結論
荏原製作所は、「流れを操る技術」を軸に、性格の違う二つの事業を持つ会社だ。一つは半導体の製造装置で、ウェーハを平らに磨く CMP 装置と、工場の真空を作るドライ真空ポンプを売る。もう一つはビルや工場向けの標準ポンプ、プラントの機器、ごみ処理施設だ。筆者の結論は、事業は堅実だが今の値段は高すぎる、というものだ。総合は割高(−40%)になった。
稼ぎ頭は精密・電子だ。CMP 装置は世界シェア 37% で、首位のアプライド・マテリアルズ(53%)に次ぐ 2 位になる。ドライ真空ポンプも英 Edwards に次ぐ 2 位だ。この部門が売上の 36% を占め、全社の営業利益の半分超を稼ぐ。ほかの部門は国内首位でも利益率が 1 桁にとどまる。
ここで数量の置き方を見直した。市場の伸びを名目で書きながら、価格にも物価を掛ける二重の数え方になっていたからだ。直したあとの中立は、CMP 市場が名目で年 6%、実質で約 1.3 倍に伸びる姿になる。
10 年後の中立は、営業利益 1,900 億円、ROE 14%、PER 13 倍。時価総額は今を 1 割ほど下回る。谷の深い半導体の確率を重ねると、本質価値は今を 4 割ほど下回る。今の PER は 25 倍だ。筆者は、精密・電子の高成長が崩れず続く、という楽観まで値段が先に払われていると見る。
バリュー投資の観点から
筆者が最初に見るのは、株主の手元に残る利益だ。精密・電子は営業利益率が高く、現金に変わりやすい。だが標準ポンプやインフラは利益率が低い。全社の稼ぐ力の半分超が、一つの事業に載っている。好況の利益を将来にそのまま伸ばしてはいけない。半導体の循環を通した平均の収益力を、慎重に見るべきだ。
堀は、全社では普通と見る。CMP とドライ真空ポンプは世界 2 位で、寡占の中にいる。ただし両方とも、首位を追う立場だ。標準ポンプは国内首位でも競争が厳しく、利益率が低い。
資本の使い方は評価できる。配当性向 35% 以上、フリーキャッシュフローの 100% 以上の還元という方針は分かりやすい。2000 年代の危機を越えて築いたガバナンスも、筆者は買う。
安全域は薄い。今の PER は 25 倍、PBR は 3.8 倍で、過去の荏原を大きく上回る。精密・電子の高成長が崩れず続く、という楽観に近い前提で、値段が付いている。
何で稼ぐ会社か
荏原は 2024 年から、事業を「建築・産業」「エネルギー」「インフラ」「環境」「精密・電子」の 5 つに分けている。稼ぎの中心は精密・電子だ。
精密・電子の主力は、ウェーハを平らに磨く CMP(化学機械研磨)装置である。成膜やエッチングの工程で真空を作る、ドライ真空ポンプも売る。顧客は TSMC、サムスン、SK ハイニックス、マイクロンなど最先端の工場だ。CMP は世界シェア 37% で、首位のアプライド・マテリアルズ(53%)と合わせて 9 割を占める。ロジック向けに強く、メモリ向けの機能追加でシェアを広げようとしている。
建築・産業とインフラは、ビルの給排水や工場の送風に使う標準ポンプが柱だ。国内シェアは約 30% で長年首位になる。河川の排水機場用ポンプも国内首位だ。AI データセンターの液冷に使う精密ポンプにも参入した。エネルギーは、石油化学や発電プラント向けのポンプ、コンプレッサ、タービンを扱う。
環境は、グループの荏原環境プラントが担う。ごみ処理施設の設計・建設に加え、長期の運転管理を請け負う。受注は国内外で 500 件、907 基に及ぶ。
創業は 1912 年。ポンプから水処理、半導体装置へと広げた「水の技術」の会社だ。海外売上は 6 割を超え、精密・電子の調子が全社の業績を大きく左右する。
優良さと弱いところ
筆者が見る荏原の強さは、技術で値段を守れる精密・電子にある。営業利益率は 16.9% と 5 事業で最も高い。CMP とドライ真空ポンプは、どちらも世界 2 位の技術を持つ。
一方で、標準ポンプ、エネルギー、インフラは国内首位級でも利益率は 1 桁にとどまる。事業ごとの稼ぐ力の差は大きい。全社の ROE は 15.1%、自己資本比率は 47.0%で、純有利子負債は時価総額の 4.2%だ。財務は健全である。
ガバナンスは日本企業の中でも先を行く。2000 年代の大きな損失と不祥事を経て、2008 年に初の社外取締役を迎えた。2015 年に指名委員会等設置会社へ移り、2017 年には取締役の過半数が社外になった。2019 年以降は、業務執行を兼ねる取締役を社長 1 人に絞っている。社外取締役が「NO」を言える形は、資本の使い方を支える。
