結論
カナデビアは、ごみ焼却発電プラントで世界首位級の会社だ。旧日立造船で、造船を切り離したあとは環境に軸足を移した。売上の約 8 割が環境で、その半分強をスイスの子会社 Inova が稼ぐ。筆者の見立ては、10 年の価値が今の時価総額を 1 割弱上回るが、安全域は薄い、というものだ。
本業の骨格は強い。欧州のごみ焼却発電の新設では、Inova が直近 5 年の受注の約半分を取った。国内でも、運営を受けもつ件数で 2 割近い。ごみは景気が悪くても出る。埋立を減らす規制も続くので、燃やす設備の需要は崩れにくい。
弱いのは利益の質だ。前期は Inova の欧州案件で蒸気タービンの不具合が出て、営業利益は 55% 減った。この会社は、大型の請負案件で巨額の損失を出した前歴がある。売上が増えても、利益が残る保証はない。
いまは事業の入れ替えの最中だ。橋梁・全固体電池・バルブ・舶用エンジンを手放し、日鉄エンジニアリングとの統合は 9 月に破談になった。赤字の事業が消え、環境の利益率が上がれば、価値は今を上回る。損失が再び続けば、簿価さえ割る。筆者は、強気と慎重の両方の材料が重く、確率は慎重の側に厚めに置いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、事業は残る。ごみは毎日出るので、10 年後もこの設備は必要とされる。完成後の運営・保守は、景気に左右されにくい安定した稼ぎになる。そこは評価できる。
一方で、オーナーとして持ち続けたいかと問われると、迷う。稼いだ利益のかなりの部分が、大型の請負案件の失敗で消えてきたからだ。2000 年代前半には巨額の赤字を出し、2018 年にも利益が落ち込んだ。前期はまたタービンの不具合で利益が半減した。同じ種類の失敗が繰り返されるなら、利益の質は低い。
資本の使い方では、不採算事業を手放し、配当を厚くする方向に変わった。この変化は正しい。ただ、経営陣が不正を黙認していた前歴は、統治への信頼を傷つけたままだ。
安全域は大きくない。中立の筋書きでも、10 年後の価値は今を 1 割弱上回る程度だ。割安と言い切るには、損失の再発という下振れが重い。筆者は、利益率が 5% 近くで定着するかを見極めるまで、大きな確信は持てないと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は環境事業だ。売上の約 8 割を占め、ごみ焼却発電プラントの設計・建設、完成後の運営・保守、発電した電気の売却までを手がける。国内はごみ焼却施設の更新工事と、自治体から受けもつ運営が柱になる。
海外は Inova が担う。Inova は 2010 年に買収したスイスの会社で、欧州に 500 件を超える焼却施設の実績がある。ドバイでは 1 日 5,000 トン超の世界最大級の施設を納め、35 年の運営も受けもつ。いまはローマで年 60 万トン規模の施設を建てており、モロッコでは伊藤忠などと 33 年の事業権を組んだ案件も進む。プラントを建てて終わりではなく、完成後の運営・保守で長く稼ぐ形に寄せているのが特徴だ。
残りは二つある。機械・社会インフラ(約 11%)は、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラなど。橋梁は撤退を決めた。脱炭素化(約 11%)は、脱硝触媒や圧力容器、原子力のキャスク(使用済み燃料の容器)、風力、電解装置などだ。舶用エンジンは今治造船との合弁に移し、連結から外れた。
利益は環境に集中している。前期の営業利益は環境が約 170 億円で、機械・社会インフラと脱炭素化はどちらも赤字だった。売上の地域は日本が約 5 割、欧州が 3 割強。工事は進み具合に応じて売上を立てるので、損失が出る案件があれば利益が一気に削られる。
優良さと弱いところ
強みは実績の厚さだ。世界で 1,500 を超える施設を納め、ごみという燃えにくく性状が一定しない燃料を安定して燃やすノウハウを持つ。これは新規参入者がすぐにまねできない。完成後の運営・保守が続くので、売上の一部は長く積み上がる。
ただし、堀は普通と見る。プラントの受注は入札で、固定価格の請負が多い。設計の見込み違いや、タービンなど外から買う機器の不具合は、そのまま会社の損失になる。前期の Inova の不具合はその典型だ。値段を自分で決める力は弱い。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 5% 台で、2023 年から 3 年だけ 11% 台に乗った。営業利益率の最高は 4% 台で、会社が掲げる 10% は、過去に一度も届いたことがない水準だ。
