結論
牧野フライスは、金属を高精度で削るマシニングセンタと放電加工機の専業メーカーだ。筆者の結論は、今の株価はやや割高である。事業は堅いが、買収の話題で値段が事業の価値を上回っていると見るからだ。
強みは、航空機や金型、半導体装置の部品を削る高精度の機械と、売った後の保守である。売上の8割超が海外で、中国と米国がその大半を占める。ここが利益の源泉でもあり、最大の弱点でもある。中国のメーカーが安い機械で追い上げているからだ。
会社は営業利益率12.5%を目標に、大型機と5軸機へ軸足を移している。筆者はこの方向を正しいと見るが、10年では計画の少し手前で落ち着くと置いた。工作機械は受注の山谷が大きく、赤字に沈んだ年もあるからだ。
この数年はニデックとMBKパートナーズ系のTOBが続き、どちらも成立しなかった。会社は日本産業推進機構の提案も断った。買収の期待が値段を支えている一方、事業そのものの価値は、確率をかけた10年先から割り引くと今より低く出る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、牧野の価値は三つで決まる。堀が10年後も続くか、稼いだお金を株主に返すか、払う値段に安全域があるか。
堀は、高精度と保守の網で、中程度に強い。だが独占ではない。中国の追い上げで、汎用の領域から徐々に削られる。筆者が見るのは、削られた後に高精度の核が残るかどうかだ。残るなら、利益率は計画の手前でも安定する。
資本配分は改善途上にある。過去のROEは低く、現金が積み上がった。ただ今は還元を厚くし、純現金も使い始めた。方向は正しい。
安全域は薄い。買収の話題で値段が事業の価値を上回っているからだ。事業の価値は今より1割ほど低いと見る。買収が成立すれば別だが、成立しない案件が続いた事実は重い。優良な事業であっても、払う値段が高ければ、10年の見返りは資本コストに届かない。逆に言えば、値段が事業の価値まで下がれば、筆者は喜んで保有を考える会社だ。
何で稼ぐ会社か
牧野フライスの稼ぎ方は、機械を売り、その後の保守・部品・改造で長く稼ぐ形だ。主力は金属を削るマシニングセンタで、放電加工機も持つ。顧客は航空機のエンジン部品、自動車や家電の金型、半導体製造装置の部材を作る工場である。
売上の約87%は海外で、中国と米国が大きい。海外の拠点は販売と保守を兼ね、顧客の工場の近くで機械を支える。日本の売上は1割強にとどまる。地域別では中国が最大で、そこに米国が続き、米国は航空宇宙と医療の需要が支えている。
会社の戦略は、1台あたりの値段が高い大型機と5軸機の拡充だ。5軸機は、刃物を複数の向きから当てて複雑な形を一度に削れる。会社は2029年度に売上2,900億円、営業利益率12.5%を掲げた。日本の工場の能力を上げ、新工場も稼働させる。
保守・部品の収入は開示で切り出されていない。景気が悪い年でも、すでに納めた機械は動き続け、部品と点検の需要は残る。筆者は売上の4分の1ほどと推定した。稼働している機械の台数に比例して増えるため、利益は機械の販売より安定する。この厚みが谷での下支えになる。
優良さと弱いところ
牧野の堀、つまり他社がまねできない強みは、高精度の加工技術と、世界に広がる保守の網にある。航空機のチタン合金や難削材、金型の精密加工では、牧野の名は通る。機械の精度と寿命が評判になり、顧客は買い替えでも牧野を選びやすい。
弱点は価格を自由に決めにくいことだ。世界にはヤマザキマザック、DMG森精機、オークマ、米国のハース、台湾や中国の多数のメーカーがいて、汎用の機械は値段で競う。中国の自給率が上がる中で、牧野が守れる領域は高精度・大型・難削材に絞られる。
資本効率は低めだった。過去10年のROEの中央値は7%で、資本コストに届かない年が多い。営業利益率も2021年3月期は赤字だった。直近は9%台まで戻ったが、まだ会社目標には遠い。
財務は健全だ。純現金で、自己資本比率は6割を超える。借金の心配がなく、不況期にも研究開発の手を止めずに済む。筆者は、財務の強さより、利益率を目標に近づけられるかが、この会社の価値を決めると見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
工作機械の需要は、今は強い。日本工作機械工業会によれば、2026年上期の受注は前年同期から35.7%伸び、外需が7割を超える。牽引役はAI向けのデータセンター投資に連動する半導体・電子部品向けと、製造業の自動化だ。人手不足も、無人で動く機械への投資を後押ししている。
一方、中国と自動車向けは弱い。中国は補助金で国産化を進めており、安い機械の品質が年々上がる。汎用機の値段が下がり、いずれ高精度帯にも波及する恐れがある。これが牧野にとって最大の構造的な逆風になる。需要の総量が伸びても、中国で取れる量は減りうる。
循環の大きさも見ておく必要がある。受注は景気で大きく振れ、2009年や2020年、2021年には牧野も大幅に利益を落とした。今回は航空宇宙とAI関連という構造的な追い風があり、谷は前より浅い可能性はある。それでも、山の利益を永遠に続くものとは置けない。
世界の需要は10年で見れば実質で年に3〜5%伸びると見るのが業界の標準だ。ここから中国の自給の分を差し引き、牧野の台数の伸びは、それより低い年2〜3%を中心に考えた。
資本政策と M&A
