結論
タクマは、自治体のごみ焼却施設を建てて運営する専業に近いプラントメーカーである。売上の約 8 割は国内の環境・エネルギー事業が占める。2026 年 3 月期は売上 1,656 億円、営業利益 154 億円、純利益 137 億円で、受注は 2 期続けて過去最高の 3,330 億円になった。
筆者の結論は「適正」である。確率で重みをつけた 10 年先の価値は、今の時価総額を 1 割弱下回る程度にとどまる。割安とも割高とも言い切れない。
この会社の強みは、需要の質にある。焼却炉は 30 年ほどで建て替えねばならず、老朽施設の更新は景気に関係なく続く。建てたあとは、運営と保守の長い契約で稼ぎが積み上がる。景気で利益が大きく振れる機械メーカーとは性格が違う。
だが成長の伸びしろには限りがある。人口が減れば、ごみの量も施設の規模も小さくなる。入札では価格を決める力が弱く、利益率は 10 年で 9% 前後から大きくは上がらない。筆者がいちばん気にしているのは、この利益率の天井である。
財務は強い。純現金が約 345 億円あり、自己資本比率は 59% に達する。還元も厚く、前期の総還元性向は 106% だった。ただ、この厚い還元はすでに今の値段に織り込まれている。10 年の筋書きを重ねると、中立の利回りは資本コストをわずかに下回る。良い会社を適正な値段で買う局面と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、タクマは「わかりやすく、続く事業」である。
ごみは毎日出る。焼却炉は古くなれば建て替えるしかない。景気の波に左右されにくく、10 年後も事業が残っていることは確かだ。運営の長期契約は、ストック型の収益として評価できる。
問題は、利益の伸びが限られることだ。人口減でごみは減り、入札で値段は抑えられる。事業が稼ぐ ROE は 10% 台前半にとどまり、資本コストを大きくは上回らない。再投資で価値が増える余地は小さく、株主が受け取る利益のほとんどを還元に回すのが正しい。実際に会社はそうしている。
資本の使い方も合格点である。借金に頼らず、買収に走らず、余ったお金を還元する。EPC の損失だけが心配だが、過去の大赤字は 2009 年 3 月期が最後で、その後は黒字が続いた。
安全域で見ると、今の値段は事業の価値をほぼ映している。割り引いて 10 年後の価値を見積もると、今の時価総額を 1 割弱下回る。大きな安全域はない。良い会社だが、払う値段に余裕のない局面と見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 3 つある。
1 つ目はごみ処理プラントの建設である。自治体が古い焼却施設を建て替える時、設計から建設までを請け負う。1 件が数百億円になることもあり、売上の中心はここだ。最近は、建てたあとの運営まで一括で受ける DBO(設計・建設・運営を 1 社が担う方式)の案件が増えた。沼津市や市川市の案件がその例である。
2 つ目は運営・保守である。完成した施設の運転を受託し、定期補修や延命の改造工事を請け負う。契約は 15〜20 年と長く、利益率も建設より高い。会社が「ストック型」と呼ぶ、積み上がる収益がこれにあたる。DBO が増えるほど、この部分が太る。
3 つ目は民生熱エネルギーと海外、その他である。工場や病院向けのボイラ、木質や下水汚泥などを燃料とするバイオマス発電、海外のごみ発電を手がける。売上の約 2 割だが、固定費が重く、利益への貢献は小さい。
顧客の大半は自治体である。ごみ処理は法律で市町村の仕事と決まっており、予算が途切れにくい。一方で、発注は入札や企画提案で決まるため、毎年の受注は大型案件の有無で上下する。会社は 2027 年 3 月期の受注を 2,000 億円と見込み、前期より減ると言っている。
優良さと弱いところ
堅いが、飛び抜けて儲かる会社ではない。
強みは 3 つある。第 1 に、ごみ焼却炉の建設には、燃焼の技術と実績が要る。自治体は失敗を恐れるので、実績のある数社が選ばれやすい。タクマは日立造船、JFE エンジニアリング、三菱重工の環境部門、荏原環境プラントなどと並ぶ上位の一角である。第 2 に、運営・保守の契約が長い。第 3 に、財務が健全で、純現金があり、利息の負担はほぼない。
弱みもある。入札では自治体が価格を決める。大手に比べて規模が小さく、海外では大きな実績を積めていない。2009 年 3 月期には純損失 146 億円を出した。EPC(設計・調達・建設の一括請負)には、工事の途中で費用が膨らむ危険がつきまとう。
資本の効率は改善してきた。ROE は過去 10 年の中央値が 9.6% で、前期は 12.2% に上がった。高い ROE は、純現金を自社株買いで減らしてきた結果でもある。事業そのものの稼ぐ力が急に変わったわけではない。
筆者は、利益率が 9% 台で止まる構造を前提に置く。強みは安定であって、高収益ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の土台は、国内のごみ焼却施設の更新である。
