結論
日本精工(NSK)は、国内で初めて軸受の量産を始めた老舗である。世界の軸受大手の一角を占め、産業機械向けと自動車向けがほぼ半々の稼ぎ頭だ。筆者の結論は、今の値段はやや割高というものである。いちばんの理由は、利益が長く資本コストに届いていないことにある。
自己資本利益率(ROE)は直近で3%台にとどまる。会社は2029年3月期にROE8%と営業利益750億円を掲げるが、前の中期計画で掲げた750億円は届かず、420億円の見通しまで引き下げた経緯がある。計画を割り引いて見るのが妥当だ。
追い風はある。半導体製造装置と工作機械向けの受注が強く、欧州と国内の工場再編の効果も出始めた。2027年3月期は営業利益500億円を見込む。ただ、この増益のかなりの部分は円安と好況による。構造的な稼ぐ力の改善とは分けて見たい。
さらに、NTNとの経営統合が2027年10月に予定されている。規模は世界首位級になるが、統合の条件も効果もまだ見えない。価値が増えるのか、手間と費用だけが増えるのか、現時点では判断できない。
10年後の中立の筋書きでも、時価総額は今よりわずかに高いだけだ。資本コストで割り引けば、今の値段には届かない。強気の筋書きがそろえば大きく上がるが、その確率は1割に満たない。値段が示す期待は、筋書きの上の方に寄りすぎている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の本質価値は「今の稼ぎ」ではなく「資本コストを超えて稼げるか」で決まる。
事業は10年後も存在する。軸受は機械が回る限り要る。ただ、堀、つまり他社がまねできない強みは、汎用品では薄い。精機製品、高精度品、補修といった一部に限って堀がある。会社全体では、利益率が低く価格を決める力が弱いまま10年が過ぎた。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主の手元に残る利益は少ない。毎年の設備投資と減価償却がほぼ同額で、利益の多くが工場の維持に消える。資本の使い方でも、売却と買い戻しを繰り返したステアリングが示すように、成果は出ていない。
安全域は薄い。今の値段は、計画どおりの回復とNTNとの統合の成功をかなり織り込む。筆者は、中立の筋書きでも今の値段に届かないことに注目している。
もっとも、純資産の裏付けは厚い。自己資本比率は5割を超え、借金の返済に不安はない。資産価値が下値を支えるため、値段が大きく崩れる局面ではむしろ面白くなる。今は、その手前にいる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。産業機械、自動車、そしてステアリング(ハンドル周りの部品)だ。
産業機械は売上の4割強を占め、工作機械、半導体製造装置、ロボット、鉄道、風力発電などに軸受を納める。軸受だけでなく、ボールねじやリニアガイドといった精機製品も手がける。精機製品は工作機械や半導体装置の精度を左右する部品で、単価も利益率も高い。2026年3月期の売上は産機軸受が約3,200億円、精機製品が約580億円である。
自動車は売上の4割強で、ハブユニット軸受(車輪を支える部品)、変速機やモーター用の軸受を、世界の自動車メーカーに供給する。電動ブレーキ用のボールねじなど、電動車向けの新しい製品が成長の種だ。ただ、欧州の工場が赤字を出し続け、再編を進めている。
ステアリングは、2023年に投資ファンドのJISへ過半の株式を売って合弁にしたが、2025年9月に買い戻して連結子会社へ戻した。売上は通年でおよそ1,800億円規模、利益率は低い。会社は新しい提携先探しを続けており、再び手放す可能性がある。
売上の約7割は海外だ。地域別では日本が約2,900億円、中国と米州が1,900億円前後、欧州は約1,300億円である。顧客は世界の自動車メーカーと、工作機械・半導体装置メーカーである。設備の保守で入れ替わる補修用の需要も、景気の波をならす役目を持つ。
開発の面では、工作機械の主軸用の超高精度軸受や、半導体装置向けの精機製品が技術の見せ場である。研究開発費は年190億円ほどで、軸受の材料と潤滑の知見が長年の蓄積になっている。
優良さと弱いところ
優良さの評価は割れる。製品は一流だが、稼ぐ力は並である。
強みは三つある。第一に、軸受は設計に組み込まれ、一度採用されると他社品に替えにくい。第二に、精機製品やハブユニットなどの高精度品では技術力が評価されている。第三に、補修需要という収益の下支えがある。
弱みは数字に表れている。営業利益率は直近で4%台、最良期の10%に遠く及ばない。ROEは直近7年、すべて3%台以下だ。世界でシェアが大きい割に価格を決める力が弱いことを示している。汎用品では中国メーカーとの価格競争が激しく、欧州ではSKFやシェフラーという強い競合もいる。