経営の質には傷がある。舶用エンジンの燃費データの改ざんでは、調査委員会が、当時の経営陣が報告を受けながら黙認したと指摘した。いまの桑原社長は、社内出身者に頼らず、財務・海外・知財の責任者を外から招いている。取り組みの方向は正しいが、効果が数字に出るのはこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ごみ焼却発電は、世界で需要が積み上がる数少ない公共インフラだ。世界のごみの量は人口と所得とともに増え、欧州では埋立を減らす規制が続く。燃やして熱と電気を取る設備が、その受け皿になる。
欧州では、Inova が受注を伸ばしてきた。直近 5 年の新設の受注容量のうち Inova の分は約 5 割で、その前の 5 年の約 3 割から上がった。ローマ市の約 10 億ユーロの案件は、その象徴だ。
国内は逆風が混じる。人口が減り、ごみの量も減るので、自治体は小さな施設を集約して大きな施設にまとめている。数は減るが、1 施設あたりは大きくなる。建設費は 1 日 1 トンあたり約 1 億円まで上がり、予算が合わずに発注が先送りされることもある。
競争相手はタクマ、JFE エンジニアリング、荏原環境プラント、三菱重工系、日鉄エンジニアリングなど。受注のトンの数でみた国内シェアは、カナデビアが 2 割弱で、上位 4 社が 6 割台を分け合う。値段は入札で決まり、価格を上げにくい。
10 年の見通しは、国内が横ばい、海外が伸びる、という形だ。景気の波には強いが、1 件の案件が大きい分、採算のぶれには弱い。
資本政策と M&A
株主還元は、配当性向 30% 程度を目安にした累進配当(減らさず増やす方針)に変わった。今期の配当は約 64 億円の予想で、前期の約 42 億円から増える。自社株買いは行っていない。
事業の整理は進んでいる。桑原社長のもとで 1 年に 5 事業を売却・撤退した。バルブ子会社はキッツへ 91 億円、全固体電池はスズキへ、舶用エンジンは今治造船との合弁に移した。橋梁は 2030 年度までに完全撤退する。残る 6 事業の整理も、統合とは別に進める方針だ。
日鉄エンジニアリングとの統合は、2026 年 2 月に検討を始め、9 月 29 日に打ち切られた。出資比率で折り合えなかったとされる。統合が実現すれば売上は 1 兆円を超える見込みだったが、白紙に戻った。次の中期経営計画は、目標を改めて検討する段階にある。
財務は余裕がない。純有利子負債は約 950 億円、自己資本比率は 27% だ。ローマやモロッコのような事業権を伴う案件では、資金の負担が先に出る。金利が上がる前提では、利払いが 10 年で純利益を 20 億円強押し下げる。
点検済み:中立の営業利益率4.9%は過去の山(4.4%)を0.5ポイント超えるが、超え分は橋梁をやめた機械・社会インフラと、舶用エンジンなどが連結から外れた脱炭素化の赤字が消える分で(この2つを0%としても全社4.3%)、環境の主力は山以下に置いている。会社の10%目標は採っていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ごみ焼却発電は、世界で最も確かな成長分野の一つだ。欧州の新設では Inova が直近 5 年の受注の約半分を取り、その前の 5 年の 3 割から比率を上げた。ローマの約 10 億ユーロの案件、モロッコの 33 年の事業権と、大きな案件が続けて取れている。完成後の運営・保守が積み上がるので、利益は工事に頼らず安定してくる。
前期の減益は、タービンの不具合という一過性の損失が大半だ。会社は今期の営業利益を 255 億円と、前期の 2 倍に戻す計画を出している。外部の専門家を入れ、新しい調達先も開く対策を打った。
事業の整理も効く。橋梁・全固体電池・バルブ・舶用エンジンを手放せば、赤字を出していた機械・社会インフラと脱炭素化の重荷が軽くなる。環境に集中すれば、利益率は 4% 台から 5〜6% に上がる余地がある。配当は 30% 程度を目安に増やす方針で、還元も厚くなる。会社が掲げる 2030 年度の営業利益率 10% には届かなくても、7% 台まで来れば、今の値段は安い。
慎重な見方
利益の質が悪い。前期の営業利益は、期初の計画 270 億円から 9 カ月で半分になり、最終は 122 億円だった。Inova のタービンの不具合だけではない。豪州のロッキンガムやモスクワの案件でも追加の費用が出ている。一過性と言うには、同じ種類の失敗が多すぎる。
