持ち株比率は 34.77% と高い。残りは広く分散しており、買収されるなら筆頭株主の同意が前提になる。ただ、市場の評価が高い今は、買い手にとって割に合わない。
株主還元は、配当性向を 30% から 35% に引き上げる方針だ。直近の純利益は投資有価証券の売却益が減って 16 億円まで落ちており、実績の配当は利益を上回る。自社株買いは 2022 年に 50 億円を実施したのが最後で、規模は小さい。
手元は純現金で、時価総額の 1% ほどにすぎない。余剰の現金はなく、人型ロボット向けの設備投資と、北米工場の増強(生産能力を 5 割増)に資金が回る。大型の買収は近年なく、技術と販路は自前で育ててきた。
気になるのは、AI ロボット向けの投資が実を結ばなかった時だ。工場を作り、人を増やした後で受注が細ると、利益率はまた押し下げられる。資本は慎重に使われてきたが、期待の高さの割に、回収の見通しは確かではない。
点検済み(2026-10-19):起点(谷)、投資有価証券売却益の混入、余った現金が無いことを確かめた。割高に見せる見落としは見つからなかった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
人型ロボットは、自動車の次の大きな産業になりうる。1 台に 20 から 40 の関節があるとすれば、減速機の数量は産業用ロボットの何倍にもなる。波動歯車は小型・軽量・高精度という点で、手や手首の関節にもっとも向いた方式で、置き換えは難しい。同社には 50 年の量産実績があり、北米では顧客と一緒に試作を重ねている。受注は 2026 年 3 月期の 25 億円から、翌期に 50 億円以上へ伸びる見込みで、会社は 2030 年度に AI ロボット部品を 7 倍にする目標を掲げた。
利益の面でも、国内工場の稼働率はまだ 5 割で、売上が増えれば利益が急に伸びる。コスト削減と値上げで、営業利益率は 1 割台から 2 割台に戻りうる。半導体の先端工程や手術支援ロボット、防衛・宇宙といった高単価の用途も広がっている。中国勢は量で攻めるが、壊れにくさが命のロボット関節では、実績のある日本製が選ばれ続ける。市場が桁違いに大きくなれば、取り分が小さくても利益は何倍にもなる。
慎重な見方
期待が先に走りすぎている。AI ロボット向けの受注は 25 億円で、売上の 4% にすぎない。2024 年に掲げた 100〜200 億円の売上目標は、2026 年度時点で大きく届いていない。しかも一部の大口顧客は、在庫がだぶついて今期の注文を止めた。量産の時期は、顧客の都合で何度でもずれる。
競争は厳しい。中国の緑的諧波は売上が前年比 47% 増、来福諧波も香港上場を狙い、人型ロボット向けの量で先行している。波動歯車の基本特許はとうに切れ、中国勢は日本より安く、早く届ける。数量が増えても、値段が実質で下がれば、利益は増えない。ロボットメーカー自身が内製に動く可能性もある。
足元の稼ぐ力も弱い。営業利益率は直近で 4%、今期計画でも 1 割強で、かつての 25% には遠い。固定費が重く、売上が落ちるとすぐ赤字になる。PER は 300 倍を超え、人型ロボットが大成功して利益率が昔に戻っても、今の時価総額を正当化するのは難しい。
どちらに重みを置いたか
事業の将来性は、強気の見方に分がある。人型ロボットで数量が増えるのは確かだ。しかし値段の議論では、慎重な見方が勝つ。需要が伸びても、実質の価格が下がり、取り分が薄まるからだ。
そのため確率は、楽観を 1 割に抑え、やや悲観と悲観に合わせて 4 割弱を置いた。楽観の筋書きでも、10 年後の時価総額は今の水準に並ぶ程度にとどまる。差を決めるのは、成長の有無ではなく、今の値段が何を前提にしているかである。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,177 円2,061 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 375 円355 億円)。 今の値に割り戻すと 1,163 円1,101 億円、今との差 −76.1%、 期待の年率 −6.3%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,415 円6,074 億円 | 962 円911 億円 | +51.3% | +4.2% | 738 円698 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,367 円3,188 億円 | 561 円531 億円 | −19.4% | −2.1% | 864 円818 億円 |
| 中立 | 30% | 1,942 円1,839 億円 | 369 円349 億円 | −52.6% | −7.2% | 693 円656 億円 |
| やや悲観 | 24% | 679 円643 億円 | 155 円147 億円 | −82.9% | −16.2% | 200 円190 億円 |
| 悲観 | 14% | 348 円330 億円 | 53 円50 億円 | −91.8% | −22.1% | 56 円53 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,177 円2,061 億円 | 375 円355 億円 | −47.7% | −6.3% | 2,551 円2,416 億円 |
