結論
西部技研は、工場の空気から湿気と有機溶剤を取り除く装置のメーカーだ。リチウムイオン電池や半導体の工場は、湿度を極限まで下げた部屋でしか作れない。同社はその除湿機で世界2位、VOC(揮発性有機化合物)濃縮装置で世界1位の位置にある。
筆者の結論は割安である。時価総額は371億円に対し、純現金が109億円ある。現金を除いた事業の値段は、純利益の8倍に届かない。10年の価値は今の時価総額を5割ほど上回ると見る。
弱点は、稼ぎが電池工場の投資の波に乗ることだ。2026年12月期は会社自身が減益を見込む。中国・欧州・米国の電池投資が止まり、日本の案件が支えている状態だ。
それでも土台は厚い。除湿ローター(湿気を吸う回転する部品)は消耗品で、納めた装置の交換と保守が続く。半導体向けのVOC処理も安定している。電池投資が戻らなくても、利益が半分になる姿は描きにくい。
中立の10年は、営業利益が今の1.5倍の70億円前後。怖いのは、中国勢や欧州の大手が値下げで攻め、高い利益率を保てなくなる筋書きだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を持ち続けたいかを考える。10年後も工場は湿気と溶剤を処理し続ける。電池が全固体に代わっても、より低い露点が要る。需要が消える事業ではなく、むしろ難しくなる事業だ。
オーナー利益、つまり株主が自由にできる利益は、純利益の7〜8割とみる。ローターの新工場など設備投資は続くが、減価償却と同じ程度に収まる。配当と自社株買いで、利益の半分以上を返せる。
堀は、ローターの技術と施工まで含めた提案力だ。世界一といえるほど広くはなく、中国勢が技術を詰めれば削られる。だから堀は並みと置く。
安全域の面では、時価総額の3割が純現金で、事業の値段は純利益の8倍に満たない。電池投資が3年止まり、利益が半分になっても、この値段は払い込みを守る余裕がある。資本の使い方には大きな失敗の跡がなく、経営の誠実さも感じる。
心配は、利益率が上がり切らないことだ。大型案件は価格交渉が厳しく、費用が先に増えている。ここで世界2位の地位が単なる量の追求になるなら、値段の安さの理由になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は2つある。除湿機(売上の57%)とVOC濃縮装置(29%)だ。除湿機は、特殊なローターで空気中の水分を吸い、熱で追い出して連続して乾かす。電池や半導体、医薬品、食品の工場が、製品を湿気から守るために使う。露点マイナス数十度の極端に乾いた空気をつくれるのが強みだ。
VOC濃縮装置は、塗装や半導体洗浄の排気に含まれる溶剤を、ローターで濃縮してから燃やす、あるいは回収する。濃縮してから処理するので、燃料が少なくて済む。台湾のファウンドリ(半導体の受託製造)向けが堅調で、欧州には大型案件もあった。
売上は装置・機器の販売が約3分の2、設計から施工までを請け負うトータルエンジニアリングが約3分の1だ。地域は日本が46%、海外が54%で、海外では中国が最大。生産拠点は日本4、中国3、欧州2、米国1。
残り14%は、ローターの交換、全熱交換器、保守などだ。装置を納めるほど、のちの交換と保守が増える。この「納めた後の収入」が、投資の波を和らげる。
新しい芽もある。農業向けのCO2供給装置(C-SAVE Green)は、2027年度に年10億円を狙う。電池製造設備では合弁会社の設立を予定する。
優良さと弱いところ
優良さの核は、ローターを自社で作れることだ。ハニカム状の構造に吸着剤を担持させる技術は、他社がまねしにくい。装置の性能はローターで決まる。ローターは数年で交換が要るので、納めた装置が将来の売上を連れてくる。
競合は、除湿機でスウェーデンのムンタース、VOCでは大手プラントメーカーが目立つ。ムンタースが1位、西部が2位とされるが、ムンタースは機器販売が中心だ。西部は施工まで手がけ、顧客の工場ごとに仕様を作り込める。ここが差になっている。
資本の効率は並みだ。ROEは11%前後、営業利益率は12〜15%で、過去最高の18.5%(2022年)から下がった。利益率が上がり切らない理由は、大型案件の価格交渉が厳しいことと、人件費・IT・試作の費用が増えていることだ。
財務は強い。自己資本比率は67%で、純現金は109億円。借金に頼らず、工場の新設を自前の資金でまかなえる。経営の資本配分も素直だ。配当性向40%以上を掲げ、自社株買いも実施している。
弱い点は、売上が少数の大型案件に偏ることだ。受注の波で四半期の数字が荒れる。電池向けが減ると、全体の稼働が落ちる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の本体は、電池・半導体・医薬・食品の設備投資だ。電池は、2022〜24年にEV向けの工場が世界で一斉に立ち上がり、西部の利益率も18%台まで上がった。その後、中国・欧州・米国で投資が止まった。米国はEV支援策の撤廃で縮み、欧州は電池メーカーの計画が後ろ倒しになった。日本の案件だけが遅れて進み、2025年の増益を支えた。
