結論
レオン自動機は、あんやチーズを生地で包む「包あん機」で知られる食品機械メーカーだ。筆者の結論は「割安」である。理由は、純現金の厚い財務の上に、ニッチで稼ぐ機械事業が乗っているからだ。
稼ぎの柱は食品加工機械で、売上の6割強、セグメント利益の8割を占める。包あん機に加え、欧米で伸びるパン製造ラインが主力になった。人手不足が続くかぎり、自動化の注文は途切れにくい。
もう一つの柱が、米国子会社のオレンジベーカリーだ。冷凍パンを大手スーパーやレストランに納める。売上は全社の4割近いが、利益率は機械事業の半分以下だ。ここに約90億円の新工場投資がかかる。筆者がいちばん気にしているのはこの賭けだ。
10年後の中立は、物価の上昇分を含めて売上が6割ほど、純利益が6割台半ば伸びる姿だ。確率で重み付けして資本コスト7%で割り引くと、本質価値は今の時価総額を3割ほど上回る。
悪い目が出る道は二つある。米国一極の食品事業の失速と、中国勢の追い上げだ。それでも厚い財務が下値を支える。
数字の見方も添える。足元の純利益は約39億円、時価総額は約400億円だ。純現金を除いた事業だけで見れば、利益の8倍ほどで買える計算になる。
バリュー投資の観点から
筆者が見る軸は三つある。事業がわかりやすいか、資本の使い方は巧みか、払う値段に安全域があるか。
事業は単純で、堀もある。具を包む機械という一点で、世界の食品工場に売れている。売った後の修理や部品でも稼ぐ。ここは、10年先も続くと見てよい。
資本の使い方は、いま変わり目にある。純現金が厚く、借金はほとんどない。それを株主に返すより、米国の新工場に回す道を選んだ。新工場が計画どおり動けば、機械より薄利の事業に約90億円を入れる意味はある。外れれば、安全域を自ら削る賭けになる。筆者は、この一点で確信度を少し下げる。
安全域はある。純現金と自己資本比率の厚みが、悪い筋書きでも会社を守る。今の時価総額には、事業の価値に加え、純現金の分が上乗せされて見えるのも魅力だ。
経営者の視点では、手元資金の最適化を急ぐ会社ではない。株主から見れば、配当性向40%以上と累進配当は最低限のメッセージだ。次の中計で、資本の戻し方をどう言うかが、評価の分かれ目になる。
最後に、確信度について。包あん機の堀は理解しやすいが、米国の食品事業と新工場の成否は読みにくい。両方を一つの確率に混ぜているため、楽観と悲観の差が大きい。わからない部分があることを、筆者は率直に認める。
何で稼ぐ会社か
レオン自動機の稼ぎ方は二本立てだ。一つは食品を作る機械を売ること、もう一つは米国で冷凍パンを作って売ることである。
機械事業は売上の約6割を占める。包あん機は、あんこ、チーズ、肉などの具を生地で包む機械で、世界の約130カ国に売れている。近年の主役は製パンラインで、パン生地を分割・成形・発酵・焼成の手前まで自動でつなぐ。米国向けは本格志向のアルチザンブレッド用ラインやドーナツ用ラインが好調だ。欧州では小型のパン生地分割機が堅調に売れる。売って終わりでなく、修理や部品でも長く収入が入る。
食品事業の中心は、カリフォルニア州のオレンジベーカリーだ。焼く手前まで仕上げた冷凍パンを、全米のスーパーやレストランに納める。国内では天然酵母のパン種も扱うが、規模は小さい。
地域別では、国内が機械事業の4割強を占め、残りは北米・南米、欧州、アジアが分け合う。連結の海外売上比率は72%まで上がった。
機械の売上は、会社が食品メーカーの設備投資に左右される。ただし受注残を抱えて売るので、足元の見通しは立てやすい。
機械の顧客は、大手の製パン・製菓メーカーから街のパン屋、惣菜工場まで幅が広い。包あん機は小型でも売れるが、製パンラインは数億円の大型案件もある。大型案件は受注から納入まで時間がかかるため、受注残が売上の先行指標になる。国内には栃木県の上河内工場を持ち、設計から組み立てまで自社で行う。ここに自動倉庫を入れ、生産の効率化を進めている。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、包あん機という一点にある。生地とあんの流れを制御する技術は、創業以来の積み重ねだ。包んだ後の形や重量の精度が、顧客の商品の品質に直結する。一度ラインに組み込まれると、機械を入れ替える動機が小さい。
ただし堀は一様ではない。台湾や中国には安い包あん機を作る会社が増えた。製パンラインでは、欧州の大手が競合になる。ライン事業は競争が相対的に厳しく、利益率も包あん機のほうが高いと筆者は見る。
