結論
日本トムソンは、機械の回転や直線運動を支える小さな部品を作る会社だ。「IKO」ブランドの針状ころ軸受と、直線に動かすための案内部品が柱である。半導体製造装置、ロボット、医療機器、工作機械に組み込まれる。
筆者の結論は割高である。2027 年 3 月期の会社予想は営業利益 115 億円で、前期の 3 倍近い。しかしこの会社は過去 20 年で 4 回赤字になった。山の利益が長く続くと見込んだ値段には、安全域がない。
事業そのものは悪くない。小ロット・特殊仕様に応える力が強く、売上の約半分はカスタム品だ。半導体向けは今後も伸びる。ただ、世界にはTHK、日本精工、台湾勢という大きな競合がいる。値段を自分で決める力は弱い。
10 年後の営業利益は、中立で 110 億円強と見た。今の 41 億円の 2.7 倍だ。それでも資本の稼ぎは資本コストに届かない。自己資本は厚いが、働きが鈍い。
中立の筋書きで 10 年後の時価総額は今を下回る。強気の筋書きでも、割り引くと今の値段に届かない。割安になるのは、株価が今より大きく下がった時だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を長く持ちたいかと問えば、答えは「値段次第」だ。
事業は 10 年後も残る。小型の精密部品は、機械のある限り要る。しかし利益の質は高くない。過去 10 年の自己資本利益率(ROE)は 3% 前後で、資本コストに届かなかった。堀が深ければ、利益率はもっと安定する。
オーナーとして気にするのは、稼いだお金の使い道だ。利益の半分を配当に回し、残りを工場と棚卸資産に回してきた。その結果、自己資本は増えたが、利益は増えなかった。
今の値段は、2027 年 3 月期の山の利益を前提にしている。山の利益を普通の利益と見なして高い倍率を払うと、谷で大きく損をする。この会社の純利益は、2023 年に 75 億円まで伸びた後、2025 年に 10 億円まで落ちた。
安全域を取るなら、谷の年を含めた平均的な利益で考える。中立の 10 年後の純利益は 87 億円で、今の 2 倍強にとどまる。それでは今の時価総額を割り引いて正当化できない。
事業は嫌いでない。ただ、この値段では持たない。株価が今の半分以下になれば、見方は変わる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 3 つの部品群だ。針状ころ軸受は、細長いころを使って小さな場所で大きな力を受ける軸受である。日本で最初に手がけた会社で、自動車、建設機械、産業機械に入る。
直動案内機器は、機械の部品を直線にまっすぐ動かす案内役だ。半導体製造装置のクリーンルーム向けや、手術支援ロボット、検査装置に使われる。世界最小級の製品も持つ。
メカトロ製品は、案内部品・ボールねじ・モーターを組み合わせた位置決めテーブルである。部品でなく装置の形で売るので、値段を決めやすい。これを伸ばすのが中期計画の柱だ。
売上 630 億円のうち、軸受などが約 9 割、そのほかの機械部品が 1 割だ。国内が約 45%、海外が約 55%。米国、オランダ、中国、タイ、ベトナムに子会社を持つ。
会社は需要先別の売上を出していない。ここでは需要先を、半導体・電子向け、工作機械・一般産業機械・自動車向け、ロボット・医療・その他向けの 3 つに分けた。比率は約 3 割、4 割、3 割と推定した。
半導体向けは利益率が高く、工作機械向けは低い。需要先の構成が変わると、会社全体の利益率が大きく動く。2027 年 3 月期の急回復も、主に半導体向けの回復によるものと筆者は読む。
優良さと弱いところ
優良さは中の上だ。強みは対応力で、独占的な堀(他社がまねできない強み)ではない。
強みは小ロットと特殊仕様だ。顧客の装置ごとに寸法や材質を変えて作る。売上の約半分がカスタム品である。装置メーカーは一度採用した部品を設計変更なしに替えにくいので、顧客との関係は粘り強い。
弱みは規模と値決めだ。世界の直動部品ではTHKと台湾のハイウィンが大きく、軸受では日本精工、NTN、ジェイテクトがいる。標準品では価格競争になる。
資本の効率は低い。過去 10 年の自己資本利益率(ROE)の中央値は 3%、営業利益率は 2〜14% を行き来してきた。自己資本比率は 66% と厚いが、棚卸資産 352 億円など寝ている資産が多い。
経営は中期計画で ROE 8% 以上、2030 年度に営業利益 150 億円を掲げる。目標は高いが、過去に近い水準を出した年は 2023 年 3 月期だけだ。山の年の利益を普通の年と見誤らないことが大事だ。
財務は堅い。純有利子負債は 60 億円で、利払いの 14 倍を稼ぐ。傾く心配はない。弱さは財務でなく、利益が振れることにある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は 3 つの波が重なって決まる。半導体、工作機械、ロボット・医療だ。
半導体は生成 AI の投資で製造装置の発注が増えた。装置の中で動く案内部品や位置決めテーブルの需要が伸びている。2027 年 3 月期の予想が 8 月に上方修正されたのも、この流れだ。ただし半導体の投資は数年ごとに山と谷を繰り返す。
