結論
酒井重工業は、道路を固めるロードローラの専業メーカーだ。国内シェアは6〜7割で、ほかに専業はほとんどいない。北米とアジアにも売るが、世界ではまだシェア4〜5%にとどまる。
筆者の結論は、今の時価総額176億円は、10年の筋書きを確率で重ねた価値に近いというものだ。割安でも割高でもない。理由は、事業が悪いからではなく、資本の使い方にある。自己資本317億円のうち、現金・在庫・持ち合い株が大半を占め、稼ぐ力がその重さに追いつかない。
足元の営業利益は16億円で、2024/03期の33億円から半減した。北米の関税とディーラー在庫の調整、ASEANの公共投資の停滞が重なった。会社は2031/03期に営業利益55億円を目標にするが、前の計画が最終年度に未達だった実績から、そのままは信じにくい。
筆者は、台数が北米で増えて営業利益率が7〜8%に戻る姿を中立とみる。それでもROEは5%台で、資本コスト8.0%に届かない。倍率は利益の10倍が限度で、今の値段とほぼ釣り合う。割安に転ぶには、政策保有株の売却と還元の積み増しで自己資本を軽くする必要がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を一言で言えば、国内では良い事業で、資本の使い方が悪い会社だ。
事業は10年後も続く。道路は直し続けなければならず、締固めの経験は国内で簡単には置き換わらない。国内で6〜7割のシェアを持つ専業は、値上げが通りやすい。ここは堀として評価できる。
問題は、稼いだ利益が株主に戻らず、在庫と持ち合い株と現金に変わっていくことだ。営業利益16億円のために、自己資本317億円、運転資本145億円を抱える。ROEは過去10年の中央値で5.9%、資本コストの8.0%に届かない年が大半だ。オーナーの目で見れば、利益を1億円残すたびに、1億円の価値が生まれているとは言えない。
中期計画の目標は営業利益55億円、ROE10%と強気だ。実現すれば価値は大きく変わる。ただ、前の計画は2024/03期に目標を超えた直後に2期連続で減益になった。計画ではなく、資本の使い方が変わるかどうかを見る。政策保有株を売って還元に回し、在庫を減らす動きが定着すれば、同じ営業利益でも価値は高くなる。
安全域は、今の値段にはほとんどない。中立の価値がほぼ今と等しく、悲観で守られるのは純現金と持ち合い株くらいだからだ。割安と言い切るには、ROEが資本コストを超える証拠が要る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、アスファルトを敷いたあとに転がして固めるロードローラだ。ローラ関連が売上の約95%を占める。振動ローラ、タイヤローラ、ロードローラの3種に加え、古い舗装を削るロードカッタと、路盤を混ぜて固めるスタビライザなど維持補修機械を持つ。
顧客は国内の舗装・土木会社とゼネコン、海外ではディーラーとその先の施工会社だ。2025/03期の売上は国内43%、北米27%、アジア25%、その他5%。国内は官公庁の工事が柱で、需要は予算に左右される。
同社の強みは、土質ごとに違う締固めの経験だ。固め不足は、完工してしばらくたってから路面の傷みとして現れる。再施工のコストが重いので、顧客は実績のあるメーカーを選びやすい。
新しい柱は3つある。緊急ブレーキ付きの安全機能、電動ローラ、遠隔・自動運転のローラだ。電動の機械は、千葉県の圏央道の現場で初の有償貸出が決まった。インドネシアには1970年から合弁拠点があり、ASEAN向けの現地生産の核になっている。米国では子会社がディーラー網を通じて売る。
売上のうち台数と単価の内訳は開示されない。筆者は、国内の平均単価を1台2,000万円前後、北米を3,000万円前後と推定して台数に直した。
優良さと弱いところ
筆者は、同社の堀、つまり他社がまねしにくい強みを、国内に限れば本物と見る。シェア6〜7割は、道路を固める経験の蓄積と、全国のサービス網に支えられている。地下の締固めは外から品質が見えず、失敗の代償が重いので、ゼネコンは実績のある専業に頼る。日立建機のような総合メーカーは競合だが、専業ではない。
一方、海外ではこの堀が弱い。世界のシェアは生産台数で4〜5%、主戦場の日本・ASEAN・北米に絞っても13%ほどだ。相手は、ボーマグとダイナパックを持つフェイヤ、ハムを持つヴィルトゲン(ディア傘下)、キャタピラー、ボルボといった総合メーカーで、販売網も部品の在庫も向こうが厚い。中国の徐工集団や三一重工のような廉価メーカーもASEANで力をつけている。
値決めは、国内では通る。2023/03期から2024/03期は値上げで営業利益率が10%まで上がった。ただ、2期連続の減益では、関税と原価上昇を価格に乗せきれなかった。