利益率の質は高い。機械事業のセグメント利益率は20%台で、直近は23%だ。全社の営業利益率も12%台で、過去の同社としては高い水準にある。
資本の使い方は評価が割れる。自己資本比率は79%、純現金は94億円ある。守りは固いが、使い道が事業の中にしか見えにくい時期が長く続いた。ここ数年で配当性向を40%以上に引き上げ、累進配当を掲げた点は前進だ。
気がかりは米国のオレンジベーカリーだ。得意先が1社抜けただけで売上が動く。顧客が絞られる事業は、機械ほど堅くない。
人の質も見ておきたい。新機種の開発を絶やさず、中国向けの新型包あん機や欧州向けの食肉用包あん機を出している。研究開発費は年6億〜8億円で、売上の2%に満たないが、用途の広がりを生んでいる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
食品機械の需要を動かす力は、世界共通の人手不足だ。米国は移民政策の影響で労働力が細り、欧州もアジアも賃金が上がる。パンや菓子の工場は、人を雇うより機械を入れるほうが安くなってきた。この流れは景気の波があっても大筋で続く、と筆者は見る。
国内は少し事情が違う。人口が減り、パンや和菓子の量は伸びない。伸びるのは「更新」と「省力化」だ。大手の製パン・製菓メーカーは古い設備を入れ替え、中小の工場は補助金を使って包あん機を買う。数量は横ばいかゆるやかに減るが、機械の単価は上がる。
海外は伸びしろが大きい。足元は米国と欧州に加え、台湾、韓国、東南アジアで売上が増えた。中国は大型ラインの案件が一巡し、今期は減る見通しだ。インドと中東とアフリカは、会社が次の販路として育てている。
競争は二層になっている。包あん機は専業が少なく、レオンが頭一つ抜けている。製パンラインは欧州の大手が強く、価格と納期の勝負になる。
循環の位置は、工作機械ほど激しくない。食品は景気で消えないからだ。ただし機械は設備投資なので、食品メーカーの業績が悪化すれば注文は先送りされる。2020年度に利益が落ちた例がある。足元は受注残が厚く、谷とは遠い位置にいる。
注意すべきは、足元の好調の一部が一過性という点だ。中国向けの大型ラインは今期減る見通しで、円安が円換算の売上を押し上げた面もある。10年の中立では、この追い風を延ばさず、数量は実質で年1.5%の伸びにとどめた。
資本政策と M&A
還元は、配当性向40%以上と累進配当を掲げる。2026年3月期は前の期から大きく増配し、今期も増配の予定だ。自社株買いの方針は示していない。
投資は新工場が大きい。米国のオレンジベーカリーが、既存工場の隣に約6,000万ドルを投じて新工場を建てる。当初は2026年4月の稼働予定だったが、米国の政策の不透明さから1年遅らせ、2027年4月以降に動く。今期の設備投資は65億円の計画で、現金が減った理由もここにある。
M&Aは、近年は目立った買収をしていない。買う側としては、小粒の技術補強にとどまる。買われる側になる可能性は排除できない。純現金が厚く、筆頭株主級の記念財団が11%余りを持ち、株価も控えめだからだ。ただし実際の動きは見えず、確率に大きくは織り込まない。
中期経営計画(2023〜2027年度)は、売上420億円、営業利益率13%、ROE10%を掲げた。売上は前倒しで達成したが、新工場を織り込み、利益率12.4%、ROE8.5%へ目標を下げた。もとの目標は、次の中計で達成を目指す。
還元の余地はある。純現金は94億円で、今期の設備投資を終えても、まだ一定の余裕が残る見通しだ。新工場の稼働後に現金がどう積み上がるかが、次の中計での注目点になる。
還元の点検(P3 2026-10-19):方針は配当性向40%以上の累進配当で、自社株買いの方針は示されていない(2026年3月期の実績性向40.1%)。中立の還元を純利益の合計の55%から45%に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
包あん機という誰もまねしにくい機械を持ち、セグメント利益率は20%台と高い。受注残は厚く、足元の売上は過去5年で最高だ。人手不足は世界共通で、米国、欧州、アジアで自動化の注文が増え続ける。インド、中東、アフリカという新しい販路も、まだ入口にすぎない。
米国のオレンジベーカリーは、新工場で生産能力が増える。得意先が1社抜けた穴は新規で埋めており、売上は現地通貨では増えた。人手不足の米国では、焼く手前まで仕上げた冷凍パンの需要が高まる。機械と食品の両方で、同じ人手不足の流れに乗れる。
