結論
岡本工作機械製作所は、平面研削盤で国内首位級の老舗であり、近年はウェーハを削る半導体関連装置を第二の柱に育てている。筆者の結論は、価値は今の値段の前後で、割安とも割高とも言い切れない、である。いちばんの理由は、利益の姿が事業の看板とずれていることだ。
2026年3月期の営業利益は15億円。半導体関連装置が27億円を稼ぎ、売上で3分の2を占める工作機械はほぼ利益が出なかった。本社費を引くと全体は薄い。2027年3月期の第1四半期は営業損失で、通期予想は据え置かれた。
中期経営計画は売上700億円、営業利益率16%、ROE17〜18%を掲げる。筆者は、売上はいずれ届くが、利益率は工作機械の薄さが足を引っ張ると見る。10年後の中立で営業利益率は9%台、ROEは8%ほどだ。
2024年に三井物産が議決権の30%を握り、半導体の販路と資金の裏づけができた。これは買収の可能性より、事業を広げる後ろ盾として効く、と筆者は見る。価値の中心は今の時価総額と同程度で、上振れは半導体の立ち上がり次第だ。
筆者が気にしているのは、利益の質と資金の使い方だ。棚卸資産は売上の4割を超え、設備投資は営業キャッシュフローを上回っている。半導体で稼ぎ、その利益を工作機械の在庫と人員が吸い込む形になっていないか。ここが改善しない限り、ROEが資本コストを超える姿は描きにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「持ち続けたい事業」とは言いにくい。理由は、事業の収益が一方に偏っているからだ。半導体関連装置は営業利益率が20%ほどあり、技術の堀も見える。だが工作機械は、売上の3分の2、従業員の9割を占めるのに、直近の利益はゼロに近い。
本質価値を考える鍵は、10年後に稼げるお金だ。半導体を伸ばしても、工作機械の薄い利益が全体の率を押し下げる。筆者は、10年後の中立の純利益を50億円ほどと見る。過去最高の46億円(2024年3月期)をわずかに超える水準だ。
資本の使い方では、増資で得た資金を設備に投じている最中で、まだ果実は見えない。設備投資が53億円と営業キャッシュフローの36億円を上回り、フリーキャッシュフローは赤字だ。経営が資本を上手に使う会社かは、今後の数年で判断できる。
安全域は、悲観の筋書きの下値で見る。棚卸資産が大きく、清算に近い値は自己資本426億円の3分の1ほどにとどまる。つまり、帳簿の自己資本は下値を保証しない。確率で重みづけした10年の期待リターンは年率8%ほどで、資本コストにわずかに届かない。特別に安い値段ではない。
要は、半導体の稼ぎが10年後にどれだけ大きく、かつ続くかだ。会社の目標は売上300億円だが、筆者は市場並みの伸びで見て、その9割弱の260億円ほどに置いた。ここに三井物産の販路が上乗せになるかが、値打ちを変える最大の変数である。
何で稼ぐ会社か
岡本の稼ぎ方は、砥石で金属やウェーハを削る機械を作って売ることだ。工作機械セグメントは、平面研削盤を中心とした研削盤と、歯車や鋳物などの精密部品を持つ。2026年3月期は売上が289億円で、顧客は自動車や金型、機械部品の加工を担う製造業だ。研削盤は国内の推計シェアが4割ほどあるとされる。
半導体関連装置は、ウェーハの薄化や平坦化に使う研削・研磨装置だ。売上は136億円と全体の3割ほどだが、営業利益は27億円で、全社の利益の大半を稼ぐ。ディスコ、東京精密と並ぶウェーハ薄化装置の主要メーカーの一つで、上位5社で市場の9割ほどを占める寡占的な市場だ。
2024年に、三井物産が約98億円を出資して議決権の30%を持つ筆頭株主になった。この資金で、さいたま市のショールーム・技術開発棟、群馬の自動倉庫棟、次世代機の開発を進めている。会社は半導体関連装置の売上を2030年3月期に300億円へ伸ばす計画だ。
一方、工作機械は人員が2,000人を超え、連結従業員の9割を占める。薄利の事業に人手がかかる構造は、利益率の足かせになっている。
海外は、タイ・シンガポール・中国・米国・欧州などに生産・販売の拠点を持つ。決算は下期に偏る季節性があり、四半期ごとの利益は大きく揺れる。精密部品・素材では、歯車の高付加価値品の拡販と、鋳物の外販を進めて収益の回復を狙っている。
優良さと弱いところ
岡本の強みは、砥粒加工、つまり砥石で精密に削る技術の厚みだ。世界初のCNC成形研削盤を作った歴史があり、研削盤とウェーハ研削の両方で、同じ砥粒加工の知見を使い回せる。半導体の薄化は、顧客が装置の精度と歩留まりを信頼して選ぶ世界なので、実績が堀になる。