弱点は、全社の営業利益の半分超を精密・電子に頼る一本足の面だ。半導体の投資が反転すれば、全社の業績が大きく振れる。ポンプや環境は安定しているが、利益率が低い。精密・電子の調子が良い間だけ、優良企業に見えやすい点に注意が要る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体の製造装置は、AI データセンター向けの先端ロジックと HBM の投資で伸びている。SEMI の予測では、WFE(前工程の装置市場)は 2026 年に前年比 9.0% 増の 1,352 億ドルに達する。荏原が強い CMP とドライ真空ポンプは、WFE より小さい市場だ。
先端ロジックと先端パッケージは、微細化と多層化で工程が増える。アプライド・マテリアルズと Edwards との技術の競争は続く。荏原はロジック向け CMP に強く、メモリ向けでは AMAT が優位に立つ。2030 年までに CMP の首位を取る、という目標を掲げて機能を足している。
半導体は 2001 年のITバブル崩壊と 2008 年のリーマンショックで、装置投資が急に減った。AI の追い風があっても、循環は消えない。
標準ポンプと建築設備は、国内の建設が成熟している。人口減が重荷だ。それでもデータセンターの液冷という新しい需要が出てきた。世界のポンプ市場での荏原のシェアは 8.34% で、グルンドフォスや KSB など欧州勢との競争は変わらない。環境は国内のごみ処理施設の更新と運転管理が中心だ。人口とともに緩やかに縮む市場だが、既存施設の高度化と発電が下支えになる。
中国は SMEE や AMEC を軸に装置の国産化を進める。中位の性能帯から始まったが、10 年あれば荏原の領域にも届きうる。米中の輸出管理も、投資のペースを左右する。
資本政策と M&A
還元の基準は連結配当性向 35% 以上だ。2026 年度も増配を計画しており、7 期連続になる。3 年間累計のフリーキャッシュフローの 100% 以上を、配当と自社株買いに向ける方針も掲げる。2026 年 2 月期には、最大 100 億円の自社株買いを終えた。持つ自己株は発行済み株式の 5% を上限とし、超える分は原則消却する。
M&A は、2022 年にカナダと米国のポンプ・ミキサー会社 6 社を持つ Hayward Gordon を買った例がある。海外の風水力事業を厚くする狙いだった。精密・電子では大型の買収は目立たず、研究開発で自力で伸ばしている。
2026 年 2 月には、長期ビジョン「E-Vision2035」と中期経営計画「E-Plan2028」をつくった。精密・電子、エネルギー、建築・産業を成長の柱とする。持ち合い株は小さく、資本効率を損なう要因としては目立たない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、AI 向けの投資はまだ序盤だと言う。TSMC、サムスン、SK ハイニックス、マイクロンの増産は、数年にわたり続く。荏原の CMP とドライ真空ポンプは、その投資に合わせて伸びる。2030 年までに CMP の首位を取る、という目標もある。メモリ向けに機能を足せば、アプライド・マテリアルズからシェアを奪う余地がある。
標準ポンプにも新しい柱が育ち始めた。AI データセンターの液冷に使う精密ポンプと熱管理だ。長年磨いた「流れを操る技術」の新しい使い道である。環境プラントも、施設の更新と発電の需要で安定して伸びる。
財務は堅い。自己資本比率は 47%、純有利子負債は時価総額の 4.2% だ。配当性向 35% 以上、フリーキャッシュフローの 100% 以上の還元で、株主にも厚い。社外取締役が過半を占めるガバナンスが、資本の使い方を支える。精密・電子の成長とポンプ・環境の安定、この二本足の強さは、次の 10 年も評価される、という主張だ。
筆者も、事業の質には異論がない。論点は値段と期間である。
慎重な見方
慎重な見方はまず、一本足の脆さを突く。全社の営業利益の半分超が、精密・電子に集まる。半導体の投資が反転すれば、全社の業績が大きく振れる。CMP ではアプライド・マテリアルズが 53% を握り、メモリ向けで優位に立つ。荏原が追いつく保証はない。ドライ真空ポンプも Edwards が首位だ。
中国の国産化も重い。SMEE や AMEC が中位の性能帯から最先端へ進めば、10 年の間にシェアが削られる。
標準ポンプ、エネルギー、インフラは、国内首位級でも利益率が 1 桁だ。精密・電子が好調な間だけ、全社の ROE が高く見えているにすぎない。環境も、人口減でごみ処理の需要が細る。データセンターの冷却は、まだ収益への貢献が小さい。
