結論
井関農機は、田植機・トラクタ・コンバインの稲作機械で国内3位の農機メーカーだ。欧州では乗用草刈機を売る。結論から言うと、筆者は今の値段を割高と見る。理由は単純で、再建が計画どおり進んでも、10年後の利益は自己資本に対して資本コストを下回るからだ。
足元の改善は本物だ。国内販売会社の統合や熊本工場の停止といった構造改革(プロジェクトZ)が効き、2026年は営業利益60億円の計画で、第1四半期の営業利益率は5%を超えた。ただ、国内需要は米価の上昇で押し上げられた山に近い。農業をやめる人が年5%のペースで減るため、台数は長い目で細る。
稼ぎの伸びしろは欧州の草刈機とアジアにある。これらは海外売上800億円という会社目標の柱だが、売上の1割に満たないアジアは小さく、欧州も価格競争にさらされる。
財務は強くない。純有利子負債は時価総額と同じ規模で、利払いは金利上昇でさらに増える。中立の10年後で、純利益は今の1.4倍ほど、ROEは4%台にとどまる。確率で加重した本質価値は今の時価総額を3割強下回り、総合では割高と出た。会社の計画が大成功した筋書きでも、時価総額は3倍強にとどまる程度の幅があり、結果は大きく振れる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、井関農機は「持ち続けたい会社」に入らない。事業そのものは堅い。稲作の機械化は、国が食べ物を自給するかぎり続く。ただ、オーナーの手元に残る利益が少ない。稼いだ利益の多くは、在庫や割賦の債権、設備に吸われる。2025年の純利益は28億円にとどまり、その一部は資産の売却益だった。
堀は普通だ。販売網は強みだが、競合も同じ網を持つ。値上げの余地は物価に沿った分に近く、競合を引き離す力ではない。10年後も農機は売れるが、利益の水準は予測しにくい。米価や補助金という自分で動かせない要素に左右されるからだ。
資本の使い方は、借金を返して工場を絞るという、立て直しの段階にある。ここは評価する。安全域の目で見ると、足りない。ROEが資本コストを超えない会社では、ためた利益は額面どおりの価値を持たない。筆者は、再建が全部うまくいく筋書きにも一定の確率を置いたうえで、それでも今の値段には安全域がないと見る。帳簿より安いことは、割安の理由にならない。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は国内の農機販売と、部品・修理の収入だ。2025年12月期の売上は1,858億円で、うち国内が約1,295億円、海外が563億円だった。国内は整地用のトラクタ643億円、田植機などの作業機、コンバインなど収穫調製機201億円、栽培機91億円に、部品・修理319億円が加わる。部品・修理は機械を売った後に続く収入で、利益の質が高い。国内売上の約2割をメンテナンスが占める。
顧客は主に稲作農家と農業法人だ。農家は農協(JA)と、井関グループの販売会社を通じて買う。国内の販売会社7社は2025年1月にISEKI Japanへ統合され、製造会社も2024年7月に松山と熊本で一つになった。重複を減らして固定費を下げる狙いだ。
海外は欧州が385億円で、海外の約7割を占める。主力は公園・ゴルフ場・自治体の緑地を刈る乗用草刈機で、農業でなく景観整備の市場だ。北米は他社ブランドで供給するOEM、アジアはインドネシアの政府入札向けの田植機やトラクタが中心になる。自社工場はインドネシアとタイ、新潟にある。
同社は国内ではクボタ、ヤンマーに次ぐ3番手だ。品ぞろえは同じだが、規模で劣るぶん、開発する機種を絞り、大型機と畑作・環境分野に投資を集める方針をとっている。2030年に大型機の売上比率50%以上、海外売上800億円以上という目標がある。
優良さと弱いところ
優良とは言いにくい会社だ。まず稼ぐ力が弱い。営業利益率は過去12年の最高でも2.6%、2025年も2.3%にとどまり、過去10年のROEの中央値は1.5%だった。強みは、全国の販売・サービス網と、稲作用機械の長い実績にある。故障すれば作業が止まる農機では、近くで直せる店の有無が購入の決め手になる。ただクボタとヤンマーも同じ網を持つため、この強みが価格を上げる力にはなっていない。
規模の差も大きい。クボタは海外売上が7割を超え、世界3位の農機メーカーだ。井関は海外が売上の約3割にとどまる。ロボットトラクタや営農管理システムは出しているが、規模の大きい相手に同じ投資で並ぶのは難しい。
経営の規律は改善している。赤字になった年が20年で6回あり。今回は工場の停止と販売会社の統合という実行が先に済んでおり、これまでより信用できる。もう一つの懸念は財務だ。自己資本比率は35%あるが、営業利益で利払いを割った倍率は2.8倍と薄く、景気が悪い年には赤字が出る。堀は普通と見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の農機市場は、中身が二つに割れている。一つは経営体数の減少だ。2024年の農業経営体は88.3万と前年から5.0%減った。担い手が減り、残る農家が大型化する構造は変わらない。台数は長い目で減り、1台あたりの値段が上がる形になる。もう一つは循環だ。2024年夏からの米価上昇で稲作農家の購買意欲が戻り、2025年の国内出荷額は前年から17%増の約3,200億円になった。これは山に近い数字と筆者は見る。