還元は拡大している。会社は2026年3月期から2030年3月期の総還元性向の平均を60%と掲げる。2027年3月期の配当は増額を予定し、2026年7月には60億円の自社株買いも決めた。純現金と厚い自己資本を、利益の伸びより早く減らしていく姿勢は、はっきりしている。
資本政策で最大の話題は買収の動きだ。ニデックが2024年末に提案し、会社は賛同しなかった。その後、MBKパートナーズ系のMMホールディングスが全株のTOBを計画し、会社は賛同した。だが2026年4月、外為法に基づく政府の中止勧告を受けて契約を解除した。
2026年7月には日本産業推進機構の提案を、外国投資家の出資を含み実現に懸念があるとして断った。会社は価格を開示していない。6月の総会では、株主から自社株買いの提案も出たが、賛成7.01%で否決された。
筆者は、買収の可能性を無視はしない。ただ、外為法の壁は高く、成立しない案件が続いた。10年の筋書きは、買収の上乗せを入れず、事業の価値で置いている。
点検済み:中立の営業利益率11.8%は、会社の中期計画(2029年度に12.5%)と27・28年3月期予想(10.0〜10.5%)の間で、計画の売上2,900億円にも届かない前提。利益率は3年連続で改善している。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
牧野は高精度の5軸機で、航空宇宙と半導体の最も難しい加工を受け持つ会社だ。AI投資で半導体装置の需要が伸び、航空機の生産も回復している。この二つは中国の安い機械が入り込みにくい領域である。牧野は創業以来、難しい材料と複雑な形を削る機械で評価を築いてきた。
会社は大型機・5軸機を2023年度の倍近い約700億円に伸ばす計画を掲げ、日本の生産能力を2割近く増やす。新工場も動き出す。計画の営業利益率12.5%は、直近の9%台から見れば遠いが、機種の高級化と保守の厚みで十分に届く水準だ。
さらに、保守・部品の収入は稼働台数に比例して増え、景気に左右されにくい。純現金があり、不況期にも設備を絞らずに済む。還元も総還元性向60%へ引き上げており、自己資本の圧縮でROEも上がる。
買収の相手が何度も現れたこと自体が、この事業の価値の高さを示している。ニデック、MBK、日本産業推進機構と、複数の相手が名乗りを上げた事実は軽くない。事業を見る目の確かな相手が、高い価値を認めたことになる。
慎重な見方
工作機械は景気で大きく振れる業種で、牧野は2021年3月期に赤字に沈んだ。直近の好調も、AI投資と航空機という限られた需要に支えられている。この波が止まれば、受注は急に細る。
売上の4割弱を占める中国は、国産化の方針で自給率を上げており、安い機械が品質を上げて中級機を取りにくる。牧野の高精度帯にも、いずれ波が及ぶ。台湾メーカーも価格で迫る。世界の需要が伸びても、牧野の台数が伸びるとは限らない。人手不足で自動化が進んでも、その受け皿は安い機械になりうる。
計画の営業利益率12.5%は過去最高の水準で、一度も届いていない。ROEは長く資本コストを下回ってきた。会社の計画は、過去の実績から見て楽観に過ぎる。
買収の期待は値段に織り込まれているが、外為法の勧告で成立しない案件が続いた。日本産業推進機構の提案も断られた。次の買い手が出る保証はなく、今の値段は事業の価値より高い。値段が事業の価値まで戻る場面を、慎重な見方は想定する。
どちらに重みを置いたか
事業の質は高く、方向も正しい。だが強気の見方は、計画の利益率が届くことと、買収の期待が続くことを前提にしている。慎重な見方の、中国の追い上げと過去の実績の弱さは、否定しにくい。筆者は、中立の確率を3割台半ばに置き、悲観側にやや厚く配った。10年の価値は今の時価総額を1割ほど下回り、やや割高と出た。買収が成立すれば別の話だが、成立の見込みは織り込んでいない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,331 円6,208 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,515 円1,765 億円)。 今の値に割り戻すと 3,501 円4,077 億円、今との差 +11.1%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 10,242 円1.19 兆円 | 2,208 円2,571 億円 | +295.2% | +14.7% | 1,494 円1,740 億円 |
| やや楽観 | 23% | 7,742 円9,015 億円 | 1,863 円2,170 億円 | +204.9% | +11.8% | 2,209 円2,573 億円 |
| 中立 | 35% | 5,378 円6,262 億円 | 1,528 円1,779 億円 | +119.2% | +8.2% | 2,417 円2,814 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,854 円2,159 億円 | 1,096 円1,276 億円 | −6.4% | −0.7% | 590 円687 億円 |