工作機械は中国の需要が弱く、足踏みが続いた。回復は遅れているが、人手不足の日本・米国・欧州で自動化投資は長く続く。部品の数量は、中立で 10 年に 5% 増える程度と見る。
ロボットと医療は、数量が最も伸びる分野だ。クロスローラ軸受(小型で回転の精度が高い軸受)は人型ロボットや手術支援ロボットの関節に向く。軸受の世界市場は年 6〜8% で伸びるという推計もある。
競争は厳しい。THKが直動で世界首位、台湾のハイウィンは安い価格で中国の需要を取る。日本精工、NTN、ジェイテクト、不二越は軸受で並ぶ。標準品の値は中国勢に引きずられやすい。
価格は物価並みに上がるのが基本だ。ただし競争が強まれば、半導体向けでも値上げは難しくなる。逆に、位置決めテーブルなど装置の形で売る品は、値を保ちやすい。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。配当性向は約 50% で、2027 年 3 月期も増配の予想である。自社株買いは目立たない。
自己資本は 831 億円で、純有利子負債は 60 億円だ。現金 230 億円に対し、借入と社債で約 190 億円の有利子負債がある。余った現金を分けて評価できるほどの純現金はない。
上場株式の政策保有は 18 銘柄ある。額は大きくないが、資本効率を下げる要因だ。売却が進めば還元の原資になる。
中期計画は 2030 年度に時価総額 1,000 億円以上を掲げる。今はすでにその水準を超え、計画の数字が株価に追い越された形だ。
買収の歴史は目立たず、自前の技術で伸ばしてきた会社だ。時価総額が小さく株主が分散しているため、買われる側になる可能性は残る。ただしそれを前提に価値は置かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体製造装置の投資は、AI の計算需要で長い拡大に入った。装置の中で動く案内部品と位置決めテーブルは、1 台ごとに数が増える。日本トムソンはクリーンルーム向けの小ロット・特殊仕様に強く、売上の約半分がカスタム品だ。この領域は価格競争が起きにくい。
人型ロボット、手術支援ロボット、検査装置といった新しい需要が、部品の数量を押し上げる。クロスローラ軸受は関節の精度を左右する部品で、世界でも評価されている。
会社は 2030 年度に営業利益 150 億円、売上 1,000 億円を掲げる。2027 年 3 月期の予想はすでに営業利益 115 億円で、計画の 2026 年度目標 65 億円を大きく超える。上方修正の連続は、受注の強さを示す。
自己資本比率が 66% あり、財務は堅い。資本の使い方が変われば、事情は一変する。政策保有株を売り、配当や自社株買いに回せば、ROE は 10% を超える。
10 年のうちに、半導体向けが 2 倍近くに育ち、ロボット向けが加わる。営業利益率は 15% 前後で定着し、会社の目標に届く。これが強気の筋書きだ。
慎重な見方
過去 20 年で赤字が 4 回あった会社だ。営業利益は 2023 年 3 月期の 95 億円から 2025 年 3 月期の 16 億円まで、2 年で 6 分の 1 に落ちた。今回の回復も、同じ循環の山に過ぎない可能性が高い。
半導体の投資は、数年ごとに山と谷を繰り返す。AI 投資が一巡すれば、装置の発注が止まる。その時、案内部品の需要は真っ先に落ちる。
競争は厳しい。直動はTHKが世界首位、台湾のハイウィンは安い価格で攻める。軸受は日本精工などの大手が価格を決める。日本トムソンは規模が小さく、値段を市場に決められる側だ。
資本の使い方も弱い。ROE の中央値は 3% で、資本コストに届いた年はほとんどない。棚卸資産 352 億円など、寝ている資産が多い。会社の目標は高いが、近い水準を出せた年は 2023 年だけだ。
今の株価は、山の利益が続くという期待で上がった。期待が外れれば、株価は大きく戻る。中国の需要の弱さと自動車の電動化は、部品の数量を中長期で削る。これが慎重な筋書きだ。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の言い分に分がある。半導体とロボットの需要が伸びることは確かだ。ただし、その利益が 10 年続く保証はない。利益の振れと資本効率の低さは、過去の数字が示している。
確率は、強気の 2 つの筋書きに 32%、慎重な 2 つの筋書きに 34% を置いた。中立に 34% を置き、わずかに慎重側に寄せた。山の年の利益を、普通の年の利益と見なさないためである。
結論は、事業は良いが、値段が重いということだ。強気の筋書きでも、割り引くと今の値段に届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,600 円1,105 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 594 円410 億円)。 今の値に割り戻すと 1,145 円791 億円、今との差 −22.7%、 期待の年率 +4.0%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,829 円2,644 億円 | 1,057 円730 億円 | +229.9% | +12.7% | 489 円337 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,415 円1,668 億円 | 796 円550 億円 | +116.8% | +8.0% | 707 円488 億円 |