資本効率は弱い。過去10年のROEの中央値は5.9%、2020/03期は2.1%、2021/03期はほぼゼロだった。棚卸資産は111億円と売上の4割で、運転資本は売上の約半分に及ぶ。在庫を多く持つ商売で、現金は回りにくい。経営は還元の方針を公表しており、ROEの水準に応じて配当性向を変える。この透明さは評価できるが、まず自己資本を軽くする動きが要る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
道路機械は、建設機械全体の中で小さな領域だ。国内の建設機械出荷額は年に約3.4兆円で、道路機械はそのうち2〜3%の約400億円にすぎない。世界のロードローラ市場は、調査会社によって32億〜49億ドルと幅があり、年4〜5%の成長が見込まれている。
需要の中身は、新設よりも更新だ。国内は舗装の老朽化と国土強靭化で、道路を直す工事が続く。人口が減るので新設は細るが、補修と災害復旧が下支えする。米国はインフラ投資法とデータセンター建設で、舗装需要が高い。2027/03期の第1四半期にも、北米は道路建設とデータセンター建設で増えた。一方、アジアは公共投資の停滞で急減した。
価格の面では、人件費と鋼材の上昇を値上げで転嫁できるかが分かれ目になる。同社は賃上げを3年連続で5〜6%行い、米国の関税コストも販売価格の改定で埋める計画だ。
技術の流れは、電動化、自動運転、安全装置だ。ゼネコンの人手不足は深刻で、省人化の機械には高く払う理由がある。ただ、電動の機械は電池と充電設備が必要で、最初は台数が小さい。
景気の振れは大きい。建設機械の市場は数年ごとに循環し、2008〜09年には大きく崩れた。専業の中堅は、その谷で赤字になる(2007/03期、2009/03期、2010/03期)。2025年は北米の金利高止まりと関税で、谷に近い局面にある。
資本政策と M&A
資本政策は明快だ。ROEが6%を超えれば配当性向50%、3〜6%ならDOE3%、3%未満なら配当性向100%とする。2026/03期の配当性向は99%だった。自社株買いは2022/03期に3.4億円しかない。
中期経営計画2031(5年)では、営業CF140〜150億円に対し、還元60〜70億円、成長投資90〜105億円(研究開発約50億円、設備25〜30億円、M&A・資本提携の枠15〜25億円)を置く。有利子負債も10〜25億円使う。営業CFの大半は、成長投資に向かう計画だ。
政策保有株は連結純資産の20%未満に抑える方針で、2024/06期に3.3億円、2026/03期に益約11億円の売却をした。約63億円以下という水準に近づけば、売却の余地は小さくなる。売却益は一回きりなので、2026/03期の純利益17.6億円から約8億円を除いた約10億円が、足元の稼ぐ力に近い。
大株主は信託口10.4%、みずほ銀行・三菱UFJ銀行各4.7%、日本生命・第一生命各3%台で、銀行・生保が厚い。社長の酒井一郎氏は3.2%を持つ。支配株主はいないので、親子上場の問題はなく、TOBの動きも見えない。
減価償却は新しい設備の分だけ物価に沿って増えるが、今ある設備は取得時の値段のままだ。設備投資は5年で25〜30億円と、償却費(年8億円前後と推定)をやや上回る。更新の投資が物価で膨らむ分、現金の出が増える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
酒井重工業は、日本で唯一の本格的な道路機械の専業だ。国内の6〜7割のシェアは、締固めの経験とサービス網に支えられている。国土強靭化と老朽インフラの更新で、国内の需要は急には縮まない。北米のインフラ投資法とデータセンター建設は、舗装の需要を押し上げる。実際に2027/03期の第1四半期も、北米は増えた。
会社の計画では2031/03期に売上420億円・営業利益55億円・ROE10%を目指す。営業利益率は13%で、2018/03期の11.4%を超える。ただ、緊急ブレーキ、電動ローラ、自動運転は、省人化を迫られるゼネコンが高く払う付加価値だ。ASEANの現地生産は、補修市場とODA案件で伸びる。
さらに、政策保有株の売却と還元の積み増しで、自己資本は軽くなる。時価総額176億円はPBR0.56倍で、自己資本の6割弱しか評価していない。営業利益率が9〜10%に戻るだけで、今の値段は大きく割安になる。
慎重な見方
売上が回復しないまま、コストだけが物価で増える構造が怖い。営業利益は2024/03期の33億円から、2026/03期は16億円まで半減した。関税の転嫁は遅れ、2027/03期の第1四半期は営業赤字になった。会社は2期連続の減益を経ても、計画の数字を据え置いている。
海外の競争は厳しい。世界のシェアは4〜5%で、フェイヤ、キャタピラー、ヴィルトゲンのような総合メーカーは、部品・販売網・資金で上回る。ASEANでは中国メーカーが廉価ローラで追う。電動化と自動運転の開発は、小さな会社が大手の投資に追いつけるかが分からない。
資本の面でも課題がある。運転資本は売上の半分近くで、棚卸の回転は2.4回しかない。営業CFの大半を成長投資に使う計画では、還元は薄いままだ。ROEの10年中央値は5.9%で、資本コストを下回り続けてきた。営業利益率は13%どころか、過去12年で11.4%が最高である。