全国に約 1,000 の焼却施設があり、寿命はおよそ 30 年。1990 年代に建てた施設が建て替え期に入っている。ここ数年は、人件費や資材の高騰で 1 t/日あたりの単価が上がった。例えば日立造船が大阪市で受けた 620t/日の案件は約 498 億円で、1 t/日あたりでは約 0.8 億円になる。
一方、数量は増えにくい。人口は年 0.5% ほど減り、ごみの量も減る。自治体は複数の市町村で 1 つの大型施設をつくる広域化を進めており、施設の数は減っていく。1 件あたりは大きくなり、受注の波は粗くなる。
競争は、国内の数社の間で続く。日立造船(現カナデビア)、JFE エンジニアリング、三菱重工環境・化学エンジニアリング、荏原環境プラント、川崎重工、神鋼環境ソリューションなどが相手だ。入札のやり方は、価格だけでなく技術と運営の提案を点数で比べる方式が増えた。DBO では、20 年の運営まで見た採算の読みが勝負になる。
新しい需要もある。ごみ焼却の熱で発電する施設、下水汚泥や木くずを燃やすバイオマス発電、焼却の排ガスから二酸化炭素を回収する技術だ。ただし、いずれも収益の柱になるには時間がかかる。
資本政策と M&A
還元は厚く、方針も明確である。
配当は、配当性向 50% か純資産に対する配当率(DOE)4.0% の高い方を目安にする。配当は 2026 年 3 月期に大きく増え、2027 年 3 月期も増配の予定だ。自社株買いも 3 年で 180 億円を計画し、2026 年 5 月にも上限 40 億円を決めた。前期の総還元性向は 106.5% だった。
大きな買収で成長を買う会社ではない。資金は、DBO への出資や設備、研究開発に回り、余れば株主に戻す。この姿勢は、資本の使い方として好ましい。
財務に余裕があるため、他社の再編に加わる可能性は残る。環境プラントは国内で数社がひしめき、将来は統合の話が出てもおかしくない。ただ、現時点で具体的な話は確認できていない。投資有価証券も保有しているが、内訳は有価証券報告書でなければ分からない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の更新需要は、これから本格化する。1990 年代に集中して建てた焼却施設が建て替え期を迎え、更新の案件が毎年途切れない。2026 年 3 月期の受注は 3,330 億円で、過去最高を 2 期続けて更新した。更新の発注が続く限り、売上の見通しは立ちやすい。
DBO の増加が、収益の質を変える。沼津市と市川市の案件のように、建設だけでなく 15〜20 年の運営まで受ける契約が増えている。運営は利益率が高く、景気にも左右されない。受注残が積み上がるほど、運営の稼ぎが年々厚くなり、全社の利益率を押し上げる。
新しい需要も育つ。下水汚泥や木質のバイオマス発電、ごみ焼却の排ガスから二酸化炭素を回収する設備は、国の脱炭素の方針に沿う。会社は 2030 年度の製品化を目指している。成功すれば、運営中の施設に後から設備を足せるので、既存のストックが生きる。
財務の余力もある。純現金 345 億円、自己資本比率 59% の会社が、配当性向 50% と自社株買いで株主に厚く返している。2030 年に経常利益 200 億円という目標も、更新需要の厚みを考えれば手の届く範囲にある。
工事費の高騰を契約に転嫁できるようになったことも見逃せない。発注側も物価上昇を前提に予算を組み始めており、価格を上げやすい環境にある。
慎重な見方
受注の高さは、前倒しの結果かもしれない。会社自身が、2027 年 3 月期の受注を 2,000 億円と、前期の 3,330 億円から大きく減る計画にしている。大型の DBO が一巡すれば、売上は先細る。
数量は増えない。人口が減ればごみの量も減り、自治体は複数の市町村で 1 つの大型施設をつくる広域化を進める。施設の数は減り、1 件あたりは大きくなる。大型案件を 1 件落とすだけで、年の受注が 3 割動く。
価格の主導権は自治体にある。国内には日立造船、JFE エンジニアリング、三菱重工、荏原環境プラントなどが並び、入札では技術と価格を同時に問われる。利益率が 10 年で 9% から大きく上がるとは考えにくい。DBO の運営も、20 年の契約の間に人件費や修繕費が想定より膨らめば、採算が悪化して長く尾を引く。
大型工事の損失も忘れてはならない。2009 年 3 月期には純損失 146 億円を出した。EPC は、見積もりの誤りが 1 件でも出れば、数年分の利益が飛ぶ。
今の値段は、すでに厚い還元と堅い需要を織り込んでいる。事業の ROE は資本コストを大きくは上回らず、成長の上乗せも限られる。どの筋書きでも、割安と呼べるほどの余裕はない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には説得力がある。更新需要は確実で、DBO で運営収益が積み上がる。一方、慎重な見方は利益率の天井と人口減という数量の限りを突いており、こちらも強い。