過去を振り返っても、2003 年 3 月期と 2006 年 3 月期に、大型案件の損失で数百億円規模の最終赤字を出した。請負の事業で、外から買う機器に頼る以上、この癖は直らない。ローマの約 10 億ユーロの案件も、同じ請負のリスクを抱える。
統治にも疑問が残る。舶用エンジンの不正は、経営陣が知りながら止めなかった。品質の問題は橋梁にも広がった。
戦略の空白もある。日鉄エンジニアリングとの統合で規模を取る案は破談になり、次の中期経営計画は未発表だ。自己資本比率は 27% で、金利が上がれば利払いも重くなる。国内は、ごみの量が減るうえ建設費が上がり、発注が先送りされている。10 年で営業利益率を 10% にするという目標は、過去に一度も届いていない。
どちらに重みを置いたか
強気の材料は本物だ。Inova の受注シェアと、運営・保守が積み上がる構造は、数字で確かめられる。ただ、慎重な見方が突く点も同じくらい重い。損失の再発は直近だけでなく 20 年のあいだに繰り返しており、ローマのような大型案件が増えるほど、その影響も大きくなる。
そこで確率は、中立を最も厚くしたうえで、慎重な側に寄せた。やや悲観と悲観を合わせて 4 割弱を置き、楽観とやや楽観の合計は 3 割弱にとどめた。事業の整理で赤字が消えることと、環境の利益率が 5% 近くで定着することは、中立の前提に入れた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,426 円4,081 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 349 円588 億円)。 今の値に割り戻すと 1,420 円2,390 億円、今との差 +35.8%、 期待の年率 +10.2%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,022 円8,449 億円 | 566 円953 億円 | +434.2% | +18.2% | 447 円752 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,956 円6,656 億円 | 486 円817 億円 | +324.6% | +15.6% | 888 円1,495 億円 |
| 中立 | 34% | 2,624 円4,416 億円 | 381 円641 億円 | +187.3% | +11.1% | 1,022 円1,719 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,114 円1,875 億円 | 247 円415 億円 | +30.1% | +2.7% | 327 円549 億円 |
| 悲観 | 14% | 523 円880 億円 | 131 円220 億円 | −37.5% | −4.6% | 92 円154 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,426 円4,081 億円 | 349 円588 億円 | +165.3% | +10.2% | 2,775 円4,669 億円 |
今の株価時価総額 1,046 円1,760 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 欧州の埋立禁止とローマ・モロッコで Inova が伸び、10% 目標に近づく 利益 484 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 5,022 円8,449 億円
欧州の埋立規制が効き、Inova の年間の受注容量は今の 1.45 倍の 9 千 t/日に伸びる。ローマとモロッコが予定どおり完工し、運営・保守の売上が積み上がる。Inova の利益率は 8.5% まで上がる。国内の環境も、運営の比率が高まって 6.5% になる。
橋梁と不採算の機械を手放した機械・社会インフラは、小さいが黒字になる。脱炭素化は、原子力のキャスクと水素・CO2 回収の設備で 8% の利益率に届く。
売上は 1 兆円に達し、全社の営業利益は 770 億円前後になる。会社が掲げる 10% には届かないが、過去に一度も見たことのない 7% 台だ。タービンの不具合の教訓から調達管理が整い、大型案件の損失が出なくなる、同社にとって最良の 10 年になる。
