結論
三井E&S は、船の大型エンジンと港のコンテナクレーンで食べる会社だ。旧三井造船で、造船そのものはすでに手放している。筆者の結論は、今の時価総額は 10 年先の稼ぎを先取りしすぎており、割高寄りというものだ。
利益は急回復した。2026年3月期の営業利益は 376 億円と前の期の 1.6 倍で、営業利益率は 10.7% に達した。ただし数年前は営業赤字が 5 期続き、自己資本が 600 億円前後まで細った会社でもある。今の利益率は、造船の建造枠が埋まり、米国と東南アジアでクレーンが売れる好況の頂点に近い。
好況の中身は確かだ。エンジンの受注残は 1,400 億円、クレーンは 1,000 億円ある。米国は中国製クレーンの排除に動き、日本勢に追い風が吹く。それでも会社自身が来期は減益を見込み、前期の受注は 25% 減った。
筆者は中立で、10 年後の営業利益を 540 億円ほどと見る。名目の売上は伸びるが、好況期の利益率は少し戻ると考えるからだ。税の軽さも続かない。強気の筋書きなら今の時価総額の 2 倍を超えるが、慎重な側は大きく割り込む。確率を重ねた価値は、今の時価総額を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うのは、10 年後もこの事業が今より強いか、である。
エンジンは、船が走る限り要る。燃料が変わっても、動力は要る。クレーンも、港が荷を扱う限り要る。事業の存続に疑いはない。堀は普通だ。ライセンスの上に立つ商売で、価格は顧客との交渉で決まる。
次に、稼いだ利益がどれだけ株主のものになるか。この会社は造船所を持たず、受注の前受けで運転資金の一部を回している。設備投資も重くない。利益の大部分は、本来なら株主に回せる。ところが還元はまだ控えめで、現金が積み上がる。筆者は、この資本の使い方が評価の分かれ目になると見る。
最後は安全域だ。2018 年からの 5 年間は、この業界が一気に傷む実例だった。今の利益は好況の頂点に近く、そこに 10 年先の価値を預けるのは危うい。税の軽さも続かない。持っている資産には含み益があり、悲観でも底は浅くないが、稼ぐ力が壊れると価値は大きく落ちる。安全域は厚くない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 4 つある。いちばん大きいのは舶用推進システムで、売上の約 4 割を占める。船の心臓にあたる大型の低速エンジンを玉野工場と子会社の相生工場で造る。独自設計ではなく、Everllence(旧 MAN)と WinGD という二大ブランドのライセンスで造るのが特徴だ。納めたあとの部品交換や点検も稼ぎになる。
物流システムは港のクレーンだ。岸壁で船からコンテナを降ろすポーテーナと、ヤードでコンテナを積み替えるトランステーナを造る。1967 年に日本で初めて岸壁クレーンを納め、国内ではほぼ独走している。米国では子会社の PACECO が顧客を持つ。
周辺サービスは、国内外の子会社が手がけるシステム・鋼構造物・エンジニアリングの集まりだ。売上は大きいが利益はほぼ出ない。成長事業推進は、高炉用の送風機や圧縮機などの産業機械と、そのアフターサービス、ドローン点検のような新しい保守サービスを担う。
顧客は造船所・船主、港湾の運営会社、製鉄所などだ。2024 年には三井海洋開発の株を一部売り、海洋開発事業からは離れた。今は船と港という、海の物流の道具に絞った会社になっている。
優良さと弱いところ
筆者が見る強みは、寿命の長い道具を売り、納めたあとの保守が続くことだ。大型エンジンは船の寿命の間、部品と点検が要る。クレーンも数十年使われる。アフターサービスは新造の山谷が来ても一定の稼ぎになる。国内でクレーンのシェアがほぼ 9 割、大型エンジンも国内で最大手という位置も確かだ。
堀は普通と見る。エンジンは他社設計のライセンスで造るので、技術の根は握っていない。ライセンスを出す側の条件が変われば、立場も変わる。クレーンの世界シェアは 2 位とされるが、首位の中国 ZPMC は桁違いに大きい。米国は中国製の排除に動いており、その分は日本勢の追い風だが、政策次第の面が残る。
弱点は、案件が大きく、波が荒いことだ。2018 年から 2022 年まで営業赤字が 5 期続き、自己資本は 2020 年に 640 億円まで細った。造船と海洋開発の大型損失が原因だった。
今の経営は、不採算を切り離して利益率を 10% 台に乗せた。取締役会は 7 名に絞り、R&I の格付けも A- になった。ただし収益が戻ってまだ 3 年で、波に耐える力は試されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
