結論
椿本チエインは、産業用チェーンで世界首位級の機械部品メーカーだ。自動車エンジン用のタイミングチェーン、工場の搬送装置(マテハン)、二輪車用チェーンまで手がける。2026 年 1 月には大同工業を完全子会社にし、売上は 3,000 億円から 3,500 億円規模へ跳ねる。
筆者の結論は、今の値段はやや割高ということだ。理由は、稼ぐ力が資本コストに届いていないことにある。営業利益率は 7〜8% で頭打ちが続き、自己資本利益率(ROE)は 10 年の中央値で 7.6% にとどまる。資本コストを下回る会社は、利益をためても価値が増えない。
事業の土台は悪くない。チェーンは世界で 17% を握り、自動車エンジン用では 4 割を超える(会社委託の調査レポート)。財務は純現金で、自己資本比率は 6 割台だ。倒れる心配は小さく、悲観の筋書きでも事業は残る。
足を引っ張るのはマテハンと大同だ。マテハンは売上 700 億円で利益がほぼ出ない。大同は営業利益率が 5% 台と推定され、統合で全社の利益率は上がりにくい。会社は 2031 年に営業利益率 10% を掲げるが、過去の計画は 2 度続けて届かなかった。
強気に傾けるなら、大同の改善、インド・中南米の取り込み、マテハンの黒字化が全部そろう必要がある。筆者はそこまで寄せず、中立でも今の時価総額を上回る程度と見る。バリュー投資の目では、安全域は厚くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業としては「安心して持てるが、持つだけで増える会社ではない」と見る。
チェーンは 10 年後も使われている。摩耗する部品で、需要が途切れない。この点は評価できる。ただし、ここ 10 年の ROE は資本コストをほぼ下回り続けた。これは、稼いだお金を事業に投じても、投じた分以上の価値が生まれていない、ということだ。
株主のものになる利益は、営業利益の 7 割弱に当たる純利益から、設備投資の差し引きを引いたものだ。毎年の減価償却と設備投資はほぼ釣り合っている。マテハンの運転資金が足を引っ張る。
資本の使い方は改善途上だ。自社株買いを始めたのは前向きだが、大同の統合で株が増えた事実は残る。
安全域は、利益の質と払う値段の差から生まれる。この会社は利益率が低く、売上の 3 割弱を占める事業が赤字すれすれだ。優良企業の値段を払うべきではない。ROE が資本コストを超える見通しが立つまで、割安とは言えない。
自動車の電動化は、事業の寿命に関わる。ただし、代替の成長(二輪、インド、モーションコントロール)が育つ余地もある。この不確実さは、確率に反映する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。会社の開示では、動力伝動が売上の 4 割強、モビリティが 3 分の 1、マテハンが 4 分の 1 弱だ(2026 年 3 月期)。
動力伝動は、工場の機械を動かす産業用チェーンが中心だ。コンベヤ、エスカレーター、工作機械、食品機械などに入る。ここにモーションコントロール(減速機やクラッチなど)が加わる。どの業種の設備にも使われるため、顧客は広く分かれる。営業利益率は 13% 前後で、全社でいちばん稼ぐ。
モビリティは、自動車エンジンの内部でカムを回すタイミングチェーンが主力だ。世界シェアは 4 割を超える。ガソリン車とハイブリッド車に欠かせない部品で、利益率は 10% 前後。電気自動車(EV)ではこの部品が不要になるため、いつまで内燃機関が残るかがすべてを決める。大同の二輪車用チェーンもここに入る。
マテハンは、工場や倉庫の搬送・仕分けの装置を、客ごとに設計して納める事業だ。案件ごとの受注で利益が振れやすく、北米の子会社では顧客関連の資産を全額減損した。営業利益はほぼゼロで、会社も低収益を課題にしている。
大同工業は、二輪車用チェーンを中心に、自動車部品や産業用チェーン、福祉機器まで手がける。インドや南米に工場を持つ。2026 年 1 月に株式交換で完全子会社になった。その分の売上は年 600 億円規模という。
この会社の稼ぎ方は、「消耗して置き換わる部品を、長い付き合いで売り続ける」ことに尽きる。チェーンは摩耗するので交換需要が出る。一方で単価は、素材と人件費の上昇を転嫁できるかで決まる。
優良さと弱いところ
優良さは「中の上」だ。突出した堀、つまり他社がまねできない強みがあるのは一部の事業に限られる。
いちばん強いのは、チェーンの世界シェアと生産の効率だ。産業用スチールチェーンで世界シェアは約 17%、自動車エンジン用では約 42%(会社委託の調査レポート)。京田辺工場は世界最先端の設備を持つ。独の Iwis、英国の Renold、米国の Regal Rexnord、中国勢と戦う市場で、首位を保つ規模は強みだ。
一方、チェーンは規格品に近い。設計に書き込まれて動かせない部品ではなく、価格競争にさらされる。資本コストを大きく超える利益率は出ていない。ROE は 10 年の中央値で 7.6%、資本コストを下回る年がほとんどだ。
マテハンは、受注型で案件ごとに採算が違う。ダイフクや村田機械のような専業大手に対して、規模でも標準化でも後れる。北米の子会社の失敗が、その弱さを示した。
経営は計画に甘い。2020 年度の中計は売上 2,800 億円を掲げ、実績は 1,933 億円。2025 年度の中計も数値目標に届かなかった。足元では政策保有株を売り、自社株買いにも動き始めたが、稼ぐ力そのものが上がったわけではない。