| 悲観 | 10% | 687 円800 億円 | 680 円792 億円 | −56.6% | −8.0% | 137 円159 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,331 円6,208 億円 | 1,515 円1,765 億円 | +117.4% | +8.1% | 6,847 円7,973 億円 |
今の株価時価総額 3,150 円3,668 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 日本の工場が受け皿になり、5軸の大型機で世界の高付加価値帯を取り切る 利益 725 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 10,242 円1.19 兆円
航空機のエンジン部品、半導体装置の部材、EV向けの大型金型。この三つの需要が10年にわたって重なり、5軸の大型機が売上の中心に育つ。台数は今の6割増しまで伸び、機種の大型化で1台あたりの値段も物価を上回る。販売後の保守・改造も稼働台数とともに広がり、利益率の高い収入が厚くなる。新工場の稼働で納期が縮み、受注を取りこぼさない。会社が掲げる営業利益率12.5%を超える水準が定着し、総還元性向60%も守られる。他社が大型機でも勝てない領域をつくり、堀、つまり他社がまねできない強みが今より広がる10年になる。
- 工作機械本体(マシニングセンタ・放電加工機):数量 6,400(年間の販売台数(台))× 価格 145(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 4,547 億円・営業利益 637 億円。台数6400台・価格指数145
- 保守・部品・改造:数量 85,000(稼働している当社の機械の台数(台))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,289 億円・営業利益 271 億円。稼働機85000台・価格指数140
倍率:事業の純利益 725 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.45 倍、時価総額 11,926 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:航空宇宙・半導体・金型の三つが同時に10年強く、中国の追い上げも5軸の高精度帯には届かない必要がある。条件が多いので1割強にとどめた。
やや楽観 23% 5軸と保守の厚みが効き、会社計画に近い成長が続く 利益 579 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 7,742 円9,015 億円
大型機・5軸機の拡充が計画どおり進み、航空宇宙向けの比率が高まる。中国向けは台数を保つが、伸ばすのは難しい。米州とインドの売上が育ち、地域の偏りがやわらぐ。保守・部品の収入は稼働台数に沿って安定して増える。営業利益率は会社計画の12.5%にほぼ届く。還元は純利益の5割台半ばで続き、自己資本はゆるやかに増えるにとどまる。ROEは資本コストを大きく上回って定着する。ただし為替も市況も、この10年は動かないものとして置いており、受注の波は平均して均される。強い会社が計画を堅実に果たした10年、という姿である。
- 工作機械本体(マシニングセンタ・放電加工機):数量 5,800(年間の販売台数(台))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 3,979 億円・営業利益 497 億円。台数5800台・価格指数140
- 保守・部品・改造:数量 78,000(稼働している当社の機械の台数(台))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,158 億円・営業利益 232 億円。稼働機78000台・価格指数137
倍率:事業の純利益 579 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.57 倍、時価総額 9,015 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の長期計画に近い道筋で、航空宇宙と金型の底堅さを素直に延ばした形。計画の実現にはなお実績の積み上げが要るため、中立より少し低くした。
中立 35% 計画の9割を果たす:5軸化で利益率は上がるが、中国で台数は伸びない 利益 437 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 5,378 円6,262 億円
世界の工作機械需要は年に3%前後で伸びるが、中国は自給率が上がり、牧野にとって最大の市場が先細る。結果として、牧野の台数は世界の伸びを下回る。それでも5軸・大型機への切り替えで、1台あたりの値段は物価並みを保つ。保守の収入は稼働台数の増加にそって伸び、全体の利益率を押し上げる。営業利益率は計画の12.5%に届かず、12%弱で落ち着く。10年のうちには受注の山と谷があり、平均すれば計画の少し手前になる。還元は純利益の5割台半ばで、自己資本は増え続ける。堀は保たれるが広がりもしない。会社は計画の旗を降ろさず、地道に利益率を上げ続ける。優良な専業メーカーとして普通に稼ぎ続ける10年である。
