結論
黒田精工は、電動車のモーターの鉄心を打ち抜く金型とモーターコア、半導体装置向けの精密ボールねじ、測定機を作る売上 200 億円弱のメーカーだ。筆者の結論は、今の値段は事業の稼ぐ力に対して高い、というものだ。一番の理由は、借金を抱えて大きな投資を重ねたのに、前期の営業利益が 0.3 億円まで落ちたことにある。
2026 年 3 月期は売上が 195 億円に増えたが、営業利益はほぼゼロ、純利益は赤字だった。高利益品が減り、低採算の設備販売が増え、ドイツ子会社の赤字が広がった。減価償却も重い。
会社は今期、売上 258 億円、営業利益 7.7 億円を見込む。日系自動車メーカー向けのハイブリッド車用モーターコアが、2026 年度に量産へ入る。受注残は前年比 27% 増えた。会社は 2030 年度に営業利益 45 億円前後を目指す。
ただし前の中期計画は未達だった。筆者は、量産が始まっても、償却と値下げ要求と利払いで利益が薄くなると見る。有利子負債は 106 億円あり、営業利益は支払利息を賄えていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見える理由がある」。株価は純資産の 7 割弱だが、帳簿の中身は専用の設備が多く、売れる額は簿価より小さい。
見るべきは、投じた資本が資本コストを超えて稼ぐかどうかだ。この会社の ROE は 10 年を通じて低く、直近は赤字だ。大型案件が当たれば変わるが、結果が出るまで確かめられない。経営者がどれだけ株主の資本を大切に扱うかも、重い投資と低い ROE の履歴から疑問が残る。
借金を増やして設備を作り、その設備が埋まるかどうかを顧客の量産計画に預けている。わからない部分が大きく、高い値段は払えない。
安全域は悲観の筋書きでの売れる資産に残る。ただ有利子負債が大きく、株主の取り分は薄い。量産の立ち上がりと利益率の戻りを、決算で確かめてからでも遅くない。償却は物価で増えないが、更新の投資は建築費の上昇で膨らむので、会計の利益ほど現金は残らない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つの事業だ。金型システムが全社売上の約 47% を占め、電動車向けのモーターコアと、それを打ち抜く積層精密プレス金型を作る。長野に世界最大級の高速プレス機を入れ、生産性を倍にする投資をした。
駆動システムは売上 65 億円。半導体・液晶の製造装置向けに、精密研削ボールねじ、XY ステージ、ギアを作る。ドイツ、米国、韓国、中国に子会社がある。ドイツ子会社の赤字が拡大し、減損と構造改革の費用を計上して、抜本策を検討している。
機工・計測システムは売上 39 億円。ホルダ、ゲージ、精密研削盤、超精密の表面形状測定機を扱う。前期は黒字に戻り、全社で唯一安定して稼ぐ区分だ。
従業員は連結で 641 人、臨時を含めて 1,000 人規模だ。伊藤忠丸紅鉄鋼グループと組んだ合弁でも、モーターコアを作る。国内に長野、川崎などの拠点を持ち、受注は景気の影響を受けやすい。筆頭株主は日本共創プラットフォームで、議決権の約 2 割を持つ。顧客は自動車メーカーと部品大手、半導体・液晶の装置メーカーで、海外売上も一定の割合を占める。
優良さと弱いところ
優良さは「並みの下」と筆者は見る。強みは技術にある。精密研削ボールねじと、精密プレス金型は、長い蓄積が要る。モーターコアは、金型から量産まで一貫でできる点が評価されている。
弱みは、稼ぎの安定度だ。営業利益率は 10 年で -3% から 7.4% の間を動いた。ROE の中央値は 2.2% で、資本コストの半分にも届かない。車載は自動車メーカーに値段を決められ、半導体関連は景気の波に大きく揺れる。
財務は弱い。前期末の有利子負債は 106 億円で、1 年で 30 億円増えた。営業利益は支払利息の 0.1 倍しかない。設備投資は 29 億円で、減価償却の 12 億円の倍以上だ。
経営は大きな案件に賭けている。当たれば利益は何倍にもなるが、外せば借金だけが残る。前の計画 Vision2025 が未達に終わった事実も軽くない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界の景色は二つに分かれる。自動車の電動化は欧米で減速する一方、日本ではハイブリッド車が主役になり、モーターを積む車の台数は増え続ける。電動車向けのモーターコアは、世界でハイブリッド車と電気自動車が併存する形になり、EV の減速で一時の勢いは落ちた。それでも、モーターを積む車は増える方向だ。
競合は、モーターコアではイタリアのユーログループやドイツ・中国の専業、日本の自動車部品大手の内製、プレス金型では日本の専業各社だ。価格は自動車メーカーが決め、毎年の値下げ要求が前提になる。
半導体・液晶向けのボールねじは、製造装置の投資の循環に左右される。THK、NSK など大手と競い、黒田精工の位置は特殊な精密品に限られる。生成 AI の投資で半導体は長期に伸びるが、設備投資の波は大きい。
10 年の見通しは、モーターコアの数量が増える一方、価格は物価に届かない。ボールねじは循環を均すと緩やかに伸びる。機工・計測は人手不足による自動化投資で堅調だ。国内の工作機械は景気の波があるが、測定機は品質保証の需要で底堅い。車載の値下げ圧力で、利益率は上がりにくい。
資本政策と M&A
還元は控えめで、配当は年 1 億円強。業績に裏付けられた安定配当を続ける方針だ。自社株買いは行っていない。
資金は設備に回る。前期の設備投資は 29 億円で、うち金型が 26 億円。有利子負債は 106 億円と大きく、借入の増加で自己資本比率は 39% に下がった。
