結論
SMC は、空気で動くシリンダーやバルブなど、工場の自動化に使う基礎部品の世界最大手だ。世界シェアは約 36%、国内は 6 割を超える。顧客は 70 万社に及び、半導体から自動車、食品、医療まで用途を選ばない。「薄く広い」事業が最大の特徴である。会社は単一セグメントで開示するため、ここでは半導体・電子、自動車、一般産業の 3 つの需要先に分けて積み上げた。筆者の結論は、事業は優良だが値段が高い、というものだ。総合は割高(−37%)になった。
業績は、中国の半導体投資の回復で急に戻っている。2027 年 3 月期は、売上 1 兆円を計画する。一方、自己資本比率は 91.5%、純現金は 5,687 億円に達し、ROE は 8% 前後にとどまる。稼ぎ頭の事業に比べ、貸借対照表が重すぎる。2026 年 4 月には、英アクティビストのパリサーが、2 年で 6,000 億円規模の自社株買いと ROE 13% 超を求めた。
中立の 10 年後は、営業利益 3,400 億円弱、ROE 10%、PER 13 倍。時価総額は今を 1 割台半ば下回る。還元を足しても、今を 1 割台半ば上回る程度だ。割り引くと届かない。筆者は、今の値段が、資本政策の転換というまだ不確かな前提を、かなり先に払っていると見る。
バリュー投資の観点から
事業の質は高い。70 万社に分かれた顧客、世界シェア 36% の規模、短納期と豊富な品番という切り替えの難しさ。この重なりが堀だと筆者は見る。研究開発の負担は重くない。循環をならせば営業利益率は 22〜27% で、現金に変わりやすい。
一方、資本の使い方には明確な弱さがある。自己資本比率 91.5%、純現金 5,687 億円は、株主の資本が長く「働かないまま」積み上がった姿だ。ROE は資本コスト近くに押さえられている。これは事業でなく、経営の規律の問題だ。アクティビストが公然と大規模な自社株買いを求めるのは、この機会を経営が長く放っておいた証拠でもある。
安全域は薄い。今の PBR は 2 倍前後で、自社株買いの実行と ROE の大きな改善を、かなり強く前提にした値段だ。その前提が実現しなければ、優良な事業でも、今の値段には見合わない。これが筆者の結論である。
何で稼ぐ会社か
主力は、圧縮空気を動力にする部品だ。空気圧シリンダー、方向制御弁、電磁弁、継手、チューブ、FA センサ、温調機器、電動アクチュエータ。工場の自動化を支える基礎部品を作って売る。売上の実質すべてがこの事業にあり、会社は単一セグメントで開示する。
顧客は、半導体、電子機器、自動車、工作機械、食品、医療、化学と極めて広い。取引先は 70 万社、品番は 70 万点を超える。特定の大口顧客に頼らず、多品種を少量ずつ売る。他の資本財メーカーにない、「広く薄い」収益の構造だ。
部品は顧客の設備に組み込まれて使われ続ける。新設備への納入だけでなく、既存設備の保守、補修、増設も需要になる。業績の下支えになる部分だ。海外売上は 73%。中国が 24%、中国以外のアジアが 17%、欧州が 17%、米州が 11% を占める。国内は草加、筑波、下妻、釜石、遠野などに工場を持ち、海外も含め約 30 の国と地域に生産拠点がある。
武器は、即日から数日の出荷と、豊富な品番だ。設計変更や試作にも素早く応じる。研究開発は品番の拡大と、空気圧から電動への置き換え需要の取り込みに向けられている。自動化とロボット化が進むほど、需要の裾野は広がる。
優良さと弱いところ
筆者が見る SMC の強みは、規模と分散だ。空気圧機器で世界シェア約 36%、国内 6 割超。70 万社という顧客の広さが、単一の顧客や業界への依存を抑える。製品は顧客の設備に組み込まれ、替えるには設計変更の手間と時間がかかる。この切り替えの難しさが、価格を決める力を支える。
営業利益率は 10 年で、17% 台の谷から 31% 台の山まで振れた。通常の局面なら、22〜27% の高水準を保つ。
財務は際立って堅い。自己資本比率は 91.5%、実質無借金で、純現金は 5,687 億円ある。だが弱点もここにある。厚い現金が働いておらず、ROE は 8% 前後と資本コスト並みにとどまる。事業の収益性は高い。それでも資本の使い方には、改善の余地が大きい。パリサーが公然と資本効率の改善を求めるのは、その表れだ。
単一セグメントの開示のため、需要先ごとの採算が外から見えない。投資家が事業の質を測りにくい点も、弱みである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
FA と空気圧機器の世界市場は、複数の柱に支えられる。中国の半導体投資の回復、自動車のハイブリッド化と EV 投資、そして自動化とロボット化の長い流れだ。直近は、中国の半導体後工程の設備投資が強い。SMC の 2026 年 4〜6 月期の純利益は、前年同期比 96% 増と急に戻った。
自動車は、まだら模様だ。北米、欧州、日本では設備投資の先送りが続く。底堅いのは、中華圏の EV 関連だけである。
