結論
ヤマシンフィルタは、建設機械の油圧装置やトランスミッションに使うフィルタを作る会社だ。売上の約 9 割が建機向けで、新車に付けるライン品と、使い続けるための交換部品である補給品を売る。筆者の結論は、事業は優良だが、今の値段は成長をかなり先に払っている、というものだ。総合は適正の範囲に収まる。
2026 年 3 月期の営業利益は 26 億円で、営業利益率は 12% を超える。北米の建機メーカー向けでシェアを広げており、受注残も過去最高に近い。補給品は利益率が高く、建機が動き続ける限り積み上がる。筆者は、この収益の質を高く買う。
ただ、会社が描く 2030 年 3 月期の姿は、営業利益 105 億円と今の 4 倍だ。うち 4 割強は、まだ売上がほとんどない新素材のナノファイバーで稼ぐ計画である。中立の筆者の見立ては、既存事業が名目で年 5% ほど伸び、新素材は小さく育つというものだ。この姿では、10 年後の価値は今の時価総額と同程度にとどまる。
財務は堅い。自己資本比率は 81% で、純現金も 48 億円ある。その現金をどう使うかが、これからの勝負になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後も強い事業か」を問う。建機が動き続ける限り、フィルタの交換は続く。補給品が売上の 6 割を占める構造は、景気の波に強い。ここは合格だ。
次に、稼いだお金の使い道を見る。事業の稼ぎは安定し、借入もない。この余力をどこに使うかが勝負だ。配当を増やし、自己株式を買うのは筋が通る。新素材への投資は、成功すれば大きいが、失敗すれば現金が消える。
安全域はどうか。悲観の場合でも、純現金と事業の資産が下値を支える。ただ、今の値段は、新素材の成功をかなり織り込んだ水準に見える。既存事業だけで測ると、払いすぎの感が残る。
最後に、読みやすさ。建機用フィルタは、受注残と稼働台数から読みやすい事業だ。一方、新素材の売上は予想が難しい。わかりにくい部分に、高い倍率は払えない。確信度は中くらいに置いた。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は建機用フィルタ事業で、売上の約 89%、2026 年 3 月期は約 186 億円を占める。油圧ショベルなどの油圧回路やトランスミッションに入る、ろ過の部品を作る。
売り方は 2 つある。1 つはライン品で、建機メーカーの組み立てラインに納める新車用だ。もう 1 つは補給品で、使われている建機の交換用として、メーカーの部品網や代理店を通じて売る。補給品は売上の約 6 割を占め、利益率もライン品より高い。新車で採用を取れば、その後の補給品の売上につながる。会社は「ライン品で入り、補給品で稼ぐ」循環と呼ぶ。
もう 1 つの柱はエアフィルタ事業で、売上の約 11% だ。工場やクリーンルーム向けの空気用フィルタを扱う。2025 年に基幹システムを入れ替えた際、出荷が遅れて赤字に落ちた。今は回復の途中だ。ほかに、産業用・プロセス用のフィルタも少額ある。
売上の地域は広く、アジア、北米・南米、中国の順に伸びている。北米の大手建機メーカー向けが全体の約 23% を占め、会社はこれを 2030 年 3 月期に 36% へ高める計画だ。
さらに、自社開発の極細繊維「ナノファイバー」を使い、衣類の中綿、生体センサーの電極、電磁波シールドなど、フィルタ以外の素材事業を立ち上げようとしている。まだ売上はごくわずかである。
優良さと弱いところ
優良な会社かといえば、収益の質は高く、堀は普通と筆者は見る。堀とは、他社がまねできない強みのことだ。
強みは 2 つある。1 つは、建機メーカーの設計に入り込む力だ。ライン品に一度採用されると、その車種の間は外れにくい。もう 1 つは補給品で、メーカーの純正品の位置づけを得て、使われ続ける建機から毎年の売上が出る。補給品比率は 6 割台で、景気の波を和らげる。
一方、弱さもある。顧客は大手の建機メーカーに偏り、価格交渉の力はメーカー側が強い。北米の関税は、販売価格の見直しで吸収したと会社は説明する。それが続くかは、メーカーとの関係しだいだ。
数字にも波がある。営業利益率は 2021 年 3 月期にマイナスになり、2024 年 3 月期も 8% 弱にとどまった。その後 13% 前後に戻したのは、シェア獲得と原価低減の成果だ。ROE の中央値は 5% 台と低いが、2018 年に増資で自己資本が膨らんだ影響も大きい。