次の波は3つ見える。ひとつは全固体電池。露点がさらに低い部屋が要るので、除湿の負担は重くなる。試作・量産試作向けの納入が始まり、量産は2027〜28年とされる。ふたつ目はデータセンター向けの定置用蓄電池。三つ目は半導体の増設で、VOCの処理とドライルームの需要を押し上げる。
業界団体の見方では、産業用空調の市場は名目で年4〜6%の伸びだ。西部の売上は設備投資に連動するので、同じ伸びを置く。ただし数量は実質で、物価の分は価格に入れる。
競争は、世界で数社の寡占に近い。ムンタースは、データセンター向けの冷却に力を移している。中国には、除湿ローターを安く作る新興勢がいる。技術の差が縮めば、価格競争が持ち込まれる。
不況の谷では、新設の投資が3〜5割落ちる。ただし、既設の交換・保守は落ちにくい。
資本政策と M&A
還元の方針は明快だ。配当性向40%以上を目安とし、年間配当は2025年12月期から横ばいで、2026年も同水準を予定する。中期計画(2024〜26年)では、営業キャッシュフロー130億円のうち、成長投資に60億円以上、株主還元に60億円以上を回す。自社株買いは期間中に20億円を予定し、2026年は10億円を取得する。
投資は国内のローター新工場(2026年9月ごろ本格稼働)、中国の板金工場、米国・ポーランドの拠点だ。大型の買収はなく、韓国のグンミョン・エンジとは資本提携と合弁にとどめた。経営が身の丈で動いていることを、筆者は好ましく見る。
2027〜29年の目標は、営業利益90億円超、営業利益率17%、ROE18%と高い。2026年は会社自身が営業利益率11.2%を見込むので、実現には利益率の6ポイントの改善が要る。筆者は、そのまま達成するとは置かない。
大株主には公益財団法人の隈科学技術・文化振興会がある(保有比率は報告の時期により異なる)。TOBの報道は確認できていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電池は一時の調整で終わる。全固体電池が2027〜28年に量産に入ると、露点の低い部屋がさらに要る。ドライルームの除湿は1工場あたりの金額が大きく、西部の売上は一段上がる。データセンター向けの蓄電池と、ペロブスカイト太陽電池も新しい需要になる。
半導体はAI投資で増設が続く。台湾だけでなく米国・日本の新工場にもVOC処理が要る。ローターの交換件数は前年比111%と伸びており、納めた装置の基盤が太っている。
利益率の底上げも見込める。新しいローター工場と中国の板金内製化で原価が下がり、大型案件に頼らなくても稼働が保てる。会社が掲げる営業利益率17%は、過去に18.5%を出した実績があり、非現実ではない。
韓国のグンミョン・エンジとの提携で、米国と欧州にもトータルエンジニアリングを広げる。装置を売るだけの会社から、設計から施工・保守まで受ける会社に変われば、収益は安定し、倍率の根拠も強まる。
財務は純現金が厚く、増配と自社株買いの余力も大きい。
慎重な見方
電池投資の回復は遅い。中国は過剰設備を抱え、欧州は計画を取り下げ、米国は支援策を撤廃した。2026年は減益の見通しで、会社の利益率目標は何度も後ろにずれてきた。2027〜29年の営業利益率17%は、直前の12%台から5ポイントも上げる計画で、信用しづらい。
競争が激しい。ムンタースは世界1位で、データセンターを含む大きな資本力がある。中国勢が除湿ローターを安く供給すれば、価格交渉はさらに厳しくなる。西部の利益率が上がらない理由は、すでにそこにある。
費用の増え方も気になる。人件費、IT、試作の費用が先に膨らみ、2026年は営業利益が1割減る。売上が伸びても利益が増えない構造になりつつある。
売上は大型案件に偏る。1件の延期で四半期が崩れる。ローター新工場と中国の新工場が稼働率を下げれば、固定費が重くなる。
農業やペロブスカイトなど新規事業は、まだ売上が小さい。成功の保証はなく、当面は試作費の負担のほうが大きい。
どちらに重みを置いたか
事業の土台と財務は強気の言い分に説得力があり、純現金と低い値段が安全域になる。一方、利益率が目標に届かない前歴と、競争の厳しさは慎重な見方が突いている。両者の落としどころは、中立で営業利益が今の1.5倍、利益率は12〜13%にとどまる姿だ。確率は中立を最も重く置き、やや悲観にも2割を残した。悲観は構造的な負けとして8%にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 5,319 円1,034 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,299 円252 億円)。 今の値に割り戻すと 3,485 円677 億円、今との差 +84.4%、 期待の年率 +13.4%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 9,386 円1,824 億円 | 1,744 円339 億円 | +488.9% | +19.4% | 1,113 円216 億円 |