| 中立 | 34% | 1,575 円1,088 億円 | 608 円420 億円 | +47.4% | +4.0% | 742 円513 億円 |
| やや悲観 | 23% | 445 円308 億円 | 405 円280 億円 | −42.6% | −5.4% | 196 円135 億円 |
| 悲観 | 11% | 434 円300 億円 | 116 円80 億円 | −62.8% | −9.4% | 61 円42 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,600 円1,105 億円 | 594 円410 億円 | +48.1% | +4.0% | 2,193 円1,515 億円 |
今の株価時価総額 1,481 円1,023 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI とロボットが重なり、利益率 15% が定着する 利益 175 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 3,829 円2,644 億円
AI 向けの半導体装置投資が 10 年にわたり拡大し、人型ロボットと手術支援ロボットが量産に入る。半導体向けは数量が 2 倍近くに、ロボット・医療向けも 2 倍近くに育つ。日本トムソンはクリーンルーム向けの小ロット品と、位置決めテーブルなどの装置の形の製品で値段を保ち、営業利益率は 15% 台で定着する。工作機械向けは横ばいだが、全体の利益を押し下げない。政策保有株の売却や増配で資本効率も上がり、ROE は 12% 台に届く。会社が掲げる 2030 年度の目標を、少し遅れて達成する姿だ。この場合、売上は 1,400 億円に届き、会社は国内の中堅から世界で通用する部品メーカーに変わる。
- 半導体・電子向け:数量 2.4(半導体・電子関連の精密運動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 207(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 496 億円・営業利益 94 億円。営業利益率19.0%
- 工作機械・一般産業機械・自動車向け:数量 2.0(工作機械・産業機械・自動車向けの軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 201(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 405 億円・営業利益 41 億円。営業利益率10.0%
- ロボット・医療・その他向け:数量 2.4(ロボット・医療・その他向けの精密軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 207(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 496 億円・営業利益 84 億円。営業利益率17.0%
倍率:事業の純利益 175 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.11 倍、時価総額 2,644 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体と人型ロボットの両方が 10 年伸び続け、かつ価格競争を避けられる必要がある。会社目標の利益率 15% に届く筋書きで、過去に達成した年は少ないため 1 割にとどめた。
やや楽観 22% 半導体とロボットが伸び、利益率は 13% 前後 利益 124 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 2,415 円1,668 億円
半導体向けとロボット・医療向けが 10 年で 1.6 倍に伸びる。値上げは物価並みを少し上回るが、台湾勢の攻勢で標準品の値段は重い。営業利益率は 13% 台で、2023 年 3 月期の高さをやや下回る。メカトロ製品の比率が上がり、利益率の谷は浅くなる。工作機械向けは数量が 1 割ほど増えるにとどまる。配当性向 50% 強の還元が続き、ROE は 9% 台になる。資本コストをわずかに上回る水準で、利益は伸びるが、資本の稼ぎは並みの優良企業にとどまる。売上は 1,200 億円ほどで、会社の目標の売上は超えるが、利益の目標には届かない。