結局、数量はほとんど伸びず、価格は物価並みで、利益率は 9% 台で落ち着く。この見立てでは、中立の 10 年後の時価総額は今の約 1.2 倍にとどまり、資本コストを少し下回る。確率は中立を軸に、運営の積み上がりを評価して強気側をやや厚く、大型工事の損失の前例を考えて弱気側も薄くは置かなかった。結果は適正の範囲に収まった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,902 円2,798 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,531 円1,098 億円)。 今の値に割り戻すと 2,960 円2,122 億円、今との差 +2.7%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,454 円5,345 億円 | 2,138 円1,533 億円 | +232.8% | +12.8% | 959 円688 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,709 円4,093 億円 | 1,880 円1,348 億円 | +163.3% | +10.2% | 1,670 円1,197 億円 |
| 中立 | 32% | 4,332 円3,106 億円 | 1,669 円1,197 億円 | +108.2% | +7.6% | 1,920 円1,377 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,797 円1,288 億円 | 1,370 円982 億円 | +9.9% | +0.9% | 728 円522 億円 |
| 悲観 | 13% | 780 円560 億円 | 418 円300 億円 | −58.4% | −8.4% | 156 円112 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,902 円2,798 億円 | 1,531 円1,098 億円 | +88.5% | +6.5% | 5,433 円3,896 億円 |
今の株価時価総額 2,882 円2,066 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 更新と運営が噛み合い、利益率が 1 割を超える 利益 284 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 7,454 円5,345 億円
更新需要が 10 年とも厚く、DBO を次々に受ける。国内の建設は年 1,200t/日まで増え、運営・保守は受託施設の数が 400 件相当に達して売上の約 3 割になる。工事費の上昇を契約に転嫁できて価格も物価を上回る。運営の比率が上がり、全社の利益率は 11% を超える。バイオマス発電や二酸化炭素の回収設備も収益になり、民生熱・海外が伸びる。経営は借金も買収も使わず、還元を厚く続ける。今の経営の延長にある、最も良い 10 年である。
受注残が厚いので、売上の見通しも立てやすい。会社は 2030 年に経常利益 200 億円を目標にしているが、この筋書きではそれを大きく超える。自治体との信頼が積み上がり、DBO の提案でも選ばれやすくなる好循環に入る。
- ごみ処理プラント(更新・基幹改良の建設):数量 1,200(年間に引き渡す処理能力(t/日、推定))× 価格 1.27(処理能力 1t/日あたりの売上(億円))→ 売上 1,524 億円・営業利益 168 億円。処理能力 1,200t/日、利益率 11%
- 運営・保守(ストック):数量 400(運営・保守・改造を受託している施設の件数相当(推定))× 価格 2.40(1 件あたりの年間売上(億円))→ 売上 960 億円・営業利益 154 億円。受託施設 400 件相当、利益率 16%
- 民生熱エネルギー・海外・その他:数量 1,500(年間に納める案件・機器の件数相当(推定))× 価格 0.42(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 637 億円・営業利益 64 億円。バイオマス・海外が伸び利益率 10%
倍率:事業の純利益 284 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍。全体の PER 18.82 倍、時価総額 5,345 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:運営の積み上がりと更新の厚みが両方当たる必要があり、揃う確率は高くない。
やや楽観 22% 更新が続き、運営収益が着実に積み上がる 利益 231 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 5,709 円4,093 億円
