結論
ヨシタケは、工場や病院で使う蒸気の圧力と温度を自動で整える弁を作る会社だ。主力は減圧弁(蒸気の圧力を下げて一定に保つ弁)とスチームトラップ(蒸気から水だけを抜く弁)で、設計から鋳造・加工・組立まで自社で一貫して行う。
筆者の結論は、今の値段は割安の側にある。決め手は3つある。営業利益率が12%台まで上がり、ここ数年で稼ぐ力が一段高くなったこと。純現金が時価総額の約3割あり、自己資本比率が86%と財務が極めて硬いこと。そして、蒸気の省エネ更新という地味だが息の長い需要を持つことだ。
不安もある。国内は人口減で数量が増えにくく、脱炭素で蒸気そのものを使わない設備(電化)が広がれば、市場は縮みうる。それでも中立では、海外(ASEAN)の伸びで10年後の利益は今の4割ほど増え、配当と合わせたトータルで今の時価総額を上回る。
筆者は、この会社を「派手さはないが、持ち続けて邪魔にならない資産」と見ている。現金の使い道だけが課題で、そこが変われば評価はさらに上がる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の魅力は、事業が単純で長く続くこと、そして借金がなく現金が厚いことだ。蒸気の弁は派手さがないが、10年後も工場に付いている。壊れにくく、交換も着実に起きる。
オーナー利益(成長に必要な投資を引いたあとに株主のものとなる利益)は、営業利益よりやや少ない程度とみる。設備は鋳造と加工が中心で、設備投資が利益を食い尽くす事業ではない。物価が上がっても、価格に転嫁できる範囲が広い部品である点も安心材料だ。
気になるのは経営の資本配分だ。現金が時価総額の3割あるのに、還元の姿勢が強くない。買収で価値を壊すより、現金のまま持つ方がましだが、株主から見れば眠った資産だ。安全域は、その現金と、自己資本の厚さにある。悪い場合でも、帳簿の純資産の半分強までは資産で支えられる。ここまで下がれば、事業が悪化しても損失は限られる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、蒸気配管の途中に付ける自動調整弁だ。ボイラーでつくった蒸気は圧力が高すぎるので、減圧弁で使う機器に合う圧力まで下げる。配管内に溜まる水(ドレン)は、スチームトラップで蒸気を逃がさずに抜く。どちらも電気を使わず、蒸気そのものの力で動く。壊れにくく、地味な部品だが、工場の熱効率を左右する。
製品は減圧弁、安全弁、スチームトラップ、温度調整弁など。事業はバルブの製造・販売ひとつで、設計から鋳造、加工、組立までを社内で一貫して行う。2026年3月期の売上は約103億円、従業員は数百人規模の中堅だ。地域別のセグメントでは、日本が約78億円、アジアが約48億円(どちらも会社間の取引を含む)。アジアは前期比で1割以上伸びた。
売り先は食品・化学・繊維・医薬・病院・ホテルなど蒸気を使う全業種で、商社や配管業者を通して幅広く売る。1社への依存は小さい。近年はASEANで子会社を取得し、現地での販売と保守の足場を広げている。蒸気の使い方を見直す省エネ提案と組み合わせて売る点が、ただの部品売りとの違いだ。工場側から見れば、弁を替えるだけで蒸気の無駄が減り、燃料費が下がる。その効果を数字で示せることが、価格を守る武器になる。
優良さと弱いところ
強みは、設置後の交換と保守で売上が積み上がる点にある。弁は一度配管に入ると、数年から十数年ごとに交換される。設計した人が使い慣れた型番を選びやすく、替える側にも手間と不具合のリスクがある。値段より安定稼働が重視される部品なので、急な値崩れは起きにくい。
数字でも裏づけがある。営業利益率は2016年3月期の約8%から、2026年3月期の約13%へ上がった。自己資本比率は86%で、借入はほぼない。赤字になった期はこの10年で一度もない。
弱みは二つある。ひとつは規模の小ささだ。売上は約100億円で、世界の大手や中国メーカーと正面から価格で戦うには体力が足りない。もうひとつは、事業が蒸気に偏ること。筆者は、資本の使い方も気になる。現金が積み上がる一方で、配当性向は3割台にとどまり、余った現金を株主へ返す姿勢は強くない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
蒸気は、食品加工、化学、繊維、病院、地域熱供給など、熱を大量に使う現場の基本インフラだ。日本の工場の熱源は、今もボイラーでつくる蒸気が大半を占める。弁は小さな部品だが、熱を使う工場の運転コストに直結する。蒸気設備の更新需要は景気の影響を受けにくく、省エネ法や脱炭素の流れで、漏れや無駄の多い古い弁を高効率品に替える動きが続く。
国内の数量は人口減と工場の海外移転で、横ばいから緩やかな減少が基本線になる。一方で、アジアは工場の新設と増設が続き、蒸気の需要も伸びている。当社のアジア売上が前期比で1割以上伸びたのも、この流れに乗ったものだ。
