結論
冨士ダイスは、超硬合金の耐摩耗工具と金型を作る国内首位級のメーカーである。国内シェアは3割を超え、約3,000社に直接売る。自己資本比率は約80%で、実質無借金だ。
筆者の結論は、今の値段は割高、というものだ。強みは技術と財務の堅さにある。弱みは、稼ぐ力が資本コストに届かないことだ。2026年3月期の営業利益は8億円、自己資本利益率(ROE)は2.8%にとどまる。中期計画が掲げた2027年3月期の営業利益20億円は遠い。
今、会社を動かしているのは主原料のタングステンだ。中国の輸出規制で価格は規制前の約10倍になり、2027年3月期の売上は価格転嫁で4割増の244億円を見込む。だが売上が増えても利益は増えない。営業利益の予想は8億円で、上期は安く仕入れた在庫のおかげで好調でも、下期は在庫が尽きて落ちる。
10年後の中立は、営業利益14億円、純利益10億円ほど。それでもROEは5%台で、資本コスト7.25%に届かない。現預金は67億円あるが、価格転嫁でふくらむ運転資金にも回る。事業の価値と余る現金を足しても、時価総額の約200億円を支えにくい。高い配当と自社株買いで応えている点は評価するが、価値の差は埋まらない。
見るべきは三つだ。タングステンの価格が戻るのか。転嫁で膨らむ売上が、利益に変わるのか。蓄えた現金を、会社は成長のために使うのか、配当で戻し続けるのか。いずれも、売上の大きさでは測れない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、冨士ダイスは、堅い会社だが良い投資先とは言いにくい。問いは三つある。10年後も事業は残り強いか。稼いだお金のうち、株主が自由に使えるのはいくらか。経営者は資本を賢く使うか。
事業は残る。金型や工具は、摩耗する限り買い替えが続く。ただ、原料のタングステンを中国に握られ、価格の受け手になっている。強くなるとは言い切れない。
稼ぐ力は弱い。10年後の中立でも純利益は10億円ほどで、自己資本は200億円に届く。ROEは5%台で、利益の多くは工場の更新と運転資金に吸われる。売上が価格転嫁で3割ふくらめば、在庫と売掛金も同じだけ膨らみ、現金を食う。減価償却は取得時の値段のまま年7億円前後と推定するが、更新投資は物価で高くなり、会計の利益ほど現金は残らない。
資本配分は、評価と不安が半々だ。配当と自社株買いで利益を上回って還元し、PBR1倍を意識している。その一方、本業の稼ぐ力を超えて蓄えを取り崩しており、続けられる水準ではない。
安全域を測る。時価総額の3分の1が現預金だ。倒れにくい。しかし、残りの事業に払う値段は、稼ぐ力に対して高い。安全域は見えない。
何で稼ぐ会社か
冨士ダイスは1949年に創業した、超硬合金を使った耐摩耗工具と金型の専業メーカーだ。超硬合金はダイヤモンドに次ぐ硬さの金属で、自動車部品を打ち抜く金型、缶を作る工具、鉄を圧延するロールなど、すり減りやすい場所に使われる。原料粉末の調合から焼結、精密加工、検査までを一貫して手がけ、顧客ごとの注文に合わせて直接売る。
売上は4つに分かれる(2026年3月期)。超硬製の金型類が47億円、工具類が43億円。その他の超硬製品、つまり他社の工具メーカーに売る素材やチップが49億円。超硬以外の鋼製品、セラミック、混練工具が35億円だ。
顧客は約3,000社で、自動車、鉄鋼、電子部品、製缶、半導体装置と広く散らばる。単体の売上では、金型・工具向け素材が34億円、輸送用機械が28億円、鉄鋼が24億円と続く。海外の売上比率は22.7%で、中国の東莞拠点が光学機器と半導体素材を伸ばしている。インドの営業も2026年に再開した。
営業の体制は、国内の営業拠点と、東莞・タイ・マレーシア・インドネシアの海外拠点からなる。連結の従業員は約1,100人で、工場は熊本、郡山、秦野、岡山などにある。技術は、粉末冶金(金属の粉を固める製法)と超精密加工の二つが柱だ。
成長の仕込みは三つある。タングステンとコバルトを9割減らした新合金「サステロイSTN30」、使い終えた工具を回収するリサイクル、水を電気分解する装置の電極(2028年3月期の製品化が目標)だ。
優良さと弱いところ
優良さは、技術のニッチと財務の堅さにある。ただし、それが利益には変わっていない。
強みは三つある。第一に、国内の超硬耐摩耗工具で3割超のシェアを長年守っていること。第二に、粉末の調合から精密加工まで一貫で、多品種少量の注文に応じる直販の仕組み。素材の販売が中心の競合と差が出る。第三に、創業以来の黒字と、自己資本比率80%の財務だ。