新しい中期計画 Vision2030 は、2030 年度に売上 370 〜 390 億円を掲げる。配当性向は 3 〜 4 割を目指す。M&A の予定は見当たらない。筆頭株主の日本共創プラットフォームが、事業再編や資本政策に影響を及ぼす可能性はある。10 年以内の買収・TOB の確率は 2 割強という試算があるが、価値には入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
大型案件の入り口に立っている。受注残は 71 億円で前年比 27% 増。日系自動車メーカー向けのハイブリッド車用モーターコアは、2026 年度に量産が始まる。長野の大型プレス機は、すでに投資が済んでいる。
前期の悪化は、先行投資の償却と一時的な低採算案件が重なったものだ。量産が軌道に乗れば、償却を吸収して利益が出る。会社は今期、営業利益 7.7 億円を見込み、2030 年度には 45 億円前後を目指す。
半導体向けのボールねじも、生成 AI の投資で受注が回復する。ドイツ子会社は減損と構造改革の費用を出し切り、立て直しに動いている。
特別損失の中には補助金や有価証券の売却益で相殺された分もあり、見かけほど悪くない。筆頭株主の日本共創プラットフォームは、事業再編を促す力になる。数量が戻れば、利益は何倍にもなりうる。
借入は返済期間が長く、受注残が裏づけになる。有価証券の売却益が出たように、資産の入れ替えで財務を整える余地もある。足元の悪さが一時のものなら、株価は過度に悲観を織り込んでいる。
慎重な見方
前期は売上が増えたのに営業利益が消えた。売れても儲からない形が、すでに現れている。量産が始まっても、自動車メーカーの値下げ要求は毎年来る。償却は重く、利払いは増える。
有利子負債は 106 億円で、営業利益は支払利息の 0.1 倍しかない。借入の更新金利は上がり、利益をさらに削る。設備投資は償却の倍以上で、現金はすでに細っている。
前の中期計画は未達だった。今回の 2030 年度の営業利益 45 億円は、前期の 100 倍を超える水準で、過去の最高の営業利益率 7.9% をも上回る。ドイツ子会社の赤字は拡大しており、抜本策もまだ見えない。
ROE の中央値は 10 年で 2.2%。資本を増やしても利益が追いつかない癖がある。研究開発費は年 2 億円強と小さく、技術で差をつけ続ける体力にも限りがある。数量が戻る保証はなく、期待だけで値段を払うのは危うい。
特別利益は一度限りの売却益と補助金で、毎年は続かない。前期の純損益が赤字だった事実は変わらない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、量産の立ち上がりと償却の吸収に依存する。慎重な言い分は、前期の実績と財務の重さに根ざしている。実績のほうが重いと見て、確率を悲観側に寄せた。
やや悲観と悲観を合わせて 45%、やや楽観と楽観で 23%、中立が 32%。受注残の増加と量産の開始は確かな追い風だが、利益率の戻りと借入の重さがそれを相殺すると判断した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,726 円97 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 377 円21 億円)。 今の値に割り戻すと 1,056 円59 億円、今との差 −20.3%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 5,074 円285 億円 | 803 円45 億円 | +343.5% | +16.1% | 353 円20 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,964 円166 億円 | 624 円35 億円 | +170.8% | +10.5% | 610 円34 億円 |
| 中立 | 32% | 2,074 円116 億円 | 446 円25 億円 | +90.2% | +6.6% | 806 円45 億円 |
| やや悲観 | 27% | 599 円34 億円 | 250 円14 億円 | −35.9% | −4.4% | 229 円13 億円 |
| 悲観 | 18% | 514 円29 億円 | 71 円4 億円 | −55.9% | −7.9% | 105 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,726 円97 億円 | 377 円21 億円 | +58.7% | +4.7% | 2,103 円118 億円 |
今の株価時価総額 1,325 円74 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 大型案件が当たり、会社の計画に近い形で伸びる 利益 20 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 5,074 円285 億円
日系自動車メーカー向けのハイブリッド車用モーターコアが量産に乗り、長野の大型プレス機が満員で回る。モーターコアの数量は今の 2 倍超になり、金型の営業利益率は 9% に届く。ボールねじは半導体・液晶の設備投資の回復で数量が 4 割増え、ドイツ子会社は構造改革で黒字になる。機工・計測は測定機の高付加価値化で堅調だ。全社の営業利益率は 8% に近づき、過去の最高に並ぶ。借入は返済が進み、配当も増える。自己資本は 180 億円ほどになり、ROE は 11% に乗る。ここまで行けば、はじめて資本コストを超える稼ぎになる。