加えて、会社は北米を成長の柱に置くが、足元の北米は関税とディーラー在庫で崩れた。需要が戻っても、関税分を価格に乗せられるかは別の話だ。価格を上げれば、ディーラーはキャタピラーや中国製に流れる可能性もある。国内の6〜7割のシェアは守りの武器であって、成長の源ではない。国内の人口が減る以上、シェアが高いこと自体が伸びしろの小ささを意味する。
どちらに重みを置いたか
強い方は慎重な見方だった。事業の質は国内で本物だが、価値を決めるのは稼ぐ力と資本の重さの差で、ここは計画の言葉よりも過去10年の実績が語る。営業利益率は過去の山(11.4%)を超えず、中立は7〜8%、楽観でも10〜11%に置いた。確率は中立を最も厚い36%にし、やや悲観を24%、悲観を12%と、悲観側に少し寄せた。ただし、国内の高いシェアと北米の台数増という実需は否定できないため、楽観とやや楽観で合計28%は残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,746 円236 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,146 円98 億円)。 今の値に割り戻すと 2,052 円176 億円、今との差 +0.6%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,410 円464 億円 | 1,541 円132 億円 | +240.7% | +13.0% | 556 円48 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,907 円335 億円 | 1,308 円112 億円 | +155.6% | +9.8% | 1,043 円89 億円 |
| 中立 | 36% | 3,046 円261 億円 | 1,186 円102 億円 | +107.5% | +7.6% | 1,524 円131 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,262 円108 億円 | 1,139 円98 億円 | +17.7% | +1.6% | 576 円49 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,108 円95 億円 | 508 円44 億円 | −20.8% | −2.3% | 194 円17 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,746 円236 億円 | 1,146 円98 億円 | +90.8% | +6.7% | 3,893 円334 億円 |
今の株価時価総額 2,040 円175 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:新製品と北米のシェアが当たり、計画に近い利益率に届く 利益 36 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 5,410 円464 億円
電動ローラと自動運転ローラが国土交通省の認定を得て、国内の大手ゼネコンの現場で標準になる。単価が物価を上回って上がり、国内の営業利益率は10%に乗る。北米は空白地域のディーラーを埋め、データセンターと道路更新の波に乗って台数が1.5倍に増える。ASEANではコアモデルと補修工法が当たり、鉱山向けにも広がる。
会社の計画に近い姿だ。売上は480億円前後、営業利益は52億円で、10年のうちに配当性向50%の領域に入る。資本効率は改善するが、それでも自己資本が積み上がるため、ROEは資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。筋書きの前提は、新製品の価格転嫁と北米のシェア拡大が同時に成功することだ。
- 国内(ローラ・道路維持機械・部品サービス):数量 6.6(国内の売上を、ローラ換算の台数と平均単価に分けた推定台数(百台))× 価格 28(平均単価(億円/百台。部品・サービス込み。今は1台あたり約2,000万円。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 185 億円・営業利益 19 億円。シェア維持、電動・自動運転で単価が上がる、営業利益率10%
- 北米(ローラ・舗装機械):数量 3.4(北米向けの推定台数(百台))× 価格 42(平均単価(億円/百台。北米は大型機・高周波機が多く単価が高い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 143 億円・営業利益 23 億円。ディーラー空白地を埋めシェア拡大、営業利益率16%