更新の発注が途切れず、建設は年 1,110t/日、運営・保守は受託 360 件相当まで増える。価格は物価をわずかに上回って上がり、全社の利益率は 10% 前後になる。バイオマス発電が育つが、収益の柱にはならない。人口減による施設の縮小は、広域化の大型案件でほぼ相殺される。会社の 2030 年の経常利益 200 億円の目標は、少し遅れて達成される。優良な環境プラント会社として、安定した評価を保つ。
景気や金利の波に左右されにくく、自治体の予算が着実に積み上がる。会社は借金を使わずに、運営の積み上がりと還元の両方を続けられる。
- ごみ処理プラント(更新・基幹改良の建設):数量 1,110(年間に引き渡す処理能力(t/日、推定))× 価格 1.23(処理能力 1t/日あたりの売上(億円))→ 売上 1,369 億円・営業利益 137 億円。利益率 10%
- 運営・保守(ストック):数量 360(運営・保守・改造を受託している施設の件数相当(推定))× 価格 2.33(1 件あたりの年間売上(億円))→ 売上 839 億円・営業利益 126 億円。利益率 15%
- 民生熱エネルギー・海外・その他:数量 1,380(年間に納める案件・機器の件数相当(推定))× 価格 0.41(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 569 億円・営業利益 51 億円。利益率 9%
倍率:事業の純利益 231 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.72 倍、時価総額 4,093 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新需要は確かで、DBO の積み上がりも見えているので、やや楽観に厚めに置く。
中立 32% 中立:安定した需要だが、利益率は 9% 台で止まる 利益 188 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 4,332 円3,106 億円
国内の建設は年 1,030t/日とほぼ横ばいで、運営・保守は受託施設が 320 件相当へ増える。価格は物価並みに上がり、売上は 10 年で約 5 割増える。利益率は 9% 台で、大きくは変わらない。人口減による数量の減少は、広域化と老朽施設の更新が相殺する。民生熱エネルギー・海外は小さく伸びるが、全社の利益への貢献は限られる。還元は今の方針を続け、利益の 7 割ほどを配当と自社株買いに回す。派手さはないが、手堅く続く会社になる。
大型案件の有無で年の受注は上下するが、10 年を通せば更新の発注は途切れない。工事の損失は 1 件くらい出るが、会社を揺るがすほどにはならない。
- ごみ処理プラント(更新・基幹改良の建設):数量 1,030(年間に引き渡す処理能力(t/日、推定))× 価格 1.21(処理能力 1t/日あたりの売上(億円))→ 売上 1,246 億円・営業利益 112 億円。処理能力 1,030t/日、利益率 9%
- 運営・保守(ストック):数量 320(運営・保守・改造を受託している施設の件数相当(推定))× 価格 2.28(1 件あたりの年間売上(億円))→ 売上 731 億円・営業利益 102 億円。受託施設 320 件相当、利益率 14%
- 民生熱エネルギー・海外・その他:数量 1,250(年間に納める案件・機器の件数相当(推定))× 価格 0.40(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 506 億円・営業利益 40 億円。利益率 8%
倍率:事業の純利益 188 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍。全体の PER 16.52 倍、時価総額 3,106 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新需要が続き、数量は横ばいから微増、利益率は現状並みという、最も素直な見立て。
やや悲観 23% 入札競争で利益率が崩れ、建設も細る 利益 108 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 1,797 円1,288 億円
人口減と広域化で施設の数が減り、建設は年 900t/日に落ちる。入札では他社が価格で攻めて、価格は物価を 5% 下回る。運営・保守も再入札で値下げを迫られ、採算が落ちる。全社の利益率は 6% 台まで下がり、事業の ROE は資本コストとほぼ並ぶ。純現金は厚いので財務は揺るがず、還元も続くが、成長の上乗せは付かない。価値は稼ぐ力そのもので測られる、凡庸な環境プラント会社になる。
