結論
藤商事は、パチンコ機とパチスロ機を作ってホールに売る遊技機メーカーだ。人気アニメなどの版権(キャラクターを使う権利)を機械に載せるのが得意で、新台の当たり外れで業績が大きく動く。筆者の結論は、今の値段はやや割高というものだ。ただし、時価総額の約4分の3を純現金が占めるため、下値は堅い。
2026年3月期は営業損失39億円と大きく崩れた。新台の販売が計画の約6割にとどまり、開発費と広告費が重なった。2027年3月期は営業利益30億円への回復を見込む。だが、過去20年で赤字の年は5回あり、ヒットに頼る体質は変わっていない。
業界は、遊技人口とホールの数が長く細る構造にある。スマスロの追い風で短期は持ち直したが、10年では新台の販売が年3%ほど縮むと見る。藤商事の売上も、物価の上昇を除けば伸びにくい。
中立の筋書きでも、10年後の営業利益は26億円ほどだ。ROE(自己資本利益率)は4%台で、資本コストに届かない。現金を引いた事業そのものの価値は、決して大きくない。厚い現金は安心材料だが、稼ぐ力の弱さを埋める理由にはならない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、藤商事は「現金は厚いが、事業は読みにくい会社」と映る。
遊技機は、新台がホールの選定を通るかで業績が決まる。規制が変われば前提が崩れる業界でもある。10年後の利益を高い確信で予想できないため、確信度は低くなる。
資本の使い方では、純現金を事業に使わず積み上げ、赤字の年も配当を維持する姿勢は評価できる。ただ、過去10年のROEの中央値は1%。資本をうまく増やしてきたとは言えない。
安全域はどうか。純現金は時価総額の約4分の3あり、下値は堅い。しかし、現金には事業の必要資金も含まれる。事業の稼ぐ力が資本コストに届かない会社で、現金を引いた事業の価値は小さい。
筆者は、今の値段は現金の厚さを織り込んでおり、事業の回復を期待した分だけ割高と見る。割安とは言えない。
経営者の資質は、配当を赤字でも守る誠実さに表れている。ただし、現金を事業の拡大に使う意志は見えず、成長への投資が小さいことは物足りない。
何で稼ぐ会社か
藤商事の稼ぎは、遊技機の開発と販売だ。パチンコ機とパチスロ機を作り、全国のホールに売る。ホールは客を呼ぶため、人気の新台を次々に入れ替える。この入替需要が、藤商事の売上の源泉になる。
強みは版権だ。『地獄少女』『とある科学の超電磁砲』のように、アニメや漫画の人気作品を機械に載せる。ファンを呼び込める作品を選べるかが、ヒットを左右する。
2026年3月期の販売は、パチンコ42,036台、パチスロ13,054台で合計5.5万台。計画は合計8.6万台だったので、約6割だった。売上は235億円で、1台あたり約43万円になる。前の期は売上346億円だった。
費用は先に出る。ソフトの開発費、版権料、広告宣伝費は、機械が売れる前に払う。売れなければ赤字になり、売れれば台数が増えて固定費が薄まる。この「当たると大きく、外れると痛い」構造が、利益の振れを大きくしている。
セグメントは遊技機の1つだけで、他の事業はほぼない。2027年3月期の第1四半期は、パチンコの新機種2機種を投入して売上が前年の2.3倍になったが、なお営業損失7.5億円だった。回復は道半ばだ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、版権とホールとの関係にある。人気作品の許諾を得られること、ホールの購買担当に新台を選んでもらえることが、売上を支える。ただ、どちらも一度築けば永続するものではない。新台は毎年入れ替わり、過去のヒットは次の保証にならない。
業界は、サミーやSANKYO、平和といった数社の寡占だ。型式試験、つまり国の指定機関が機械の仕様を認める審査があり、適合率が落ちると新台が出せない。規制が収益を左右する点は、藤商事の弱みでもある。
資本の効率は低い。過去10年のROEの中央値は1.0%で、資本コストをはるかに下回った。赤字の年が5回あり、利益が安定しない。
一方、財務は堅い。自己資本比率は90%で、純現金は158億円ある。赤字の年でも配当を維持できる余力がある。
経営は、支配株主の副会長が約18%を持つ。保有する安定株主が経営を支える一方、少数株主の意向が反映されにくい面もある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
遊技機の市場は、ホールの新台入替で決まる。2025年の新台は合計152.8万台で、パチンコが87万台、パチスロが65.8万台だった。パチスロは型式試験の適合率が下がり、新台が減った。ホールの数は減り続けているが、業界全体の売上は持ち直している。
短期の追い風は、スマート遊技機(スマスロ・スマパチ)だ。出玉の管理が簡単になり、若い層や復帰客を取り込んだ。2024年のパチンコ・パチスロ市場は16.2兆円、遊技人口は690万人と、2年連続で増えた。