- アジア・その他(ローラ・道路維持機械):数量 6.0(アジア・その他向けの推定台数(百台))× 価格 25(平均単価(億円/百台。現地生産の廉価機が中心で単価は低い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 151 億円・営業利益 15 億円。ASEANのコアモデルと補修市場が当たる、営業利益率10%
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.78 倍、時価総額 464 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画2031の2031/03期目標(売上420億円・営業利益55億円)は、前計画が最終年度に未達だった実績から、そのままでは信じにくい。それでも国内の高いシェアと北米の伸びしろが重なれば届く道はあるので8%とした。
やや楽観 20% やや楽観:国内の堅さと北米・ASEANの回復で、利益率が過去の好況に近づく 利益 27 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,907 円335 億円
国内は国土強靭化と老朽化した舗装の更新が続き、ローラの台数は横ばいで、緊急ブレーキ付きなど高付加価値機の比率が上がる。北米は関税の価格転嫁が済み、ディーラー在庫の調整も終わって台数が緩やかに増える。ASEANは公共投資の再開で底打ちから回復する。
売上は430億円前後、営業利益は39億円、営業利益率は9%で、2024/03期の好況に近づく。業績が安定するので、還元の基準は配当性向50%に移り、自社株買いも小さく入る。それでも国内で伸びる余地は限られ、利益の伸びは物価と北米頼みになる。
筆者がこの筋書きで見るのは、ROEの水準だ。純利益は27億円まで戻るが、自己資本が410億円まで膨らむため、ROEは6.5%と資本コストを下回る。業績が良くなっても、資本の使い方が変わらなければ、価値の伸びは利益の伸びに追いつかない。ASEANの回復には2〜3年の時間差が出ると見て、北米と国内で稼ぐ形に偏る。
- 国内(ローラ・道路維持機械・部品サービス):数量 6.5(国内の売上を、ローラ換算の台数と平均単価に分けた推定台数(百台))× 価格 27(平均単価(億円/百台。部品・サービス込み。今は1台あたり約2,000万円。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 178 億円・営業利益 15 億円。国土強靭化が続き高付加価値機の比率が上がる、営業利益率8.5%
- 北米(ローラ・舗装機械):数量 2.9(北米向けの推定台数(百台))× 価格 41(平均単価(億円/百台。北米は大型機・高周波機が多く単価が高い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 119 億円・営業利益 17 億円。北米のシェアが緩やかに上がる、営業利益率14%
- アジア・その他(ローラ・道路維持機械):数量 5.4(アジア・その他向けの推定台数(百台))× 価格 25(平均単価(億円/百台。現地生産の廉価機が中心で単価は低い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 133 億円・営業利益 11 億円。ASEANが底打ちから回復、営業利益率8.5%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 335 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の道路・データセンター需要と国内の国土強靭化は実需で、台数の下支えは確か。2024/03期に営業利益率10.1%を出した実績があり、そこへ戻る筋書きなので20%とした。
中立 36% 中立:台数は北米頼み、利益率は7〜8%に戻る程度 利益 21 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,046 円261 億円
台数は国内が人口とともに6%減り、北米が増え、ASEANがゆるやかに伸びる。単価は物価並みで、売上は400億円弱になる。国内の営業利益率は7%、北米は13%、ASEANは7.5%で、全社では7〜8%に戻る。過去12年の山である11.4%には届かない。
バリュー投資の目で見ると、稼ぐ力は上がるのに資本の使い方が変わらない。自己資本の6割を現金・在庫・持ち合い株が占め、利益の半分を配当に出しても自己資本は390億円まで積み上がる。結果、ROEは5%台にとどまり、資本コストに届かない。倍率は利益の12.5倍に置く水準で、今の値段とほぼ釣り合う。