経営は、本業の安定が見えたところで新素材に踏み出した。意欲は高く評価できる。だが、売上が立つ前の投資は、資本の使い方として最も見極めが難しい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社が戦う市場は、建機用の消耗部品である。需要は、建機の新車生産と、動いている建機の台数で決まる。
世界の建設機械の市場は、名目で年 4〜6% の伸びが見込まれている。数量は実質で年 1〜3% ほどで、残りは単価の上昇だ。北米のインフラ投資、新興国の都市化、鉱山の投資が支える。中国は停滞が長引くが、同社は中国でも鉱山機械向けと日系の純正品の訴求で売上を戻している。
補給品の側は、建機の稼働台数が積み上がるほど伸びる。稼働台数は新車が入るたびに増え、減るのは廃棄のときだけである。需要のぶれが小さい点が、この事業の最大の魅力だ。
競争は、海外のドナルドソンやパーカー・ハネフィンのような大手と、安価な互換品の業者に挟まれる。互換品は補給品の価格を押し下げる。メーカーの純正の位置づけを守れるかが、取り分を決める。
もう 1 つの変化は、建機の電動化だ。電動の建機でも油圧は残るが、台数と構成は変わりうる。10 年の尺度では影響は限定的とみるが、筆者は注視する。
エアフィルタは、半導体工場やデータセンターの需要が追い風になりうる。ただし、今は黒字化の途中にとどまる。
資本政策と M&A
資本政策は、財務の堅さを成長投資と還元に回す姿勢に変わりつつある。純現金は 48 億円、自己資本比率は 81% で、借入はほとんどない。
還元は強まっている。年間の配当は 2024 年 3 月期の水準から、2027 年 3 月期予想で 3 倍以上になる。2025 年 12 月の長期ビジョンで、配当は自己資本に対する比率(DOE)で 10% 以上、自己株式の取得も含めると掲げた。ただ、今の配当はこの水準の約 6 割で、利益が伸びる前提つきの目標である。株主優待は、2026 年 9 月から QUO カードに変わった。年間の費用は 1 億円を下回ると見て、還元には加えない。
成長投資は、新素材が中心だ。2026 年 5 月にはミツフジへ 5 億円を出資し、生体センサーや電磁波シールドを共同で開発する。M&A も検討対象に挙げている。
筆頭株主はあさまホールディングスで、約 34% を持つ。過半ではないが影響力は大きい。買収の標的になる可能性は低くないが、筆頭株主の動き次第である。筆者が気にするのは、貯めた現金が、利益の見えない新規事業に使われすぎないかだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建機用フィルタは、すでに次の成長の入口に立っている。北米大手の油圧用フィルタでは、シェアが 50% 未満から 50〜80% に上がり、別のメーカーのトランスミッション用にも新しく採用された。受注残は 40 億円に迫り、過去最高に近い。ライン品が増えれば、数年遅れて補給品が積み上がる。補給品の売上は 2024 年 3 月期の 82 億円から、2030 年 3 月期に 160 億円を目指す。
ガスタービンや非常用発電機のフィルタも、シェアがほぼゼロの市場だ。取れば上乗せになる。ナノファイバーを使った高付加価値の製品への置き換えも進み、価格を保てる。
さらに新素材がある。独自のナノファイバーで、薄くて暖かい衣類の中綿、貼っても蒸れない生体センサー、電磁波を防ぐ素材を作る。売上が数百億円に育てば、営業利益 100 億円も届く。純現金は 48 億円あり、借入に頼らず投資できる。DOE 10% 以上という還元の約束もあり、成長と株主還元を両立できる。
慎重な見方
強気の絵は、新素材が売上の 4 割を占める前提だ。だが、新素材の売上は今ほとんどなく、中綿や電極の市場は、強い競合がいる。ミツフジへの出資も、業績への影響は軽微と会社自身が認めている。ほとんどの新規事業は、予定より遅れ、小さくなる。
既存事業でも、北米向けの比率が 23% から 36% に上がる計画は、特定の大手建機メーカーへの依存が強まることを意味する。メーカー側の都合で調達方針が変われば、シェアは簡単に戻る。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、補給品の出荷のずれ込みと新素材の先行投資で、営業利益が 26% 減った。
エアフィルタは赤字が続き、安価な互換品は補給品の価格を押し下げる。建機は中国の停滞が長引き、北米も金利で投資が鈍る。営業利益率は 13% が山で、過去には赤字の期もあった。
ROE は 7% 台で、資本コストを下回る。貯めた現金が新規事業に使われれば、さらに効率は落ちる。
どちらに重みを置いたか
強いのは、わずかに慎重な見方だ。建機用フィルタの質は高く、強気の見方の大半は正しい。だが、新素材の成否は見通しにくく、既存事業だけでは今の値段を正当化しにくい。
