結論
NTN は、自動車の駆動系部品と軸受を二本柱とする世界 4 位の軸受メーカーである。筆者の結論はやや割高だ。事業は簡単には崩れないが、利益が資本コストを安定して上回る姿を、10 年の中立でも描けないからである。
売上は 8,000 億円を超えるが、営業利益率は 4% に届かない。2025 年 3 月期は工場再編の損失で最終赤字に沈み、2026 年 3 月期は価格転嫁とコスト削減で持ち直した。ただ欧州の事業は 5 期続けて赤字で、傷はまだ癒えていない。
最大の変数は、2026 年 5 月に基本合意した日本精工(NSK)との経営統合だ。2027 年 10 月に共同持株会社をつくる予定で、統合比率とシナジーの額はまだ決まっていない。規模は世界首位級になるが、NTN は小さい側で、設立時の取締役の配分も NSK が多い。うまくいけば利益率は 8% 台まで届く。失敗すれば再編の痛みだけが残る。
財務も軽くない。純有利子負債は 1,900 億円弱あり、借り換えのたびに金利が重くのしかかる。自動車生産や設備投資の山谷で利益が大きく振れる点も変わらない。
10 年後の中立は、営業利益率 6% 弱、ROE 7% 台である。それでも資本コスト 9% を下回るので、高い倍率はつけられない。割り引くと今の時価総額に届かない。今の値段は、統合と再編の成功をかなり先取りしているように見える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、NTN は「持ち続けたい会社」とは言いにくい。事業は本物だが、稼ぐ力が弱く、経営の資本の使い方も実績が乏しいからだ。
第一に、オーナー利益が小さい。営業利益は 300 億円台だが、利払い・税・設備投資・再編費用を引くと、株主の手元に残るものは細い。2025 年 3 月期のように、数年に一度は大きな損失が出る。
第二に、借金がある。純有利子負債は時価総額に近い規模で、金利が上がる 10 年は利益を削る。安全域が薄いまま景気の山に入ると、傷が深くなる。
第三に、堀は広くない。ドライブシャフトとハブベアリングは設計に組み込まれる強みがあるものの、自動車メーカーが値段を決める。補修用と産業機械向けの比率が上がれば質は良くなる。
統合には期待も不安もある。うまくいけば、重複する工場と研究の整理で利益率は 2 ポイント近く上がりうる。ただ、小さい側の株主は交換比率次第で価値を失う。分からない要素が多いので、確信度は高くない。
何で稼ぐ会社か
NTN の事業は、会社が開示する 2 区分で見ると分かりやすい。軸受他と、CVJ アクスルである。
軸受他は売上 3,500 億円ほど。産業機械・鉄道・航空機・風力発電向けの軸受と、補修用(アフターマーケット)向けが中心だ。補修用は 2027 年 3 月期の 1 四半期で約 400 億円と、全体の 2 割近くに当たる。景気の波を受けにくく、新車向けより利益率も高い。
CVJ アクスルは売上 4,800 億円弱で、会社の半分強を占める。CVJ は等速ジョイント、つまり車輪へ滑らかに回転を伝えるドライブシャフトの関節部品だ。これに車輪を支えるハブベアリングを組み合わせて納める。納め先は自動車メーカーが中心で、値下げの要求が強い。鉄道・航空機向けの一部もこの区分に入る。
地域別では米州が最大で、売上の 3 割強を占める。日本と欧州がそれぞれ 2 割台、アジアが 2 割弱だ。利益を稼ぐのはアジアで、日本と米州が続く。欧州は赤字が続いている。
工場は日本・米州・欧州・アジアに散らばり、近年は生産拠点の再編を重ねてきた。2025 年 3 月期から 3 年で、再編の特別損失を 350 億円ほど見込む計画だった。拠点を減らして一つの工場の稼働を上げることが、利益率を戻す中心の手段になっている。
優良さと弱いところ
NTN の強みは、車輪まわりの部品を一式で納められることだ。ハブベアリングとドライブシャフトは世界でも上位のシェアを持つと会社は説明している。自動車メーカーの設計に組み込まれるため、一度採用されれば簡単には替えにくい。
ただ、強みがそのまま利益に変わってはいない。営業利益率が 9% 台に乗ったのは 2006〜2008 年 3 月期までで、その後は 7% を超えていない。直近は 3.8% である。自動車メーカーの原価低減要求が強く、2024 年 3 月期には材料高の価格転嫁が遅れて計画を下回った。ここが NTN の弱点だと筆者は見る。
資本の使い方にも課題がある。過去 10 年の ROE の中央値は 2.5% で、赤字の期が多い。2025 年 3 月期には減損と事業再編の損失が約 200 億円出た。2012 年には軸受の国内取引で独占禁止法違反の起訴を受けた過去もある。
救いは、補修用と産業機械向けが伸びていることだ。この分野は値段を自分で決めやすい。構造改革の効果もあり、2026 年 3 月期の営業利益は前の期から 35% 増えた。優良とまでは言えないが、立て直しは進んでいる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