海の物流の道具は、造船の循環と港の設備投資の循環に乗っている。
造船は、日本が国を挙げて建造能力の拡大を目指している。日米の協力覚書や造船再生ロードマップが動き、国内の船台は埋まり、2030年納期の受注も出た。エンジンは船が決まれば売れる。ただし世界の造船は中国と韓国が圧倒し、新造船の発注は数年おきに山と谷を繰り返す。今は山の高い所にいる。
燃料の転換も追い風だ。国際的な排出規制で、LNG・メタノール・アンモニアを燃やせる二元燃料エンジンが増える。値段は高く、保守も厚い。ただし、どの燃料が主役になるかはまだ読めない。
港は、米国が中国製クレーンの排除に動いている。米国の船岸クレーンの約 8 割は ZPMC 製とされ、安全保障の懸念が強い。日本勢は代わりの調達先として見られ、ロングビーチ港からも受注した。東南アジアでも港の新設・増設が続く。国内は老朽更新が主で、数は少ない。
競合は、クレーンが ZPMC、Konecranes、Liebherr。エンジンは HD 現代系と、同じライセンスを持つ国内外の工場だ。防衛特需とは無縁で、民間の海運・港湾の投資だけで動く点が、同じ領域の三菱重工や IHI と違う。
資本政策と M&A
還元は強める方向だ。2026年3月期の配当は 15% の性向で、来期は 20%、2028年度に 30% を目標にする。3 年で稼ぐ約 1,000 億円の営業キャッシュのうち、7 割を成長・開発投資へ、3 割を還元と財務の強化に回す。設備投資は 91 億円から 150 億円規模へ増える。
筆者は、還元の水準はまだ低いと見る。自己資本は 2020 年の底から 3 倍半に増え、比率は 46% になった。稼ぎを積み上げる速さに、配当と自社株買いが追いついていない。2025年3月期には自社株買いを 90 億円強行ったが、今期は行っていない。
過去の資本配分には、整理の色が濃い。2024 年に三井海洋開発の株を一部売って 240 億円の益を出し、造船の売却と合わせて事業を絞った。投資有価証券は 550 億円に増え、含み益も厚い。
M&A は、IHI 原動機の大型エンジン事業を 2023 年に引き継いだ。買われる側としても見られうる会社だ。時価総額は 4 千億円弱で、動かしやすい大きさにある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
米国は国家の安全保障を理由に、中国製クレーンから離れようとしている。米国の船岸クレーンの約 8 割は ZPMC 製で、置き換えの需要は大きい。三井E&S は、ロングビーチ港からすでに受注し、大分で部品を造って米国で組み立てる体制も検討している。クレーンの受注残は 1,000 億円近くあり、ベトナムでの委託生産で増産もできる。東京港や東南アジアの港でも大型の受注が続く。
エンジンは、造船の復活が追い風だ。国は建造能力の拡大を掲げ、国内の船台は 2030 年納期まで埋まった。LNG・メタノール・アンモニアを燃やす二元燃料エンジンは単価が高く、アフターの稼ぎも厚い。アンモニア焚きエンジンの試験はすでに終えた。燃料転換の波に先に乗った。
財務も軽くなった。有利子負債は約 930 億円で、自己資本比率は 46%。R&I は A- にし、見通しは前向きだ。持分法の利益が毎年 70 億円ほど加わり、含み益のある保有株もある。資本コストを意識する経営に切り替え、配当性向を 30% まで上げる。利益率が 10% を超えた今の姿は、一時の好況ではなく、不採算を切り離した結果だ。
慎重な見方
今の利益は、数年前の赤字から見ると山の高い所にある。前期の受注は 25% 減り、会社自身が来期は営業利益 15% 減を見込む。エンジンは大型案件の山を越え、受注の勢いは鈍っている。造船は好況のあとに必ず反動が来る。中国と韓国は建造能力を増やし続けており、日本が建造能力を広げようとしても、世界の新造船の発注が先に冷える可能性がある。
エンジンは他社設計のライセンスだ。ライセンスを出す側の方針が変われば、立場が揺らぐ。アンモニア焚きは試験を終えただけで、船主が選ぶ燃料はまだ決まっていない。港のクレーンは、米国の政策が追い風でも、政権が変われば向きも変わる。中国は価格で押し返せる。
利益の質にも注意がいる。今期の純利益は営業利益とほぼ同じだが、税が 3% と異様に軽い。繰延税金資産の戻りによるもので、普通の税率に戻れば純利益は 3 割落ちる。周辺サービスは売上 940 億円で利益が 8 億円しかなく、利益のない売上が大きい。大型案件の採算の失敗は、この会社が何度も経験した。
どちらに重みを置いたか