確率は中立を中心に置き、強気の筋書きを 1 割、慎重な筋書きの 2 つを合わせて 3 割台半ばとした。新素材の失敗は、既存事業の質を傷つけない。そのため、悲観の確率は 12% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 728 円507 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 254 円177 億円)。 今の値に割り戻すと 491 円342 億円、今との差 +1.3%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,741 円1,211 億円 | 500 円348 億円 | +362.1% | +16.5% | 224 円156 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,039 円723 億円 | 338 円235 億円 | +183.9% | +11.0% | 303 円211 億円 |
| 中立 | 34% | 736 円512 億円 | 260 円181 億円 | +105.4% | +7.5% | 339 円236 億円 |
| やや悲観 | 22% | 252 円175 億円 | 149 円104 億円 | −17.3% | −1.9% | 88 円61 億円 |
| 悲観 | 12% | 164 円114 億円 | 72 円50 億円 | −51.4% | −7.0% | 28 円20 億円 |
| 加重平均 | 100% | 728 円507 億円 | 254 円177 億円 | +102.5% | +7.3% | 982 円683 億円 |
今の株価時価総額 485 円337 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:北米のシェア拡大と新素材が、会社の長期ビジョンに近づく 利益 70 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 1,741 円1,211 億円
北米の大手建機メーカー向けでシェアが伸び、ライン品は年 29 万台相当まで増える。数年遅れで補給品が積み上がり、稼働機 400 万台に達する。ナノファイバー製品への置き換えで単価も上がる。
ガスタービンや非常用発電機向けのフィルタも立ち上がり、産業用の売上が増える。エアフィルタは半導体工場やデータセンターの需要で黒字に戻る。
新素材は、衣類の中綿と生体センサー電極が育ち、売上は 150 億円に届く。利益率は 15% まで上がる。会社が掲げる 2030 年 3 月期の目標より遅れるが、10 年後に営業利益は 100 億円規模になる。配当は DOE 10% 水準に近づき、自己株式も取得する。ROE は 20% を超える。
- 建機用フィルタ(ライン品):数量 290(搭載先の建機台数相当(千台、推定))× 価格 56(1 台あたり搭載額(千円))→ 売上 163 億円・営業利益 23 億円。北米のシェア拡大で台数が伸びる
- 建機用フィルタ(補給品):数量 4,000(同社品が交換される稼働機(千台、推定))× 価格 5.52(1 台あたり年間交換額(千円))→ 売上 221 億円・営業利益 49 億円。稼働機が積み上がり、純正品の位置づけを保つ
- 産業用・プロセス用フィルタ:数量 110(出荷個数(千個、推定))× 価格 28(1 個あたり売上(千円))→ 売上 31 億円・営業利益 3 億円。発電機向けなど新分野が加わる
- エアフィルタ:数量 110(出荷ユニット(千台、推定))× 価格 40(1 ユニットあたり売上(千円))→ 売上 44 億円・営業利益 4 億円。半導体・データセンター需要で黒字化
- 新素材(ナノファイバー):数量 4,000(素材の販売量(トン、推定))× 価格 3.75(1 トンあたり売上(百万円))→ 売上 150 億円・営業利益 23 億円。中綿と生体センサーが育ち、利益率 15%
倍率:事業の純利益 69 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)40 億円。全体の PER 16.94 倍、時価総額 1,211 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米のシェア拡大、補給品の積み上がり、新素材の立ち上がりが同時にうまくいく条件が必要。新素材の不確かさを考え、1 割にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:既存事業は伸び、新素材は一部が育つ 利益 46 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 1,039 円723 億円