軸受は、自動車・産業機械・鉄道・航空機・風力など幅広い機械に組み込まれる基礎部品だ。需要は自動車の生産台数と製造業の設備投資にそのまま連動する。足もとは中国の景気減速、欧州の製造業の不振、米国の関税政策が重なり、回復が遅れている。
競争の主役は、スウェーデンの SKF、ドイツのシェフラー、米国のティムケンといった海外大手と、日本の NSK・ジェイテクトである。世界シェアは SKF が約 18% で首位、NSK が 13%、NTN が 11% ほどとされる。そこに中国メーカーが低価格で入り込み、汎用品の値下げ圧力が続く。
自動車の電動化は、駆動系部品に二面の影響を与える。エンジンまわりの軸受は減るが、ドライブシャフトとハブベアリングは電気自動車でも必要だ。むしろ車重が増えて高負荷品の需要が出る。筆者は、CVJ アクスルの数量は 10 年で大きくは動かないと見る。
業界は再編に向かっている。SKF・シェフラー・ティムケンなど海外勢が事業の入れ替えを進め、日本でも NSK と NTN が統合を決めた。規模を求める動きは強いが、規模が利益率を押し上げる保証はない。
資本政策と M&A
最大の論点は NSK との統合である。2026 年 5 月に基本合意し、共同株式移転で持株会社をつくる。設立は 2027 年 10 月の予定で、両社は上場を廃止する。統合比率は 6 か月以内を目途に最終契約で決める。シナジーの金額はまだ出ていない。
持株会社の取締役 9 名のうち、NTN の指名は会長、副社長、社外 2 名の 4 名にとどまる。社長 CEO は NSK が指名する。売上と営業利益は NSK のほうが大きく、NTN の株主は交換比率次第で価値を取りこぼしうる。
財務では、株数が 2026 年 3 月期に 12% 増えた。2025 年満期の転換社債の転換が主因とみられる。2026 年 3 月期の配当は前の期と同額で、2027 年 3 月期は増配を予想する。純有利子負債は 1,879 億円まで減ったが、自己資本比率は 34% である。再編の特別損失は 3 年で 350 億円を見込んでいた。
買収で拡大する会社ではない。資本の使い道は、工場再編と借金の返済が先で、自社株買いに回る余力は乏しい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
NTN は、ようやく底を打った。2025 年 3 月期に再編の損失を一括で処理し、2026 年 3 月期は営業利益が 35% 増えた。2027 年 3 月期の 1 四半期では営業利益が 83 億円と、通期予想の 330 億円を上回るペースだ。欧州と米州の赤字拠点を整理した効果は、これからも出続ける。
補修用が追い風になる。車が長く使われるほど交換部品の需要は増え、補修用の売上は 1 四半期で 400 億円近くまで伸びた。新車向けより利益率が高く、景気にも強い。産業機械・鉄道・航空機向けも堅調で、軸受他の利益率は 7% 台に上がる余地がある。
何より、NSK との統合が効く。調達の一本化、重複工場の統廃合、研究開発の分担で、営業利益率は 2 ポイント前後上がりうる。世界 3 位と 4 位が合わされば、価格交渉力も増す。2007 年 3 月期に 9% 台の利益率を出した実績があり、8% 台はありえない水準ではない。
慎重な見方
NTN の利益は何度も期待を裏切ってきた。2024 年 3 月期は目標 420 億円に対して 281 億円、2025 年 3 月期は最終赤字だった。欧州は 5 期続けて赤字で、再編を重ねても黒字に戻っていない。今回の回復も、為替と価格転嫁に助けられた面が大きい。
財務の余裕もない。純有利子負債は 1,900 億円弱、営業利益で支払利息を割ると 4 倍しかない。10 年国債が 3% に上がれば、借り換えのたびに金利が重くなる。自動車生産は横ばいで、数量での成長は期待しにくい。
統合はむしろ危うい。NSK のほうが大きく、設立時の取締役も NSK 側が多い。交換比率が不利になれば、NTN の株主は割を食う。統合費用と顧客の重複によるシェア流出も見込まなければならない。中国メーカーの低価格攻勢で、汎用品の値下げは止まらない。ROE が資本コストを超えたことのない会社に、高い倍率はつけられない。
さらに統合には、小さい側の NTN に不利な条件が付くおそれがある。交換比率は未定で、持株会社の社長も NSK が指名する。統合後に主導権を握るのは NSK で、工場の整理も NTN の拠点が先に対象になりかねない。再編費用と顧客の離反が先に出れば、利益は今より悪くなる。
どちらに重みを置いたか