純現金は94億円ある。新工場が動けば、利益に加え、現金の使い道も見えやすくなる。累進配当と40%以上の配当性向は、今後も下がらない。会社は目標を下げたが、新工場が回り始めれば、利益率もROEもすぐ戻る。今の値段は、この成長を織り込んでいない。
足元の水準が高く見えても、受注残に裏付けがある。中計の目標値を下げたのも、新工場の費用を先に織り込んだからだ。本業の稼ぐ力は、売上は4期続けて増えている。経営は、手堅い会社らしく、先に悪い数字を出して信頼を積むことを選んだように見える。
慎重な見方
今の好調は、中国の大型ラインと米国の人手不足という、いくつかの強い波が重なった結果だ。中国は今期、大型案件が減ると会社自身が言っている。包あん機は、台湾や中国の安い機種が追い上げている。専業の強みが、価格の差で削られていく。
国内の包あん機は、足元で売上が減った。人口が減る国内では、数量を増やすのは難しい。補助金が切れれば、さらに下がる。
米国の食品事業は利益率が低く、得意先が少ない。1社の退出で、利益が1割以上落ちた実績がある。そこに約90億円の新工場を建てる。稼働が1年遅れ、関税や移民政策の影響も読めない。稼働後に生産が埋まらなければ、減価償却と人件費だけが重くのしかかる。
しかも会社自身が、計画の利益率とROEを下げた。目標を達成できなかったのは、事業の弱さではなく、投資の重さのせいだ。純現金も、この投資で減っていく。安全域は、見た目ほど厚くない。
配当を増やしても、資本の使い方への疑問は残る。米国の食品事業は、会社の中で最も薄利な事業だ。そこに現金の相当部分を回す判断が、株主にとって正しいかは検証されていない。純現金が減れば、悪い局面で守ってくれる緩衝材も薄くなる。
どちらに重みを置いたか
機械事業の堀と純現金の厚みは、慎重な見方の指摘を受けても崩れない。一方、米国の新工場は、成功と失敗の差が大きい賭けだ。筆者は、機械事業の強さを重く見て、中立にやや厚く確率を置いた。ただし新工場の失敗と、中国勢の追い上げが重なる道も軽くは見ず、悲観側の確率を少し多めにした。10年の本質価値は今の時価総額を3割ほど上回り、結論は割安になった。
慎重な見方の指摘のうち、新工場の固定費は説得力がある。そのため悲観の筋書きでは、食品事業の赤字を明示した。ただ、機械事業の堀と純現金は、それを補って余りあると筆者は見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,333 円897 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 772 円208 億円)。 今の値に割り戻すと 2,245 円604 億円、今との差 +54.7%、 期待の年率 +11.0%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,409 円1,725 億円 | 1,125 円303 億円 | +419.2% | +17.9% | 753 円203 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,055 円1,361 億円 | 988 円266 億円 | +316.5% | +15.3% | 1,329 円358 億円 |
| 中立 | 32% | 3,864 円1,040 億円 | 865 円233 億円 | +226.0% | +12.5% | 1,514 円407 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,199 円323 億円 | 594 円160 億円 | +23.6% | +2.1% | 412 円111 億円 |
| 悲観 | 13% | 519 円140 億円 | 223 円60 億円 | −48.9% | −6.5% | 96 円26 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,333 円897 億円 | 772 円208 億円 | +182.9% | +11.0% | 4,105 円1,105 億円 |
今の株価時価総額 1,451 円391 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 人手不足と新工場の両輪が10年回り、機械も食品も伸びる 利益 96 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 6,409 円1,725 億円