弱みも三つある。第一に、原料を世界の相場で買う価格の受け手であること。タングステンの高騰は、売値への転嫁が遅れれば利益を削る。第二に、利益率の薄さだ。営業利益率は過去12年で0.7%〜8.1%、直近は3〜5%で、2015年3月期の営業利益11億円より今の8億円のほうが小さい。第三に、顧客が自動車、鉄鋼、半導体と景気に左右される業種に偏ることだ。
資本効率は資本コストを大きく下回る。過去10年のROEの中央値は3.8%。会社自身も株主資本コストを4.5〜5%と見ており、ROEがそれに届かないことを課題に挙げている。
筆者は、技術のニッチは本物だが、その価値は小さな利益率と引き換えに守られていると見る。経営は2026年6月に新体制へ移った。新社長が海外事業を兼ねる点は、海外を最優先にする意思の表れだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この業界は今、タングステンの供給ショックの真っただ中にある。主原料の中間材APT(パラタングステン酸アンモニウム)は、規制前の10キロあたり300ドル台から、2026年に3,000ドル前後へ約10倍になった。中国が2025年から輸出管理を強め、2026年には日本向けがほぼ止まったためだ。冨士ダイスも、中国からの輸入は2026年にゼロになり、国内の供給は前年の7〜8割に減ったと説明している。
工具各社は一斉に値上げした。OSGはドリルなどを最大75%、三菱マテリアルはタングステン製品を最大3倍超、住友電工は60%超引き上げた。売上は膨らむが、顧客は使用量を絞り、数量は減る。
価格が戻るかは読みにくい。韓国のサンドン鉱山が再稼働し、2030年までに中国以外で11の案件が計画されている。だが米国の防衛調達が2027年から中国産を排除するなど、中国以外の需要も増える。筆者は、規制前の水準に戻る可能性は低いと見る。
需要側では、電気自動車で電池とモーターコアの金型は増える一方、エンジン部品の金型は減る。製缶、半導体装置、光学部品は底堅い。競争は、国内の大手工具メーカーと中国の超硬メーカーが相手だ。中国は安い素材を売り込み、現地でデフレが進んでいる。
超硬合金の最終需要は、切削工具が大きく、冨士ダイスが主戦場とする耐摩耗工具は小さな市場だ。国内の市場規模の公的な統計は見つからず、推定の域を出ない。会社は国内で3割超のシェアを自称している。
10年の見立ては、数量は国内で横ばいから微減、海外で小さな上積み。価格は物価に加え、原料の値上がり分が乗る。
資本政策と M&A
配当は、純資産の4%(DOE)を目安にしている。2026年3月期の配当は純利益の約1.4倍に当たり、実質的に蓄えた現金を取り崩して株主に戻している。2025年には3億円の自社株買い枠を設け、約35万株を取得した。その結果、期末の株価純資産倍率は1倍に届いた。
会社は株主資本コストを4.5〜5%と見る。筆者は8%で測るため、会社の見方より厳しい。
投資は控えめだ。設備投資は2026年3月期で8億円。自動化に1.6億円を使い、熊本に新しい冶金棟を建てた。中国では地政学を見て過度な設備投資を避ける方針だ。
M&Aと提携は新規事業の手段として視野に入れており、2026年5月にはダイジェット工業と合金の業務提携の検討を始めた。品質の確認に時間がかかっている。
経営体制は2026年6月の株主総会後に新しくなった。津田雅宣氏が社長兼海外事業本部長に就き、春田善和氏が会長に退く予定で、監査等委員会設置会社の形をとる。資本効率の改善を、会社として最重要課題に挙げている。
株主は個人が6割を占め、外国人は1割強。支配株主はいない。再編やTOB(株式公開買い付け)の可能性は残るが、価値には織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
冨士ダイスは、タングステンの危機を追い風にできる会社だ。国内で3割超のシェアを持ち、他社が原料を確保できない中でも、スクラップ回収とリサイクルで調達を支える。価格改定を繰り返し、2026年3月期の営業利益は予想を上回った。2027年3月期の第1四半期は営業利益が6億円と、前年の3.5倍になった。
価格が上がるほど、レアメタルを9割減らした独自合金「サステロイSTN30」の価値は高まる。顧客は高い超硬から乗り換えたくなるが、代わりを作れる会社は少ない。リサイクル、水電解の電極、光通信用の金型と、新しい用途も控える。
財務は盤石だ。現預金は67億円で、借金はほぼない。配当は純利益を大きく上回り、自社株買いでPBRを1倍に乗せた。新社長は海外を兼務し、中国・インド・東南アジアで売上を広げる。中期計画の営業利益20億円は、数量が戻れば現実味を帯びる。
時価総額の3分の1が現預金で、事業の値段は小さい。外から見れば、安全な土台の上に成長の選択肢を持つ会社だ。