- 金型システム(モーターコア・積層精密プレス金型):数量 201(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 269 億円・営業利益 24 億円。大型案件が満員
- 駆動システム(精密ボールねじ・ステージ):数量 90.7(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 122 億円・営業利益 8 億円。独子会社も黒字
- 機工・計測システム(ホルダ・ゲージ・研削盤・測定機):数量 50.8(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 68 億円・営業利益 5 億円。測定機が堅調
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.44 倍、時価総額 284 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の新中期計画(2030 年度に営業利益 45 億円前後)に近い姿だ。前の計画は未達に終わり、ドイツ子会社も赤字なので、この確率は低く置く。
やや楽観 17% モーターコアが育ち、計画の 8 割ほどに届く 利益 13 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,964 円166 億円
モーターコアの大型案件が立ち上がり、金型の売上は今の 2.4 倍になる。利益率は設備の償却を吸収して 8% に乗る。ボールねじは半導体向けが戻りつつも、ドイツ子会社の立て直しに時間がかかり、利益率は 5% 止まりだ。機工・計測は堅調に推移する。営業利益は 25 億円ほどに達する。ただし借入が 100 億円を超えたままで、利払いが重く、純利益の伸びは営業利益より鈍い。自己資本は 170 億円で、ROE は 8% に届かない。受注残の増加と量産の開始という追い風はあるものの、価格と償却の重さが利益を抑える。会社の計画の営業利益 45 億円には届かない。
- 金型システム(モーターコア・積層精密プレス金型):数量 165(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.33(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 219 億円・営業利益 18 億円。量産が軌道に
- 駆動システム(精密ボールねじ・ステージ):数量 77.8(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.32(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 103 億円・営業利益 5 億円。独子会社の立て直しに時間
- 機工・計測システム(ホルダ・ゲージ・研削盤・測定機):数量 45.0(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.32(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 59 億円・営業利益 4 億円。堅調
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 166 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残が前年比 27% 増えており、モーターコアの量産開始は既定の事実に近い。計画の全部は届かないが、半分以上は実現するという見方で 2 番手に置いた。
中立 32% モーターコアは育つが、償却と利払いで稼ぎが薄い 利益 9 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,074 円116 億円
モーターコアの大型案件で金型の売上は 1.5 倍に増える。ただし車載は値下げ要求が強く、価格は物価に届かない。金型の営業利益率は 7% で、前期の 7.7% より少し低い。ボールねじは半導体の循環で上下しながら数量は 1 割増。ドイツ子会社は構造改革で赤字が縮み、利益率は 4% に戻る。機工・計測は 5% を保つ。全社の営業利益率は 5.7% で、過去の最高 7.9% を超えない。借入の利払いが 3.5% に上がり、純利益は営業利益の半分にとどまる。自己資本は 160 億円に増え、ROE は 6% 弱で資本コストに届かない。
- 金型システム(モーターコア・積層精密プレス金型):数量 137(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.30(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 178 億円・営業利益 13 億円。大型案件で数量 1.5 倍
- 駆動システム(精密ボールねじ・ステージ):数量 71.3(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.30(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 93 億円・営業利益 4 億円。半導体の循環・独子会社縮小