経営の資本の使い方にも注文がつく。ステアリングの合弁化と買い戻し、欧州工場の相次ぐ撤退など、手を入れては戻す動きが目立つ。一方で、政策保有株をゼロにする方針や、純資産配当率(DOE)の下限設定は、株主の目線に近づく変化だ。
筆者は、この会社を持ち続けたいかと問われれば、「今の稼ぐ力では物足りない」と答える。事業の質は悪くないが、資本コストを上回る利益を安定して出す段階には来ていない。改善の兆しとして、一過性を除く営業利益率が5%台に乗ってきた点は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
軸受の世界市場は2025年に約1,460億ドルと推計され、年8%台の成長が語られる。ただ、この数字は価格の上昇を含み、数量の伸びは年2〜3%程度とみるのが穏当だ。
需要は大きく分けて二つの方向に動く。産業機械向けは、半導体製造装置、工作機械、ロボットが追い風になる。AI向けの設備投資が装置の受注を押し上げ、人手不足が工場の自動化を後押しする。自動車向けは、世界の生産台数がほぼ頭打ちで、電動化が部品の構成を入れ替える。エンジン向けは減り、電動ブレーキ用ボールねじや高車重向けハブ軸受は増える。
競争の形は変わりつつある。標準軸受の世界シェアは、SKFが約18%、NSKが約13%、NTNが約11%とされる。NSKとNTNが統合すれば合算で約24%となり、首位に立つ。背景には、世界の出荷数量の5分の1から4分の1を中国メーカーが作っているという現実がある。汎用品の値段は中国勢に引っ張られ、日本勢は高精度品に逃げ込まざるをえない。
景気の位置は、産業機械が上り坂、自動車が横ばいである。工作機械と半導体装置の受注は想定以上に強いが、山の利益は長く続かない。2027年3月期の増益を、10年先まで続く力と読むのは危険だ。
ヒト型ロボットは新しい需要の候補である。1台に多数の関節が要り、軸受とボールねじの需要が大きく増えうる。ただ、量産の時期も勝者も定まっていない。
風力発電向けは当面弱く、鉄道向けは横ばいと会社は見る。この二つは景気の波が比較的小さく、利益の下支えになる。
資本政策と M&A
資本政策は「配当は安定、自社株買いは機動的」という方針である。配当は純資産配当率(DOE)2.5%を下限の目安とし、2029年3月期に3.5%へ引き上げる計画だ。配当性向は30〜50%を目安とする。自社株買いは2023年度に217億円実施した後、止まっている。
政策保有株式はゼロにする方針で、売却代金は自社株買いや戦略投資に回りうる。3年間の営業キャッシュフロー2,700億円は、投資の1,700億円と配当の500億円に充てる。政策保有株の売却代金や手元資金は、戦略投資と自社株買いへ回す。ネットD/Eレシオは0.4倍未満に抑える。直近は0.24倍で、財務の余力はある。
M&Aでは、NTNとの経営統合が最大の論点だ。2026年5月に基本合意し、共同株式移転で2027年10月に持株会社を設立する予定である。統合比率は最終契約で決まる。統合費用は2027年3月期に50億円を見込む。ステアリング事業の新しい提携先探しも続く。
ドイツのノイベック売却、英国2拠点の撤退など、欧州の整理は進んだ。次は国内の生産拠点と販売体制の見直しである。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2029年3月期の営業利益750億円は、実現できる目標だ。産業機械は営業利益率10%への回復が見えている。半導体製造装置向けの受注が強く、工作機械向けも想定以上に伸びている。不採算品の整理と値上げの浸透で、利益率は着実に上がる。
構造改革の効果は数字になる。2029年3月期には、2023年3月期と比べて175億円の改善になる計画だ。自動車は欧州の赤字が解消に向かい、電動ブレーキ用ボールねじや高車重向けハブ軸受で利益率が7%に近づく。
NTNとの統合は、国内の過剰な生産設備と重複する開発・販売費を一気に減らす。世界首位級の規模は、購買と価格交渉でも効く。中国勢の安値攻勢に対し、技術と規模の両面で立ち向かえる。
ロボット向けは、2028年にヒト型向けアクチュエータを市場に出す。ボールねじと軸受を持つNSKは、関節の中核部品を一式そろえられる珍しい会社である。2036年に売上1,000億円という目標は、今は夢物語に見えても、ロボットが量産される時代なら十分ありうる。
政策保有株の売却資金で自社株買いも進む。資本が軽くなればROEは8%を超え、10%に向かう。
慎重な見方