2026年3月期にはROEが改善し、営業利益は68%増えた。海外比率は3.2ポイント上がって22.7%になった。方向は合っており、数字が追いつくだけだと強気の見方は考える。
慎重な見方
利益が伸びない会社に、原料高の追い風は吹かない。売上は2027年3月期に4割増えても、営業利益の予想は8億円で今とほぼ同じだ。転嫁した原料費は利益にならず、むしろ運転資金を食う。上期の好調は安く仕入れた在庫の売却益で、下期は在庫が尽きて落ちる。
長い目で見ても、利益は伸びてこなかった。2015年3月期の営業利益は11億円で、今は8億円。売上は11年で7%しか増えていない。中期計画は営業利益20億円を掲げたが、足元の見通しは8億円で、半分にも届かない。
高い値上げは顧客を遠ざける。使用量を減らされ、中国製の安い品や鋼の代替品に流れ、数量は戻りにくい。電気自動車への移行でエンジン部品の金型も減る。中国の拠点はデフレで価格競争が激しい。
ROEは2.8%で、会社自身が認める資本コスト4.5〜5%に届かない。配当は純利益の1.4倍だが、これは蓄えの取り崩しで、続かない。時価総額の3分の2は事業の価値だが、その稼ぎで説明がつかない。
さらに、2027年3月期の第1四半期の高い利益は、安い在庫の販売益という一時の要因だ。会社も下期は在庫が尽きて減益になると説明している。好調な上期の数字を土台にすると、利益の見立てを誤る。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、現金の厚みと独自合金の可能性について正しい。だが、その価値が利益に表れた実績はなく、売上の増加が利益に結びつかない現実のほうが重い。事業の質では勝ち、利益の実績では負ける、という整理になる。確率は、中立を最大の4割弱に置き、やや悲観を25%と、やや楽観の19%より厚くした。10年の中立でもROEは5%台で資本コストに届かず、蓄えた現金の大半は運転資金に回る。還元を足して割り引いた価値は今の値段を大きく下回り、総合で割高と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 709 円139 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 377 円74 億円)。 今の値に割り戻すと 618 円121 億円、今との差 −40.9%、 期待の年率 +0.4%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,180 円231 億円 | 510 円100 億円 | +61.6% | +4.9% | 135 円27 億円 |
| やや楽観 | 19% | 961 円189 億円 | 459 円90 億円 | +35.8% | +3.1% | 270 円53 億円 |
| 中立 | 38% | 828 円162 億円 | 408 円80 億円 | +18.1% | +1.7% | 470 円92 億円 |
| やや悲観 | 25% | 349 円69 億円 | 306 円60 億円 | −37.3% | −4.6% | 164 円32 億円 |
| 悲観 | 10% | 302 円59 億円 | 179 円35 億円 | −54.0% | −7.5% | 48 円9 億円 |
| 加重平均 | 100% | 709 円139 億円 | 377 円74 億円 | +3.9% | +0.4% | 1,087 円213 億円 |
今の株価時価総額 1,046 円205 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% タングステン高止まりの中で、独自合金とリサイクルが効く 利益 15 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 1,180 円231 億円
中国の輸出規制は続き、タングステンの価格は規制前の5倍ほどで高止まりする。中国以外の鉱山は増えるが、防衛と半導体の需要に吸われる。冨士ダイスはスクラップ回収を全国に広げて原料の調達で他社に先んじ、価格改定も早く通す。
独自合金「サステロイSTN30」など、レアメタルを減らした製品が回転工具や混練工具で採用され、割高な超硬から乗り換える顧客を取り込む。海外は中国・インド・東南アジアで伸び、売上比率は3割を超える。次世代自動車向けの電池・モーターコア金型も拡大する。
中国以外で新しく稼働する鉱山が防衛向けに優先され、日本向けの供給はひっ迫が続くため、調達に強い会社は値決めの力が増す。冨士ダイスは、素材を外販する競合に対しても優位に立つ。