最後に値段だ。PER は 25 倍、PBR は 3.8 倍。過去の荏原と比べて高い。半導体への期待が少し後退すれば、業績が落ちる前に、倍率の縮みだけで株価は大きく下がる。精密・電子への依存が高いほど、その反動も大きい、という主張だ。
どちらに重みを置いたか
事業の質では、強気の見方に説得力がある。精密・電子の寡占と、ポンプ・環境の安定は、確かに二本足だ。一方、利益の半分超が半導体の循環に載る点と、PER 25 倍という値段は、慎重な見方にも分がある。
筆者は、中立に最も重みを置いた。中立の 10 年後は、時価総額が今を 1 割ほど下回る。半導体の反転の怖さを見て、やや悲観と悲観を合わせて 35% 置いた。確率で重ねると、本質価値は今を 4 割ほど下回る。今の値段が正当化されるのは、楽観に近い 10 年が続く時だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,865 円2.22 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,174 円5,347 億円)。 今の値に割り戻すと 3,243 円1.48 兆円、今との差 −15.3%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 10,416 円4.74 兆円 | 1,857 円8,457 億円 | +220.7% | +12.4% | 1,473 円6,707 億円 |
| やや楽観 | 21% | 7,070 円3.22 兆円 | 1,456 円6,630 億円 | +122.8% | +8.3% | 1,791 円8,154 億円 |
| 中立 | 32% | 5,404 円2.46 兆円 | 1,233 円5,614 億円 | +73.4% | +5.7% | 2,124 円9,671 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,558 円7,096 億円 | 847 円3,856 億円 | −37.2% | −4.5% | 529 円2,409 億円 |
| 悲観 | 13% | 446 円2,031 億円 | 499 円2,271 億円 | −75.3% | −13.1% | 123 円559 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,865 円2.22 兆円 | 1,174 円5,347 億円 | +57.8% | +4.7% | 6,039 円2.75 兆円 |
今の株価時価総額 3,827 円1.74 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 12% CMPシェア逆転を伺い、データセンター冷却が新しい柱に育つ 利益 2,281 億円 · PER 20.8 倍 · 株価時価総額 10,416 円4.74 兆円
AI、先端パッケージ、次世代メモリの投資の波が、何度も重なる。CMP の市場は名目で約 90 億ドルまで広がる。物価を除いても、今の約 1.9 倍にあたる。
荏原はメモリ向けの機能追加を当て、CMP のシェアを 40% まで伸ばす。ドライ真空ポンプも 29% に上がる。標準ポンプは、AI データセンターの液冷向けが柱として根づく。世界のポンプ市場で、シェアは 9.8% になる。環境プラントも、更新と発電の需要で緩やかに広がる。
アプライド・マテリアルズ、Edwards との差は残る。それでも、堅い財務と先進のガバナンスのもとで、研究開発と還元を両立させる。荏原にとって最も恵まれた 10 年になる。
- CMP装置(精密・電子):数量 66.9(世界のCMP装置市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 80(シェア×150円×物価の倍率(市場1億ドルあたりの当社売上換算))→ 売上 5,382 億円・営業利益 1,238 億円。市場(名目)89.7 億ドル=実質 66.9 億ドル×シェア40%、営業利益率23%
- ドライ真空ポンプ等(精密・電子):数量 66.0(半導体工場向けドライ真空ポンプ・関連コンポーネントの世界市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 58(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 3,846 億円・営業利益 711 億円。市場(名目)88.4 億ドル=実質 66.0 億ドル×シェア29%、営業利益率18.5%