| やや楽観 | 25% | 7,332 円1,425 億円 | 1,528 円297 億円 | +368.8% | +16.7% | 2,215 円430 億円 |
| 中立 | 37% | 5,503 円1,069 億円 | 1,312 円255 億円 | +260.6% | +13.7% | 2,522 円490 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,352 円457 億円 | 1,055 円205 億円 | +80.2% | +6.1% | 681 円132 億円 |
| 悲観 | 8% | 515 円100 億円 | 571 円111 億円 | −42.6% | −5.4% | 87 円17 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,319 円1,034 億円 | 1,299 円252 億円 | +250.2% | +13.4% | 6,618 円1,286 億円 |
今の株価時価総額 1,890 円367 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 電池が戻り全固体も立ち上がり、利益率が過去の最高に近づく 利益 93 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 9,386 円1,824 億円
電池の投資が日本・北米・欧州でそろって戻り、全固体電池の量産が2027〜28年に始まる。露点の低い部屋が増えて除湿機の台数が伸び、半導体の増設でVOC処理も広がる。ローターの交換が増えて、納めた後の収入も太る。
新工場と内製化で原価が下がり、営業利益率は15%を超える。会社が掲げた17%には届かないが、過去の最高18.5%に近づく10年になる。韓国のグンミョン・エンジとの提携で、米国と欧州の施工も広がる。
価格は物価並みに上がり、競争に負ける場面は少ない。除湿機の台数は10年で5割強、VOCも5割増える。会社の掲げる3年後の営業利益90億円超は、この筋書きでほぼ届く。ただし、そこまで進むには、電池・半導体・蓄電池の三つが同時に好転する必要があり、筆者は確率を低めに置く。
- デシカント除湿機:数量 2,325(出荷台数(台、推定))× 価格 1,760(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 409 億円・営業利益 68 億円。除湿機の台数と単価、営業利益率 16.5%
- VOC濃縮装置:数量 600(出荷台数(台、推定))× 価格 3,303(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 198 億円・営業利益 35 億円。VOC濃縮装置の台数と単価、営業利益率 17.5%
- ローター交換・全熱交換器・保守ほか:数量 4,800(年間の対応件数(件、推定))× 価格 213(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 102 億円・営業利益 13 億円。交換・保守の件数と単価、営業利益率 12.5%
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 19.18 倍、時価総額 1,824 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池・全固体・半導体がそろって好転する必要があり、実現すれば強いが確度は低めに置く。
やや楽観 25% 電池・半導体が回復し、計画の一部を超える 利益 75 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 7,332 円1,425 億円
電池は日本と一部の海外で回復し、半導体とデータセンター向けの蓄電池が上乗せされる。除湿機とVOCの台数は、10年で4割ほど増える。
利益率は14%台まで改善する。大型案件の価格交渉は厳しいが、ローターの内製と新工場で原価が下がり、中期計画の営業利益率12%は超える。2027〜29年の目標17%には届かない。
納めた装置の保守が積み上がり、波が和らぐ。韓国の提携先を通じた海外の施工も伸びる。価格は物価並みに上がるが、競争が厳しい大型案件では値引きが残り、利益率の上積みは限られる。海外の電池は戻りが遅く、全固体電池の量産も2028年以降にずれるが、日本の案件と半導体が補う。会社の目標17%は遠く、営業利益は70億円台に乗る程度とみる。
