結論
旭ダイヤモンド工業は、ダイヤモンドやCBNの粒で硬い材料を削る工具を作る、国内首位級の専業メーカーだ。顧客は半導体、自動車、機械、建設と広い。筆者の結論は「適正」である(やや割高に近い)。半導体向けの成長は本物だが、中国勢の追い上げと自動車向けの逆風が重しになる。
売上の4割は電子・半導体向けで、ウエハーを研ぐ、切る、磨く工具が中心だ。残りは軸受や自動車、航空機向けと、石材・建設向けである。10年のうちに利益の柱が半導体へ移っていく流れは確かだ。
最大の弱点は資本効率にある。過去10年のROEの中央値は3.7%で、資本コストの8%台に届いたことがない。ただ新しい中期経営計画は、自己資本比率を80%から75%へ下げ、5年累計で利益以上を株主に返すと言い切った。低採算品の撤退も始まっている。
今期の営業利益は半導体の追い風で倍増する見込みだが、これは景気の山にあたる。10年後の中立でも営業利益率は8%台半ばにとどまる。計画の10%には届かない水準だ。
10年後の価値の加重平均は、今の時価総額を1割ほど下回る。国内首位という地位と手厚い純現金は評価できるが、今の値段は、計画がほぼ達成される姿を先取りしている、と考える。計画どおりに進むなら価値は上がるが、注力5品目は目標の約7割にとどまった。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社の魅力は二つある。事業が分かりやすいこと、そして財布が堅いことだ。工具は減って買い替えられ、純現金が時価総額の2割強ある。
一方で、オーナーとして持ち続けたいかと問われると、迷う。資本を使い切れてこなかった。ROEが資本コストを下回る年が続き、積んだ現金が利益を生まない時間が長かった。
新しい計画はこの点を正面から直そうとしている。自己資本比率を下げ、利益以上を返し、低採算品を切る。これが本気なら、事業の質は同じでも株主のものになる利益は増える。
ただ、今の経営の約束は、まだ数字になっていない。半導体の景気が良い今期の利益で計画の成否を測るのは早すぎる。景気の山で出た利益に高い倍率を払うのは、バリュー投資が戒めてきた行為だ。
安全域の面では、現金と国内首位の地位が下値を支える。ただ、悲観の場合は工具の値段も量も同時に崩れ、現金だけが残る。筆者が価値を評価するなら、平均的な年の利益を基準にし、現金は別に足す。この見方での答えは、今の値段を1割ほど下回る。確信度は中程度である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は消耗品の商売だ。ダイヤモンドやCBN(立方晶窒化ホウ素)の粒を金属や樹脂で固め、砥石や刃、ワイヤにして売る。硬い材料を削るほど工具は減り、減れば買い替えが要る。機械を1度売って終わりの工作機械との違いは、ここにある。
売上の内訳は、電子・半導体が約4割、機械が約25%、輸送機器が約23%、石材・建設が約9%だ。開示は単一セグメントで、業界別の売上だけが示される。
電子・半導体の主役は注力5品目だ。ウエハーの面を研ぐ工具、縁を面取りする工具、ウエハーを切るダイシングブレード、研磨パッドを整えるCMPコンディショナ、そして電着ワイヤである。炭化ケイ素(SiC)のパワー半導体向けも含む。
機械向けは軸受や超硬工具の加工用が柱で、輸送機器は自動車のエンジン・駆動部品の研削と航空機部品が中心になる。石材・建設は、コンクリートや石材の切断、資源探査の掘削に使う工具だ。この分野は価格競争が激しく、低採算品の撤退を進めている。
製造拠点は国内のほか、台湾、上海、インドネシア、タイにある。販売会社は欧米やインドなどに広がる。東京精密と折半で作った合弁会社(AAダイヤモンドテクノロジー)は、ダイシングブレードの量産を2027年度下期に始める計画だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、あるにはあるが、厚くはない。国内ではダイヤモンド工具で約4割の首位とされ、砥粒を固める配合と焼成の技術が蓄積されている。顧客の工程に入り込んだ消耗品は、品質が合えばなかなか替えられない。
一方で、世界ではこの分野は割れている。CMPコンディショナは3M、台湾のKinik、韓国のSaesolなど上位3社で8割強を握るとされ、旭ダイヤは上位に名前が挙がらない。太陽光向けのダイヤモンドワイヤでは、中国勢の安値攻勢で単価がピークの約10分の1まで崩れた。この先例は軽く見られない。