- 半導体・電子向け:数量 2.0(半導体・電子関連の精密運動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 204(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 411 億円・営業利益 68 億円。営業利益率16.5%
- 工作機械・一般産業機械・自動車向け:数量 1.9(工作機械・産業機械・自動車向けの軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 201(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 378 億円・営業利益 32 億円。営業利益率8.5%
- ロボット・医療・その他向け:数量 2.0(ロボット・医療・その他向けの精密軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 204(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 412 億円・営業利益 60 億円。営業利益率14.5%
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.45 倍、時価総額 1,668 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の拡大は続くが、強気ほど値段を保てないという現実的な筋書き。2027 年 3 月期の利益水準が 10 年後にも近い形で、実現性は比較的高いと見る。
中立 34% 半導体は伸びるが、山は一度崩れる 利益 87 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,575 円1,088 億円
AI 向けの投資は一度大きく調整するが、10 年では半導体向けの数量は 1.35 倍に伸びる。ロボット・医療向けも同じ程度で、工作機械向けは 5% 増にとどまる。価格は物価並みで、営業利益率は 11% 前後。2027 年 3 月期の 14% からは下がる。山の年の利益を、普通の年の利益とは見ない。配当性向 50% の還元が続き、自己資本は 1,200 億円台に増える。ROE は 7% 前後で、資本コストには届かない。この水準が、10 年後の普通の姿だ。売上は 1,000 億円強で、会社の目標の売上には届くが、営業利益 150 億円には届かない。
- 半導体・電子向け:数量 1.7(半導体・電子関連の精密運動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 201(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 342 億円・営業利益 48 億円。営業利益率14.0%
- 工作機械・一般産業機械・自動車向け:数量 1.8(工作機械・産業機械・自動車向けの軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 201(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 355 億円・営業利益 25 億円。営業利益率7.0%
- ロボット・医療・その他向け:数量 1.7(ロボット・医療・その他向けの精密軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 201(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 343 億円・営業利益 41 億円。営業利益率12.0%
倍率:事業の純利益 87 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,088 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の山と谷を挟んで 10 年を平均すれば、会社の力は 11% 前後の営業利益率にとどまるとみる。強気と慎重の言い分が拮抗するが、過去の利益の振れの大きさを重く見て、わずかに慎重側に寄せた。
やや悲観 23% 値段競争が強まり、利益率は今並みに戻る 利益 41 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 445 円308 億円
半導体の投資が冷え込み、台湾勢が標準品の値段を下げる。日本トムソンの半導体向けは 1 割しか伸びず、工作機械向けは数量が 5% 減る。価格は物価に追いつけず、10 年で 3 割弱の上昇にとどまる。営業利益率は 6〜7% で、2026 年 3 月期と同じ水準に戻る。会社の目標は大幅に未達で、時価総額の目標 1,000 億円も割り込む。配当は維持するが、自己資本の増え方は鈍い。ROE は 4% を下回る。株主の取り分は配当が中心で、半導体の山の利益は一時のものに終わる。メカトロ製品を伸ばす計画も、価格競争のなかで利益に結びつかない。