追い風は本物だが、筆者は慎重な見方が強いと判断した。決め手は、今の利益率が好況の頂点に近いこと、税の軽さが続かないこと、エンジンがライセンスの上にあることの 3 つだ。クレーンの米国需要は確かな上振れ要因なので、強気側にも厚みを持たせた。それでも造船の循環とこの会社の過去の傷の深さを考え、確率は中立を軸に、慎重な側をやや厚く置いた。中立の 10 年後は、今の利益率をほぼ保つが、税が普通に戻り、時価総額は今を割る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,606 円5,659 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,137 円1,147 億円)。 今の値に割り戻すと 3,236 円3,266 億円、今との差 −9.1%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 11,694 円1.18 兆円 | 1,948 円1,966 億円 | +283.4% | +14.4% | 819 円826 億円 |
| やや楽観 | 18% | 9,350 円9,437 億円 | 1,596 円1,611 億円 | +207.6% | +11.9% | 1,970 円1,989 億円 |
| 中立 | 34% | 7,151 円7,217 億円 | 1,314 円1,326 億円 | +137.9% | +9.1% | 2,878 円2,905 億円 |
| やや悲観 | 26% | 2,649 円2,673 億円 | 825 円833 億円 | −2.4% | −0.2% | 903 円912 億円 |
| 悲観 | 16% | 638 円644 億円 | 446 円450 億円 | −69.5% | −11.2% | 173 円175 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,606 円5,659 億円 | 1,137 円1,147 億円 | +89.5% | +6.6% | 6,743 円6,806 億円 |
今の株価時価総額 3,558 円3,591 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 米国の置き換え需要を取り込み、エンジンも二元燃料で高単価化 利益 735 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 11,694 円1.18 兆円
米国で中国製クレーンの排除が法で固まり、ポーテーナの置き換えが 10 年続く。引渡しは年 180 基に伸び、トランステーナの自動化も広がる。クレーン事業の売上は 1,750 億円で、利益率は 18% を保つ。
エンジンは、日本の造船復活と二元燃料への切り替えが重なる。アンモニア焚きが実用になり、単価と保守の稼ぎが共に厚くなる。国内シェアを保ち、売上は 2,820 億円、利益率は 12%。
成長事業の保守とデジタルも伸び、周辺サービスの利益率は 5% 台に乗る。全社の営業利益は 900 億円ほどで、配当性向 30% を超える還元が続く。海の物流の道具のうち、数少ない日本発の主役に育つ 10 年だ。
- 舶用推進システム:数量 78.0(エンジンと保守を合わせた引渡し出力の換算(万 kW 相当、推定))× 価格 36(1 万 kW 相当あたりの売上(億円))→ 売上 2,823 億円・営業利益 339 億円。出力 78 万 kW 相当、利益率 12%
- 物流システム:数量 180(クレーンの年間引渡し基数(ポーテーナ・トランステーナ合計、推定))× 価格 9.71(1 基あたりの売上(部品・保守を含む、億円))→ 売上 1,747 億円・営業利益 315 億円。180 基、利益率 18%
- 周辺サービス:数量 1,150(年間の工事・システム案件数(件、推定))× 価格 1.26(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 1,454 億円・営業利益 80 億円。件数 1.15 倍、利益率 5.5%
- 成長事業推進:数量 180(年間の産業機械・保守案件数(件、推定))× 価格 5.11(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 919 億円・営業利益 175 億円。件数 1.5 倍、利益率 19%