総じて、倒れにくい会社だが、資本を増やして価値を積み上げるタイプではない。筆者は、利益率の改善が数字で出るまで評価を上げない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は景気と設備投資に連動する。チェーンはどの工場にも入る部品で、単独の業界に頼らない。その代わり、製造業の投資が弱ければ全体が弱い。
いちばん大きな構造変化は自動車だ。EV の普及は想定より遅れ、ハイブリッドや内燃機関の寿命は延びた。タイミングチェーンの需要は 10 年先まで一定量は残る。ただし、新車の電動化率は上がり続けるため、長期では縮む。会社は中国市場の取り込みを最優先にしている。
二輪車はインド・東南アジア・中南米が伸びる。人口と所得が増える地域で、ここに大同の拠点がある。中大型の二輪車も伸びしろがある。ただし、二輪車用チェーンは現地勢が安く、利益率は低い。
マテハンは、EC と人手不足で長く伸びる市場だ。ただし価格競争が激しい。北米では Central Conveyor の立て直しが課題で、会社自身が撤退の判断も用意すると述べている。
産業用チェーンは、中国勢と欧州勢の間にある。世界の産業用チェーンの市場は数千億円規模で、成長は年 2〜3% の実質にとどまる。海外で売上を伸ばす余地はインドと中南米にある。
競争の形は、汎用品は価格、特殊品(小型・耐熱・クリーン用途)は技術だ。同社は後者に力を入れる。モーションコントロールの伸びが、利益率を押し上げるかが焦点になる。
資本政策と M&A
資本政策は動き始めたばかりだ。2026 年 5 月に、上限 100 億円・500 万株の自社株買いを決めた。このうち約 81 億円は期末後に実行ずみで、株数に反映ずみのため、10 年の還元には入れていない。中計 2030 では、5 年で還元 700〜900 億円、配当性向 35% 以上を掲げる。政策保有株は 5 年で 150 億円以上売る方針だ。
過去には、大同工業の統合で資金が膨らみ、還元が抑えられた。会社自身が前の中計の反省として挙げている。期末の現金は 800 億円に達した。中計では、現金は月商の約 2.2 か月分に抑える方針だ。
大同工業の買収は、持ち分を完全に取り込む株式交換だった。現金は出ていかないが、株が増えた。ROE を押し下げる要因になる。
買収される側になる可能性もある。kabufu の推計では、10 年以内に買収・TOB が起きる確率は 2 割強だ。筆者は、世界首位のチェーンという資産は、海外の同業や投資ファンドにとって魅力があると見る。ただし、いま具体的な動きは確認できない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社の計画どおりに進めば、10 年で別の会社になる。大同の統合は、二輪車用チェーンの低利益を埋め、インド・中南米の拠点という新しい成長エンジンを与える。
動力伝動では、モーションコントロールとシールチェーンが伸びる。食品・飲料の工場、物流の自動化、半導体工場など、清潔さや耐久性が求められる分野で、同社のチェーンは差別化できる。計画では営業利益率が 14% を超える。
マテハンは、プロジェクト型からアフターサービスと標準品の組み合わせに変わる。会社は、アフターサービスの比率を 2 割から 3〜4 割に上げる狙いを示している。これが進めば、利益率は 5% を超える。北米の整理も終わる。
モビリティは、ガソリン車とハイブリッド車が思ったより長く残り、タイミングチェーンの需要が支えられる。EV 向けのクラッチ(パーキングロック用)が新しい柱として立ち上がる。
資本政策は、自社株買いと増配が定着し、政策保有株は売って還元に回る。ROE は 10% を超え、資本コストを上回る。市場は、低 PBR 企業からの脱却を評価する。この筋書きでは、時価総額は今の 2 倍に近づく。
慎重な見方
会社の計画は、過去 2 回続けて外れている。3 つの課題が同時に解けるとは考えにくい。
第 1 に、大同は低収益だ。年 600 億円の売上に対し営業利益は 30 億円台と推定される。会社全体の利益率を押し下げ、統合のシナジー(相乗効果)は計画どおり出ない可能性が高い。
第 2 に、マテハンだ。10 年近く低収益が続き、北米では資産を全額減損した。専業大手との差は埋まらない。「再現可能なソリューション」は、客ごとに設計する事業と相性が悪い。
第 3 に、自動車の電動化だ。タイミングチェーンは、EV では使われない。ハイブリッド車の延命は一時の話で、2030 年代に入れば需要は減る。会社が想定する新しい柱は、まだ小さい。
加えて、中国の産業用チェーンが品質を上げ、安値で攻めてくる。価格転嫁が進まなければ、物価が上がっても利益率は伸びない。
ROE は資本コストを下回り続け、過去と同じ「ためても増えない」状態が続く。市場の評価は上がらず、今の値段から上振れする根拠は乏しい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。理由は、計画の実績と、利益率が上がる具体的な道筋の薄さだ。強気の見方が頼りにするのは大同の改善とマテハンの黒字化だが、どちらも過去に例が少ない。
ただし、財務は堅く、事業の寿命も長い。構造的に大きく負ける筋書きは、確率を 12% にとどめた。中立と、やや悲観に厚く置き、楽観は 8% にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,696 円3,732 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,394 円1,408 億円)。 今の値に割り戻すと 2,764 円2,791 億円、今との差 +4.7%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,100 円7,169 億円 | 1,900 円1,919 億円 | +240.8% | +13.0% | 720 円727 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,634 円5,688 億円 | 1,702 円1,719 億円 | +177.8% | +10.8% | 1,467 円1,481 億円 |