- 環境:Inova(欧州・北米・中東のごみ焼却発電):数量 9.0(世界(日本を除く)の新設ごみ焼却発電の年間受注容量(千 t/日)のうち Inova が取る分)× 価格 585(受注 1 千 t/日あたりの年間売上(工事と運営・保守の合計、億円))→ 売上 5,268 億円・営業利益 448 億円。受注 9 千 t/日、利益率 8.5%
- 環境:国内ほか(ごみ焼却・運営保守・売電):数量 31.5(国内ごみ焼却の処理容量(千 t/日)のうち、当社が納入・運営・保守で付き合う分)× 価格 101(付き合う処理容量 1 千 t/日あたりの年間売上(更新工事・運営保守・売電ほか、億円))→ 売上 3,196 億円・営業利益 208 億円。利益率 6.5%
- 機械・社会インフラ:数量 1,500(年間の引き渡し件数(件、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラ、橋梁など、推定))× 価格 0.55(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 819 億円・営業利益 49 億円。利益率 6%
- 脱炭素化:数量 1,100(年間の引き渡し件数(件、プロセス機器・原子力設備・風力・舶用原動機・電解など、推定))× 価格 0.72(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 788 億円・営業利益 63 億円。利益率 8%
倍率:事業の純利益 484 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍。全体の PER 16.49 倍、時価総額 7,981 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州の新設の追い風、ローマ・モロッコの完工、赤字事業の整理がすべて揃う必要がある。大型案件の損失が一度も出ない前提でもあり、過去の実績からは確率を高くできない。
やや楽観 20% 欧州の新設に乗り、構造改革で赤字事業が消える 利益 399 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 3,956 円6,656 億円
Inova の受注容量は年 8.3 千 t/日まで伸び(今の 1.34 倍)、利益率は 7% に戻る。2018 年以前に赤字だった時期は遠い過去になる。国内の環境は、運営・保守の比率が少し上がり、5.5% の利益率を保つ。
機械・社会インフラと脱炭素化は、整理が済んで黒字になる。脱炭素化は原子力のキャスクと電解装置に絞り、6% 近い利益率になる。
売上は 9,500 億円ほど、全社の営業利益は 600 億円近い。日鉄エンジニアリングとの統合が消えた分、規模の拡大は自力で進める。ただし、大型案件で 1 件か 2 件、損失が出る。それでも、環境の安定した稼ぎが全体を支える。
- 環境:Inova(欧州・北米・中東のごみ焼却発電):数量 8.3(世界(日本を除く)の新設ごみ焼却発電の年間受注容量(千 t/日)のうち Inova が取る分)× 価格 585(受注 1 千 t/日あたりの年間売上(工事と運営・保守の合計、億円))→ 売上 4,858 億円・営業利益 340 億円。受注 8.3 千 t/日、利益率 7%
- 環境:国内ほか(ごみ焼却・運営保守・売電):数量 31.0(国内ごみ焼却の処理容量(千 t/日)のうち、当社が納入・運営・保守で付き合う分)× 価格 101(付き合う処理容量 1 千 t/日あたりの年間売上(更新工事・運営保守・売電ほか、億円))→ 売上 3,145 億円・営業利益 173 億円。利益率 5.5%
- 機械・社会インフラ:数量 1,450(年間の引き渡し件数(件、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラ、橋梁など、推定))× 価格 0.55(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 791 億円・営業利益 36 億円。利益率 4.5%
- 脱炭素化:数量 1,050(年間の引き渡し件数(件、プロセス機器・原子力設備・風力・舶用原動機・電解など、推定))× 価格 0.72(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 752 億円・営業利益 45 億円。利益率 6%