事業の立て直しが進んでいる点では強気の見方に分がある。しかし、利益が資本コストを安定して上回った実績がなく、借金も重いので、慎重な見方の指摘が重い。統合の効果は、最終契約が出るまで額も条件も分からない。中立でも ROE が資本コストに届かず、割り引くと今の時価総額を下回る。確率は中立を軸に、中立より下の筋書きに少し重みを寄せた。結論はやや割高。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 647 円3,846 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 148 円879 億円)。 今の値に割り戻すと 369 円2,196 億円、今との差 +2.9%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 1,723 円1.02 兆円 | 303 円1,800 億円 | +464.4% | +18.9% | 122 円723 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,162 円6,909 億円 | 227 円1,350 億円 | +287.0% | +14.5% | 250 円1,487 億円 |
| 中立 | 32% | 731 円4,348 億円 | 168 円1,000 億円 | +150.6% | +9.6% | 288 円1,711 億円 |
| やや悲観 | 28% | 262 円1,560 億円 | 101 円600 億円 | +1.2% | +0.1% | 102 円605 億円 |
| 悲観 | 16% | 168 円1,001 億円 | 42 円250 億円 | −41.4% | −5.2% | 34 円200 億円 |
| 加重平均 | 100% | 647 円3,846 億円 | 148 円879 億円 | +121.4% | +8.3% | 795 円4,725 億円 |
今の株価時価総額 359 円2,134 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 統合が当たり、利益率が 9% に迫る 利益 704 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 1,723 円1.02 兆円
NSK との統合が計画以上に進む。調達の一本化と重複工場の整理で、年間のコストが大きく減る。交換比率も大きくは不利にならず、NTN の株主は統合の果実を受け取る。欧州の再編が実り、米州の工場も黒字が定着する。
補修用と産業機械向けが伸び、軸受他の利益率は 11% まで上がる。CVJ アクスルも、車重増による高負荷品の拡大と値上げの定着で 7% になる。全社の営業利益率は 9% 近くに届き、2007 年 3 月期の水準に並ぶ。純有利子負債は返済が進み、金利負担は軽くなる。
ROE は 13% 前後に上がる。ただ資本コストを超える稼ぎは 10 年のあいだに薄れるので、倍率は大きくは高まらない。それでも利益は今の 5 倍近くに増え、時価総額は今を大きく上回る。
- 軸受他(産業機械・鉄道・航空機・補修用):数量 29.1(産機・補修・特殊用途向け軸受の世界市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× NTN のシェア)× 価格 1.38(値段の指数(今を 1.0。10 年の物価 1.34 倍が中立))→ 売上 6,019 億円・営業利益 662 億円。営業利益率11.0%
- CVJ アクスル(自動車のドライブシャフト・ハブベアリング):数量 92.0(世界の自動車生産台数(百万台))× 価格 44(1 台あたりの NTN の売上(ドル、名目)。搭載製品の増減と値段の両方を含む)→ 売上 6,112 億円・営業利益 428 億円。営業利益率7.0%
倍率:事業の純利益 704 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.43 倍、時価総額 9,455 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:統合の効果が計画どおり出て、欧米の赤字も消え、自動車の値下げ圧力も和らぐ必要がある。実績のない組み合わせなので低めにした。
やや楽観 18% 再編と統合が効き、利益率が 7% 台に乗る 利益 515 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 1,162 円6,909 億円
欧州と米州の再編が一巡し、価格転嫁も通りやすくなる。NSK との統合では、調達と物流の統合が先に進み、工場の整理は緩やかに進む。交換比率は NTN にやや不利でも、利益の押し上げがそれを上回る。
補修用が伸び、軸受他の利益率は 9%、CVJ アクスルは 6% になる。全社の営業利益率は 7% 台半ばで、ROE は 10% 前後に戻る。自動車生産は横ばいで、数量での成長は小さい。
純有利子負債は徐々に減るが、金利負担は残る。優良とは言えないものの、資本コストをわずかに超える会社になる 10 年である。物価の分は価格に入るが、自動車メーカーへの値上げは物価に遅れる。
- 軸受他(産業機械・鉄道・航空機・補修用):数量 27.2(産機・補修・特殊用途向け軸受の世界市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× NTN のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.0。10 年の物価 1.34 倍が中立))→ 売上 5,470 億円・営業利益 492 億円。営業利益率9.0%