競合は、ドイツの Festo、米国の Parker、国内の CKD など。Festo は精密なモーションとロボット向けに強い。Parker は北米の販売網が厚い。CKD は半導体向けの流体制御に強い。SMC は、汎用性の高い豊富な品番と短納期の総合力で、世界首位を保つ。中国と台湾の低価格メーカーが、汎用品の一部で台頭している。高機能品や高い信頼性が要る用途では、まだ置き換えにくい。
循環は、中国の半導体投資の回復局面にある。会社計画の 1 兆円(前期比 +18.7%)は、山に近い可能性もある。10 年後がどの局面に当たるかで、利益は上下に振れる。10 年で見れば、自動化の拡大が続く一方、低価格品との競争と倍率の平常化が効いてくる。
資本政策と M&A
財務は極めて保守的だ。自己資本比率は 91.5%、純現金は 5,687 億円ある。2026 年 4 月、英アクティビストのパリサーが SMC の株を取得した。2 年で 6,000 億円規模の自社株買いと、ROE 13% 超への改善を求める書簡を公表した。株価は一時 9% 上がった。市場が価値創造の余地を意識した形だ。
配当性向は 38.2% まで上げてきた。ただ 2022 年 3 月期からの増配は緩やかで、内部留保の多くは現金と金融資産のまま積み上がっている。大型 M&A はせず、自己資金で研究開発と新工場を進める方針を続けてきた。
今後の論点は一つだ。パリサーの要求に応えて大規模な自社株買いに踏み出すか。それとも現金を厚く残す経営を続けるか。前者なら、ROE は資本コストを上回る水準まで上がる。後者なら、低い ROE が株価の重荷になり続ける。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、まず事業の幅を挙げる。70 万社に分かれた顧客がいるので、特定の業界が不調でも全体は引きずられにくい。中国の半導体後工程の投資は 2026 年に入って明確に戻った。2027 年 3 月期の売上 1 兆円は、この勢いが続けば十分に届く。自動化とロボット化は、10 年のスパンで途切れない。品番の拡大と新興国での浸透が、さらに成長を支える。
最大の論点は資本配分である。パリサーが求める 6,000 億円規模の自社株買いが実行されれば、5,687 億円の純現金が株主に戻る。ROE は一気に資本コストを上回る。事業を強くする必要はなく、積み上がった現金を動かすだけで実現できる。提案に株価が 9% 上がったのは、市場がその余地を見ている証拠だ。
経営が外圧に応えて動くなら、今の株価は正当化できる。さらに上も見える、という主張だ。
筆者も、事業の質には異論がない。論点は、経営が動くかどうかと、その織り込みの度合いである。
慎重な見方
慎重な見方は、ROE の低さを突く。ROE は 8% 前後で、資本コスト並みだ。超える稼ぎがほとんど出ない状態が 10 年近く続いた。パリサーが要求を公表しても、日本の伝統的なメーカーが 2 年で 6,000 億円もの自社株買いを実行する保証はない。2022 年 3 月期からの増配は緩やかで、経営は現金を厚く残す姿勢を取ってきた。要求が通らなければ、低い ROE は株価の重荷のまま残る。
事業にも不安がある。自動車は北米、欧州、日本で設備投資の先送りが続く。中国の半導体投資の回復も、過去に何度も反転した循環の一局面にすぎない。中国や台湾の低価格メーカーは、汎用品の一部で伸びている。70 万点の品番を維持するコストも、年々重くなる。
今の PBR は 2 倍前後だ。自社株買いの実現と ROE の改善という、不確かな前提に乗っている。前提が崩れれば、優良な事業でも株価は大きく下がる、という主張だ。
どちらに重みを置いたか
事業の優良さでは、強気の見方に分がある。だが株価の正当性は、慎重な見方が重い。中立の 10 年後は、時価総額が今を下回る。還元を足して割り引いても届かない。自社株買いが実行される楽観の筋書きでも、今の株価を大きくは上回らない。
最大の分かれ目は、パリサーの要求がどこまで実現するかだ。筆者は中立に最も重みを置きつつ、資本政策が動かない下方にも相応の確率を残した。結論は割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 74,736 円4.67 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 21,097 円1.32 兆円)。 今の値に割り戻すと 53,034 円3.31 兆円、今との差 −16.6%、 期待の年率 +4.2%(資本コスト 7.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 134,144 円8.38 兆円 | 44,465 円2.78 兆円 | +181.0% | +10.9% | 21,433 円1.34 兆円 |
| やや楽観 | 22% | 109,701 円6.85 兆円 | 29,103 円1.82 兆円 | +118.3% | +8.1% | 30,537 円1.91 兆円 |
| 中立 | 32% | 80,060 円5.00 兆円 | 19,895 円1.24 兆円 | +57.2% | +4.6% | 31,986 円2.00 兆円 |
| やや悲観 | 22% | 33,407 円2.09 兆円 | 11,361 円7,096 億円 | −29.6% | −3.4% | 9,849 円6,152 億円 |