倍率:事業の純利益 399 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.64 倍、時価総額 6,240 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州の新設が続き、事業の整理も進むが、大型案件で小さな損失は出る、という筋書き。需要の見通しは確かなので、中立の次に厚めに置いた。
中立 34% 環境は着実に稼ぎ、赤字事業の整理で利益率が 5% 近くへ 利益 289 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 2,624 円4,416 億円
欧州の新設は続くが、Inova の受注容量は年 7.6 千 t/日と、今の 1.2 倍の伸びにとどまる。利益率は 5.5%。タービンの不具合のような損失が数年に 1 度は出るので、会社が掲げる水準までは上がらない。国内の環境は、ごみの量が減る一方で運営の比率が上がり、売上は物価並みに伸びて 4.5% の利益率になる。
機械・社会インフラは橋梁をやめて縮み、わずかな黒字になる。脱炭素化は、舶用エンジンなどが連結から外れた分だけ小さくなる。
売上は 9,000 億円ほどで、営業利益は 440 億円前後、利益率は 4.9% だ。2023〜25 年に見た 4% 台より少し高い。事業の整理で赤字が消えた分の改善である。配当は 30% 程度の性向(還元の合計は純利益の約 32%)で増え、ROE は約 7.6% に戻る。
- 環境:Inova(欧州・北米・中東のごみ焼却発電):数量 7.6(世界(日本を除く)の新設ごみ焼却発電の年間受注容量(千 t/日)のうち Inova が取る分)× 価格 585(受注 1 千 t/日あたりの年間売上(工事と運営・保守の合計、億円))→ 売上 4,448 億円・営業利益 245 億円。受注 7.6 千 t/日、利益率 5.5%
- 環境:国内ほか(ごみ焼却・運営保守・売電):数量 30.6(国内ごみ焼却の処理容量(千 t/日)のうち、当社が納入・運営・保守で付き合う分)× 価格 101(付き合う処理容量 1 千 t/日あたりの年間売上(更新工事・運営保守・売電ほか、億円))→ 売上 3,105 億円・営業利益 140 億円。利益率 4.5%
- 機械・社会インフラ:数量 1,350(年間の引き渡し件数(件、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラ、橋梁など、推定))× 価格 0.55(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 737 億円・営業利益 22 億円。橋梁撤退後、利益率 3%
- 脱炭素化:数量 950(年間の引き渡し件数(件、プロセス機器・原子力設備・風力・舶用原動機・電解など、推定))× 価格 0.72(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 681 億円・営業利益 31 億円。利益率 4.5%
倍率:ROE 7.6% は k 7.5% とほぼ同じで、ためた利益の稼ぎは資本コストと並ぶ。PER の上限は 1÷k=13.0 倍で、その 9.85 割の 14.14 倍に置いた。純有利子負債は時価総額の約 5 割だが、EV÷営業利益は 10 年後で 11 倍前後と低く、注意の水準ではない。
確率:環境は着実に稼ぎ、事業の整理で赤字が消える。ただ大型案件の損失が時々出て、利益率は 5% 近くにとどまる、という中心の見立て。最も確度が高い。
やや悲観 24% 大型案件の採算が再びぶれ、利益率は 3% 台にとどまる 利益 148 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,114 円1,875 億円
欧州の新設は続くが、価格の競争が強まり、Inova の受注容量は年 6.2 千 t/日と今のままにとどまる。ローマの案件で費用がふくらみ、タービンの不具合も別の案件で再発する。Inova の利益率は 3.5% に落ちる。
国内の環境は、ごみの量が減って発注が先送りされ、シェアも少し失って、売上は伸びない。利益率は 3.5%。機械・社会インフラと脱炭素化は黒字を保てず、かろうじて収支が合う。
売上は 7,700 億円ほど、営業利益は 250 億円前後で、利益率は 3% 台だ。2023〜25 年の 4% 台にも届かない。資本を使って稼ぐ力は、資本コストに届かなくなる。配当は 30% の性向を守るが、増配の余力は乏しい。
