結論
東京機械製作所は新聞の輪転機、つまり新聞を高速で刷る大型の印刷機の国内大手だ。読売新聞が株の4分の1強を持ち、売上の半分を占める。筆者の結論は割高寄りだ。手元の純現金は80億円を超え、時価総額の倍近い。それでも、本業の市場は新聞の部数とともに縮み、現金は長く無配のまま株主に戻ってこなかったからである。
足元は追い風だ。古い輪転機の更新が重なり、受注は前の期の3倍に膨らんだ。2027年3月期の売上は110億円と、ここ10年で最も大きい。ただ、これは何十年に一度の更新の山で、山が過ぎれば新しい機械の需要は細る。新聞の発行部数は毎年1割近く減っている。
会社は無人搬送車や清掃ロボットで新しい柱を育てようとしているが、まだ小さい。2027年3月期までの復配を掲げたのは前進だ。ただ、現金の大半は株主の手に届かず、事業の価値は縮む市場に縛られる。筆者は現金を額面の半分ほどしか数えない。帳簿の半分以下という値段は、それでも安全域とは言いにくい。筆者が待つのは、更新の山で得た現金の使い道だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、市場が縮んでいく事業の現金の山は、使い道しだいで宝にも重荷にもなる。東京機械製作所の現金は時価総額の倍近いが、その現金は10年以上、ほとんど株主に戻っていない。
本業のオーナー利益、つまり設備を保つ投資を済ませたあとに株主に残る利益は、ならせば年3〜5億円だ。保守の仕事は固いが、輪転機の数とともに細る。新しい輪転機は更新の山の数年に集中し、その後は谷が来る。
新しい事業に現金を回すのは筋が通る。ただ、無人搬送車は大手と新興がひしめく市場で、輪転機の堀は役に立たない。ここで高い値段の買収に走れば、現金は価値を失う。
筆者が見たいのは、更新の山で稼いだ現金を、配当と自己株の消却で返すかどうかだ。2027年3月期の復配は、その試金石になる。それまでは、帳簿の半分以下という値段でも、安全域は見かけほど厚くない。筆者は、更新の山で積み上がる現金の使い道を、この会社を測る物差しにしたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中身は三つある。新しい輪転機を作って納める仕事、納めた輪転機の保守と部品と改造の仕事、そして新しい事業だ。報告するセグメントは一つで、内訳の金額は開示していない。
新しい輪転機は一つの工場に数セットを納める大きな案件で、1件で数十億円になる。新聞社が印刷工場を建て替える時にしか出ないので、売上は年によって大きく振れる。2025年3月に省人化を売りにした次世代の標準機「カラートップ・エコワイドⅢ」を完成させ、下野新聞からも2セットを受注した。
保守と部品の仕事は、毎日動く輪転機を止めないための仕事だ。新聞は休刊日を除いて毎日刷るので、新聞社は保守を作った会社に頼るしかない。ここが利益の土台になる。子会社のKKSは輪転機の付属機を作る。
新しい事業は、工場で荷物を運ぶ無人搬送車、外部と組んで作った清掃ロボット「一望打塵」、輪転機の技術を使った加工と組立だ。中期計画は収益の3割を新しい事業で稼ぐ目標を掲げるが、まだその途中にある。
最大の取引先は読売新聞東京本社で、2026年3月期の売上の半分を占めた。従業員は連結で303人だ。輪転機の設計から組立、新聞社の工場での据え付けまでを自前で行う。
優良さと弱いところ
新聞輪転機には、狭い市場の中での堀、つまり他社がまねしにくい強みがある。国内で新聞輪転機を作れる会社はごく少なく、毎日止められない機械の保守は作った会社が担う。新聞社が乗り換えることはほとんどない。
ただ、その堀が守る市場そのものが縮んでいる。新聞の発行部数は毎年1割近く減り、印刷工場は統合されて減る。保守の対象の輪転機の数も、10年で半分近くになりうる。堀があっても、城の土地が沈んでいく形だ。
値段を決める力も強くない。買い手は数社の大手の新聞社で、読売新聞は売上の半分を占め、株も4分の1強を持つ。大口の顧客が大株主でもある関係は、取引を安定させる一方で、値段の交渉では弱みになる。
資本の使い方は改善の途中だ。過去10年で赤字の期が4回あり、自己資本の稼ぎの中央値は4%だ。現金は厚いのに、長く無配を続けてきた。2027年3月期までの復配と、訴訟で得た自己株の扱いの検討は、遅れてきた一歩だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
新聞の印刷の市場は、構造的に縮んでいる。日本の新聞の発行部数は、20年前の半分以下になり、今も毎年1割近く減る。読む人はスマートフォンのニュースに移り、若い世代はほとんど紙の新聞を取らない。印刷工場は新聞社どうしの委託や統合で減っていく。