| 悲観 | 12% | 12,801 円7,995 億円 | 4,108 円2,566 億円 | −73.4% | −12.4% | 2,029 円1,267 億円 |
| 加重平均 | 100% | 74,736 円4.67 兆円 | 21,097 円1.32 兆円 | +50.8% | +4.2% | 95,834 円5.99 兆円 |
今の株価時価総額 63,570 円3.97 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 資本効率の改善が構造として定着する 利益 3,861 億円 · PER 21.7 倍 · 株価時価総額 134,144 円8.38 兆円
パリサーの要求を起点に、SMC は 10 年かけて計画的に自社株買いを続ける。株数は今の 3 分の 2 ほどまで減る。中国に加え、東南アジアやインドの自動化投資も本格化する。半導体・電子、自動車、一般産業のどれも、品番の拡大と電動アクチュエータで伸びる。
低価格メーカーには、高機能品と短納期で対抗し、世界シェアは大きく崩れない。純現金は株主へ回るが、研究開発は維持される。全社の営業利益率は 27% 台まで上がる。
ROE は 18% 台で安定する。資本配分の規律が構造として根づく、SMC にとって最も恵まれた 10 年だ。
- 半導体・電子向け:数量 93.0(半導体・電子機器関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 67(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 6,185 億円・営業利益 1,917 億円。営業利益率31.0%
- 自動車向け:数量 40.7(自動車関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 54(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,216 億円・営業利益 532 億円。営業利益率24.0%
- 一般産業機械・その他向け:数量 115(一般産業・その他分野の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 85(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 9,703 億円・営業利益 2,620 億円。営業利益率27.0%
倍率:事業の純利益 3,861 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 14.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.7 倍。全体の PER 21.7 倍、時価総額 83,784 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自社株買いが10年にわたって継続され、かつ自動化・ロボット化の構造的な成長も続くという複数の好材料が10年間揃う必要があるため確度は高くない。
やや楽観 22% 緩やかな資本効率改善と着実な成長 利益 3,321 億円 · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 109,701 円6.85 兆円
SMC は自社株買いを続けるが、要求された規模には届かない。株数は今から 25% ほど減るにとどまる。半導体・電子向けは、中国と新興国の需要で着実に伸びる。自動車向けは EV 化とともに緩やかに伸び、一般産業向けもロボット化で底堅く増える。
低価格メーカーの台頭で世界シェアはやや下がるが、高機能品を中心に優位は守られる。全社の営業利益率は 25% 台で安定する。純現金の一部を使い、ROE は 12% 弱まで上がる。
品番の拡大と新興国の販売網が成長を支える。資本効率の改善と事業の成長が、ともに着実に進む 10 年だ。
- 半導体・電子向け:数量 87.7(半導体・電子機器関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 62(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 5,481 億円・営業利益 1,589 億円。営業利益率29.0%
- 自動車向け:数量 39.7(自動車関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 52(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,082 億円・営業利益 458 億円。営業利益率22.0%
- 一般産業機械・その他向け:数量 112(一般産業・その他分野の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 81(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 8,997 億円・営業利益 2,249 億円。営業利益率25.0%