弱みは三つある。第一に、工作機械の採算だ。直近の営業利益はほぼゼロで、2025年の水準からさらに落ちた。中国・台湾メーカーとの競争で値上げが通りにくい。第二に、半導体の強い競合だ。ディスコは薄化装置で圧倒的に強く、岡本の取り分はニッチにとどまりやすい。第三に、規模が小さく、売上は425億円と、大手の総合工作機械の数分の一だ。
資本効率は課題だ。ROEは直近で2.9%、過去10年の中央値は13.2%。自己資本は三井物産の増資で426億円に膨らんだが、利益は戻っていない。自己資本比率は63.5%で、財務は堅いが、棚卸資産が178億円と売上の4割を超え、資金がそこに寝ている。
経営の評価は保留する。中計は高い目標を掲げたが、2年目の今はまだ実績が伴わない。前の中計(営業利益60億円)を1年前倒しで達成した実績はあるので、信頼を完全に失ったわけではない。
研究開発費が小さいことも気にかかる。2026年3月期は1.4億円で、研究・開発・技術のスタッフは150人、従業員の7%に満たない。半導体で新機種を出し続ける会社としては、薄い。技術の厚みは過去の蓄積に頼っており、新素材や3次元実装の領域で差をつけられるかが問われる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
岡本の業界は二つに分かれる。研削盤の工作機械市場と、ウェーハ関連の半導体装置市場だ。
工作機械は、受注の波が大きい。日本工作機械工業会によれば、2026年上期の受注は前年同期比35.7%増の約1兆551億円で、外需が7割強を占める。ただし伸びの中心はAI向けの半導体・電子部品と自動化需要で、研削盤が主役ではない。岡本の工作機械の利益が出ていないことが、この波に乗れていない証拠でもある。長期では、中国の工作機械の自給率上昇が脅威で、汎用機では価格競争が避けられない。
半導体は、WFE(前工程の装置)市場が2026年に1,350億ドルほどに拡大する見通しだ。AIのチップレット化・3次元実装が進むと、ウェーハを薄く削る工程が増える。業種のノートでは、後工程・先端パッケージングの市場は名目で年8〜10%の伸びを見ている。ただしウェーハ薄化はディスコが圧倒的に強く、東京精密も追う。
循環の位置は、半導体は回復の入口、工作機械は底に近い。ただし四半期ごとの営業利益率は、1.7%、6.5%、−1.6%、6.0%、−4.4%と大きく揺れており、回復の足取りはまだ不安定だ。
工作機械は2019年と2023年に受注が踊り場を迎えた。景気が反転すれば受注は一気に3〜4割動くのが常で、岡本のような中堅は立ち上がりの利益の戻りも遅い。人手不足による自動化・無人加工の需要は構造的な追い風だが、それを取るのはロボット連携を作り込める大手の側になりやすい。
資本政策と M&A
株主還元の方針は、安定的な配当の継続だ。中計では配当性向45%以上を掲げる。2026年3月期の年間配当は、利益のほぼ9割にあたる水準だった。2027年3月期の予想も同額で、利益の回復を見込んだ姿だ。自社株買いはしておらず、上場株式の持ち合いもない。
最大の資本政策は、2024年の三井物産の出資だ。約98億円を新株の引き受けで出し、議決権の30%を持つ。岡本は三井物産の持分法適用会社になった。調達した資金は、技術開発棟とショールームに57億円、次世代機の開発に15億円、自動倉庫に16億円、子会社の設備更新に8億円と使途が決まっている。筆者は、これは半導体装置を育てる投資で、純現金の余りとは別物と見る。
三井物産が将来さらに持ち分を高めて買収する可能性は、30%という数字からは排除できない。ただし、いまの配当や事業計画は独立した経営を前提にしており、筆者は、10年のうちの可能性を重く見ない。
還元の置き方:10年の総還元は純利益の合計の5割ほどで置いた。配当性向45%以上の方針に沿った形で、利益が減る筋書きでも配当の下支えは強い。
財務には借入金の制限条項があり、有利子負債は111億円ある。純現金は31億円と薄く、設備投資が重い局面では余裕は大きくない。筆者は、配当を維持しながら成長投資も続ける姿を、利益が戻る前提でしか成り立たないものと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体関連装置は、すでに全社の利益の大半を稼ぐ稼ぎ頭だ。ウェーハの薄化は、AIチップの3次元実装で工程が増える。Si貫通電極ウェーハの全自動研削装置は2024年に開発に成功し、SiCなど新素材向けの研削機も開発中だ。2026年第1四半期の受注は前年同期を大きく上回っており、検収が遅れただけで需要は強い。
