結論
JUKIは、縫製工場で使う工業用ミシンで世界首位級の機械メーカーだ。もう一つの柱は、電子基板に部品を載せる実装機などの産機事業である。筆者の結論は、今の値段は利益の回復をかなり織り込んでおり、やや割高というものだ。最大の理由は借金の重さにある。
純有利子負債は約524億円で、時価総額の2.5倍に当たる。営業利益は支払利息の1.4倍しかなく、借り換えのたびに金利が上がれば、稼ぎの一部が利息に消える。景気が少し崩れるだけで、株主の取り分が消える構造だ。
良い材料もある。「売上より利益」への転換が効き、2026年上期の営業利益は前年同期の約24倍になった。縫製はハイエンドに絞り、利益率が戻りつつある。世界首位の設置台数がつくる保守と部品の収益も、下支えになる。
一方、産機は赤字が続き、縫製のミドル帯は中国勢との値下げ競争が止まらない。縫製が堅く産機が黒字になる中立の筋書きでも、10年後の営業利益は今の3倍弱にとどまり、利息と税を引いた株主の取り分は今の時価総額を超えにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、JUKIは良い事業と悪い事業が同居し、借金で身動きが取れない会社に映る。
縫製は、世界の工場で使われ続け、保守と買い替えで長く稼げる事業だ。ハイエンドに絞った今の利益率7.5%は、10年守れる見込みがある。だが産機は、強い競合と同じ土俵にいて、資本を食うわりに稼げていない。ここに追加の資金を回し続けるのは、オーナーなら避けたい。
いちばん気になるのは借金である。営業利益で利息を賄う余裕が薄く、景気の谷では株主に残る利益が消える。払う値段と本質価値の差、つまり安全域が取れる会社ではない。
経営の資本配分は、直近でようやく筋が通ってきた。売上偏重をやめ、資産を売って借金を減らす方向は正しい。ただ、直近10年で純損益が赤字だった年が4回あり、実行の裏づけを見てから評価を上げたい。
筆者は、利益が回復する中立の筋書きでも、10年後の株主の取り分は今の時価総額に届かないと見る。PBRの低さは、稼ぐ力が資本コストに満たない会社では割安の根拠にならない。
何で稼ぐ会社か
JUKIの稼ぎは、縫製事業と産機事業の二本立てだ。2025年12月期の売上888億円のうち、縫製が666億円で4分の3を占め、営業利益50億円を稼ぐ。
縫製の中心は工業用ミシンである。アパレル工場の縫い子が使う機械で、直線縫い、まつり縫い、ボタン付けなど工程ごとに専用機がある。設置台数では世界首位で、会社はシェアを約3割とする。自動車シートの縫製にも強く、欧州や北アフリカ、米州の車載関連が堅調だ。工場の稼働データをつなぐIoTと、導入を手伝う専任の担当者(SFC)を組み合わせ、機械を売って終わりにしない商売へ移している。家庭用ミシンは、プロや上級者向けの職業用を核にした小さな事業だ。
産機事業は売上218億円で、営業損失は11億円。実装機(電子基板に部品を載せる機械)、基板の検査機、自動倉庫、そして他社製品の開発・製造を請け負う受託事業からなる。実装機は中堅・中小の電子機器受託メーカーに単品で売ってきたが、値下げ競争で苦しんだ。今は大型・特殊な基板に絞る方針だ。
本社費などの調整額は約12億円のマイナスで、全社の営業利益は27億円になる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みがあるのは、縫製だ。長年の設置台数が生む部品供給と修理の網、縫い目の品質への信頼、自動車シートのような難しい縫製の技術が積み上がっている。買い替えも保守も同じメーカーでそろえたい顧客は多い。
ただし堀は一様ではない。量産だが特別な技術は要らないミドル帯では、中国の杰克科技(Jack)が低い値段で攻める。杰克の売上は約1,400億円で、JUKI全社の1.5倍を超える。JUKI自身も、この帯で利益率が大きく下がったと認めている。堀が効くのはハイエンドに限られる。
産機に堀はほとんどない。実装機はASMPT、FUJI、ヤマハ発動機、パナソニックの大手が先を行き、JUKIの存在感は薄い。
資本の効率は低い。過去10年のROE(自己資本利益率)の中央値は4.5%で、資本コストを下回ってきた。過去20年で赤字の期は7回ある。
経営は、赤字を出した後の立て直しの局面にある。機種を減らして生産能力を適正化し、売上より利益を優先する判断は筋が通る。ただ、借金が重く、自社の意思で打てる手が限られる点は弱みだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
