結論
グローリーは、紙幣と硬貨を数え、仕分け、釣り銭まで自動で出す機械の世界大手だ。売上の 6 割強は海外で、欧米の小売・金融機関に置いた機械と、その保守が稼ぎの中心になった。筆者の結論は「やや割高」。今の値段は会社の利益回復をかなり織り込んでいて、キャッシュレスという長い逆風への備えが薄い。
稼ぎの土台は悪くない。機械を売ったあとも、保守や部品の収入が続く。2026 年 3 月期の営業利益は 298 億円で、海外の売上は 7 年連続で過去最高だった。一方、国内は 2024 年の新紙幣の特需が引き、国内売上は 1,872 億円から 1,235 億円まで落ちた。会社は 2027 年 3 月期に営業利益 320 億円を見込み、第 1 四半期は 5 割の増益で順調だ。
ただ、この会社は ROE の高い優良株ではない。過去 10 年の ROE は中央値で 5% 台で、2023 年 3 月期には減損で最終赤字に沈んだ。海外の買収が思うように稼げなかった履歴は軽くない。
10 年後の中立で、営業利益は 430 億円ほど、ROE は 9% 弱まで改善する。価格戦略とのれん償却の消滅で、利益の質は確かに上がる。それでも資本コストをわずかに上回るだけで、倍率は大きく上がらない。確率で加重した 10 年後の価値は、今の値段を 2 割弱下回る。会社の回復が計画どおりに進む強い筋書きが 10 年続いて、初めて今の値段が正当化される。
バリュー投資の観点から
本業の稼ぎは、オーナーの手元に残る利益で見ると薄い。機械の更新と海外の開発に毎年お金がかかり、利益のかなりが投資に回る。ROE が資本コストを少し上回る程度の会社に、高い値段は払えない。
経営者が資本をどう使うかが、この会社の最大の論点だ。買収で海外へ広がった判断は、2023 年 3 月期の減損で代償を払った。ここ 2 年は株主への還元を厚くし、規律は戻ってきた。ただ、海外の堀が薄い以上、還元の原資である利益が続くかが問われる。
10 年後もこの事業は残るか。残ると見る。現金の需要が細っても、消えはしない。保守という継続収益もある。ただ、年金のように安定して伸びる事業ではない。
安全域は厚くない。今の値段は、会社の回復計画を半ば織り込んでいる。バリュー投資の観点では、海外の利益率が 10% 前後で定着した証拠を確かめるまで、本質価値を今の値段より高くは置けない。
何で稼ぐ会社か
事業は 4 つに分かれる。いちばん大きいのが海外市場で、売上の 64%(2,161 億円)を占める。欧州と米国のスーパー、ドラッグストア、銀行に、紙幣・硬貨の入出金機、レジ裏の現金管理機、保守サービスを売る。2012 年の英タラリス、2021 年の米レボリューション・リテール・システムズの買収が土台になった。
流通・交通市場(576 億円)は、国内のレジの自動つり銭機や、交通向けの現金処理機だ。金融市場(371 億円)は、銀行や信用金庫の窓口で使う入出金機と、店舗周りの現金処理機を扱う。遊技市場(211 億円)はパチンコ店向けの計数機や貸出機で、利益率は 24% と最も高い。
収益の形は 4 つに共通する。機械を売るのは一度だが、保守・部品・ソフトの契約は長く続く。会社はこの継続収益を、2026 年度に売上の 4 割へ高める目標を掲げる。売るたびに値段を決めるハード事業を、毎年入る契約収入で支える形に変える狙いだ。
注力するのは小売・金融・飲食の 3 分野。飲食店の人手不足を、会計とつり銭の自動化で埋める市場を、3 本目の柱に育てている。2026 年 3 月期からは国際会計基準(IFRS)に変わり、買収でできたのれんの償却がなくなった。営業利益が日本基準より高く出る点は、数字を読むときに外せない。
優良さと弱いところ
堀は国内の方が深い。銀行や小売チェーンでは、紙幣を見分ける精度と、故障時に駆けつける保守網がものを言う。一度入れた機械は長く使われ、保守契約が付いてくる。国内は金融でも流通でも最大手格で、2024 年の新紙幣への切り替えで、その力があらためて示された。
海外は堀が薄い。欧米には CIMA や ARCA、クレーンなど地元の競合が多く、顧客は小売の大手と銀行だ。値段で選ばれる場面も少なくない。海外の営業利益率は 2024 年 3 月期が 3.5%、2025 年 3 月期が 4.0% にとどまった。2026 年 3 月期に 9.8% まで戻したのは、価格戦略と原価低減が効いた結果だ。筆者は、この改善が一過性ではないとまでは言い切れないと見ている。
資本の使い方には疑問が残る。海外の買収で規模は広がったが、2023 年 3 月期には減損で最終赤字になった。ROE は過去 10 年の中央値が 5% 台で、堀の割に低い。ここ 2 年は総還元性向 100% 超を掲げ、自社株買いも厚い。姿勢は改善している。
いちばん気にするのは、需要そのものが細る恐れだ。現金が使われなくなれば、機械の台数も保守の売上も減る。堀があっても、市場が縮めば値打ちは目減りする。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
現金処理機の市場は、地域ごとに事情が違う。日本は人口が減り、銀行店舗の統廃合が続く。国内の台数は細る方向だが、2024 年の新紙幣で入れ替えが一度に起きた。その反動が 2026 年 3 月期に出て、国内売上は 2 年で 3 割強減った。特需前の 1,000 億円前後が、国内の平常の水準とみる。
