結論
ツバキ・ナカシマは、軸受の中で転がる小さな鋼球(ボール)と、円筒状のころを作る機械部品メーカーだ。ボールでは世界首位級に数えられ、客は軸受メーカーだ。
筆者の結論は「やや割高」だ。稼ぐ力が戻る前に、返さなければならない借金が重すぎる。純有利子負債は自己資本の 1.6 倍あり、1 年内に返す長期借入金が約 720 億円に膨らんだ。株主に残る利益は、借金の利払いのあとにわずかしか出ない。
2025 年 12 月期は営業損失 223 億円、純損失 272 億円だった。欧州の事業で買収時ののれんを減損し、米国とセラミックでは廃棄予定の在庫を評価損にした。会社の今期予想は営業利益 25 億円で、まだ売上の 4% に届かない。
鋼球は寿命の長い必需品で、事業そのものは消えない。立て直しが進めば、株主の取り分はいまの数倍にもなりうる。ただ、10 年後に最もありそうな姿でも、借金の利払いと資本コストに負けて、今の時価総額に見合うだけで割安とは言えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に見るのは、借金を払ったあとに株主へ残る利益だ。当社の場合、営業利益が 10 年後に 55 億円まで戻っても、利払いと税のあとに残るのは 30 億円足らずだ。
鋼球は 10 年後も必要な部品で、事業は続く。しかし、利益率が薄く、毎年の設備投資と運転資金に現金を食われる。会計の利益が出ても、株主が自由に使える現金は少ない。
今の時価総額は自己資本の 3 分の 1 ほどで、安く見える。ただ、資本コストを稼げない会社の自己資本は、帳簿の額面では評価できない。しかも買収ののれんは、すでに減損で落ちている。
安全域は、借り換えが無事に済み、利益率が 8% 前後まで戻る筋書きにしかない。その確率を半分ほどと見るなら、今の値段は少し先を行っている。筆者は、借金が減りはじめるまで待つのが筋だと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、軸受用の鋼球ところだ。ボールベアリングは 1 台に数十個の鋼球を入れる。鋼球の精度が軸受の音と寿命を決める。当社は直径の誤差を千分の 1 ミリ以下で作り分け、世界の軸受メーカーに納めている。
顧客は SKF、シェフラー、日本精工、NTN といった軸受メーカーだ。最終の用途は自動車、産業機械、工作機械、家電と幅広い。鋼球は軸受の原価に占める割合が小さいが、品質が悪いと軸受全体が使えなくなる。そのため客は価格だけで切り替えにくい。
もう 1 つの柱がセラミックだ。窒化ケイ素などのセラミック球は、電気自動車のモーターや工作機械の高速スピンドルで使われる。鋼球より高く売れるが、立ち上がりは遅れている。
工場は日本、米国、欧州、アジアにあり、11 か国に広がる。ボールねじとボールウェイなどの直線運動の事業は 2024 年に売却を決め、会社は不採算事業の整理を終えたとしている。
2011 年から投資ファンドのカーライルが主要な株主だった経緯がある。借入で事業を大きくした履歴が、今の重い借金の背景にある。
優良さと弱いところ
鋼球の技術は本物だ。素材の純度、熱処理、研磨と選別の積み重ねで、まねには時間がかかる。世界首位級という規模は、同じ品質を安く作れる強みになる。
ただ、堀(他社がまねできない強み)は広くない。鋼球は規格品に近く、軸受メーカーは複数の調達先を持つ。中国の鋼球メーカーが品質を上げており、汎用品の値段は押されている。当社が値段を決める側とは言いにくい。
経営の弱点は資本の使い方だ。2022 年に米国事業とリニア事業ののれんで 136 億円を減損し、2023 年にもボールねじの売却に伴い 40 億円を超える損失を出した。2025 年は欧州ののれん約 167 億円を落とした。買収で積んだ資産が、回収できなかったことになる。
財務も弱い。自己資本比率は 24% に下がり、営業利益で支払利息をまかなえていない。筆者は、堀の弱い循環の部品会社で、借金が重い会社として見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
軸受の世界市場は約 1,500 億ドル規模と推計され、ボールところはその中の一部品だ。数量は自動車の生産、産業機械と工作機械の設備投資に連動する。2022 年の景気後退以降、欧州の自動車と工作機械は弱く、当社の稼ぎを削ってきた。
筆者は中立で、鋼球の数量が 10 年で横ばいと見る。電気自動車化でエンジン用の軸受は減るが、モーターの軸受は増え、風力や産業用ロボットなどの需要がそれを補う。電気自動車のモーターは回転数が高く、セラミック球の使用は増える。
競争は 3 層に分かれる。高い精度の鋼球は日米欧の数社が分け合う。汎用品は中国などの新興メーカーとの値下げ競争になる。当社は精度の高い層に軸足を置くが、汎用の層の値下がりは当社にも及ぶ。
鋼の原料と電力は物価と同じように上がる。価格転嫁が遅れると、利益率が一時的に落ちる。この遅れが、近年の利益の薄さの一因だ。
業界の景気の波も大きい。2020 年の営業利益は 36 億円まで落ち、2021 年に 58 億円へ戻った。軸受の在庫調整が入ると、鋼球の受注は数か月で 2〜3 割動く。