ライン品は年 24 万台相当、補給品は稼働機 360 万台まで伸びる。北米のシェアは上がるが、メーカーの値下げ要求もあり、単価は物価並みにとどまる。
新素材は、衣類の中綿が定着し、生体センサーも一部製品が出る。売上は 60 億円まで育つが、利益率は 8% にとどまる。残りの用途は、採用までに時間がかかる。
エアフィルタは黒字に戻るが、利益率は低い。営業利益は 65 億円と今の 2.5 倍になる。配当は利益の 75% を維持し、DOE 10% の目標には届かないが近づく。ROE は 15% 前後に上がる。会社の言う成長の大半は果たせるが、新素材の大きな夢は半ばで止まる。
- 建機用フィルタ(ライン品):数量 240(搭載先の建機台数相当(千台、推定))× 価格 55(1 台あたり搭載額(千円))→ 売上 131 億円・営業利益 16 億円。シェアは上がるが単価は物価並み
- 建機用フィルタ(補給品):数量 3,600(同社品が交換される稼働機(千台、推定))× 価格 5.45(1 台あたり年間交換額(千円))→ 売上 196 億円・営業利益 40 億円。稼働機の積み上がりで伸びる
- 産業用・プロセス用フィルタ:数量 90.0(出荷個数(千個、推定))× 価格 27(1 個あたり売上(千円))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。緩やかに伸びる
- エアフィルタ:数量 95.0(出荷ユニット(千台、推定))× 価格 40(1 ユニットあたり売上(千円))→ 売上 38 億円・営業利益 2 億円。黒字に戻るが利益率は低い
- 新素材(ナノファイバー):数量 1,800(素材の販売量(トン、推定))× 価格 3.35(1 トンあたり売上(百万円))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。中綿が定着、生体センサーは一部
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)40 億円。全体の PER 15.2 倍、時価総額 723 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:建機用フィルタは会社の計画に近く伸び、新素材は一部だけ成功する姿。会社の既存事業の計画と整合するため、2 割台前半に置いた。
中立 34% 中立:既存事業は名目で年 5% 伸び、新素材は小さく育つ 利益 35 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 736 円512 億円
建機の新車生産と稼働台数が実質で年 1〜2% 伸び、単価は物価並みに上がる。ライン品は年 20 万台相当、補給品は稼働機 325 万台となり、建機用の売上は今の 1.6 倍に増える。ただ、メーカーの値下げ要求と安価な互換品で、利益率は 12% 台にとどまる。
エアフィルタは黒字を取り戻すが、利益率は 3% に低い。新素材は 27 億円に届くが、利益はほぼゼロだ。研究費を賄う程度で、会社が言う高収益化には届かない。
営業利益は 49 億円と今の 2 倍で、営業利益率は 13.6% と過去の山並みだ。純現金は貯まるが、新素材への投資や M&A にも使う。配当は利益の 7 割を保ち、ROE は 11% 台に上がる。
- 建機用フィルタ(ライン品):数量 200(搭載先の建機台数相当(千台、推定))× 価格 54(1 台あたり搭載額(千円))→ 売上 107 億円・営業利益 12 億円。台数は実質で年 1% 伸び、単価は物価並み
- 建機用フィルタ(補給品):数量 3,250(同社品が交換される稼働機(千台、推定))× 価格 5.36(1 台あたり年間交換額(千円))→ 売上 174 億円・営業利益 34 億円。稼働機が積み上がり、単価は物価並み
- 産業用・プロセス用フィルタ:数量 78.0(出荷個数(千個、推定))× 価格 27(1 個あたり売上(千円))→ 売上 21 億円・営業利益 2 億円。緩やかに伸びる
- エアフィルタ:数量 85.0(出荷ユニット(千台、推定))× 価格 40(1 ユニットあたり売上(千円))→ 売上 34 億円・営業利益 1 億円。黒字に戻るが利益率は 3%