計画を割り引くべきだ。前の中期計画が掲げた営業利益750億円は、結局420億円の見通しに下がった。今回の750億円も、同じ道をたどる恐れがある。2027年3月期の増益は、円安と工作機械・半導体装置の好況に助けられた面が大きく、山を過ぎれば利益は戻る。
産業機械の営業利益率10%は、過去に何度も掲げながら、直近は3%台にとどまる。価格競争が続く汎用軸受は、値上げが通りにくい。中国メーカーは技術力も上げており、世界の出荷の5分の1から4分の1を握る。日本勢が高精度品に逃げ込む余地は狭まっていく。
自動車は、世界の生産台数が頭打ちのまま、エンジン向けの需要が減る。電動車向けの新製品が穴を埋める保証はない。欧州の赤字は、撤退を重ねても止まらなかった。
NTNとの統合は、足し算でなく引き算になりかねない。統合比率は最終契約待ちで、本社の所在も決まっていない。重複する拠点の整理には労務費と時間がかかる。統合費用は2027年3月期だけで50億円にのぼる。顧客は取引先の分散を求め、両社のシェアが合算どおりには残らない恐れもある。
ステアリングは利益率が低く、再びパートナー探しの対象だ。ROEが資本コストを下回り続ける限り、会社は価値を生まず、株主のお金を使い続けることになる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。理由は二つある。一つ目は実績で、計画が届かなかった経緯があり、ROEは直近7年にわたり資本コストを下回ってきた。二つ目は構造で、中国勢の価格圧力と電動化は、構造改革の効果を食いやすい。
強気の見方にも説得力はある。構造改革の効果は実際に出ており、半導体装置・工作機械向けの好況は本物で、NTNとの統合が成功すれば利益率は一段上がる。そのため楽観側も軽くは置けず、確率は楽観とやや楽観で3割弱を残した。
確率は悲観側に寄せた。やや悲観を中立並みの厚みにし、悲観にも1割強を置いた。悲観は、中国勢と電動化に押されて優良とは言えなくなる姿を描いている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,456 円7,123 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 546 円2,670 億円)。 今の値に割り戻すと 1,046 円5,116 億円、今との差 +5.1%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,341 円1.63 兆円 | 879 円4,300 億円 | +324.1% | +15.5% | 338 円1,652 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,238 円1.10 兆円 | 695 円3,400 億円 | +194.7% | +11.4% | 587 円2,870 億円 |
| 中立 | 32% | 1,538 円7,525 億円 | 552 円2,700 億円 | +110.0% | +7.7% | 669 円3,272 億円 |
| やや悲観 | 28% | 660 円3,232 億円 | 439 円2,150 億円 | +10.5% | +1.0% | 308 円1,507 億円 |
| 悲観 | 12% | 531 円2,599 億円 | 307 円1,500 億円 | −15.8% | −1.7% | 101 円492 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,456 円7,123 億円 | 546 円2,670 億円 | +101.1% | +7.2% | 2,001 円9,793 億円 |
今の株価時価総額 995 円4,869 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% ロボットと精機で稼ぐ力が上がり、統合の果実が出る 利益 1,087 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 3,341 円1.63 兆円
ロボット向けの関節部品が量産期に入り、ボールねじ、軸受、アクチュエータの需要が大きく増える。ロボティクスの売上は会社の目標の1,000億円に近づき、産業機械全体の数量は市場の伸びを上回る。精機製品とアフターマーケットの比率が上がり、産業機械の営業利益率は12%近くに達する。自動車は電動ブレーキ用ボールねじなど電動車向けの製品が主力に育つ。NTNとの統合は、重複の整理と購買の力で長く効き、国内の稼ぐ力が一段高まる。ステアリングは最適なパートナーと組み、利益が安定する。ROEは12%まで高まり、優良な部品メーカーとして評価し直される。