- 機工・計測システム(ホルダ・ゲージ・研削盤・測定機):数量 43.0(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.30(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 56 億円・営業利益 3 億円。堅調
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 116 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注の動きは良いが、前期は売上が増えても利益が消えた。量産が始まっても償却が重く、利益率の戻りは限られると見るのが中心だ。
やや悲観 27% 量産は始まるが、価格が下がり償却が利益を食う 利益 4 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 599 円34 億円
大型案件は量産に乗るものの、自動車メーカーの値下げ要求で単価は物価に追いつかない。設備の償却が重く、金型の営業利益率は 5% にとどまる。半導体向けのボールねじは数量が 1 割減り、ドイツ子会社の赤字が続いて駆動は損益ぎりぎり。機工・計測は 4% を保つ。全社の営業利益率は 3% 台で、前期とほぼ同じ水準が続く。借入金が 100 億円を超えたままで、金利上昇が利益を削る。配当は今の水準を維持するのが精いっぱいで、自己資本は 130 億円ほどだ。更新の設備投資は建築費と機械の値上がりで膨らみ、償却の増えない会計上の利益と、実際に出ていく現金の差が開く。
- 金型システム(モーターコア・積層精密プレス金型):数量 110(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.25(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 137 億円・営業利益 7 億円。値下げ圧力・償却
- 駆動システム(精密ボールねじ・ステージ):数量 58.3(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.20(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 70 億円・営業利益 0 億円。独子会社の赤字続く
- 機工・計測システム(ホルダ・ゲージ・研削盤・測定機):数量 39.1(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.25(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 49 億円・営業利益 2 億円。横ばい
倍率:ROE 3.2% は k 8% を大きく下回る。稼ぐ力が資本コストから遠く、PER の上限 10.5 倍の 75% の 8 倍に置いた。
確率:前期はすでに「売上が増えても営業利益が消える」形だった。大型案件があっても低採算の設備販売や車載の値下げが続く筋書きは、現実味が強い。
悲観 18% 大型案件が空振りし、借金と赤字に追われる 利益 −8 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 514 円29 億円
日系自動車メーカーの電動車計画が後ろ倒しになり、大型案件の数量が当初の半分も出ない。金型の稼働が落ちて、2 年続けて営業赤字になる。ドイツ子会社は撤退・縮小で追加の損失を出す。借入の返済が優先され、配当は止まる。増資や資産売却に追い込まれる局面も想定される。株主の取り分は借入の返済のあとに残るだけになる。自己資本は減損と赤字で 75 億円まで減る。価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産で決まる。モーターコア用の専用設備は転売しにくく、簿価の大部分を失う。ボールねじと測定機の事業は残るが、全社の稼ぎを支える規模ではない。
- 金型システム(モーターコア・積層精密プレス金型):数量 82.3(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.10(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 91 億円・営業利益 −2 億円。稼働が落ちる
- 駆動システム(精密ボールねじ・ステージ):数量 45.4(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.10(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 50 億円・営業利益 −3 億円。撤退・縮小
- 機工・計測システム(ホルダ・ゲージ・研削盤・測定機):数量 35.2(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.15(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 41 億円・営業利益 1 億円。横ばい
倍率:赤字で稼ぐ力では値が付かない。今の自己資本 115 億円に掛ける形で、売れる資産の税後を下回る 0.25 倍に置いた。