- 標準ポンプ・建築設備・インフラ・エネルギー:数量 537(世界の産業用・建築用ポンプ市場(億ドル、推定))× 価格 20(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 10,576 億円・営業利益 1,142 億円。市場536.9億ドル×シェア9.8%、営業利益率10.8%
- 環境プラント:数量 100(国内の民間運営ごみ処理施設のうち荏原環境プラントが受託・稼働する施設数(基、推定))× 価格 16(1基あたりの年間売上(EPC・O&M・薬品販売の合算、億円、推定))→ 売上 1,640 億円・営業利益 172 億円。受託100基、営業利益率10.5%
倍率:事業の純利益 2,280 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.8 倍。全体の PER 20.8 倍、時価総額 47,434 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の間にCMPでのシェア拡大、ドライ真空ポンプの伸長、データセンター冷却事業の立ち上げという複数の成功が連続して必要で、実現すれば強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 21% 精密・電子が成長の主軸、ポンプも緩やかに拡大 利益 1,644 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 7,070 円3.22 兆円
CMP の市場は名目で約 72 億ドルまで広がる。荏原のシェアは 38.5% に上がり、ドライ真空ポンプも 27% に伸びる。
標準ポンプでは、データセンターの冷却向けが着実に育つ。世界シェアは 9.2% になる。環境プラントの受託も、緩やかに増える。アプライド・マテリアルズと Edwards との競争は続く。それでも荏原の技術の地位は揺らがず、中国の国産化は中位の性能帯にとどまる。
配当性向 35% 以上と、フリーキャッシュフローの 100% 以上の還元は保たれる。精密・電子とポンプ・環境の二本足が、ともに伸びる 10 年だ。AI の半導体需要が、業界の主役として根づく見方に近い。
- CMP装置(精密・電子):数量 54.1(世界のCMP装置市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 77(シェア×150円×物価の倍率(市場1億ドルあたりの当社売上換算))→ 売上 4,187 億円・営業利益 858 億円。市場(名目)72.5 億ドル=実質 54.1 億ドル×シェア38.5%、営業利益率20.5%
- ドライ真空ポンプ等(精密・電子):数量 55.5(半導体工場向けドライ真空ポンプ・関連コンポーネントの世界市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 54(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 3,013 億円・営業利益 482 億円。市場(名目)74.4 億ドル=実質 55.5 億ドル×シェア27%、営業利益率16%
- 標準ポンプ・建築設備・インフラ・エネルギー:数量 504(世界の産業用・建築用ポンプ市場(億ドル、推定))× 価格 18(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 9,317 億円・営業利益 913 億円。市場503.9億ドル×シェア9.2%、営業利益率9.8%
- 環境プラント:数量 92.0(国内の民間運営ごみ処理施設のうち荏原環境プラントが受託・稼働する施設数(基、推定))× 価格 16(1基あたりの年間売上(EPC・O&M・薬品販売の合算、億円、推定))→ 売上 1,509 億円・営業利益 140 億円。受託92基、営業利益率9.3%
倍率:事業の純利益 1,644 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍。全体の PER 19.59 倍、時価総額 32,198 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI関連の半導体需要が業界の主役として定着するという、業界見通しの上位レンジに近い想定。
中立 32% 二本足の構造は変わらず、倍率は平常化 利益 1,293 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 5,404 円2.46 兆円