- 産業機械(産機軸受・精機製品):数量 39.0(NSK の産業機械向け出荷額の実質(億ドル、今の値段のまま)= 世界の産機向け市場 × シェア)× 価格 1.38(値段の指数(今を 1.00。物価並みに 10 年で 1.34 倍が基本)。rev_factor は円換算の 150 円)→ 売上 8,075 億円・営業利益 969 億円。数量+55%・値段+38%
- 自動車(軸受・ハブ・ボールねじなど):数量 103(世界の自動車生産台数に換算した出荷量(百万台。NSK の 1 台あたり搭載量の変化を台数に直して加減する))× 価格 42(1 台あたりの NSK の売上(ドル、名目)。物価で上がり、搭載品の高付加価値化でさらに動く。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 6,549 億円・営業利益 524 億円。台数換算+12%・1台売上+45%
- ステアリング・その他:数量 11.0(出荷台数相当(百万台。今は 7 か月連結の分で、通期に直すと約 9.6))× 価格 206(1 台相当あたりの売上(ドル、名目)。物価で上がる。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 3,417 億円・営業利益 205 億円。通年換算の基準から+15%・値段+42%
倍率:事業の純利益 1,087 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 15.04 倍、時価総額 16,348 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ヒト型ロボットなど新しい需要、産業機械の高付加価値化、NTNとの統合の効果という大きな好材料が10年続く必要がある。長い期間でも、複数が同時に成功する確率は低い。
やや楽観 20% 統合の効果と産業機械の高付加価値化が着実に進む 利益 807 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 2,238 円1.10 兆円
産業機械は、半導体装置・工作機械・ロボット向けの精密品を中心に、市場を上回って数量を伸ばす。営業利益率は10%台に乗る。自動車は電動車向けの製品が内燃機関向けの減少を補い、利益率は7%に届く。NTNとの統合は、拠点の重複整理と購買の統合で一定の効果が出て、世界首位級の規模が価格交渉でも効く。ステアリングは黒字を保つ。自社株買いも段階的に進み、ROEは9%台に上がる。資本コストをわずかに超えるところまで来るが、長く続く強い堀と呼べる水準ではない。産業機械の売上は、今の1.8倍近くに育つ。配当は純資産配当率3.5%を保ち、政策保有株の売却資金も株主に返る。
- 産業機械(産機軸受・精機製品):数量 34.0(NSK の産業機械向け出荷額の実質(億ドル、今の値段のまま)= 世界の産機向け市場 × シェア)× 価格 1.36(値段の指数(今を 1.00。物価並みに 10 年で 1.34 倍が基本)。rev_factor は円換算の 150 円)→ 売上 6,932 億円・営業利益 728 億円。数量+35%・値段+36%
- 自動車(軸受・ハブ・ボールねじなど):数量 96.6(世界の自動車生産台数に換算した出荷量(百万台。NSK の 1 台あたり搭載量の変化を台数に直して加減する))× 価格 41(1 台あたりの NSK の売上(ドル、名目)。物価で上がり、搭載品の高付加価値化でさらに動く。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 5,928 億円・営業利益 415 億円。台数換算+5%・1台売上+40%
- ステアリング・その他:数量 10.2(出荷台数相当(百万台。今は 7 か月連結の分で、通期に直すと約 9.6))× 価格 201(1 台相当あたりの売上(ドル、名目)。物価で上がる。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 3,062 億円・営業利益 153 億円。通年換算の基準から+6%・値段+38%
倍率:事業の純利益 807 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.57 倍、時価総額 10,951 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革と統合の効果が出て、産業機械が高付加価値化し、自動車も電動化に対応する。実現性のある上振れで、中立より少し薄く置いた。