縫製の市場は、衣料の生産拠点の移動と連動する。縫製工場は中国から東南アジア、南アジア、アフリカへ移り、人件費の上昇と人手不足が自動化への投資を後押ししている。JUKIは市場を年3,000億円超と見ており、別の調査会社は名目で年5%前後の伸びを予想する。物価の分を除いた実質の伸びは、年1〜2%にとどまる。
投資は景気と地政学で振れやすい。2026年は中東情勢でインド以西の顧客が投資を先送りした。逆に中国とアジアは戻りつつあり、車載向けは欧米で強い。
競争は二極化している。上位帯は日本勢(JUKI、ブラザー)と中国の上位メーカー、下位帯は低価格の中国勢だ。杰克は14年連続の世界販売台数首位を自称し、ミドル帯をほぼ押さえた。JUKIの活路は、自動化装置とデータをつなぐ工場まるごとの提案と、車載などの難しい縫製にある。
実装機の世界市場は約38億ドルで、年4.7%の伸びと見られる。主役はASMPT、FUJI、ヤマハ発動機、パナソニックだ。需要はスマホやサーバー向けの基板投資で動き、部品の小型化と基板の大型化が装置の更新を促す。JUKIが狙うのは、大型・特殊基板、AIサーバー基板、蓄電機器である。大手が高速機で争う領域を避けるニッチ戦略で、成否はこれからの10年で問われる。
受託事業ではAIデータセンター関連装置や蓄電池関連の受注が増えている。ただし顧客の仕様で作る商売なので、利益率は高くなりにくい。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、借金を減らすことだ。有利子負債は2025年に148億円減り、会社は2029年に510億円まで下げる目標を掲げる。手段は在庫と売掛金の圧縮、そして資産売却である。
2025年7月には、本社社屋(東京都多摩市)を信託で譲渡し、借りて使い続けるセール・アンド・リースバックを実施した。資金は手元に入るが、家賃は毎年払う固定の約束になる。2028年12月期から始まる新リース会計基準では、借りている資産が貸借対照表に載り、見かけの負債は増える。
政策保有株の整理も進む。2025年10月にペガサスミシンとの資本提携を業務提携に改め、持ち株を市場で売り出した。2026年第1四半期には政策保有株の売却益が出ている。
株主還元は、2024年の無配から回復させる段階だ。2026年12月期は配当性向が約3割の見込みで、自社株買いは小さい。借金返済が優先で、還元の余裕は薄い。
M&Aでは、2025年10月にソニー系の持ち分を買い、実装機の子会社を完全子会社にした。規模は小さい。時価総額が純負債より小さいため、買収の芽はある。ただ、赤字の産機と重い借金を引き受ける買い手は限られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
JUKIの利益は、底を打って反転する局面に入った。2025年12月期は営業黒字に戻り、2026年上期の営業利益は21.7億円と前年の約24倍だ。機種を絞りハイエンドに集中する戦略転換が、売上が減っても利益が出る型を作りつつある。縫製は営業利益率7.5%まで戻し、車載向けの欧米需要と中国・アジアの回復が追い風になる。
世界首位の設置台数が生む保守・部品の収益は安定している。人手不足と人件費の上昇で、縫製の自動化投資は10年続く。IoTで工場全体を提案する型は、安売りの中国勢と差がつく。
産機は赤字が縮み、AIサーバー基板や蓄電池向けの特殊基板、受託事業が伸びれば黒字化は十分ありうる。会社計画は2027年に営業利益95億円だ。借金は在庫と売掛金の圧縮、資産売却で減り、利息の重さは和らぐ。営業利益が100億円に届けば、純利益は50億円を超える。
時価総額が純負債より小さいことは、株主には改善の余地が大きいことを意味する。利益が少し増えるだけで、株主の取り分は何倍にもなる。
慎重な見方
赤字が慢性化した会社の黒字化を、そのまま信じるのは危うい。過去10年のうち純損益の赤字は4回あり、売上は10年で年2.4%ずつ縮んできた。2027年の売上目標を1,310億円から1,000億円に引き下げたこと自体が、売上の弱さの証拠だ。
縫製は、ミドル帯で杰克などの中国勢に押され、値段を下げ続けている。杰克の売上は約1,400億円で、研究開発と量産の規模でJUKIを上回る。ハイエンドも、ブラザーと中国の上位が追い上げている。
産機は、ASMPTやFUJIなどの大手が先行する実装機で、JUKIが取れる市場は小さい。ニッチ戦略は聞こえがよいが、顧客が数社に偏り、受注が一気に消えるリスクがある。
最大の問題は借金だ。純有利子負債は524億円で、EBITDAの約8.6倍にあたる。借り換えで利息は上がり、営業利益が20億円下がれば純利益は消える。本社も売ってしまい、手元で売れる資産は少ない。景気の谷が来れば、増資や資産の叩き売りで株主価値が大きく削られる。
どちらに重みを置いたか
