結論
澁谷工業は、飲料や薬を無菌のままボトルやバイアルに詰める設備の会社だ。筆者の結論は「やや割高」である。事業の質は高いが、利益率の伸びしろと現金の使い道に、今の値段ほどの余裕は見えない。
稼ぎの柱は充填設備で、国内の無菌飲料充填ではほぼ一強の位置にある。中国や東南アジアへの輸出と、製薬・再生医療向けが伸びている。一方、半導体や医療機器を担うメカトロと農業用設備は利益が薄い。
10年の中立では、売上は2,300億円台まで伸びる。だが営業利益率は10%台前半にとどまると見る。海外の安値攻勢と、他社製の機器を組み込む大型案件が、利益率の上値を押さえるからだ。
財務は無借金で、現金が厚い。ただ株主への還元は配当が中心で、ROEは9%前後に低迷する。使われない現金が眠るほど、資本の稼ぐ力は薄まる。
中立でも、10年の年率は資本コストに届かない。悲観では今の4割弱まで下がる。上下の幅を確率で重ねると、本質価値は今の値段を1割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るのは3つだ。事業が10年後も強いか、資本をうまく使うか、払う値段に安全域があるか。
事業は強い。無菌技術は、一度採用されると乗り換えにくい。飲料・薬という生活に欠かせない分野で、需要も安定している。この点は高く評価できる。
一方、資本の使い方は評価が割れる。無借金で現金も厚いが、稼いだ利益の7割近くを事業にため込み、ROEは9%前後にとどまる。使い道が見えない現金は、安全に見えて、実は株主の稼ぎを削っている。
安全域は薄い。中立の筋書きでも、10年の年率は資本コストに届かない。悲観では今の4割弱まで下がる。この形では、値段に余裕を見込みにくい。
筆者が本業で持ち続けたいと思うのは、現金を株主に返し、海外の利益率も国内に近づけた姿だ。それが見えるまでは、事業を認めつつ、買いの根拠は弱いと考える。
何で稼ぐ会社か
澁谷工業は、石川県金沢市に本社を置く機械メーカーだ。売上の6割を占めるのが、パッケージングプラント事業である。ペットボトル飲料や食品、化粧品、薬を、菌が入らないように充填する設備を、ラインごと設計して納める。
中身は大きく3つに分かれる。食品用が約570億円、薬品・化粧品用が約190億円、酒類用が約50億円だ。顧客は大手の飲料メーカーや製薬会社だ。納めたあとの保守と部品の収入もある。
メカトロシステム事業は売上の約3割で、半導体の製造装置、医療機器(人工透析装置など)、金属加工システムを手がける。農業用設備事業は果物などの選果選別プラントで、売上の1割弱だ。
成長の軸は2つある。1つは海外の飲料向けで、中計は海外売上の1.4倍を掲げる。もう1つは製薬と再生医療だ。無菌を保つ技術を、細胞を自動で培養する装置へ広げている。
生産は国内の工場が中心で、石川県内で4工場に約175億円を投じる。人工透析装置や充填設備を増産する設備だ。事業は受注生産で、納めるまで数カ月から1年以上かかる。このため売上と利益は、受注の時期でぶれやすい。
優良さと弱いところ
澁谷工業の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、無菌技術の積み重ねと、ライン全体をまとめて納める力にある。国内の飲料の無菌充填では、8割から9割を握るとの推定がある。菌を入れない設計は、トラブルが起きたときの損失が大きい。だから顧客は実績のある相手から買い替える。
ただ、この堀は海外では薄い。世界にはドイツのクローネス、フランスのシデル、KHSといった大手がいて、中国勢も安値で追う。会社自身が「低価格攻勢に対抗する」と掲げ、小型化とコスト削減の社内プロジェクト(ZHA)を進めている。筆者は、国内ほどの利益率が海外では取れないと見る。
利益率の質にも不安がある。足元では、他社製の機器を組み込む大型案件が増え、売上が伸びても利益が増えにくい。メカトロは半導体の回復遅れと医療機器の部材不足で、利益が細っている。
資本効率は課題だ。ROEは8.6%と、過去10年の中央値10.3%を下回る。自己資本比率は約7割、現金は借金を339億円上回る。安全だが、使いきれていない。経営は1996年6月期以降に減配がなく、堅実さは評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
澁谷工業の市場は、大きく3つある。飲料・食品の充填設備、製薬の充填設備、半導体と医療の装置だ。いずれも景気の波を受けるが、機械産業の中では波が小さい。飲料や薬の需要は、景気が悪くても大きくは減らないからだ。
飲料の無菌充填は、世界で健康志向と衛生意識が追い風になる。砂糖入りの炭酸から、お茶や無糖の飲料へ移る流れで、常温で長く持つ無菌飲料が増える。伸びるのは東南アジアや中国、中南米だ。一方で、日本の飲料市場は人口減で縮む。国内は更新需要が中心になる。
製薬では、バイオ医薬品や注射剤が増え、無菌で詰める設備の需要が続く。再生医療は市場がまだ小さいが、細胞を自動で培養する装置は、人手不足と品質管理の面から伸びる余地がある。
