結論
西部電機は、ワイヤ放電加工機、物流の立体自動倉庫、バルブの電動駆動装置を作る福岡の機械メーカーだ。売上は 390 億円ほどで、三つの事業はほぼ同じ大きさに近い。最大の稼ぎ手は、金属を細い電線で切る放電加工機の精密機械事業である。
筆者の結論は、事業は堅実だが値段に余裕がない、というものだ。総合はやや割高(−22%)になった。理由は、足もとの営業利益率 10.7% が過去 12 年でも山の水準にあることだ。景気の山の利益に 10 年分の倍率を払う形になっている。
前期の純利益 35 億円には、政策保有株の売却益が含まれる。今期の会社計画は 30 億円で、こちらが平常の姿に近い。
救いは財務だ。純現金は 96 億円で、自己資本比率は 68% ある。配当は純資産の 4% を目安に出す方針で、株主への還元は厚くなる。ただ、自己資本が積み上がるため、ROE は 8% 弱と資本コストを下回りやすい。中立の 10 年後は、時価総額も還元も増える。だが資本コストで割り引くと、今の時価総額に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業は悪くない。精密機械の指名買い、産業機械の高い利益率、物流の長期的な追い風がある。財務は堅く、経営はむりをしない。
問題は、払う値段が 10 年の利益の平常化に対して安全域を持つかどうかだ。今の営業利益率 10.7% は、過去 12 年で最も高い水準にある。ここで稼ぎを高く見積もると、10 年後に失望する。筆者は、平常は 9〜10% とみる。
資本の使い方にも課題がある。配当は純資産の 4% 目安で、自己資本は積み上がる。ROE は資本コストを下回りやすく、ためた現金が、ためた額どおりの価値を生まない。
安全域は、ほとんどない。事業は持ち続けたいが、この値段ではない。それが筆者の結論である。
見直す条件は二つある。精密機械の利益率が山でなく構造として 11% を保つと確かめられること。もう一つは、現金と有価証券を株主へ戻す具体策が出ることだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つある。
一つ目は精密機械事業で、売上の 47% を占める。ワイヤ放電加工機は、電線に電気を流して金型や部品を細かく切り出す機械だ。同社は 1972 年に、世界で初めてコンピュータ制御のワイヤ放電加工機を作った。精度の高さに定評がある。2024 年には新工場を建て、生産能力を 1.5 倍にした。米国では、持分 49% の関連会社を通じて売る。
二つ目は搬送機械事業で、売上の 34% だ。立体自動倉庫や、荷物を仕分ける搬送システムを作る。顧客は大手の機械メーカー、物流会社、食品会社が中心だ。物流の人手不足が追い風になっている。
三つ目は産業機械事業で、売上の 18% だ。水・電力・ガスなどのバルブを動かす電動の駆動装置とゲート駆動装置を作る。防衛省向けの護衛艦用の納入実績もある。
会社は 1927 年の創業で、2027 年に 100 周年を迎える。
売上の地域では、国内が中心である。受注型の事業が多く、納めたあとの保守・部品も収益になる。放電加工機は、機械本体だけでなく消耗品や修理でも稼ぐ。ただし、保守収益の割合は開示されていないため、数字では確かめられない。
優良さと弱いところ
強みは、三つの事業が景気の波を少しずつずらすことだ。放電加工機は製造業の設備投資に、搬送は物流の投資に、バルブ駆動装置は社会インフラと防衛に動く。一つが悪くても、全体の利益が崩れにくい。
産業機械の営業利益率は 14% 台と高い。ニッチで、切り替えにくい製品だからだ。精密機械は、精度を売りに価格を保ってきた。ただ、利益率は 10 年前の 6〜7% から 11% に急に上がったばかりで、この水準が続くかは試されていない。搬送は 8〜10% の間を行き来する。
弱みは、規模が小さいことだ。放電加工機は、ソディックや三菱電機、ファナック、そして中国勢との競争にある。搬送は、国内首位のダイフクなど大手が壁になる。
財務は堅い。純現金 96 億円、自己資本比率 68%、借入は 4 億円だ。経営は堅実だが、資本効率を上げる動きはまだ緩やかだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
放電加工機の世界市場は、調査会社によって 20 億〜34 億ドルと推計がばらつく。年 5〜6% の成長との見方が多いが、これは金額の名目で、実質では 2〜3% に当たる。需要の中心は、自動車と電機の金型、半導体・電子部品、航空宇宙だ。足もとは、AI 関連の設備投資で好調である。
競争は厳しい。日本勢のほか、スイスの GF、台湾、中国勢がいる。中国勢は中級機で価格を下げて広げている。高精度機の領域は日本勢が守っているが、10 年で追いつかれる余地はある。
物流自動化は、人手不足とネット通販を背景に、構造的に伸びる市場だ。ただ、案件ごとの競争で、価格に余裕は少ない。バルブの電動駆動は、国内の更新需要と防衛に支えられた安定市場だ。