資本政策と M&A
再建の最優先は借金の返済と借り換えだ。1 年内に返す長期借入金が約 720 億円あり、取引銀行との条件が株主の取り分を決める。赤字の拡大で自己資本比率は 24% まで下がった。
配当は小さい。2025 年の配当は総額で 4 億円前後と小さい。当面は借金の返済が先で、増配や自社株買いの余力はない。筆者は 10 年の還元を年 3 億円程度とした。
株主構成では、カーライルの持ち分が将来の売り圧力の源にもなる。一方で、再建の途中で TOB(公開買付け)の対象になる可能性は残る。ただ、買い手が現れても、重い借金を引き継ぐ形になり、少数株主に大きなプレミアムが出るとは限らない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
鋼球は軸受の心臓部で、10 年後も確実に使われる。軸受 1 つに数十個入り、電動化でも回転する機械が続く限り、需要は消えない。2025 年の赤字の大半は、のれんの減損と在庫の評価損という、現金が出ていかない損失だった。減損でのれんが軽くなり、これからの償却と評価損は軽くなる。
事業の整理は終わった。ボールねじの売却で重荷が消え、米国とセラミックの廃棄在庫も落とした。欧州の自動車と工作機械が底を打てば、鋼球の出荷が戻り、工場の稼働率の改善が利益率を一気に押し上げる。過去に営業利益率は 18% を付けた事業だ。
電気自動車のモーターと高速の工作機械ではセラミック球が増える。借金が減れば利払いが軽くなり、時価総額が自己資本の 3 分の 1 という値段は、立て直しの値打ちを織り込んでいない。
大株主のカーライルは、経営を立て直して株を売る動機がある。銀行も、鋼球という必需品の事業を潰して得をすることはない。借り換えに応じる余地は大きいと見る。
慎重な見方
利益が出ない状態が長すぎる。営業利益率は 2022 年から 3 年連続で 1% 以下か赤字で、会社が整理を終えたと言った 2023 年のあとにも、2025 年に巨額の減損を出した。会社の見立てを信じる根拠が薄い。
1 年内に返す借入が約 720 億円ある。借り換えでは、新しい金利と財務の条件が付く。借り換えの金利が 3.5% なら、利払いだけで年 20 億円を超え、営業利益の見通しの大半を食う。
中国の鋼球メーカーが品質を上げ、汎用品は値下げを迫られる。欧州の自動車と工作機械が戻らなければ、稼働率は戻らず、固定費を回収できない。最悪の場合は、増資や銀行の債権の株式化で既存の株主の取り分が大きく薄まる。
さらに、自己資本比率が 24% に下がり、純有利子負債が自己資本の 1.6 倍ある。景気の波が 1 度来れば、財務の条件に触れる。買い手の TOB が来ても、重い借金を引き継ぐ以上、株主に有利な価格になるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。鋼球の事業の質は悪くないが、株主の取り分は借金の整理に左右される。業績の予想は、会社が 2 年続けて営業利益 25 億円以下と見ている。これは利払いで消える水準だ。そのため、中立の確率を 33% にとどめ、やや悲観と悲観に合わせて 4 割強を置いた。楽観側は 4 分の 1 とし、借り換えが無事に済むことを前提にしている。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 683 円272 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 68 円27 億円)。 今の値に割り戻すと 333 円133 億円、今との差 +12.1%、 期待の年率 +9.7%(資本コスト 9.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,178 円868 億円 | 226 円90 億円 | +709.3% | +23.3% | 192 円77 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,260 円502 億円 | 125 円50 億円 | +366.4% | +16.6% | 235 円94 億円 |
| 中立 | 33% | 768 円306 億円 | 75 円30 億円 | +184.0% | +11.0% | 278 円111 億円 |
| やや悲観 | 27% | 137 円55 億円 | 15 円6 億円 | −48.8% | −6.5% | 41 円16 億円 |
| 悲観 | 15% | 28 円11 億円 | 0 円0 億円 | −90.6% | −21.1% | 4 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 683 円272 億円 | 68 円27 億円 | +153.0% | +9.7% | 751 円300 億円 |
今の株価時価総額 297 円118 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 欧州が戻り、鋼球の利益率が 12% に回復 利益 66 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 2,178 円868 億円