米国・欧州・アジアの人手不足が10年続き、製パンラインの更新と新設が途切れない。インド、中東、アフリカの新しい販路も立ち上がる。包あん機は新しい食材分野に広がり、台湾・中国勢の安い機種との差を保つ。機械事業の取り分は実質で年3%伸び、利益率は25%に乗る。米国のオレンジベーカリーは新工場が早く埋まり、得意先も増える。冷凍パンの需要が人手不足で伸び、利益率は12%まで上がる。会社は新しい中計で、10%のROEを早期に超える。純現金は新工場の投資後も残り、配当と自社株買いで株主に厚く戻る。この道では、財務の厚みが、そのまま株主の取り分になる。
配当性向は40%を大きく上回り、純現金は戻される。新しい中計は、利益率13%超の目標を引き上げて公表する。
- 食品加工機械製造販売事業(包あん機・製パンライン):数量 349(世界の食品加工機械市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 138(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 482 億円・営業利益 120 億円。実質年3%×10年、価格指数138(物価並みに付加価値分の値上げ)
- 食品製造販売事業(オレンジベーカリー・天然酵母パン種):数量 249(米国の冷凍パン市場で当社が得ている実質の販売額(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 136(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 339 億円・営業利益 41 億円。実質年4.5%、新工場が早く埋まり利益率が改善
倍率:事業の純利益 96 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 18.01 倍、時価総額 1,725 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機械の受注が10年にわたり世界で伸びつつ、新工場が早く満たされ、中国勢の追い上げも抑える必要がある。条件が多く、確度は高くない。
やや楽観 22% 機械は堅調に伸び、新工場は計画をやや下回る 利益 79 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 5,055 円1,361 億円
機械事業は世界の人手不足に乗り、実質で年2%強の伸びを続ける。米国と欧州の製パンラインが主力で、アジアでは台湾、韓国、東南アジアが中国の一巡を補う。包あん機は補助金の追い風が続き、国内の落ち込みも小さい。利益率は23%台で保たれる。オレンジベーカリーは新工場が稼働し、売上は年4%近く伸びる。ただし立ち上がりは計画より遅れ、利益率は11%にとどまる。会社は新しい中計で、ROE10%を達成する。配当性向は40%以上を保ち、累進配当が続く。純現金は新工場の投資で減るが、事業の利益が補う。機械事業の強みが主役の、堅実な10年になる。
欧州では小型のパン生地分割機が売れ続け、アフリカも少しずつ立ち上がる。成長の質は高く、無理がない。
- 食品加工機械製造販売事業(包あん機・製パンライン):数量 326(世界の食品加工機械市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 136(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 443 億円・営業利益 104 億円。実質年2.3%×10年、価格指数136
- 食品製造販売事業(オレンジベーカリー・天然酵母パン種):数量 231(米国の冷凍パン市場で当社が得ている実質の販売額(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 135(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 312 億円・営業利益 34 億円。実質年3.7%、新工場は動くが立ち上がりが遅れる
倍率:事業の純利益 79 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.14 倍、時価総額 1,361 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の自動化需要が続くという最も自然な上振れ。新工場は動くが、稼働の立ち上がりに時間がかかる想定。