- 環境:Inova(欧州・北米・中東のごみ焼却発電):数量 6.2(世界(日本を除く)の新設ごみ焼却発電の年間受注容量(千 t/日)のうち Inova が取る分)× 価格 585(受注 1 千 t/日あたりの年間売上(工事と運営・保守の合計、億円))→ 売上 3,629 億円・営業利益 127 億円。受注 6.2 千 t/日、利益率 3.5%
- 環境:国内ほか(ごみ焼却・運営保守・売電):数量 28.0(国内ごみ焼却の処理容量(千 t/日)のうち、当社が納入・運営・保守で付き合う分)× 価格 101(付き合う処理容量 1 千 t/日あたりの年間売上(更新工事・運営保守・売電ほか、億円))→ 売上 2,841 億円・営業利益 99 億円。利益率 3.5%
- 機械・社会インフラ:数量 1,200(年間の引き渡し件数(件、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラ、橋梁など、推定))× 価格 0.55(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 655 億円・営業利益 10 億円。利益率 1.5%
- 脱炭素化:数量 800(年間の引き渡し件数(件、プロセス機器・原子力設備・風力・舶用原動機・電解など、推定))× 価格 0.72(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 573 億円・営業利益 12 億円。利益率 2%
倍率:ROE 4.6% は k 7.5% 以下なので、PER の上限は 1÷k の 13.0 倍。損失が再発し利益のぶれが大きい筋書きなので、価値は稼ぐ力そのもので測り、成長の上乗せは付けず、上限の 8.5 割の 11.0 倍に置いた。
確率:大型案件の損失は、直近 5 年と過去 20 年の両方で繰り返している。再び続く確率は中立に近いほど高いと見て、中立の次に厚く置いた。
悲観 14% 大型案件で巨額の損失が重なり、事業の価値が削られる 利益 −60 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 523 円880 億円
ローマの案件で費用が大きく超過し、別の欧州案件でも不具合が出て、Inova は赤字になる。受注への信頼が落ち、年間の受注容量は今の 8 割に縮む。品質の問題が国内の案件にも広がり、国内の環境は価格を下げて受注を取り、利益率は 1.5% まで落ちる。
機械・社会インフラと脱炭素化も赤字が続く。整理のための特別な費用も重なり、全社の営業利益は 50 億円ほどの赤字になる。のれんの減損で自己資本も減る。
赤字の年も、配当は手元の資金と資産の売却で払う。やがて配当は減らされ、事業の売却を迫られる、同社にとって最悪の 10 年になる。
- 環境:Inova(欧州・北米・中東のごみ焼却発電):数量 5.0(世界(日本を除く)の新設ごみ焼却発電の年間受注容量(千 t/日)のうち Inova が取る分)× 価格 585(受注 1 千 t/日あたりの年間売上(工事と運営・保守の合計、億円))→ 売上 2,926 億円・営業利益 −29 億円。受注 5 千 t/日、赤字
- 環境:国内ほか(ごみ焼却・運営保守・売電):数量 24.0(国内ごみ焼却の処理容量(千 t/日)のうち、当社が納入・運営・保守で付き合う分)× 価格 101(付き合う処理容量 1 千 t/日あたりの年間売上(更新工事・運営保守・売電ほか、億円))→ 売上 2,435 億円・営業利益 37 億円。利益率 1.5%
- 機械・社会インフラ:数量 900(年間の引き渡し件数(件、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラ、橋梁など、推定))× 価格 0.55(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 491 億円・営業利益 −15 億円。赤字
- 脱炭素化:数量 600(年間の引き渡し件数(件、プロセス機器・原子力設備・風力・舶用原動機・電解など、推定))× 価格 0.72(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 430 億円・営業利益 −9 億円。赤字
倍率:赤字のため稼ぐ力では測れず、売れる資産の床で置く。今の自己資本 1,968 億円のうち、のれんなどを大きく割り引き、国内の運営施設や土地・株式を簿価の 8 割で売れると仮定した 880 億円を、今の自己資本に対する PBR 0.45 倍で表した。市場の値付けは根拠にしていない。