三井物産という総合商社が30%を持ち、海外販売網と顧客との橋渡しを担う。調達した98億円で技術開発棟も自動倉庫も整った。会社の計画どおり2030年に半導体の売上が300億円に届けば、その時の利益は現在の2倍を超える。
工作機械は、棚卸資産178億円が売上に変われば資金が出る。中計の価格見直しと設計標準化が効けば、利益率は一桁後半まで戻る。人手不足が自動化を促し、研削盤の需要も持ち直す。ROEは17%台の目標に近づき、今の時価総額313億円は、自己資本426億円を3割も下回る安さだ。
中立の筋書きで売上が730億円、営業利益が70億円としても、強気側にはまだ余裕がある。半導体が計画どおり伸び、工作機械の利益率が10%に戻れば、営業利益は100億円を超える。そこまで来れば10年後の価値は今の2倍近い。
慎重な見方
利益の大半を一つの装置に頼る構造は危うい。半導体関連装置のウェーハ薄化は、ディスコが事実上の寡占で、東京精密も追う。岡本は上位5社の末席にいるが、同じ市場で価格と技術の勝負を挑まれる。2025年3月期にも半導体関連装置の売上は大きく減っており、顧客の設備投資が止まれば、売上は簡単に落ちる。
工作機械は、2026年3月期の営業利益がわずか1億円。中国・台湾の安い研削盤との競争で、値上げが通りにくい。会社は2027年3月期に営業利益30億円を見込むが、第1四半期は3.7億円の赤字で、残り3四半期で34億円を稼ぐ必要がある。
設備投資は営業キャッシュフローを上回り、棚卸資産は売上の4割を超える。配当は利益の9割ちかくに達し、無理が見える。中計の営業利益率16%、ROE17%は、過去最高の12%台さえ超える目標で、実績のない約束だ。自己資本が厚くても、稼ぐ力が戻らなければ、価値は帳簿を下回る。
三井物産の出資も万能ではない。出資比率30%の持分法会社は、親の都合で技術や顧客の囲い込みを求められる側にもなる。調達した98億円は、技術開発棟など建物に消えており、利益に結びつくかは別の話だ。
どちらに重みを置いたか
強い方は慎重な見方だ。半導体の稼ぐ力は本物だが、工作機械の薄利と中計の高い目標を埋める根拠が、実績の側に足りない。確率は中立に3割強を置き、悲観側(やや悲観と悲観)を3割強に寄せた。ただし半導体の受注増と三井物産の後ろ盾は無視できず、強気側にも3割強を置く。
決め手は、工作機械の利益の戻りが実績で確認できていないことだ。半導体への期待は強気側の言い分どおり妥当だが、全社の利益を押し上げるには規模が小さい。確率の寄せは小さく、中立の3割強を中心に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,881 円587 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,659 円176 億円)。 今の値に割り戻すと 5,696 円377 億円、今との差 +28.3%、 期待の年率 +10.0%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 17,542 円1,160 億円 | 4,176 円276 億円 | +389.1% | +17.2% | 2,606 円172 億円 |
| やや楽観 | 22% | 13,341 円882 億円 | 3,540 円234 億円 | +280.2% | +14.3% | 3,714 円245 億円 |
| 中立 | 33% | 9,003 円595 億円 | 2,814 円186 億円 | +166.2% | +10.3% | 3,900 円258 億円 |
| やや悲観 | 21% | 2,932 円194 億円 | 1,755 円116 億円 | +5.6% | +0.5% | 984 円65 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,118 円140 億円 | 681 円45 億円 | −37.0% | −4.5% | 336 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,881 円587 億円 | 2,659 円176 億円 | +159.9% | +10.0% | 11,540 円763 億円 |