縫製の収益回復は本物で、強気の言い分には根拠がある。ただし産機の黒字化と借金の削減は、まだ計画の段階だ。確率は悲観寄りに少し置いた。利益が回復する中立でも、10年後の価値は今の時価総額を下回る。強気の筋書きが実現して初めて、今の値段に見合う。中立37%、やや悲観26%、悲観14%とし、楽観側は合わせて23%にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,153 円341 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 229 円68 億円)。 今の値に割り戻すと 611 円181 億円、今との差 −8.4%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 9.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,185 円942 億円 | 595 円176 億円 | +466.8% | +18.9% | 227 円67 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,106 円622 億円 | 403 円119 億円 | +276.0% | +14.2% | 426 円126 億円 |
| 中立 | 37% | 1,403 円415 億円 | 264 円78 億円 | +149.9% | +9.6% | 617 円182 億円 |
| やや悲観 | 26% | 276 円82 億円 | 95 円28 億円 | −44.4% | −5.7% | 96 円29 億円 |
| 悲観 | 14% | 94 円28 億円 | 17 円5 億円 | −83.4% | −16.4% | 16 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,153 円341 億円 | 229 円68 億円 | +107.2% | +7.6% | 1,382 円409 億円 |
今の株価時価総額 667 円197 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 縫製が高付加価値で伸び、産機も黒字の定着 利益 80 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 3,185 円942 億円
10年後、縫製は世界の自動化投資に乗って伸びる。アパレル工場の人手不足は続き、JUKIは「機械とデータをつなぐ工場まるごとの提案」で、杰克などの中国勢が届かない上位帯のシェアを守る。車載シート向けは欧州・北アフリカ・米州で広がり、縫製の営業利益率は10%に乗る。産機はサーバー基板と蓄電機器の特殊基板で顧客を固め、受託事業も第3の柱に育つ。実装機のシェアは今より上がり、営業利益率は7%に達する。借金は資産売却と運転資本の圧縮で大きく減り、利息の負担が軽くなる。配当は利益の3分の1を超え、自己資本比率は4割に近づく。会社が掲げる2029年の営業利益160億円には届かないが、その8割強の水準を10年後に実現する、ほぼ最良の姿だ。
- 縫製(工業用ミシン・家庭用ミシン):数量 875(世界のミシン市場(今の値段のまま・億円)× JUKIの金額シェア)× 価格 1.38(値段の指数(今を 1.0、10 年で物価並みなら 1.34))→ 売上 1,208 億円・営業利益 121 億円。市場 ×1.25・シェア 20%・利益率 10%
- 産機(実装機・自動倉庫・受託):数量 725(実装機・受託などの換算台数(実装機1台相当の件数))× 価格 0.60(1台相当あたりの売上(億円))→ 売上 436 億円・営業利益 31 億円。実質売上 ×1.45・利益率 7%
倍率:事業の純利益 80 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.6 倍、時価総額 928 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画に近い利益の回復が10年続く姿。過去12年に営業利益率が8%を超えたのは2018年の1度だけで、重い借金と赤字の産機を抱えたままの達成は難しい。
やや楽観 17% 縫製の回復が続き、産機はほぼ収支均衡 利益 56 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 2,106 円622 億円