今の株価時価総額 4,875 円4,615 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 人型ロボットが世界に普及し、同社が取り分を守る 利益 418 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 6,415 円6,074 億円
人型ロボットが 2030 年代に世界で数百万台売れ、同社の AI ロボット向けは年 120 万台、売上が 1,000 億円を超える柱になる。基本特許が切れても、壊れにくさの実績と北米・欧州の顧客との共同開発で、取り分を守る。産業用ロボットと半導体向けも倍増し、工場の稼働率が上がって営業利益率は 24% に戻る。配当と自社株買いも手厚くなり、ROE は 20% に達する。同社にとって最良の 10 年だ。それでも時価総額は今の水準に並ぶ程度にとどまる。競合の緑的諧波や来福諧波も伸びるが、市場が大きく広がるので共存できる。筆頭株主 KODEN ホールディングスが持ち株を維持し、経営は安定する。大型の買収は行わず、技術は自前で磨く。
- 産業用ロボット・工作機械:数量 133(減速機の出荷(万台))× 価格 4.78(1 台あたりの平均売価(万円)。物価 3% で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 636 億円・営業利益 140 億円。営業利益率22.0%
- 半導体・フラットパネル製造装置:数量 33.0(減速機の出荷(万台))× 価格 11(1 台あたりの平均売価(万円)。単価は産業用の 2 倍強)→ 売上 354 億円・営業利益 92 億円。営業利益率26.0%
- AI ロボット(人型・協働・サービスロボット):数量 120(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 8.71(1 台あたりの平均売価(万円)。実質では量産と中国勢の攻勢で下がる前提)→ 売上 1,045 億円・営業利益 261 億円。営業利益率25.0%
- 医療・航空宇宙・防衛・車載・その他:数量 68.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 6.90(1 台あたりの平均売価(万円)。メカトロ製品を含むため単価はやや高め)→ 売上 469 億円・営業利益 103 億円。営業利益率22.0%
倍率:事業の純利益 418 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.3% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.53 倍、時価総額 6,074 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:人型ロボットの大成功、同社の取り分の維持、利益率の回復が 10 年間そろう必要があり、1 割にとどめた。
やや楽観 22% AI ロボットが育ち、利益率が 20% 近くまで戻る 利益 237 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 3,367 円3,188 億円
AI ロボット向けは年 60 万台まで伸び、売上は 500 億円ほどの柱になる。産業用ロボットと半導体向けも年 5% 前後で増え、国内工場の稼働率は 8 割に届く。営業利益率は 19% まで戻るが、中国勢との競争で、AI ロボットの値段は量産が進むほど下がる。ROE は 15% 台で、堀は薄まりながらも保たれる。人型ロボットの普及は広がるが、勝者は一社に絞られず、中国勢と日本勢が並び立つ。同社は北米と欧州の大手顧客を軸に、取り分を 3 割ほど保つ。北米工場に続き、アジアにも増産の拠点を持つ。手術支援ロボットや宇宙・防衛の高単価の用途が加わり、その他向けの利益率も上がる。M&A は小さな技術の取り込みにとどまる。
- 産業用ロボット・工作機械:数量 116(減速機の出荷(万台))× 価格 4.78(1 台あたりの平均売価(万円)。物価 3% で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 553 億円・営業利益 100 億円。営業利益率18.0%
- 半導体・フラットパネル製造装置:数量 27.0(減速機の出荷(万台))× 価格 11(1 台あたりの平均売価(万円)。単価は産業用の 2 倍強)→ 売上 289 億円・営業利益 64 億円。営業利益率22.0%
- AI ロボット(人型・協働・サービスロボット):数量 60.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 8.31(1 台あたりの平均売価(万円)。実質では量産と中国勢の攻勢で下がる前提)→ 売上 499 億円・営業利益 100 億円。営業利益率20.0%
- 医療・航空宇宙・防衛・車載・その他:数量 60.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 6.90(1 台あたりの平均売価(万円)。メカトロ製品を含むため単価はやや高め)→ 売上 414 億円・営業利益 75 億円。営業利益率18.0%