今の株価時価総額 4,440 円293 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 12% ウェハ研削・ポリッシャが三井物産の販路で伸び、半導体が会社の柱になる 利益 86 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 17,542 円1,160 億円
半導体関連装置が計画どおり立ち上がる。Si貫通電極ウェーハの全自動研削装置が3次元実装の量産ラインに入り、SiCなど新素材の研削機も加わる。三井物産の海外網が効いて、ウェハ研削・ポリッシャの据付台数が増える。
工作機械は、中計の価格見直しと設計標準化が実を結ぶ。人手不足で自動化需要が広がり、研削盤の需要が持ち直して、利益率も一桁後半まで戻る。
10年後の売上は900億円台、営業利益率は12%台と、過去12年の山に並ぶ。ここまで来れば、岡本は研削盤の会社ではなく、半導体装置の会社として評価されている。工作機械の固定費も売上増で薄まり、配当も増える。
- 工作機械(平面研削盤・精密部品):数量 391(当社の実質の取り分(国内外の研削盤・精密部品の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 547 億円・営業利益 49 億円。実質1.35倍(受注の持ち直し+自動化)、価格指数140
- 半導体関連装置(ウェーハ研削・研磨装置):数量 286(当社の実質の取り分(ウェーハ薄化・研磨装置の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 400 億円・営業利益 88 億円。実質2.1倍(目標の2030年300億円を超えて伸びる)、価格指数140
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.42 倍、時価総額 1,160 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の新機種が顧客に採用され続け、工作機械の採算も戻るという二つが10年重なる必要がある。会社の目標(2030年に半導体300億円)はすでに強気で、実現は簡単でない。
やや楽観 22% 半導体は計画に届かないが着実に伸び、工作機械は黒字を守る 利益 70 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 13,341 円882 億円
半導体は会社の目標には届かないが、市場並み以上に伸びる。2030年に300億円という会社の目標には、売上で2割ほど足りない姿だ。ウェハ研削・ポリッシャはAIサーバー向けの先端パッケージングと、パワー半導体向けの新素材で安定した受注を得る。
工作機械は、中計の構造改革で赤字体質を脱する。国内の研削盤で4割ほどあるシェアを守り、値上げも通る。棚卸資産を圧縮し、資金の効率も少し上がる。ただし利益率は一桁にとどまる。
10年後の売上は830億円ほど、営業利益率は11%台。配当性向45%以上の方針は守られ、ROEは10%台に乗る。三井物産の販路は効くが、爆発的な立ち上がりにはならない。
- 工作機械(平面研削盤・精密部品):数量 370(当社の実質の取り分(国内外の研削盤・精密部品の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 507 億円・営業利益 41 億円。実質1.28倍、価格指数137
- 半導体関連装置(ウェーハ研削・研磨装置):数量 238(当社の実質の取り分(ウェーハ薄化・研磨装置の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 326 億円・営業利益 72 億円。実質1.75倍、価格指数137
倍率:事業の純利益 70 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.67 倍、時価総額 882 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の受注は足元で前年同期を大きく上回るが、検収の遅れも出ている。会社の計画の7割ほどに届く姿を、強気側の中心に置く。
中立 33% 中立:半導体は市場並みに伸び、工作機械は薄利のまま回復する 利益 51 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 9,003 円595 億円