- デシカント除湿機:数量 2,070(出荷台数(台、推定))× 価格 1,760(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 364 億円・営業利益 55 億円。除湿機の台数と単価、営業利益率 15.0%
- VOC濃縮装置:数量 540(出荷台数(台、推定))× 価格 3,303(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 178 億円・営業利益 29 億円。VOC濃縮装置の台数と単価、営業利益率 16.0%
- ローター交換・全熱交換器・保守ほか:数量 4,350(年間の対応件数(件、推定))× 価格 213(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 93 億円・営業利益 10 億円。交換・保守の件数と単価、営業利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 74 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 18.33 倍、時価総額 1,416 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池が日本中心に戻り、半導体とデータセンター向けが上乗せされる、おおむね順調な水準。
中立 37% 需要は伸びるが利益率は12%台で足踏み 利益 58 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 5,503 円1,069 億円
電池投資は中国・欧州で鈍いまま、日本と全固体電池の試作・量産で下支えされる。半導体のVOCとデータセンター向けの蓄電池が加わり、除湿機とVOCの台数は10年で2割強増える。
営業利益率は12%台で足踏みする。人件費とITの費用が増え、価格は物価並みに上がるが、利益率の上積みは大型案件の増減で相殺される。会社の2027〜29年の目標は実現しない。
保守と交換は装置の台数に沿って増える。純現金は積み上がり、配当と自社株買いで利益の半分強を返す10年になる。ムンタースとの2強の構図は崩れず、西部は施工まで含めた提案で2位の位置を守る。成長は堅実だが、目標の17%は遠いままだ。
- デシカント除湿機:数量 1,830(出荷台数(台、推定))× 価格 1,760(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 322 億円・営業利益 42 億円。除湿機の台数と単価、営業利益率 13.0%
- VOC濃縮装置:数量 488(出荷台数(台、推定))× 価格 3,303(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 161 億円・営業利益 23 億円。VOC濃縮装置の台数と単価、営業利益率 14.0%
- ローター交換・全熱交換器・保守ほか:数量 3,960(年間の対応件数(件、推定))× 価格 213(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 84 億円・営業利益 8 億円。交換・保守の件数と単価、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 17.29 倍、時価総額 1,046 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の電池は鈍いまま日本と半導体が支え、利益率は足踏みする最も起こりやすい形。強気と慎重の言い分の中間として最も重く置いた。
やや悲観 20% 価格競争で大型案件の利益率が下がる 利益 40 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 2,352 円457 億円
電池投資は戻らず、中国勢の安いローターや欧州の大手との価格競争で、大型案件の利益率が下がる。除湿機の台数は10年でほぼ横ばい、VOCも1割増える程度。価格も物価に届かない。
新設の投資が減るなか、ローター新棟の稼働率が上がらない。固定費が重く、営業利益率は10%に落ち、人件費の上昇も吸収できない。
保守や交換の収入が下支えになり、赤字にはならない。堀は少しずつ削られる。ローターの内製化で守ってきた技術の差も、中国勢の追い上げで目立たなくなる。会社は費用を抑えて利益を保とうとするが、売上が伸びない中では限界がある。
- デシカント除湿機:数量 1,575(出荷台数(台、推定))× 価格 1,707(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 269 億円・営業利益 28 億円。除湿機の台数と単価、営業利益率 10.5%