営業利益は20億円ほどと、中期計画の目標にようやく届く。配当は純資産の4%を保ち、自社株買いも続ける。それでもROEは7%台で、資本コストをわずかに下回る。
- 超硬製の金型・工具類:数量 128(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 14(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 181 億円・営業利益 10 億円。高付加価値と海外で数量増
- 超硬素材・チップ等(その他の超硬製品):数量 150(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 9.81(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 147 億円・営業利益 7 億円。素材も数量増・価格高止まり
- 超硬以外の製品:数量 330(出荷重量(トン、推定))× 価格 1.61(1キロあたりの売上単価(万円、名目))→ 売上 53 億円・営業利益 3 億円。横ばいで利益率改善
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 14.36 倍、時価総額 231 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:供給不足が続いても、価格転嫁・数量の維持・海外の拡大・独自合金の採用がそろう必要がある。会社の中期計画の目標(営業利益20億円)に10年かけて届く姿で、これまで外れてきた経緯から低めに置いた。
やや楽観 19% 価格転嫁が通り、数量も戻って利益率が改善する 利益 13 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 961 円189 億円
タングステンは規制前の4倍ほどで落ち着く。業界全体で値上げが進んだため、顧客は価格を受け入れ、数量は2026年の落ち込みから戻る。熊本の新しい冶金棟と自動化投資が効き、原価の改善が進む。
次世代自動車向けの金型(電池・モーターコア)、製缶工具、半導体装置向けの部品が伸び、海外比率も上がる。素材の外販は、中国以外の需要を取り込んで安定する。
サステロイSTN30のようなレアメタルを減らした合金は、回転工具や混練工具の一部で採用が始まるが、売上を左右するほどの規模にはならない。リサイクル原料の使用比率は1割に届き、原料の調達で小さな優位を保つ。
営業利益は16億円ほどに増え、配当は純資産の4%を保つ。ROEは6%台にとどまる。資本コストには届かず、経営の重い課題として残る。
- 超硬製の金型・工具類:数量 124(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 13(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 162 億円・営業利益 8 億円。次世代自動車向けが伸びる
- 超硬素材・チップ等(その他の超硬製品):数量 142(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 8.41(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 120 億円・営業利益 5 億円。素材の数量が戻る
- 超硬以外の製品:数量 320(出荷重量(トン、推定))× 価格 1.61(1キロあたりの売上単価(万円、名目))→ 売上 52 億円・営業利益 3 億円。小幅増
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 13.79 倍、時価総額 188 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:タングステンの高騰は続くが、値上げに慣れた顧客が数量を戻す姿。生産性の改善と海外の上積みで届く水準で、2割弱を置いた。
中立 38% 売上は価格転嫁でふくらむが、利益率は4%台で足踏み 利益 11 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 828 円162 億円
タングステンは規制前の3.5倍ほどで落ち着く。中国以外の鉱山が増えても、防衛と半導体の需要が吸い、元の水準には戻らない。冨士ダイスは価格改定を繰り返して原料高を売値に移すが、顧客が使用量を減らし、数量は今より1〜2割落ちる。
売上は3割に近い増加になる。ただし原料費の転嫁分は利益率が低く、営業利益率は4%台にとどまる。営業利益は14億円ほど、純利益は10億円ほどだ。