- 新素材(ナノファイバー):数量 800(素材の販売量(トン、推定))× 価格 3.35(1 トンあたり売上(百万円))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。小さく育つが、利益はほぼゼロ
倍率:事業の純利益 34 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)40 億円。全体の PER 13.87 倍、時価総額 512 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:建機用フィルタの伸びと、価格交渉・競争による取り分の低下がほぼ釣り合い、新素材は小さな成功にとどまる姿。最も重みを置く。
やや悲観 22% やや悲観:互換品と値下げ要求で取り分が減り、新素材は失敗する 利益 18 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 252 円175 億円
中国など新興の互換品が補給品の価格を押し下げ、純正の位置づけが弱まる。補給品の単価は物価ほど上がらず、利益率は 15% に落ちる。北米の大手メーカーが調達を分散し、ライン品は年 15 万台相当に縮む。
新素材は用途の採用が進まず、売上は 9 億円にとどまり赤字が続く。ミツフジなどへの出資も回収できない。エアフィルタも利益が出ない。
営業利益は 25 億円と今とほぼ同じで、名目で横ばいは実質の目減りだ。ROE は 6% 前後に落ち、資本コストに届かない。配当は据え置くが、増配は止まる。
純現金は残るものの、新素材への出資や M&A の失敗で、現金の一部が失われる。筆頭株主の影響力が強まる局面でも、経営は守りに入り、新しい柱を探し直すことになる。
- 建機用フィルタ(ライン品):数量 150(搭載先の建機台数相当(千台、推定))× 価格 51(1 台あたり搭載額(千円))→ 売上 77 億円・営業利益 6 億円。大手の調達分散で台数が縮む
- 建機用フィルタ(補給品):数量 2,800(同社品が交換される稼働機(千台、推定))× 価格 5.00(1 台あたり年間交換額(千円))→ 売上 140 億円・営業利益 21 億円。互換品の浸食で単価が伸びない
- 産業用・プロセス用フィルタ:数量 65.0(出荷個数(千個、推定))× 価格 25(1 個あたり売上(千円))→ 売上 16 億円・営業利益 1 億円。横ばい
- エアフィルタ:数量 70.0(出荷ユニット(千台、推定))× 価格 38(1 ユニットあたり売上(千円))→ 売上 27 億円・営業利益 −1 億円。利益が出ない
- 新素材(ナノファイバー):数量 300(素材の販売量(トン、推定))× 価格 3.00(1 トンあたり売上(百万円))→ 売上 9 億円・営業利益 −3 億円。採用が進まず赤字が続く
倍率:事業の ROE 6.1%(余った現金を除く)は k 8.5% 以下。伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。値決め力の低下と新素材の失敗があるので、上限の 7.2 割の 8.5 倍に置いた。(純利益 17.5 億円 − 余った現金の利息 0.4 億円)× 8.5 倍 + 余った現金 30 億円 = 時価総額 175 億円。
確率:安価な互換品とメーカーの値下げ圧力で補給品の取り分が減り、新素材も採算に乗らない姿。顧客集中を考え、2 割台前半に置いた。
悲観 12% 悲観:建機の大型の不況と顧客の離反で、利益が細る 利益 5 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 164 円114 億円
中国の停滞と北米の投資の鈍化で、建機の新車生産が大きく減る。北米の大手メーカーの調達方針が変わり、シェアを戻す。ライン品は年 9 万台相当まで減る。
補給品は互換品と値下げ圧力で単価が下がり、利益率は 10% に落ちる。エアフィルタは赤字が続き、新素材の事業は撤退に近い形で整理される。先行投資の回収も難しい。
営業利益は 7 億円まで細り、配当は大きく減らす。ただ、純現金と事業の資産が下値を支える。会社は成長の柱を失い、もう優良ではなくなった 10 年だ。
新素材のために増やした人員と設備は、整理の費用として重くのしかかる。借入はほとんどないので倒産の恐れは小さいが、株主の取り分は、現金と資産を超える価値を持たなくなる。
- 建機用フィルタ(ライン品):数量 90.0(搭載先の建機台数相当(千台、推定))× 価格 45(1 台あたり搭載額(千円))→ 売上 41 億円・営業利益 1 億円。主要顧客の調達変更でシェアを戻す