中立は、二本足の構造が変わらず、倍率が平常に戻る 10 年だ。CMP の市場は名目で約 60 億ドル。今の約 1.75 倍で、物価を除くと約 1.3 倍にあたる。年に直すと名目 6% だ。荏原のシェアは 38% で、今からの改善は小さい。
技術が切り替わるたびに、アプライド・マテリアルズとシェアを奪い合う。得るものと失うものが打ち消し合う。ドライ真空ポンプのシェアは 26.5% でほぼ保つ。標準ポンプは、データセンターの冷却が一定の規模に育つ。ただ国内の成熟需要の縮小と相殺し、世界シェアは 8.7% どまりだ。
環境の受託は、緩やかに増える程度。循環は消えないが、AI 需要が谷を浅くする。特別な超過成長は一巡し、普通に強い優良企業として評価される。
- CMP装置(精密・電子):数量 45.1(世界のCMP装置市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 76(シェア×150円×物価の倍率(市場1億ドルあたりの当社売上換算))→ 売上 3,443 億円・営業利益 671 億円。市場(名目)60.4 億ドル=実質 45.1 億ドル×シェア38%、営業利益率19.5%
- ドライ真空ポンプ等(精密・電子):数量 49.5(半導体工場向けドライ真空ポンプ・関連コンポーネントの世界市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 53(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 2,636 億円・営業利益 395 億円。市場(名目)66.3 億ドル=実質 49.5 億ドル×シェア26.5%、営業利益率15%
- 標準ポンプ・建築設備・インフラ・エネルギー:数量 475(世界の産業用・建築用ポンプ市場(億ドル、推定))× 価格 17(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 8,306 億円・営業利益 748 億円。市場474.9億ドル×シェア8.7%、営業利益率9.0%
- 環境プラント:数量 84.8(国内の民間運営ごみ処理施設のうち荏原環境プラントが受託・稼働する施設数(基、推定))× 価格 16(1基あたりの年間売上(EPC・O&M・薬品販売の合算、億円、推定))→ 売上 1,391 億円・営業利益 115 億円。受託84.8基、営業利益率8.3%
倍率:事業の純利益 1,292 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍。全体の PER 18.81 倍、時価総額 24,312 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:SEMIのWFE市場見通し(10年後も拡大)と後工程・先端パッケージングの構造的成長を踏まえつつ、荏原固有のCMPでのシェア拡大・ポンプのデータセンター参入をやや慎重に見る、最も重みを置く中心シナリオ。
やや悲観 22% 中国の装置国産化でCMP・ドライポンプのシェアが侵食 利益 668 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,558 円7,096 億円
中国の新興メーカーの国産化が、CMP とドライ真空ポンプの中位の性能帯まで広がる。荏原のシェアは CMP で 34%、ドライ真空ポンプで 23% に下がる。
CMP の市場も、名目で約 45 億ドルにとどまる。物価を除くと、今よりわずかに小さい。TSMC とサムスンの最先端投資は続くが、ペースは鈍る。標準ポンプは国内の成熟需要が縮み続け、冷却の立ち上がりも遅い。世界シェアは 8.34% で変わらない。環境は人口減で緩やかに縮む。
それでも、最先端の CMP とドライ真空ポンプでは、一定の優位を残す。事業は崩れない。配当は規模を抑えて続く。
- CMP装置(精密・電子):数量 33.5(世界のCMP装置市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 68(シェア×150円×物価の倍率(市場1億ドルあたりの当社売上換算))→ 売上 2,290 億円・営業利益 309 億円。市場(名目)44.9 億ドル=実質 33.5 億ドル×シェア34%、営業利益率13.5%