循環の位置は、放電加工機が山に近く、物流は高い水準にある。10 年後の利益は、この山の水準をどれだけ保てるかで決まる。
工作機械全体では、日本工作機械工業会の受注が、AI 関連のデータセンター投資に押されて急増している。放電加工機もその恩恵を受けるが、中国向けと自動車向けは弱い。この山が 10 年続くとは、筆者は見ない。
資本政策と M&A
配当は、2025 年 3 月期から、純資産の 4% を目安に出す方針だ。今期の配当性向は 36%、来期は 45% に上がる計画である。自社株買いは目立った実績がない。
中期計画「Seibu Vision 2027」は、2028 年 3 月期に売上 400 億円、営業利益 52 億円、営業利益率 13%、ROE 10% を掲げる。売上は前期でほぼ到達した。利益率の 13% が課題だ。
政策保有株は売却を進めており、前期の利益を押し上げた。投資有価証券はなお 61 億円ある。
大株主には、シンプレクス・アセット・マネジメントがいる。2023 年末の報告では保有割合が 25.8% だった。最新の持ち分は確かめられていない。大型の買収はなく、設備は自己資金でまかなう。TOB の可能性は、時価総額 389 億円の規模なら無視できない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、まず足もとの勢いを挙げる。前期の受注は過去最高で、今期の計画は 14.7% の増加だ。放電加工機は新工場の稼働で供給が増え、AI 投資と航空宇宙向けの高精度加工が追い風になる。
搬送は人手不足で自動化の需要が続く。産業機械は防衛と更新需要が支える。三つの事業は、互いに違う波を持つので、利益は崩れにくい。
会社は 2028 年 3 月期に営業利益率 13%、ROE 10% を掲げる。売上の目標はほぼ達成した。残る利益率の改善は、生産能力の増強と値上げで実現できる。大株主もいて、資本効率の改善を求める圧力は続く。
純現金が 96 億円あり、配当は純資産の 4% を保つ。還元が厚くなれば、ROE は 10% に届く、という主張だ。
放電加工機の世界市場は年 5% 前後で伸びるとの推計がある。半導体の後工程や電動車の部品では、加工の精度要求がさらに上がる。精度で定評のある同社には追い風だ。
慎重な見方
慎重な見方は、利益率の高さを突く。精密機械の営業利益率は 7% 前後から 11% に跳ね上がったばかりだ。製造業の設備投資が、AI 投資で一時的に強まっただけとも読める。会社計画の営業利益 44 億円は、純利益で前期より 15% 減る。
放電加工機は中国勢が追い上げる。中級機で値を下げられれば、高精度機でも圧力を受ける。搬送は、ダイフクのような大手に比べ規模が小さく、大型案件で採算を崩しやすい。
資本の使い方も遅い。純現金 96 億円と投資有価証券 61 億円は、自己資本比率 68% の厚い貸借対照表に眠る。配当の 4% 方針では、自己資本が積み上がり、ROE は 8% 弱にとどまる。
山の利益に倍率を掛けた値段は高い、という主張だ。
会社が掲げる 13% の利益率は、過去のどの年も超えたことのない水準だ。純現金の厚みも、事業に使う分を除けば、戻りは配当の範囲にとどまる。10 年後に払う倍率は、ROE の低さで 11 倍台が上限になる。
どちらに重みを置いたか
事業の質は強気の見方に分がある。だが、値段の正当性は慎重な見方が重い。中立の 10 年後は、時価総額も還元も増えるが、割り引くと今の水準に届かない。
確率は中立に最も厚く置き、中国勢の追い上げと景気の谷を考えて、やや悲観にも楽観より多めに置いた。結論はやや割高である。
最大の分かれ目は、精密機械の利益率が山か構造かである。山の側に重みを置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,745 円563 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,075 円162 億円)。 今の値に割り戻すと 2,466 円371 億円、今との差 −5.1%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 6,570 円988 億円 | 1,663 円250 億円 | +216.8% | +12.2% | 741 円111 億円 |
| やや楽観 | 21% | 5,026 円755 億円 | 1,391 円209 億円 | +146.9% | +9.5% | 1,348 円203 億円 |
