結論
ヒラノテクシードは、大阪に本社を置く塗工装置のメーカーだ。薄い膜を材料に塗り、乾かす機械を作る。最大の用途はリチウムイオン電池の電極で、顧客の多くは海外の電池工場である。2026年3月期の売上は323億円、営業利益は16億円だった。
筆者の結論は「割高」である。10年先の中心の見立てでも、価値は今の時価総額を大きく下回る。会社が悪いのではない。受注が山と谷で大きく振れる商売なのに、今の値段は回復をかなり織り込んでいる。
強みは、塗る・乾かす・巻き取るの一貫した技術と、長年の顧客との関係だ。財務は厚く、自己資本比率は68%、純現金は約70億円ある。一方、売上は前期から33%減り、営業利益率は5%に落ちた。北米の電池工場のキャンセルで、72億円の案件が消えた。
会社は最終年度に売上300億円、営業利益30億円、自己資本利益率8%を掲げる。ただ、足元の予想は売上250億円、営業利益15億円で、目標は遠い。
10年の幅で見ると、上は高くなく、下は深い。現金と政策保有株が下支えになるので、会社が傾く筋書きではない。それでも、稼ぐ力に対して時価総額が重い。受注が戻るだけでは、今の値段を正当化しにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、「財務は堅いが、あまり儲からない会社」と見る。
塗工機は、顧客の投資計画に合わせて一台ずつ作る装置だ。受注は波打ち、利益率は年ごとに大きく動く。自己資本利益率の10年の中央値は7.2%で、資本コストを下回る。今は3.3%まで落ちている。
一方、財務は別物だ。自己資本比率は68%で、純現金は約70億円ある。ただ、その多くは前受金と運転資本で、株主が自由に使える現金とは言えない。政策保有株の約49億円は、売却すれば資本の活用の余地になる。
資本の使い方は読みにくい。利益を上回る配当を続けながら、新素材への投資も進める必要がある。
10年後に今より強いか。電池以外の薄膜で第二の柱が立てば強くなる。立たなければ、電池の投資の波に翻弄される会社のままだ。今の値段に、十分な安全域があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。最大は塗工機で、2026年3月期の売上は253億円、営業利益は26億円。電池の電極用が中心で、薄い膜を金属箔の上に均一に塗り、乾かす装置だ。納入先は海外が約8割で、日東電工が売上の11%、米国のLGエナジーソリューションの蓄電池向けが11%を占める。
二つ目は化工機で、売上55億円、営業利益9.6億円。素材や化学の工場向けの設備で、利益率は18%と塗工機より高い。更新や保守の需要があり、受注の波が小さい。
その他は売上15億円で、営業損失1.8億円。保守や部品などだ。さらに、全社共通の費用が17億円あり、全社の営業利益はこれを引いた16億円になる。
従業員は連結で417人。2019年に木津川工場が完成し、塗工機の組み立てと試験を担う。研究開発費は年5億円ほどだ。
受注は2026年3月期で236億円と29%減り、受注残も316億円と34%減った。複数の案件で、顧客が設備投資を見直し、合計72億円がキャンセルされた。
今期は売上250億円、営業利益15億円の予想。第1四半期は売上61億円と43%減り、営業利益は1.5億円と82%減ったが、化工機の受注は大きく増えた。
優良さと弱いところ
技術は確かだが、利益は顧客の投資計画に左右される。塗工機は一品ずつ設計する受注生産の装置で、顧客は少数の大手に偏る。
強みは三つある。第一に、塗る・乾かす・巻き取るを一貫して設計できる技術。第二に、電池メーカーの量産立ち上げに付き合ってきた実績。第三に、厚い財務で、赤字の期にも耐えられることだ。
弱みは受注の波と、顧客の偏りである。営業利益率は2019年3月期に15%、2026年3月期に5%と、短い期間で大きく動く。10年の自己資本利益率の中央値は7.2%で、資本コストに届かない。2026年3月期は3.3%まで下がった。
収益の質には注意が要る。受注が前払いで入る分、現金が厚く見えるが、これは顧客の資金で、自由に使える利益ではない。
株主に対する姿勢は前向きで、配当は自己資本配当率3.5%と配当性向60%の高い方で決める。ただ、2026年3月期の配当性向は約97%、今期は116%の予想で、利益が戻らない限り続かない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
塗工機の需要は、電池メーカーの設備投資で決まる。電気自動車の販売が各地で減速し、北米では工場の計画が見直された。米国の電池工場の案件では、キャンセルや延期が広がっている。この会社も、複数の案件で72億円がキャンセルされた。