- ドライ真空ポンプ等(精密・電子):数量 40.5(半導体工場向けドライ真空ポンプ・関連コンポーネントの世界市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 46(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 1,873 億円・営業利益 184 億円。市場(名目)54.3 億ドル=実質 40.5 億ドル×シェア23%、営業利益率9.8%
- 標準ポンプ・建築設備・インフラ・エネルギー:数量 413(世界の産業用・建築用ポンプ市場(億ドル、推定))× 価格 17(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 6,923 億円・営業利益 505 億円。市場413.0億ドル×シェア8.34%、営業利益率7.3%
- 環境プラント:数量 73.6(国内の民間運営ごみ処理施設のうち荏原環境プラントが受託・稼働する施設数(基、推定))× 価格 16(1基あたりの年間売上(EPC・O&M・薬品販売の合算、億円、推定))→ 売上 1,207 億円・営業利益 82 億円。受託73.6基、営業利益率6.8%
倍率:ROE 8.5%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 7.25% + 残る割合 1/2 ×(8.5 − 7.75)= 8.1%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 13.5 倍。半導体投資の谷と中国勢の追い上げで精密・電子の利益が細る筋書き。ROE は k を上回るが、先で薄れる稼ぎを多めに見て、上限の 7.0 割の 9.5 倍に置いた。
確率:中国などの新興メーカー(SMEE・AMEC等)の国産化が中位性能帯から広がり、半導体市場の伸び自体も鈍化する想定。業界見通しのうち弱めのレンジに相当。
悲観 13% 半導体で構造的にシェアを失い、二本足の片方だけが残る 利益 226 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 446 円2,031 億円
中国の新興メーカーが、CMP とドライ真空ポンプの最先端の工程にも食い込む。荏原のシェアは CMP で 22%、ドライ真空ポンプで 16% まで落ちる。
顧客はアプライド・マテリアルズや Edwards から複数購買を進める。米中対立の激化で、投資計画も見えにくくなる。CMP の市場は、AI の進展で名目 41 億ドルまで広がる。だがシェアの損失が業績を直撃し、精密・電子の営業利益率は 1 桁前半まで沈む。
標準ポンプ、建築設備、環境は、国内の需要が縮み続ける。それでも精密・電子よりは底堅い。全社は、標準ポンプと環境という安定事業だけが残る会社として、評価が切り替わる。
- CMP装置(精密・電子):数量 30.9(世界のCMP装置市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 44(シェア×150円×物価の倍率(市場1億ドルあたりの当社売上換算))→ 売上 1,366 億円・営業利益 96 億円。市場(名目)41.4 億ドル=実質 30.9 億ドル×シェア22%、営業利益率7%
- ドライ真空ポンプ等(精密・電子):数量 37.5(半導体工場向けドライ真空ポンプ・関連コンポーネントの世界市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質)× 価格 32(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 1,205 億円・営業利益 60 億円。市場(名目)50.2 億ドル=実質 37.5 億ドル×シェア16%、営業利益率5%
- 標準ポンプ・建築設備・インフラ・エネルギー:数量 351(世界の産業用・建築用ポンプ市場(億ドル、推定))× 価格 17(シェア×150円×物価の倍率)→ 売上 5,885 億円・営業利益 265 億円。市場351.1億ドル×シェア8.34%、営業利益率4.5%
- 環境プラント:数量 60.0(国内の民間運営ごみ処理施設のうち荏原環境プラントが受託・稼働する施設数(基、推定))× 価格 16(1基あたりの年間売上(EPC・O&M・薬品販売の合算、億円、推定))→ 売上 984 億円・営業利益 39 億円。受託60基、営業利益率4.0%
倍率:ROE 3.1% が k 7.25% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.9 倍まで。精密・電子の技術的な地位を失い、標準ポンプも価格競争に巻き込まれる構造悲観。ROE が k を下回るので、稼ぐ力(純利益 ÷ k)を上限に、上限の 7.0 割の 9.0 倍に置いた。