実績にも甘さがある。注力5品目の売上は、中期計画で136億円を掲げた年度に92億円の見込みにとどまった。営業利益率は過去10年で2%を割る年もあり、ROEは3.7%が中央値だ。
筆者がいちばん気にするのは、強さが数字に出てこなかったことだ。半導体向けの技術は買われているのに、利益として残る前に、価格と稼働率に削られてきた。今回の計画が違うのは、不採算品を切り、値上げを求め、国内工場を集約すると踏み込んだ点だ。ここが実行されれば評価は変わる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
工具の需要は、顧客の工場がどれだけ動くかで決まる。受注は景気に素直に振れる。2019〜2020年度の2年で売上が3割近く減り、営業赤字に沈んだ。今は半導体が牽引する上り坂だ。
電子・半導体では、AI向けの先端ロジックやメモリー、パワー半導体(SiC)が需要を押し上げる。ウエハーを薄く、平らに削る工程は精度の要求が上がる一方で、SiCは電気自動車の減速で足踏みした。同社の注力5品目のうちSiC向けが下振れたのは、そのためだ。
機械・輸送機器は成熟市場だ。軸受と超硬工具は堅いが、電気自動車が広がればエンジン部品を削る砥石の需要が細る。航空機向けは伸びる。石材・建設は国内の大型工事が少なく、海外の資源探査も停滞している。
中国勢は脅威だが、一様ではない。経営陣は、高精度が求められる半導体向けでは太陽光ワイヤの時ほどの影響は出ないと見る。筆者も、台湾・韓国・欧米の大手がいる分野での値崩れは、時間をかけて進むと考える。
世界のCMPコンディショナ市場は、調査会社の推計で約3.8億ドルと小さい。ダイシングブレードや面研砥石などを合わせても、旭ダイヤが狙う電子・半導体向けの市場は、筆者の推定で1,600億円ほどだ。小さな市場で首位に近づくのではなく、複数の分野で2位、3位を取りにいく構図である。
資本政策と M&A
新しい中期経営計画(2027年3月期からの5年)は、資本政策が最大の見どころだ。配当は累進を基本とし、5年累計の総還元性向は100%以上を目指す。還元総額は100億〜200億円と明示した。自己資本比率は80%から75%へ下げる。
実際に動いている。2025年度の上期だけで自己株式を17億円買い、追加の取得も続けた。政策保有株は売却して資金源にする方針だ。今の純現金は116億円と、時価総額の2割強にあたる。
M&Aは大型を控えめにしており、東京精密との合弁が代表例だ。ダイシングブレードの市場で初期に10〜20%のシェアを狙う。買収で価値を壊す不安は小さい。
買われる側の可能性は、筆者は低くないと見る。時価総額は500億円台と小さく、半導体向けの技術を求める装置・材料メーカーには手が届く。ただ、特定の買い手は見当たらず、確率は他の筋書きに溶かして考えている。
経営は株主に目を向け始めた。ただ、約束の履行にはまだ実績がない。
還元は方針(累進配当・5年累計の総還元性向100%以上)に沿い、中立は純利益の合計の約9割。余った現金70億円は還元に入れず時価総額に足すので二重にしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体向けの成長は始まったばかりだ。AIの計算基盤は、先端ロジックとメモリーの量産を何年も押し上げる。ウエハーを薄く、平らにする工程は精度の要求が上がり続け、ダイヤモンド工具の単価と使用量を押し上げる。注力5品目は経営が年12%の成長を見込み、今期の営業利益はすでに倍増する見通しだ。
東京精密との合弁がダイシングブレードの量産に入れば、市場の1〜2割を取りにいける。ジョージア州で計画される人工ダイヤ製造への購入の関心は、原料調達を中国以外に広げる布石になりうる。
資本政策も変わった。自己資本比率を80%から75%に下げ、5年で利益以上を返す。ROEは3%台から、8%以上の目標に向かって動く。低採算品を切れば、営業利益率10%以上の計画は無理な数字ではない。
時価総額に対して純現金が2割強ある。下値は堅く、上は半導体の景気と資本政策で開く。10年を通じた半導体の需要増と、収益体質の改善が重なれば、営業利益は100億円を超え、倍率も上がる。
慎重な見方