確率:ローマなど大型案件の巨額損失、品質不正の再発、欧州での受注の後退が重なる筋書き。2000 年代前半に巨額の赤字を出した前歴があり、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
環境:Inova(欧州・北米・中東のごみ焼却発電)
スイスの子会社 Inova(旧 Von Roll Inova)。欧州・北米・中東・アジアでごみ焼却発電プラントを設計・建設し、完成後の運営・保守も受けもつ。
| 数量世界(日本を除く)の新設ごみ焼却発電の年間受注容量(千 t/日)のうち Inova が取る分 | 価格受注 1 千 t/日あたりの年間売上(工事と運営・保守の合計、億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.2 | 436 | 2,700 | 62 |
| 10 年後 中立 | 7.6 | 585 | 4,448 | 245 |
取り方:2026/03 期の環境の売上 5,057 億円のうち、Inova 分を約 2,700 億円と推定(Inova の売上は 2025 年見通しで約 15 億スイスフラン)。数量は、欧州・中東の新設受注 62,437 t/日(2020〜24 年累計、年平均 12.5 千 t/日)に、Inova の比率 49.7% を掛けた 6.2 千 t/日。価格は、売上をその数量で割った 1 千 t/日あたり約 435 億円(工事と運営・保守の合計)。営業利益は、タービン不具合で下がった 62 億円。
環境:国内ほか(ごみ焼却・運営保守・売電)
国内のごみ焼却施設の更新工事と運営・保守、発電した電気の売却のほか、水処理・バイオマス・国内単体の海外案件を含む。
| 数量国内ごみ焼却の処理容量(千 t/日)のうち、当社が納入・運営・保守で付き合う分 | 価格付き合う処理容量 1 千 t/日あたりの年間売上(更新工事・運営保守・売電ほか、億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.6 | 76 | 2,310 | 105 |
| 10 年後 中立 | 30.6 | 101 | 3,105 | 140 |
取り方:環境の売上のうち Inova を除く約 2,310 億円。数量は国内ごみ焼却の処理容量(約 170 千 t/日と推定)に運営件数のシェア約 18% を掛けた 30.6 千 t/日。価格はその容量あたりの年間売上 75.5 億円(更新工事・運営保守・売電ほか)。営業利益は Inova を除く環境の約 105 億円。
機械・社会インフラ
プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、防災システム、ボイラ、橋梁。橋梁は撤退を決めた。
| 数量年間の引き渡し件数(件、プラスチック・食品・医薬の機械、水門、シールド掘進機、ボイラ、橋梁など、推定) | 価格1 件あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,800 | 0.41 | 731 | −24 |
| 10 年後 中立 | 1,350 | 0.55 | 737 | 22 |
取り方:機械・社会インフラの売上 731 億円を、年 1,800 件(推定。小型の機械が多く、橋梁や水門は少数の大型案件)で割り、1 件あたり約 0.41 億円と置いた。前期の営業利益は −24 億円。
脱炭素化
脱硝触媒・圧力容器などのプロセス機器、原子力のキャスク、風力、電解装置。舶用エンジンの合弁は連結から外れた。
| 数量年間の引き渡し件数(件、プロセス機器・原子力設備・風力・舶用原動機・電解など、推定) | 価格1 件あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,300 | 0.53 | 693 | −25 |
| 10 年後 中立 | 950 | 0.72 | 681 | 31 |
取り方:脱炭素化の売上 693 億円を、年 1,300 件(推定。プロセス機器・キャスク・風力・舶用エンジンの合計)で割り、1 件あたり約 0.53 億円と置いた。前期の営業利益は −25 億円。舶用エンジン(2025/03 期の売上 249 億円)は 2026/03/31 から持分法に移り、今期以降は連結の売上から外れる。
リスクと懸念
大型案件の損失の再発