サステロイSTN30やリサイクル、水電解の電極は小さな収益源にとどまり、全体の姿を変えない。海外は売上比率が25%台に乗るが、中国のデフレとインドの立ち上がりで、利益への寄与は小さい。
配当は純資産の4%を保ち、利益とほぼ同額を還元する。現金は価格転嫁で膨らんだ在庫と売掛金に回り、積み増しはできない。ROEは5%台で、資本コストに届かない。
- 超硬製の金型・工具類:数量 118(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 12(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 147 億円・営業利益 7 億円。数量は微減・値上げで売上増
- 超硬素材・チップ等(その他の超硬製品):数量 133(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 7.71(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 103 億円・営業利益 4 億円。数量微減・価格転嫁
- 超硬以外の製品:数量 310(出荷重量(トン、推定))× 価格 1.61(1キロあたりの売上単価(万円、名目))→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。小幅増
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.5% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 13.79 倍、時価総額 162 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:タングステンの高騰は一部だけ戻り、価格転嫁は進むが数量が減る。過去12年の営業利益率の中央値(6%台)よりやや低い4%台に置いた。直近4年の平均(約4.5%)に近く、最大の確率とした。
やや悲観 25% 値上げで数量が逃げ、海外勢との価格競争も重なる 利益 7 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 349 円69 億円
タングステンは規制前の2.5倍ほどで、価格転嫁は通るが数量の減少がそれを上回る。自動車の部品メーカーは国内の生産を減らし、金型の更新が先送りされる。
中国の工具メーカーが安い超硬素材を売り、素材の外販でも値下げ圧力が強まる。冨士ダイスは東莞の拠点で対抗するが、現地のデフレで利益は出にくい。
新しい用途(水電解の電極、光通信用の金型)は実験段階を抜けられず、売上に寄与しない。海外比率は25%に届くが、利益率の低い素材の外販が中心で、全体の利益率は上がらない。
営業利益は8億円と、今とほぼ同じ名目額にとどまる(物価で見ると目減りする)。純利益は6.5億円。配当は純資産の4%を割り、手元の余力は運転資金に消える。
- 超硬製の金型・工具類:数量 108(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 11(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 123 億円・営業利益 4 億円。数量減・価格競争
- 超硬素材・チップ等(その他の超硬製品):数量 118(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 6.31(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 75 億円・営業利益 3 億円。値上げで数量が逃げる
- 超硬以外の製品:数量 285(出荷重量(トン、推定))× 価格 1.61(1キロあたりの売上単価(万円、名目))→ 売上 46 億円・営業利益 1 億円。横ばい
倍率:ROE3.3%が資本コスト7.25%を大きく下回る。PERの上限は1÷k=12.5倍で、その約7割(8.5倍)に置いた。余った現金は今の額の0.75倍(15億円)を足した。
確率:国内の製造業は縮み、中国勢の安価な超硬品に押される。タングステンの高騰で顧客が使用量を絞る動きも続く。過去12年で営業利益が伸びていない実績もあり、4分の1を置いた。
悲観 10% 規制緩和でタングステンが急落し、構造的に競争に負ける 利益 2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 302 円59 億円