構造的な脅威は電化だ。ヒートポンプや電気ボイラーで蒸気を使わない工場が増えれば、弁の需要は減る。ただ、高温の蒸気が必要な食品・化学・医薬では当面、蒸気が主役であり続ける。競合は、TLVなどの専業メーカー、ミヤワキ、世界ではスピラックス・サーコなどの大手、そして安価な中国製品だ。国内の保守需要は当社のような老舗が守りやすいが、海外では価格競争が避けられない。それでも、国内の工場の更新サイクルは10年単位で、需要の見通しは立てやすい。
資本政策と M&A
財務は極めて堅い。自己資本比率は86%、純現金は約40億円で、時価総額の約3割に当たる。借入はほぼなく、金利が上がっても利払いは増えない。むしろ、手元の現金の利息が増えて利益の追い風になる。
株主への還元は、配当が中心だ。2026年3月期の年間配当は前期から増えたが、配当性向は3割台にとどまり、毎年の純利益のうち半分以上は内部に残る。決算説明会は開かず、会社が資本政策を大きく語ることも少ない。現金は積み上がる一方で、使い道は海外子会社の取得にとどまる。
筆者は、余った現金は全額が株主に戻るとは見ない。そこで、積み上がる現金は半分だけ価値に数えた。会社が方針を変えて配当性向を引き上げる、あるいは自社株買いに動けば、この見立ては上振れる。M&Aは、ASEANなど海外の販売拠点の取得が中心になる見通しで、大型の買収は想定しにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
蒸気を制御する弁は、景気の波が小さく、交換需要が積み上がる良い事業だ。営業利益率はすでに12%台に乗り、アジアの売上は2桁で伸びている。ASEANの工場増設は続き、蒸気の省エネ更新という国の後押しもある。国内でも、老朽化した蒸気設備の更新は待ったなしで、価格転嫁もしやすい。
財務は借金なしで、純現金は時価総額の3割に及ぶ。利益が積み上がれば、配当の増額や自社株買いの余地は大きい。ここまで現金が溜まれば、会社も還元を考えざるを得ない。
10年でアジア売上が2倍近くに伸び、利益率が14%台まで上がれば、純利益は30億円規模になる。今の時価総額の2倍以上の価値が見込める。蒸気という古い技術の中で、省エネという新しい価値を売れる会社は少ない。現金を含めた資産価値も、株価の下支えとして十分に厚い。筆者の見立てでは、この強気の筋書きが現実になる確率は決して低くない。弁という小さな部品の中に、省エネという大きな需要が埋まっている。
慎重な見方
蒸気は、いずれ電気に置き換わっていく。脱炭素の流れでヒートポンプや電気ボイラーが広がり、蒸気を使わない工場が増えれば、弁の市場そのものが縮む。国内の数量は人口減で細り、需要は更新頼みだ。
海外では、安い中国製品が東南アジアの市場を荒らしている。当社は売上100億円の小さな会社で、価格競争に付き合う体力が弱い。2026年3月期の利益の急伸には、営業外の一時的な利益が含まれており、実力をそのまま映してはいない。
現金が溜まっても、会社が株主に返す保証はない。眠った現金は、帳簿では厚く見えても、そのままでは価値が下がり続ける。買収に使えば失敗の恐れもある。さらに、世界の大手が価格を下げて新興国の需要を取りに来れば、小さな当社の利益率は簡単に削られる。売上100億円の会社が、10年で2倍の海外売上を取るという前提そのものが楽観的すぎる。加えて、少数の経営陣が決める資本政策は、株主の期待とずれやすい。割安に見える数字が、そのまま利益になるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
営業利益率の上昇と財務の硬さは本物で、強気の見方に分がある。一方、電化の脅威と現金の使い道への疑いも筋が通る。そこで、確率は中立に最も置きつつ、やや強気の側を厚めにした。悲観は、電化と中国勢で国内の価格も崩れる構造的な負けとして1割に置いた。現金が厚いぶん、最悪の場合でも損失は帳簿の半分強で止まるとみて、悲観の深さは抑えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,376 円302 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 448 円57 億円)。 今の値に割り戻すと 1,527 円194 億円、今との差 +52.6%、 期待の年率 +10.9%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 4,243 円540 億円 | 708 円90 億円 | +394.6% | +17.3% | 594 円76 億円 |
| やや楽観 | 23% | 3,100 円394 億円 | 550 円70 億円 | +264.7% | +13.8% | 840 円107 億円 |
| 中立 | 35% | 2,477 円315 億円 | 472 円60 億円 | +194.6% | +11.4% | 1,032 円131 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,037 円132 億円 | 299 円38 億円 | +33.4% | +2.9% | 267 円34 億円 |