欧州の自動車と工作機械の需要が戻り、鋼球の出荷が 10 年で 1 割増える。工場の稼働率が上がり、固定費の重さが薄まる。新しい金利での借り換えも、利益が出れば条件が改善する。セラミック球は電気自動車のモーターと高速スピンドルで伸びる。
借金は利益の積み上げで 300 億円台まで減り、借り換えの金利も落ち着く。営業利益率は鋼球で 12% を取り戻す。過去の最高 18% までは戻らないが、近年の薄さから見れば別の会社になる。電気自動車や風力の需要が重なれば、さらに上振れる余地もある。
株主への還元も、配当を中心に少しずつ増える。自社株買いは借金がさらに減るまで先送りされる。ただ、10 年国債が 3% の世界では、借金の残りが利払いを食うので、純利益は営業利益の 6 割強にとどまる。
- 軸受用ボール・ころ:数量 3.9(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段)= 世界の市場規模 × 当社シェアの推定)× 価格 1.38(値段の指数(2025 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 807 億円・営業利益 97 億円。鋼球:数量 1.10 倍 × 価格 1.38 倍、営業利益率 12%
- セラミック球・その他:数量 1.1(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(2025 年=1.0))→ 売上 211 億円・営業利益 17 億円。セラミック:数量 1.28 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 11.96 倍、時価総額 789 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州の自動車と工作機械の回復、減損後の軽い償却、借金の返済が重なる良い筋書き。借り換えが無事に済む前提で、確率は低く置いた。
やや楽観 17% 利益率は 9% まで戻り、借金は半分に 利益 42 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,260 円502 億円
欧州の需要は戻りきらないが、底は打つ。鋼球の数量は横ばいで、値段が物価並みに上がる。人件費と電力の上昇は転嫁できるが、遅れが残る。
営業利益は 80 億円ほどまで戻り、借金は 400 億円台に減る。利払いが営業利益の 2 割を食う形は続く。減損で資産が軽くなった分、償却は減り、利益が出やすくなる。ただし更新の投資は建築費や機械の値上がりで膨らむ。
セラミック球は黒字化するが、規模は小さいままだ。会社の言う不採算事業の整理が計画どおり終わり、同じ損失は繰り返されない。配当は借金の返済を優先して年 3〜4 億円にとどまる。
- 軸受用ボール・ころ:数量 3.8(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段)= 世界の市場規模 × 当社シェアの推定)× 価格 1.36(値段の指数(2025 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 781 億円・営業利益 70 億円。鋼球:数量 1.00 倍 × 価格 1.36 倍、営業利益率 9%
- セラミック球・その他:数量 1.0(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(2025 年=1.0))→ 売上 185 億円・営業利益 7 億円。セラミック:数量 1.16 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 4%
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 467 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再建が会社の計画どおり進む筋書き。2026 年予想の営業利益 25 億円からの改善を、ほぼ全部実現する。
中立 33% 利益は 5% 台に戻るが、利払いが重い 利益 28 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 768 円306 億円
欧州の自動車は弱いまま、鋼球の数量は横ばいで推移する。電気自動車化でエンジン用は減るが、モーター用とセラミックが補う。
値段は物価並みの 1.34 倍に上がるが、原材料と人件費も同じだけ上がる。営業利益率は鋼球で 8% に戻り、全社で 6% 前後になる。
借金は 450 億円前後で借り換えを繰り返す。工場の更新投資は償却の範囲に抑え、現金は借金の返済に回る。新しい金利で年 16 億円ほどの利払いが続き、純利益は営業利益のちょうど半分だ。株主への配当は年 3 億円にとどまる。10 年後の自己資本は 550 億円ほどで、資本コストには届かない利益水準が続く。