それでも、輪転機の更新の需要はなくならない。今ある輪転機の多くは1990年代から2000年代に入れたもので、部品の生産終了や故障の多さから、建て替えが避けられない。数は減っても、残る新聞社は少ない人手で刷れる機械を求める。今の受注の山は、この更新が重なった結果だ。
競争の相手は少ない。かつては三菱重工業や小森コーポレーションも新聞輪転機を手がけたが、市場の縮みで力を入れる会社は限られる。生き残った会社が更新の需要を分け合う形だ。
新しい事業の市場は逆に伸びる。人手不足で工場や倉庫の無人搬送車の需要は年々増え、清掃ロボットも広がる。ただ、そこはダイフクや村田機械のような大手と、多くの新興企業がひしめく場所で、輪転機のような守られた市場ではない。新聞社の側では、印刷を他社に委ねて自社の工場を閉じる動きも広がる。
資本政策と M&A
還元はこれまでほぼなかった。2026年3月期も無配で、会社は2027年3月期までの復配を目標に掲げる。2026年6月までの3か月に自己株を15万株ほど増やした。
現金は厚い。2026年3月末の現金と預金は83億円で、借入はほぼない。ただ、新聞社から受け取った前受金が21億円あり、受注残の118億円を作る運転資金も要る。
株主の顔ぶれが資本の使い方を決めてきた。読売新聞東京本社が27%、中日新聞社も3%近くを持つ。2021年にはアジア開発キャピタルが株を買い集め、会社は買収防衛策で争った。その過程で得た自己株が65万株ほどあり、判決の確定後に使い道を決めるとしている。新聞社が安定株主として残る限り、現金が一気に株主に戻る形は考えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
値段は手元の純現金の半分ほどだ。前受金を引いても、現金だけで時価総額を上回る。事業はただどころか、おまけが付いてくる計算になる。しかも事業は今、ここ10年で最も良い。受注は前の期の3倍の155億円、受注残は118億円に積み上がり、2027年3月期の売上は110億円の見込みだ。
輪転機の更新は一度で終わらない。1990年代から2000年代に入れた機械は全国に残り、部品の生産終了で建て替えは避けられない。国内で新聞輪転機を作れる会社はごく少なく、更新の需要を独り占めに近い形で取れる。保守の仕事も、作った会社にしか頼めない。
経営は変わり始めた。2027年3月期までの復配を掲げ、訴訟で得た自己株の使い道も検討している。資本コストを意識した経営の方針も出した。現金の半分を還元に回すだけで、自己資本の稼ぎは目標の6〜8%に届く。無人搬送車と清掃ロボットは人手不足の追い風を受ける。現金が下値を守り、還元と新しい事業が上値を開く。
慎重な見方
現金は株主のものではない。少なくとも、新聞社が大株主として座り、無配を続けてきた会社ではそうだ。読売新聞が27%を持ち、売上の半分も占める。会社の現金は、株主への還元より、新聞社に輪転機を納め続ける体力として扱われてきた。
本業の市場は確実に縮む。新聞の部数は毎年1割近く減り、印刷工場は統合で消える。今の受注の山は、何十年に一度の更新が重なっただけだ。山が過ぎれば、新しい輪転機の売上は細り、保守の対象も減る。2016年や2020年、2022年のような赤字の年は、また来る。
新しい事業は頼りにならない。無人搬送車はダイフクや村田機械、多くの新興企業との競争で、輪転機の技術はほとんど武器にならない。中期計画の収益の3割という目標にも遠い。2026年3月期の純利益も、訴訟の収入4.5億円で膨らんだだけだ。帳簿の半分以下という値段は、縮む本業と戻らない現金を正しく映している。現金の厚さは、使い道が決まるまでは株主にとって絵に描いた餅にすぎない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうがやや強い。受注の山と復配の目標は本物で、上振れの筋書きに重みを残した。ただ、新聞の部数の減少は確実で、更新の山の後には谷が来る。現金が株主に戻った実績はまだ無い。中心は保守と更新で稼ぎを保ちつつ規模が細る筋書きに置き、現金が下値を支えるので悲観は1割強にとどめた。復配と自己株の消却が数字で出れば、強気の側へ確率を移す。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,398 円111 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 166 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 744 円59 億円、今との差 +40.1%、 期待の年率 +11.4%(資本コスト 8.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,457 円195 億円 | 278 円22 億円 | +415.0% | +17.8% | 219 円17 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,058 円163 億円 | 227 円18 億円 | +330.3% | +15.7% | 411 円33 億円 |