- 国内(ローラ・道路維持機械・部品サービス):数量 6.2(国内の売上を、ローラ換算の台数と平均単価に分けた推定台数(百台))× 価格 27(平均単価(億円/百台。部品・サービス込み。今は1台あたり約2,000万円。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 166 億円・営業利益 12 億円。台数は人口減で6%減、単価は物価並み、営業利益率7%
- 北米(ローラ・舗装機械):数量 2.6(北米向けの推定台数(百台))× 価格 40(平均単価(億円/百台。北米は大型機・高周波機が多く単価が高い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 106 億円・営業利益 14 億円。データセンター・道路投資で台数20%増、営業利益率13%
- アジア・その他(ローラ・道路維持機械):数量 5.2(アジア・その他向けの推定台数(百台))× 価格 24(平均単価(億円/百台。現地生産の廉価機が中心で単価は低い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 125 億円・営業利益 9 億円。台数15%増、単価は物価並み、営業利益率7.5%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 261 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:台数は国内が人口とともに細り、北米が増え、ASEANは横ばいから微増。単価は物価並み。営業利益率は過去12年の山(11.4%)を大きく下回る7〜8%が現実的で、最も厚い36%とした。
やや悲観 24% やや悲観:関税と中国メーカーの価格攻勢で、利益率が5%台に低迷 利益 12 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,262 円108 億円
米国の関税とディーラー在庫の調整が長引き、北米の台数が伸びない。ASEANでは中国メーカーの廉価ローラに押され、単価が物価に届かない。国内は公共投資が頭打ちで台数が9%減る。
売上は330億円台、営業利益は18億円で、営業利益率は5%台に低迷する。2020〜2021年の5%割れよりは高いが、物価で人件費が上がる分を価格に乗せきれない。純利益は12億円前後で、自己資本が390億円に迫るのに対してROEは4%を切る。配当はDOE3%の基準にとどまり、自己資本は積み上がる。
北米の関税は、価格に転嫁できないまま原価に残る。ASEANで単価が下がれば、現地生産を担うインドネシア子会社が赤字に近づく。会社は研究開発に5年で約50億円を使う計画だが、回収が遅れて営業利益の伸びを食う。中期経営計画2031の中間目標(2029/03期に営業利益40億円)には届かず、計画を引き下げる局面になる。
- 国内(ローラ・道路維持機械・部品サービス):数量 5.8(国内の売上を、ローラ換算の台数と平均単価に分けた推定台数(百台))× 価格 26(平均単価(億円/百台。部品・サービス込み。今は1台あたり約2,000万円。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 151 億円・営業利益 8 億円。公共投資の頭打ちで台数9%減、値上げが物価に届かない、営業利益率5.5%
- 北米(ローラ・舗装機械):数量 2.1(北米向けの推定台数(百台))× 価格 39(平均単価(億円/百台。北米は大型機・高周波機が多く単価が高い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 82 億円・営業利益 8 億円。関税とディーラー在庫でシェアが伸びない、営業利益率10%
- アジア・その他(ローラ・道路維持機械):数量 4.4(アジア・その他向けの推定台数(百台))× 価格 23(平均単価(億円/百台。現地生産の廉価機が中心で単価は低い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 101 億円・営業利益 6 億円。中国メーカーとの価格競争で単価が物価に届かない、営業利益率5.5%
倍率:ROE 3.6% で k を大きく下回る。稼ぐ力(純利益 ÷ k)をもとに、上限 12.5 倍の 7 割の 8.8 倍に置いた。引き上げはしていない。
確率:関税コストの価格転嫁が遅れ、ASEANで中国メーカーに押される形は、足元の2期でも起きている。ROEが資本コストを下回る期間が長引く筋書きで、中立より薄く24%とした。
悲観 12% 悲観:国内の更新需要が縮み、海外で価格競争に負けて構造的に稼げなくなる 利益 3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,108 円95 億円
国内の道路更新需要が縮み、ゼネコンの現場に入るのは、電動化で先行した海外メーカーの機械が中心になる。北米は関税とディーラー網の弱体化で採算を割り、ASEANでは中国製の廉価ローラが標準になる。