世界の電池製造装置の市場は、中長期で成長するという調査が多い。ただ、年ごとの投資は波が大きい。2022年ごろの急増の後、2025年にかけて反動が出た。装置メーカーの利益は、この波にそのまま乗る。
競争は国内外にある。日本には塗工機の専業が少数あり、海外では中国や韓国の装置メーカーが価格で攻める。中国の電池メーカーは、自国の装置を使うことが多く、日本の装置の出番は日系・韓国系の海外工場に偏る。
成長の手がかりは二つ。ペロブスカイト太陽電池や機能性フィルムなどの薄膜の新素材と、蓄電池向けの設備だ。会社は中計で、電池一本からの脱却を掲げる。
10年を通した前提は、1ドル150円で動かさない。数量は実質で今と同じ程度、値段は物価をやや下回って上がると置く。
なお、電池の装置は一度納めた後も、ラインの増設や仕様の変更で追加の注文が続くことが多い。顧客との関係の深さが、次の受注を左右する。
資本政策と M&A
還元は厚い。配当は、自己資本配当率3.5%と配当性向60%の高い方で決める。2026年3月期の配当性向は約97%、今期は116%の予想だ。利益が減る中で、配当の水準を保つ姿勢が見える。
財務は厚い。現金は約116億円、純現金は約70億円で、自己資本比率は68%ある。ただし、現金の多くは受注残に対する前受金で、前期は28.6億円増えた。受注が減れば、これは取り崩される。
政策保有株は、上場分が約49億円、非上場が約2億円。自己資本の約1割強にあたる。売却や資本の活用に、会社が動くかどうかは見えにくい。
大株主は、明治安田生命、伊藤忠商事が各9.6%、光通信が5.1%。外部の株主が厚く、買われる側になる可能性は否定できない。kabufu の推計では、10年以内の買収の確率は2割ほどである。株主優待はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の利益は、底に近い水準だ。2026年3月期の営業利益率5%は、2019年3月期の15%の三分の一にすぎない。受注が戻れば、固定費が薄まり、利益率は大きく戻る。
受注残は316億円あり、今期の売上予想250億円の1年分を超える。化工機の受注は、第1四半期に大きく増えた。塗工機の売上が落ちても、化工機が下支えになる。
新素材の芽もある。ペロブスカイト太陽電池や機能性フィルムなど、電池以外の薄膜の設備が育てば、顧客が分散する。会社は中計で、電池一本からの脱却を掲げている。
財務は厚い。自己資本比率は68%で、純現金は約70億円。赤字の期を乗り越える体力がある。政策保有株の約49億円も、必要なら活用できる。
配当は、自己資本配当率3.5%の下限があり、株主に向いている。PBR1倍を掲げる経営でもある。
10年を通して見れば、電池の需要は長期で増える。装置メーカーとして、塗る技術の腕は簡単には置き換わらない。一度顧客の工場に入れば、保守や更新の需要が続く。
慎重な見方
本業の稼ぐ力は、会社が思うほど強くない。営業利益率が15%に届いたのは2019年3月期の1回だけで、直近は5%まで落ちた。
受注は29%減り、72億円がキャンセルされた。キャンセルは電池の需要減速という構造の問題で、一時的とは言いにくい。顧客も日東電工とLGエナジーソリューションに2割強が偏り、片方の判断で売上が大きく動く。
中計の目標は、最終年度の売上300億円、営業利益30億円だが、今期予想は売上250億円、営業利益15億円で、目標の半分だ。
配当は、今期の配当性向が116%の予想で、利益を上回る。続ければ、純現金が減る。
財務の厚みも、見かけほどではない。現金の多くは前受金で、受注が減れば取り崩される。自己資本は394億円と厚いが、自己資本利益率は3.3%と、資本コストを下回る。厚い自己資本は、株主にとって使われていない資本でもある。
しかも、この会社の利益は顧客の投資の波に大きく左右される。自分で変えられない要因に頼る利益に、高い倍率を払う理由は見当たらない。
どちらに重みを置いたか
慎重な言い分が強い。強気の言い分の中心は「受注が戻れば利益が戻る」だが、キャンセルは構造の問題で、顧客の偏りも大きい。財務の厚みは、悲観を深くしすぎない床になる。
そこで確率は、中立に4割近くを置き、やや悲観までを厚めにした。やや楽観より上は合わせて25%、やや悲観より下は37%とした。