倍率:事業の純利益 3,257 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)3,450 億円。全体の PER 19.98 倍、時価総額 68,517 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自社株買いが継続されるが完全にはパリサーの要求規模に届かず、需要も新興国を中心に緩やかに伸びるという、実現性が比較的高い組み合わせ。
中立 32% 中立:事業は優良なまま、資本効率の改善は道半ば 利益 2,711 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 80,060 円5.00 兆円
中立は、事業は優良なまま、資本効率の改善が道半ばで終わる 10 年だ。SMC は増配と一定の自社株買いを続ける。それでも純現金は高水準のまま、大きくは減らない。株数は今から 18% ほど減る程度だ。
半導体・電子、自動車、一般産業の三つは、自動化とロボット化の流れで緩やかに伸びる。ただし低価格メーカーとの競争で、単価の伸びは鈍る。自動車向けの単価は、物価ほど上がらない。
全社の営業利益率は 23% 前後と、過去の平均的な水準で安定する。ROE は 10% 前後と、資本コストを 2 ポイントほど上回るにとどまる。優良企業ではあるが、特段の割安も割高もない 10 年になる。
- 半導体・電子向け:数量 82.6(半導体・電子機器関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 57(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 4,747 億円・営業利益 1,234 億円。営業利益率26.0%
- 自動車向け:数量 38.6(自動車関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 49(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,907 億円・営業利益 362 億円。営業利益率19.0%
- 一般産業機械・その他向け:数量 106(一般産業・その他分野の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 76(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 8,044 億円・営業利益 1,770 億円。営業利益率22.0%
倍率:事業の純利益 2,647 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)3,450 億円。全体の PER 17.59 倍、時価総額 50,004 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業の優良さ自体は保たれるが、資本配分の規律改善が部分的にとどまるという、日本の伝統的な資本財メーカーの実績を踏まえた中心シナリオ。
やや悲観 22% 資本効率が低いまま、低価格競争も強まる 利益 1,574 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 33,407 円2.09 兆円
パリサーの要求は結局実現せず、SMC は現金を厚く残す経営を続ける。株数は今から 7% ほど減るだけだ。中国と台湾の低価格メーカーが、汎用品でシェアを広げる。
三つの需要先とも、値下げ競争が強まる。世界シェアはやや下がり、全社の営業利益率は 15% 台まで落ちる。純現金は高水準のまま残り、ROE は 6% 前後と、資本コストを明確に下回る状態が 10 年続く。
経営の姿勢が変わらないことに、市場の失望が重なる。事業は続くが、優良企業としての評価は薄れ、資本市場の評価も低いままの 10 年になる。
- 半導体・電子向け:数量 74.7(半導体・電子機器関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 47(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,540 億円・営業利益 602 億円。営業利益率17.0%
- 自動車向け:数量 37.0(自動車関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 42(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,567 億円・営業利益 141 億円。営業利益率9.0%
- 一般産業機械・その他向け:数量 100(一般産業・その他分野の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 68(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 6,774 億円・営業利益 1,050 億円。営業利益率15.5%
