結論
ダイジェット工業は大阪の超硬工具メーカーだ。超硬合金、つまりタングステンの粉を焼き固めた硬い材料で、自動車部品や金型を削る刃物と、すり減りにくい金型用の素材を作る。筆者の結論は割高だ。今の値段は自己資本の6割ほどで安く見えるが、その自己資本が資本コストの半分ほどしか稼いでいないからである。
足元の業績は派手だ。中国の輸出管理でタングステンの値段が跳ね上がり、値上げと手持ちの原料の値上がりで、2027年3月期は過去にない利益が見込まれる。ただ、これは原料の相場がくれた一時の利益で、事業の実力が変わったわけではない。
10年で見れば、国内の自動車向けの加工は電気自動車への移行で細る。サンドビックや三菱マテリアル、住友電気工業、京セラといった大手の中で、小さい専業が値段を決める力は弱い。営業利益率は過去12年の中ほどの5%前後に戻るとみる。そうなると、ためた利益は株主の価値をほとんど増やさない。帳簿の値段より安いことは、それだけでは安全域にならない。安く見える理由が、稼ぎの低さにあるからだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、帳簿の値段より安い株は、それだけでは掘り出し物にならない。大事なのは、その帳簿が何を稼ぐかだ。ダイジェット工業の自己資本は、資本コストの半分ほどしか稼いでこなかった。
オーナー利益、つまり設備の更新を済ませたあとに株主に残る利益は、ならせば年に数億円だ。原料の相場がくれる今の追い風はありがたいが、相場は逆にも吹く。原料高で在庫の値段が上がった分は、相場が下がれば評価損として戻ってくる。
堀、つまり他社がまねできない強みは、材料の技術という細い一本だ。タングステンを減らした合金は時代に合っているが、大手も同じ研究を進めている。
経営の資本の使い方にも物足りなさが残る。借金を抱えたまま配当は振れ、防衛策で外からの規律も弱めている。払う値段が帳簿の6割でも、稼ぐ力から測った価値はそれより下にある。安全域は見えない。原料の追い風が止んだあとの稼ぎで、改めて測り直したい。
何で稼ぐ会社か
売り物は二つに分かれる。一つは切削工具で、売上の6割強を占めるとみられる。刃先を交換できるチップや、エンドミルと呼ぶ回転する刃物を、販売店を通じて自動車部品や金型の工場に売る。刃物はすり減って使い捨てられるので、工場が動く限り注文は繰り返し来る。
もう一つは耐摩耗工具と超硬素材だ。プレスの金型やロール、鉱山や土木の掘削に使う部品を、超硬合金の塊や加工品として売る。重さあたりで値が付き、原料のタングステンの値段がそのまま原価に響く。
強みは材料を自分で作れることだ。炭窒化チタン系の材料を自社で開発し、タングステンを減らした合金を持つ。2026年6月には金型素材の冨士ダイスと、タングステンとコバルトの使用を減らした合金の販路を広げる業務提携を結んだ。原料の調達が細る時代に、この技術は売り物になる。
需要の芯は自動車だ。エンジンや変速機、車体の金型を削る仕事が多く、自動車の生産と設備投資の波がそのまま売上を揺らす。海外はアジアに販売網を持つが、規模はまだ小さい。
稼ぎの形を一言で言えば、原料を買って焼き固め、削って売る商売だ。原料の値段が上がれば売値を上げ、下がれば下げる。その時間差と、加工の手間にどれだけ値段を付けられるかが利益を決める。
優良さと弱いところ
技術はあるが、値決め力は弱い。これが筆者の見立てだ。超硬工具の世界はサンドビックやイスカル、国内の三菱マテリアルや住友電気工業、京セラ、オーエスジーが大きな顔をする。ダイジェットの売上は100億円規模で、品ぞろえも販促の厚さも大手に及ばない。
利益の記録がそれを物語る。営業利益率は良い年で7〜9%、悪い年は赤字で、2010年3月期と2021年3月期には大きく落ち込んだ。自己資本の稼ぎは過去10年の中ほどで3%台と、資本コストのおよそ半分にとどまる。
救いは材料の技術と、刃物が消耗品であることだ。顧客は一度決めた刃物を簡単には替えないので、注文は細く長く続く。ただ借金が純額で27億円あり、金利が上がれば利払いが重くなる。財務に余裕が乏しいぶん、谷の年の打撃は大きい。原料高の今は追い風でも、相場が逆に動いた時に耐える厚みは大手ほど無い。強みと弱みの両方が、原料の相場に結びついている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
前提は、受注の波が大きい資本財の業界だ。工作機械の受注額は名目で年3〜5%伸び、数量にすると年0〜2%の伸びにとどまる。刃物は工場の稼働に合わせて減って買い直されるので、機械本体より波は小さいが、それでも景気の谷では2〜3割落ちる。
いま業界を揺らしているのは原料だ。中国が輸出管理を強め、タングステンの原料の値段は2025年度の平均から3倍以上に跳ねた。各社は値上げを急ぎ、手持ちの原料の値上がりで一時的に利益がふくらんでいる。同業の冨士ダイスや日進工具は、値上げ前の駆け込みの反動で数量が減るとみている。相場が落ち着けば、この利益は消える。