半導体関連は、AI向けの投資が戻れば息を吹き返す。ただ回復は遅れており、時期は読めない。農業用設備は、人手不足を背景に自動化の需要はある。それでも案件の数が少なく、年ごとの振れが大きい。
競争の形は、国内は寡占、海外は分散だ。中国勢が低価格の設備で東南アジアや中東に出てきており、価格の上がり方を抑える。筆者は、この市場の実質の伸びを年1.5%から2.5%ほどと見る。物価の上昇は別に、価格へ入れて考える。
資本政策と M&A
還元の方針は堅実だが控えめだ。中計は配当性向30%以上を掲げ、自社株買いは「機動的」とするにとどまる。3年間の還元は80億円から120億円を見込む。一方、営業のお金の流れ410億円は、新工場や開発、買収に振り向ける。
現金は339億円の純現金で、時価総額の2割にあたる。成長投資に使う計画はあるが、石川県の4工場は進行中で、残りの使い道は決まっていない。ROEが資本コストをやや上回る程度では、現金が眠るだけ価値が薄まる。
株主は、信託銀行や生命保険、地元の北國銀行のほか、取引先持株会、公益財団法人の澁谷学術文化スポーツ振興財団が名を連ねる。安定株主が厚く、敵対的な買収は起きにくい。創業家の持株の実態は確認できていない。
M&Aは、必要なら実施するとしている。大型の買収は今のところ見当たらない。筆者は、使い道が見つからないなら、配当や自社株買いに回すほうが、株主には明確に得だと考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の無菌飲料充填は、ほぼ一強だ。この地位は10年先も崩れにくい。顧客は品質の事故を恐れ、実績のある会社から買い替える。保守や部品も含めた継続収入が、利益の土台を厚くしている。
海外では、東南アジアや中南米で無菌飲料が伸びる。2025年にタイ企業へ納めた1号機は、小型で据え付けが早い設計だ。コスト削減の社内プロジェクト(ZHA)が実を結べば、海外でも欧州勢と渡り合える。海外売上を1.4倍にする中計の目標は、射程にある。
製薬と再生医療は、会社の上振れの源になる。無菌技術を細胞培養の自動化へ広げており、再生医療が実用段階に入れば、設備の売上が一段上がる。半導体も、AI向けの投資が戻れば、メカトロの利益が数倍に戻る。
財務は無借金で、現金は339億円ある。新工場の増産が軌道に乗れば、売上は2,000億円を超え、営業利益率は2桁後半に乗る。還元が増えれば、ROEは10%台に上がる。
何より、この事業は景気の波に強い。飲料も薬も、不況で買う量が大きくは減らない。受注生産の機械メーカーとしては、利益が安定している。10年を通じて、資本コストを上回る稼ぎが続くと見るのが自然だ。
慎重な見方
今の好調は、受注の山の上にある。2026年6月期の上期は、売上が伸びても営業利益が3割減った。他社製の機器を組み込む大型案件が増え、利益率が上がらない構造になっている。この傾向は一時的とは言い切れない。
海外は、欧州の大手と中国勢の間で、価格が決まる市場だ。国内の80%超のシェアは、海外では通用しない。コスト削減の取り組み(ZHA)も、まだ1号機を納めた段階だ。海外売上1.4倍の目標は、利益を削ってのシェア買いになりかねない。
メカトロと農業用設備は、利益が細っている。半導体は回復の時期が読めず、医療機器は部材不足が続く。2桁の利益率を支えているのは、実質的に充填設備だけだ。
何より気になるのは資本の使い方だ。ROEは8.6%で、資本コストをようやく上回る程度にすぎない。現金は眠り、還元は配当性向3割が目安にとどまる。中計の利益目標160億円も、足元の進み具合を見ると、達成は簡単ではない。
さらに、10年という長さで見ると、中国勢の技術は確実に上がる。今は国内の寡占に守られていても、海外で磨かれた安い設備が日本に入ってくる日が来る。堀が国内で崩れれば、利益率の土台が揺らぐ。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、事業の地位と成長の道筋で説得力がある。だが慎重な言い分は、利益率と資本効率という、数字で確かめられる点を突いている。筆者は、こちらをやや強いと見て、確率を悲観側にわずかに寄せた。
中立が約3分の1、下振れ側(やや悲観と悲観)が合わせて3分の1強、上振れ側が3分の1弱とした。悲観の下げは大きく、上振れの上げは小さい。この非対称が、本質価値を今の値段の下に置いている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 10,318 円2,855 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,824 円505 億円)。 今の値に割り戻すと 6,545 円1,811 億円、今との差 +24.9%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 18,319 円5,068 億円 | 2,704 円748 億円 | +301.2% | +14.9% | 2,102 円582 億円 |