- CVJ アクスル(自動車のドライブシャフト・ハブベアリング):数量 91.1(世界の自動車生産台数(百万台))× 価格 43(1 台あたりの NTN の売上(ドル、名目)。搭載製品の増減と値段の両方を含む)→ 売上 5,909 億円・営業利益 355 億円。営業利益率6.0%
倍率:事業の純利益 515 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.21 倍、時価総額 6,288 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再編の効果が定着し、統合も一定の成果を出す、実現性が比較的高い組み合わせ。ただ過去の利益率の実績から、確率は 2 割弱にとどめた。
中立 32% 中立:立て直しは進むが、資本コストには届かない 利益 352 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 731 円4,348 億円
再編の効果と補修用の伸びで、営業利益率は 6% 弱まで戻る。統合は 2027 年 10 月に進み、調達の統合などで一定の効果が出るが、顧客の重複や統合費用で打ち消される部分もある。交換比率は NTN にやや不利になるものの、統合は NTN 単独の姿より悪い結果にはならない。
軸受他は 7%、CVJ アクスルは 5% 弱で、自動車メーカーの値下げ圧力が利益の上限を決める。自動車生産は横ばいで、数量は小さく減る。CVJ の 1 台あたりの価格が物価の 1.34 倍に届かず 1.22 倍にとどまるのは、自動車メーカーが毎年の原価低減を求め、材料高の転嫁が遅れるためだ。
純有利子負債は少しずつ減る。ただ金利は上がり、ROE は 7% 台にとどまる。資本コストを下回るので、会社の価値は帳簿の積み上げに見合わない 10 年になる。
- 軸受他(産業機械・鉄道・航空機・補修用):数量 26.1(産機・補修・特殊用途向け軸受の世界市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× NTN のシェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.0。10 年の物価 1.34 倍が中立))→ 売上 5,080 億円・営業利益 356 億円。営業利益率7.0%
- CVJ アクスル(自動車のドライブシャフト・ハブベアリング):数量 89.2(世界の自動車生産台数(百万台))× 価格 42(1 台あたりの NTN の売上(ドル、名目)。搭載製品の増減と値段の両方を含む)→ 売上 5,651 億円・営業利益 271 億円。営業利益率4.8%
倍率:事業の純利益 352 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 3,911 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再編の効果は出るが、自動車の値下げ圧力と金利負担が利益を削る。統合の効果は小さい側にも及ぶものの、資本コストには届かないという中心の見方。
やや悲観 28% 統合が重荷になり、利益率が 3% 台に戻る 利益 138 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 262 円1,560 億円
統合は進むが、効果より費用が先に出る。工場の整理は顧客の認証のやり直しで遅れ、重複する顧客が発注を分散させてシェアを落とす。交換比率は NTN に不利で、NTN 株主の取り分は目減りする。
中国メーカーの低価格攻勢が補修用にも及び、軸受他の利益率は 5% に下がる。CVJ アクスルは自動車メーカーの値下げ要求に押され、2% 台半ばになる。欧州の赤字は消えない。全社の営業利益率は 3% 台半ばで、ROE は 4% 弱にとどまる。
配当は維持するが、純有利子負債はほとんど減らない。金利が上がる 10 年で、利益が細る。補修用の伸びだけでは、新車向けの利益の薄さを埋めきれない。
- 軸受他(産業機械・鉄道・航空機・補修用):数量 24.4(産機・補修・特殊用途向け軸受の世界市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× NTN のシェア)× 価格 1.24(値段の指数(今を 1.0。10 年の物価 1.34 倍が中立))→ 売上 4,543 億円・営業利益 227 億円。営業利益率5.0%
- CVJ アクスル(自動車のドライブシャフト・ハブベアリング):数量 82.8(世界の自動車生産台数(百万台))× 価格 39(1 台あたりの NTN の売上(ドル、名目)。搭載製品の増減と値段の両方を含む)→ 売上 4,813 億円・営業利益 120 億円。営業利益率2.5%