確率:大型投資の回収は顧客の量産計画に依存し、ドイツ子会社の赤字も続く。受注の取り消しや車載の減速が重なれば、100 億円の有利子負債が一気に重荷になる。この会社の財務の脆さを考えると、無視できない確率だ。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
金型システム(モーターコア・積層精密プレス金型)
電動車のモーターの鉄心(モーターコア)と、それを打ち抜く積層精密プレス金型。全社売上の約 47% を占める。
| 数量出荷の実質額(億円。今の値段のまま) | 価格価格指数(今を 1.0。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.4 | 1.00 | 91 | 1 |
| 10 年後 中立 | 137 | 1.30 | 178 | 13 |
取り方:金型システム売上 91.4 億円(2026/03、前期比 +21%)を今の値段の出荷額と置いた。営業利益は開示値で 0.5 億円(前期 5.8 億円)。高利益品の減少と、低採算の関係会社向け設備販売の増加で落ちた。
駆動システム(精密ボールねじ・ステージ)
半導体・液晶の製造装置に使う精密研削ボールねじ、XY ステージ、ギア。ドイツ・米国・韓国・中国に子会社を持つ。
| 数量出荷の実質額(億円。今の値段のまま) | 価格価格指数(今を 1.0。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 64.8 | 1.00 | 65 | −2 |
| 10 年後 中立 | 71.3 | 1.30 | 93 | 4 |
取り方:駆動システム売上 64.8 億円(前期比 +1.7%)を今の値段の出荷額と置いた。営業利益は開示値で -1.9 億円(前期 -1.3 億円)。ドイツ子会社の赤字拡大が主因。
機工・計測システム(ホルダ・ゲージ・研削盤・測定機)
工具ホルダ、ゲージ、精密研削盤、超精密表面形状測定機。全社で唯一安定して黒字を出す区分。
| 数量出荷の実質額(億円。今の値段のまま) | 価格価格指数(今を 1.0。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 39.1 | 1.00 | 39 | 2 |
| 10 年後 中立 | 43.0 | 1.30 | 56 | 3 |
取り方:機工・計測売上 39.1 億円(前期比 +16%)を今の値段の出荷額と置いた。営業利益は開示値で 1.8 億円(前期 -1.0 億円)。システム事業の収益改善で黒字に戻った。
リスクと懸念
大型案件への依存
日系自動車メーカー向けのハイブリッド車用モーターコアが、売上拡大の中心になる。顧客の量産計画が後ろ倒しになれば、投資 29 億円の回収が遅れる。
借金と利払い
有利子負債は 106 億円で、営業利益は支払利息を賄えない。借り換えの金利が上がれば純利益はさらに削られ、配当の余力も細る。
ドイツ子会社の赤字
駆動システムのドイツ子会社は赤字が拡大し、前期に減損 2 億円と構造改革費用 2 億円を計上した。抜本策の中身次第で、追加の損失が出る。
車載の値下げ圧力
自動車メーカーは毎年の値下げを前提にする。単価が物価に届かなければ、数量が伸びても営業利益率は 5% 台に止まる。
半導体関連の循環
ボールねじは半導体・液晶の設備投資に連動する。売上の 3 分の 1 を占め、不況の年は受注が半分以下に落ちる。
中期計画の達成実績
前の計画 Vision2025 は未達に終わった。新計画の 2030 年度の営業利益 45 億円は、前期の 100 倍を超える水準で、実現性を割り引く必要がある。
今後の分かれ目
- モーターコアの大型案件が計画どおり量産に乗り、金型の営業利益率が 7% を超える
- 中立の利益率の前提を引き上げ、やや楽観の確率を上げる。
- ドイツ子会社の抜本策で撤退または売却が決まる
- 駆動の赤字が止まる一方、一時の損失が出る。悲観側の確率を下げる。
- 自動車メーカーの電動車計画が後ろ倒しになる
- 大型案件の数量が減り、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 営業赤字が 2 期続き、借入の財務制限条項に触れる
- 増資や資産売却の可能性が高まる。悲観の確率を上げる。
- 日本共創プラットフォームが買い増す、または再編を提案する
- 買い手の価格が価値を超えるかを確かめる。確率は価値に入れていない。
見ておくもの
- モーターコアの量産開始と金型の稼働率・利益率
- ドイツ子会社の抜本策
- 営業利益の支払利息に対する倍率と有利子負債
- 受注残高の動き
- 半導体・液晶向けボールねじの受注
倍率と資本コストの決め方
3 区分の数量と価格を、出荷の実質額と価格指数に分けて積んだ(区分別の売上と利益は開示値、将来の数量は推定)。k は 7.5% に quality 2.0% を足した 9.5%。倍率は式から出し、ROE が k を下回る中立以下は 1÷k を上限にその 7 〜 9 割に置いた。今の株価や過去の PER・PBR は倍率の根拠に使っていない。会社の計画(2030 年度に営業利益 45 億円)は楽観の入り口に置き、中立では信用しすぎなかった。減価償却は物価で増やさず、新規の設備だけを新しい値段で足した。リースの影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→14.44 倍・やや楽観 PER 10→12.5 倍・中立 PER 9→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。