縫製は、ハイエンドへの集中が実を結び、営業利益率が9%に戻る。杰克との差は縮まらないが、JUKIは車載と自動化装置の分野で「代わりが効かない相手」の立場を保つ。インド以西の投資は戻り、中国・アジアの需要も安定する。産機は赤字を脱し、営業利益率は5%台に入る。特殊基板向けの実装機と受託事業の拡大が理由だ。借金は会社計画に近い速さで減り、10年後の純負債は200億円まで下がる。利息が軽くなる分、純利益は営業利益の5割台半ばに回復する。配当は利益の3割強で、自社株買いは小さい。成功ではあるが、過去の最高水準を大きく超えるほどではない。
- 縫製(工業用ミシン・家庭用ミシン):数量 785(世界のミシン市場(今の値段のまま・億円)× JUKIの金額シェア)× 価格 1.36(値段の指数(今を 1.0、10 年で物価並みなら 1.34))→ 売上 1,067 億円・営業利益 96 億円。市場 ×1.18・シェア 19%・利益率 9%
- 産機(実装機・自動倉庫・受託):数量 650(実装機・受託などの換算台数(実装機1台相当の件数))× 価格 0.59(1台相当あたりの売上(億円))→ 売上 385 億円・営業利益 21 億円。実質売上 ×1.30・利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.76 倍、時価総額 603 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:戦略転換が定着し、縫製の利益率が9%近くまで戻る姿。上期の営業利益の急回復という裏づけがあるため、楽観側では厚めに置いた。
中立 37% 縫製は堅調、産機はわずかな黒字にとどまる 利益 36 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,403 円415 億円
縫製は、売上の伸びが物価並みにとどまる中で、利益率が8.5%まで戻る。ハイエンドへ絞り込んだ効果が出て、機種を減らした分の固定費も軽くなる。ただしミドル帯では杰克などにシェアを譲り続け、シェアは今の19%から17.5%へ下がる。産機は、実装機の赤字が止まり、受託事業が黒字で支える形になる。営業利益率は3%と低いが、赤字の事業が下支えになる点に意味がある。本社費は物価で増え、全社の営業利益は72億円、売上は1,200億円台に乗る。借金は運転資本の改善と資産売却で300億円前後まで減るが、利息は新しい金利に置き換わるため、純利益は36億円にとどまる。自己資本は500億円台に積み上がり、ROEは7%近くまで戻る。資本コストにはなお届かない。
- 縫製(工業用ミシン・家庭用ミシン):数量 686(世界のミシン市場(今の値段のまま・億円)× JUKIの金額シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.0、10 年で物価並みなら 1.34))→ 売上 919 億円・営業利益 78 億円。市場 ×1.12・シェア 17.5%・利益率 8.5%
- 産機(実装機・自動倉庫・受託):数量 550(実装機・受託などの換算台数(実装機1台相当の件数))× 価格 0.58(1台相当あたりの売上(億円))→ 売上 321 億円・営業利益 10 億円。実質売上 ×1.10・利益率 3%
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 379 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:縫製の収益改善は続くが、産機の立て直しは緩やかで、借金の返済も計画どおりには進まないという落としどころ。
やや悲観 26% 中国勢にシェアを削られ、利益が低位に戻る 利益 9 億円 · PER 5.0 倍 · 株価時価総額 276 円82 億円
縫製のミドル帯は中国勢に取られ、シェアが15%まで落ちる。杰克は研究開発と量産規模を生かし、ハイエンドでも仕様の近い製品を安い値段で出す。JUKIは車載と自動化装置の分野で踏みとどまるが、値決めの力は弱まり、営業利益率は6.5%に下がる。産機は黒字化できないまま、顧客の絞り込みで売上が縮む。会社は産機の撤退か再編を迫られ、損益はほぼゼロで足踏みする。借金は400億円まで減るが、利息の負担は重く、純利益は10億円に届かない。配当は小さく、自己資本は増えても資本コストを大きく下回る。事業は残るが、株主の取り分は細る。構造的に負けた姿で、優良企業とは言えなくなる。
- 縫製(工業用ミシン・家庭用ミシン):数量 551(世界のミシン市場(今の値段のまま・億円)× JUKIの金額シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.0、10 年で物価並みなら 1.34))→ 売上 717 億円・営業利益 47 億円。市場 ×1.05・シェア 15%・利益率 6.5%