| 中立 | 40% | 1,584 円125 億円 | 189 円15 億円 | +234.0% | +12.8% | 709 円56 億円 |
| やや悲観 | 22% | 771 円61 億円 | 101 円8 億円 | +64.3% | +5.1% | 192 円15 億円 |
| 悲観 | 12% | 227 円18 億円 | 38 円3 億円 | −50.1% | −6.7% | 32 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,398 円111 億円 | 166 円13 億円 | +194.4% | +11.4% | 1,563 円124 億円 |
今の株価時価総額 531 円42 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 更新を取り切り、新しい事業が柱に育つ 利益 9 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 2,457 円195 億円
全国の新聞社が古い輪転機を次々に建て替え、東京機械製作所は更新の需要のほとんどを取る。省人化の次世代機は、人手の足りない印刷工場に歓迎される。部数は減っても、残る工場の機械は新しくなり、保守の単価も上がる。
無人搬送車と清掃ロボットは、人手不足の工場と倉庫で採用が広がり、新しい事業の売上は今の4倍になる。収益の3割を新しい事業で稼ぐ目標に届く。経営は配当を続け、自己株を消却する。自己資本の稼ぎは8%台に上がるが、資本コストにはわずかに届かない。それでも、新聞の会社から機械の会社への転換を果たした10年になる。現金の一部は自己株の消却に回り、株主の取り分は目に見えて増える。
- 新聞輪転機(新しい機械):数量 2.1(納めた輪転機のセット数(年、推定))× 価格 21(1 セットあたりの値段(億円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 2 億円。セット数 0.7 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 5%
- 保守・部品・改造:数量 240(保守している輪転機の台数(ライン、推定))× 価格 1,472(1 ラインあたりの年間の保守・部品の売上(万円・名目))→ 売上 35 億円・営業利益 8 億円。ライン数 0.8 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 23%
- 新しい事業(無人搬送車・ロボット・加工組立):数量 228(納めた台数・件数(件・年、推定))× 価格 1,380(1 件あたりの値段(万円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。件数 3 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 7%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)46 億円。全体の PER 14.53 倍、時価総額 164 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新の需要を取り切り、新しい事業が収益の柱になる筋書きは、中期計画の目標の先にある。新聞の縮みを考えて低い確率にとどめた。
やや楽観 18% 更新の山を取り、保守で稼ぎを保つ 利益 7 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 2,058 円163 億円
今の受注の山を確実に納め、その後も地方の新聞社の更新を拾う。新しい輪転機の数は10年後に今の半分強になるが、保守と改造の仕事は、残る工場の機械の高度化で単価が上がる。無人搬送車は2倍に育つ。
営業利益は今に近い水準を保ち、手元の現金の利息も増える。配当は再開して続け、自己株の一部を消却する。自己資本の稼ぎは6%台と中期計画の目標に届くが、資本コストには届かない。現金はなお厚く、その使い道が株主の取り分を左右する。会社は縮む市場の中で、しぶとく稼ぎ続ける。更新の山で稼いだ現金の一部が、配当として株主に戻り始める。新聞の会社という見方は、少しずつ変わっていく。