ただ、長期は縮む。遊技人口の高齢化とホールの閉店が重なり、新台の入替台数は10年で緩やかに減ると筆者は見る。しかも、スマスロの普及でホールの購買需要は落ち着いてきた。競合のSANKYOも、2027年3月期の第1四半期は販売台数が前年を下回っている。
競争は、ヒット作の奪い合いだ。サミー、SANKYO、平和などの大手に対し、藤商事は版権の強さで勝負する。ただし、1作でも外れると、広告費や開発費の回収に苦しむ。
規制の動きも大きい。出玉規制の強化や型式試験の基準変更は、業界全体の利益を一気に動かす。
資本政策と M&A
株主還元は、配当が中心だ。2026年3月期は赤字だったが、配当を維持した。2027年3月期は増配の予定で、純利益の計画に対して配当性向は5割を超える。配当方針の詳細や自社株買いの実績は、確認できていない。
純現金は158億円。2015年3月期の336億円から、11年で半分に減った。赤字と配当、投資の合計の結果だ。それでも時価総額の約4分の3を占め、財務の安全弁になっている。
支配株主は代表取締役副会長で、保有比率は約18%。2025年にみずほ証券と売買委託契約を結び、流通株式の比率を高める動きがある。会社は上場基準の維持を意識していると見られる。
時価総額が小さく、純現金が厚いため、買収の対象になる可能性はある。ただ、支配株主が一定の持分を持つため、友好的でない買収は難しい。
大型のM&Aは近年ない。新台の開発に資金を回す方針だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
藤商事は、2026年3月期の赤字から立ち直る局面にある。2027年3月期の第1四半期は、新台2機種の投入で売上が2.3倍になった。会社は営業利益30億円への回復を見込む。ヒット作が1つ出れば、固定費が薄まり、利益率は2023〜2025年3月期の9〜13%に戻る。
版権の強さは健在だ。『地獄少女』『とある科学の超電磁砲』など、ファンの多い作品を機械に載せられる。スマスロの普及で若い層や復帰客が戻り、業界の売上は2年連続で増えた。
財務も堅い。自己資本比率は90%で、純現金は158億円。赤字の年でも配当を維持し、2027年3月期は増配する予定だ。時価総額の約4分の3が現金で、事業の価値は小さく評価されている。ヒットが2、3年続けば、利益は一気に増える。
業界は規制と新台サイクルに左右されるが、強いメーカーほど生き残る。藤商事は寡占の一角として、今後も新台の入替需要を取り込める。支配株主が経営に参加している点も、長期の版権戦略には有利に働く。
慎重な見方
遊技機の需要は、長期で確実に縮む。遊技人口は高齢化し、ホールの数は減り続けている。スマスロ後の購買需要は落ち着き、競合のSANKYOも新台の販売が前年を下回った。10年で見れば、新台の販売は年3%ほど減り、市場は4分の3に縮む。
藤商事は、その中でも不安定な会社だ。過去12年で営業利益率が2桁だったのは3回だけで、過去20年の赤字は5回ある。直近の2026年3月期も、販売が計画の約6割にとどまった。開発費と広告費は先に出るため、外れた年は大きく痛む。
ROEは10年の中央値で1%。資本コストを大きく下回る。純現金が厚いのは強みだが、その現金は11年で半分に減った。赤字の年も配当を維持したことは、現金を取り崩していることの裏返しだ。
規制のリスクもある。型式試験の基準変更で新台が出せなくなれば、収益の前提が崩れる。支配株主が約18%を持ち、少数株主の意向は反映されにくい。余った現金が株主に戻る保証もない。
どちらに重みを置いたか
短期の回復は十分ありうるが、10年で見ると業界の縮小と利益の振れが重い。確率は、中立を最も厚く置いた。楽観側は合わせて28%、悲観側は38%と、悲観にやや寄せた。純現金の厚さは悲観の深さを抑えるため、悲観の確率は1割強にとどめた。中立でも事業の稼ぎは資本コストに届かず、現金の厚さを足しても、今の時価総額を少し下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,480 円310 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 482 円101 億円)。 今の値に割り戻すと 1,034 円216 億円、今との差 +3.6%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,192 円669 億円 | 669 円140 億円 | +286.9% | +14.5% | 309 円65 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,424 円508 億円 | 597 円125 億円 | +202.7% | +11.7% | 604 円127 億円 |
| 中立 | 34% | 1,623 円340 億円 | 549 円115 億円 | +117.7% | +8.1% | 739 円155 億円 |