長い目で見ると、自動車の電気自動車への移行が効く。エンジンや変速機の部品は減り、削る仕事が減る。代わりに電池やモーター、半導体の製造装置の部品を削る仕事が増えるが、材料も形も違い、取りにいく競争は激しい。中国の工具メーカーは汎用品で値段を下げ続けており、日本の小さい専業は難しい材料や形のニッチに追い込まれていく。業界の再編は、大手が技術を持つ中小を取り込む形で静かに進むとみる。小さい専業が生き残る道は、大手がやりたがらない難しい形と材料に絞ることだ。
資本政策と M&A
配当は利益に合わせて動かす方針で、2026年3月期は大きく増やした。ただ2027年3月期の予想は再び減らしており、安定した還元の約束はない。自社株買いの実績は乏しく、利益は借金の返済と設備に回ってきた。
買収防衛策を持ち続けている点は見逃せない。2026年5月に継続を決め、6月の株主総会で承認を得た。会社は大規模な買付けの提案は受けていないと説明している。時価総額が60億円規模で自己資本を大きく下回るので、同業の大手や投資ファンドが関心を持つ余地はある。防衛策はその道を狭め、少数株主が帳簿の値段に近づく機会を減らす。純負債を抱えるので、事業に要らない現金として分ける額はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の値段は、自己資本の6割ほどにすぎない。タングステンの供給不安は一時の話でなく、中国が戦略物資として管理を強める流れは10年続く。そうなれば、タングステンを減らした合金を自分で作れる会社の値打ちは上がる。ダイジェットは炭窒化チタン系の材料を長く磨き、2026年6月には冨士ダイスと販路を広げる提携も結んだ。
値決めの力も変わりつつある。2027年3月期の第1四半期は営業利益率が18%に跳ね、通期の予想を大きく引き上げた。原料高を値上げで先に通せることを、会社は自分で示した。相場が落ち着いても、通した値段の一部は残る。
刃物は消耗品で、工場が動く限り注文は来る。電気自動車への移行で減る仕事もあるが、電池やモーター、半導体装置の部品を削る仕事は増える。金型用の超硬素材は、半導体の封止やプレスの需要とともに伸びる。営業利益率が過去の最良期の9%に戻れば、今の値段はかなり安い。借金も利益で返していけば、自己資本の稼ぎは資本コストに近づく。帳簿の6割という値段は、その道筋をまったく映していない。
慎重な見方
今の利益の跳ねは、原料の相場がくれた一時の贈り物だ。手持ちの原料の値上がりと値上げ前の駆け込みが重なっただけで、同業は反動で数量が減ると言っている。相場が下がれば在庫の評価損が出て、利益は逆に振れる。
事業の芯は細っていく。需要の中心は国内の自動車部品の加工で、電気自動車への移行でエンジンや変速機を削る仕事は確実に減る。新しい仕事は大手も狙っており、品ぞろえと提案の厚さで小さい専業は不利だ。汎用の刃物では中国勢が値下げを続ける。
記録も厳しい。2010年3月期と2021年3月期に大きな赤字を出し、自己資本の稼ぎは過去10年の中ほどで3%台だ。借金は純額で27億円あり、借り換えのたびに利払いが重くなる。買収防衛策を持ち続ける経営は、少数株主が帳簿の値段に近づく道も狭めている。自己資本の6割という値段は安く見えるが、稼ぐ力から測れば妥当か、まだ高い。材料の技術は大手も持っており、小さい会社の決め手にはなりにくい。原料の追い風が止めば、残るのは細い本業だけだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。材料の技術と原料高の追い風は本物だが、自己資本の稼ぎが資本コストの半分という長い記録を覆すほどの材料ではない。中心は利益率が過去の中ほどに戻る筋書きで、省タングステンの合金が育つ上振れには1割を残した。赤字の歴史と借金を見て、悲観側にも厚めの重みを置いた。帳簿より安い値段そのものは、どの筋書きの確率も動かさない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,292 円68 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 623 円19 億円)。 今の値に割り戻すと 1,428 円42 億円、今との差 −24.8%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,590 円136 億円 | 976 円29 億円 | +193.1% | +11.4% | 557 円17 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,179 円94 億円 | 808 円24 億円 | +109.9% | +7.7% | 877 円26 億円 |
| 中立 | 38% | 2,317 円69 億円 | 639 円19 億円 | +55.7% | +4.5% | 1,123 円33 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,025 円30 億円 | 437 円13 億円 | −23.0% | −2.6% | 293 円9 億円 |