中立 32% 中立:機械の強みは保たれ、新工場は薄利で回る 利益 64 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 3,864 円1,040 億円
機械事業は、世界の人手不足と国内の更新需要に支えられ、実質で年1.5%ほど伸びる。国内は横ばいで、米国・欧州・アジアが伸びを担う。台湾・中国勢の安い機種との競争で、利益率は今の高水準から22%へ少し下がる。オレンジベーカリーは新工場が動き、売上は実質で年3%伸びる。利益率は10%前後で、機械事業の半分以下にとどまる。全社費用は物価で増える。会社の目標どおり、配当性向は40%以上で、純現金の一部は新工場に回る。ROEは10%に近づくが、資本コストを少し上回る程度だ。堅実だが、大化けはしない10年になる。
国内は人口が減るので、数量は伸びない。それでも単価の上昇が、減る分を補う。会社の目標である利益率13%は、10年の間に何度か届く程度だ。
- 食品加工機械製造販売事業(包あん機・製パンライン):数量 301(世界の食品加工機械市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 404 億円・営業利益 89 億円。実質年1.5%×10年、価格指数134(物価並み)
- 食品製造販売事業(オレンジベーカリー・天然酵母パン種):数量 216(米国の冷凍パン市場で当社が得ている実質の販売額(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 289 億円・営業利益 29 億円。実質年3%、新工場が動き利益率は10%前後
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.12 倍、時価総額 1,038 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機械事業の堅さと、新工場の成否が半々という見立ての中心。会社自身が目標を下げた慎重さも反映した。
やや悲観 23% 中国勢に押され、新工場も埋まらず、利益が伸びない 利益 32 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,199 円323 億円
台湾・中国の安い包あん機がシェアを削り、機械事業の数量は実質で横ばいに終わる。製パンラインも欧州勢との価格競争が強まり、値上げが物価に届かない。利益率は18%まで下がる。オレンジベーカリーは新工場が稼働しても、得意先の絞り込みと現地の人件費上昇で生産が埋まらない。利益率は6%にとどまる。全社費用は物価で増え、利益を圧迫する。ROEは資本コストを下回り、配当性向40%以上を守ると自己資本がたまる一方になる。会社は新しい中計の目標を再び下げる。純現金は新工場に回り、財務の余裕は薄れる。強みは残るが、稼ぐ力は目に見えて細る10年だ。
配当は累進配当の方針で続くが、増やす余地は小さい。
- 食品加工機械製造販売事業(包あん機・製パンライン):数量 260(世界の食品加工機械市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 128(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 332 億円・営業利益 60 億円。実質横ばい、価格指数128(競争で物価に届かない)
- 食品製造販売事業(オレンジベーカリー・天然酵母パン種):数量 186(米国の冷凍パン市場で当社が得ている実質の販売額(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 128(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 238 億円・営業利益 14 億円。実質年1.5%、新工場が埋まらず利益率6%
倍率:ROE 5.6% が k 7% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.9 倍まで。RONIC = 6.7% では g 4.0% でも正当化 PER は 10.7 倍まで。稼ぐ力(純利益 ÷ k)で測り、これを下回る 9.5 倍に置いた。(還元を方針に合わせて再計算:還元 213→160 億円、自己資本 572→625 億円、事業の ROE 5.6%→5.1%、正当化 PER の上限 12.9→12.9 倍。上限に対する置き方の割合は変えず 9.50 倍)