| 中立 | 35% | 4,087 円614 億円 | 1,124 円169 億円 | +100.5% | +7.2% | 1,824 円274 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,103 円316 億円 | 838 円126 億円 | +13.2% | +1.2% | 677 円102 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,530 円230 億円 | 393 円59 億円 | −26.0% | −3.0% | 231 円35 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,745 円563 億円 | 1,075 円162 億円 | +85.5% | +6.4% | 4,820 円724 億円 |
今の株価時価総額 2,599 円391 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 三本柱がそろって伸び、利益率も 2 桁後半へ 利益 64 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 6,570 円988 億円
物流の人手不足は 10 年続き、立体自動倉庫と仕分けの引き合いは途切れない。搬送は大手が取りこぼす中堅の案件を拾い、国内のシェアを少しずつ上げる。
精密機械は、半導体・電子部品・航空宇宙向けの高精度加工で指名買いが増える。米国の持分法会社を通じた販売も伸び、世界シェアが 1 割強まで上がる。生産能力の増強は、需要に追いつく。
産業機械は、防衛向けとインフラ更新で受注が安定して増える。
全社の営業利益率は 13% 台に乗る。会社が掲げる目標を、恒常的に達成した姿だ。配当は純資産の 6% 近くまで増え、自己資本の積み上がりも抑えられる。
- 搬送機械:数量 75.0(国内の物流自動化(自動倉庫・仕分け・搬送)市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 3.30(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 248 億円・営業利益 27 億円。営業利益率11.0%
- 産業機械:数量 9.0(国内のバルブ・ゲート電動駆動装置市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 110 億円・営業利益 17 億円。営業利益率15.5%
- 精密機械:数量 15.6(世界のワイヤ放電加工機市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 22(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 344 億円・営業利益 43 億円。営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。全体の PER 15.17 倍、時価総額 988 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:搬送の自動化需要、精密の放電加工機の海外拡大、産業機械の防衛・更新需要が 10 年重なり、会社が掲げる営業利益率 13% を超えて保つ必要がある。条件が多く、確率は 1 割を切る。
やや楽観 21% 搬送と精密が堅調に伸び、利益率は 11% 近くへ 利益 51 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 5,026 円755 億円
物流自動化の需要は堅調で、搬送の受注は実質で年 2% ほど増える。精密機械は新工場の稼働で供給が追いつき、放電加工機の販売台数が伸びる。
産業機械は、防衛や水・エネルギーのインフラ向けが底堅い。
価格は物価並みに上がり、部材と人件費の上昇は転嫁できる。全社の営業利益率は 11% 前後で安定する。会社が掲げる 13% には届かない。
配当は純資産の 5% ほどに高まり、現金は少しずつ株主へ戻る。自己資本は増えるが、利益の伸びがそれを上回り、ROE は 10% に近づく。
産業機械と搬送の保守収益も、安定して積み上がる。
- 搬送機械:数量 72.0(国内の物流自動化(自動倉庫・仕分け・搬送)市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 3.12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 225 億円・営業利益 23 億円。営業利益率10.0%
- 産業機械:数量 8.6(国内のバルブ・ゲート電動駆動装置市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 103 億円・営業利益 15 億円。営業利益率14.8%