確率:中国・新興メーカーがCMP・ドライ真空ポンプの最先端工程にまで食い込み、かつ半導体の循環の谷が同時に来るという複合シナリオ。技術優位の喪失は一度始まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
CMP装置(精密・電子)
半導体ウェーハの表面を平坦化する化学機械研磨(CMP)装置。ロジック半導体向けで強みを持つ。
| 数量世界のCMP装置市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質 | 価格シェア×150円×物価の倍率(市場1億ドルあたりの当社売上換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 34.5 | 56 | 1,915 | 364 |
| 10 年後 中立 | 45.1 | 76 | 3,443 | 671 |
取り方:CMP 装置の世界シェアは、アプライド・マテリアルズ 52.6%、荏原 37.0% で、2 社で 9 割を占める寡占。世界の市場規模は調査機関により 39〜63 億ドルと幅があるため、精密・電子のうち CMP が占める比率(約 5〜6 割、売上約 1,915 億円)をシェア 37% で逆算し、約 34.5 億ドルと置いた(1 ドル 150 円)。数量は今の値段で測った実質の市場規模で、10 年後の筋書きの市場は、名目の予測を物価 1.34 倍で割った実質で置く。価格=シェア 37%×150 円。
ドライ真空ポンプ等(精密・電子)
半導体の成膜・エッチング工程で真空状態を作るドライ真空ポンプと関連コンポーネント。
| 数量半導体工場向けドライ真空ポンプ・関連コンポーネントの世界市場(億ドル、推定)。今の値段で測った実質 | 価格シェア×150円×物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 40.2 | 38 | 1,508 | 216 |
| 10 年後 中立 | 49.5 | 53 | 2,636 | 395 |
取り方:ドライ真空ポンプは世界 2 位(1 位は英 Edwards Vacuum)。精密・電子の残り(コンポーネント・ドライポンプ、売上約 1,508 億円)を、半導体工場向けドライポンプ・部品市場でのシェア 25%(推定)で逆算し、約 40.2 億ドルと置いた。数量は今の値段で測った実質の市場規模で、10 年後の筋書きの市場は、名目の予測を物価 1.34 倍で割った実質で置く。価格=シェア 25%×150 円。
標準ポンプ・建築設備・インフラ・エネルギー
ビル・マンションの給排水、河川の排水機場、石油化学・発電プラント向けのポンプ・コンプレッサ・タービン。建築・産業・インフラ・エネルギーの3セグメント合算。
| 数量世界の産業用・建築用ポンプ市場(億ドル、推定) | 価格シェア×150円×物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 413 | 13 | 5,167 | 457 |
| 10 年後 中立 | 475 | 17 | 8,306 | 748 |
取り方:標準ポンプは国内シェア約30%で長年首位、排水機場用ポンプも国内シェア1位。世界のポンプ市場では荏原のシェアは8.34%(deallab調べ)。建築・産業(2,419億円)・エネルギー(2,178億円)・インフラ(571億円)の3セグメント合計売上(約5,167億円)をこのシェアで逆算し、世界の産業用・建築用ポンプ市場を約413億ドルと置いた。価格=シェア8.34%×150円。
環境プラント
ごみ処理施設(ストーカ式・流動床式焼却炉)の設計・建設(EPC)、長期の運転管理・メンテナンス(O&M)、薬品の製造・販売。
| 数量国内の民間運営ごみ処理施設のうち荏原環境プラントが受託・稼働する施設数(基、推定) | 価格1基あたりの年間売上(EPC・O&M・薬品販売の合算、億円、推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 80.0 | 12 | 979 | 80 |
| 10 年後 中立 | 84.8 | 16 | 1,391 | 115 |
取り方:荏原環境プラントは国内の民間運営ごみ処理施設(全国約1,100基のうち約400基)の約20%のシェアを持ち、稼働・受託中の施設を約80基と見積もった。環境セグメント売上979億円÷80基で、1基あたりの年間売上を約12.2億円(EPC・O&M・薬品販売の合算)と置いた。