欧米は現金の利用が減る一方、スーパーやドラッグストアの店内の現金管理は残る。レジ係が現金を数え、集金に回し、銀行に預ける。この作業を機械で省く需要は、人手不足で強まっている。当社はここで稼ぐ。筆者は欧米の市場を約 120 億ドルと推定した。競合各社の売上を足した概算で、当社の取り分は 1 割強になる。
競合は海外に CIMA、ARCA、クレーンがあり、ディ・ラ・ルーも現金処理の会社として名が挙がる。国内で最大手格にある当社も、海外では群雄割拠の一社だ。価格でシェアが動きやすい。
景気の波は小さい。需要の中心は更新と保守で、設備投資の山谷より、紙幣の切り替えや店舗の改装が時期を決める。リーマン級の不況でも、保守の収入が下支えになる。
最大の変数は、キャッシュレスの進み方だ。進むほど台数は減るが、現金が消えるわけではない。災害や通信障害のたびに、現金の役割は見直される。筆者は、10 年で市場の台数がゆるやかに細ると見ている。当社はシェアを少し取って、その分を打ち返す。
資本政策と M&A
還元は厚くなった。2026 年 3 月期の総還元性向は 126% で、配当 134 億円に自社株買い 195 億円が加わった。取得した株は全数を消却している。中期計画は、2026 年度までの総還元性向 100% 以上と、減らさない累進配当、株主資本配当率 3% 以上を掲げる。2027 年 3 月期は増配を見込む。
買収は 3 度ある。2012 年に英タラリスを 500 億円台で、2018 年にソフト開発のフュートレックを公開買い付けで、2021 年に米レボリューション・リテール・システムズを。規模は広がったが、海外の収益が追いつかず、2023 年 3 月期は減損で赤字になった。のれんは今も残る。海外の業績が崩れれば、再び減損の種になる。
借金は純額で 252 億円と重くない。自己資本比率は 48% で、会社は 50% 前後を目標にする。ただ還元が利益を上回った分は手元の資金で賄うので、自己資本は 2025 年 3 月期の 2,353 億円から 2,179 億円へ減った。この水準の還元を続ければ、自己資本は増えない。
10 年のうちに、大型の買収や事業の入れ替えに動く可能性はある。買う側にも、買われる側にもなりうる。筆者は、会社が買収より還元を優先している間は、資本の使い方は良い方向にあると見る。
還元は方針(総還元性向100%以上・累進配当・DOE3%)の範囲で、中立は純利益の合計の約93%。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海外の利益率が 4% から 10% 近くまで戻ったのは、価格戦略と原価低減が効いた結果だ。2027 年 3 月期の営業利益は 320 億円の計画で、第 1 四半期は 5 割の増益と、足もとの勢いは強い。国内の落ち込みは、新紙幣の特需の反動に過ぎない。特需前の水準に戻れば、これ以上は下がらない。
欧米では、スーパーやドラッグストアの人手不足が深刻だ。レジ裏の現金管理を機械に任せる需要は、むしろ強まる。飲食という新しい市場も開き始めた。保守や部品の継続収益を売上の 4 割へ高める計画が進めば、利益は景気に左右されにくくなる。
IFRS への移行でのれんの償却が消え、営業利益は日本基準より高く出る。ROE は 10% を狙える水準だ。自社株買いを含めた総還元性向は 126% で、会社は資本効率に本気で取り組んでいる。10 年のうちに、海外の買収がようやく実を結ぶ。現金の需要は、キャッシュレスが進んでも、災害や通信障害に備える意味で残る。
慎重な見方
この会社の過去を見れば、海外の利益は安定しない。2024 年 3 月期の海外の営業利益率は 3.5%、2025 年 3 月期は 4.0%だった。2026 年 3 月期の 9.8% が定着する保証はない。2023 年 3 月期には減損で最終赤字になり、のれんは今も残る。ROE は過去 10 年の中央値が 5% 台で、堀の割に資本の使い方がうまくない。
国内の特需の反動はまだ終わっていない。流通・交通市場は 2026 年 3 月期にセグメント利益がほぼ 0 まで落ちた。金融機関の店舗は減り続け、パチンコ店の数も減る。国内の台数は細る一方だ。
キャッシュレスは、毎年じわじわ進む。現金が減れば機械の台数と保守収入が減り、競合は値引きで台数を守りに来る。海外の堀は薄いので、値段を下げる圧力に弱い。総還元性向 126% は、利益より多くを株主に返したということで、自己資本は減った。回復が止まれば、還元を削るしかない。今の値段は、会社の回復計画をほぼそのまま織り込んでおり、外れたときの余裕がない。
どちらに重みを置いたか