倍率:事業の純利益 735 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.0% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 14.97 倍、時価総額 11,003 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の置き換えが進み、造船も長い好況になる、両方の上振れが重なる筋書き。利益率が 12% 台に乗る必要があり、確率は低く置いた。
やや楽観 18% クレーンが米国・アジアで伸び、エンジンも堅調 利益 595 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 9,350 円9,437 億円
クレーンは米国と東南アジアの案件で伸びる。引渡しは年 160 基ほどで、米国での現地組み立ても動き出す。売上は 1,570 億円、利益率は 15.5%。
エンジンは二元燃料の比率が高まり、保守も厚くなる。国内の造船が安定して建造量を増やし、売上は 2,550 億円、利益率は 11%。会社の中計は 2028 年度の営業利益 420 億円だが、その先も数量と値段が物価を少し上回って伸びる。
周辺サービスは利益率が 4% 台に乗り、成長事業はデジタル保守が稼ぎになる。全社の営業利益は 720 億円。今の好況が崩れず、利益率が 10% 台を保つ姿だ。
- 舶用推進システム:数量 72.0(エンジンと保守を合わせた引渡し出力の換算(万 kW 相当、推定))× 価格 35(1 万 kW 相当あたりの売上(億円))→ 売上 2,552 億円・営業利益 281 億円。出力 72 万 kW 相当、利益率 11%
- 物流システム:数量 162(クレーンの年間引渡し基数(ポーテーナ・トランステーナ合計、推定))× 価格 9.71(1 基あたりの売上(部品・保守を含む、億円))→ 売上 1,572 億円・営業利益 244 億円。162 基、利益率 15.5%
- 周辺サービス:数量 1,050(年間の工事・システム案件数(件、推定))× 価格 1.26(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 1,327 億円・営業利益 60 億円。利益率 4.5%
- 成長事業推進:数量 168(年間の産業機械・保守案件数(件、推定))× 価格 4.89(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 821 億円・営業利益 148 億円。利益率 18%
倍率:事業の純利益 595 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.41 倍、時価総額 8,574 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:クレーンの米国・アジアの需要が続き、エンジンも二元燃料で堅調という、強気側の標準形。会社の中計よりやや上の姿で、確度は中くらい。
中立 34% 好況は続くが税は普通に戻る 利益 458 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 7,151 円7,217 億円
クレーンは、米国の政策需要が加わって数量が 4 割増える。1 基あたりの売上は物価並みに上がり、売上は 1,220 億円、利益率は 14%。会社の中計の 2028 年度の数字より高いが、大型工事の採算改善が定着した形だ。
エンジンは、国内の造船が建造量を少し増やし、二元燃料の割合が上がって、数量は 1 割増、値段は物価を少し上回る。売上は 2,310 億円、利益率は 9.5% で、今の 9.7% からほぼ変わらない。
周辺サービスは売上が物価並みに伸びるだけで、利益率は 3.5%。成長事業は件数が 2 割増える。全社の営業利益は 540 億円で、営業利益率は 9.9%。好況の頂点は過ぎ、水平に近い道筋になる。ただし税は普通の 30% に戻る。
- 舶用推進システム:数量 66.0(エンジンと保守を合わせた引渡し出力の換算(万 kW 相当、推定))× 価格 35(1 万 kW 相当あたりの売上(億円))→ 売上 2,306 億円・営業利益 219 億円。出力 66 万 kW 相当、利益率 9.5%
- 物流システム:数量 126(クレーンの年間引渡し基数(ポーテーナ・トランステーナ合計、推定))× 価格 9.71(1 基あたりの売上(部品・保守を含む、億円))→ 売上 1,223 億円・営業利益 171 億円。126 基、利益率 14%