| やや楽観 | 22% | 15,045 円4,162 億円 | 2,281 円631 億円 | +230.7% | +12.7% | 3,812 円1,055 億円 |
| 中立 | 33% | 12,040 円3,331 億円 | 1,912 円529 億円 | +166.3% | +10.3% | 4,604 円1,274 億円 |
| やや悲観 | 23% | 4,458 円1,233 億円 | 1,417 円392 億円 | +12.1% | +1.2% | 1,351 円374 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,481 円410 億円 | 788 円218 億円 | −56.7% | −8.0% | 272 円75 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,318 円2,855 億円 | 1,824 円505 億円 | +131.7% | +8.8% | 12,142 円3,359 億円 |
今の株価時価総額 5,240 円1,450 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 海外の安値攻勢をしのぎ、製薬・再生医療が立ち上がる 利益 272 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 18,319 円5,068 億円
海外の無菌飲料充填が、東南アジアと中南米で定着する。小型で据え付けの早い設備が評価され、欧州勢と渡り合う。製薬では注射剤とバイオ医薬品の充填設備が伸び、細胞培養の自動化装置も実用段階に入る。
充填設備の実質の売上は、10年で5割近く伸びる。価格は物価並みに上がり、利益率は17%に乗る。メカトロはAI向けの半導体投資が戻り、利益率が1割に届く。農業用設備も人手不足の追い風で、薄い利益率ながら黒字を保つ。
営業利益は350億円近くまで増える。現金は新工場と配当・自社株買いに使われ、ROEは1割台の後半に近づく。会社の2030年6月期の売上2,000億円は、前倒しで超える。
ただし、無菌市場の競争は変わらず、利益率が2割を超えるところまでは行かない。堀は強いが、それ以上には広がらない筋書きだ。
- パッケージングプラント事業(無菌充填設備):数量 1,243(対象市場(実質・億円)× 取れるシェア=実質の売上)× 価格 134(価格の指数(今=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 1,666 億円・営業利益 283 億円。実質の取り分は10年で48%増。価格は物価並み
- メカトロシステム事業(半導体・医療機器・金属加工):数量 550(実質の売上(億円。装置・機器の実質の出荷額))× 価格 134(価格の指数(今=100))→ 売上 737 億円・営業利益 74 億円。AI向けの半導体投資の回復で実質41%増
- 農業用設備事業(選果選別プラント):数量 139(実質の売上(億円))× 価格 134(価格の指数(今=100))→ 売上 186 億円・営業利益 13 億円。人手不足の追い風で実質10%増
倍率:事業の純利益 270 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)112 億円。全体の PER 18.34 倍、時価総額 5,062 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の安値攻勢をしのぎ、製薬・再生医療も立ち上がる必要があり、起きる確率は1割とみた。国内の地位と中計の海外目標は追い風だが、利益率の読みが難しい。
やや楽観 22% 無菌充填は堅調、メカトロの利益が戻る 利益 230 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 15,045 円4,162 億円
国内の無菌飲料充填は堅調を保ち、海外も計画どおりに伸びる。ZHAの成果で、海外の受注が少しずつ増える。製薬向けも堅調で、再生医療は小さく立ち上がる。
充填設備の売上は、10年で4割ほど伸びる。利益率は15%台に上がる。メカトロは半導体の回復と医療機器の増産で、利益率が8%台に戻る。農業用設備は横ばいだ。
営業利益は290億円ほどになる。還元は配当性向を4割近くまで引き上げ、自社株買いも少し加わる。ROEは10%に乗る。
会社の中計目標は、1年から2年遅れで、ほぼ達成される形だ。強気の見方の中心に近い筋書きである。
- パッケージングプラント事業(無菌充填設備):数量 1,184(対象市場(実質・億円)× 取れるシェア=実質の売上)× 価格 134(価格の指数(今=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 1,587 億円・営業利益 246 億円。実質41%増(年3.5%)