中立 32% 稼ぐ力はゆっくり改善するが、資本コストには届かない 利益 602 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,538 円7,525 億円
産業機械は世界の工場の自動化と半導体投資に支えられ、数量は年2%程度で伸びる。物価に合わせて値上げが通るため、売上は年5%近く増える。営業利益率は9%台半ばで、会社の目標の10%にわずかに届かない。自動車は、エンジン向けの減少を電動車向けが補い切れず、数量は緩やかに減る。利益率は6%台になる。NTNとの統合は、統合比率と拠点整理に時間がかかりつつも、10年の間に一定の効果をあげる。ステアリングは薄い黒字を続ける。ROEは7%台で、資本コストの9%には届かない。この姿でも、会社は赤字にならず、配当も安定して払い続ける。ただ、株主から預かった資本を、資本コスト以上には働かせられない。
- 産業機械(産機軸受・精機製品):数量 30.2(NSK の産業機械向け出荷額の実質(億ドル、今の値段のまま)= 世界の産機向け市場 × シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00。物価並みに 10 年で 1.34 倍が基本)。rev_factor は円換算の 150 円)→ 売上 6,070 億円・営業利益 577 億円。数量+20%・値段+34%
- 自動車(軸受・ハブ・ボールねじなど):数量 87.4(世界の自動車生産台数に換算した出荷量(百万台。NSK の 1 台あたり搭載量の変化を台数に直して加減する))× 価格 39(1 台あたりの NSK の売上(ドル、名目)。物価で上がり、搭載品の高付加価値化でさらに動く。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 5,133 億円・営業利益 318 億円。台数換算-5%・1台売上+34%
- ステアリング・その他:数量 9.4(出荷台数相当(百万台。今は 7 か月連結の分で、通期に直すと約 9.6))× 価格 195(1 台相当あたりの売上(ドル、名目)。物価で上がる。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 2,748 億円・営業利益 110 億円。通年換算の基準から-2%・値段+34%
倍率:事業の純利益 602 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 7,525 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画の一部が実現し、一部は未達という、この会社の過去の実績に近い筋書き。構造改革と統合の効果はあるが、中国勢との競争と電動化の圧力で、ROEは資本コストを下回ると見て、中心に置いた。
やや悲観 28% 中国勢と電動化に押され、収益性が低位に留まる 利益 304 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 660 円3,232 億円
中国メーカーが技術力を上げ、汎用軸受の価格はじりじりと下がる。日本勢は高精度品に逃げ込むが、その市場も狭くなる。産業機械の営業利益率は6%台後半から7%近辺で頭打ちになる。自動車は、エンジン向けが減り、電動車向けも他社との競争で利益が薄い。数量は今より1割以上減る。NTNとの統合は、統合の効果が人件費や価格下落で相殺される。ステアリングは再び提携先に売却されるか、低い収益のまま残る。ROEは4%前後で、資本コストを大きく下回る。配当は純資産配当率の下限に近い水準にとどまり、自社株買いの余力はない。
- 産業機械(産機軸受・精機製品):数量 26.4(NSK の産業機械向け出荷額の実質(億ドル、今の値段のまま)= 世界の産機向け市場 × シェア)× 価格 1.28(値段の指数(今を 1.00。物価並みに 10 年で 1.34 倍が基本)。rev_factor は円換算の 150 円)→ 売上 5,075 億円・営業利益 330 億円。数量+5%・値段+28%
- 自動車(軸受・ハブ・ボールねじなど):数量 78.2(世界の自動車生産台数に換算した出荷量(百万台。NSK の 1 台あたり搭載量の変化を台数に直して加減する))× 価格 37(1 台あたりの NSK の売上(ドル、名目)。物価で上がり、搭載品の高付加価値化でさらに動く。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 4,353 億円・営業利益 174 億円。台数換算-15%・1台売上+27%