海外の利益回復と、保守・部品の継続収益、還元の厚さは強気の見方に説得力がある。ただ、2024〜2025 年 3 月期に 3〜4% だった海外の利益率が定着した証拠はまだ 1 年分しかなく、国内の特需の反動も続く。キャッシュレスという長い逆風も外せない。確率は中立を最も重く置きつつ、やや悲観と悲観に合わせて 4 割弱を残し、楽観側は 3 割弱とした。ROE は 10 年の中立で 9% 弱と、資本コストをわずかに上回るだけなので、倍率は大きく上がらない。回復が計画どおりに進む強い筋書きが 10 年続かないと、今の値段は正当化されない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,897 円2,574 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,120 円1,639 億円)。 今の値に割り戻すと 4,392 円2,308 億円、今との差 −14.7%、 期待の年率 +4.5%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,654 円5,598 億円 | 4,856 円2,552 億円 | +201.1% | +11.7% | 1,241 円652 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,719 円4,057 億円 | 4,027 円2,116 億円 | +128.0% | +8.6% | 2,349 円1,235 億円 |
| 中立 | 36% | 5,306 円2,788 億円 | 3,300 円1,734 億円 | +67.1% | +5.3% | 3,098 円1,628 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,038 円1,071 億円 | 2,499 円1,313 億円 | −11.9% | −1.3% | 998 円524 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,020 円536 億円 | 1,345 円707 億円 | −54.1% | −7.5% | 331 円174 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,897 円2,574 億円 | 3,120 円1,639 億円 | +55.6% | +4.5% | 8,017 円4,213 億円 |
今の株価時価総額 5,151 円2,707 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 現金が粘り、海外の価格戦略が定着 利益 377 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 10,654 円5,598 億円
現金の需要が思ったより粘り、人手不足で小売のレジ裏の自動化が一気に進む。海外では当社が取る売上が 25% 増え、価格戦略が定着して営業利益率は 14% に届く。飲食店向けも育ち、継続収益の比率が 4 割を超えて利益が安定する。国内は保守が金融・流通の下支えになり、遊技は店の減少を値上げで一部おぎなう。のれんの減損は起きず、増配と自社株買いが続いて ROE は 15% 前後まで上がる。欧米の競合は価格で追いかけるが、当社の保守網と機械の信頼性が顧客をつなぎとめる。海外の買収がようやく実を結び、会社の中期計画を上回る 10 年になる。
- 海外市場:数量 18.0(海外で当社が取る売上(実質。億ドル。市場規模 × シェアの推定、今の値段で))× 価格 204(円換算の単価(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 3,672 億円・営業利益 514 億円。市場の微増とシェア上昇、営業利益率 14%
- 流通・交通市場:数量 10.6(自動つり銭機など流通・交通向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 82(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 862 億円・営業利益 86 億円。台数 1 割増、利益率 10%
- 金融市場:数量 1.4(金融機関向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 336(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 479 億円・営業利益 62 億円。店の減少を保守が補う、利益率 13%
- 遊技市場:数量 4.0(パチンコ店向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 57(1 台あたりの平均単価(万円))→ 売上 230 億円・営業利益 51 億円。ホール減少を値上げで一部おぎなう
- その他:数量 1.5(その他事業の販売件数相当(万件。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 68(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 105 億円・営業利益 0 億円。利益は調整額に含める
倍率:事業の純利益 377 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.85 倍、時価総額 5,598 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:現金の需要が粘り、価格戦略も定着する必要がある。海外の利益率は 2024 年 3 月期に 3.5% だった実績があり、確度は高くない。
やや楽観 20% 回復計画がおおむね実現 利益 291 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 7,719 円4,057 億円