| 悲観 | 10% | 478 円14 億円 | 168 円5 億円 | −66.0% | −10.2% | 65 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,292 円68 億円 | 623 円19 億円 | +53.5% | +4.4% | 2,914 円87 億円 |
今の株価時価総額 1,899 円56 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 省タングステンの合金で存在感を増す 利益 12 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,590 円136 億円
中国の輸出管理でタングステンの値段は高止まりし、使用量を減らした合金への関心が一気に高まる。ダイジェットは自社開発の炭窒化チタン系の材料と、冨士ダイスとの提携で金型用の素材を伸ばす。
アジアの自動車部品と半導体向けの金型の需要も取り込み、数量は10年で1割半増える。値段は原料高を早めに転嫁でき、物価を上回って上がる。営業利益率は2006年3月期の最良期に並ぶ9%に届く。それでも自己資本が厚く、自己資本の稼ぎは資本コストにわずかに届かない。工具の専業として、ようやく安定して稼げる会社になる。大手が材料の技術を求めて提携や買収を持ちかけ、ブランドより技術に値段が付く場面も出てくる。
- 切削工具:数量 6.7(販売本数・個数(百万個・年、推定))× 価格 1,420(1 個あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 95 億円・営業利益 9 億円。数量 1.15 倍 × 単価 1.42 倍、利益率 9%
- 耐摩耗工具・超硬素材:数量 268(超硬素材・工具の出荷量(トン・年、推定))× 価格 2.13(1 トンあたりの出荷単価(百万円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 5 億円。数量 1.15 倍 × 単価 1.42 倍、利益率 9%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 136 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:タングステンの供給不安は長く続く見込みで、使用量を減らした合金の需要は本物になりうる。ただ大手も同じ方向に動くので、小さい会社が抜け出す確率は高くない。
やや楽観 22% 値上げが定着し利益率が中ほどに上がる 利益 8 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,179 円94 億円
タングステンの値段は今の山からは下がるが、元の水準には戻らない。ダイジェットは原料高の局面で通した値上げの一部を保ち、単価は物価をやや上回って上がる。
数量は国内の自動車向けが細るぶんをアジアと金型向けで埋め、10年で5%ほど増える。営業利益率は7%前後と、過去の良い年の水準を保つ。借金は利益で少しずつ返し、利払いの重さも和らぐ。自己資本の稼ぎは5%台で資本コストには届かないが、配当を厚くできる程度の利益は出る。原料高の時に値上げを通した経験が、相場の上がり下がりに強い会社をつくる。それでも、帳簿の値段に届く稼ぎには遠い。借金は少しずつ減り、谷の年への備えは厚くなる。
- 切削工具:数量 6.1(販売本数・個数(百万個・年、推定))× 価格 1,380(1 個あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 84 億円・営業利益 6 億円。数量 1.05 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 7%
- 耐摩耗工具・超硬素材:数量 245(超硬素材・工具の出荷量(トン・年、推定))× 価格 2.07(1 トンあたりの出荷単価(百万円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 4 億円。数量 1.05 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 7%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 94 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2027年3月期の上方修正が示すとおり、原料高の局面で値上げを通す力は以前より強い。その一部が残る筋書きに、中立に次ぐ重みを置いた。
中立 38% 工具の専業として細く長く 利益 5 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,317 円69 億円
今のタングステン高による利益の跳ねは2〜3年で消え、値段は物価並みの上昇に落ち着く。国内の自動車向けは電気自動車への移行でエンジンや変速機の加工が減り、アジアと金型向けで埋めきれず、数量は10年で5%減る。