- ステアリング・その他:数量 8.5(出荷台数相当(百万台。今は 7 か月連結の分で、通期に直すと約 9.6))× 価格 186(1 台相当あたりの売上(ドル、名目)。物価で上がる。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 2,357 億円・営業利益 71 億円。通年換算の基準から-12%・値段+28%
倍率:ROE 4.2% が k 8% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 11.8 倍まで。中国勢の値下げと電動化で利益が細り、ROE が k を大きく下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 10.63 倍に置いた。 純有利子負債 1,780 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 8.7 倍。
確率:中国メーカーの汎用品の値下げ攻勢と、エンジン向け部品の縮小が10年続けば自然に起きる姿。この会社の過去7年のROEの低さを延ばした形で、確率は中立並みの厚みに置いた。
悲観 12% 構造的に負け、優良な部品メーカーではなくなる 利益 20 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 531 円2,599 億円
世界の軸受市場で中国メーカーのシェアが大きく伸び、日本勢の価格決定力は失われる。自動車向けではエンジン部品が急速に縮み、電動車向けの新製品は他社に先を越される。産業機械でも高精度品の優位が縮み、営業利益率は3%まで落ちる。NTNとの統合は期待した効果を生まず、混乱の費用だけが残る。工場の閉鎖と減損で自己資本が目減りし、配当も絞られる。収益が資本コストを大きく下回るまま、売上は名目でも通年換算の今より縮む。自己資本をもとに値段を測る。配当は減額を重ね、純利益の合計を超える還元は、手元資金と資産の売却でまかなう。借金は残るが、自己資本が厚いため倒産には至らない。
- 産業機械(産機軸受・精機製品):数量 21.4(NSK の産業機械向け出荷額の実質(億ドル、今の値段のまま)= 世界の産機向け市場 × シェア)× 価格 1.15(値段の指数(今を 1.00。物価並みに 10 年で 1.34 倍が基本)。rev_factor は円換算の 150 円)→ 売上 3,690 億円・営業利益 111 億円。数量-15%・値段+15%
- 自動車(軸受・ハブ・ボールねじなど):数量 59.8(世界の自動車生産台数に換算した出荷量(百万台。NSK の 1 台あたり搭載量の変化を台数に直して加減する))× 価格 33(1 台あたりの NSK の売上(ドル、名目)。物価で上がり、搭載品の高付加価値化でさらに動く。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 2,936 億円・営業利益 29 億円。台数換算-35%・1台売上+12%
- ステアリング・その他:数量 6.5(出荷台数相当(百万台。今は 7 か月連結の分で、通期に直すと約 9.6))× 価格 167(1 台相当あたりの売上(ドル、名目)。物価で上がる。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算)→ 売上 1,637 億円・営業利益 16 億円。通年換算の基準から-32%・値段+15%
倍率:中国勢と電動化に押され、優良とは言えなくなる構造悲観。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 2,600 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。 純有利子負債 1,780 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 45.6 倍。利益が谷まで落ちた年なので、値は床の資産で測っており、EV の倍率は参考にしない。EV でも見た:時価総額 2,599 億円に純有利子負債 1,780 億円を足した EV は 4,378 億円で、この筋書きの営業利益 96 億円に対して高く見える。ただしこの値は利益の倍率でなく処分価値(床 2,600 億円)で置いたもので、借金は床の中で先に返す前提。利益の倍率だけで割安・割高とは言っていない。