- VOC濃縮装置:数量 440(出荷台数(台、推定))× 価格 3,205(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 141 億円・営業利益 16 億円。VOC濃縮装置の台数と単価、営業利益率 11.5%
- ローター交換・全熱交換器・保守ほか:数量 3,600(年間の対応件数(件、推定))× 価格 213(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 77 億円・営業利益 7 億円。交換・保守の件数と単価、営業利益率 8.5%
倍率:ROE 9.0%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 7.5% + 残る割合 1/2 ×(9.0 − 7.75)= 8.4%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 13.9 倍。上限の 7.0割の 9.7 倍に置いた。利益率の低下で ROE が k に近づくので、薄れる分を多めに見た。
確率:利益率が目標に届かない前歴と、大型案件の価格競争を重く見て、2割を残した。
悲観 8% 中国勢の追い上げで堀が狭まり、固定費が重くなる 利益 15 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 515 円100 億円
電池投資が10年続けて冷え込み、全固体電池も量産が遅れる。中国のローターメーカーが性能差を詰め、除湿機の価格が崩れる。ムンタースも価格を下げて攻め、西部は大型案件で受注を落とす。
除湿機の台数は25%減り、価格も物価の伸びを下回る。VOCも半導体の増設が一巡して減る。新設した国内外の工場が空き、固定費が営業利益を食って、営業利益率は6%に落ちる。
保守の収入だけが残る。堀が狭まり、優良な会社ではなくなった10年になる。ただし、納めた装置の交換・保守と、手元の純現金が、価値の底を支える。ローターの交換と保守は残り、赤字には落ちないが、新設の投資が細る中で成長の道は閉ざされる。純現金の半分は失敗した投資と運転資金に使われる。
- デシカント除湿機:数量 1,125(出荷台数(台、推定))× 価格 1,576(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 177 億円・営業利益 11 億円。除湿機の台数と単価、営業利益率 6.0%
- VOC濃縮装置:数量 340(出荷台数(台、推定))× 価格 2,958(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 101 億円・営業利益 7 億円。VOC濃縮装置の台数と単価、営業利益率 7.0%
- ローター交換・全熱交換器・保守ほか:数量 3,000(年間の対応件数(件、推定))× 価格 206(1 件あたりの平均単価(万円))→ 売上 62 億円・営業利益 3 億円。交換・保守の件数と単価、営業利益率 5.0%
倍率:ROE が k を下回る構造的な負けで、稼ぐ力(純利益÷k)は小さい。床は今の自己資本 321 億円に 0.31 を掛けた約 100 億円で、純現金の半分と工場の売却価値の税後に当たる。
確率:中国勢の技術の追い上げと、電池投資の長い停滞が同時に続く構造的な負け。純現金と保守の収入が支えになるので低めに置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
デシカント除湿機
電池・半導体・食品・医薬の工場向けの除湿機・システム。ローターで水分を吸い、露点の低い空気をつくる。
| 数量出荷台数(台、推定) | 価格1 台あたりの平均販売単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,500 | 1,313 | 197 | 28 |
| 10 年後 中立 | 1,830 | 1,760 | 322 | 42 |
取り方:売上 197 億円を年約 1,500 台(推定。小型の標準機から数億円の低露点システムまで平均)で割り、1 台あたり約 1,313 万円と置いた。世界の産業用除湿の市場を約 1,100 億円(ムンタースが 1 位、当社は 2 位)とみて、当社のシェアは約 18% と推定した。数量は実物の台数で、物価の分は価格に入れた。
VOC濃縮装置
塗装・印刷・半導体洗浄の排気から溶剤を濃縮する装置。世界シェア1位。
| 数量出荷台数(台、推定) | 価格1 台あたりの平均販売単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 400 | 2,465 | 99 | 15 |
| 10 年後 中立 | 488 | 3,303 | 161 | 23 |
取り方:売上 98.6 億円を年約 400 台(推定)で割り、1 台あたり約 2,465 万円と置いた。半導体のファウンドリ向けは単価が大きく、塗装向けは小さい。数量は実物の台数で、物価は価格に入れた。