大型案件の損失も 1 件は出る。会社は安定を保つが、10 年を通じて成長の話は聞かれなくなる。受注は取れても採算が薄く、売上が増えても利益は増えない。DBO の運営も再入札で値下げを迫られ、積み上がるはずのストック収益が細る。
- ごみ処理プラント(更新・基幹改良の建設):数量 900(年間に引き渡す処理能力(t/日、推定))× 価格 1.15(処理能力 1t/日あたりの売上(億円))→ 売上 1,034 億円・営業利益 67 億円。利益率 6.5%
- 運営・保守(ストック):数量 270(運営・保守・改造を受託している施設の件数相当(推定))× 価格 2.17(1 件あたりの年間売上(億円))→ 売上 586 億円・営業利益 65 億円。再入札で値下がり、利益率 11%
- 民生熱エネルギー・海外・その他:数量 1,100(年間に納める案件・機器の件数相当(推定))× 価格 0.38(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 423 億円・営業利益 21 億円。利益率 5%
倍率:事業の ROE 7.4% は k 7.5% とほぼ同じで、成長の上乗せはない。正当化 PER は約 13.9 倍、1÷k は 13.8 倍。成長がなく、建設の採算が崩れる筋書きなので、上限の 9 割の 11.93 倍に置いた。
確率:広域化と人口減に入札の競争が重なるのは十分ありうる。やや悲観にも厚めに置く。
悲観 13% 大型工事の損失と価格競争で優位を失う 利益 15 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 780 円560 億円
大型の工事で見積もりの誤りが相次ぎ、巨額の損失を出す。入札では他社の安値に押されて価格が 1 割下がり、受注は年 700t/日まで減る。DBO で受けた運営も、人件費や修繕費の上昇で利益が出ず、運営の利益率は 6% に落ちる。海外と民生熱は赤字になる。全社の営業利益はほぼゼロになり、配当は縮小する。厚い純現金と保有株の売却で財務は持ちこたえるが、成長企業にも優良企業にも戻れない。
赤字の年は厚い手元資金で配当を払うが、10 年の後半には配当も大きく減らさざるをえなくなる。2009 年 3 月期のような大きな損失が、再び起きた姿である。
- ごみ処理プラント(更新・基幹改良の建設):数量 700(年間に引き渡す処理能力(t/日、推定))× 価格 1.09(処理能力 1t/日あたりの売上(億円))→ 売上 762 億円・営業利益 15 億円。利益率 2%、工事損失が出る
- 運営・保守(ストック):数量 220(運営・保守・改造を受託している施設の件数相当(推定))× 価格 2.06(1 件あたりの年間売上(億円))→ 売上 452 億円・営業利益 27 億円。採算の悪い DBO を抱え利益率 6%
- 民生熱エネルギー・海外・その他:数量 900(年間に納める案件・機器の件数相当(推定))× 価格 0.36(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 328 億円・営業利益 −7 億円。海外と民生熱が赤字
倍率:赤字に近く、稼ぐ力では測れない。売れる資産の床で置く。純現金 345 億円のうち前受金で拘束される分は半分と見て約 170 億円、事業用資産(今の自己資本から純現金を引いた約 780 億円)は簿価の 5 割で約 390 億円、合計約 560 億円。今の自己資本 1,126 億円の約 0.5 倍にあたる。市場の倍率ではなく、資産を売った場合の価値だけで置いた。
確率:2009 年 3 月期の大赤字の前例があり、DBO の採算悪化や価格競争が重なる複合の筋書きとして無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ごみ処理プラント(更新・基幹改良の建設)
自治体のごみ焼却施設の建て替え・基幹改良を、設計・調達・建設で請け負う事業。運営まで含む DBO の建設部分もここに入る。
| 数量年間に引き渡す処理能力(t/日、推定) | 価格処理能力 1t/日あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 0.90 | 900 | 80 |
| 10 年後 中立 | 1,030 | 1.21 | 1,246 | 112 |
取り方:国内の環境・エネルギーが売上の約 8 割という開示から、建設を約 900 億円と推定。国内の更新需要は年 5,000t/日前後、1t/日あたり約 0.9 億円(他社の大型案件の公表額から)で、タクマの年 1,000t/日は市場の約 2 割。利益率は全社の 9.3% より少し低い 8.9% と置いた(推定)。
運営・保守(ストック)
完成した焼却施設の運営受託、長期の保守・修繕、延命の改造工事。DBO の運営期間(15〜20 年)の収益が積み上がる。
| 数量運営・保守・改造を受託している施設の件数相当(推定) | 価格1 件あたりの年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 1.70 | 425 | 63 |