確率:10年のうちに、中国勢の台頭、エンジン向けの急な縮小、統合の失敗が重なり、収益力を失う筋書き。2008年や2020年のように利益がほぼ消えた経験が、この会社には何度もあることから、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
産業機械(産機軸受・精機製品)
工作機械、半導体製造装置、ロボット、鉄道、風力などに軸受・ボールねじ・リニアガイドを供給する。補修用の需要も含む。
| 数量NSK の産業機械向け出荷額の実質(億ドル、今の値段のまま)= 世界の産機向け市場 × シェア | 価格値段の指数(今を 1.00。物価並みに 10 年で 1.34 倍が基本)。rev_factor は円換算の 150 円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.2 | 1.00 | 3,775 | 126 |
| 10 年後 中立 | 30.2 | 1.34 | 6,070 | 577 |
取り方:世界の産業機械向け軸受・精機の主要メーカー向け市場を約 190 億ドル、NSK のシェアを 13% と推定し、25.2 億ドル。売上 3,775 億円(産機軸受 3,198 億円・精機 577 億円)を 150 円で割った額と合う。シェアは数量の側に置き、価格欄は値段の指数とした。
自動車(軸受・ハブ・ボールねじなど)
ハブユニット軸受、変速機・モーター用軸受、電動ブレーキ用ボールねじなどを世界の自動車メーカーに供給する。ステアリングは除く。
| 数量世界の自動車生産台数に換算した出荷量(百万台。NSK の 1 台あたり搭載量の変化を台数に直して加減する) | 価格1 台あたりの NSK の売上(ドル、名目)。物価で上がり、搭載品の高付加価値化でさらに動く。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 92.0 | 29 | 4,033 | 174 |
| 10 年後 中立 | 87.4 | 39 | 5,133 | 318 |
取り方:世界の自動車生産は約 92 百万台(会社の見通しの前提)。売上 4,033 億円を 150 円で割ると約 26.9 億ドルで、1 台あたり約 29 ドルになる。1 台あたり売上は搭載製品の格上げ(電動ブレーキ用ボールねじなど)を含む名目の値。
ステアリング・その他
ステアリングコラムなど操舵系部品と、その他の事業。2025 年 9 月に連結子会社へ戻したため、2026 年 3 月期は約 7 か月分だけが入る。
| 数量出荷台数相当(百万台。今は 7 か月連結の分で、通期に直すと約 9.6) | 価格1 台相当あたりの売上(ドル、名目)。物価で上がる。rev_factor は円換算 150 円と百万の単位換算 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.0 | 145 | 1,308 | 88 |
| 10 年後 中立 | 9.4 | 195 | 2,748 | 110 |
取り方:売上 1,308 億円は連結 7 か月分のステアリングと、その他の事業の合計。営業利益 88 億円は全社 388 億円から産機 126 億円・自動車 174 億円を引いた値で、一時の損益を含む。通期の姿は 2027 年 3 月期予想(ステアリングの売上は 1 四半期で約 440 億円)から約 2,100 億円とみて、通期換算の台数 9.6 百万台を 10 年後の数量の基準にする。 10 年の数量(中立は 6.0→9.41)の 1.57 倍は、今の 6.0 が 7 か月分の連結であることの補正(通期換算 9.6 に対し −2%)で、実際の数量の伸びではない。名目の市場の伸びを数量に置いたものではない。
リスクと懸念
NTNとの統合が価値を増やさない
世界3位と4位が組めば規模は世界首位級になるが、統合比率も本社の所在もこれから決まる。拠点の重複整理に時間がかかり、顧客が取引先を分散すれば、足し算どおりのシェアは残らない。統合費用は2027年3月期だけで50億円を見込む。効果が費用を上回るまで、数年かかる恐れがある。
計画が届かない常習性
前の中期計画(2026年度)で掲げた営業利益750億円は、420億円の見通しまで下がった。今回の2029年3月期の750億円も、市場の回復と構造改革が両方うまくいく前提である。為替の円安と好況に頼った増益を、実力と取り違える危険がある。
中国メーカーの価格攻勢