- 新聞輪転機(新しい機械):数量 1.7(納めた輪転機のセット数(年、推定))× 価格 20(1 セットあたりの値段(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 1 億円。セット数 0.55 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 4%
- 保守・部品・改造:数量 210(保守している輪転機の台数(ライン、推定))× 価格 1,451(1 ラインあたりの年間の保守・部品の売上(万円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 7 億円。ライン数 0.7 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 22%
- 新しい事業(無人搬送車・ロボット・加工組立):数量 152(納めた台数・件数(件・年、推定))× 価格 1,360(1 件あたりの値段(万円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 1 億円。件数 2 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)46 億円。全体の PER 13.87 倍、時価総額 127 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残118億円と次世代機の受注は、更新の山を取れる証拠だ。新しい事業の育ち方は読みにくいので、中立に次ぐ重みにとどめた。
中立 40% 更新の山が過ぎ、保守で細く稼ぐ 利益 5 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,584 円125 億円
今の受注の山は2028年ごろまでに納め終わる。その後、新しい輪転機の需要は細り、10年後には年に1セット強になる。印刷工場の統合で保守の対象の輪転機も4割減るが、古い機械の手入れと改造の単価は物価並みに上がる。無人搬送車と加工組立は1.5倍に育つが、利益は薄い。
営業利益は名目で5億円ほどに縮む。手元の現金の利息が増えて純利益を支える。配当は小さく再開するが、現金の大半は積まれたままだ。自己資本の稼ぎは3%台で、資本コストの半分に届かない。会社は残るが、縮む市場に合わせて小さくなっていく。更新の山で稼いだ現金も、多くは手元に残る。株主の取り分は、現金の利息ほどにしか増えない。
- 新聞輪転機(新しい機械):数量 1.2(納めた輪転機のセット数(年、推定))× 価格 20(1 セットあたりの値段(億円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。セット数 0.4 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 3%
- 保守・部品・改造:数量 180(保守している輪転機の台数(ライン、推定))× 価格 1,430(1 ラインあたりの年間の保守・部品の売上(万円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 5 億円。ライン数 0.6 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 20%
- 新しい事業(無人搬送車・ロボット・加工組立):数量 114(納めた台数・件数(件・年、推定))× 価格 1,340(1 件あたりの値段(万円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 0 億円。件数 1.5 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 3%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)46 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 94 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新聞の部数の減少は確実で、更新の山の後に新しい輪転機の需要が細り、保守が稼ぎの中心になるのが最もありそうな道筋とみた。
やや悲観 22% 新聞社が刷るのをやめ、更新が止まる 利益 2 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 771 円61 億円
新聞の部数の減りが速まり、地方紙の休刊と印刷の委託が相次ぐ。新聞社は輪転機を建て替えず、古い機械を延命して使い切る道を選ぶ。新しい輪転機は数年に1セットしか出ず、工場の稼働は落ちる。保守の対象も半分以下になる。