- 精密機械:数量 14.4(世界のワイヤ放電加工機市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 21(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 306 億円・営業利益 32 億円。営業利益率10.5%
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。全体の PER 14.16 倍、時価総額 750 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足もとの受注(前期比 +10.8%、今期計画 +14.7%)と増強した精密の生産能力が後ろ盾になる。会社計画の達成に近い形で、実現しやすい組み合わせ。
中立 35% 実質では横ばいに近く、名目で物価並みに伸びる 利益 42 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 4,087 円614 億円
中立は、物価の分だけ名目で伸びる 10 年だ。売上は 570 億円ほどに増えるが、実質では 1 割強の増加にとどまる。
搬送は人手不足を背景に着実に伸びる。ただ、大手との競争があり、利益率は 9% 前後で動かない。精密機械は放電加工機の需要が増えるが、足もとの利益率 11% は景気の山の水準で、平常は 9% 前後に戻る。産業機械は 14% の高めの水準を保つ。
配当は純資産の 4% を目安にする方針どおり、利益の 4 割ほどが株主へ回る。現金は大きくは増えず、ROE は 8% 弱にとどまる。優良とまでは言えない、堅実な中小の機械メーカーだ。
- 搬送機械:数量 67.2(国内の物流自動化(自動倉庫・仕分け・搬送)市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 2.95(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 198 億円・営業利益 18 億円。営業利益率9.0%
- 産業機械:数量 8.4(国内のバルブ・ゲート電動駆動装置市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 98 億円・営業利益 14 億円。営業利益率14.0%
- 精密機械:数量 13.2(世界のワイヤ放電加工機市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 20(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 270 億円・営業利益 25 億円。営業利益率9.2%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。全体の PER 13.43 倍、時価総額 584 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今の利益率は過去 12 年の山に近い。会社計画より控えめに置くのが妥当で、物価並みの成長と、利益率の平常化を落としどころにした。
やや悲観 23% 放電加工機で中国勢に押され、利益率が 7% 台へ 利益 29 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,103 円316 億円
中国勢が、中級のワイヤ放電加工機で値を下げて広げる。西部電機は高精度機に絞って守るが、世界シェアは 1 割弱に下がる。
搬送は、人手不足の追い風を受けても、価格競争で採算が悪化する。大型の案件で原価がふくらむ年も混じる。産業機械は防衛向けが支えるが、成長は止まる。
全社の営業利益率は 7% 台に落ちる。現金の一部は、不採算の案件と設備更新に消える。
配当は純資産の 3% に落とさざるをえない。ROE は 5% 台で、資本コストを大きく下回る。
手元の現金は厚いので、事業は続く。ただ、成長の投資を絞らざるをえず、10 年後には普通の中堅機械メーカーになっている。
- 搬送機械:数量 60.0(国内の物流自動化(自動倉庫・仕分け・搬送)市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 2.77(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 166 億円・営業利益 13 億円。営業利益率7.5%
- 産業機械:数量 8.0(国内のバルブ・ゲート電動駆動装置市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 11(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 91 億円・営業利益 11 億円。営業利益率12.5%