競争はクボタ、ヤンマー、井関の3社が国内の大半を占める寡占で、価格は互いを意識して決まる。大型トラクタや自動化ではジョンディアなど海外大手も入ってくる。補助金や米価に需要が左右されることも、利益を安定させにくくしている。
成長の余地は海外にある。欧州の景観整備機械は、電動化と自治体の更新需要で緩やかに伸びる。ただ主戦場はスチール、ハスクバーナ、クボタなどが争う競争の激しい市場だ。アジアは農業の機械化が進むが、政府入札は価格が低く、利益は薄い。中国メーカーの低価格機も流れ込む。
物価は年3%で続く前提なので、部品や人件費は上がるが、農機の値上げもそれに沿って通る。値上げの実績は2025年にすでにある。
資本政策と M&A
還元の方針は、2027年にDOE(株主資本配当率)2%以上だ。DOEは自己資本に対する配当の割合で、利益が振れても配当が安定しやすい。2026年12月期は増配の予定で、還元の中心は配当だ。配当性向で見ると利益が薄いため、利益から払うというより、自己資本を土台に払っている。
資本の配分は守りが中心だ。借入金を返すことが先で、純有利子負債は2025年末に422億円まで減った。設備投資は大型機の開発と欧州の拡充に絞る。2025年に英国の子会社を取得し、欧州の販売網を厚くした。大型の買収はない。
持ち合い株や政策保有株の額は確かめられなかったため、価値に足していない。大株主は信託銀行、みずほ銀行、農林中央金庫で、支配株主はいない。農業の再編が進めば、クボタやヤンマーとの提携や、同業と並ぶ形の再編が起きる可能性はあるが、公表された話はない。10年で買収される確率は2割ほどという外部の試算もあるが、買収価格を前提にした筋書きは置いていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
再建は実行の段階に入っている。国内の販売会社は7社から1社になり、製造子会社も一つになった。熊本の操業は止まり、機種も絞られた。固定費が下がった状態で、米価が上がって農家の購買意欲が戻った。2026年の第1四半期の営業利益率は5.1%で、通期の営業利益60億円の計画を据え置いたまま、過去最高の四半期になっている。2027年に営業利益率5%以上という目標は届く距離にある。
国内は台数が減っても、大型機への入れ替えで1台あたりの値段が上がる。農家が減り、残る農家は規模を広げる。省力化のロボットトラクタや自動操舵は、人手が足りないほど売れる。部品・修理は機械が増えるほど積み上がり、国内売上の約2割を安定して稼ぐ。
海外では、欧州の乗用草刈機が第1四半期として過去最高の売上を記録し、2030年に海外売上800億円という目標がある。インドネシアは政府の農業機械化予算が増えている。純有利子負債は422億円まで減り、利益が戻れば財務の不安は薄れる。会社全体が回復軌道に乗れば、営業利益率6%も視野に入る。
慎重な見方
稼ぐ力が足りないという事実は、再建でも変わらない。営業利益率は過去12年の最高でも2.6%にすぎず、5%という目標は一度も届いたことのない水準だ。2025年の純利益には資産売却益が含まれており、本業の利益はもっと小さい。第1四半期の5.1%は、春の需要期に売上が集中する季節要因が大きい。
国内の需要は山にある。米価の上昇が一巡すれば購買意欲は冷え、農業経営体は年5%のペースで減る。台数が細る中で、クボタとヤンマーは規模の力で値下げに応じられる。井関が価格を上げても、競合が追随しなければシェアを失う。
海外も楽ではない。欧州の景観整備機械は、規模の大きいスチールやハスクバーナ、クボタが相手で、売上385億円では販売網の維持費が重い。アジアの政府入札は値段が安く、利益が出にくい。財務の面では、営業利益で利払いを割った倍率が2.8倍と薄く、金利が上がれば純利益はさらに削られる。ROEが資本コストを超えない状態は、10年たっても続く。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠があるが、強いのは慎重な見方だ。再建の実行は事実で、利益は今より増える。中立でも営業利益は今の2倍強まで伸ばした。ただ、増えた利益でも自己資本に対しては資本コストを下回り、倍率は低いままだ。会社の計画が通った筋書きにも一定の確率を置くが、国内需要の山と財務の薄さを考え、確率は中立から悲観の側に寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,140 円489 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 654 円150 億円)。 今の値に割り戻すと 1,408 円322 億円、今との差 −15.4%、 期待の年率 +5.3%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 6,282 円1,437 億円 | 1,180 円270 億円 | +348.5% | +16.2% | 522 円119 億円 |