- 周辺サービス:数量 1,000(年間の工事・システム案件数(件、推定))× 価格 1.26(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 1,264 億円・営業利益 44 億円。利益率 3.5%
- 成長事業推進:数量 144(年間の産業機械・保守案件数(件、推定))× 価格 4.89(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 704 億円・営業利益 120 億円。利益率 17%
倍率:事業の純利益 458 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.71 倍、時価総額 6,279 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は市場の成長並みで、価格は物価並み、利益率は今の水準をほぼ保つ。強気と慎重な見方のぶつかる所で、最も厚く置いた。
やや悲観 26% 造船と港の投資が谷に入り、利益が細る 利益 176 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 2,649 円2,673 億円
造船と港の投資が谷に入る。エンジンの引渡しは 15% 減り、二元燃料への切り替えも遅れる。クレーンも、米国の政策が揺れて数量が 1 割弱減る。
両事業の利益率は 5% と 7% まで落ち、周辺サービスは再び利益が出ない。固定費の重さが効いて、全社の営業利益は 190 億円。会社が来期に見込む減益が長引いた形だ。
配当は払い続けるが、成長のための投資は絞らざるをえない。エンジンの新しい燃料への開発費は重く、クレーンの増産投資も先送りになる。稼ぐ力は今の半分以下になるが、事業そのものは続く。保守の収入と、売らずに持つ有価証券・土地が、財務を支える。
- 舶用推進システム:数量 51.0(エンジンと保守を合わせた引渡し出力の換算(万 kW 相当、推定))× 価格 33(1 万 kW 相当あたりの売上(億円))→ 売上 1,706 億円・営業利益 85 億円。出力 51 万 kW 相当、利益率 5%
- 物流システム:数量 85.5(クレーンの年間引渡し基数(ポーテーナ・トランステーナ合計、推定))× 価格 9.71(1 基あたりの売上(部品・保守を含む、億円))→ 売上 830 億円・営業利益 58 億円。86 基、利益率 7%
- 周辺サービス:数量 900(年間の工事・システム案件数(件、推定))× 価格 1.26(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 1,138 億円・営業利益 0 億円。利益ゼロ
- 成長事業推進:数量 108(年間の産業機械・保守案件数(件、推定))× 価格 4.89(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 528 億円・営業利益 58 億円。利益率 11%
倍率:事業の ROE は 5% 前後で k 8.5% 以下。PER の上限は 1÷k の 11.8 倍で、谷に向かう途中の利益は長く続かないので上限の 9.0 割の 10.6 倍に置いた。価値は稼ぐ力そのもので測り、成長の上乗せは付けない。
確率:造船と港の投資が谷に入る形は、この業界で 10 年の間に 1 度は起きる。2018 年以降の傷の深さと、受注の 25% 減を重く見て、中立に近い厚みを置いた。
悲観 16% 中国勢に押され、造船の谷とクレーンの価格競争で稼ぐ力が消える 利益 −25 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 638 円644 億円
中国と韓国が造船の能力を増やし続け、新造船の発注が世界的に冷え込む。エンジンの引渡しは 4 割減り、二元燃料の単価も競争で下がる。クレーンは、米国の政策が転換して中国製が戻り、ZPMC の価格攻勢で利益が出なくなる。
売上は今より 2 割少ない 2,820 億円。両主力事業の営業利益はほぼゼロ、周辺サービスは赤字に戻り、全社で小幅な赤字になる。大型案件の失敗が重なり、かつての営業赤字続きの再来となる。
配当は縮むが、赤字の年も手元資金で払い、投資有価証券や土地の売却も充てる。事業価値は消え、売れる資産が値段の下支えになる。
- 舶用推進システム:数量 36.0(エンジンと保守を合わせた引渡し出力の換算(万 kW 相当、推定))× 価格 30(1 万 kW 相当あたりの売上(億円))→ 売上 1,078 億円・営業利益 0 億円。出力 36 万 kW 相当、利益ゼロ