| 中立 | 35% | 4,206 円4,246 億円 | 1,504 円1,519 億円 | +116.2% | +8.0% | 1,998 円2,018 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,595 円1,610 億円 | 1,207 円1,219 億円 | +6.1% | +0.6% | 700 円707 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,089 円1,100 億円 | 613 円619 億円 | −35.6% | −4.3% | 204 円206 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,696 円3,732 億円 | 1,394 円1,408 億円 | +92.7% | +6.8% | 5,090 円5,139 億円 |
今の株価時価総額 2,641 円2,667 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:大同が実り、マテハンも黒字になる 利益 452 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 7,100 円7,169 億円
大同の統合が早く実り、二輪車用チェーンの利益率が上がる。インド・中南米で現地生産が伸び、動力伝動もモーションコントロールの伸びで利益率 15% に届く。マテハンはアフターサービスと標準品が主力となり、黒字が定着する。モビリティではガソリン車とハイブリッド車が長く残り、パーキングロック用クラッチも立ち上がる。自社株買いと増配が続き、ROE は 10% を超える。資本コストを上回る会社として評価され、10 年後の利益は今の 1.5 倍になる。ただし、これは会社の計画をほぼ達成する筋書きで、過去の実績からは高い壁だ。
- 動力伝動:数量 10.4(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,090 億円・営業利益 314 億円。営業利益率 15.0%
- モビリティ:数量 10.8(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 2,171 億円・営業利益 250 億円。営業利益率 11.5%
- マテハン:数量 6.0(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,206 億円・営業利益 72 億円。営業利益率 6.0%
- その他:数量 1.5(実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 302 億円・営業利益 9 億円。営業利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 452 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.86 倍、時価総額 7,169 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画の全部(大同の改善・マテハンの黒字化・EV 向けの新しい柱)がそろう必要があり、過去 2 回の中計が未達に終わっているため 8% にとどめた。
やや楽観 20% やや楽観:計画の 7 割が実現する 利益 381 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 5,634 円5,688 億円
大同の改善とインドの取り込みは進むが、計画には届かない。動力伝動は営業利益率 14% 台に乗る。モビリティは、内燃機関の需要が緩やかに減る中、二輪とクラッチで補う。マテハンは赤字を脱し、利益率は 5% 近くまで上がる。自社株買いは続き、配当性向は 35% 以上を保つ。ROE は 9% 台に上がるが、資本コストにはわずかに届かない。会社の計画の 7 割ほどが実現する、現実的な上振れである。大同の二輪車用チェーンはインドで量が伸び、利益率は 7% 台まで上がる。会社は目標の営業利益率 10% には届かないが、9% 近くまで来る。株主にとっては、利益が伸び、還元も増える良い 10 年だが、資本コストを大きく超える会社にはなれない。
- 動力伝動:数量 9.8(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,970 億円・営業利益 280 億円。営業利益率 14.2%
- モビリティ:数量 10.0(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 2,010 億円・営業利益 215 億円。営業利益率 10.7%
- マテハン:数量 5.6(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,126 億円・営業利益 54 億円。営業利益率 4.8%