- 軸受用ボール・ころ:数量 3.8(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段)= 世界の市場規模 × 当社シェアの推定)× 価格 1.34(値段の指数(2025 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 770 億円・営業利益 62 億円。鋼球:数量 1.00 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 8%
- セラミック球・その他:数量 0.9(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(2025 年=1.0))→ 売上 176 億円・営業利益 5 億円。セラミック:数量 1.10 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 3%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 306 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は横ばい、価格転嫁が遅れる中央の筋書き。会社の計画より少し遅い立て直しを想定。
やや悲観 27% 利益率は 3% 止まり、借金が減らない 利益 8 億円 · PER 6.0 倍 · 株価時価総額 137 円55 億円
中国の鋼球メーカーが汎用品で値下げを仕掛け、当社の数量は 1 割減る。値段は物価並みに上げられず、鋼の価格上昇を転嫁しきれない。
営業利益は 25 億円ほどにとどまり、利払いでほぼ消える。借金は減らず、毎回の借り換えで条件が悪くなる。配当は最低限だ。欧州の自動車の生産が戻らず、稼働率は 7 割台にとどまる。工場の閉鎖や人員の整理が続き、そのたびに一時の費用が出る。
事業は続き、顧客の軸受メーカーとの取引も守られる。ただ株主に残る利益はごくわずかで、価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産と借金の差に近づく。
- 軸受用ボール・ころ:数量 3.5(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段)= 世界の市場規模 × 当社シェアの推定)× 価格 1.28(値段の指数(2025 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 662 億円・営業利益 27 億円。鋼球:数量 0.90 倍 × 価格 1.28 倍、営業利益率 4%
- セラミック球・その他:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段))× 価格 1.22(値段の指数(2025 年=1.0))→ 売上 128 億円・営業利益 0 億円。セラミック:数量 0.85 倍 × 価格 1.22 倍、営業利益率 0%
倍率:ROE 1.6% は k 9% を大きく下回る。構造的に負けた筋書きで、1÷k=10 倍の 6 割の 6.0 倍に置いた。借金込みの EV は営業利益の約 38 倍にあたり、利益の倍率だけでは割安と言えないことも確認した。
確率:中国勢の値下げと欧州の不振が続き、利益が薄いままの筋書き。2026〜27 年の会社予想(営業利益 16〜25 億円)が実力に近いと見る。
悲観 15% 借金を返せず、株主の取り分が消える 利益 −20 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 28 円11 億円
欧州の需要が戻らず、中国勢に汎用品を奪われ、稼働率が落ちる。営業損益は赤字に戻り、銀行は追加の担保と返済を求める。
再建の道は、借入の株式化や増資、資産の切り売りになる。既存の株主の取り分は大きく薄まり、残る価値は選択権にあたる小さな額だ。
鋼球の事業自体は残るので、買い手のスポンサーが現れれば債権者が回収する。2025 年の評価損と減損が示すように、在庫や設備を売っても帳簿の額は戻らない。株主に回る分はほとんどない。減損と評価損の履歴が示すとおり、帳簿の資産は売ると大きく目減りする。借金の額が資産の売却額を上回れば、株式の価値はゼロに近づく。
- 軸受用ボール・ころ:数量 2.7(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段)= 世界の市場規模 × 当社シェアの推定)× 価格 1.15(値段の指数(2025 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 466 億円・営業利益 −5 億円。鋼球:数量 0.70 倍 × 価格 1.15 倍、営業利益率 -1%
- セラミック球・その他:数量 0.5(当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段))× 価格 1.10(値段の指数(2025 年=1.0))→ 売上 74 億円・営業利益 −4 億円。セラミック:数量 0.55 倍 × 価格 1.10 倍、営業利益率 -5%