- 精密機械:数量 12.0(世界のワイヤ放電加工機市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 18(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 221 億円・営業利益 15 億円。営業利益率7.0%
倍率:ROE 5% 台が k 8% を下回るため、PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。稼ぐ力が落ち、受注も細る構造的な負けの筋書きなので、上限の 7 割強に置いた。余った現金は谷で減り、0.75 倍の 34 億円(戻り方 0.5)を別に足した。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 269 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:放電加工機は中国勢の追い上げが続く。設備投資の谷も 10 年に一度は来る。事業の質が一段落ちる筋書きで、中立に次ぐ確率を置く。
悲観 12% 放電加工機の優位を失い、受注型の普通の会社へ 利益 7 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 1,530 円230 億円
中国勢が高精度機でも品質で追いつく。放電加工機は値下げ競争に巻き込まれ、精密機械は赤字に近づく。世界シェアは 7 割ほどに縮む。
搬送では、大型の自動倉庫案件で工程の遅れと原価超過が重なる。取引先は他の大手へ流れる。産業機械も、防衛や公共の更新需要が一巡して伸びが止まる。
全社の営業利益率は 3% を切り、利益はほとんど残らない。
手元の現金と持ち合い株を売って赤字を埋め、配当は大きく減らす。残るのは、現金と有価証券、工場の資産だ。稼ぐ力ではなく、売れる資産で値が付く。
10 年前の利益水準には戻らず、市場は事業でなく資産に値を付ける。
- 搬送機械:数量 51.0(国内の物流自動化(自動倉庫・仕分け・搬送)市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 2.42(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 123 億円・営業利益 4 億円。営業利益率3.0%
- 産業機械:数量 7.2(国内のバルブ・ゲート電動駆動装置市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 11(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 76 億円・営業利益 6 億円。営業利益率8.0%
- 精密機械:数量 9.6(世界のワイヤ放電加工機市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 15(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 147 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.0%
倍率:放電加工機の優位を失い、稼ぐ力がほぼ消える構造的な負けの筋書き。純現金と売れる資産の税後を床にした。約 230 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:中国勢が高精度機でも追いつき、物流の大型案件で損失が出る。複合した負けだが、10 年あれば起こりうる。確率は 1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
搬送機械
立体自動倉庫、仕分け・搬送システム、FA システム。物流・食品・機械メーカー向け。
| 数量国内の物流自動化(自動倉庫・仕分け・搬送)市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 2.20 | 132 | 11 |
| 10 年後 中立 | 67.2 | 2.95 | 198 | 18 |
取り方:搬送機械の売上 131.95 億円、営業利益 11.42 億円(利益率 8.7%)。開示は金額のみなので、国内の物流自動化市場を約 60 億ドル(9,000 億円)と筆者が推定し、当社のシェアを 1.5% と置いた。数量は実質の市場規模、物価の分は価格に入れた。
産業機械
水・電力・ガス・石油向けバルブの電動駆動装置とゲート駆動装置。防衛省向けも納入。
| 数量国内のバルブ・ゲート電動駆動装置市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 8.74 | 70 | 10 |
| 10 年後 中立 | 8.4 | 12 | 98 | 14 |