確率:中国・台湾の包あん機の追い上げは現実の脅威で、新工場の稼働が遅れた前例(1年延期)もある。この組み合わせは十分に起こりうる。
悲観 13% 構造的に負ける:中国勢に堀を崩され、米国の新工場が重荷になる 利益 −2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 519 円140 億円
台湾・中国の安い包あん機が、高級機の領域にも広がる。製パンラインも欧州勢と中国勢に挟まれ、機械事業の取り分は実質で年2%ずつ縮む。価格も競争で物価に届かず、利益率は11%まで下がる。オレンジベーカリーは主要な得意先を失い、新工場の固定費だけが残る。減価償却と現地の人件費が重く、食品事業は赤字に沈む。全社費用は物価で増える一方、売上が縮み、会社全体の営業利益は赤字に近づく。それでも純現金は残り、配当は細りながら続く。技術の堀は侵食され、もう優良企業とは呼べない。
欧州の大手はこの間に、小型機の分野まで攻め込む。会社は事業の整理に動くが、再建の途上にとどまる。純現金は新工場と赤字で減り、配当は細りながらも続く。株主にとっては、財務の厚みだけが救いとなる10年だ。
- 食品加工機械製造販売事業(包あん機・製パンライン):数量 212(世界の食品加工機械市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 118(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 250 億円・営業利益 28 億円。実質年-2%×10年、価格指数118(競争で物価に届かない)
- 食品製造販売事業(オレンジベーカリー・天然酵母パン種):数量 161(米国の冷凍パン市場で当社が得ている実質の販売額(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 120(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 193 億円・営業利益 −2 億円。主要な得意先を失い新工場の固定費が重い
倍率:稼ぐ力がほぼ消える筋書き。純現金の半分と売れる資産の合計約 140 億円を床とし、今の自己資本 430 億円で割った値を PBR にした。ためた利益には掛けない。
確率:包あん機の独走が崩れ、米国の得意先も失う二つが同時に起こる必要がある。そのうえ新工場の固定費が重なる。起こりにくいが、起これば深い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
食品加工機械製造販売事業(包あん機・製パンライン)
包あん機などの食品成形機と、パン生地の分割・成形をつなぐ製パンラインを世界に売り、修理や部品でも稼ぐ中核事業。
| 数量世界の食品加工機械市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 260 | 100 | 260 | 60 |
| 10 年後 中立 | 301 | 134 | 404 | 89 |
取り方:2026年3月期の機械事業の売上259.7億円(国内114.8億・北米58.6億・欧州54.2億・アジア32.0億)を、今の値段で測った当社の取り分として置いた。セグメント利益は60.3億円(利益率23%)。価格は物価の指数(今=100)で、rev_factor 0.01 で億円に換算する。数量の伸びは、世界の人手不足による自動化需要を実質で置いた(10年中立 年1.5%)。国内は横ばい、米国・欧州・アジア・新興国で伸びる前提。
食品製造販売事業(オレンジベーカリー・天然酵母パン種)
米国カリフォルニア州の子会社オレンジベーカリーが焼く手前まで仕上げた冷凍パンを大手スーパー・レストランに納める事業と、国内の天然酵母パン種の事業。
| 数量米国の冷凍パン市場で当社が得ている実質の販売額(市場規模×シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 161 | 100 | 161 | 16 |
| 10 年後 中立 | 216 | 134 | 289 | 29 |