倍率:ROE 3.6% が k 9% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 11.4 倍まで。統合費用と値下げ圧力で利益が細り、ROE が k を大きく下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 9.7 倍に置いた。純有利子負債 1,879 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 13 倍ほど。
確率:統合の費用と顧客の重複で利益が出にくく、自動車の値下げ圧力と中国勢の低価格攻勢も続く。実績の悪さと借金の重さから、中立と並ぶ重みを置いた。
悲観 16% 統合が失敗し、シェアと採算を失う 利益 −122 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 168 円1,001 億円
統合の混乱で顧客が離れ、CVJ アクスルの数量は 2 割強減る。電気自動車の一体型駆動部品に採用が移り、中国・韓国の部品メーカーに納入先を奪われる。値上げは通らず、価格は物価に遅れる。欧州と米州の工場は閉鎖と売却が続き、再編費用が重くのしかかる。
軸受他も中国メーカーの低価格品に押され、利益率は 2% 台にとどまる。全社の営業利益はほぼゼロとなり、金利負担で最終赤字に陥る。
配当は大きく削られ、純有利子負債の借り換えに追われる。優良な軸受メーカーという評価は失われ、再編の対象として扱われる 10 年になる。
- 軸受他(産業機械・鉄道・航空機・補修用):数量 22.1(産機・補修・特殊用途向け軸受の世界市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× NTN のシェア)× 価格 1.12(値段の指数(今を 1.0。10 年の物価 1.34 倍が中立))→ 売上 3,712 億円・営業利益 93 億円。営業利益率2.5%
- CVJ アクスル(自動車のドライブシャフト・ハブベアリング):数量 71.8(世界の自動車生産台数(百万台))× 価格 35(1 台あたりの NTN の売上(ドル、名目)。搭載製品の増減と値段の両方を含む)→ 売上 3,725 億円・営業利益 −75 億円。営業利益率-2.0%
倍率:稼ぐ力がほぼ消えるので、売れる資産の税後から借金を引いた床を使った。約 1,000 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本 2,969 億円で割った値。利益が谷まで落ちた年なので、純有利子負債 1,879 億円を足した EV ÷ 営業利益は参考にせず、床の資産で測っている。EV でも見た:時価総額 1,001 億円に純有利子負債 1,879 億円を足した EV は 2,880 億円で、この筋書きの営業利益 8 億円に対して高く見える。ただしこの値は利益の倍率でなく処分価値(床 1,000 億円)で置いたもので、借金は床の中で先に返す前提。利益の倍率だけで割安・割高とは言っていない。
確率:統合の失敗、自動車メーカーの調達先変更、中国勢のシェア拡大が重なる構造的な負け。過去 20 年に赤字の期が 8 回あることと借金の重さから、他社より少し厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
軸受他(産業機械・鉄道・航空機・補修用)
産業機械・鉄道・航空機・風力発電向けの軸受と、補修用(アフターマーケット)向けの軸受などの需要。
| 数量産機・補修・特殊用途向け軸受の世界市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× NTN のシェア | 価格値段の指数(今を 1.0。10 年の物価 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 23.3 | 1.00 | 3,489 | 123 |
| 10 年後 中立 | 26.1 | 1.30 | 5,080 | 356 |
取り方:会社開示の軸受他は売上 3,489 億円・区分利益 123 億円。150 円で割ると 23.3 億ドル。世界の産機・補修・特殊用途向け軸受の市場を約 250 億ドル(NSK の産機の市場見積り 190 億ドルに補修・航空・鉄道を足した目安)、NTN のシェアを 9.3% と推定した。シェアは数量の側に置き、価格の欄は値段の指数とした。
CVJ アクスル(自動車のドライブシャフト・ハブベアリング)
自動車向けの等速ジョイント(CVJ)・ドライブシャフト・ハブベアリング。鉄道・航空機向けの一部も含む。
| 数量世界の自動車生産台数(百万台) | 価格1 台あたりの NTN の売上(ドル、名目)。搭載製品の増減と値段の両方を含む | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 92.0 | 35 | 4,775 | 188 |
| 10 年後 中立 | 89.2 | 42 | 5,651 | 271 |