最後に効くのは、塗工機の受注である。電池以外の薄膜で受注が立ち上がるまでは、慎重な言い分を優先し、利益率の回復は中立にも入れ込みすぎない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,611 円244 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 859 円130 億円)。 今の値に割り戻すと 1,331 円202 億円、今との差 −18.4%、 期待の年率 +4.2%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,654 円554 億円 | 1,320 円200 億円 | +205.2% | +11.8% | 348 円53 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,459 円373 億円 | 1,188 円180 億円 | +123.8% | +8.4% | 657 円99 億円 |
| 中立 | 38% | 1,823 円276 億円 | 957 円145 億円 | +70.6% | +5.5% | 1,057 円160 億円 |
| やや悲観 | 25% | 610 円92 億円 | 660 円100 億円 | −22.1% | −2.5% | 318 円48 億円 |
| 悲観 | 12% | 559 円85 億円 | 198 円30 億円 | −53.5% | −7.4% | 91 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,611 円244 億円 | 859 円130 億円 | +51.5% | +4.2% | 2,470 円374 億円 |
今の株価時価総額 1,630 円247 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 電池以外の薄膜の設備が育ち、塗工機も化工機も利益率が高まる 利益 42 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,654 円554 億円
電池の需要が戻るだけでなく、ペロブスカイト太陽電池や機能性フィルムなど、電池以外の薄膜の設備が育つ。塗工機の納入は今の1.25倍に増え、値段は物価をわずかに上回る1.36倍になる。
化工機も、素材や化学の工場の更新に乗って1.4倍に伸びる。営業利益率は塗工機で14%、化工機で19%に達し、過去の山に近づく。
全社の売上は560億円ほど、営業利益は58億円で、利益率は10%を超える。会社が中期計画で掲げる10%が、10年の幅で実現する筋書きだ。
特定の顧客に偏った受注は薄まり、キャンセルの影響も小さくなる。配当は純利益の半分近くを出し、自己資本は500億円近くまで積み上がる。ただ、自己資本利益率は9%ほどで、資本コストをやっと上回る程度にとどまる。
- 塗工機:数量 19.8(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 22(1ラインあたりの平均売上(億円)。仕様と台数で大きく変わる)→ 売上 431 億円・営業利益 60 億円。納入1.25倍、値段1.36倍。営業利益率14%
- 化工機:数量 12.8(年間の納入台数(台)。開示がないため推定)× 価格 8.16(1台あたりの平均売上(億円))→ 売上 104 億円・営業利益 20 億円。納入1.4倍、値段1.36倍。営業利益率19%
- その他:数量 0.1(実質の売上(億ドル相当)。数量の開示はなく、ドル換算の実質で置く)× 価格 201(1億ドルあたりの円換算の売上(億円)。1ドル150円×物価倍率)→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。実質1.2倍、値段1.34倍。営業利益率8%
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.15 倍、時価総額 554 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池以外の薄膜の設備が育ち、塗工機・化工機ともに過去の山に近い利益率が戻る必要がある。足元の受注は3割減で、キャンセルも出ているので、7%にとどめた。
やや楽観 18% 電池の投資が戻り、薄膜の新分野が加わって利益が増える 利益 30 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,459 円373 億円
北米と欧州の電池工場が計画を再開し、キャンセルされた案件の一部が戻る。塗工機の納入は今の1.12倍、値段は物価並みの1.34倍になる。化工機は1.25倍に伸び、受注残が一巡して売上が安定する。
薄膜の新素材は小さいが育ち、その他の事業も黒字になる。営業利益率は塗工機で12.5%、化工機で17.5%と、普通の年の上限に近い水準になる。
全社の売上は490億円ほど、営業利益は40億円で、利益率は8%台に戻る。会社が掲げる10%には届かないが、足元の5%からは大きく改善する。