リスクと懸念
精密・電子に利益が集まる
営業利益の半分超を、CMP 装置とドライ真空ポンプが稼ぐ。半導体の投資が反転すれば、全社の業績が大きく振れる。ポンプや環境は安定だが利益率が低く、精密・電子が良い間だけ優良企業に見えやすい。
首位との差が詰まらない
CMP はアプライド・マテリアルズが 53% を握り、メモリ向けで優位にある。ドライ真空ポンプは Edwards が首位だ。荏原は 2030 年に CMP の首位を狙うが、追いつく保証はなく、追う立場が続く。
中国の装置国産化
SMEE や AMEC が、CMP とドライ真空ポンプの国産化を中位の性能帯から進める。今は最先端に届かない。しかし 10 年の間にシェアが削られる恐れは、無視できない。米中の輸出管理も計画を揺らす。
半導体の谷は深い
ITバブル崩壊(2001 年)とリーマンショック(2008 年)で、装置投資が急に減った。AI の柱ができても、受注が先読みと在庫調整で振れる性質は残る。
国内の成熟需要と低い利益率
標準ポンプ、建築設備、環境は、国内首位級でも営業利益率が 1 桁だ。人口減で建設とごみ処理の需要が細る。データセンターの冷却が、この形をどこまで変えるかは分からない。
倍率が縮む
今の PER は 25 倍、PBR は 3.8 倍で、過去の荏原より高い。半導体への期待が後退すると、業績が落ちる前に、倍率の縮みだけで株価が大きく下がりうる。
今後の分かれ目
- 荏原が CMP でメモリ向けの機能追加に成功し、アプライド・マテリアルズからシェアを奪い始めたら
- 楽観とやや楽観の確率を上げてよい。ただ、倍率がすでに高いので、株価が価値より先に走っていないかも確かめる。
- TSMC、サムスン、SK ハイニックス、マイクロンの誰かが投資計画を大きく見直したら
- やや悲観と悲観の確率を上げる。精密・電子の受注と利益率の変化を、決算で確かめる。
- 中国の新興メーカーが、CMP やドライ真空ポンプの最先端で受注を取り始めたら
- シェアの前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
- AI データセンターの液冷向けポンプが、建築・産業の中で一定の売上に育ったら
- ポンプ事業の成長を上方修正し、精密・電子への依存に付けた割引を和らげてよい。
- 半導体投資が急に冷え、精密・電子の受注が前年を割ったら
- やや悲観や悲観に近づいたと見る。倍率の縮みも合わせて想定する。
- 自社株買いが発行済み株式の 5% の上限に近づき、消却が続いたら
- 還元の規律は評価できる。ただ、成長投資より消却に偏っていないか、資本政策の変化を確かめる。
見ておくもの
- 精密・電子セグメントの受注高・営業利益率の四半期推移
- CMP装置・ドライ真空ポンプの世界シェア(アプライド・マテリアルズ・Edwards Vacuumとの差)
- TSMC・サムスン・SKハイニックス・マイクロンの資本支出計画の進捗
- 標準ポンプ・建築設備セグメントのデータセンター冷却向け売上の立ち上がり
- 中国など新興装置メーカーのシェア動向
倍率と資本コストの決め方
精密・電子の CMP とドライ真空ポンプは世界市場(実質)にシェアと物価の指数を掛け、標準ポンプ類は世界のポンプ市場に掛け、環境は受託の基数に 1 基あたり売上を掛けた。直す前は、市場の名目の伸びを数量に置いて価格にも物価を掛けていたので、CMP とドライ真空ポンプの数量を物価 1.34 倍で割った実質に置き直した(中立の市場は名目で CMP 約 1.75 倍、ドライ真空ポンプ約 1.65 倍、年 5〜6% で、機械ノートの半導体装置の名目 5〜7% の範囲)。倍率は正当化 PER(RONIC の残る割合 1/2、g 4%)を上限に、中立はその約 8 割。悲観は ROE が k を下回るので稼ぐ力で測った。今の株価に寄せて動かした所はない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.21→20.8 倍・やや楽観 PER 14.33→19.59 倍・中立 PER 13.19→18.81 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。半導体サイクルへの依存は quality の循環に入れ、標準ポンプ・環境という安定事業の併存は寿命で見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.25%。
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