- 建機用フィルタ(補給品):数量 2,300(同社品が交換される稼働機(千台、推定))× 価格 4.40(1 台あたり年間交換額(千円))→ 売上 101 億円・営業利益 10 億円。互換品の浸食で単価が下がる
- 産業用・プロセス用フィルタ:数量 50.0(出荷個数(千個、推定))× 価格 22(1 個あたり売上(千円))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。利益が出ない
- エアフィルタ:数量 50.0(出荷ユニット(千台、推定))× 価格 34(1 ユニットあたり売上(千円))→ 売上 17 億円・営業利益 −1 億円。赤字が続く
- 新素材(ナノファイバー):数量 100(素材の販売量(トン、推定))× 価格 3.00(1 トンあたり売上(百万円))→ 売上 3 億円・営業利益 −3 億円。撤退に近い整理
倍率:稼ぐ力は小さく、床は純現金と売れる資産の税後で測る。今の自己資本 228 億円に PBR 0.5 倍を掛けた。売れる資産の税後 120 億円が上限。(新素材の減損と在庫の整理で、自己資本は 258 億円)
確率:建機の需要が構造的に細り、主要顧客の調達変更が重なる姿。過去に営業赤字の期があり、顧客も偏るため、12% に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建機用フィルタ(ライン品)
建機メーカーの組み立てラインに納める、油圧用・トランスミッション用のフィルタ。新車に搭載される。
| 数量搭載先の建機台数相当(千台、推定) | 価格1 台あたり搭載額(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 162 | 40 | 65 | 7 |
| 10 年後 中立 | 200 | 54 | 107 | 12 |
取り方:FY26 修正予想のライン品売上 65.0 億円を、搭載先の建機 約 16 万台相当・1 台あたり約 4 万円に分けた推定。開示は金額だけで、台数と単価は推定。利益は建機セグメントの利益率約 15% から、ライン品 11%・補給品 20% に配分した推定。台数は実質、単価は名目。
建機用フィルタ(補給品)
稼働中の建機の交換用として、建機メーカーの部品網や代理店を通じて売るフィルタ。利益率が高い。
| 数量同社品が交換される稼働機(千台、推定) | 価格1 台あたり年間交換額(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,680 | 4.00 | 107 | 21 |
| 10 年後 中立 | 3,250 | 5.36 | 174 | 34 |
取り方:補給品の売上(FY26 修正予想 106.1 億円)を、交換対象の稼働機 約 268 万台・1 台あたり年 4 千円に分けた推定。稼働台数と単価は開示がない。
産業用・プロセス用フィルタ
建機以外の産業機械・プロセス向けのフィルタ。少額。
| 数量出荷個数(千個、推定) | 価格1 個あたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 20 | 14 | 1 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 27 | 21 | 2 |
取り方:産業用(約 7.2 億円)とプロセス用(約 6.9 億円)の合計約 14 億円を、7 万個・1 個約 2 万円に分けた推定。
エアフィルタ
工場・クリーンルーム向けの空気用フィルタ。2025 年の基幹システム入れ替えで出荷が遅れ、赤字に転落した。
| 数量出荷ユニット(千台、推定) | 価格1 ユニットあたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 78.0 | 30 | 23 | −2 |
| 10 年後 中立 | 85.0 | 40 | 34 | 1 |
取り方:エアフィルタの売上約 23 億円を、7.8 万ユニット・1 ユニット約 3 万円に分けた推定。利益は 1H の赤字 1.0 億円と下期の回復から、通期で約 −2 億円と置いた。
新素材(ナノファイバー)
自社開発の極細繊維を使う、衣類の中綿・生体センサー電極・電磁波シールドなどの新規事業。2025 年 11 月に衣類向けの販売を始めた段階。