| やや楽観 | 18% | 4,027 円921 億円 | 940 円215 億円 | +198.5% | +11.6% | 894 円204 億円 |
| 中立 | 35% | 2,119 円485 億円 | 721 円165 億円 | +70.7% | +5.5% | 994 円227 億円 |
| やや悲観 | 26% | 602 円138 億円 | 481 円110 億円 | −34.9% | −4.2% | 282 円64 億円 |
| 悲観 | 14% | 549 円126 億円 | 175 円40 億円 | −56.5% | −8.0% | 101 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,140 円489 億円 | 654 円150 億円 | +67.9% | +5.3% | 2,794 円639 億円 |
今の株価時価総額 1,664 円381 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 再建が完全に成功し、欧州とアジアが育つ 利益 112 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 6,282 円1,437 億円
プロジェクトZが計画以上に効き、国内は大型機とスマート農業の入れ替えが進んで、シェアを3割台前半に保つ。農家は減っても、残る経営体が大きくなるため、1台あたりの売上は物価を上回って積み上がる。部品・修理の収入も伸び、国内の営業利益率は7%に届く。
欧州では景観整備機械の電動化に乗り、自治体向けの更新需要を取り込んで、シェアが6%に上がる。アジアはインドネシアなどで農業の機械化が進み、現地生産が軌道に乗る。海外売上は1,300億円近くになり、会社の2030年目標を大きく超える。全社の営業利益率は6%で、過去の最高(1997年の6.3%)に並ぶ水準だ。純有利子負債は返済が進み、利払いの負担も軽くなる。配当は自己資本の2%を土台に、利益の増加に合わせて増える。
- 国内農機(機械・部品・修理):数量 4,000(国内の農機・部品修理の市場規模(億円、今の値段で測った実質))× 価格 44.2%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,769 億円・営業利益 124 億円。シェア33%、営業利益率7%
- 海外・欧州(景観整備機械):数量 10,500(欧州の乗用草刈機・景観整備機械の市場規模(億円、実質、推計))× 価格 8.0%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 844 億円・営業利益 76 億円。シェア6%、営業利益率9%
- 海外・アジア/北米ほか:数量 30,000(アジア・北米向けの中小型トラクタ・田植機・OEM 対象市場(億円、実質、推計))× 価格 1.5%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 442 億円・営業利益 27 億円。シェア1.1%、営業利益率6%
倍率:事業の純利益 112 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.83 倍、時価総額 1,437 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の目標をほぼ全部満たし、さらに海外が伸びる必要があるため低く置いた。再建の実行は進んでいるが、過去12年で営業利益率が3%を超えた年がなく、上振れは難しい。
やや楽観 18% 計画をおおむね達成し、利益率が5%台に乗る 利益 76 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,027 円921 億円
再建の効果が出て、会社の2027年目標に近い利益率が定着する。販売会社の統合で販売費が下がり、機種の絞り込みで開発費が減る。国内のシェアは32%に上がり、大型機の比率が高まって利益率は6.5%になる。
欧州は草刈機の売上が緩やかに伸び、シェアは5.5%。アジアはインドネシアの政府入札が続き、現地生産の利益が出始める。全社の営業利益率は5%で、2027年に掲げた水準を10年先まで保つ形だ。純有利子負債は大きく減り、自己資本は配当を払ってもなお厚みを増す。
それでも、国内の台数は米価の山から下がり、競合との価格競争は続く。ROEは資本コストにわずかに届かない。
- 国内農機(機械・部品・修理):数量 3,800(国内の農機・部品修理の市場規模(億円、今の値段で測った実質))× 価格 42.9%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,629 億円・営業利益 106 億円。シェア32%、営業利益率6.5%