配当は純利益の6割を出し、自己資本は420億円台に増える。自己資本利益率は7%ほどで、資本コストには届かない。
- 塗工機:数量 17.7(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 21(1ラインあたりの平均売上(億円)。仕様と台数で大きく変わる)→ 売上 380 億円・営業利益 48 億円。納入1.12倍、値段1.34倍。営業利益率12.5%
- 化工機:数量 11.4(年間の納入台数(台)。開示がないため推定)× 価格 8.04(1台あたりの平均売上(億円))→ 売上 92 億円・営業利益 16 億円。納入1.25倍、値段1.34倍。営業利益率17.5%
- その他:数量 0.1(実質の売上(億ドル相当)。数量の開示はなく、ドル換算の実質で置く)× 価格 198(1億ドルあたりの円換算の売上(億円)。1ドル150円×物価倍率)→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。実質1.0倍、値段1.32倍。営業利益率3%
倍率:事業の純利益 30 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.0% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 372 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残は300億円を超え、今期の化工機の受注は大幅に増えている。回復の芽は出ているが、塗工機の受注は戻っていない。この勢いが10年の高めの水準に定着する筋書きとして、18%を置いた。
中立 38% 受注の波を越えて、売上は物価の分だけ伸びるが、利益率は低めにとどまる 利益 22 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,823 円276 億円
電池向けの投資は、短期の急減から回復するが、2022年ごろのような急増には戻らない。塗工機の納入は今と同じ水準を保ち、値段は物価をやや下回る1.30倍になる。化工機は1.15倍に伸び、全社を下支えする。
全社の売上は430億円ほどで、2025年3月期の484億円を下回る。営業利益率は塗工機で12%、化工機で16%だが、全社共通の費用が重く、全社で7%ほどにとどまる。会社が掲げる10%には届かない。
営業利益は30億円ほどで、純利益は22億円ほど。過去12年の純利益の山と谷の間に収まる水準だ。
配当は、下限の自己資本配当率3.5%に近い形で続き、自己資本は420億円ほどにゆっくり増える。自己資本利益率は5%台で、資本コストを下回る。
- 塗工機:数量 15.8(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 21(1ラインあたりの平均売上(億円)。仕様と台数で大きく変わる)→ 売上 330 億円・営業利益 40 億円。納入1.0倍、値段1.30倍。営業利益率12%
- 化工機:数量 10.5(年間の納入台数(台)。開示がないため推定)× 価格 7.80(1台あたりの平均売上(億円))→ 売上 82 億円・営業利益 13 億円。納入1.15倍、値段1.30倍。営業利益率16%
- その他:数量 0.1(実質の売上(億ドル相当)。数量の開示はなく、ドル換算の実質で置く)× 価格 192(1億ドルあたりの円換算の売上(億円)。1ドル150円×物価倍率)→ 売上 19 億円・営業利益 0 億円。実質1.0倍、値段1.28倍。営業利益率0%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 276 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の言い分(受注残と新素材)と慎重な言い分(キャンセルと顧客の偏り)の落としどころ。実力は物価並みの増加にとどまるとみて、4割に近い38%を置いた。
やや悲観 25% 電池向けの投資が戻らず、塗工機の売上と利益が細る 利益 13 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 610 円92 億円
電池向けの設備投資が戻らず、塗工機の納入は今の0.9倍に細る。顧客の投資見直しで、キャンセルが続く。値段は物価に追いつかず、1.25倍にとどまる。
化工機は横ばいで、薄膜の新素材は期待したほど育たない。全社共通の費用は物価で増えるため、利益が急に削られる。営業利益率は塗工機で10.5%、化工機で14%まで下がる。