倍率:ROE 5.7% が k 7% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.9 倍まで。需要が落ち、資本政策も動かないまま ROE が k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.4 割の 11.98 倍に置いた。 余った現金 3,450 億円(戻り方 0.5)を別に足した。
確率:パリサーの要求が実質的に流れ、かつ低価格メーカーとの競争でシェアと採算が緩やかに悪化するという、資本政策と事業の両方で下振れが重なる想定。
悲観 12% 構造的に優位性を失い、普通の資本財メーカーになる 利益 193 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 12,801 円7,995 億円
中国と台湾の低価格メーカーが、品質と信頼性でも追いつく。SMC の世界シェアは大きく下がる。自動車も電動化で部品の仕様が変わり、従来の空気圧部品の需要が構造的に縮む。
会社は資本政策も動かさず、純現金は高水準のまま残る。全社の営業利益率はほぼゼロ近くまで落ち、自動車向けと半導体向けの一部は赤字になる。株数はほとんど変わらず、ROE は 2% 程度にとどまる。
かつての「空気圧の世界王者」という評価は失われる。競合がひしめく普通の資本財メーカーとして、値が付く。SMC にとって最も厳しい 10 年だ。
- 半導体・電子向け:数量 63.6(半導体・電子機器関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 33(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,116 億円・営業利益 −42 億円。営業利益率-2.0%
- 自動車向け:数量 35.4(自動車関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 28(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 998 億円・営業利益 −80 億円。営業利益率-8.0%
- 一般産業機械・その他向け:数量 88.7(一般産業・その他分野の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 52(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 4,647 億円・営業利益 93 億円。営業利益率2.0%
倍率:設備投資の谷と中国勢の追い上げで、利益がほぼ消える構造悲観。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 8,000 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:低価格メーカーの技術力向上でシェアを大きく失い、かつ資本政策も動かないという複合的な下振れが10年という期間では起こりうるため相応の確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体・電子向け
半導体前工程・後工程やFPD・電子部品の生産ラインに組み込まれる空気圧シリンダー・バルブ・FAセンサなどの需要。
| 数量半導体・電子機器関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 57.0 | 41 | 2,359 | 613 |
| 10 年後 中立 | 82.6 | 57 | 4,747 | 1,234 |
取り方:会社は単一セグメント開示で需要先別の売上は非開示。中国の半導体投資回復という決算コメントと70万社の顧客基盤の広さを踏まえ、全社売上8,425.4億円のうち半導体・電子向けを28%と推定し、億ドル換算の市場規模×シェアで表した。 数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア 27.6%。
自動車向け
自動車・EV/HV工場の組立・搬送ラインに使う空気圧シリンダー・バルブ・継手などの需要。
| 数量自動車関連の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 34.5 | 42 | 1,432 | 287 |
| 10 年後 中立 | 38.6 | 49 | 1,907 | 362 |
取り方:決算コメントの「自動車関連は北米・日本・欧州で設備投資先送り、中華圏EVは底堅い」という傾向を踏まえ、全社売上のうち自動車向けを17%と推定し、億ドル換算の市場規模×シェアで表した。 数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア 27.7%。 中立でも 10 年後の価格が物価(1.34 倍)を下回るのは、中国・台湾の低価格品にシェアを少しずつ譲る(約 28% → 24.5%)と置いたため。