半導体関連装置は、市場の伸びとほぼ同じ速さで増える。ウェハの薄化やSiCの需要は続くが、ディスコや東京精密のような強い競合がいる。岡本は専用機のニッチを守るのが精いっぱいで、シェアを大きく広げる姿は描きにくい。
工作機械は、受注が落ち込んだ今の水準から戻る。ただし利益率は7%どまりだ。中国・台湾メーカーとの価格競争が続き、値上げの一部しか通らない。
10年後の売上は730億円、営業利益率は9%台。中計の目標(売上700億円・営業利益率16%)のうち、売上には届くが、利益率は届かない。ROEは8%ほどで、資本コストにあと一歩届かない。三井物産の支援はあるが、利益率を押し上げるほどの効果までは見込まない。
- 工作機械(平面研削盤・精密部品):数量 347(当社の実質の取り分(国内外の研削盤・精密部品の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 466 億円・営業利益 33 億円。実質1.2倍(FY24の水準に戻る)、価格指数134(物価並み)
- 半導体関連装置(ウェーハ研削・研磨装置):数量 197(当社の実質の取り分(ウェーハ薄化・研磨装置の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 264 億円・営業利益 56 億円。実質1.45倍(市場並み)、価格指数134
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 595 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの半導体装置の見通し(名目年5〜7%)と、研削盤の数量が持ち直す想定を中心に置いた。足元の1Q赤字と通期予想の据え置きは、緩やかな回復の起点にとどまる。
やや悲観 21% 半導体で競合に押され、工作機械も薄利が続く 利益 23 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,932 円194 億円
半導体では、強い競合がウェハ研削・薄化の領域を固め、AIチップ向けの新しい需要も上位の会社に集まり、岡本の取り分は伸びない。ポリッシャは顧客の投資の波に左右され、利益率は17%台に下がる。新機種の投入も遅れ、三井物産の販路を使っても受注は思うように積み上がらない。
工作機械は、中国・台湾の安い研削盤との競争で値上げが通らず、価格は物価を下回る。工場の固定費が重く、売上が回復しても利益率は4%どまりだ。
10年後の売上は560億円ほどだが、営業利益は30億円に届かない。配当は減らせず、利益の6割を払うため、自己資本は積み上がっても稼ぐ力は上がらない。
- 工作機械(平面研削盤・精密部品):数量 290(当社の実質の取り分(国内外の研削盤・精密部品の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 362 億円・営業利益 15 億円。実質横ばい、価格指数125(競争で物価を下回る)
- 半導体関連装置(ウェーハ研削・研磨装置):数量 156(当社の実質の取り分(ウェーハ薄化・研磨装置の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 196 億円・営業利益 33 億円。実質1.15倍、価格指数125
倍率:ROE 4.5% が k 8.5% を大きく下回り、ためた利益は額面未満の価値。稼ぐ力(純利益 ÷ k = 11.4 倍が上限)に近づけず、構造的に伸びない筋書きとして 8.5 倍に置いた。
確率:半導体はディスコなど上位が強く、専用機の差別化が薄れると収益は崩れやすい。工作機械は直近でも利益がほぼ出ておらず、この姿は十分にありうる。
悲観 12% 半導体の地位を失い、工作機械は赤字が続く 利益 −9 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 2,118 円140 億円
半導体では、ウェハ研削の主要顧客が他社の装置に切り替え、岡本は存在感を失う。新素材向けの開発投資は回収できず、利益率は5%まで落ちる。研究開発費が小さい会社には、取り返す力が残らない。
工作機械は、中国・台湾勢の攻勢で価格が崩れ、国内の研削盤でもシェアを減らす。販売後の部品・保守で食いつなぐが、工場の固定費をまかなえず赤字になる。