| やや悲観 | 26% | 592 円124 億円 | 382 円80 億円 | −2.4% | −0.2% | 253 円53 億円 |
| 悲観 | 12% | 287 円60 億円 | 191 円40 億円 | −52.2% | −7.1% | 57 円12 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,480 円310 億円 | 482 円101 億円 | +96.6% | +7.0% | 1,962 円411 億円 |
今の株価時価総額 998 円209 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 人気版権が当たり続け、利益率が過去の高水準に戻る 利益 45 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,192 円669 億円
10年後も、藤商事は人気アニメや漫画の版権を載せた機械で、ホールの新台入替の一角を占め続ける。スマスロとスマパチの普及で若い層が戻り、業界の新台販売は10%ほどの縮みにとどまる。藤商事のシェアは5.8%に上がり、ヒット作が続く。開発費と広告費は売上に比例して増えるが、台数が増えると固定費が薄まり、営業利益率は13%に戻る。過去の高水準(2015年3月期の14%)に並ぶ水準だ。純現金は配当と自社株買いでゆっくり戻り、配当は利益の約4割を保つ。経営はヒット作の波に乗った幸運な10年になる。競合のサミーやSANKYOが新台を絞る局面でも、藤商事は版権の鮮度で勝ち、ホールの棚を確保する。一方で、人気作品の版権料は上がり、利益の一部はそちらへ流れる。業界全体の縮みは緩やかで、ホールの購買も安定する。藤商事は新台を年に複数機種出し、広告宣伝は選択と集中で効率が上がる。シェアは今より高く、版権の更新も順調に進む。
- 遊技機(パチンコ機・パチスロ機):数量 8.0(年間の販売台数(万台))× 価格 59(1台あたりの売上(万円・部材や版権収入を含む))→ 売上 470 億円・営業利益 61 億円。業界の新台 ×0.90・シェア 5.8%・利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 1.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 13.04 倍、時価総額 668 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ヒット作が続き、スマスロ以後の新しい遊技機でも版権の強さが生きる姿。過去12年で営業利益率が13%を超えたのは2015年3月期と2024年3月期だけで、再現は難しい。
やや楽観 20% 新台が安定して売れ、業界の縮小を版権の強さで補う 利益 33 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,424 円508 億円
新台が安定して当たり、藤商事の販売台数は7万台台を保つ。業界全体の新台は15%ほど縮むが、版権の強さでシェアは5.5%に上がる。営業利益率は10.5%と、2023〜2025年3月期の水準に近い。広告宣伝を効率化し、開発費も絞る。純現金は厚いまま、配当を保つ。業界の縮小は進むが、メーカー側の寡占化が進み、強いメーカーは生き残る10年になる。ただし、赤字の年がゼロになるわけではない。赤字の年は少なく、配当も安定して増える。ただ、型式試験や規制の変更で新台が出せない期間が生じるリスクは残り、利益の振れは今と同じように続く。広告宣伝は特定の大型キャンペーンに絞り、前期のような広告費の膨張は避ける。ソフトの開発費も、機種数を絞ることで抑え込む。
- 遊技機(パチンコ機・パチスロ機):数量 7.1(年間の販売台数(万台))× 価格 58(1台あたりの売上(万円・部材や版権収入を含む))→ 売上 415 億円・営業利益 44 億円。業界の新台 ×0.85・シェア 5.5%・利益率 10.5%
倍率:事業の純利益 32 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 508 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2023〜2025年3月期の営業利益率9〜13%に近い稼ぎが続く姿。会社の2027年3月期の計画(営業利益率7.6%)より少し良い程度に置いた。
中立 34% 台数は業界と同じ速さで縮み、利益は黒字を保つ 利益 20 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,623 円340 億円