売上は260億円、営業利益は4億円で、10年のあいだ利益がほとんど出ない。ROEは1%に落ち、配当性向100%で全額を出しても残りは小さい。この状態の価値は、稼ぐ力ではなく、持っている資産(持ち合い株・現金・売れる土地建物)で支えられる。ただし少数株主は清算を迫れないので、資産の全部は評価に乗らない。
この筋書きでは、中期経営計画2031の目標(営業利益55億円)は完全に外れる。研究開発に使った約50億円は回収されず、国内の工場は稼働率が下がる。資本政策は変わらず、自己資本は小さな利益の分だけしか増えない。それでも国内のシェアが急に崩れるわけではないため、会社が倒れるのではなく、長く低収益で漂う姿になる。
- 国内(ローラ・道路維持機械・部品サービス):数量 5.2(国内の売上を、ローラ換算の台数と平均単価に分けた推定台数(百台))× 価格 24(平均単価(億円/百台。部品・サービス込み。今は1台あたり約2,000万円。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 127 億円・営業利益 4 億円。国内の更新需要が縮み、競合の電動機に押される、営業利益率3%
- 北米(ローラ・舗装機械):数量 1.6(北米向けの推定台数(百台))× 価格 36(平均単価(億円/百台。北米は大型機・高周波機が多く単価が高い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 58 億円・営業利益 3 億円。ディーラー網が弱り関税で採算が悪化、営業利益率5%
- アジア・その他(ローラ・道路維持機械):数量 3.6(アジア・その他向けの推定台数(百台))× 価格 21(平均単価(億円/百台。現地生産の廉価機が中心で単価は低い。物価で10年1.34倍が基本))→ 売上 75 億円・営業利益 2 億円。中国製ローラに価格で押される、営業利益率2%
倍率:稼ぐ力はほぼ消え、純利益 2.7 億円 ÷ k では 34 億円にしかならない。そこで売れる資産の税後を床にした。PBR は床の 95 億円を今の自己資本 316.8 億円で割った 0.30 倍。
確率:国内の更新需要が構造的に縮み、海外でも価格で勝てなくなる筋書き。専業の小さな会社なので一度崩れると戻りにくいが、国内シェア6〜7割と純現金・政策保有株があり、倒れる形ではないので12%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内(ローラ・道路維持機械・部品サービス)
ロードローラ、ロードカッタ、スタビライザなど道路をつくり直す機械と、その部品・修理。国内シェアは6〜7割。
| 数量国内の売上を、ローラ換算の台数と平均単価に分けた推定台数(百台) | 価格平均単価(億円/百台。部品・サービス込み。今は1台あたり約2,000万円。物価で10年1.34倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.4 | 20 | 128 | 7 |
| 10 年後 中立 | 6.2 | 27 | 166 | 12 |
取り方:2026/03期の国内売上は開示の地域別から約128億円と置いた(2025/03期は120億円、2026/03期は上期4.8%減)。ローラと維持機械の本体に部品・修理を足した平均単価を約2,000万円とし、ローラ換算で約640台と推定した(台数は開示がなく推定)。営業利益は所在地別セグメントの採算(日本は赤字の四半期あり)と全社16億円から、国内7億円と配分した。
北米(ローラ・舗装機械)
米国子会社を通じて売る振動ローラ・タイヤローラ。ディーラー経由で、インフラ法・データセンターの道路需要に乗る。
| 数量北米向けの推定台数(百台) | 価格平均単価(億円/百台。北米は大型機・高周波機が多く単価が高い。物価で10年1.34倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.2 | 30 | 66 | 7 |
| 10 年後 中立 | 2.6 | 40 | 106 | 14 |
取り方:2025/03期の北米は75.7億円、2026/03期は関税とディーラー在庫調整で上期17.6%減のあと下期に戻したとみて約66億円と置いた。平均単価は約3,000万円、台数は約220台と推定(開示なし)。1Q(2025年4〜6月)の北米セグメント営業利益率は約12%で、通期は約10%とみて6.5億円と配分した。
アジア・その他(ローラ・道路維持機械)
インドネシア・中国の子会社で作り、ASEAN・中東・アフリカに売る。ODAの道路案件と鉱山・補修市場が相手。