| 10 年後 中立 | 320 | 2.28 | 731 | 102 |
取り方:国内の環境・エネルギーの残り約 425 億円を運営・保守・改造と推定。件数は、運営受託と定期補修・改造契約の合計を 250 件相当(推定)とし、1 件あたり約 1.7 億円。ストック収益なので利益率は建設より高い 15% と置いた(推定)。
民生熱エネルギー・海外・その他
業務用ボイラ・バイオマス発電・民生用の熱機器などの民生熱エネルギー、海外のごみ発電、不動産などその他。
| 数量年間に納める案件・機器の件数相当(推定) | 価格1 件あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,100 | 0.30 | 331 | 26 |
| 10 年後 中立 | 1,250 | 0.40 | 506 | 40 |
取り方:全社売上 1,656 億円から上の 2 つを引いた約 331 億円。件数は小型ボイラ・熱機器・バイオマス発電案件・海外案件の合計を 1,100 件相当(推定)とし、1 件あたり約 0.3 億円。固定費が重く利益率は 8%(推定)。
リスクと懸念
大型工事の損失
EPC は、見積もりの誤りや資材高騰で、1 件の工事が数十億円の赤字に化けうる。2009 年 3 月期には純損失 146 億円を出した。受注が大型化するほど、1 件の影響が大きい。
DBO の運営採算
DBO は 15〜20 年の長期契約で、人件費や修繕費が想定を超えても価格を変えにくい。運営が積み上がるほど、見込み違いが長く残る。ストックが太る利点の裏返しでもある。
受注の波
自治体の発注は大型案件に偏る。会社は 2027 年 3 月期の受注を 2,000 億円と、前期の 3,330 億円から減る計画にしている。1 件落とすだけで年の受注が 3 割動き、売上の見通しが乱れる。
人口減と広域化
人口が減ればごみの量も減り、自治体は施設を大型化・集約する。施設の数が減り、国内の更新市場は数量では先細る。この市場を数社で分け合う構図は変わらない。
入札での値崩れ
価格で選ぶ入札が増えたり、他社が採算を度外視して取りに来たりすれば、利益率が下がる。技術の差が付きにくい分野では、こうした競争が起きやすい。
脱炭素で焼却の形が変わる
二酸化炭素の排出規制が強まれば、焼却そのものの位置づけが変わりうる。排ガスの回収設備などで対応できれば機会にもなるが、投資と採算の見通しは立っていない。
今後の分かれ目
- 自治体の更新・DBO の発注が 2027 年度以降も高水準で続いたら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。受注高と受注残の四半期開示で確認する。
- 受注が 2,000 億円を大きく下回り、翌年も戻らなければ
- 建設の数量が先細る流れとみて、やや悲観側に寄せる。
- 運営・保守の売上と利益率が毎年上がり続けたら
- 利益率の天井を上げる材料になる。ストック型の利益の開示で確認する。
- 工事損失引当金を計上する案件が出たら
- 大型案件の管理の弱さを疑い、悲観側の確率を上げる。損失の規模と原因を個別に見る。
- 二酸化炭素回収設備が製品化され、最初の受注が決まったら
- 新しい収益源として楽観側を上げてよい。受注の規模と採算を確認する。
- 環境プラント大手どうしの統合の話が具体化したら
- 競争環境が変わる。買う側・買われる側のどちらになるかで筋書きを見直す。
見ておくもの
- 四半期の受注高・受注残と、DBO の新規受注
- 運営・保守の売上と営業利益率
- 工事損失引当金の動き
- 自治体の更新計画と広域化の動き
- 自社株買いの実施と配当方針の更新
倍率と資本コストの決め方
先に、セグメントごとの数量と価格から 10 年後の売上と利益を積み、その利益に正当化 PER(k 7.5%、g 3.75%、堀は普通なので超過収益の半分が残る前提)の上限の 8〜9 割を当てた。今の PER や PBR、過去の倍率は根拠にしていない。悲観は事業の稼ぐ力ではなく売れる資産で床を置いた。結果は今の値段とほぼ同じ水準に収まったが、これは計算の結果で、寄せにいったわけではない。数字は 2027/03 期予想(会社計画 営業利益 178 億円)より緩やかな成長で置いている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.5→18.82 倍・やや楽観 PER 15→17.72 倍・中立 PER 14→16.52 倍・やや悲観 PER 12.5→11.93 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality −0.25%=7.25%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.50%。