中国が輸出を緩め、タングステンの価格が急落する。高値で積んだ在庫に評価損が出て、価格転嫁の売上も剥がれる。顧客は自社で超硬を使わない鋼の工具や、安価な中国製に切り替える。
電気自動車の普及でエンジン部品の金型は減り、電池・モーター向けの新しい需要も中国の現地調達に取られる。独自合金の採用は広がらず、海外の拠点は赤字が続く。
経営は構造改革を迫られ、複数の工場を統合し、東莞やインドの拠点を縮小する。リストラ費用と評価損で、2〜3年は赤字の期が出る。
営業利益はほぼゼロになり、配当は大きく減らす。在庫の評価損と設備の減損で自己資本も目減りする。それでも財務は崩れず、現預金が会社を支える。
- 超硬製の金型・工具類:数量 90.0(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 10(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 93 億円・営業利益 1 億円。シェア低下・数量大幅減
- 超硬素材・チップ等(その他の超硬製品):数量 95.0(出荷した超硬の重量(トン、推定))× 価格 5.05(1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 48 億円・営業利益 1 億円。素材は市況悪化と競争
- 超硬以外の製品:数量 250(出荷重量(トン、推定))× 価格 1.61(1キロあたりの売上単価(万円、名目))→ 売上 40 億円・営業利益 0 億円。縮小
倍率:稼ぐ力はほぼ消え、現預金と売れる資産の税後が支える床で値が付く。今の自己資本204億円に0.29倍を掛けた約59億円。少数株主は現金の使い方を決められず、純現金を下回る。内訳は床の資産の欄に書いた。
確率:価格の乱高下で在庫評価損が出て、中国の低価格品にシェアを奪われ、自動車向けの金型も細る複合の筋書き。頻度は低いが、単一素材に依存する専業なので無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
超硬製の金型・工具類
自動車部品の打ち抜き金型、製缶工具、熱間圧延ロール、線材・パイプ用ダイスなど、顧客の注文で作る超硬の耐摩耗製品。
| 数量出荷した超硬の重量(トン、推定) | 価格1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 7.50 | 90 | 4 |
| 10 年後 中立 | 118 | 12 | 147 | 7 |
取り方:製品別売上の金型類46.7億円と工具類43.4億円の合計約90億円。数量は、受注加工の超硬製品の重量を年120トンと推定した(開示は無く、推定)。価格は売上÷数量で1キロ7.5万円(高精度の加工品なので素材の数倍)。営業利益は単一セグメントの全社8.2億円を、製品の性格に応じて配分した推定(3.8億円)。10年後の価格=(1−原料費の割合15%)×物価1.34倍+15%×タングステン価格の倍率。数量は国内の成熟需要なので10年でほぼ横ばい。
超硬素材・チップ等(その他の超硬製品)
他社の工具・金型メーカーに売る超硬の素材、チップ、再生品など。海外向けが好調で、タングステンの価格転嫁が最も直接に効く。
| 数量出荷した超硬の重量(トン、推定) | 価格1キロあたりの売上単価(万円、名目。原料費の転嫁を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 140 | 3.50 | 49 | 3 |
| 10 年後 中立 | 133 | 7.71 | 103 | 4 |
取り方:製品別売上のその他の超硬製品48.97億円。数量を年140トンと推定し、1キロ3.5万円(超硬粉末と焼結品の加工費を含む)とした(開示は無く、推定)。営業利益は全社8.2億円からの配分で2.8億円。原料費の割合は40%と見て、10年後の価格=0.6×1.34+0.4×タングステン価格の倍率。中立の倍率は3.5倍(規制前の約340ドルに対し約1,200ドル)。
超硬以外の製品
引抜鋼管、混練工具、セラミック、鋼製品など、超硬以外の素材を使う製品。半導体の封止材向けの混練工具を含む。
| 数量出荷重量(トン、推定) | 価格1キロあたりの売上単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 295 | 1.20 | 35 | 2 |
| 10 年後 中立 | 310 | 1.61 | 50 | 2 |