- 海外・欧州(景観整備機械):数量 9,800(欧州の乗用草刈機・景観整備機械の市場規模(億円、実質、推計))× 価格 7.4%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 722 億円・営業利益 58 億円。シェア5.5%、営業利益率8%
- 海外・アジア/北米ほか:数量 27,000(アジア・北米向けの中小型トラクタ・田植機・OEM 対象市場(億円、実質、推計))× 価格 1.3%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 362 億円・営業利益 18 億円。シェア1.0%、営業利益率5%
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 921 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工場停止と販売会社統合の効果が出て、2027年目標の営業利益率5%に近づく筋書き。実行の裏づけはあるが、国内需要の山が崩れない前提が要るので2割弱にとどめた。
中立 35% 黒字は定着するが、利益率は4%に届かない 利益 40 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,119 円485 億円
国内は米価の山が引き、台数は今より15%ほど少ない水準に落ち着く。シェアは3割で横ばい、大型機への入れ替えと値上げで売上は物価並みに増える。販売会社統合と工場の絞り込みの効果は定着し、国内の営業利益率は5.8%になる。
欧州はシェア5%に上がり、売上は600億円を超える。アジアは小さいまま、利益率は4%にとどまる。本社費は物価で増え、削減の実績がある分だけ抑えられる。全社の営業利益率は4%に届かず、2027年目標の5%には至らない。
金利の上昇で利払いが増え、純利益は営業利益の4割強にとどまる。配当は自己資本の2%を保ち、残りの利益で借金を減らす。会社は生き残り、黒字は続くが、自己資本に対する利益は資本コストを下回る10年になる。
- 国内農機(機械・部品・修理):数量 3,600(国内の農機・部品修理の市場規模(億円、今の値段で測った実質))× 価格 40.2%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,447 億円・営業利益 84 億円。シェア30%、営業利益率5.8%
- 海外・欧州(景観整備機械):数量 9,200(欧州の乗用草刈機・景観整備機械の市場規模(億円、実質、推計))× 価格 6.7%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 616 億円・営業利益 40 億円。シェア5%、営業利益率6.5%
- 海外・アジア/北米ほか:数量 25,000(アジア・北米向けの中小型トラクタ・田植機・OEM 対象市場(億円、実質、推計))× 価格 1.2%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 302 億円・営業利益 12 億円。シェア0.9%、営業利益率4%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 485 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再建は効くが、国内の台数減とクボタ・ヤンマーとの競争が利益率の上がり方を抑える。中心の筋書きとして最も厚く置いた。
やや悲観 26% 国内が縮み、再建の効果が価格競争に消える 利益 16 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 602 円138 億円
米価の上昇が一巡し、国内の購買意欲が冷える。農業をやめる人が年5%のペースで減り、国内の市場は実質で今の8割弱まで縮む。クボタとヤンマーが値引きで台数を確保し、井関のシェアは28%に下がる。販売会社の統合で固定費は減っているが、売上の落ち込みがそれを打ち消し、国内の営業利益率は5%にとどまる。
欧州は中国やほかの欧州メーカーの安い機種に押され、シェアは4.5%で足踏みする。アジアは入札が減り、利益はほとんど出ない。
金利が上がり、純有利子負債の利払いが利益を削る。配当は自己資本の2%を下回り、一部は借入金の返済に回る。黒字は保つが、営業利益率は2〜3%で、ROEは2%前後にとどまる。
- 国内農機(機械・部品・修理):数量 3,300(国内の農機・部品修理の市場規模(億円、今の値段で測った実質))× 価格 37.5%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,238 億円・営業利益 62 億円。シェア28%、営業利益率5%
- 海外・欧州(景観整備機械):数量 8,500(欧州の乗用草刈機・景観整備機械の市場規模(億円、実質、推計))× 価格 6.0%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 513 億円・営業利益 31 億円。シェア4.5%、営業利益率6%