倍率:事業の純利益 237 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.45 倍、時価総額 3,188 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の拡大は広く見込まれており、そこに価格の下落が重なる筋書きとして 2 割強を置いた。
中立 30% 需要は増えるが、競争で取り分と値段が薄まる 利益 150 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 1,942 円1,839 億円
ロボットと半導体の需要は 10 年で 5 割ほど増え、AI ロボット向けは年 40 万台に育つ。ただ中国勢との競争で、AI ロボット向けの実質の値段は 4 割下がる。産業用の波動歯車は、中国以外の地域で堅調だ。国内工場の稼働率は 7 割台、営業利益率は 15% 前後。売上は 2.4 倍になるが、物価の上昇を除くと、利益はそれほど増えない。堀は実績に残るが、特許のない市場で値段を決める力は弱い。配当は配当性向 35% の方針で出し、自社株買いは小さい。筆頭株主 KODEN ホールディングスは持ち株を維持し、M&A や TOB は起きない。会社は優良な部品メーカーであり続けるが、10 年後も超過利益は大きくない。
- 産業用ロボット・工作機械:数量 102(減速機の出荷(万台))× 価格 4.78(1 台あたりの平均売価(万円)。物価 3% で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 486 億円・営業利益 73 億円。営業利益率15.0%
- 半導体・フラットパネル製造装置:数量 22.5(減速機の出荷(万台))× 価格 11(1 台あたりの平均売価(万円)。単価は産業用の 2 倍強)→ 売上 241 億円・営業利益 43 億円。営業利益率18.0%
- AI ロボット(人型・協働・サービスロボット):数量 40.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 8.04(1 台あたりの平均売価(万円)。実質では量産と中国勢の攻勢で下がる前提)→ 売上 322 億円・営業利益 42 億円。営業利益率13.0%
- 医療・航空宇宙・防衛・車載・その他:数量 54.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 6.90(1 台あたりの平均売価(万円)。メカトロ製品を含むため単価はやや高め)→ 売上 373 億円・営業利益 56 億円。営業利益率15.0%
倍率:事業の純利益 150 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.26 倍、時価総額 1,839 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の拡大と競争による値下がりが同時に起きるとみて、最も起こりやすい筋書きに 3 割を置いた。
やや悲観 24% 競争に負け、普通の部品メーカーに近づく 利益 68 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 679 円643 億円
中国勢が人型ロボットの量産顧客を押さえ、同社の AI ロボット向けは年 16 万台にとどまり、値段は実質で半分に下がる。産業用でも中国勢に押され、値上げができない。営業利益率は 10% 前後で、ROE は 6% ほど。国内工場の固定費が重く、新しい投資の回収も遅れる。2030 年度に売上 1,000 億円という中期計画の目標は、達成が 2030 年代の後半にずれ込む。ロボット関節の主役は他の方式や中国製に移り、同社は産業用の安定した収益源として残るだけになる。配当は出すが、新しい設備投資が重く、自己資本は増えない。TOB の対象になる可能性は、株価が下がるほど高くなるが、ここでは織り込まない。
- 産業用ロボット・工作機械:数量 84.0(減速機の出荷(万台))× 価格 4.55(1 台あたりの平均売価(万円)。物価 3% で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 382 億円・営業利益 38 億円。営業利益率10.0%
- 半導体・フラットパネル製造装置:数量 18.0(減速機の出荷(万台))× 価格 10(1 台あたりの平均売価(万円)。単価は産業用の 2 倍強)→ 売上 183 億円・営業利益 22 億円。営業利益率12.0%
- AI ロボット(人型・協働・サービスロボット):数量 16.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 6.70(1 台あたりの平均売価(万円)。実質では量産と中国勢の攻勢で下がる前提)→ 売上 107 億円・営業利益 8 億円。営業利益率7.0%
- 医療・航空宇宙・防衛・車載・その他:数量 44.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 6.56(1 台あたりの平均売価(万円)。メカトロ製品を含むため単価はやや高め)→ 売上 289 億円・営業利益 29 億円。営業利益率10.0%
倍率:ROE 6.3% が k 9% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 10.5 倍まで。中国勢に取り分を奪われ、利益率が戻らず ROE が k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 9.45 倍に置いた。