- 工作機械本体(マシニングセンタ・放電加工機):数量 5,200(年間の販売台数(台))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 3,414 億円・営業利益 358 億円。台数5200台・価格指数134
- 保守・部品・改造:数量 72,000(稼働している当社の機械の台数(台))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,045 億円・営業利益 199 億円。稼働機72000台・価格指数134
倍率:事業の純利益 437 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.33 倍、時価総額 6,262 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画をそのままは信じず、利益率は計画の手前、台数の伸びは世界の工作機械需要の下限寄りに置いた。循環で業績が山と谷を行き来する前提を含めた中心の姿。
やや悲観 20% 中国メーカーが中級機を押さえ、牧野は高精度の狭い領域に追われる 利益 254 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,854 円2,159 億円
中国の工作機械メーカーが技術を上げ、中級機の値段をさらに下げる。補助金に支えられた国産機が、日本勢の取り分を年々奪っていく。牧野の中国向け台数は減り、世界の台数は今より1割強増えるにとどまる。値段も競争で物価の伸びに届かない。高精度の金型向け、航空宇宙向けは守るが、守れる範囲は狭まる。会社の新工場や増えた生産能力は、使い切れない。保守の収入は稼働台数の伸び悩みで増えにくい。営業利益率は10%を割り込み、ROEは資本コストを下回る年が続く。それでも赤字には落ちない。事業の核は残るが、もう優良とは呼びにくく、還元も控えめになる10年である。
- 工作機械本体(マシニングセンタ・放電加工機):数量 4,500(年間の販売台数(台))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 2,756 億円・営業利益 193 億円。台数4500台・価格指数125
- 保守・部品・改造:数量 66,000(稼働している当社の機械の台数(台))× 価格 130(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 929 億円・営業利益 149 億円。稼働機66000台・価格指数130
倍率:ROE 7.0%がk 8%以下で、ためた利益は額面を下回る価値なのでPERは1÷k=11.8倍まで。稼ぐ力から、中国の追い上げで利益の質が落ちるぶん上限の7割強に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 2,159 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国の自給率上昇は進行中の事実であり、牧野の売上の3分の1強は中国。中級機での値下げ圧力が高精度帯にも及ぶ形を、2割に置いた。
悲観 10% 中国・台湾勢の技術的な追い上げで構造的に台数と値段を失い、稼ぐ力が細る 利益 54 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 687 円800 億円
中国・台湾の工作機械メーカーが5軸機でも実用水準に達し、世界の中堅需要を取っていく。牧野は大型・5軸の一部にしか居場所がなくなる。台数は今の4分の3、値段も物価の伸びに届かず、実質ではむしろ下がる。新工場や海外の生産拠点が余り、固定費が利益を食う。会社は大型機の増産を前提に能力を増やしたが、その需要が来ない。保守の収入も稼働台数の頭打ちで伸びない。営業利益はほぼ消え、ROEは2%を割る。厚い手元資金が支えになるので、会社が傾くことはないが、堀はすでに削られている。もう優良な会社とは言えない10年である。
- 工作機械本体(マシニングセンタ・放電加工機):数量 3,000(年間の販売台数(台))× 価格 108(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,588 億円・営業利益 16 億円。台数3000台・価格指数108
- 保守・部品・改造:数量 55,000(稼働している当社の機械の台数(台))× 価格 115(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 685 億円・営業利益 82 億円。稼働機55000台・価格指数115
倍率:中国・台湾勢に追いつかれ、稼ぐ力(純利益÷k)は約640億円まで細るが、売れる資産の税後の床が約800億円とそれを上回る。稼ぐ力ではなく、この床を今の自己資本2,611億円で割った値を使った。
確率:高精度帯まで中国勢が追いつき、同時に半導体・航空宇宙の投資が長く止まる必要があるが、10年のうちには起こりうるため1割に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
工作機械本体(マシニングセンタ・放電加工機)