ホールの数と遊技人口は年3%ほど縮み、新台の販売は10年で約4分の3になる。藤商事のシェアは、直近の失敗から戻って5%程度に落ち着く。販売台数は5万台台半ばで、売上は320億円台。開発費と広告費が重く、営業利益率は8%にとどまる。会社が2027年3月期に見込む7.6%に近い水準だ。ヒットが当たる年と外れる年が交互に来て、赤字の年も混じる。純現金は配当に使われ、増えはしない。ROEは4%近くと資本コストに届かないが、現金の厚さが下支えになる。支配株主の副会長を中心にした経営は、版権の確保と新台の開発に資源を集中する。大型のM&Aや多角化はなく、事業の構造は今とほぼ同じだ。2026年3月期の失敗を教訓に、開発の本数と広告の規模は見直される。それでも、新台の当たり外れそのものは避けられず、利益は年ごとに大きく振れる。
- 遊技機(パチンコ機・パチスロ機):数量 5.7(年間の販売台数(万台))× 価格 57(1台あたりの売上(万円・部材や版権収入を含む))→ 売上 324 億円・営業利益 26 億円。業界の新台 ×0.74・シェア 5.0%・利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 340 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の縮小と新台の当たり外れを均した落としどころ。過去12年の営業利益率は赤字4回を含み平均で3%台。会社の計画の水準に近い利益率8%を置いた。
やや悲観 26% 新台の不発が増え、利益が低位にとどまる 利益 6 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 592 円124 億円
2026年3月期のような不発が繰り返される。新台の選定にホールが慎重になり、藤商事の機械は売れ残る。業界全体も6割台まで縮み、シェアは4.2%にとどまる。営業利益率は3%に下がり、利益は薄い。開発費は固定的に出ていくため、台数が減ると利益が急に落ちる。配当は減らされ、純現金が少しずつ減る。会社は他社との提携や版権戦略の見直しを迫られる。構造的に負ける筋書きで、優良とは言えなくなる。ホールの閉店で新台の需要が薄くなり、競合との版権の奪い合いも激しくなる。藤商事は版権料の上昇に苦しみ、開発費の回収が遅れる。純利益は数億円にとどまり、ROEは1%台に下がる。現金の厚さが配当を支えるが、配当を維持するほど現金は減っていく。
- 遊技機(パチンコ機・パチスロ機):数量 4.1(年間の販売台数(万台))× 価格 56(1台あたりの売上(万円・部材や版権収入を含む))→ 売上 228 億円・営業利益 7 億円。業界の新台 ×0.64・シェア 4.2%・利益率 3.0%
倍率:ROE 1%台で資本コストを大きく下回る。構造的に負けた筋書きとして、中立の 8.5 倍から下げて 6.5 倍に置いた。余った現金は谷で食う分を見て 0.75 倍の 75 億円。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:2026年3月期のように新台が計画を大きく下回る年が増える姿。直近1期で計画の半分しか売れなかった実績があり、中立に次ぐ厚みを置いた。
悲観 12% 規制と若年層離れで市場が半分に縮み、赤字が続く 利益 −8 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 287 円60 億円
規制強化と若年層の遊技離れが重なり、パチンコ・パチスロの市場が半分に縮む。ホールの閉店が相次ぎ、新台の入替も減る。藤商事のシェアも3%台に落ち、販売は2.4万台に細る。開発費は急には減らせず、営業赤字が続く。会社は人員と開発の縮小に踏み込み、減損も出る。配当は大きく減らされ、純現金が10年かけて取り崩される。株主の手元に残るのは、現金の残りと事業の小さな価値だけになる。版権の許諾を競合に奪われる局面も出て、新台の魅力が落ちる。経営は縮小均衡に入り、事業の売却や他社との統合が選択肢に浮かぶ。それでも純現金は残り、倒産には至らない。ただ、現金を事業の回復に使う道は見えず、株主にとっては資産が少しずつ目減りする10年になる。
- 遊技機(パチンコ機・パチスロ機):数量 2.4(年間の販売台数(万台))× 価格 53(1台あたりの売上(万円・部材や版権収入を含む))→ 売上 131 億円・営業利益 −11 億円。業界の新台 ×0.50・シェア 3.2%・利益率 -8.0%
倍率:営業赤字で、事業の稼ぎでは値が付かない。10年の赤字と配当で純現金が約 60 億円まで減ると見て、その額を床とした。会社が清算されない限り、現金の使い道は少数株主が決められないため、戻り方を割り引いて現金を数えた。内訳は floor_assets_why に書いた。
確率:規制強化と若年層離れで、業界の台数が半分に縮む姿。純現金が厚く倒産の恐れは小さいため、確率は1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