新しい事業は大手と新興に押され、赤字が続く。営業損益はほぼ収支とんとんになり、純利益の大半は手元の現金の利息だ。配当は細り、現金は谷の年の穴埋めに少しずつ削られる。価値は事業の稼ぎより、手元の現金で測るしかない。その現金も、新聞社が大株主の会社では半分ほどしか株主に届かない。保守の仕事だけが細く利益を生み、工場の人員も減っていく。輪転機の専業メーカーという看板は重荷になる。
- 新聞輪転機(新しい機械):数量 0.8(納めた輪転機のセット数(年、推定))× 価格 19(1 セットあたりの値段(億円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 −1 億円。セット数 0.25 倍 × 単価 1.25 倍、赤字
- 保守・部品・改造:数量 135(保守している輪転機の台数(ライン、推定))× 価格 1,334(1 ラインあたりの年間の保守・部品の売上(万円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 3 億円。ライン数 0.45 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 15%
- 新しい事業(無人搬送車・ロボット・加工組立):数量 76.0(納めた台数・件数(件・年、推定))× 価格 1,250(1 件あたりの値段(万円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 0 億円。件数横ばい × 単価 1.25 倍、赤字
倍率:事業の利益が細るので PER は 1÷k の 65% の 7.0 倍に置き、稼ぐ力の床として扱う。余った現金は今の 46 億円の 0.75 倍に戻り方 0.5 を掛けて足し、床の資産とほぼ並ぶ。
確率:地方紙の休刊や夕刊の廃止は毎年続いており、更新の計画が先送りされる道筋は十分ありうる。過去10年で赤字が4回あるので厚めに置いた。
悲観 12% 本業が消え、現金を食いつぶす 利益 −2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 227 円18 億円
紙の新聞は大手の数紙を残してほぼ消え、輪転機の更新はほとんど出なくなる。保守の対象の輪転機は3割に減り、工場の人員を大きく減らす。新しい事業も大手との競争に負け、撤退に追い込まれる。
営業損益は赤字が続き、人員の整理と減損の費用がかさむ。配当はやめ、手元の現金は赤字と整理の費用に食われる。それでも前受金と運転資金を引いた現金は残るが、読売新聞が大株主の会社では、その使い道を少数株主が決めることはできない。会社は小さな保守の会社として残り、清算の値段より低い所で値が付き続ける。輪転機を作る技術は、使い道のない資産になる。現金の厚さだけが、株主を最後に守る。
- 新聞輪転機(新しい機械):数量 0.3(納めた輪転機のセット数(年、推定))× 価格 18(1 セットあたりの値段(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 −1 億円。セット数 0.1 倍 × 単価 1.2 倍、大きな赤字
- 保守・部品・改造:数量 90.0(保守している輪転機の台数(ライン、推定))× 価格 1,280(1 ラインあたりの年間の保守・部品の売上(万円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。ライン数 0.3 倍 × 単価 1.2 倍、利益率 5%
- 新しい事業(無人搬送車・ロボット・加工組立):数量 60.8(納めた台数・件数(件・年、推定))× 価格 1,200(1 件あたりの値段(万円・名目))→ 売上 7 億円・営業利益 −1 億円。件数 0.8 倍 × 単価 1.2 倍、赤字
倍率:赤字なので PER は当てない。今の自己資本 92.2 億円に PBR 0.195 を掛け、赤字と整理で食われた後の現金に戻り方 0.5 を掛けた床の 18 億円に合わせた。
確率:新聞の印刷が大きく縮み、新しい事業も育たなければ赤字が続く。2016年に51億円の赤字を出した記録もある。現金が厚いので1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
新聞輪転機(新しい機械)
新聞社の印刷工場に納める輪転機。1 件で数セット、数十億円の大きな案件。
| 数量納めた輪転機のセット数(年、推定) | 価格1 セットあたりの値段(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 15 | 45 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 20 | 24 | 1 |