| 悲観 | 10% | 792 円101 億円 | 118 円15 億円 | −9.1% | −1.0% | 91 円12 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,376 円302 億円 | 448 円57 億円 | +182.1% | +10.9% | 2,824 円359 億円 |
今の株価時価総額 1,001 円127 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 12% アジア倍増・省エネ更新で利益率14%台 利益 30 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 4,243 円540 億円
アジアの売上が10年で倍以上に伸び、海外が全体の4割を占める。蒸気の省エネ診断と弁の更新をセットで売る形が定着し、価格は物価を上回って上げられる。国内は更新需要が下支えして数量は小幅に増える。営業利益率は14%台に乗り、利益は今の2倍に近づく。余った現金の一部は配当の増額に回り、株主還元が厚くなる。ASEANの子会社が現地の販売網を握り、競合の撤退や吸収も追い風になる。この筋書きでは、10年後には蒸気の弁を軸にしたアジアの中堅企業へと姿を変える。この筋書きでは、営業利益は27億円台、純利益は30億円に乗る。現金を厚く抱えたまま、配当は大きく増える。
- 国内の蒸気用自動調整弁:数量 12.7(出荷台数(万台))× 価格 8.40(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 107 億円・営業利益 15 億円。数量は今の 1.05 倍、価格は 1.40 倍、営業利益率 14.5%
- 海外(アジア中心)の自動調整弁:数量 8.1(出荷台数(万台))× 価格 11(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 91 億円・営業利益 14 億円。数量は今の 2.10 倍、価格は 1.40 倍、営業利益率 15.0%
倍率:事業の純利益 30 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。全体の PER 17.48 倍、時価総額 540 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:アジアの倍増と中国勢の抑え込みが両立する前提はハードルが高く、1割強にとどめた。
やや楽観 23% アジアが堅調に伸び、利益率は13%台を維持 利益 24 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 3,100 円394 億円
アジア売上は年6%ほどで伸び、10年で1.8倍になる。国内は更新需要で数量が横ばいを保ち、価格は物価並みに上がる。営業利益率は13%台で定着し、営業外の収益も適度に積み上がる。配当は純利益の4割前後に高まり、現金は緩やかに積み上がる。会社が資本の使い道を明確にし、株主の評価も上がる展開だ。国内の同業が値上げを通した前例にも沿う形で、価格転嫁が着実に進む。アジアでは現地生産化の動きが一巡し、日本製の信頼性が評価される。営業利益は20億円台前半、純利益は23億円台に乗る。配当と内部留保のバランスも良く、株主の取り分は安定して増える。
- 国内の蒸気用自動調整弁:数量 12.1(出荷台数(万台))× 価格 8.16(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 99 億円・営業利益 13 億円。数量は今の 1.00 倍、価格は 1.36 倍、営業利益率 13.5%
- 海外(アジア中心)の自動調整弁:数量 7.0(出荷台数(万台))× 価格 11(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 76 億円・営業利益 10 億円。数量は今の 1.80 倍、価格は 1.36 倍、営業利益率 13.5%
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。全体の PER 16.11 倍、時価総額 394 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:アジアの伸びが続く可能性は十分あり、現在の勢いからみて最も起こりやすい上振れと位置づけた。
中立 35% 中立:国内は横ばい、アジアが伸びて利益が4割増 利益 20 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 2,477 円315 億円