遊技機(パチンコ機・パチスロ機)
人気アニメ・漫画の版権を載せたパチンコ機とパチスロ機を開発し、ホールに販売する。
| 数量年間の販売台数(万台) | 価格1台あたりの売上(万円・部材や版権収入を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.5 | 43 | 235 | −39 |
| 10 年後 中立 | 5.7 | 57 | 324 | 26 |
取り方:2026年3月期の販売はパチンコ42,036台・パチスロ13,054台で合計5.51万台。売上235.4億円を台数で割った1台あたり約42.7万円を単価とした(部材・版権収入を含む概算)。当期は計画(合計86,000台)の約6割で、通常年は8万台前後と推定。数量は実質、価格は物価で伸ばす。
リスクと懸念
新台の当たり外れ
新台が計画を大きく下回れば、開発費と広告費の固定費で赤字になる。2026年3月期は計画の約6割の販売で営業損失39億円を出した。1作の外れが1年の利益を消す構造は、10年の間に何度も繰り返される。
規制の強化
出玉規制や型式試験の基準が変われば、新台が出せない期間が生じる。パチスロは適合率の低下で新台が減った。規制は業界全体の利益を一気に動かし、藤商事にも直接響く。
遊技人口とホールの減少
遊技人口の高齢化とホールの閉店が続く。スマスロで短期は持ち直したが、長期の縮小は変わらない。ホールの購買が慎重になれば、新台の台数が減り、固定費の重い藤商事は利益率が急に落ちる。
版権の依存と確保
売上は人気作品の許諾に依存する。ヒットした作品の続編には版権料が上がり、利益を圧迫する。許諾を競合に奪われれば、新台の魅力が落ちる。版権の有無が事業の価値を左右する。
現金の取り崩し
純現金は11年で336億円から158億円に減った。赤字の年も配当を維持してきたため、利益が出ない年が続けば現金が目減りする。現金の厚さが下値の支えである以上、この減り方は注意が要る。
支配株主の影響
副会長が約18%を持つ支配株主で、少数株主の意向が反映されにくい。余った現金の使い方(自社株買いや配当)の方針も確認できておらず、現金が株主に戻る保証はない。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が計画の30億円を超え、新台が複数ヒットする
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。固定費が薄まり、利益率が10%台に戻る筋が現実味を帯びる。
- ホール向けの新台販売がさらに低迷し、業界の台数が前年を割り続ける
- やや悲観・悲観の確率を上げる。業界の縮小が想定より速いとみる。
- 出玉規制の強化や型式試験の厳格化が決まる
- 新台の供給が止まる期間を想定し、中立の利益率を下げる。
- 自社株買いや特別配当など、余った現金の還元方針が示される
- 余った現金の戻り方の確からしさが上がる。現金の価値を評価に厚く入れる。
- 支配株主による持分の売却、または他社からの買収提案が出る
- 提案価格が純現金と事業の価値を反映しているかを確認する。純現金の厚さから、下値の目安になる。
- 赤字が2期連続で続き、純現金が100億円を割る
- 現金の下支えが弱まる。悲観の確率を上げ、配当の維持も疑う。
見ておくもの
- 新台の販売台数(パチンコ・パチスロ別)と計画との差
- 営業利益率と開発費・広告宣伝費
- 純現金と配当、自社株買い
- 業界の新台販売台数・ホール数・型式試験の適合率
- 競合(サミー・SANKYO・平和)の新台の販売動向
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PERを見ず、遊技機の販売台数×1台あたりの売上で積んだ利益と、その時点のROE・資本コスト(基本 7.5% に循環 +1.0%・寿命 +0.5% を足した 9.0%)から置いた。中立のROEは4%近くで、長く続くROEが薄れるため、式の正当化PERは約10.6倍。その約8割の8.5倍に、余った現金100億円を別に足した。やや悲観・悲観は構造的な負けとして、稼ぐ力と純現金の取り崩しから低く置き、過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。中立の営業利益率は8%で、過去12年の最高14.1%より低く、純利益÷営業利益は0.77で過去の中央値0.67から±25%以内。会社計画(2027年3月期の営業利益30億円)はそのまま使わず、10年の筋書きで再計算した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→13.04 倍・やや楽観 PER 9.3→12.9 倍・中立 PER 8.5→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。