- メカトロシステム事業(半導体・医療機器・金属加工):数量 499(実質の売上(億円。装置・機器の実質の出荷額))× 価格 134(価格の指数(今=100))→ 売上 669 億円・営業利益 57 億円。半導体回復と医療機器の増産で実質28%増
- 農業用設備事業(選果選別プラント):数量 132(実質の売上(億円))× 価格 134(価格の指数(今=100))→ 売上 177 億円・営業利益 11 億円。実質5%増
倍率:事業の純利益 228 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)112 億円。全体の PER 17.64 倍、時価総額 4,133 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の寡占と海外の拡大が計画どおり進む筋書き。受注残が豊富で、足元の需要は強いが、利益率が足元で細っているため、2割強にとどめた。
中立 33% 売上は物価並みに伸びるが、利益率は10%台前半にとどまる 利益 192 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 12,040 円3,331 億円
充填設備は、国内の更新と海外の拡大で、実質で年3%ほど伸びる。価格は物価並みに上がるが、海外の安値攻勢と他社製機器を組み込む大型案件が、利益率の上値を押さえる。利益率は14%前後で、今とほぼ同じだ。
メカトロは、半導体が緩やかに戻り、医療機器の増産で利益率が7%に改善する。農業用設備は横ばいで、利益率は5%だ。
営業利益は250億円近くになる。売上は2,300億円台まで増え、中計の2030年6月期2,000億円は、2年ほど遅れて通過する。配当性向は3割台半ばで、自己資本はゆっくり積み上がる。
ROEは9%台で、資本コストをわずかに上回る程度だ。優良ではあるが、突出した資本効率の会社にはならない。それが筆者の中心の読みである。
- パッケージングプラント事業(無菌充填設備):数量 1,126(対象市場(実質・億円)× 取れるシェア=実質の売上)× 価格 134(価格の指数(今=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 1,509 億円・営業利益 211 億円。実質34%増(年3%)。価格は物価並み
- メカトロシステム事業(半導体・医療機器・金属加工):数量 476(実質の売上(億円。装置・機器の実質の出荷額))× 価格 134(価格の指数(今=100))→ 売上 638 億円・営業利益 45 億円。半導体の緩やかな回復で実質22%増
- 農業用設備事業(選果選別プラント):数量 126(実質の売上(億円))× 価格 134(価格の指数(今=100))→ 売上 169 億円・営業利益 8 億円。実質横ばい
倍率:事業の純利益 190 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)112 億円。全体の PER 16.74 倍、時価総額 3,291 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の数量(実質で年1.5〜2.5%)と物価を素直に積み、利益率を足元と同じ水準に置く落としどころ。3分の1を割り当てた。
やや悲観 23% 海外の価格競争で充填の利益率が落ち、ROEが資本コストを下回る 利益 122 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 4,458 円1,233 億円
海外の価格競争が思ったより厳しくなる。中国勢が東南アジアや中東で低価格の設備を売り込み、澁谷の充填設備は海外でシェアを取りきれない。国内でも、大手飲料メーカーの値下げ要求が強まる。
充填設備の実質の売上は、10年で1割台の伸びにとどまる。利益率は11%まで下がる。メカトロは半導体の回復が遅く、利益率が4%に張り付く。農業用設備は縮み、利益がほぼ消える。
営業利益は150億円ほどで、今より増えるものの、売上の伸びほどは増えない。還元は配当性向3割台で、自己資本が積み上がり、ROEは6%台に沈む。資本コストを下回る水準だ。
事業は黒字で、現金も厚い。だが優良とは言えず、株主の資本は効率よく働かない。
- パッケージングプラント事業(無菌充填設備):数量 974(対象市場(実質・億円)× 取れるシェア=実質の売上)× 価格 134(価格の指数(今=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 1,305 億円・営業利益 144 億円。実質16%増にとどまり、価格も物価に届かない
- メカトロシステム事業(半導体・医療機器・金属加工):数量 429(実質の売上(億円。装置・機器の実質の出荷額))× 価格 130(価格の指数(今=100))→ 売上 558 億円・営業利益 22 億円。実質10%増。価格は伸び悩む