- 半導体・電子向け:数量 1.4(半導体・電子関連の精密運動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 195(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 270 億円・営業利益 24 億円。営業利益率9.0%
- 工作機械・一般産業機械・自動車向け:数量 1.6(工作機械・産業機械・自動車向けの軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 192(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 306 億円・営業利益 12 億円。営業利益率4.0%
- ロボット・医療・その他向け:数量 1.4(ロボット・医療・その他向けの精密軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 195(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 271 億円・営業利益 20 億円。営業利益率7.5%
倍率:ROE 3.9% で k 8% を下回る。RONIC = 8.5% + 1/2 ×(3.9% − 8.5%)= 6.2%、g 4% で正当化 PER = 7.9 倍。需要が落ちて資本の稼ぎも薄いので、それを下回る 7.5 倍に置いた。
確率:台湾・中国勢の値下げと半導体の山の崩れが重なる筋書き。過去 10 年の半分は営業利益率 5% 台以下で、起こりうる確率として 2 割強を置いた。
悲観 11% 構造的に負け、普通の部品屋になる 利益 8 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 434 円300 億円
ハイウィンなどの台湾・中国勢が品質でも追いつき、標準品の値段は 10 年で 15% しか上がらない。半導体の装置メーカーは調達を見直し、日本トムソンの半導体向けは 1 割以上減る。自動車の電動化で、針状ころ軸受の数量も細る。営業利益率は 1% 台まで下がり、工場の稼働率が落ちて、減損も出る。利益は受取配当を除くとほぼ消える。自己資本は厚いので存続の危機はないが、稼ぐ力は失われ、価値は売れる資産の水準まで下がる。ここでは売上が 600 億円台に戻り、2026 年 3 月期より小さい会社になる。経営は固定費の削減と拠点の統合に追われ、新しい投資に回せるお金も限られる。
- 半導体・電子向け:数量 1.1(半導体・電子関連の精密運動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 173(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 185 億円・営業利益 4 億円。営業利益率2.0%
- 工作機械・一般産業機械・自動車向け:数量 1.3(工作機械・産業機械・自動車向けの軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 173(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 232 億円・営業利益 −2 億円。営業利益率-1.0%
- ロボット・医療・その他向け:数量 1.1(ロボット・医療・その他向けの精密軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質))× 価格 173(当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 196 億円・営業利益 6 億円。営業利益率3.0%
倍率:稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金と売れる資産の税後を床とした。今の自己資本 831 億円に 0.361 を掛けた 300 億円は、下の資産の内訳による。
確率:台湾・中国勢に標準品を奪われ、半導体向けも顧客の内製や調達の見直しで失う筋書き。財務は堅く、傾く心配は小さいので 1 割程度にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体・電子向け
半導体製造装置・電子部品向けの直動案内機器・位置決めテーブルなど。クリーンルーム向けが多い。
| 数量半導体・電子関連の精密運動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質) | 価格当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.3 | 150 | 189 | 13 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 201 | 342 | 48 |
取り方:会社は需要先別の売上を出していない。売上のうち 3 割(189 億円)を半導体・電子向けと推定。世界市場 約 8 億ドル(実質)に当社シェア 約 15% として 1.26 億ドル相当。シェアは推定。