この会社は10年間、ROEが資本コストに届かなかった。景気が良い年でも利益率は10%前後が限度で、悪い年には赤字に落ちる。今期の好調は景気の山であり、平均的な年の利益とは違う。
注力5品目は、計画の136億円に対して92億円の見込みにとどまった。経営の数字を、そのまま信じる根拠は薄い。SiCが電気自動車の減速で下振れたことは、半導体向けの需要が一枚岩ではない証拠だ。
中国勢は太陽光向けのダイヤモンドワイヤで単価を10分の1に崩した。同じことが半導体向けに及ばない保証はない。CMPコンディショナは上位3社が8割強を握る市場で、旭ダイヤは上位に名前が挙がらない。
自動車の電動化が進めば、エンジン部品を削る砥石の需要は細る。石材・建設は価格競争が激しい。機械・輸送機器の約半分を占める成熟事業は、物価ほどには値上げできない。
退職給付費用の影響で2029年3月期の営業利益は減る見通しだ。計画の途中で利益が足踏みするなら、還元の約束も揺らぐ。現金は手厚いが、積んだ現金は利益を生まない。
どちらに重みを置いたか
半導体の追い風と資本政策の転換は確かに強い。ただ、10年を通しての利益率は、過去の実績が示す重しを外しきれない。強気の主張は計画の達成が前提で、慎重な主張は過去の実績に根拠がある。
確率は中立を中心に置き、慎重な側へわずかに寄せた。楽観は8%にとどめ、やや悲観を25%、悲観を13%とした。注力5品目の未達と中国勢の先例が、その差を作っている。10年後の価値は、今の時価総額を1割弱下回り、適正と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,422 円684 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 646 円311 億円)。 今の値に割り戻すと 1,078 円519 億円、今との差 +3.4%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,567 円1,717 億円 | 1,195 円575 億円 | +356.6% | +16.4% | 381 円183 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,187 円1,053 億円 | 848 円408 億円 | +191.0% | +11.3% | 607 円292 億円 |
| 中立 | 34% | 1,414 円680 億円 | 652 円314 億円 | +98.1% | +7.1% | 702 円338 億円 |
| やや悲観 | 25% | 745 円359 億円 | 494 円238 億円 | +18.9% | +1.7% | 310 円149 億円 |
| 悲観 | 13% | 248 円119 億円 | 270 円130 億円 | −50.4% | −6.8% | 67 円32 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,422 円684 億円 | 646 円311 億円 | +98.2% | +7.1% | 2,068 円995 億円 |
今の株価時価総額 1,043 円502 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 半導体の長い上り坂と収益体質の改善 利益 101 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 3,567 円1,717 億円
AI向けの先端半導体の投資が10年の間、途切れず続く。ウエハーの面研、面取り、ダイシングブレード、CMPコンディショナが年12%近い勢いで伸び、電子・半導体の取り分は2倍近くになる。東京精密との合弁も軌道に乗り、ダイシングブレードの市場で2割近いシェアを握る。
中国勢との価格競争は一部にとどまり、値段は物価並みの上昇を保つ。電子・半導体の営業利益率は18%まで上がり、機械向けも低採算品の整理で10%に届く。全社の営業利益率は14%近く、2010年代の山(11%台)を超える。
自己資本比率は75%を守り、利益のほとんどを株主に返す。ROEは15%を超え、国内首位の消耗品メーカーとして評価が一新される10年になる。