国内は人口減と電化で数量が3%ほど減るが、価格は物価並みに上がり、売上は4割近く増える。アジアは年4%ほどで伸び、10年で数量は1.5倍になる。営業利益率は12%台で、過去の山の13%を超えない。営業利益は18億円台、純利益は19億円台になる。配当は純利益の3割台を保ち、内部に残る現金が積み上がる。減価償却は今の取得原価のままで、物価では増えない。ただ、更新投資は建築費の上昇で膨らむため、償却が軽くなる分は利益率に織り込まなかった。為替は150円で動かさず、海外の円換算も安定する前提だ。この水準でも、今の純利益に比べて4割ほど利益が増える。配当は年を追って増え、現金の積み上がりは続く。
- 国内の蒸気用自動調整弁:数量 11.7(出荷台数(万台))× 価格 8.04(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 94 億円・営業利益 12 億円。数量は今の 0.97 倍、価格は 1.34 倍、営業利益率 12.5%
- 海外(アジア中心)の自動調整弁:数量 5.8(出荷台数(万台))× 価格 11(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 62 億円・営業利益 8 億円。数量は今の 1.50 倍、価格は 1.34 倍、営業利益率 12.5%
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。全体の PER 15.18 倍、時価総額 312 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の更新需要とアジアの成長はどちらも読みやすく、両者の中間を置いた。最も確率が高い。
やや悲観 20% 電化と価格競争で国内が痩せ、利益率が9% 利益 11 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,037 円132 億円
ヒートポンプの普及で国内の蒸気設備の新設が減り、数量は1割落ちる。海外では中国製の安価品に押され、価格は物価を下回る伸びにとどまる。営業利益率は9%まで下がるが、赤字にはならない。余った現金は買収の失敗や谷の運転資金で一部が目減りし、今の75%を数える。配当は純利益の4割弱を保つ。国内の保守需要が下支えするため、事業の存続自体は揺らがない。ただし、海外の拡大は止まり、10年で利益はほぼ横ばいに終わる。営業利益は10億円前後で、今より2割ほど低い水準に落ち着く。それでも財務の厚さは変わらず、減配までは至らない。
- 国内の蒸気用自動調整弁:数量 10.9(出荷台数(万台))× 価格 7.50(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 82 億円・営業利益 7 億円。数量は今の 0.90 倍、価格は 1.25 倍、営業利益率 9.0%
- 海外(アジア中心)の自動調整弁:数量 4.7(出荷台数(万台))× 価格 10(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 47 億円・営業利益 4 億円。数量は今の 1.20 倍、価格は 1.25 倍、営業利益率 9.0%
倍率:ROEは約4%でkを下回るので、PERは1÷k(約14倍)まで。ためた利益は額面未満の価値という前提で、約7割の10倍に置いた。
確率:国内の数量減と中国勢の値下げが重なる可能性は無視できず、2割に置いた。
悲観 10% 構造的に負け、電化と中国勢で国内の価格も崩れる 利益 3 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 792 円101 億円
蒸気から電気への切り替えが想定より早く進み、国内の数量が3割落ちる。中国勢が国内の更新需要にも入り込み、価格は物価の3分の1ほどしか上がらない。営業利益率は3〜4%に落ち、純利益はごくわずかになる。こうなると稼ぐ力ではなく、持っている資産の価値で値が付く。現金の半分と、土地・設備・在庫の売却価値が下支えになる。会社は縮小均衡に入り、配当も大きく絞る。自己資本の厚さは残るが、事業としての魅力は薄れ、買収の対象になるか、現金を抱えたまま小さく続くかの分かれ道に立つ。この筋書きでも、財務は健全なまま残り、倒産の恐れはほとんどない。株主の損失は、資産価値の範囲に収まる。
- 国内の蒸気用自動調整弁:数量 8.4(出荷台数(万台))× 価格 6.60(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 56 億円・営業利益 2 億円。数量は今の 0.70 倍、価格は 1.10 倍、営業利益率 4.0%
- 海外(アジア中心)の自動調整弁:数量 3.5(出荷台数(万台))× 価格 8.80(1台あたりの平均単価(万円))→ 売上 31 億円・営業利益 1 億円。数量は今の 0.90 倍、価格は 1.10 倍、営業利益率 3.0%