航空機・金型・半導体装置の部品を削る5軸機・大型機などの機械本体の販売。
| 数量年間の販売台数(台) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 100 | 1,960 | 150 |
| 10 年後 中立 | 5,200 | 134 | 3,414 | 358 |
取り方:売上2,612億円のうち、保守・部品を約650億円(4分の1)と推定し、残る約1,960億円を機械本体とした。台数は中国の生産1,075台、日本の能力3,300台前後などの会社の公表から、全体で年に約4,000台と推定(開示なし)。1台あたり約5,000万円は、5軸機DA500の定価5,500万円と整合する。利益は本社費を引く前の推定。
保守・部品・改造
稼働している機械の保守・部品交換・改造・周辺機器の収入。
| 数量稼働している当社の機械の台数(台) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60,000 | 100 | 650 | 120 |
| 10 年後 中立 | 72,000 | 134 | 1,045 | 199 |
取り方:開示は無く、売上の4分の1を650億円と推定。稼働台数約6万台は過去数十年の販売の累計から廃棄を引いた推定で、1台あたり年に約100万円の保守・部品となる。利益率は機械本体より高い18%台と推定。
リスクと懸念
中国の自給率上昇
売上の約3分の1強を占める中国で、国産機の品質が上がっている。汎用機の値段が下がる流れが高精度帯に及べば、台数と利益率の両方が削られる。会社の最大の構造的な弱点である。
受注の循環
工作機械は景気と設備投資で受注が大きく振れる。牧野は2021年3月期に赤字、2010年3月期にも大幅な赤字を出した。今の航空宇宙・AI関連の好調が一服すると、利益は急に落ちる。
計画の利益率に届かない恐れ
会社は2029年度に営業利益率12.5%を掲げるが、過去最高でも約12%だった。大型機・5軸機への切り替えが、価格競争の中で本当に利益率を上げるかは、実績で見るしかない。
買収期待の剥落
ニデック、MBKパートナーズ系、日本産業推進機構と買い手が続いたが、いずれも成立していない。外為法の中止勧告が前例になり、次の買い手が現れにくくなれば、値段を支えてきた期待が剥がれる。
ガバナンスと株主の関係
2026年6月の総会では、株主の自社株買い提案が賛成7.01%で否決された。会社は買収交渉中を理由に反対したが、交渉が終わった後、還元の方針が株主の納得を得られるかが問われる。
為替と地域の偏り
売上の約87%が海外で、為替を150円で固定した前提から外れると利益は動く。中国と米国への依存が大きく、どちらかの需要が崩れた時の落差も大きい。
今後の分かれ目
- 中国メーカーの5軸機が高精度帯でも実用水準に達する
- 牧野の台数と値段が構造的に下がり、悲観の筋書きに近づく
- 営業利益率が12%を超える年が複数続く
- 大型機・5軸機の切り替えが利益に表れたことになり、強気の筋書きに寄る
- 航空宇宙とAI関連の設備投資が2027年以降も衰えない
- 受注の山が長引き、10年の利益の出発点が上がる
- 外為法の運用が緩み、国内外の買い手が現れる
- 事業の価値とは別に、買収で時価総額が上振れする可能性が出る
- 工作機械受注が前年比で2桁減に転じ、中国向けの回復が見えない
- 利益が急に落ち、循環の谷の筋書きが近づく
- 自社株買いと配当が総還元性向60%の水準を超えて続く
- 自己資本が膨らまず、ROEが資本コストを安定して超える
見ておくもの
- 日本工作機械工業会の月次受注(外需・中国向けの動き)
- 牧野の営業利益率と、大型機・5軸機の売上比率
- 中国メーカーの5軸機の性能と、価格帯の動き
- 総還元性向と自己資本の推移(60%の目標が守られるか)
- 買収を巡る外為法の運用と、新たな提案の有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(買収の期待を含む)を見ずに、その時点のROEと資本コスト8%(基本7.5%+循環+1.0%)から正当化PERを出し、楽観〜中立は上限の8〜8.5割に置いた。受注の山谷が大きい資本財なので上限すれすれにはしていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)と、売れる資産の税後の床(約800億円)の大きい方で測った。買収が成立する筋書きは時価総額に入れず、事業の価値だけで置いた。過去や同業の倍率は使っていない。純現金274億円は時価総額の7%で1割に届かず分けていない。リースは店舗型でなく影響は小さく、新リース会計基準の形の変化は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.8→16.45 倍・やや楽観 PER 12→15.57 倍・中立 PER 11.8→14.33 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本7.5%+quality +1.0%=8.5%。買収提案や外為法の件は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。