- 電子・半導体向け工具:数量 335(当社が取り込める電子・半導体向け工具市場の取り分(実質億円。市場約1,600億円(筆者の推定)×シェア約10.6%))× 価格 140(値段の指数(今期=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 468 億円・営業利益 84 億円。実質で年7%の伸び。値段は物価に加え構成の改善で10年1.40倍
- 機械・輸送機器向け工具:数量 230(当社の機械・輸送機器向け工具の取り分(実質億円))× 価格 140(値段の指数(今期=100))→ 売上 322 億円・営業利益 32 億円。航空機・軸受が自動車の減速を上回る。低採算品の整理で利益率10%
- 石材・建設・その他向け工具:数量 40.0(当社の石材・建設・その他向け工具の取り分(実質億円))× 価格 134(値段の指数(今期=100))→ 売上 54 億円・営業利益 1 億円。数量は縮むが、残るのは採算の取れる品だけ
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)70 億円。全体の PER 16.13 倍、時価総額 1,685 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の需要が10年途切れず、中国勢の値崩れも起きず、撤退と値上げも全部成功する必要がある。重なる確率は低い。
やや楽観 20% 半導体が柱に育ち、中期計画をほぼ達成 利益 69 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 2,187 円1,053 億円
半導体の需要は、景気の波を挟みながら年5%台で伸びる。注力5品目は計画ほどではないが着実に成長し、電子・半導体が売上の過半に近づく。合弁のダイシングブレードも、シェアは1割前後にとどまる。
価格は物価並みに上がり、不採算品の撤退が進んで、全社の営業利益率は11%近くまで上がる。計画が掲げる10%以上を、ほぼ実現する姿だ。機械・輸送機器は、電動化による砥石の減少を航空機と軸受がほぼ埋め合わせる。石材・建設は縮み続けるが、全体への影響は小さい。
還元は利益と同じ水準が続き、自己資本はほとんど増えない。ROEは10%を超えて定着し、資本コストを上回る10年になる。
- 電子・半導体向け工具:数量 290(当社が取り込める電子・半導体向け工具市場の取り分(実質億円。市場約1,600億円(筆者の推定)×シェア約10.6%))× 価格 134(値段の指数(今期=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 389 億円・営業利益 56 億円。実質で年5.5%、値段は物価並み
- 機械・輸送機器向け工具:数量 214(当社の機械・輸送機器向け工具の取り分(実質億円))× 価格 134(値段の指数(今期=100))→ 売上 287 億円・営業利益 23 億円。航空機・軸受で自動車の減少を埋め合わせる
- 石材・建設・その他向け工具:数量 42.5(当社の石材・建設・その他向け工具の取り分(実質億円))× 価格 128(値段の指数(今期=100))→ 売上 54 億円・営業利益 1 億円。低採算品を整理して利益率は1%
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)70 億円。全体の PER 14.01 倍、時価総額 1,017 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向けが主力に育つ点は、業界の見通しと会社の計画の双方が支える。計画の営業利益率10%超えが実現する展開をこの層に置く。
中立 34% 半導体は伸びるが、利益率は8%台半ばにとどまる 利益 48 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,414 円680 億円
半導体向けは景気の波を挟みながら年4%で伸び、10年で1.5倍になる。注力5品目は計画の年12%には届かないが、売上の構成は電子・半導体が過半に近づく。
機械・輸送機器の数量は10年でほぼ横ばいだ。電動化で砥石が減る分を、航空機、軸受、超硬工具が埋め合わせる。石材・建設は縮み、低採算品の撤退も進む。値段は物価並みに上がるが、競争のある分野では伸び悩む。