取り方:会社開示の CVJ アクスルは売上 4,775 億円・区分利益 188 億円。世界の自動車生産を約 92 百万台(NSK が置く前提と同じ)とみて、150 円で割ると 1 台あたり約 34.6 ドル。NTN のシェアと搭載製品の差はこの 1 台あたりの額に入る。10 年の中立は、値上げが物価に遅れる(1.22 倍)と置いた。
リスクと懸念
統合比率と主導権
NSK との統合比率は最終契約で決まる。売上・利益とも NSK が大きく、取締役の配分も NSK が多い。NTN の株主に不利な比率になれば、事業が改善しても価値が目減りする。設立は 2027 年 10 月の予定で、当局の審査次第では遅れる。
統合の実行(シナジーと費用)
工場の統廃合・調達の一本化は、顧客の認証のやり直しや人員の整理を伴う。両社の設計や取引先が重なる部分では、顧客が発注を分散させてシェアを落とす恐れもある。シナジーの額は未公表で、費用が先に出る。
欧州の赤字
欧州の区分利益は 2022 年 3 月期から 5 期連続のマイナスである。工場再編を進めても黒字に戻っていない。欧州の自動車生産が戻らないまま再編が続くと、特別損失が繰り返される。
自動車メーカーの値下げ要求
CVJ アクスルは売上の半分強を占め、納め先の自動車メーカーが値段を決める。2024 年 3 月期は材料高の転嫁が遅れて利益が計画を下回った。値上げが通らない局面が来ると、利益率は 2% 台に戻りうる。
金利と借金
純有利子負債は 1,879 億円。営業利益を支払利息で割ると 4 倍にとどまる。借り換えのたびに金利が 3% 台半ばへ上がると、利払いが 10 年で 50 億円近く増える。景気の谷では返済の余力が細る。
中国勢の低価格攻勢
汎用の軸受では、中国メーカーが低価格で世界の市場に入り込んでいる。補修用でも安い製品が増えれば、NTN が頼る高い利益率の部分が侵される。品質で追いつかれれば、値決め力も落ちる。
景気と為替の振れ
自動車生産と製造業の設備投資が落ちると、固定費が重い工場の利益は大きく減る。赤字の期は過去 20 年で 8 回ある。中東情勢で補修用の出荷が止まっているとの会社の説明もあり、足もとの先行きも読みにくい。
今後の分かれ目
- NSK との最終契約で、NTN 株主に不利な交換比率が示されたら
- 事業の見立てが変わらなくても、NTN の株主の取り分は減る。中立より下の筋書きに重みを移す。
- 最終契約で、年間のコスト削減額が具体的に開示され、重複工場の整理が日程に乗ったら
- 統合の成功を示す材料になる。やや楽観の確率を上げ、営業利益率の見方を引き上げる。
- 欧州の区分利益が 2 期続けて黒字になったら
- 再編の効果が定着したと判断できる。中立の利益率の置き方を上へ見直す。
- 補修用の売上が前年から 1 割増で伸び続けたら
- 利益の質が上がる。軸受他の利益率の見方を引き上げる。
- 自動車メーカーが 2 年続けて値下げ要求を強め、価格転嫁が止まったら
- CVJ アクスルの利益率が落ちる。やや悲観側に確率を寄せる。
- 世界の自動車生産が 1 割以上落ち込んだら
- 固定費の重さから利益が大きく削られる。純有利子負債の返済計画を確認し、悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- NSK との最終契約(統合比率・シナジー額・取締役の構成。基本合意から 6 か月以内が目途)
- 欧州と米州の区分利益、再編の特別損失の残り
- 補修用の売上の伸びと軸受他の営業利益率
- 純有利子負債と支払利息、借り換えの金利
- 世界の自動車生産台数と、自動車メーカーの値下げ要求
倍率と資本コストの決め方
事業を会社開示の 2 区分(軸受他・CVJ アクスル)に分け、実質の数量と名目の価格で 10 年の売上を積み、利益率は筋書きごとの構造から置いた。倍率は利益ベースの式 (1−g÷RONIC)÷(k−g)(k 9%=基本 7.5% に quality +1.25%、g 4%、残る割合 1/2)の上限の 8〜9 割で置き、ROE が k を下回る筋書きは 1÷k を上限とした。今の株価と同業の倍率は根拠に使っていない。NTN の純利益÷営業利益が過去より高いのは、再編損失と金利負担が薄れる前提による(net_op_why)。統合は交換比率が未定なので、NTN 単独の価値に統合のシナジーを筋書きごとに足し引きし、比率による価値の移転は最悪の筋書きの利益率に含めた。10 年後の数字は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いており、新リース会計基準の影響は小さい。今の値段に寄せた所はない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.95→13.43 倍・やや楽観 PER 10.7→12.21 倍・中立 PER 9.14→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.25% = 8.75%。NSK との統合や欧州の赤字は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 9.00%。