全社の売上は370億円ほど、営業利益は17億円で、利益率は4〜5%となる。今期の会社予想15億円と同じ水準が、物価で嵩上げされて10年続く姿だ。名目で同じ水準は、実質では3割の目減りである。
配当は下限を割り、自己資本の増え方も鈍る。自己資本利益率は3%台に下がる。
- 塗工機:数量 14.3(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 20(1ラインあたりの平均売上(億円)。仕様と台数で大きく変わる)→ 売上 285 億円・営業利益 30 億円。納入0.9倍、値段1.25倍。営業利益率10.5%
- 化工機:数量 9.1(年間の納入台数(台)。開示がないため推定)× 価格 7.50(1台あたりの平均売上(億円))→ 売上 69 億円・営業利益 10 億円。納入1.0倍、値段1.25倍。営業利益率14%
- その他:数量 0.1(実質の売上(億ドル相当)。数量の開示はなく、ドル換算の実質で置く)× 価格 180(1億ドルあたりの円換算の売上(億円)。1ドル150円×物価倍率)→ 売上 16 億円・営業利益 −1 億円。実質0.9倍、値段1.2倍。営業利益率−3%
倍率:事業のROE約3.3%がk8%を大きく下回り、ためた利益は額面を大きく割る。RONIC=6.0%、正当化PER=(1−4/6.0)÷4.75%=7.1倍で、上限の1÷k=11.4倍の約6割強にあたる。7.0倍に置いた。
確率:営業利益率は直近で3.5〜5%まで落ち、今期も6%の予想だ。2期連続でこの水準が続く中、電池の投資が戻らない筋書きは現実味がある。同じ領域の下の確率を厚くして、25%を置いた。
悲観 12% 電池の設備が不要になり、受注が細って営業赤字が続く 利益 −6 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 559 円85 億円
電池の設備が過剰になり、新しい投資がほとんど出なくなる。塗工機の納入は今の0.7倍に減り、価格競争で値段も物価に追いつかない。化工機も0.8倍に細る。
固定費と全社共通の費用が重く、営業赤字が続く。受注残が減るのに合わせて、前受金も減り、手元の現金が目減りする。
赤字が続く間は、配当も下限まで切り、自己資本は340億円まで減る。
価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産で測られる。上場している政策保有株、土地と建物、前受金の返還後に残る現金で、おおよそ85億円ほどとみる。自己資本の2割強の水準だ。
株主にとっては、成長を期待できない資産株になる筋書きだ。ただし現金と政策保有株が残るので、会社の存続を脅かす水準ではない。
- 塗工機:数量 11.1(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 19(1ラインあたりの平均売上(億円)。仕様と台数で大きく変わる)→ 売上 213 億円・営業利益 9 億円。納入0.7倍、値段1.2倍。固定費を回収しきれず営業利益率4%
- 化工機:数量 7.3(年間の納入台数(台)。開示がないため推定)× 価格 7.20(1台あたりの平均売上(億円))→ 売上 53 億円・営業利益 4 億円。納入0.8倍、値段1.2倍。営業利益率8%
- その他:数量 0.1(実質の売上(億ドル相当)。数量の開示はなく、ドル換算の実質で置く)× 価格 165(1億ドルあたりの円換算の売上(億円)。1ドル150円×物価倍率)→ 売上 13 億円・営業利益 −1 億円。実質0.8倍、値段1.1倍。営業利益率−10%
倍率:営業赤字で、稼ぐ力ではなく売れる資産で測る。床は、上場している政策保有株の約49億円の7割で約35億円、土地と建物の約59億円の半分で約30億円、前受金を返した後に残る現金で約20億円、合計約85億円。今の自己資本394億円の0.215倍として置いた。
確率:北米の電池工場がキャンセルされ、受注が3割減った実績がある。一方、現金と政策保有株が下支えになるので、会社の存続を脅かす水準ではない。12%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
塗工機
電池の電極を作る塗工・乾燥の設備。リチウムイオン電池が最大の用途で、薄膜の新素材向けにも広げている。顧客は電池メーカーや部材メーカーで、輸出が8割近い。
| 数量年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定 | 価格1ラインあたりの平均売上(億円)。仕様と台数で大きく変わる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.8 | 16 | 253 | 26 |