会社の回復計画がおおむね実現する。海外では当社の売上が 15% 増え、営業利益率は 12% で定着する。国内は新紙幣の特需前の水準に落ち着き、流通は横ばい、金融と遊技は店の減少で台数が細る。ただ、欧米の競合との値引き競争は続き、利益率の上限は 12% あたりで止まる。飲食向けは育つが、全体を動かす大きさにはならない。営業利益は 560 億円ほど、ROE は 12% 近くまで上がる。小売の人手不足が自動化の需要を支え、遊技の高い利益率が全体の下支えになる。海外の価格戦略が一過性ではなかったと分かる、おおむね順調な 10 年になる。
- 海外市場:数量 16.6(海外で当社が取る売上(実質。億ドル。市場規模 × シェアの推定、今の値段で))× 価格 203(円換算の単価(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 3,353 億円・営業利益 402 億円。売上 15% 増、営業利益率 12%
- 流通・交通市場:数量 9.6(自動つり銭機など流通・交通向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 81(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 778 億円・営業利益 66 億円。横ばい、利益率 8.5%
- 金融市場:数量 1.4(金融機関向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 334(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 451 億円・営業利益 52 億円。台数 1 割減、利益率 11.5%
- 遊技市場:数量 3.8(パチンコ店向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 57(1 台あたりの平均単価(万円))→ 売上 214 億円・営業利益 45 億円。台数 25% 減、利益率 21%
- その他:数量 1.5(その他事業の販売件数相当(万件。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 68(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 104 億円・営業利益 0 億円。利益は調整額に含める
倍率:事業の純利益 291 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.94 倍、時価総額 4,056 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の回復計画に近い道。海外の利益率が 10% 近くまで戻った実績(2026 年 3 月期)と、四半期の増益の勢いが根拠。ただ競合との値引き競争が上限を抑える。
中立 36% 海外は小幅に伸び、利益率は 10% で足踏み 利益 218 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 5,306 円2,788 億円
海外は少しずつシェアを取るが、市場は台数でやや縮み、当社の売上は 5% 増にとどまる。営業利益率は 10% で足踏みし、海外の営業利益は 300 億円ほどになる。国内は特需前の水準に戻り、金融と遊技は店の減少で台数が 15〜30% 細る。キャッシュレスは今のペースで進み、現金の需要はゆるやかに減る。営業利益は 430 億円、純利益は 220 億円ほど。ROE は 9% 弱で、資本コストをわずかに上回るだけの、会社の計画ほどは伸びないが、赤字や大きな減損も出ない。ごく普通の会社に落ち着く 10 年になる。
- 海外市場:数量 15.1(海外で当社が取る売上(実質。億ドル。市場規模 × シェアの推定、今の値段で))× 価格 201(円換算の単価(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 3,039 億円・営業利益 304 億円。売上 5% 増、営業利益率 10%
- 流通・交通市場:数量 9.1(自動つり銭機など流通・交通向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 80(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 733 億円・営業利益 51 億円。台数 5% 減、利益率 7%
- 金融市場:数量 1.3(金融機関向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 331(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 423 億円・営業利益 42 億円。台数 15% 減、利益率 10%
- 遊技市場:数量 3.5(パチンコ店向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 57(1 台あたりの平均単価(万円))→ 売上 198 億円・営業利益 38 億円。台数 3 割減、利益率 19%