確率:波動歯車の特許が切れていることと、中国勢の急成長を考えると、この筋書きは十分に起こりうるため、2 割台半ばを置いた。
悲観 14% 構造的に負け、優良企業ではなくなる 利益 17 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 348 円330 億円
中国勢が価格と納期で、世界の産業用ロボットと人型ロボットの減速機を大きく奪う。同社の取り分は下がり、AI ロボット向けは年 6 万台止まりで、値段は実質で 6 割下がる。顧客が減速機を内製したり、別の方式(RV、遊星など)へ移ったりする動きも出る。営業利益率は 3% 前後まで落ち、国内工場は余剰を抱えて減損を出す。かつての世界首位という評価は失われ、自己資本の半分の値段で評価される。配当は削られ、新しい投資は止まる。筆頭株主が手放して同業や中国勢の傘下に入る可能性もあるが、買い手が付いても、優良企業の値段にはならない。
- 産業用ロボット・工作機械:数量 66.5(減速機の出荷(万台))× 価格 4.07(1 台あたりの平均売価(万円)。物価 3% で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 270 億円・営業利益 8 億円。営業利益率3.0%
- 半導体・フラットパネル製造装置:数量 15.0(減速機の出荷(万台))× 価格 9.11(1 台あたりの平均売価(万円)。単価は産業用の 2 倍強)→ 売上 137 億円・営業利益 6 億円。営業利益率4.0%
- AI ロボット(人型・協働・サービスロボット):数量 6.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 5.36(1 台あたりの平均売価(万円)。実質では量産と中国勢の攻勢で下がる前提)→ 売上 32 億円・営業利益 −2 億円。営業利益率-5.0%
- 医療・航空宇宙・防衛・車載・その他:数量 38.0(減速機・アクチュエーターの出荷(万台))× 価格 6.21(1 台あたりの平均売価(万円)。メカトロ製品を含むため単価はやや高め)→ 売上 236 億円・営業利益 12 億円。営業利益率5.0%
倍率:技術の置き換えと価格競争で堀が崩れ、利益がほぼ消える構造悲観。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 330 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:単一製品に売上が集中する会社で、構造的に負ける筋書きは現実的であり、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
産業用ロボット・工作機械
産業用ロボットの関節(手首・小型軸)と工作機械の位置決めに入る波動歯車。最大の用途とみられる。
| 数量減速機の出荷(万台) | 価格1 台あたりの平均売価(万円)。物価 3% で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍が中立 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 3.57 | 250 | 12 |
| 10 年後 中立 | 102 | 4.78 | 486 | 73 |
取り方:会社は用途別の売上を出していない。世界の産業用ロボットの設置は年 50 万台強で、1 台に使う波動歯車を 3 つほどとみて、同社の取り分を 4 割強と置くと約 70 万台。売上の約 4 割(250 億円)に当たる。営業利益は 5% 弱とみた。 10 年の台数(中立は 70→101.5 万台)は出荷台数という実物で、人手不足による産業用ロボットの設置台数の増加(年 4% 弱)を置いたもの。名目の市場の伸びではなく、物価の分は単価に別に掛けている。
半導体・フラットパネル製造装置
ウエハー搬送ロボットや露光・検査装置の位置決めに入る高精度品。
| 数量減速機の出荷(万台) | 価格1 台あたりの平均売価(万円)。単価は産業用の 2 倍強 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.0 | 8.00 | 120 | 8 |
| 10 年後 中立 | 22.5 | 11 | 241 | 43 |
取り方:2026 年 3 月期は、データセンター向けの先端半導体で回復し、それ以外は横ばい。用途別は非開示で、売上の 2 割(120 億円)、15 万台で単価約 8 万円と推定。営業利益は 7% 弱とみた。 10 年の台数(中立は 15→22.5 万台)は出荷台数という実物で、データセンター向けの先端半導体の装置の増加と、それ以外の回復の鈍さを見た年 4% 前後。名目の市場の伸びではない。
AI ロボット(人型・協働・サービスロボット)
人型ロボットや協働ロボットの関節用の小型減速機とアクチュエーター。新しい成長の柱。
| 数量減速機・アクチュエーターの出荷(万台) | 価格1 台あたりの平均売価(万円)。実質では量産と中国勢の攻勢で下がる前提 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 10 | 20 | −3 |
| 10 年後 中立 | 40.0 | 8.04 | 322 | 42 |