中国のメーカーは世界の出荷数量の5分の1から4分の1を生産するとされ、汎用軸受の値段を引き下げている。技術力も上がり、日本勢が高精度品に逃げ込む余地は狭まる。産業機械の営業利益率10%の目標には、値上げが通ることが前提になる。
自動車の電動化と欧州の赤字
エンジン向けの軸受は、電動化で長期的に減る。電動ブレーキ用ボールねじなど新しい製品が穴を埋めきれなければ、自動車事業の利益は伸びない。欧州では工場の撤退や縮小を重ねており、国内の再編も始まったばかりだ。
ステアリング事業の低収益と提携先探し
2023年に過半の株式を投資ファンドへ売って合弁にし、2025年に買い戻した。会社は戦略的な提携先を探している。利益率は低く、電動化と自動運転で技術要求が上がる中で、投資を続けるか手放すかの判断が全社の利益を左右する。
景気循環の山に当たっている恐れ
半導体製造装置と工作機械の受注が足元で強く、利益を押し上げている。この需要は設備投資の波で、山を越えると戻る。過去にも2019年から2021年にかけて、営業利益が236億円、64億円と急に落ちた。固定費が重く、売上の落ち込みが利益に増幅される。
関税と為替
米国の関税は、売価への転嫁で吸収する方針だが、転嫁が遅れれば利益が減る。足元の円安は利益を押し上げているが、為替が戻れば追い風が消える。筋書きは150円を前提にしており、為替の変動までは織り込んでいない。
今後の分かれ目
- NTNとの最終契約が条件どおりに結ばれ、統合効果の目標額が示されたら
- 統合の成功を見直し、楽観側の確率を引き上げる。効果の中身が購買と拠点統合の具体策なら、中立でも利益率を上げて見る。
- 統合の最終契約が延びる、または条件が株主に不利になったら
- やや悲観の確率を引き上げる。統合に向けた費用だけが残る筋書きになる。
- 半導体・工作機械向けの受注が減速し始めたら
- 足元の増益は景気の山だったと見直し、10 年の中立を下げる。産業機械の営業利益率は9%を割りうる。
- ヒト型ロボット向けのアクチュエータが量産の採用を獲得したら
- 10年の楽観側の確率を上げる。ロボティクスの売上が数百億円を超える見通しが立てば、産業機械の数量の伸びを高く置き直す。
- ステアリング事業に有力な提携先が決まり、持分を売却したら
- 資本効率の改善とみて、ROEを上方修正する。売却益よりも、投下資本が減る効果を重く見る。
- 政策保有株の売却資金を、割安なうちに自社株買いへ回したら
- 資本の使い方の改善とみて、楽観側を少し厚くする。逆に、割高な局面で買えば、価値を壊すとみて評価を下げる。
見ておくもの
- NTNとの最終契約(2026年11月ごろの予定)と統合比率、統合効果の目標額
- 産業機械の営業利益率(一過性を除く):9%台を保てるか、10%に届くか
- 自動車事業の営業利益率:欧州の赤字解消と電動ブレーキ用ボールねじの拡販
- ステアリング事業の提携先探しの結果と、黒字の持続
- 政策保有株の売却と自社株買いの実施、純資産配当率3.5%への引き上げの進み方
- 中国メーカーの軸受価格と、日本メーカーの値上げの浸透状況
倍率と資本コストの決め方
今の株価や今のPER(直近の利益が低いため高く見える)は見ずに、セグメントごとの数量×価格から利益を積み、倍率はROE・g・kの式から出した。kは基本7.5%にquality+1.0%を足した8.5%。ROEが資本コストを下回る筋書きは1÷kの近くに置き、やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)、悲観は純現金+売れる資産の税後の床(約2,600億円)で測った。結果として今の時価総額は筋書きの上の方に寄っていると出たが、これは今の株価に合わせたのではなく、利益の水準から出た結論である。IFRS会社のため、リース負債は純有利子負債にすでに含まれ、新リース会計基準の影響は出ない。ステアリングは2026年3月期に約7か月しか連結されていないため、10年後は通年に直して置いた。利払いは金利上昇の分(10年で44億円の減益)を純利益に入れている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.22→15.04 倍・やや楽観 PER 10.94→13.57 倍・中立 PER 9.41→12.5 倍・やや悲観 PER 10→10.63 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。NTN との統合や計画未達の癖は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。