営業利益率は、今期の景気の山の11%には届かず、8%台半ばに落ち着く。計画の10%には届かない。過去10年の中央値と計画の、ちょうど中間の水準だ。10年後のROEは7%台まで上がるが、資本コストにはわずかに届かない。還元は利益と同じ水準で続き、自己資本はほとんど増えない。
計画の達成は、注力5品目の実績(目標の約7割)に近い水準にとどまる。そういう10年になる。
- 電子・半導体向け工具:数量 251(当社が取り込める電子・半導体向け工具市場の取り分(実質億円。市場約1,600億円(筆者の推定)×シェア約10.6%))× 価格 134(値段の指数(今期=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 337 億円・営業利益 39 億円。実質で年4%、値段は物価並み1.34倍
- 機械・輸送機器向け工具:数量 200(当社の機械・輸送機器向け工具の取り分(実質億円))× 価格 134(値段の指数(今期=100))→ 売上 268 億円・営業利益 17 億円。数量は横ばい。電動化の減少を航空機・軸受が埋める
- 石材・建設・その他向け工具:数量 42.5(当社の石材・建設・その他向け工具の取り分(実質億円))× 価格 125(値段の指数(今期=100))→ 売上 53 億円・営業利益 0 億円。低採算品を整理しても競争で値段は伸びず、利益は出ない
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)70 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 642 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の成長と、成熟事業の足踏み、中国勢の値下げ圧力の双方が見通せる。過去の実績(利益率の中央値は6%前後)と計画(10%)の中間にあたる、最も起こりやすい展開を中心に置く。
やや悲観 25% 中国勢と電動化に押され、利益率が6%台に 利益 30 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 745 円359 億円
中国・台湾・韓国の工具メーカーが、半導体向けでも価格を下げ始める。電子・半導体の取り分は年2%の伸びにとどまり、値段も物価ほど上がらない。注力5品目は、計画の半分ほどの伸びになる。
機械・輸送機器は、電動化でエンジン部品の砥石が減り、数量が1割落ちる。石材・建設は縮小が続き、赤字品を切り切れない。営業利益率は今期の山から落ち、6%台に戻る。これは過去10年の中央値とほぼ同じ水準で、構造が変わらなかった場合の姿である。
還元は計画を維持しようとするが、利益が足りず、自社株買いを絞らざるを得なくなる。ROEは5%近くに戻り、資本コストを下回る。計画の目標のほとんどが未達に終わり、市場の評価も戻らない10年になる。
- 電子・半導体向け工具:数量 207(当社が取り込める電子・半導体向け工具市場の取り分(実質億円。市場約1,600億円(筆者の推定)×シェア約10.6%))× 価格 125(値段の指数(今期=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 259 億円・営業利益 23 億円。実質で年2%、値段は競争で物価に届かない
- 機械・輸送機器向け工具:数量 180(当社の機械・輸送機器向け工具の取り分(実質億円))× 価格 130(値段の指数(今期=100))→ 売上 234 億円・営業利益 13 億円。電動化で砥石が1割減る
- 石材・建設・その他向け工具:数量 37.5(当社の石材・建設・その他向け工具の取り分(実質億円))× 価格 120(値段の指数(今期=100))→ 売上 45 億円・営業利益 −1 億円。赤字品が残る
倍率:ROE 4.7%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけ。RONIC = k 8.25% + 残る割合 1/2 ×(4.7 − 8.25)= 6.5%、長期の成長 g 4.0% から正当化 PER は 9.0 倍。構造的な負けの筋書きなので、上限へは引き上げず、式の値のまま置いた。