- その他:数量 1.5(その他事業の販売件数相当(万件。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 67(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 98 億円・営業利益 0 億円。利益は調整額に含める
倍率:ROE 8.8%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 8% + 残る割合 1/2 ×(8.8 − 8.25)= 8.5%、長期の成長率 g 3.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 12.3 倍。ROE が k をわずかに上回るので、下限の 1÷k = 12.1 倍がほぼそのまま上限になる。現金の需要が緩やかに減る中で海外の利益率 10% は守られる筋書きで、利益の質は普通。上限の 9.9 割の 12.79 倍に置いた。
確率:現金の需要は緩やかに減るが、人手不足の自動化と保守収入が支える中心の道。海外の利益率は 2026 年 3 月期の水準(9.8%)をほぼ保つ。
やや悲観 22% 海外の値引き競争で利益が戻らない 利益 119 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 2,038 円1,071 億円
海外で値引き競争が激しくなり、価格は物価に追いつかない(10 年で 1.28 倍)。市場の台数も 1 割近く細り、営業利益率は 7% まで戻る。顧客の大手小売は、複数の会社を競わせて値下げを迫る。国内は金融機関の店舗削減が進み、流通も回復せず、国内の利益はほとんど消える。営業利益は 250 億円、純利益は 120 億円ほどで、ROE は 5% を割る。海外ののれんは持ちこたえるが、減損の影がつきまとう。還元は利益に合わせて縮み、欧州の現金離れも重なり、会社の回復計画が絵に終わる 10 年になる。
- 海外市場:数量 13.2(海外で当社が取る売上(実質。億ドル。市場規模 × シェアの推定、今の値段で))× 価格 192(円換算の単価(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 2,544 億円・営業利益 178 億円。台数 8% 減・値引き、営業利益率 7%
- 流通・交通市場:数量 8.2(自動つり銭機など流通・交通向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 77(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 627 億円・営業利益 25 億円。台数 15% 減、利益率 4%
- 金融市場:数量 1.1(金融機関向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 317(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 356 億円・営業利益 29 億円。台数 25% 減、利益率 8%
- 遊技市場:数量 2.8(パチンコ店向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 54(1 台あたりの平均単価(万円))→ 売上 149 億円・営業利益 22 億円。台数 45% 減、利益率 15%
- その他:数量 1.4(その他事業の販売件数相当(万件。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 64(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 89 億円・営業利益 0 億円。利益は調整額に含める
倍率:ROE 4.9% が k 8% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.1 倍まで。稼ぐ力(純利益 ÷ k)が上限で、利益率の低い事業は先でさらに薄れるとみて、上限の 7.4 割の 9.0 倍に置いた。
確率:海外の利益率は 3 年前まで 3〜4% だった。値引き競争の再燃とキャッシュレスの進みで、2023 年 3 月期のような減損を伴う悲観も現実味がある。慎重な見方を強く見て、中立より少し低めに置いた。
悲観 14% キャッシュレス加速で海外が崩れ、減損が出る 利益 67 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,020 円536 億円
キャッシュレスが欧米の小売で加速して、当社が取る売上の台数が 25% 減り、海外は競合の値引きに巻き込まれる。価格は物価に追いつかず(1.22 倍)、海外の営業利益率は 5.5% と、2025 年 3 月期の 4% に近い水準まで沈む。国内は新紙幣の特需のあと、金融も流通も需要が細り続け、パチンコ店向けも店の閉鎖で台数が大きく減る。海外ののれんを減損し、自己資本が 400 億円減る。営業利益は 150 億円、純利益は 70 億円ほど。配当も大きく削る。保守の収入は残るが、機械の売上の落ち込みを補いきれない。もう優良とは呼べない会社に戻る 10 年だ。