| 数量アジア・その他向けの推定台数(百台) | 価格平均単価(億円/百台。現地生産の廉価機が中心で単価は低い。物価で10年1.34倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.5 | 18 | 81 | 5 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 24 | 125 | 9 |
取り方:2025/03期のアジア70.2億円・その他12.6億円。2026/03期は上期にアジア9.9%減、その他14.9%減で、通期は約81億円と置いた。平均単価は約1,800万円で約450台と推定(開示なし)。インドネシア子会社の採算が悪く、営業利益は5.4億円と配分した。
リスクと懸念
米国の関税と北米ディーラーの在庫
北米は売上の約3割で、利益率も高い。関税コストは2026/03期の下期に2億円を見込み、価格転嫁は遅れた。金利が高止まりすると、ディーラーが在庫を持たなくなり、仕入れ自体が止まる。北米の台数が戻らなければ、中立の前提が崩れる。
中国メーカーのASEANでの価格攻勢
インドネシアの子会社は2026/03期に利益が落ちた。徐工集団、三一重工などの廉価ローラが東南アジアで力をつければ、現地生産の単価が物価に届かない。ASEANは売上の4分の1で、採算の低い子会社が増えると全社の利益率を押し下げる。
公共投資の予算
国内は官公庁の工事が柱で、国土強靭化の予算が変わると台数が動く。補修は底堅いが、新設は人口減で細る。国内は売上の4割強で、予算の減速は直接効く。
電動化・自動運転の遅れ
電動ローラや自動運転ローラの事業化は、前の計画でも課題として残った。ボーマグなど大手が先行すれば、高付加価値の比率を上げる前提が崩れる。開発費は5年で約50億円と、営業利益の3年分に近く、回収は不確かだ。
資本効率が上がらない
自己資本比率は約72%と高く、棚卸資産の回転は2.4回と遅い。営業CFの多くを成長投資に使う計画では、還元が薄いままROEが5%台に残る。この状態が続けば、利益が戻っても価値は資本コストに届かない。
景気の谷での赤字
2007/03期、2009/03期、2010/03期は赤字だった。建設投資が急に冷えると、固定費の重さで利益が消える。足元の第1四半期も営業赤字で、谷に近い局面が長引く可能性がある。
今後の分かれ目
- 政策保有株を売り、還元か在庫の圧縮に回す動きが定着する
- 同じ営業利益でも自己資本が軽くなり、ROEが資本コストに近づく。中立の倍率は式の上限に近づき、価値が上がる。
- 北米の関税を価格に転嫁でき、ディーラー在庫が適正に戻る
- 北米の台数が増え、全社の営業利益率が8%台に戻る。やや楽観の筋書きに寄る。
- 電動ローラ・自動運転ローラが国内ゼネコンの標準仕様になる
- 国内の単価が物価を超えて上がり、営業利益率は10%に近づく。楽観の筋書きが現実味を帯びる。
- ASEANで中国メーカーに価格で負け続ける
- アジアの単価が物価に届かず、利益が出なくなる。インドネシア子会社の減損も視野に入る。
- 国土強靭化の予算が打ち切られる
- 国内の台数が1割以上減り、営業利益率は5%台に沈む。やや悲観の筋書きに寄る。
- 他社が株式を取得するなどTOBや資本提携の動きが出る
- PBR0.56倍で自己資本の厚い会社は買収の対象になりうる。ただし支配株主はなく、実現は計画の枠(15〜25億円)に左右される。
見ておくもの
- 2027/03期の営業利益(会社予想16.5億円)と北米の売上の戻り
- 中期経営計画2031の中間目標(2029/03期に売上365億円・営業利益40億円)の進み具合
- 政策保有株の期末残高(連結純資産の20%未満)と売却益
- 棚卸資産の回転(2.4回)と運転資本の売上比
- 電動ローラ・自動運転ローラの受注台数と国土交通省の認定
倍率と資本コストの決め方
売上は国内・北米・アジアの地域別に台数と平均単価(台数は推定)で積み、単価は物価並みの10年1.34倍を基本にした。倍率は式(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、ROEがk以下なら1÷kが上限)の7〜9割に置き、今・過去・同業のPER・PBRは根拠にしていない。悲観は純現金と売れる資産の税後を床にし、帳簿のPBRの底を使っていない。中期計画の営業利益率13%は過去の山(11.4%)を超えるため、楽観でも11%弱に抑えた。新リース会計基準の数字の形(家賃が償却と利息に変わる)は、今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→12.78 倍・やや楽観 PER 10.6→12.5 倍・中立 PER 10→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.5% = 8.0%。関税・中国メーカー・北米依存の個別リスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。