- 海外・アジア/北米ほか:数量 22,000(アジア・北米向けの中小型トラクタ・田植機・OEM 対象市場(億円、実質、推計))× 価格 1.1%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 251 億円・営業利益 8 億円。シェア0.85%、営業利益率3%
倍率:ROE 約 2% で k を大きく下回り、PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。利益が薄く金利上昇で削られる質の悪い利益なので、上限の約 7.7 割の 8.5 倍に置いた。
確率:米価の上昇が一巡して国内の購買が冷え、金利上昇で純利益が削られる。過去20年で6回赤字になった体質を踏まえ、中立に近い厚さを置いた。
悲観 14% 国内のシェアと価格を失い、再び赤字体質に戻る 利益 −50 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 549 円126 億円
国内の担い手減が速まり、機械の更新が止まる。クボタとヤンマーが海外の利益で国内の値引きを支え、井関はシェアを25%まで落とす。国内の営業利益率は1.5%で、固定の本社費を吸収できない。
欧州も、規模の大きい相手に市場を奪われてシェアが4%に下がり、アジアでは入札で赤字を出して撤退する。全社は営業赤字になり、工場や販売拠点の整理で減損が出る。金利が上がって利払いが増え、財務の余裕も細る。
配当は止まり、資産の売却で借入金の返済に充てる。会社が存続するかは銀行の支援しだいで、同業との統合や提携の話が出てもおかしくない。優良企業とは呼べなくなる10年だ。
- 国内農機(機械・部品・修理):数量 2,900(国内の農機・部品修理の市場規模(億円、今の値段で測った実質))× 価格 33.5%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 972 億円・営業利益 15 億円。シェア25%、営業利益率1.5%
- 海外・欧州(景観整備機械):数量 7,500(欧州の乗用草刈機・景観整備機械の市場規模(億円、実質、推計))× 価格 5.4%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 402 億円・営業利益 8 億円。シェア4%、営業利益率2%
- 海外・アジア/北米ほか:数量 18,000(アジア・北米向けの中小型トラクタ・田植機・OEM 対象市場(億円、実質、推計))× 価格 0.9%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 169 億円・営業利益 0 億円。シェア0.7%、営業利益率0%
倍率:稼ぐ力はほぼ消える。純現金+売れる資産の税後を床とし、今の自己資本 738 億円に PBR 0.17 を掛けた。床の額は売れる資産から借入金を返した後の残り。
確率:国内の担い手減が想定より速く、3社の価格競争で再び利益が出なくなる。財務の薄さも重なるので、優良でなくなる確率は1割台半ばとした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内農機(機械・部品・修理)
田植機・トラクタ・コンバインなど農機の国内販売と、部品・修理の収入。国内販売会社 ISEKI Japan が扱う。
| 数量国内の農機・部品修理の市場規模(億円、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4,200 | 30.8% | 1,295 | 55 |
| 10 年後 中立 | 3,600 | 40.2% | 1,447 | 84 |
取り方:2025/12 期の売上 1,858 億円から海外 563 億円を引いた約 1,295 億円を国内とした。市場は工業会統計の国内出荷額 3,176 億円に、部品・修理など機械以外の市場約 1,000 億円(当社の国内メンテナンス比率 19.5% から推計)を足した約 4,200 億円。数量は今の値段で測った市場規模(実質)、価格は市場 1 億円あたりの当社売上(シェア約 30.8%)。営業利益 55 億円は決算の全体利益 42 億円から本社費 36 億円を戻し、国内の稼ぎとして推計した値。
海外・欧州(景観整備機械)
欧州の自治体・ゴルフ場・公園向けの乗用草刈機などの景観整備機械。ISEKI France、ドイツ、英国の子会社が売る。
| 数量欧州の乗用草刈機・景観整備機械の市場規模(億円、実質、推計) | 価格実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 8,000 | 4.8% | 385 | 18 |
| 10 年後 中立 | 9,200 | 6.7% | 616 | 40 |