- 海外市場:数量 10.8(海外で当社が取る売上(実質。億ドル。市場規模 × シェアの推定、今の値段で))× 価格 183(円換算の単価(150 円 × 物価の倍率))→ 売上 1,976 億円・営業利益 109 億円。台数 25% 減・値引き、営業利益率 5.5%
- 流通・交通市場:数量 6.7(自動つり銭機など流通・交通向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 73(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 492 億円・営業利益 15 億円。台数 3 割減、利益率 3%
- 金融市場:数量 0.9(金融機関向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 302(1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円))→ 売上 272 億円・営業利益 19 億円。台数 4 割減、利益率 7%
- 遊技市場:数量 2.0(パチンコ店向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 51(1 台あたりの平均単価(万円))→ 売上 103 億円・営業利益 12 億円。台数 6 割減、利益率 12%
- その他:数量 1.2(その他事業の販売件数相当(万件。売上 ÷ 平均単価の推定))× 価格 61(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 75 億円・営業利益 0 億円。利益は調整額に含める
倍率:ROE 2.8% が k 8% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.1 倍まで。事業が縮む筋書きで、稼ぐ力(純利益 ÷ k)はさらに小さい。自己資本にはのれんなど売れない資産が含まれ、床にならない。減損で自己資本を削り、上限の 6.6 割の 8.0 倍に置いた。
確率:現金の需要が欧米で急速に細り、海外の利益率が 2025 年 3 月期に近い水準まで沈んで減損も出る。海外が連結売上の 6 割を超える構造で、構造的な負けの筋書きは軽くできないので 14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
海外市場
欧米を中心に、小売・金融機関向けの現金入出金機、レジ裏の現金管理機、保守サービスを売る主力事業。
| 数量海外で当社が取る売上(実質。億ドル。市場規模 × シェアの推定、今の値段で) | 価格円換算の単価(150 円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.4 | 150 | 2,160 | 211 |
| 10 年後 中立 | 15.1 | 201 | 3,039 | 304 |
取り方:2026/03 期の海外売上 2,161 億円を 150 円で割ると約 14.4 億ドル。欧米の現金処理機・保守の市場を約 120 億ドル(ATM を除く。競合各社の売上を足した筆者の概算)、当社のシェアを約 12% と推定した。数量はこの「市場 × シェア」の実質の額、価格は 150 円に物価の倍率を掛けた円換算の単価で、10 年の中立は 150 円 × 1.34 倍。シェアの変化は数量の側に入れる。
流通・交通市場
国内のレジ向け自動つり銭機、交通・小売向けの現金処理機と、その保守。
| 数量自動つり銭機など流通・交通向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定) | 価格1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9.6 | 60 | 576 | 0 |
| 10 年後 中立 | 9.1 | 80 | 733 | 51 |
取り方:2026/03 期の売上 576 億円を、平均単価 60 万円(保守・部品の収入込みの推定)で割った約 9.6 万台相当。新紙幣の特需のあとで、セグメント利益はほぼ 0 まで落ちた。価格は物価並みを基本にする。
金融市場
銀行・信用金庫の窓口と店舗周りで使う入出金機・紙幣硬貨処理機とその保守。
| 数量金融機関向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定) | 価格1 台あたりの平均単価(保守収入込み、万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 247 | 371 | 39 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 331 | 423 | 42 |
取り方:2026/03 期の売上 371 億円を、平均単価約 247 万円(保守収入込みの推定)で割った約 1.5 万台相当。2024/03 期は新紙幣の特需で 784 億円まで膨らみ、2023/03 期の 362 億円とほぼ同じ水準に戻った。
遊技市場
パチンコ店向けの計数機・貸出機とその保守。利益率が最も高い。
| 数量パチンコ店向け機器の販売台数相当(万台。売上 ÷ 平均単価の推定) | 価格1 台あたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 42 | 211 | 51 |