| 10 年後 中立 | 15.8 | 21 | 330 | 40 |
取り方:会社開示の売上253.49億円・営業利益25.54億円。台数の開示はなく、1ライン平均16億円と置いた推定で、納入を15.84本とした。
化工機
素材や化学の工場向けの設備。長期に使われ、更新と保守の需要がある。塗工機に比べて、受注の波が小さく、利益率が高い。
| 数量年間の納入台数(台)。開示がないため推定 | 価格1台あたりの平均売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9.1 | 6.00 | 55 | 10 |
| 10 年後 中立 | 10.5 | 7.80 | 82 | 13 |
取り方:会社開示の売上54.78億円・営業利益9.62億円。台数の開示はなく、1台平均6億円と置いた推定で、納入を9.13台とした。
その他
保守・部品・小型の設備など、上の二つに入らない事業。営業損失が出ている。
| 数量実質の売上(億ドル相当)。数量の開示はなく、ドル換算の実質で置く | 価格1億ドルあたりの円換算の売上(億円)。1ドル150円×物価倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 150 | 15 | −2 |
| 10 年後 中立 | 0.1 | 192 | 19 | 0 |
取り方:会社開示の売上14.59億円・営業損失1.83億円。数量の開示がないため、1ドル150円で割った実質0.0973億ドル相当を数量とした。全社共通の費用17.34億円は、各筋書きの調整として別に引く。
リスクと懸念
電池向け設備投資の波
塗工機の受注は、電池メーカーの投資計画で決まる。電気自動車の減速で、北米では工場の計画が見直され、この会社も72億円がキャンセルされた。投資が戻らなければ、売上と利益が細る。
顧客の偏り
売上の約2割が、日東電工とLGエナジーソリューションの2社に集中する。どちらかが投資を見直せば、売上が大きく動く。
中国勢の攻勢
電池の装置は、中国や韓国の装置メーカーが価格で攻めている。日本の装置は、日系・韓国系の海外工場に偏り、顧客を失えば代わりがきかない。
前受金の取り崩し
手元の現金の多くは、受注残に対する前受金である。受注が減ると、前受金は取り崩され、現金が目減りする。厚い財務は、見かけほど自由には使えない。
配当と利益の乖離
今期の配当性向は116%の予想で、利益を上回る。続けば純現金が減る。利益が戻らなければ、配当を下げる局面が来る。
新素材の立ち上がりの遅れ
ペロブスカイトなどの薄膜は、市場が立ち上がる時期が読めない。第二の柱が育たなければ、電池一本の脆さが残る。
今後の分かれ目
- 塗工機の受注が、2期連続で前年を上回ったら
- 電池の投資が戻ったとみて、中立の納入数と、やや楽観より上の確率を引き上げる。
- 営業利益が、会社の今期予想15億円に届かない状態が続いたら
- 中計の未達が続くことになり、慎重な見方を強める。やや悲観の確率を上げる。
- キャンセルがさらに出て、受注残が250億円を割ったら
- 構造的な需要減とみて、塗工機の納入数の前提を引き下げる。
- ペロブスカイトなどの薄膜で、大型の受注が出たら
- 第二の柱が立つ証拠になり、中立の利益率を引き上げる。
- 純現金が減り続け、配当が利益を上回ったら
- 還元が持続できないとみて、配当の前提を下げる。
- 政策保有株の売却や、自社株買いの方針が示されたら
- 遊休資産の戻し方が明確になるので、資本効率の見方を見直す。
見ておくもの
- 塗工機の受注と受注残の推移
- キャンセルの有無と、大口顧客の投資計画
- 営業利益の達成度(今期予想15億円)
- 薄膜の新素材(ペロブスカイトなど)の受注
- 配当、前受金、純現金、政策保有株の推移
倍率と資本コストの決め方
売上は塗工機の納入ライン数、化工機の納入台数、その他の実質で積み上げた。今の株価とPERは見ずに筋書きを置いた。倍率は資本コスト8%(基本7.5%に循環+0.75%・値決め力+0.25%・寿命+0.25%)と長期成長4%、事業のROEから出る正当化PERの約9.6〜10割に置いた。ただし最悪の筋書きは、稼ぐ力ではなく売れる資産で測った。10年後の営業利益率は、過去の山の15%ではなく、普通の年の上限に近い水準に置いた。現金は前受金を含むため、余った資産として足していない。リース会計の影響は小さく、調整していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→13.15 倍・やや楽観 PER 10→12.5 倍・中立 PER 9→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。