- 産機(実装機・自動倉庫・受託):数量 450(実装機・受託などの換算台数(実装機1台相当の件数))× 価格 0.57(1台相当あたりの売上(億円))→ 売上 255 億円・営業利益 0 億円。実質売上 ×0.90・利益率 0%
倍率:ROE 2%台で資本コストを大きく下回る。構造的に負けた筋書きとして、中立の 8.2 倍から大きく下げ 5.0 倍に置いた。稼ぐ力は 純利益÷k で約 95 億円、時価総額 45 億円はそれを超えない。自己資本の厚さは根拠にしない。純負債が残る会社では売れる資産が借金に見合わず、床としては働かない。
確率:杰克などの中国勢がハイエンド寄りまで攻め、縫製のシェアと価格が削られる。過去10年の売上の縮小と赤字の多さを踏まえ、中立に次ぐ厚みを置いた。
悲観 14% 借金に押されて事業を縮小し、株主の取り分が細る 利益 −44 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 94 円28 億円
中国勢が縫製のハイエンドにも入り、JUKIのシェアは12%まで落ちる。景気の谷と地政学の混乱で、アパレルと電子の投資が同時に冷え込む。産機は大型・特殊基板のニッチ戦略が顧客の取りこぼしで行き詰まり、営業赤字が大きく膨らむ。会社は減損を出して事業を絞り込むが、借金の返済と利払いが重い。純負債は450億円前後にとどまり、金融機関への依存が増す。営業赤字と利息で純損失は40億円を超え、自己資本は半分以下になる。配当は止まり、資産売却と増資、場合によっては他社の傘下入りが選択肢に入る。残るのは、縫製のブランドと設置台数に基づく保守の収益だけだ。
- 縫製(工業用ミシン・家庭用ミシン):数量 399(世界のミシン市場(今の値段のまま・億円)× JUKIの金額シェア)× 価格 1.25(値段の指数(今を 1.0、10 年で物価並みなら 1.34))→ 売上 499 億円・営業利益 5 億円。市場 ×0.95・シェア 12%・利益率 1%
- 産機(実装機・自動倉庫・受託):数量 325(実装機・受託などの換算台数(実装機1台相当の件数))× 価格 0.55(1台相当あたりの売上(億円))→ 売上 177 億円・営業利益 −16 億円。実質売上 ×0.65・利益率 −9%
倍率:営業赤字で純利益は成り立たないため PBR で置く。借金で自己資本が痩せ、事業の価値は小さい。清算されない限り現金の使い道は少数株主が決められないので、売れる資産と保守収益の価値を見込んでも、自己資本 150 億円に 0.2 倍(30 億円)とした。
確率:借金が8倍超のEBITDAに対し、景気の谷と産機の失敗が重なる姿。純負債・利払い・売上の縮小が重なる点を踏まえ、5%を超える確率とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
縫製(工業用ミシン・家庭用ミシン)
縫製工場で使う工業用ミシンと周辺の自動化機器、保守・部品。小さな家庭用ミシン事業を含む。
| 数量世界のミシン市場(今の値段のまま・億円)× JUKIの金額シェア | 価格値段の指数(今を 1.0、10 年で物価並みなら 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 665 | 1.00 | 666 | 50 |
| 10 年後 中立 | 686 | 1.34 | 919 | 78 |
取り方:世界の工業用・家庭用ミシン市場を今の値段で約3,500億円と置き(会社は工業用だけで3,000億円超、別の調査会社は名目37.6億ドル)、JUKIの縫製売上666億円を割って金額シェア約19%とした。会社の言う「設置台数シェア約3割」は低価格機を含む台数ベースで、金額ではこれより低い。数量は市場の実質の大きさ×シェア、価格は値段の指数で物価の分を持つ。
産機(実装機・自動倉庫・受託)
電子基板に部品を載せる実装機とその周辺、自動倉庫、他社製品の開発・製造を請け負う受託事業。
| 数量実装機・受託などの換算台数(実装機1台相当の件数) | 価格1台相当あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 500 | 0.44 | 218 | −11 |
| 10 年後 中立 | 550 | 0.58 | 321 | 10 |
取り方:産機の売上218億円は実装機・基板検査機・自動倉庫・受託の合算で、内訳は開示を確認できなかった。世界の実装機市場は約38億ドル(約5,700億円)で、JUKIの実装機部分は3〜4%程度と推定。受託や倉庫を含む合算を、実装機1台相当(約4,400万円)の件数500台に換算して置いた。10年後の件数は、この台数に対する増減で描く。物価の分は1台あたりの売上(価格)に入れる。