| 10 年後 中立 | 3.5 | 57 | 198 | 38 |
取り方:2026/03 期の売上 211 億円を、平均単価約 42 万円(推定)で割った約 5 万台相当。ホールの数が減り続けるので台数は細る。価格は物価並みを基本にする。
その他
上の 4 つに入らない部品販売・ソフトなどの売上。
| 数量その他事業の販売件数相当(万件。売上 ÷ 平均単価の推定) | 価格1 件あたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 50 | 77 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 67 | 98 | 0 |
取り方:2026/03 期の売上 77 億円(連結売上と 4 つの報告セグメントの差)。利益は調整額に含めて 0 と置く。
リスクと懸念
海外の利益率が元に戻る
海外の営業利益率は 2024 年 3 月期に 3.5%、2025 年 3 月期に 4.0% だった。2026 年 3 月期の 9.8% は価格戦略の成果だが、欧米の競合が値引きで巻き返せば、この水準は保てない。海外は連結売上の 6 割を超えるので、利益全体が大きく揺れる。
キャッシュレスによる台数の減少
現金の利用が減れば、機械の台数と、それに付く保守の収入が細る。進み方がゆるやかなら保守が下支えするが、欧米の小売で加速すると、当社の稼ぎの土台そのものが小さくなる。長い時間をかけて効く構造のリスクだ。
のれんの減損
2012 年の英タラリス、2021 年の米レボリューション・リテール・システムズの買収で生じたのれんが残る。2023 年 3 月期にはすでに減損で最終赤字になった。海外の利益が崩れれば、再び大きな損失が出て、自己資本が削られる。
国内の新紙幣特需の反動
国内売上は 2024 年 3 月期の 1,872 億円から、2026 年 3 月期の 1,235 億円まで落ちた。次の紙幣切り替えは当分なく、金融機関の店舗は減る。国内の平常の水準が、特需前の 1,000 億円前後より下がる可能性もある。
遊技市場の縮小
パチンコ店の数は長く減っており、店舗向けの機器は台数が細る。利益率は 24% と高く、連結の利益への寄与は大きい。ホールの減少と、規制や機種の入れ替えの影響を受けやすく、需要が一気に落ちるおそれがある。
還元が利益を上回る
2026 年 3 月期の総還元性向は 126% で、自己資本は前の期から減った。会社は 2026 年度まで 100% 以上を掲げるが、利益が伸びないまま続ければ、自己資本比率の目標(50% 前後)を保てない。還元の削減は、株価に響く。
今後の分かれ目
- 海外の営業利益率が 10% 前後を 3 年続けて保てたら
- 価格戦略が定着したとみて、やや楽観・楽観の確率を上げる。値引き競争に巻き込まれていないかも見る。
- 海外の営業利益率が 6% を割り込んだら
- やや悲観・悲観に重みを移す。競合の値引きか、減損の前触れかを確かめる。
- 継続収益(保守・ソフト)の売上比率が 4 割を超えたら
- 利益の振れが小さくなったとして、倍率を上限に近づけてよい。景気や特需に左右されにくくなる。
- 欧米の小売で現金の利用が急に減る兆しが出たら
- 台数が減る筋書きの確率を上げる。海外の売上の伸びと、保守の契約の更新率を見る。
- 大型の海外買収を発表したら
- のれんと借入の増え方を確かめ、2023 年 3 月期の減損の再来がないかを疑う。買収より還元を優先する姿勢が崩れる合図でもある。
- 還元を縮める発表が出たら
- 自己資本比率の維持を優先したとみて、回復の確信度を一段下げる。利益が計画を下回っている可能性が高い。
見ておくもの
- 海外の営業利益率と、欧米の小売・金融機関向けの受注の動き
- 継続収益(保守・ソフト)の売上比率が 4 割に近づくか
- 国内の売上が特需前の水準(1,000 億円前後)で下げ止まるか
- 総還元性向と自己資本比率(50% 前後の目標)の推移
倍率と資本コストの決め方
売上は海外を「市場 × シェア」の実質の額、国内 3 つを台数 × 単価で置き、価格は物価並み(10 年で 1.34 倍)を基本にした。倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)(k 8%)で決め、今の PER 17 倍や過去の PBR は使っていない。中立の ROE が k をわずかに上回るため、PER は下限の 1÷k がほぼ上限になった。この結果、中立の PER は 12 倍台と、今の PER を下回る。最後に今の時価総額と比べた。決算は 2026 年 3 月期から IFRS なので、10 年の数字も IFRS の形(のれん償却なし)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.6→14.85 倍・やや楽観 PER 12.6→13.94 倍・中立 PER 12.2→12.79 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。海外の値引き競争・減損・キャッシュレスの進み方は筋書きと確率で表し、k には quality の寿命のほかは足さない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。