倍率:赤字で稼ぐ力はなく、価値は売れる資産と借金の差で決まる。借金を払うと株主の取り分は残らないので、今の自己資本 370 億円に PBR 0.03 を掛けた選択権の額(約 10 億円)に置いた。
確率:赤字が続き、借り換えの条件が厳しくなる複合の筋書き。1 年内返済の約 720 億円と減損の履歴を考え、無視できない確率とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
軸受用ボール・ころ
鋼球と円筒ころ。世界の軸受メーカーへ納める主力。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段)= 世界の市場規模 × 当社シェアの推定 | 価格値段の指数(2025 年=1.0、物価と値上げを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.8 | 1.00 | 575 | −150 |
| 10 年後 中立 | 3.8 | 1.34 | 770 | 62 |
取り方:開示が売上全体 698 億円のみのため、鋼球・ころを約 82% と推定した(セラミック・その他は 18%)。出荷額を 150 円で割った億ドル相当を数量とし、市場規模 × シェアで見る。営業利益は全社の営業損失 223 億円から、減損・評価損の大半が出た欧州・セラミックの分を差し引いた推定。
セラミック球・その他
窒化ケイ素などのセラミック球と周辺事業。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2025 年の値段) | 価格値段の指数(2025 年=1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.8 | 1.00 | 123 | −60 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 1.30 | 176 | 5 |
取り方:売上の約 18% を推定で充てた。米国とセラミックの廃棄在庫の評価損 65 億円が営業損失に入るため、営業損失の大半がここに出た推定。
リスクと懸念
借り換えが通らない
1 年内に返す長期借入金が約 720 億円ある。赤字で自己資本比率が下がり、借入の条件(財務制限条項)に触れると、追加の担保や返済を求められる。再建の最大の分かれ目だ。
欧州と自動車の不振が長引く
欧州の自動車と工作機械の需要が戻らなければ、鋼球の稼働率は上がらない。欧州ののれんをすでに約 167 億円減損しており、さらなる減損の余地は残る。
中国の鋼球メーカーの台頭
汎用品では中国勢の品質が上がり、値下げが進む。当社は高い精度の層に軸足を置くが、値段の下落は全体に及ぶ。
原材料と電力の価格転嫁の遅れ
鋼の原料と電力は物価並みに上がる。転嫁が遅れると、利益率は 1 年で数ポイント動く。近年の薄い利益の一因だ。
大株主の動きと資本の希薄化
カーライルなどの大株主の売却は需給を悪くする。増資や借入の株式化が行われれば、既存の株主の取り分は大きく薄まる。
在庫と運転資金
米国とセラミックで廃棄予定の在庫を評価損にした。在庫の管理が改善しなければ、運転資金に現金が固定され、借金の返済が遅れる。
今後の分かれ目
- 1 年内返済の約 720 億円が、長期の借入に借り換えられる
- 悲観の確率を下げ、中立以上に寄せてよい。再建の最大の不安が消える。
- 営業利益率が 2 期続けて 5% を超える
- やや楽観の確率を引き上げる。価格転嫁と稼働率の改善が確認できたことになる。
- 欧州の自動車の生産が前年を下回り、さらなる減損が出る
- やや悲観と悲観の確率を引き上げる。のれん以外の資産にも傷が広がる。
- 増資や借入の株式化が発表される
- 既存の株主の取り分が薄まるので、悲観の筋書きに近づく。
- TOB(公開買付け)が発表される
- 買い手が重い借金を引き継ぐ前提で、価格を確かめる。プレミアムが十分とは限らない。
見ておくもの
- 1 年内返済の長期借入金の借り換えの進み具合と財務制限条項
- 営業利益率の推移(2026 年 12 月期予想 3.6%)
- 欧州の自動車生産と工作機械の受注
- 在庫の水準と棚卸資産評価損の再発
- 大株主の持ち分の変動
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。ROE が資本コスト(k=9%)に届かない筋書きでは、上限は 1÷k=10 倍で、利益の質が並以下なので上限の 6〜9 割に置いた。今の株価や過去の PER・PBR は見ていない。数量は市場規模 × シェアの推定、価格は物価並みの 1.34 倍を基本にした。悲観の床は自己資本の PBR でなく、売れる資産と借金の差から置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.3→11.96 倍・やや楽観 PER 8.4→11.11 倍・中立 PER 7.8→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。