営業利益率は5%前後と、過去12年の中ほどに戻る。借金の借り換えで利払いが増え、純利益は営業利益の8割半ほどになる。自己資本の稼ぎは3%台半ばで、資本コストの半分に届かない。配当は利益の3割ほどを保ち、会社は細く長く続くが、ためた利益が株主の価値を増やすことはない。タングステンを減らした合金は売上の一部に育つが、会社全体の稼ぎを変える規模にはならない。
- 切削工具:数量 5.5(販売本数・個数(百万個・年、推定))× 価格 1,340(1 個あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 4 億円。数量 0.95 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 5%
- 耐摩耗工具・超硬素材:数量 221(超硬素材・工具の出荷量(トン・年、推定))× 価格 2.01(1 トンあたりの出荷単価(百万円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 2 億円。数量 0.95 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.8% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 59 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去12年の営業利益率の中ほどに戻り、国内の自動車向けの縮みをアジアで半分ほど埋めるのが最もありそうな道筋とみた。ROE は過去の中央値と同じ水準になる。
やや悲観 20% 大手と中国勢に挟まれる 利益 2 億円 · PER 6.9 倍 · 株価時価総額 1,025 円30 億円
電気自動車への移行が進み、国内の自動車部品の加工が大きく減る。汎用の刃物では中国の工具メーカーが値下げで攻め、大手は品ぞろえと提案の厚さで顧客を囲う。ダイジェットの数量は10年で1割強減る。
原料高の転嫁は遅れ、値段は物価を少し下回って上がる。営業利益率は3%前後に下がり、借り換えの利払いが利益をさらに削る。配当は減り、工場の更新も先送りが増える。会社は残るが、稼ぐ力は資本コストを大きく下回り、価値は正味の資産の一部でしか測れなくなる。省タングステンの合金も大手に先を越され、技術の強みは薄れていく。買収の声も、利益の細さを見て遠のく。借金の返済が細り、谷の年への備えも薄くなる。
- 切削工具:数量 5.1(販売本数・個数(百万個・年、推定))× 価格 1,300(1 個あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 2 億円。数量 0.88 倍 × 単価 1.30 倍、利益率 3%
- 耐摩耗工具・超硬素材:数量 205(超硬素材・工具の出荷量(トン・年、推定))× 価格 1.95(1 トンあたりの出荷単価(百万円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 1 億円。数量 0.88 倍 × 単価 1.30 倍、利益率 3%
倍率:ROE 1.8% が k 8.5% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値しか生まず、PER の上限は 1÷k=11.4 倍。6.9 倍(上限の 60%)に置いた。ROE÷k が 0.21 なので、ためた利益の目減りに合わせて 1÷k に max(0.6, ROE÷k) を掛けた。
確率:国内の自動車部品の加工は確実に細り、汎用の刃物では中国勢の値下げが続く。赤字の年を何度も経験した会社なので、厚めの確率を置いた。
悲観 10% 汎用品で値下げに負け、赤字すれすれ 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 478 円14 億円
国内の自動車向けの需要が4分の1減り、汎用の刃物は中国勢の値下げで単価が物価に追いつかない。タングステンの値段も乱高下し、在庫の評価損が繰り返し出る。
営業利益率は1%前後に沈み、借り換えの利払いでほとんど利益が残らない。配当は細り、工場の更新は先送りが続く。価値は事業の稼ぎでなく、在庫と売掛金、工場の土地から借金を引いた正味の資産のうち、少数株主が実際に受け取れる見込みの分でしか測れない。会社は倒れないが、株主にとっては長く報われない10年になる。買収防衛策が残る限り、外から値段を付け直す買い手も現れにくい。材料の技術は社内に残るが、それを稼ぎに変える力は失われる。
- 切削工具:数量 4.4(販売本数・個数(百万個・年、推定))× 価格 1,250(1 個あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 1 億円。数量 0.75 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 1%
- 耐摩耗工具・超硬素材:数量 175(超硬素材・工具の出荷量(トン・年、推定))× 価格 1.88(1 トンあたりの出荷単価(百万円・名目))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。数量 0.75 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 1%