10年の累計でも利益はほとんど残らず、配当は大きく減らされる。技術開発棟など新しい設備の一部は減損になる。三井物産が出資を続けるかも不透明で、会社は縮小均衡の道を探ることになる。会社の価値は、稼ぐ力ではなく、持っている資産の売却価値で測るしかない。
- 工作機械(平面研削盤・精密部品):数量 246(当社の実質の取り分(国内外の研削盤・精密部品の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 112(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 276 億円・営業利益 −6 億円。実質0.85倍、価格指数112(値崩れ)
- 半導体関連装置(ウェーハ研削・研磨装置):数量 129(当社の実質の取り分(ウェーハ薄化・研磨装置の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 112(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 145 億円・営業利益 7 億円。実質0.95倍、価格指数112
倍率:半導体の地位を失い、工作機械も赤字で、稼ぐ力はほぼ消える。純現金は運転資金と配当に食われるため、売れる資産の税後を床にした(約 140 億円)。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:半導体の専用機が競合や中国勢に置き換わり、工作機械の赤字も続く、という二重の負けが必要。過去にも赤字期(2009〜11年、2014年)があり、起こりうる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
工作機械(平面研削盤・精密部品)
平面研削盤・成形研削盤などの研削盤と、歯車・鋳物などの精密部品を作り、保守・サービスを含めて売る事業。連結従業員の9割を占める。
| 数量当社の実質の取り分(国内外の研削盤・精密部品の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 290 | 100 | 290 | 1 |
| 10 年後 中立 | 347 | 134 | 466 | 33 |
取り方:有価証券報告書の工作機械セグメント(売上289億円・利益1億円)をそのまま置いた。国内の研削盤で推計シェア約4割。市場規模は開示が無いので、売上をシェアで割った推定として置く。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01で億円に換算する。数量は実質で、物価は価格の側に入れた。
半導体関連装置(ウェーハ研削・研磨装置)
シリコンウェーハやSiCなどを薄く平らに削る研削・研磨装置。Si貫通電極ウェーハの全自動研削装置など、3次元実装向けも開発している。
| 数量当社の実質の取り分(ウェーハ薄化・研磨装置の市場規模 × シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 136 | 100 | 136 | 27 |
| 10 年後 中立 | 197 | 134 | 264 | 56 |
取り方:有価証券報告書の半導体関連装置セグメント(売上136億円・利益27億円、前期比で売上5.4%増・利益8.6%減)を置いた。ウェーハ薄化装置は上位5社で市場の約9割を占める寡占で、当社はその一角。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01で億円に換算する。数量は実質、業種ノートの名目の市場の伸びを物価で割って考えた。
リスクと懸念
利益の半導体への偏り
2026年3月期の営業利益15億円のうち、半導体関連装置が27億円を稼ぎ、工作機械はほぼゼロ、本社費で13億円の引きがある。半導体の受注が止まれば全社の利益が一気に落ちる。顧客の設備投資の波に左右されるうえ、2025年3月期にも売上が大きく減った実績がある。
工作機械の採算
売上の3分の2を占める工作機械が、直近では営業利益1億円にとどまった。中国・台湾の安い研削盤との競争で値上げが通りにくく、2,000人を超える人員の固定費が重い。中計の価格見直しと設計標準化が効かなければ、赤字も視野に入る。
強い競合の存在