- 農業用設備事業(選果選別プラント):数量 113(実質の売上(億円))× 価格 130(価格の指数(今=100))→ 売上 147 億円・営業利益 3 億円。実質10%減
倍率:ROE 6.4%は k 7%以下で、ためた利益は額面を下回る価値。PER の上限は 1÷k=12.9倍。稼ぐ力が資本コストに届かず、この水準でも上限より低い9.0倍とした(上限の7割)。
確率:海外の価格競争は、会社自身が認める課題で、足元の利益率の細りとも整合する。他社製機器の組み込みが増える構造も、利益率の上値を押さえるため、やや高めの2割強とした。
悲観 12% 海外で価格に巻き込まれ、周辺事業も不振で優良さを失う 利益 43 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,481 円410 億円
欧州の大手と中国勢に挟まれ、海外で価格に巻き込まれる。国内の飲料メーカーも、設備の更新を延ばしたり、中国製の安い設備に切り替えたりする。無菌で8割から9割というシェアは、実質の売上の縮小として現れる。
充填設備の売上は、実質で1割縮み、価格も物価の伸びに届かない。利益率は7%に落ちる。メカトロは半導体の大型案件の損失で赤字に近づき、農業用設備も赤字が続く。
営業利益は50億円ほどに沈む。新工場の固定費が重く、利益が思うように出ない。現金は残るものの、事業を縮める方向に使われる。
無菌技術の堀そのものが、海外で通用しなくなる。優良企業という評価は、10年のあいだに失われる。
- パッケージングプラント事業(無菌充填設備):数量 756(対象市場(実質・億円)× 取れるシェア=実質の売上)× 価格 120(価格の指数(今=100。物価3%で10年1.34倍が基本))→ 売上 907 億円・営業利益 63 億円。実質10%縮小、価格も物価の伸びを大きく下回る
- メカトロシステム事業(半導体・医療機器・金属加工):数量 332(実質の売上(億円。装置・機器の実質の出荷額))× 価格 115(価格の指数(今=100))→ 売上 382 億円・営業利益 4 億円。実質15%縮小。大型案件の損失
- 農業用設備事業(選果選別プラント):数量 101(実質の売上(億円))× 価格 115(価格の指数(今=100))→ 売上 116 億円・営業利益 0 億円。実質20%縮小
倍率:稼ぐ力は営業利益50億円規模で、純利益は約40億円。k 7%で割ると約550億円。これに余った現金のうち戻る分を足した約600億円が上限だが、ROE が k を大きく下回る筋書きなので、やや悲観の倍率(9.0倍)を超えないよう約410億円に置いた。今の自己資本 1,191億円で割った0.34倍。
確率:海外で価格に巻き込まれ、周辺事業も不振が続くには数年の悪化が要る。ただ、10年は長く、国内シェアの高さが逆に海外・国内の両面の競争を呼ぶ余地もあり、1割強を置いた。5%未満にはしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
パッケージングプラント事業(無菌充填設備)
飲料・食品・薬品・化粧品・酒類を無菌で充填するラインを設計・製造し、納入後の保守・部品も手がける。会社の利益の大半を稼ぐ事業。
| 数量対象市場(実質・億円)× 取れるシェア=実質の売上 | 価格価格の指数(今=100。物価3%で10年1.34倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 840 | 100 | 840 | 120 |
| 10 年後 中立 | 1,126 | 134 | 1,509 | 211 |
取り方:2026/06期の売上840億円(食品574・薬品化粧品187・酒類48)。世界の飲料・食品用充填システム約1兆円と医薬用充填・アイソレータ・細胞培養約4千億円を合わせた1.4兆円(クローネス・シデル・KHSなどの売上規模からの推定)に、約6%のシェアを置いた。営業利益は上期65億円(利益率約15%)から年約120億円と推定(開示は確認できず)。価格は今を100の指数にする。
メカトロシステム事業(半導体・医療機器・金属加工)
半導体製造装置、人工透析装置などの医療機器、金属加工システムを製造する。受注の山谷が大きく、利益は薄い。
| 数量実質の売上(億円。装置・機器の実質の出荷額) | 価格価格の指数(今=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 390 | 100 | 390 | 17 |
| 10 年後 中立 | 476 | 134 | 638 | 45 |
取り方:2026/06期の売上390億円。半導体の回復遅れと医療機器の部材不足で利益が細り、営業利益は約17億円(利益率約4%)と推定(前期は23億円との報道。今期の開示は未確認)。
農業用設備事業(選果選別プラント)
果物・野菜の選果選別プラントを設計・製造する。案件の数が少なく、年ごとの振れが大きい。