- その他:数量 1.4(実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 281 億円・営業利益 8 億円。営業利益率 2.8%
倍率:事業の純利益 381 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.93 倍、時価総額 5,688 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:大同とインドの取り込みが進み、計画の 7 割ほどが実現する筋書き。財務が堅く、自社株買いも始まっているので、2 割を置いた。
中立 35% 中立:安定するが、資本コストには届かない 利益 312 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 4,206 円4,246 億円
大同の統合は数字の上で効くが、利益率を押し上げるほどではない。動力伝動は物価並みの値上げで売上が伸び、営業利益率は 13% 台を保つ。モビリティは、エンジン用の減少を二輪の増加が打ち消し、営業利益率は 9〜10% で横ばいになる。マテハンは赤字を抜け出すが、利益率は 3% 台にとどまる。全社の営業利益率は 8% 前後で、過去 10 年の上限に近い水準だ。自社株買いは続くが、配当と合わせた還元は純利益の 5 割ほどで、純現金は少しずつ減る。ROE は 8% 弱で、資本コストをわずかに下回り続ける。悪くはないが、割安でもない 10 年になる。
- 動力伝動:数量 9.2(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,849 億円・営業利益 250 億円。営業利益率 13.5%
- モビリティ:数量 9.3(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,869 億円・営業利益 178 億円。営業利益率 9.5%
- マテハン:数量 5.2(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,045 億円・営業利益 37 億円。営業利益率 3.5%
- その他:数量 1.3(実質の売上(億ドル))× 価格 201(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 251 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 2.5%
倍率:事業の純利益 312 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.61 倍、時価総額 4,246 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:二つの力(事業の安定と利益率の改善の乏しさ)の落としどころ。確率は 35% にした。
やや悲観 25% やや悲観:価格競争で利益率が 6% を割る 利益 194 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 1,595 円1,610 億円
中国勢との価格競争が強まり、チェーンの値上げが物価に追いつかない。大同は低収益のままで、統合の効果は出ない。モビリティはエンジン用の減少が早く、営業利益率は 7% に下がる。マテハンは、受注を絞っても赤字すれすれで、北米の整理が続く。全社の営業利益率は 6% を割る。会社は配当を維持するが、自社株買いは細る。ROE は 5% 台で資本コストを大きく下回り、ためた利益の価値は目減りする。事業は残るが、「普通の部品メーカー」としての評価に落ち着く。ここでは大同の統合も、マテハンの再建も、会社の言う水準には届かない。コストは物価で上がるのに、売値は上がり切らない。10 年たっても、利益の絶対額は今の会社予想とほとんど変わらない。
- 動力伝動:数量 8.6(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 195(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,677 億円・営業利益 193 億円。営業利益率 11.5%
- モビリティ:数量 8.4(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 195(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,638 億円・営業利益 115 億円。営業利益率 7.0%
- マテハン:数量 4.7(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 195(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 917 億円・営業利益 14 億円。営業利益率 1.5%
- その他:数量 1.0(実質の売上(億ドル))× 価格 195(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 195 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 1.5%
倍率:ROE 5.1% は k 7.5% を下回り、ためた利益は額面を下回る価値になる。RONIC = 8.5 + 1/2 ×(5.1 − 8.5)= 6.8%、g 4.0% の正当化 PER は 9.1 倍で、これを上限に利益の質の低さ(受注型のマテハン・低収益の大同)を見て 8.3 倍に置いた。稼ぐ力の床(純利益 ÷ k)は 2282 億円で、これを下回らない。