ローター交換・全熱交換器・保守ほか
納めた装置のローター交換、全熱交換器、保守、新規事業など。
| 数量年間の対応件数(件、推定) | 価格1 件あたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,000 | 159 | 48 | 5 |
| 10 年後 中立 | 3,960 | 213 | 84 | 8 |
取り方:その他の売上約 47.6 億円を、ローター交換・保守・部品などの年約 3,000 件(推定)で割り、1 件あたり約 159 万円と置いた。納めた装置の台数に比例して増える。
リスクと懸念
電池投資の長期停滞
中国・欧州・米国で電池工場の投資が止まり、日本の案件が支える形になっている。全固体電池の量産が遅れれば、露点の低い部屋の需要は先送りになり、売上が少数の大型案件に偏る体質が裏目に出る。
中国勢・ムンタースとの価格競争
除湿機の世界1位ムンタースと、安価なローターを作る中国の新興勢が、大型案件で価格を下げてくる恐れがある。西部の利益率が12〜13%で上がり切らない理由もここにある。
費用の先行増
2026年12月期は人件費・IT・試作費が増え、売上が増えても営業利益は約1割減る計画だ。新しいローター工場と中国工場の稼働が上がらないと、固定費が利益を削る。
中期目標の未達
2027〜29年に営業利益率17%・ROE18%を掲げるが、2026年は11.2%の見込みで、6ポイントの改善が要る。中期計画はすでに下方修正された前歴がある。
海外事業の実行
売上の54%が海外で、中国が最大だ。現地の景気、為替、貿易摩擦の影響を受ける。韓国の提携先との合弁で米国・欧州に施工を広げる試みも、実績はこれからだ。
新規事業の遅れ
農業向けCO2供給装置は2027年度に年10億円を狙うが、まだ小さい。電池設備の合弁会社も立ち上がりの費用がかかり、当面は利益に寄与しにくい。
大型案件の波
受注は数億円規模の案件に偏る。1件の延期や中止で四半期の数字が荒れ、在庫や工場の稼働にも響く。
今後の分かれ目
- 2026年の電池向け受注が日本以外でも戻り、受注残が増えたら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。全固体電池の量産計画の時期も確認する。
- 営業利益率が12%を超えて定着したら
- 中期目標の実行力への評価を上げ、中立から上側に確率を寄せる。
- 中国勢のローターが主要な大型案件で採用されたら
- 堀が狭まる兆しとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- ムンタースが日本・アジアの電池向けで価格を大きく下げたら
- 価格の前提を物価並みから下げ、中立の利益率を見直す。
- 自社株買いの枠が拡大され、総還元が利益の7割を超えたら
- 純現金の戻り方への信頼が上がり、余った現金の評価を維持する。
- 国内ローター新棟の稼働後も稼働率が上がらなかったら
- 固定費の重さを重く見て、やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 電池・半導体向けの受注高と受注残(四半期)
- 営業利益率とローター交換件数(半導体向けVOCの基盤)
- 全固体電池・データセンター向け蓄電池の納入開始時期
- 新ローター棟・中国工場の稼働率と減価償却
- 配当・自社株買いの実施額と純現金の推移
倍率と資本コストの決め方
売上は除湿機・VOC・保守のそれぞれを、実物の台数(または件数)×単価で積んだ。数量は実質で産業用空調市場の伸び(名目年4〜6%の下側)を物価で割った値、価格は物価並みの1.34倍を基本にした。倍率は利益ベースの正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(k 7.5%・g 4.0%・RONIC は k を超える分の半分が残る値)から出し、中立は上限の8割、楽観は9割、やや悲観は7割に置いた。悲観は ROE が k を下回るので、稼ぐ力を上限とした。余った現金50億円は戻り方1.0で別に足した。今の PER 10.8倍・PBR 1.2倍や、過去の株価の水準からは倍率を置いていない。形が変わる新リース会計基準の影響は、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.19→19.18 倍・やや楽観 PER 14.51→18.33 倍・中立 PER 12.7→17.29 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。大型案件への偏りや利益率の伸び悩みは k に足さず、やや悲観・悲観の筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.50%。