取り方:単一セグメントで内訳は非開示。売上 84.6 億円のうち、読売新聞向け 42.7 億円を中心に新しい機械を約 45 億円と推定し、1 セット 15 億円で年 3 セットと置いた。新しい機械は値段の競争が強いので利益率 3% の推定。
保守・部品・改造
納めた輪転機の保守、部品の交換、改造。子会社 KKS の付属機を含む。
| 数量保守している輪転機の台数(ライン、推定) | 価格1 ラインあたりの年間の保守・部品の売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 1,067 | 32 | 7 |
| 10 年後 中立 | 180 | 1,430 | 26 | 5 |
取り方:内訳は非開示。保守・部品・改造を約 32 億円と推定し、国内の稼働中の輪転機を 300 ラインと置いて 1 ラインあたり年 1,067 万と出した。作った会社にしか頼めない仕事なので利益率 23% の推定(全社の利益の大半はこことみる)。
新しい事業(無人搬送車・ロボット・加工組立)
工場の無人搬送車、清掃ロボット「一望打塵」、輪転機の技術を使った加工と組立。
| 数量納めた台数・件数(件・年、推定) | 価格1 件あたりの値段(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 76.0 | 1,000 | 8 | −1 |
| 10 年後 中立 | 114 | 1,340 | 15 | 0 |
取り方:内訳は非開示。残りの約 7.6 億円を新しい事業とし、1 件 1,000 万で年 76 件と推定。まだ育成の途中なので小さな赤字と置いた。全社の営業利益 7.21 億円との差 −1.0 億円を本社費とした。
リスクと懸念
新聞の部数の減少
新聞の発行部数は毎年1割近く減り、印刷工場は統合で減っていく。新しい輪転機の需要も、保守の対象の機械の数も、この流れに沿って細る。減り方が速まれば、更新の計画そのものが止まる。
読売新聞への依存
読売新聞東京本社が売上の半分を占め、株も27%を持つ。同社の印刷工場の計画しだいで売上が大きく振れ、値段の交渉でも弱い立場になる。大株主が大口の顧客である関係は、現金の使い道にも影響する。
受注の山と谷
今の受注の山は何十年に一度の更新が重なった結果だ。山が過ぎれば売上は大きく落ちる。過去10年で赤字の期は4回あり、2027年3月期の第1四半期も営業赤字だった。
新しい事業の競争
無人搬送車と清掃ロボットは、ダイフクや村田機械のような大手と多くの新興企業がひしめく市場だ。輪転機の堀は役に立たず、育てるための投資や買収が現金の価値を削る恐れがある。
現金が株主に戻らない
現金と預金は83億円あるが、長く無配を続けてきた。2027年3月期までの復配を掲げたが、新聞社が安定株主として座る限り、現金が一気に株主に戻る形は考えにくい。
今後の分かれ目
- 復配を実行し、訴訟で得た自己株を消却したら
- 現金の戻り方を引き上げ、価値を見直す。
- 受注の山の後も、年に2セット以上の新しい受注が続いたら
- 更新の需要が厚いとみて、上振れの筋書きの確率を上げる。
- 大手の新聞社が印刷工場の統合や夕刊の廃止を加速したら
- 更新が止まる筋書きに寄せる。
- 無人搬送車などの新しい事業が黒字で売上20億円を超えたら
- 新しい柱が育ったとみて、楽観側の確率を上げる。
- 読売新聞が持株を手放すか、買い増して取り込む動きが出たら
- 資本の行方が変わる場面になりうる。ただし筋書きの確率は事業と資本の中身で決める。
見ておくもの
- 受注高と受注残
- 新聞の発行部数と印刷工場の統合
- 配当と自己株の消却
- 新しい事業の売上と損益
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段から置かず、資本コスト8.25%と10年後の事業の稼ぎだけで決めた。事業のROEは中立で4%台とkの半分ほどなので、PERの上限は1÷kで、中立はその7割に置いた。余った現金は前受金と運転資金を引いた46億円に戻り方0.5を掛けて別に足し、PERには混ぜていない。今のPBRが0.5倍を下回ることや、時価総額が現金を下回ることは計算の後に比べただけで、割安の根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.2→14.53 倍・やや楽観 PER 8.1→13.87 倍・中立 PER 7.6→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。