倍率:悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)が小さいので、今の自己資本 95 億円に床の PBR 0.15 を掛けた。中身は floor_assets_why の正味の運転資産と土地の税後。営業利益がほぼ無いので EV÷営業利益は 47 倍と高く出るが、値は利益でなく資産の床で付けている。
確率:2010年3月期と2021年3月期の赤字の深さを見ると、需要の谷と値下げが重なれば利益はすぐ消える。借金があるぶん、悲観は 1 割置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
切削工具
自動車部品や金型を削る刃先交換チップ・エンドミル・ドリル。販売店経由で工場に売る。
| 数量販売本数・個数(百万個・年、推定) | 価格1 個あたりの平均出荷単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.8 | 1,000 | 58 | 4 |
| 10 年後 中立 | 5.5 | 1,340 | 74 | 4 |
取り方:品目別の売上は非開示。全社 92.9 億円の約 6 割強を切削工具とみて 58 億円、刃先交換チップとソリッド工具をならした平均単価を 1 個 1,000 とし、年 580 万個と推定した。利益は全社の利益率 7% を按分。
耐摩耗工具・超硬素材
金型・ロール用の超硬素材、鉱山・土木用の工具。重さあたりで値が付く。
| 数量超硬素材・工具の出荷量(トン・年、推定) | 価格1 トンあたりの出荷単価(百万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 233 | 1.50 | 35 | 2 |
| 10 年後 中立 | 221 | 2.01 | 44 | 2 |
取り方:全社売上から切削工具を引いた約 35 億円を、加工込みの単価 1 トン 1,500 万(百万円で 1.5)とし、年 233 トンと推定した。
リスクと懸念
タングステンの相場の反転
今の利益は原料高の値上げと手持ちの在庫の値上がりで押し上げられている。相場が下がれば値下げを迫られ、高く買った在庫の評価損も出る。上がる時と下がる時の両方で、利益が大きく揺れる。
電気自動車への移行
需要の中心は自動車のエンジン・変速機の部品と車体の金型の加工だ。電気自動車では削る部品が減る。新しい部品の加工は大手も狙っており、小さい専業が埋め合わせられるとは限らない。
大手と中国勢の挟み撃ち
サンドビックや三菱マテリアル、住友電気工業、京セラは品ぞろえと提案の厚さで顧客を囲い、中国の工具メーカーは汎用品で値段を下げ続ける。ダイジェットは両側から値段を押される。
借金と金利
純有利子負債は約27億円で、自己資本の3割弱に当たる。借り換えのたびに金利が上がれば、営業利益の1割以上が利払いに消えうる。谷の年には返済の余力も細る。
買収防衛策と少数株主
買収防衛策を継続しており、外部からの規律が働きにくい。自己資本を大きく下回る値段が続いても、再編や買収で少数株主が報われる道が狭い。
今後の分かれ目
- タングステンの相場が落ち着いたあとも営業利益率7%以上が2年続いたら
- 値上げが定着したとみて、やや楽観の確率を上げる。
- タングステンを減らした合金の売上が全社の1割を超えたら
- 材料の技術が稼ぎに変わったとみて、楽観の筋書きに重みを移す。
- 相場の下落で在庫の評価損が出て赤字になったら
- 利益の振れが構造的とみて、やや悲観に寄せる。
- 国内の自動車向けの売上が前年割れを続けたら
- 電気自動車への移行の打撃が想定より早いとみて、悲観側の確率を上げる。
- 買収防衛策を廃止し、自社株買いを始めたら
- 資本の使い方が変わったとみて、余った利益の戻り方と確率を見直す。
見ておくもの
- タングステンの原料の相場と値上げの浸透
- 営業利益率と在庫の評価損の有無
- 自動車向けと半導体・金型向けの売上の比率
- 純有利子負債と利払いの推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段から置かず、資本コスト8.5%と10年後の自己資本の稼ぎだけで決めた。中立のROEは3%台半ばで資本コストの半分に届かないので、PERの上限は1÷kで、ためた利益の目減りに合わせてその6割に置いた。楽観でもROEはkに届かない。悲観は稼ぐ力が小さいので、今の自己資本に床のPBRを掛けた。今のPBRが0.6倍台であることは計算のあとに比べただけで、割安の根拠にしていない。2027年3月期のタングステン高の利益は10年の起点にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.3→11.76 倍・やや楽観 PER 6.97→11.76 倍・中立 PER 6.86→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。