| 数量実質の売上(億円) | 価格価格の指数(今=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 126 | 100 | 126 | 4 |
| 10 年後 中立 | 126 | 134 | 169 | 8 |
取り方:2026/06期の売上126億円。新工場の稼働による負担と案件の端境期で利益が細り、営業利益は約4億円(利益率約3%)と推定(開示は未確認)。調整額(本社費など)は約-10億円、合計で営業利益131億円。
リスクと懸念
受注の山谷
充填設備は大型の受注生産で、顧客が投資を先送りすると売上が動く。関税政策の不透明さで、2025年には飲料充填機の受注が鈍った。受注残は659億円と厚いが、前期末より約1割減っている。2009年6月期などには赤字になった例もある。
海外の価格競争
欧州の大手と中国勢が、海外の無菌充填で価格を決める。会社は「低価格攻勢に対抗する」と明言し、小型化とコスト削減の社内プロジェクトを進める。海外売上を1.4倍にする中計の目標は、利益を削ったシェア買いになる恐れがある。
利益率の質
他社製の機器を組み込む大型案件が増え、売上が伸びても利益が増えにくい。2026年6月期の上期は営業利益が3割減った。中計の2027年6月期の営業利益160億円も、足元の進み具合から簡単ではない。
メカトロの不振
半導体の回復は遅れ、医療機器は部材不足の影響を受けた。大型案件のコスト超過で、メカトロの利益は細っている。ここが立て直せないと、全社の利益は充填設備の1本足になる。
現金の使い道
純現金は339億円と時価総額の2割にのぼる。中計は還元を3年で80億円から120億円とし、自社株買いは機動的としか言わない。使い道の決まらない現金が眠り続けると、ROEは資本コストに届かない水準が続く。
設備投資の回収
石川県で4工場に約175億円を投じ、人工透析装置や充填設備を増産する。償却と人件費が増えるので、売上が計画に届かないと利益を圧迫する。農業用設備の新工場の負担は、すでに利益に出ている。
安定株主と資本政策
取引先持株会、金融機関、生命保険、公益財団法人で株主の大半が固まる。敵対的な買収は起きにくいが、現金を株主に戻す圧力も弱い。資本政策が変わるかどうかは、会社自身の判断に左右される。
今後の分かれ目
- 海外の無菌飲料充填で、ZHAの設備の受注が東南アジア・中南米で連続して取れる
- 海外売上1.4倍の目標が現実になり、充填設備の利益率が15%台で定着する。楽観寄りの筋書きに近づく。
- 中国勢の低価格設備が、東南アジアや国内でも採用され始める
- 充填設備の価格が物価に届かなくなり、利益率が1割前後に下がる。やや悲観の筋書きが中心になる。
- 2027年6月期の営業利益が160億円に届く
- 他社製機器の組み込みによる利益率の悪化は一時的だったとわかり、10年の中立の利益率を上げる余地が出る。
- 純現金を使った自社株買いや増配が、数百億円の規模で出る
- ROEが資本コストを明確に上回るようになり、1株あたりの価値の積み上がりが速まる。中立の倍率の上限も上がる。
- 半導体投資が戻り、メカトロの受注が2年続けて増える
- メカトロの利益率が1割に近づき、全社の営業利益が20億円から30億円増える。
- 再生医療が実用段階に入り、自動培養装置の受注が大きく伸びる
- 充填設備に続く第2の柱になり、売上と利益の天井が上がる。楽観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 充填設備の受注高と受注残(特に海外の飲料向け)
- 営業利益率(他社製機器の組み込み案件の比率)
- ZHAの設備の海外受注(タイ以外への展開)
- 純現金の使い道(自社株買い・増配・M&A)
- メカトロの受注(半導体・医療機器)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の稼ぐ力(ROE・成長・資本コスト)から式で置き、今の株価や同業の倍率は見ていない。中立のROEは9%で、資本コスト7%のすぐ上に自然に落ちた結果であり、倍率や利益率を床や今の値段に合わせて逆算していない。受注生産で利益がぶれることと、低利益率の大型案件が混ざる質の悪さから、倍率は上限の8割前後にとどめた。セグメントの営業利益は開示を確認できず、上期の数字と報道から推定したので、利益率の置き方には誤差がありうる。借りて営む店舗や倉庫が中心の会社ではないので、新リース会計基準の影響は小さく、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→18.34 倍・やや楽観 PER 13.4→17.64 倍・中立 PER 12.9→16.74 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25% を足した 7.75%。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。