取り方:2026 年 3 月期の受注は約 25 億円(うち海外 21 億円)で、売上は 20 億円ほどと推定。2 万台、単価 10 万円(センサー込みの部品)と置く。立ち上げの費用で営業赤字とみた。
医療・航空宇宙・防衛・車載・その他
手術支援ロボット、人工衛星・航空機、防衛機器、車載、メカトロニクス製品全般。
| 数量減速機・アクチュエーターの出荷(万台) | 価格1 台あたりの平均売価(万円)。メカトロ製品を含むため単価はやや高め | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 5.15 | 206 | 9 |
| 10 年後 中立 | 54.0 | 6.90 | 373 | 56 |
取り方:残りの売上 206 億円(全社の約 35%)を 40 万台、単価約 5 万円と置いた。車載と防衛は直近で減ったが、北米の手術支援ロボットが伸びている。営業利益は 4% 台とみた。
リスクと懸念
AI ロボットの量産が遅れる
人型ロボットの顧客は新興企業が中心で、量産の時期は資金調達や設計変更で何度もずれる。大口顧客の 1 社は在庫消化のため今期の注文を止めた。受注が読みにくいまま設備と人を増やすと、固定費だけが残り、利益率がまた落ちる。
中国勢の価格攻勢
緑的諧波は 2025 年の売上が前年比 47% 増、来福諧波も量産を急ぐ。波動歯車の基本特許は切れており、中国勢は安く早く届ける。人型ロボットの量産では価格が決め手になりやすく、同社の取り分と値段の両方が削られる恐れがある。
固定費の重さと稼働率
国内工場の稼働率は 5 割ほどで、売上が落ちると利益が一気に消える。2024 年 3 月期と 2025 年 3 月期は営業利益がほぼゼロだった。需要が戻っても、価格が上がらなければ、利益率は昔の水準まで戻らない。
設備投資と減損
人型ロボット向けに約 100 億円の戦略投資を掲げ、北米工場も増強する。見込んだ需要が来なければ、設備の減損が出て、利益と自己資本を同時に削る。同社は 2024 年 3 月期に 248 億円の純損失を出した前例がある。
需要先の景気循環
産業用ロボットと半導体製造装置は、世界の設備投資の波に左右される。中国向けの減速機は直近の受注が前年同期比で 3 割近く減っており、半導体向けも先端以外は回復が遅い。景気後退では売上の 3〜4 割が消える。
為替と大株主
海外の売上が 6 割近くあり、円高は利益を直接削る(直近の中間期で約 1 億円の減益要因になった)。為替の振れは、数量や値段とは別に、利益を数億円単位で動かす。筆頭株主の KODEN ホールディングスが持ち株を売る動きが出れば、株価が需給で大きく振れる恐れがある。
今後の分かれ目
- AI ロボット向けの受注が年 100 億円を超え、複数の顧客が量産に入る
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただ価格の動き(単価が下がっていないか)も同時に見る。
- 大口顧客の注文再開と、北米工場の増強が計画どおり進む
- 中立の確率を上げる。国内工場の稼働率が 7 割を超えるかが次の分かれ目になる。
- 緑的諧波・来福諧波が北米の人型ロボット大手の量産で採用される
- やや悲観・悲観の確率を上げる。同社の AI ロボット向けの取り分と値段の両方が下がる。
- 世界の製造業の投資が冷え込み、産業用ロボットと半導体装置の受注が減る
- 10 年の悲観の筋書きに近づく。純現金と自己資本の厚みが下支えになる。
- 中期計画の 2030 年度 1,000 億円の目標が前倒しで達成される
- 中立の売上を引き上げる。ただし営業利益率が 15% を超えて続くかを確かめてから確率を動かす。
見ておくもの
- AI ロボット向けの受注額(四半期)と顧客数
- 国内工場の稼働率と営業利益率
- 中国・北米での緑的諧波・来福諧波の採用の動き
- 大口顧客の注文再開の有無
- KODEN ホールディングスの持ち株比率の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE から式(正当化 PER)で出した上限の 8.5〜9 割に置いた(k は基本 7.5% に quality +2.0% を足した 9.5%、g 4%)。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)、悲観は純現金+売れる資産の床(約 330 億円)で測った。今の PER 300 倍超には寄せていない。先に 4 つの用途ごとの数量×価格と利益率を積み上げ、最後に今の時価総額と比べた。純現金は時価総額の 1% ほどで余剰の現金は分けていない。新リース会計基準は工場主体の事業で影響が小さく、数字は現行の形でそろえている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.97→14.53 倍・やや楽観 PER 10.49→13.45 倍・中立 PER 9.79→12.26 倍・やや悲観 PER 8.95→9.45 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +2.0% = 9.5%。人型ロボットの量産時期や特定顧客への依存は、k の循環・寿命に入れた分のほか、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.50% → 9.00%。