リスクと懸念
借金の重さと金利の上昇
純有利子負債は524億円で、EBITDAの約8.6倍。借り換えのたびに金利が3.5%前後へ上がり、営業利益で利息を賄う余裕が薄い。景気の谷で営業利益が2割動くだけで、純利益が消える。銀行が貸し続けるかが株主価値を左右する。
中国メーカーとの値下げ競争
杰克科技の売上は約1,400億円とJUKI全社を大きく上回る。ミドル帯で中国勢に押され、JUKIの縫製の利益率は一度大きく下がった。ハイエンドまで価格が下がれば、シェアだけでなく値決めの力も失う。
産機の赤字が続く
産機は2025年に営業損失11億円。実装機は大手が先行し、ニッチ戦略はサーバー基板と蓄電機器の少数の顧客に依存する。受注が数社に偏れば、1社の投資計画の変更が赤字を再び膨らませる。撤退や減損の可能性もある。
設備投資の循環と地政学
アパレルも電子基板も、設備投資は景気と地政学で振れる。2026年は中東情勢でインド以西の顧客が投資を先送りした。関税や制裁で生産拠点の移転が遅れる局面でも、機械の買い替えは後回しになりやすい。
計画の未達と先送り
過去の中期計画は繰り返し未達で、2027年の売上目標は今回1,310億円から1,000億円へ引き下げられた。利益目標だけを上げる改訂が、売上の勢いを伴わないまま達成できるかは未知数だ。計画を信じすぎるのは危うい。
本社のリースバックと新リース会計
2025年に本社社屋を売って借りる形にし、家賃は固定の約束になった。売上が落ちても家賃は落ちない。2028年12月期からの新リース会計基準では、負債が見かけ上さらに増え、自己資本比率の改善目標の見え方が悪くなる。
今後の分かれ目
- 縫製の営業利益率が2年続けて9%を超える
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ハイエンドへの集中が杰克との価格競争から逃げ切れた証拠になり、利息の負担も軽くなる。
- 産機が通期で営業黒字になり、サーバー基板・蓄電機器の受注が複数の顧客に広がる
- 産機の黒字化を中立の前提に引き上げられる。会社の見立てに根拠が出るので、悲観側の確率を下げる。
- 有利子負債が2027年に540億円を大きく下回る
- 財務の傷みが和らぐ。資本コストの借金の上乗せを下げる余地が出る。
- 杰克などの中国上位が車載・自動化装置でJUKIの顧客を奪い始める
- ハイエンドの堀が崩れ始めたと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 産機の撤退・売却、または他社による買収提案が出る
- 赤字の部分が切り離されれば縫製の価値が見えやすくなる。提案価格が事業価値を反映しているかを別に確認する。
- 営業利益が通期で30億円を下回り、借り換えに支障が出る
- 増資や資産の叩き売りの確率が上がる。悲観の確率を上げ、株主の取り分を大きく下げて見る。
見ておくもの
- 縫製の営業利益率(ハイエンド比率・車載向けの伸び)
- 産機の営業損益と、サーバー基板・蓄電機器の受注社数
- 有利子負債・純有利子負債とEBITDAの比、借り換えの金利
- 杰克科技の売上・利益率と、ハイエンド機種での価格
- 資産売却(政策保有株・不動産)の実績額
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PERを見ず、縫製と産機を数量(市場×シェア)×価格で積んだ利益から置いた。資本コストは基本 7.5% に借金 +1.0%・循環 +0.5%・値決め +0.5% を足した 9.5%(会社自身の認識 8〜10% の範囲)。中立のROEは約7%で資本コストに届かず、長く続くROEが薄れるため、式の正当化PERは約9.3倍。その約9割弱の8.2倍に置いた。やや悲観・悲観は構造的な負けとして稼ぐ力から低く置き、自己資本の厚さや過去のPBRの底は根拠にしていない。中立の営業利益率は5.8%で、過去12年の最高8.2%より低く、中立の純利益÷営業利益は0.50で過去の中央値0.53に近い。会社の中期計画の利益目標はそのまま使わず、10年の筋書きで再計算した。本社のリースバックは家賃を営業費用に入れた形で、新リース会計基準後の数字の形の変化は織り込んでいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.3→11.6 倍・やや楽観 PER 9.5→10.76 倍・中立 PER 8.2→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。