取り方:製品別売上の超硬以外35.40億円。数量を年295トン、価格を1キロ1.2万円と推定した(開示は無く、推定)。営業利益は配分で1.6億円。価格はタングステンの影響が小さく、物価並みの1.34倍。数量は半導体封止材向けの低調を見て、中立で10年1.05倍。
リスクと懸念
タングステンの価格と調達
主原料のAPTは規制前の約10倍で、中国からの輸入は2026年にゼロになった。転嫁が遅れれば利益が削られ、価格が急落すれば高値の在庫に評価損が出る。調達難は生産量そのものの制約にもなる。
数量の減少と顧客の離反
価格改定のたびに顧客は使用量を絞り、受注を見合わせる。2027年3月期の売上予想は下方修正され、会社も数量の想定以上の減少を認めた。中国の安価な超硬品や鋼の代替品に流れる恐れもある。
中期計画の未達と利益の伸び悩み
中期計画は2027年3月期に営業利益20億円を掲げたが、見通しは8億円。営業利益は2015年3月期の11億円を下回る。売上が増えても利益が増えない構造が続けば、計画への信頼が揺らぐ。
自動車・鉄鋼・半導体への集中
売上の大半は自動車、鉄鋼、半導体装置、電子部品向け。電気自動車への移行でエンジン部品の金型は減り、半導体装置向けは2027年3月期に低調の見込み。景気の悪化は数量と利益率を同時に落とす。
海外展開の採算
中国では現地のデフレで価格競争が激しく、会社も過度な設備投資を避けている。インド、北米は立ち上がりの途上で、売上比率25%の目標に向けて固定費が先行する可能性がある。
高い還元の持続性
配当は純利益の約1.4倍で、自社株買いも続く。蓄えた現預金の取り崩しで成り立っており、運転資金の増加が重なれば続けられない。還元を減らせば、PBR1倍を支える材料が失われる。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の下期に営業利益が上期の勢いを維持できたら
- 在庫の評価益だけでなく、価格転嫁が定着したとして、やや楽観の確率を厚くする。
- APTの価格が規制前の2倍以下に戻ったら
- 高値の在庫に評価損が出て売上も剥がれるため、悲観の確率を上げる。
- 「サステロイSTN30」が大手顧客に採用されたら
- 原料高を逆手に取れたとして、楽観の筋書きを引き上げる。
- 配当または自社株買いの規模を縮小したら
- 蓄えの取り崩しが限界に来たと見て、現金の戻り方と中立の還元を見直す。
- 海外売上比率が25%を超え、海外の営業利益率が国内を上回ったら
- 海外の採算が確認できたとして、数量の筋書きを上げる。
- ダイジェット工業との提携が成立し、共同の新合金が量産に入ったら
- 新製品の裾野が広がるため、やや楽観の確率を厚くする。
見ておくもの
- 営業利益率(原料費の転嫁分を除く実質)と、下期の在庫払底後の利益
- APTの価格と中国の輸出管理、中国以外の鉱山の立ち上がり
- 数量の動き(価格改定後の受注残と顧客の使用量)
- 海外売上比率(目標25%)と中国・インドの採算
- 配当と自社株買いの規模、現預金の推移
- 新中期計画の数値目標(2027年3月期末以降)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後のROEと資本コスト7.25%から、利益ベースで置いた。中立のROEは5%台で資本コストを下回るため、PERの上限は1÷k=12.5倍(ためた利益は額面未満の価値)で、その約8割に置いた。今の株価や自己資本に対する倍率には寄せていない。タングステンは、規制前の価格を1として、10年後の倍率を中立3.5・楽観5・悲観1.6とした。価格=(1−原料費の割合)×物価1.34+割合×この倍率。原料費の転嫁分は利益率を低く(1〜2.5%)置き、売上のふくらみを利益に変えない。営業利益率は過去12年の山(8.1%)以下で、中立は直近4年の平均に近い4%台。減価償却は取得時の値段のまま年7億円前後(開示は無く推定)で置き、償却以外の費用を物価で増やした。更新投資は物価で高くなるため、会計の利益ほど現金は残らない。新リース会計基準の影響は、借入がほぼなく賃借も小さいため小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→14.36 倍・やや楽観 PER 10.8→13.79 倍・中立 PER 10.2→13.79 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決めた。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。会社は株主資本コストを4.5〜5%と見るが、ここでは基本7.5%を使う。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。