取り方:2026年3月期の食品事業の売上160.5億円(オレンジベーカリー155.9億円、天然酵母パン種の事業は小さい)。セグメント利益は15.5億円(利益率9.7%)。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor 0.01 で億円に換算する。数量は米国の人手不足を背景にした冷凍パンの需要と新工場の増産を実質で置いた(10年中立 年3%)。米ドル円は150円で固定。
リスクと懸念
米国の新工場が稼働しても埋まらない
オレンジベーカリーの新工場には約6,000万ドル(約90億円)を投じ、稼働は2027年4月以降の予定だ。得意先が少ない事業なので、新規が取れなければ減価償却と人件費だけが重くなる。関税や移民政策の変化も稼働の遅れ要因になる。
米国の得意先が1社抜ける
食品事業は大手スーパーやレストランに頼る。実際に今期、一部の得意先の終売で売上とセグメント利益が減った。新規獲得の費用が先行し、利益率は低下した。得意先が絞られるほど、1社の影響が大きい。
中国・台湾勢の追い上げ
台湾や中国には安い包あん機を作る会社が増えた。今は精度と信頼性で上回るが、価格差は広がりやすい。ライン事業では欧州の大手との価格競争もある。堀が削られれば、機械事業の高い利益率が下がる。
中国の大型案件の一巡
アジアの売上は中国、韓国、台湾の3カ国で約7割を占める。中国向けの大型ラインは今期減る見通しと、会社も述べている。中国景気や補助金の動きによっては、受注の山と谷が大きくなる。
原材料・物流コストの上昇
中東情勢で、原油由来の樹脂部品や塗料などの調達が難しくなっている。値上げの要請や運賃の高騰が、機械の採算を圧迫する。会社は価格転嫁を進める方針だが、受注済みの案件では吸収せざるを得ない場合もある。
為替の変動
連結の海外売上比率は72%で、米ドルとユーロの水準が業績に直結する。本分析は為替を150円で固定し、筋書きで動かしていない。急な円高になれば、円換算の売上と利益は目減りする。
今後の分かれ目
- オレンジベーカリーの新工場が計画どおり2027年4月に稼働し、新規の得意先で埋まる
- 食品事業の売上が伸び、ROEが再び10%に向かう。会社が下げた利益率の目標も戻る余地が出る。
- 台湾・中国の安い包あん機が、高級機の領域にまで広がる
- 機械事業の利益率が下がり、シェアの低下が続く。10年の見通しは悲観側に傾く。
- 新しい中期経営計画で、純現金の使い道と株主への戻し方が具体的に示される
- 資本の使い方への評価が変わり、ROEの改善が見えやすくなる。
- 世界の人手不足が一服し、食品メーカーの設備投資が先送りされる
- 受注が減り、機械事業の売上と利益率が落ちる。ただし純現金が下値を支える。
- 他社や投資ファンドが、純現金の厚さに着目して株式の取得に動く
- 再編や買収提案で、株価が事業の価値に近づく可能性がある。
- 米国でオレンジベーカリーの主要な得意先がさらに抜ける
- 食品事業の利益が大きく減り、新工場の投資回収が遅れる。
見ておくもの
- 機械事業の受注残と受注高(米国・欧州・アジアの地域別)
- オレンジベーカリー新工場の稼働時期と、新規の得意先の獲得状況
- 機械事業のセグメント利益率が20%台を保てるか
- 次期中計での資本政策(配当性向・自社株買い・現金の使い道)
- 台湾・中国の包あん機メーカーの動向
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに、各筋書きのROEと資本コスト7%(基本7.5%に、循環・値決め力・寿命の調整+0.25%)から正当化PERを出し、楽観・やや楽観は上限の8.5割、中立は9割に置いた(ROEがkを上回るので下限の1÷k=12.9倍を下回らせない)。数量は世界の人手不足と食品機械の需要を実質で置き、価格は物価の指数。純現金94億円は時価総額の23.5%だが、新工場の残りの投資(今期65億円計画)と前受金・運転資金で大半が埋まるため、余った現金としては分けず、新工場の利益を筋書きに入れて織り込んだ。悲観の床は純現金の半分と売れる資産の税後約140億円で、過去のPBRや市場の倍率は使っていない。米国の新工場の成否を、確率で表している。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.41→18.01 倍・やや楽観 PER 12.9→17.14 倍・中立 PER 12.9→16.12 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。米国の新工場の実行リスクは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。