確率:利益率の改善が進まない実績と、中国勢の追い上げが重なる筋書きとして、中立に次ぐ 25% にした。
悲観 12% 悲観:電動化と価格競争で稼ぐ力が消える 利益 46 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,089 円1,100 億円
電動化が想定より速く進み、タイミングチェーンの需要が 2030 年代に急減する。二輪車でも現地の安い競合に押され、大同の利益は消える。マテハンは北米を中心に撤退や追加の損失が出て、赤字が続く。産業用チェーンでも、中国勢の値下げで価格が物価に追いつかない。全社の営業利益率は 2% を割り、配当は大きく削られる。それでも産業用チェーンの事業は残るため倒産は遠いが、自己資本は減損で細る。稼ぐ力はほぼ消え、価値は工場・在庫・手元の現金などの処分価値に近くなる。配当は大きく削られ、自社株買いは止まる。大同の統合は結果として重荷になり、買収の失敗として記憶される。チェーンの技術と世界の販売網は残るものの、それを活かす成長の舞台を失った会社になる。
- 動力伝動:数量 7.2(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 180(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,296 億円・営業利益 104 億円。営業利益率 8.0%
- モビリティ:数量 6.5(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 180(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,170 億円・営業利益 35 億円。営業利益率 3.0%
- マテハン:数量 3.8(関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル))× 価格 180(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 684 億円・営業利益 −14 億円。営業利益率 -2.0%
- その他:数量 0.8(実質の売上(億ドル))× 価格 180(1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 144 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 0.0%
倍率:稼ぐ力(純利益 46 億円 ÷ k =約 540 億円)は、純現金と売れる資産の税後(約 1,100 億円)を下回る。構造的に負けた会社の値打ちは処分価値に近いとみて、床を 1,100 億円に置いた。PBR はこの床を今の自己資本 2,964 億円で割った値で、ためた利益に掛けてはいない。
確率:電動化と価格競争とマテハンの失敗が同時に起こる筋書き。事業が多様で財務も堅いので、12% にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
動力伝動
産業用チェーン(コンベヤ・工作機械・食品機械用)とモーションコントロール(減速機・クラッチなど)。
| 数量関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル) | 価格1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.4 | 150 | 1,263 | 163 |
| 10 年後 中立 | 9.2 | 201 | 1,849 | 250 |
取り方:会社開示の売上 1,263 億円・営業利益 163 億円。産業用スチールチェーン(世界シェア約 17%)とモーションコントロールの関連市場を実質 84 億ドルと推定し、当社シェアを 10% とみた(売上 ÷ 150 円 = 8.42 億ドル)。数量は市場規模 × シェアで測る実質の売上、価格は 150 円に物価の倍率を掛ける。
モビリティ
自動車エンジン用タイミングチェーン、クラッチ、二輪車用チェーン(大同)。
| 数量関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル) | 価格1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.5 | 150 | 974 | 100 |
| 10 年後 中立 | 9.3 | 201 | 1,869 | 178 |
取り方:会社開示の売上 974 億円・営業利益 100 億円。エンジン用チェーン(世界シェア約 42%)に二輪車用チェーン等を加えた市場を推定し、売上 ÷ 150 円で 6.49 億ドルとした。大同は 2026 年 1 月から連結で、この年は 3 か月分しか入っていない。2027 年 3 月期からは全期間が入るため、10 年の数量には大同の通年分(売上で約 450 億円、実質 3 億ドル)の上乗せを含める。
マテハン
工場・倉庫の搬送・仕分け装置(コンベヤ、立体倉庫、物流 DX)。
| 数量関連市場(実質、億ドル)× 当社シェア = 当社の実質の売上(億ドル) | 価格1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.7 | 150 | 707 | 9 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 201 | 1,045 | 37 |