取り方:産業機械の売上 69.93 億円、営業利益 10.11 億円(利益率 14.5%)。国内の電動駆動装置市場を約 8 億ドルと筆者が推定し、当社の持ち分を約 5.8% とした。ニッチで切り替えにくく、利益率が高い。
精密機械
ワイヤ放電加工機とその関連品。金型・半導体・電子部品・航空宇宙向け。米国は持分 49% の関連会社が販売。
| 数量世界のワイヤ放電加工機市場(億ドル、筆者の推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 15 | 183 | 20 |
| 10 年後 中立 | 13.2 | 20 | 270 | 25 |
取り方:精密機械の売上 183.0 億円、営業利益 20.19 億円(利益率 11.0%)。放電加工機全体の世界市場は調査会社の推計で 20〜34 億ドル。そのうちワイヤ機を約 12 億ドルと筆者が推定し、当社は約 10% のシェアと置いた。全社の営業利益 41.95 億円との差 0.23 億円(その他)は調整に入れる。
リスクと懸念
放電加工機の中国勢
中国勢は中級機で値を下げて広げている。高精度機にも品質で近づけば、精密機械の価格と 11% の利益率が崩れる。売上の半分近くを占める主力で、影響が最も大きい。
足もとの利益率は山
前期の営業利益率 10.7% は過去 12 年の最高水準に近い。AI 向けの設備投資が一巡すれば、精密機械の利益率は 7% 台に戻る。会社計画の 13% は、その山を超える目標だ。
物流の大型案件の採算
自動倉庫は一件が大きく、工程の遅れや部材高で原価がふくらむ年がある。ダイフクなどの大手と競う入札で、価格を守る力が弱い。利益率は 8〜10% の間を行き来してきた。
資本効率の遅れ
純現金 96 億円と投資有価証券 61 億円がある。配当は純資産の 4% 目安で、自己資本が積み上がり、ROE は 8% 弱にとどまりやすい。大株主の動きによって、方針が変わる可能性もある。
政策保有株の売却益が一過性
前期の純利益 35 億円には政策保有株の売却益が入っている。今期の計画は 30 億円で、15% の減益になる。前期の数字を平常の利益と見ると、割安に見えてしまう。
為替と米国の持分法会社
米国の販売は持分 49% の関連会社を通じて行う。この会社の業績は持分法損益に入り、円高やドル需要の変化で振れる。為替は 10 年を通して 150 円で固定して見たが、実際には利益の振れ要因になる。
今後の分かれ目
- 精密機械の営業利益率が 12% を超えて 2 年続いたら
- 中立の利益率を上方に直し、楽観とやや楽観の確率を上げる。山でなく構造変化かを、受注の中身で確かめる。
- 中国勢が高精度機でシェアを伸ばし始めたら
- やや悲観と悲観の確率を上げる。精密機械の価格と受注台数の両方を点検する。
- 自社株買いを含む大きな株主還元が発表されたら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に近づけ、楽観側の確率を上げる。ROE の改善幅を確かめる。
- 搬送で大型案件の損失が出たら
- 搬送の利益率を下げ、悲観側の確率を上げる。案件の採算管理の変化を確かめる。
- TOB や大株主の提案が出たら
- 資本政策が動く局面とみて、余った現金の戻りと企業価値を見直す。提案の中身を確かめる。
- 防衛向けの受注が増え、産業機械が 8% 以上伸びたら
- 産業機械の数量を上方に直し、楽観の確率を上げる。
見ておくもの
- 精密機械の営業利益率と受注台数の推移(11% が山か構造か)
- 放電加工機での中国勢のシェアと価格の動き
- 自社株買いなど資本政策の発表と、大株主の動向
- 搬送の受注残と大型案件の採算
- Seibu Vision 2027 の達成度(営業利益率 13%・ROE 10%)
倍率と資本コストの決め方
三事業を、実質の市場規模にシェアと物価並みの価格を掛けて積んだ。今の株価でなく、事業の数量と価格から 10 年後の利益を出した。倍率は式(k 8%、g 4.0%、残る割合 1/2)の上限の 7〜9 割に置き、今の PER・PBR や同業の倍率は使っていない。前期の純利益には政策保有株の売却益があるので、流れの起点は平常に近い 30.5 億円とした。余った現金 45 億円は戻り方 0.5 で別に足した。数量は実質で置き、物価は価格に入れたので二重がけはない。利益率は過去 12 年の山の水準を超えていない。新リース会計基準の影響は、10 年後の数字を今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.1→15.17 倍・やや楽観 PER 11.1→14.16 倍・中立 PER 10.6→13.43 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。大株主の動向や経営の保守性は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。