確率:注力5品目の未達と中国勢の先例があり、会社の計画どおりに進まない展開は有力だ。10年の間に景気の谷を挟む確率も高い。
悲観 13% 中国勢に値段を崩され、半導体でも主役になれない 利益 10 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 248 円119 億円
太陽光向けのワイヤで起きたことが、半導体向けで繰り返される。中国勢が高精度の領域まで追いつき、安値で顧客を奪う。電子・半導体の取り分は実質で縮み、値段は物価の伸びを大きく下回る。
自動車の電動化は想定より早く進み、機械・輸送機器の数量は3割近く減る。石材・建設は半分近くまで縮む。工場の統合と減損が重なり、営業利益率は3%を割る。
会社の稼ぐ力はほぼ消える。残るのは純現金だけだ。還元は途中で削られ、資本コストを大きく下回る状態が長引く。株主にとって、現金以外には何も積み上がらなかった10年になる。
- 電子・半導体向け工具:数量 161(当社が取り込める電子・半導体向け工具市場の取り分(実質億円。市場約1,600億円(筆者の推定)×シェア約10.6%))× 価格 105(値段の指数(今期=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 169 億円・営業利益 9 億円。中国勢に追いつかれ、取り分は縮み、値段は1.05倍にとどまる
- 機械・輸送機器向け工具:数量 144(当社の機械・輸送機器向け工具の取り分(実質億円))× 価格 115(値段の指数(今期=100))→ 売上 166 億円・営業利益 3 億円。電動化で数量が3割近く減る
- 石材・建設・その他向け工具:数量 30.0(当社の石材・建設・その他向け工具の取り分(実質億円))× 価格 110(値段の指数(今期=100))→ 売上 33 億円・営業利益 −1 億円。赤字が続く
倍率:稼ぐ力はほぼ消え、価値は純現金の水準まで下がる。純現金 120 億円を、減損後の自己資本で割った値。
確率:太陽光ワイヤで価格が10分の1になった先例があり、半導体向けでも同じ展開が起きる確率は、1割あまりある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子・半導体向け工具
ウエハーの面研・面取り・ダイシングブレード・CMPコンディショナ・電着ワイヤなど、半導体と電子部品の製造に使う工具。
| 数量当社が取り込める電子・半導体向け工具市場の取り分(実質億円。市場約1,600億円(筆者の推定)×シェア約10.6%) | 価格値段の指数(今期=100。物価3%で10年1.34倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 170 | 100 | 170 | 14 |
| 10 年後 中立 | 251 | 134 | 337 | 39 |
取り方:有報の業界別売上(電子・半導体 169.8億円)。市場約1,600億円はCMPコンディショナ約570億円(調査会社)に、ダイシングブレード、面研砥石、ワイヤ、基板加工工具を足した筆者の推定で、シェア10.6%は逆算。セグメント別の利益は開示がなく、全社の営業利益24.0億円を半導体8%、機械・輸送機器5%、石材・建設ほぼ0で配分した推定。
機械・輸送機器向け工具
軸受・超硬工具・工作機械向けと、自動車のエンジン・駆動部品、航空機部品の研削用砥石。
| 数量当社の機械・輸送機器向け工具の取り分(実質億円) | 価格値段の指数(今期=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 100 | 200 | 10 |
| 10 年後 中立 | 200 | 134 | 268 | 17 |
取り方:有報の業界別売上(機械 103.7億円+輸送機器 96.3億円)。数量は成熟市場の取り分。電動化で自動車の砥石は逆風、航空機・軸受は順風として10年を置く。
石材・建設・その他向け工具
コンクリート・石材の切断、資源探査の掘削、窯業・宝飾・研究機関向けの工具。
| 数量当社の石材・建設・その他向け工具の取り分(実質億円) | 価格値段の指数(今期=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.0 | 100 | 50 | 0 |