一般産業機械・その他向け
食品・医療・化学・工作機械・ロボットなど極めて広い顧客(70万社)に供給する汎用空気圧部品の需要。
| 数量一般産業・その他分野の工場自動化(空圧部品)需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 85.1 | 54 | 4,634 | 1,007 |
| 10 年後 中立 | 106 | 76 | 8,044 | 1,770 |
取り方:半導体・電子向けと自動車向けを除いた残り(55%)を、食品・医療・化学・ロボット・工作機械など70万社の裾野の広い顧客層への供給と見て、億ドル換算の市場規模×シェアで表した。 数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア 36.3%。
リスクと懸念
資本配分の規律
自己資本比率 91.5%、純現金 5,687 億円という状態が長く続き、ROE は資本コスト並みにとどまる。パリサーの自社株買いの要求に、経営がどこまで応えるか。それが株価の正当性を決める最大の論点だ。
需要先ごとの採算が見えない
単一セグメント開示で、半導体、自動車、一般産業の売上と採算は外から分からない。投資家の評価が、循環全体の印象に偏りやすい。
中国への依存が高まる
海外売上の 24% が中国で、直近の回復も中国の半導体投資が主因だ。中国の設備投資が反転するか、米中対立で輸出規制や関税が強まれば、回復のペースは鈍る。集中度は年々高まっている。
低価格メーカーの台頭
中国と台湾の低価格メーカーが、汎用品でシェアを広げている。高機能品と短納期で、短期的には守れる。しかし 10 年のうちに品質でも追いつかれれば、価格を決める力と世界シェアの両方がじわじわ下がる。
自動車の投資先送り
北米、欧州、日本の自動車メーカーは、電動化の見直しで設備投資を先送りしている。自動車向けの本格的な回復の時期が読みにくい。中華圏の EV 関連だけに支えられた、偏った回復になる恐れもある。
電動化による置き換え
自動化機器の電動アクチュエータ化が進めば、従来の空気圧部品が一部で電動品に置き換わる。SMC 自身も電動品を出している。ただ、価格と利益率が空気圧と同じ水準を保てるかは不確かだ。
今後の分かれ目
- パリサーの要求どおりの大規模な自社株買いが発表されたら
- 楽観とやや楽観の確率を上げてよい。実際の買い付けと ROE の改善幅を、四半期ごとに確かめる。
- 経営がパリサーの要求を実質的に退けたら
- やや悲観と悲観の確率を上げる。純現金の使い道が、内部留保の継続か配当の強化かを確かめる。
- 中国の半導体関連投資が、四半期で明確に反転し始めたら
- 急な回復は循環の一局面だったと見て、中立からやや悲観の確率を上げる。
- 中国や台湾の低価格メーカーが、高機能品でもシェアを伸ばし始めたら
- 悲観側の確率を上げ、価格を決める力の持続性を見直す。
- 品番の拡大や新興国での生産拠点の増強が加速したら
- 楽観とやや楽観の確率を上げてよい。新興国の売上比率の変化を確かめる。
- 自動車メーカーの設備投資の先送りが長引いたら
- 自動車向けの回復時期を後ろにずらし、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 自社株買いの実施規模・実施時期(パリサー・キャピタルの要求への対応)
- ROEの四半期ごとの推移と純現金残高の変化
- 中国の半導体関連投資・自動車のハイブリッド化投資の回復度合い
- 世界シェア(空気圧機器36%前後)の変化と低価格メーカーの動向
倍率と資本コストの決め方
需要先別(半導体・電子、自動車、一般産業)に、実質の市場規模にシェアと物価並みの価格を掛けて売上を積んだ。事業に要らない現金 4,600 億円(純現金から売上 1.5 か月分の運転資金を引いた額)は分け、戻り方 0.5 で足した。事業の純利益には正当化 PER(k 7%、g 4%、残る割合 2/3)の約 8.5 割を当てた。楽観は自社株買いで現金を使うので別に足さない。市場の伸びは、機械ノートの名目 3〜7% に沿わせ、実質に置き直してあるので、名目の伸びを数量と価格で二重に掛けていない。ROE が資本コストに近い中立と悲観は、倍率が低めに出る。やや悲観は稼ぐ力、悲観は純現金と売れる資産の床(約 8,000 億円)で測った。今の株価に寄せた所はない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.49→21.7 倍・やや楽観 PER 15.9→19.98 倍・中立 PER 12.9→17.59 倍・やや悲観 PER 10.8→11.98 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。需要先別の採算が非開示であることや資本政策が動かない可能性は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。
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