ウェーハ薄化装置では、ディスコが事実上の寡占を築き、東京精密も追う。新機種や新素材で差別化できなければ、岡本の取り分は伸びない。ディスコは岡本の数十倍の規模で、研究開発や価格の勝負では不利になりうる。価格競争になれば、規模の小さい岡本は耐えにくい。
投資の回収と資金繰り
2026年3月期の設備投資は53億円で、営業キャッシュフロー36億円を上回った。技術開発棟・ショールーム・自動倉庫の投資が収益につながらなければ、減価償却の重荷だけが残る。有利子負債111億円のうち短期借入が71億円あり、借り換えの金利上昇も利益を削る。新リース会計基準(2028年3月期から)で純負債の見かけが増える点にも注意が要る。
棚卸資産の評価
棚卸資産は178億円と売上の4割を超える。受注が落ちる局面では在庫の評価損が出やすく、現金化もすぐにはできない。自己資本が厚く見えても、清算に近い値はこれより小さい。売上債権72億円も合わせると、運転資金の重さが資本効率を押し下げている。
中計の実現性
中計は営業利益率16%、ROE17〜18%を掲げるが、過去12年の営業利益率の最高は12%台だ。目標の年度は資料で2028年3月期と2030年3月期が混在する。目標を達成できない場合、配当性向45%以上の方針の維持も難しくなる。計画が未達でも、配当性向45%以上の方針は守ろうとするはずで、それが資金を圧迫する。
筆頭株主の三井物産
議決権の30%を持つ三井物産の意向が、将来の経営方針や資本政策に影響しうる。持ち分を高める動きがあれば、少数株主には買収の上積みという機会になるが、経営の自由度が下がる面もある。ここは筆者の想定であり、現時点で具体的な開示はない。
今後の分かれ目
- 半導体関連装置の売上が2028年3月期までに200億円を超える
- 計画の2030年300億円が現実味を帯び、全社の営業利益率が10%を超える。強気側の確率を引き上げる材料になる。
- 工作機械の営業利益率が3年続けて5%を超える
- 薄利の構造が変わった証拠になり、中立のROEが資本コストに届く可能性が出る。
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の30億円に届かない
- 中計の目標が遠のき、今の配当水準も維持しにくくなる。やや悲観側の確率を上げる。
- 三井物産が持ち分を高める、またはTOBを提案する
- 少数株主にはプレミアムの機会になる。ただし経営の独立性が下がり、半導体の技術の囲い込みが進む。
- ディスコ・東京精密が3次元実装向けの薄化装置で岡本の顧客を取る
- 半導体の取り分が縮み、利益の柱が崩れる。悲観側の筋書きに近づく。
- 中国の研削盤メーカーが国内市場で価格を下げて攻勢をかける
- 工作機械の利益率が下がり、赤字が常態化する。固定費の削減と人員の見直しが必要になる。
見ておくもの
- 半導体関連装置の受注高・売上(四半期)と検収のずれ
- 工作機械の営業利益率(四半期。2027年3月期の通期予想30億円への進捗)
- 棚卸資産と設備投資の推移(フリーキャッシュフローの黒字化)
- 三井物産の持ち分の変化と、共同開発・販路の成果
- 日本工作機械工業会の月次受注(外需・研削盤)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PBR 0.73倍)を見ずに、その時点のROEと資本コスト8.5%から正当化PERを出し、上位の筋書きは上限の8.5割、中立はROEがk未満なので式の8割に置いた。やや悲観は稼ぐ力、悲観は売れる資産の税後(約140億円)で床を置いた。数量は実質、価格は物価1.34倍が基本で、競争のある筋書きだけ下げた。リースの新会計基準は、10年後の数字を今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)にそろえた。純現金31億円は時価総額の9.8%で基準に届かず、前受金でなく棚卸資産と借入の運転資金が実体のため分けていない。過去や同業の倍率は使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.9→13.42 倍・やや楽観 PER 10.3→12.67 倍・中立 PER 9.94→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.25% = 8.75%。中計の実行の不確かさは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.50%。