- 物流システム:数量 54.0(クレーンの年間引渡し基数(ポーテーナ・トランステーナ合計、推定))× 価格 8.69(1 基あたりの売上(部品・保守を含む、億円))→ 売上 469 億円・営業利益 0 億円。54 基、利益ゼロ
- 周辺サービス:数量 800(年間の工事・システム案件数(件、推定))× 価格 1.13(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 906 億円・営業利益 −27 億円。赤字、利益率 -3%
- 成長事業推進:数量 84.0(年間の産業機械・保守案件数(件、推定))× 価格 4.38(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 368 億円・営業利益 22 億円。利益率 6%
倍率:稼ぐ力が消えるので PER では測らず、売れる資産の床で置く。投資有価証券の税後 437 億円、土地簿価の 8 割 470 億円、機械・建物簿価の 3 割 117 億円を足し、純有利子負債 381 億円を引いた 643 億円。今の自己資本 2,291 億円の約 0.28 倍にあたる。赤字と減損で自己資本が減るので、その時点の自己資本 2,050 億円に 0.314 を掛けた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.314 倍・時価総額 644 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国勢の価格攻勢、ライセンスの条件変化、大型案件の失敗が重なる筋書き。この会社は営業赤字が 5 期続いた実績があり、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
舶用推進システム
大型の低速舶用エンジン(Everllence・WinGD のライセンス生産)の製造と、納入後の部品・保守。
| 数量エンジンと保守を合わせた引渡し出力の換算(万 kW 相当、推定) | 価格1 万 kW 相当あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 25 | 1,497 | 145 |
| 10 年後 中立 | 66.0 | 35 | 2,306 | 219 |
取り方:2026年3月期の舶用推進システムの売上 1,497 億円を、引渡し出力 60 万 kW 相当(新造エンジンが約 6 割、保守が約 4 割。開示は無く、玉野・相生の年間の引渡しからの推定)で割り、1 万 kW あたり約 25 億円と置いた。営業利益は開示の 144.7 億円(利益率 9.7%)。
物流システム
コンテナ用の岸壁クレーン(ポーテーナ)とヤード用クレーン(トランステーナ)、遠隔・自動化システム、保守・部品。
| 数量クレーンの年間引渡し基数(ポーテーナ・トランステーナ合計、推定) | 価格1 基あたりの売上(部品・保守を含む、億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 7.24 | 652 | 139 |
| 10 年後 中立 | 126 | 9.71 | 1,223 | 171 |
取り方:物流システムの売上 652 億円を、年間 90 基相当(受注済みのポーテーナ・トランステーナと国内分、部品・保守を含む推定)で割り、1 基あたり約 7.2 億円と置いた。営業利益は開示の 139.4 億円(利益率 21%。大型工事の採算改善で前期の約 9% から急上昇)。
周辺サービス
国内外の子会社によるシステム、鋼構造物、エンジニアリング。売上は大きいが利益は薄い。
| 数量年間の工事・システム案件数(件、推定) | 価格1 件あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 0.94 | 943 | 8 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 1.26 | 1,264 | 44 |
取り方:周辺サービスの売上 943 億円を、海外子会社と国内システム・鋼構造物の年間約 1,000 件(推定)で割り、1 件あたり約 0.94 億円と置いた。営業利益は開示の 8.3 億円(利益率 0.9%)。
成長事業推進
高炉用送風機・圧縮機などの産業機械、そのアフターサービス、ドローン点検や船体汚損管理のデジタル保守。