取り方:海外 563 億円のうち欧州 385 億円(会社開示、海外の 68%)。欧州の景観整備機械の市場約 8,000 億円は、乗用草刈機を売るスチール、ハスクバーナ、クボタ、ジョンディア等の規模から筆者が置いた推計で、シェアは約 4.8%。営業利益 18 億円は推計(利益率約 4.7%)。
海外・アジア/北米ほか
インドネシア政府入札向けの田植機・トラクタ、タイの現地生産、北米向けの他社ブランド(OEM)供給など。
| 数量アジア・北米向けの中小型トラクタ・田植機・OEM 対象市場(億円、実質、推計) | 価格実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20,000 | 0.9% | 178 | 5 |
| 10 年後 中立 | 25,000 | 1.2% | 302 | 12 |
取り方:海外のうち欧州以外の約 178 億円(563−385)。アジア・北米で当社が狙える市場を約 2 万億円と推計し、シェアは約 0.9%。営業利益 5 億円は推計(利益率約 3%)。
リスクと懸念
米価と補助金に左右される国内需要
2025年の国内出荷は米価の上昇で17%増えたが、稲作の収益が下がれば買い替えは止まる。補助金の制度変更も需要を一度に動かす。購買の山と谷が大きく、利益率が安定しにくい。
農業経営体の減少
農業経営体は年5%のペースで減っている。大型機への入れ替えで売上は支えられるが、10年で台数は大きく細る。販売網の維持費が一台あたりで重くなる。
クボタ・ヤンマーとの価格競争
国内の3社で価格を決める構図は変わらない。規模の大きい2社が海外の利益で国内の値引きを支えられるため、井関が値上げをしても追随されないとシェアを失う。
金利上昇と財務の薄さ
純有利子負債は422億円で、営業利益で利払いを割る倍率は2.8倍。借り換えのたびに金利が上がると、純利益が削られる。景気の悪い年には赤字に戻り、配当を維持できない恐れがある。
海外事業の収益力
欧州は規模の大きいスチール、ハスクバーナ、クボタが相手で、価格競争にさらされる。アジアはインドネシアの政府入札に依存し、入札の有無で売上と利益が大きく振れる。
再建の実行と目標の未達
プロジェクトZは営業利益を2027年に75億円以上とする計画で、年平均36%もの増益が必要になる。目標は過去に届いたことがない水準で、未達なら再建の信用が崩れ、再び構造改革の費用が出る。
今後の分かれ目
- 米価が下落に転じ、稲作農家の収益が悪化したら
- 国内の購買が冷えるので、やや悲観・悲観の確率を上げる。工業会の国内出荷額で確かめる。
- 2026年12月期の営業利益が60億円計画を上回り、2027年の目標も上方修正されたら
- 再建の効果が定着したとみて、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- クボタやヤンマーが国内で大幅な値引きに動いたら
- 3番手の井関が先に利益を失うので、悲観側の確率を上げる。
- 欧州の草刈機の売上が連続して過去最高を更新したら
- 海外800億円の目標が現実味を帯びるので、海外セグメントのシェアの前提を引き上げる。
- 同業との提携・統合や、大株主による株式の売却が公表されたら
- 買収価格や統合の条件を個別に確認し、資本政策の筋書きを見直す。
- 政策金利と長期金利が想定より速く上がったら
- 純有利子負債の利払いが増えるので、純利益の前提を下げ、財務の筋書きを重くする。
見ておくもの
- 日本農業機械工業会の国内出荷額(トラクタ・田植機・コンバイン)
- 四半期ごとの営業利益率と、国内・海外の売上
- 欧州の売上高と、インドネシアの政府入札の動向
- 純有利子負債の推移と営業利益÷支払利息
- プロジェクトZの2027年目標(営業利益75億円以上)の進み具合
- 米価と農業経営体数
倍率と資本コストの決め方
国内は市場規模(実質)×シェア、海外は市場規模の推計×シェアで売上を積み、価格は物価の 10 年 1.34 倍をシェアに掛けた。倍率は式(正当化 PER =(1−g÷RONIC)÷(k−g)、ROE が k 以下の筋書きは上限 1÷k)から置き、過去・今・同業の PER や PBR は使っていない。ROE が k に届かないので、中立の倍率は上限の 8 割にとどめた。悲観は稼ぐ力が消えた形で、売れる資産の税後の床を今の自己資本に掛けた。含み益や持ち合い株は確かめられず価値に足していない。今の株価に寄せた所はない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→12.83 倍・やや楽観 PER 9.7→12.12 倍・中立 PER 8.9→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.5% = 9.0%。国内需要の細りや欧州の競争は、数量とシェアの筋書きと確率で表し、k には足さない。事業は傾いておらず、黒字を保つため上乗せ(distress)は付けない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.25%。