| 10 年後 中立 | 42.5 | 125 | 53 | 0 |
取り方:有報の業界別売上(石材・建設 38.9億円+その他 11.1億円)。低価格の競争が激しく、低採算品の撤退を進める分野。
リスクと懸念
半導体向けの循環と SiC の足踏み
売上の4割を占める電子・半導体は設備投資の波に乗る。AI向けの先端品は強いが、SiC向けは電気自動車の減速で下振れた。需要が1年止まれば、注力5品目の稼働と利益率は一気に崩れる。今期の増益が山だった場合の反動が大きい。
中国勢による値崩れ
太陽光向けのダイヤモンドワイヤでは、中国勢の安値攻勢で単価がピークの約10分の1に落ち、売上が大きく減った。半導体向けでも台湾・韓国・中国の追い上げは続く。値上げを求める計画と、顧客が値下げを迫る力のどちらが勝つかで、利益率が決まる。
電気自動車化と機械・輸送機器
輸送機器は売上の約23%で、エンジン部品の研削が柱だ。電動化が進むほど削る部品が減り、砥石の使用量が細る。航空機と軸受の伸びで穴を埋められるかが分かれ目で、埋めきれなければ機械・輸送機器の約半分が縮む。
計画の未達の履歴
前の中期計画で、注力5品目は136億円を掲げたが、92億円の見込みにとどまった。新計画は年12%成長と営業利益率10%以上を掲げる。同じ延長線の数字であり、未達が続けば、還元の約束と資本効率の改善も遅れる。
人工ダイヤ原料の調達
工具の原料である人工ダイヤの生産は中国に偏るとされる。輸出規制や関税で調達が乱れれば、原価が上がり納期も遅れる。米国の人工ダイヤ製造事業への関心は、調達先を広げる試みだが、契約も供給開始も未定だ。
退職給付費用と計画途中の足踏み
2029年3月期の営業利益は、退職給付費用の一時的な影響で、今期から減る見通しだ。会社は一時要因を除けば増益と説明する。ただ、途中で利益が足踏みすると、自社株買いの原資と株主の期待が揺らぎうる。
今後の分かれ目
- AI向けの先端半導体の投資が2030年代前半まで途切れず続く
- 注力5品目が年12%近くで伸び、電子・半導体の営業利益率が15%台に乗る。強気の筋書きに近づく。
- 中国勢が半導体向けのダイヤモンド工具で価格を急に下げる
- 太陽光ワイヤの時と同じく、単価の下落が数量の増加を上回る。電子・半導体の利益率は一桁に戻る。
- 電気自動車の比率が想定より早く上がり、エンジン部品の砥石需要が減る
- 機械・輸送機器の数量が1割以上縮み、営業利益率は目標に届かない。航空機と軸受の伸びでは埋まらない。
- 東京精密との合弁が2027年度下期に量産に入り、シェアを1割取る
- ダイシングブレードが新しい柱になり、電子・半導体の売上が計画を上回る。
- 低採算品の撤退が計画どおり進み、営業利益率が10%に乗る
- ROEが8%台で定着し、還元の約束が果たされる。倍率の評価が上がる余地が出る。
- 半導体の景気が反転し、今期の増益が山になる
- 売上は1〜2割落ち、利益率は5%前後に戻る。現金は残るが、ROEはまた3%台に沈む。
見ておくもの
- 注力5品目の売上と、SiC向けの回復
- 営業利益率が10%に届くか(低採算品の撤退の進み具合)
- 自社株買いの実績と自己資本比率の推移
- 東京精密との合弁の量産開始(2027年度下期)
- 中国勢の半導体向けダイヤモンド工具の価格と品質
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の稼ぐ力から出した。今の株価や過去・同業の倍率は使っていない。中立・楽観・やや楽観は、ROE と資本コスト 8.25%、長期の成長 4% から式で出した正当化 PER の 8 割(景気で振れる事業で、利益の質が中位のため。ROE が資本コストを超える筋書きは、PER の下限 1÷k を割らない)。やや悲観・悲観は構造的な負けから置き、7 割へは引き上げていない。余った現金は事業と分けて足した。新リース会計基準の影響は小さい事業のため、数字は今の形のままにしている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→16.13 倍・やや楽観 PER 12.1→14.01 倍・中立 PER 10.9→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。個別のリスクは筋書きと確率で表した。