ごみ焼却発電は固定価格の請負で、設計の見込み違いや外から買う機器の不具合が、そのまま損失になる。前期は Inova のタービンで営業利益が半減し、豪州やモスクワでも追加の費用が出た。ローマの約 10 億ユーロの案件のように、1 件が大きくなるほど影響は重い。
品質不正とガバナンス
舶用エンジンの燃費データの改ざんは、当時の経営陣が知りながら止めなかったと調査委員会が指摘した。橋梁でも無資格の溶接者が見つかった。再発すれば、受注や自治体の信頼に響く。品質保証の体制は強化中だが、効果は確かめられていない。
戦略の空白
日鉄エンジニアリングとの統合は出資比率で折り合えず、9 月に打ち切られた。規模を取る案が消え、次の中期経営計画は未発表のままだ。残る 6 事業の整理の行方と合わせ、会社の針路が定まるまで時間がかかる恐れがある。
財務の余裕が薄い
純有利子負債は約 950 億円、自己資本比率は 27% だ。事業権を伴う海外案件では、資金の負担が先に出る。金利が上がる前提では、借り換えで利払いが増え、10 年で純利益を 20 億円強押し下げる。
国内の発注の先送り
ごみの量は人口減で減り、自治体は施設を集約している。一方で建設費は 1 日 1 トンあたり約 1 億円まで上がり、予算が合わずに発注が先送りされる例が出ている。国内の環境の売上は、伸びる余地が小さい。
欧州での競争
Inova は直近 5 年の受注の約半分を取ったが、比率が高いほど、他社の巻き返しや価格競争で崩れる余地も大きい。ごみ焼却発電の入札は価格の比重が大きく、取った案件の採算が悪い、という事態も起こりうる。
今後の分かれ目
- Inova の蒸気タービンの対策が実り、ローマ・モロッコが予定どおり進んだら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。環境の利益率が 5% 台で定着するかを、四半期の営業利益で確かめる。
- ローマなど大型案件で追加の費用や工期の遅れが出たら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。過去の損失の型と同じなので、重みを大きく移す。
- 次の中期経営計画で、事業の整理の完了と環境への集中が具体的な数字で示されたら
- 赤字事業の影が消える分、中立の利益率の前提を信頼してよい。目標が過去の実績からかけ離れていれば、割り引く。
- 品質や不正の問題が新たに見つかったら
- ガバナンスの傷が深いと見て、悲観側に寄せる。自治体の入札での扱いも見る。
- 他社との統合や資本提携の話が再び出たら
- 統合の条件と存続会社の形で評価が変わる。出資比率の溝が埋まる形なら、規模の効果を中立に織り込む余地がある。
- 欧州で新設の入札の価格が急に下がったら
- Inova の受注の比率は保てても利益率が削られる。やや悲観の方向に寄せる。
見ておくもの
- 四半期ごとの環境(Inova とそれ以外)の営業利益と、不採算案件の追加費用の有無
- ローマ・モロッコ案件の工程と費用、完工の時期
- 次期中期経営計画の発表時期と、営業利益率・ROE の目標
- 残る事業の整理(フェーズ 3 の 6 事業)の進み方と、他社との資本提携の動き
倍率と資本コストの決め方
売上は欧州・中東の新設受注の容量とシェア、国内の処理容量とシェアに物価並みの価格を掛けて積み、利益率を事業の構造から置いてから倍率を引いた。倍率は利益ベースの正当化 PER(k 7.5%、g 3.5%、残る割合 1/2)で決め、中立は ROE が k をわずかに超えるので下限の 1÷k になった。やや悲観は ROE が k を下回るので稼ぐ力で、悲観は赤字なので売れる資産の仮定の床で置いた。今の株価や PER・PBR は根拠にしていない。比べたのは最後で、今の値段は事業の整理が実れば中立で報われ、損失が続けば報われない水準にあると確認した。 点検(2026-10-19):還元が純利益の約 41%(方針は配当性向 30% 程度、自社株買いなし)と厚かったので 32% に直し、自己資本・ROE・PER を流し直した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.7→16.49 倍・やや楽観 PER 13→15.64 倍・中立 PER 12.8→14.14 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality +0.2%=7.7%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.70% → 7.50%。