工作機械・一般産業機械・自動車向け
工作機械・一般産業機械・自動車向けの針状ころ軸受と直動案内機器。
| 数量工作機械・産業機械・自動車向けの軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質) | 価格当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 150 | 252 | 11 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 201 | 355 | 25 |
取り方:売上のうち 4 割(252 億円)を推定。世界市場 約 50 億ドル(実質)に当社シェア 約 3.4% として 1.68 億ドル相当。工作機械向けは利益率が低い(4.2%)。
ロボット・医療・その他向け
ロボット・医療機器・その他向けのクロスローラ軸受と直動部品、メカトロ製品。
| 数量ロボット・医療・その他向けの精密軸受・直動部品の世界市場(億ドル)× 当社のシェア(実質) | 価格当社の実質 1 ドル相当あたりの円売上(150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.3 | 150 | 189 | 17 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 201 | 343 | 41 |
取り方:売上の残り 3 割(189 億円)。世界市場 約 35 億ドル(実質)に当社シェア 約 3.6% として 1.26 億ドル相当。付加価値が高く利益率は 9.1% と推定。
リスクと懸念
半導体の投資が一巡する
2027 年 3 月期の急回復は半導体向けが主役だ。AI 向け投資が一巡すれば、装置の発注が止まり、案内部品の需要は真っ先に落ちる。2023 年から 2025 年にかけて営業利益が 6 分の 1 に落ちた前例がある。
中国・台湾勢の値下げ
直動ではハイウィンなど台湾勢が安い価格で伸びる。中国の工作機械向けは需要が弱いうえ、現地メーカーの内製化も進む。標準品の値段が下がれば、利益率が元の 5% 前後に戻る。
自動車の電動化
針状ころ軸受は自動車の変速機やエンジンにも使われる。電動化が進めば、内燃機関向けの数量が減る。電動車向けの新しい用途で補えるかは、まだ見えない。
資本効率の低さ
自己資本利益率の中央値は 3% で、資本コストに届かない年が続いた。棚卸資産 352 億円と上場株式の政策保有 18 銘柄が、資本を寝かせている。還元が配当止まりなら、利益が増えても株主の取り分は増えにくい。
目標の高さと実行
2030 年度に営業利益 150 億円という目標は、過去最高の 95 億円を大きく上回る。海外売上比率を 60% に高める計画も、販売網の整備が要る。達成できなければ、期待が剥がれる。
為替の影響
海外売上が約 55% あり、円高に振れれば円換算の利益が目減りする。前提では 150 円で動かさないが、実際の損益は為替で大きく動く。ドル建ての値決めが難しい品もある。
今後の分かれ目
- 半導体向けの受注が 2 四半期続けて前年を下回ったら
- 山の利益だったと判断し、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 営業利益率が 12% を超える水準を 3 年続けられたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。値決めの力が改善したと読める。
- 政策保有株の売却と自社株買いが発表されたら
- 資本効率が改善に向かうので、中立の倍率を上げる余地が出る。
- 人型ロボット向けのクロスローラ軸受の大型受注が出たら
- ロボット・医療向けの数量を上方に見直す。
- ハイウィンなどが日本国内でも価格を下げ始めたら
- 値決めの力が崩れる筋書きの確率を上げる。
見ておくもの
- 半導体・電子向けの受注と四半期の営業利益率
- 政策保有株の売却と自社株買いの動き
- クロスローラ軸受・メカトロ製品の売上の伸び
- 台湾・中国勢の価格と国内のシェア
倍率と資本コストの決め方
需要先別に、市場の大きさ×シェアで数量を置き、物価並みの価格を掛けて売上を積み上げた。利益率は 2027 年 3 月期の予想(14%)を中立に使わず、過去の中央値と構造から 11% 前後に置いた。倍率は式(正当化 PER)の約 85% で、今の株価・PER・PBR は見ていない。純有利子負債が時価総額の 5% で、余った現金は分けていない。リース負債は 16 億円と小さく、新リース会計基準の影響は軽い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→15.11 倍・やや楽観 PER 11.8→13.45 倍・中立 PER 9.2→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。個別の懸念は筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。