| 数量年間の産業機械・保守案件数(件、推定) | 価格1 件あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 3.65 | 438 | 88 |
| 10 年後 中立 | 144 | 4.89 | 704 | 120 |
取り方:成長事業推進の売上 438 億円を、産業機械(高炉送風機・圧縮機)と保守の年間約 120 件(推定)で割り、1 件あたり約 3.6 億円と置いた。営業利益は開示の 87.7 億円(利益率 20%)。
リスクと懸念
造船と港湾の循環が反転する
エンジンは船の発注、クレーンは港の投資で動く。どちらも景気で山と谷を繰り返す。今は両方が山に近く、前期の受注は前の期から 25% 減った。谷に入れば、固定費の重い工場の稼働が落ち、利益率は急に下がる。
エンジンのライセンスへの依存
大型エンジンは Everllence と WinGD の設計をライセンスで造る。ライセンスの条件や供給先の方針が変わると、売上と利益の構造が変わる。WinGD は中国船舶集団の傘下にある。技術の根を握っていない弱さがある。
米国の政策と中国との価格競争
米国の中国製クレーン排除は追い風だが、政権が変われば向きも変わる。中国の ZPMC は世界の約 7 割を押さえるとされ、価格で押し返せる。米国での組み立てにも現地の費用がかかる。
燃料転換の読み違い
LNG・メタノール・アンモニアのどれが主役になるかは決まっていない。アンモニア焚きは試験を終えただけで、船主の採用はこれからだ。開発費をかけた燃料が選ばれなければ、投資は回収できない。
税の軽さと利益の質
今期は繰延税金資産の戻りで、税の負担が税引前利益の 3% 程度まで下がった。普通の税率に戻れば、同じ営業利益でも純利益は約 3 割減る。持分法の利益が毎年 70 億円ほど入るが、その中身は関連会社の業績次第だ。
大型案件の採算悪化
過去に造船と海洋の大型案件で巨額の損失を出し、営業赤字が 5 期続いた。いまの経営は不採算を切ったが、クレーンもエンジンも、1 件が大きい。1 件の工程遅れや原材料高が、期の利益を大きく削りうる。
今後の分かれ目
- 米国で中国製クレーンの排除が法や規制で固まり、PACECO 向けの大型受注が続いたら
- クレーンの数量を上振れとして、強気の筋書きの確率を上げる。受注残と米国向けの採算で確かめる。
- 世界の新造船の発注が 2 年続けて前年を割り込んだら
- エンジンの数量と稼働率が先に落ちるので、慎重な筋書きへ重みを移す。受注高と船台の埋まり具合を見る。
- アンモニア焚きエンジンの商業受注が複数入ったら
- 二元燃料の単価と保守の厚みが増すので、エンジンの価格と利益率を上方に直す。
- 配当性向 30% に加えて自社株買いが定着したら
- 資本の使い方への疑問が薄れ、積み上がる現金が株主に戻る前提に近づく。還元の総額を確かめる。
- 周辺サービスの利益率が 4% 台まで定着したら
- 売上の大きい不採算部門が稼ぎに変わるので、中立の利益率を上げる余地が出る。
- クレーンで大型案件の損失や工程の大幅遅れが出たら
- 過去の失敗の再来とみて、悲観側の確率を上げる。受注工事損失引当金の動きで確認する。
見ておくもの
- エンジン・クレーンの四半期の受注高と受注残
- 米国の港湾クレーンに関する政策と PACECO の受注
- 世界の新造船発注量と国内の造船所の船台の埋まり具合
- 周辺サービスの利益率と純利益の税率
- 配当性向と自社株買いの実施
倍率と資本コストの決め方
積み上げは、エンジン・クレーン・周辺サービス・成長事業の数量と価格から先に置き、倍率は正当化 PER(k 8.5%、g 4%、RONIC は k を超える分の半分が残る値)で出した。中立は ROE が k をわずかに上回るので、下限の 1÷k に近い値を使った。やや悲観は ROE が k 以下なので稼ぐ力そのもの、悲観は稼ぐ力が消えるので、投資有価証券の税後・土地・機械の売却見込みから純負債を引いた床で置いた。過去や今の PER・PBR は根拠にしていない。今の株価に寄せた所はなく、割高の向きは数量・利益率・税率の置き方から出ている。新リース会計基準の影響は小さいが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.7→14.97 倍・やや楽観 PER 12→14.41 倍・中立 PER 11.9→13.71 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。個別のリスクは k に足さず筋書きに入れた。