取り方:会社開示の売上 707 億円・営業利益 9 億円。専業のダイフクや村田機械に対して当社のシェアは小さく、日米印の関連市場に占める当社シェアを 1% 台と推定し、売上 ÷ 150 円で 4.71 億ドルとした。
その他
福祉機器など。大同の産業機械・福祉機器が 2027 年 3 月期から通年で加わる。
| 数量実質の売上(億ドル) | 価格1 億ドルの実質売上あたりの円(150 円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 150 | 15 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 201 | 251 | 6 |
取り方:2026 年 3 月期は連結売上 2,959 億円から 3 事業の合計 2,944 億円を引いた残りの約 15 億円。大同の産業機械・福祉機器が通年で入ると 10 年で約 250 億円規模になるとみて、数量にその分を含める。 数量の 0.1→1.25 億ドルは、連結に入る大同の産業機械・福祉機器という実物の事業の取り込みで、名目の市場の伸びではない。
リスクと懸念
電動化によるエンジン用チェーンの縮小
自動車の電動化が進むと、EV に不要なタイミングチェーンは構造的に減る。EV の普及は遅れているが、2030 年代には新車の主流になりうる。クラッチなど新しい柱の立ち上がりが遅れると、モビリティの利益が先に細る。
大同の統合の効果が出ない
大同は年 600 億円規模の売上に対し、営業利益が 30 億円台と推定される。統合の効果が出ないと、全社の利益率は上がらず、増えた株の分だけ ROE を押し下げる。会社の予想は 2027 年 3 月期に営業利益 255 億円だが、その達成に大同の改善が欠かせない。
マテハンの赤字が止まらない
売上 700 億円で利益が出ない状態が続く。北米の Central Conveyor は顧客関連の資産を全額減損した。再建の期限を切らずに資金を注ぐと、事業全体の稼ぐ力を損なう。会社は撤退の判断も準備している。
中国勢の値下げ
産業用チェーンは規格品に近く、中国メーカーが品質を上げて安値で攻めると、物価の上昇を価格に転嫁できない。ここが崩れると、動力伝動の高い利益率が下がる。
計画が達成されない
2020 年度の中計は売上 2,800 億円に対して実績 1,933 億円、2025 年度の中計も未達だった。2030 年度の売上 4,500 億円・営業利益 450 億円・ROE 10% も、前提が崩れれば遠のく。
政策保有株と特別利益への依存
2026 年 3 月期の純利益 297 億円には、特別利益が含まれる。売却益は一度きりで、稼ぐ力ではない。会社予想の 2027 年 3 月期の純利益 220 億円のほうが、利益の実力に近い。
今後の分かれ目
- 大同工業の営業利益率が 3 年で 8% を超えたら
- 統合が実ったとみて、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。全社の営業利益率が 9% 台に近づく。
- マテハンが 2 年続けて営業黒字(率 3% 以上)になったら
- 再建が定着したとみて、中立から上の筋書きに寄せる。
- マテハンの北米で追加の減損や撤退が出たら
- 赤字の根が深いとみて、やや悲観の確率を上げる。ただし撤退で全社の利益率は上がる面もある。
- EV の販売比率が急に上がり、エンジン用チェーンの受注が減り始めたら
- モビリティの寿命が縮むとみて、悲観の確率を上げる。クラッチなど新しい柱の売上が補えるかを見る。
- 大規模な自社株買いや配当の大幅な増額が出たら
- ROE の改善が早まるので、楽観側に少し寄せる。ただし稼ぐ力の改善が伴わない還元は価値を変えない。
- 海外の同業や投資ファンドが TOB を示したら
- 買収価格は時価を上回る可能性が高い。ただし、その価格と本質価値は別に考える。
見ておくもの
- 大同工業の営業利益率(セグメントの開示)
- マテハンの営業利益と北米の再建の進み具合
- タイミングチェーンの受注とクラッチの立ち上がり
- 自社株買いの実施額と政策保有株の売却額
- 産業用チェーンの価格転嫁(動力伝動の営業利益率)
倍率と資本コストの決め方
倍率は正当化 PER(g 4%・k 7.5%)から、ROE 8% 弱のため RONIC が k を下回る前提で置いた。利益の質から上限の 8.5 割(楽観は 9 割)を選び、床や今の株価に合わせにいっていない。セグメントは今の売上を 150 円で割った実質の数量に物価の倍率(10 年 1.34 倍)を掛ける形で置き、数量は市場 × シェアの推定。10 年の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置き、新リース会計基準(2028 年 3 月期から)で営業利益が少し増え純負債が増える点は反映していない。 期末後に実行ずみの自社株買い(約 81.5 億円)は株数に入っているので、自己資本の起点から引き、10 年の還元から外した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.6→15.86 倍・やや楽観 PER 10.4→14.93 倍・中立 PER 9.7→13.61 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。大同の統合の実行やマテハンの再建は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。