| 数量素材の販売量(トン、推定) | 価格1 トンあたり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 2.50 | 1 | −2 |
| 10 年後 中立 | 800 | 3.35 | 27 | 1 |
取り方:売上は 1 億円に満たない推定。研究開発と人員の先行投資は、開示の建機セグメントの利益に含まれる分を、約 2 億円の赤字として切り出した推定。調整額を含め全社の営業利益 25.9 億円に合わせた。
リスクと懸念
建機の需要の循環と顧客の偏り
売上の約 9 割が建機向けで、新車生産は景気と資源価格で動く。北米の大手建機メーカー向けは売上の約 23% で、会社はこれを 36% に高める計画だ。調達方針が変われば、シェアは戻りうる。2021 年 3 月期には営業赤字の期もあった。
新素材(ナノファイバー)への投資
2030 年 3 月期の営業利益 105 億円のうち、4 割強は売上がほとんどない新素材が担う計画だ。研究費と人員の増加はすでに利益を押し下げている。成功の見通しは立たず、現金が回収できない投資に使われる恐れがある。
補給品の価格と出荷のずれ
安価な互換品は補給品の価格を押し下げる。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、補給品の出荷のずれ込みと新素材の先行投資で営業利益が 26% 減った。一部の顧客の在庫調整でも、四半期の売上は動く。
エアフィルタ事業の不振
2025 年の基幹システム導入後、出荷が遅れ、エアフィルタは赤字に落ちた。社内体制は整い、単月では黒字を取り戻したが、利益率は低いままだ。需要の取り込みに失敗すれば、全体の足を引っ張る。
関税と為替
米国の関税は、建機メーカーへの販売価格の見直しと原価低減で吸収したと会社は説明する。ただし、価格転嫁が続くかは交渉しだいだ。為替は筋書きでは 150 円で固定したが、現実には利益の振れ要因になる。
筆頭株主と資本の使い方
あさまホールディングスが約 34% を持つ。意思決定は速いが、資金の使い道や M&A の方針は筆頭株主の考えに影響されうる。純現金 48 億円と営業 CF を、新規事業や M&A に回す計画もある。
今後の分かれ目
- 北米大手の建機メーカー向けのライン品が拡大し、受注残が 50 億円を超えたら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。シェア拡大と補給品への連鎖が裏づけられる。
- 新素材の売上が 2028 年 3 月期に 10 億円を超え、黒字に近づいたら
- 新素材の成功の確率を上げる。利益率の見通しを引き上げる。
- 補給品の売上が 160 億円の目標に向けて順調に伸びたら
- 中立の利益率に上振れの余地。収益の質が高まる合図だ。
- 新素材の投資が膨らみ、営業利益率が 10% を下回ったら
- やや悲観側に重みを移す。投資が実を結ばない恐れが強まる。
- 主要建機メーカーが調達先を分散する、または値下げ要求を強めたら
- 悲観の確率を上げる。顧客集中のリスクが顕在化した合図だ。
- 筆頭株主の持株の売却、または買収提案が出たら
- 資本政策の前提が変わる。買付価格しだいで評価を見直す。
見ておくもの
- 補給品の売上高・比率と、受注残
- 北米の大手建機メーカー向けの売上構成比
- 新素材の売上と、営業利益率への影響
- エアフィルタ事業の営業損益
- 純現金と、自己株式の取得・DOE の実績
倍率と資本コストの決め方
数量と価格は、売上をライン品・補給品などに分けて、建機の台数と名目単価に置いた推定で、今の株価は使っていない。価格は物価 3% の 1.34 倍を基本にした。倍率は ROE と k から式で出し、上限の 7〜9 割に置いた。市場の倍率は見ていない。今の時価総額は最後に比べただけで、総合が適正の範囲に収まったのは、既存事業の質の高さと、新素材を小さく見積もった効果が釣り合ったためである。k は同じ領域の部品会社(8.5%)に合わせた。会社の長期ビジョンは、新素材が売上の 43% を占める前提なので、そのまま中立には使わなかった。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.2→16.94 倍・やや楽観 PER 13.5→15.2 倍・中立 PER 12.2→13.87 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。同じ領域の椿本チエイン・日本トムソン(8.5%)と同じ。SMC(7.8%)より高いのは、顧客が少数の大手に偏る点と、利益率の山谷が大きい点のため。個別のリスクは筋書きと確率で表した。