倍率:今の自己資本183億円に0.55倍を掛けた。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金と売れる資産の税後の価値(床)で値を付けた。
確率:電化の進行と海外の価格崩れが同時に起きる構造的な負けとして1割に置いた。5%を下回らない水準とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の蒸気用自動調整弁
日本国内での減圧弁・スチームトラップ・安全弁・温度調整弁などの販売と保守。
| 数量出荷台数(万台) | 価格1台あたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.1 | 6.00 | 72 | 9 |
| 10 年後 中立 | 11.7 | 8.04 | 94 | 12 |
取り方:決算説明資料の地域別(日本約78億円、アジア約48億円。会社間取引を含む)から外部売上を約72億円と推定。台数は開示がなく、平均単価を6万円と仮置きして逆算した推定値。営業利益9億円は全社の営業利益13.2億円を国内に7割として配分した推定。
海外(アジア中心)の自動調整弁
ASEANを中心とする海外子会社と輸出による弁の販売。
| 数量出荷台数(万台) | 価格1台あたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.9 | 8.00 | 31 | 4 |
| 10 年後 中立 | 5.8 | 11 | 62 | 8 |
取り方:アジアのセグメント売上が約48億円(会社間取引を含む)なので、外部売上を約31億円と推定。台数は開示がなく、国内より大口径・高機能品が多いとみて平均単価を8万円と仮置きして逆算した推定値。
リスクと懸念
電化で蒸気そのものが減る
ヒートポンプや電気ボイラーが普及し、工場が蒸気から電気へ移ると、減圧弁やトラップの市場が縮む。高温蒸気が必要な食品・化学・医薬では当面残るが、10年では国内の数量を押し下げる要因になる。
中国メーカーとの価格競争
東南アジアでは安価な中国製の弁が増えている。売上100億円の当社は価格競争に付き合う余力が小さく、海外で価格が崩れれば、利益率の上昇が止まる恐れがある。
利益の一部が一時的だった可能性
2026年3月期は経常利益が営業利益を大きく上回った。営業外の利益の中身は未確認で、これが毎期続くとは限らない。起点を営業利益並みにならして見る必要がある。
現金の使い道と還元の薄さ
純現金が時価総額の3割あるのに、配当性向は3割台にとどまる。現金が積み上がるだけなら価値は割り引かれ、海外買収に使えば失敗の恐れもある。
原材料・人件費の上昇
鋳造に使う金属や加工の人件費が上がる。価格転嫁が遅れれば、利益率が圧迫される。物価3%の前提でも、転嫁の速さが利益を左右する。
小さな規模と意思決定の偏り
経営の意思決定が少人数に集中し、資本政策の転換も遅れやすい。一方、TOBの対象になる可能性も一定程度あり、これは株主にとって上振れの余地でもある。
今後の分かれ目
- 配当性向が5割以上に引き上がる、または自社株買いが始まったら
- 余った現金の戻り方を半分から全額に見直せる。本質価値は2割前後上振れる。
- アジア売上が2桁の伸びを3年以上続けたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ASEANの子会社の利益率も合わせて確かめる。
- 営業利益率が10%を割り込んだら
- 利益率の上昇は一時的だったことになる。やや悲観に重みを移す。
- 国内の蒸気用ボイラーの出荷が前年比で2桁減る年が続いたら
- 電化の影響が本格化した合図。悲観の確率を上げる。
- 営業外収益の中身が一時的な益だったと開示されたら
- 利益の起点をさらに下げ、中立の純利益を2割ほど下方修正する。
- TOBや大株主の変動が起きたら
- 現金と財務の厚さが評価されやすい。上振れの余地として扱う。
見ておくもの
- アジアのセグメント売上と利益率
- 営業利益率(12%台を保てるか)
- 配当性向と自社株買いの有無
- 国内ボイラー・蒸気設備の出荷動向
- 営業外収益の内訳
倍率と資本コストの決め方
売上は国内・海外の台数×単価で積み、中立の営業利益率は過去の山(約13%)を超えない12%台に置いた。倍率は正当化PERの下限(1÷k)の14.3倍に置き、今の株価は参照していない。リース会計の変更は、賃借が小さい当社では影響が限られるため、今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.5→17.48 倍・やや楽観 PER 15→16.11 倍・中立 PER 14.3→15.18 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質-0.5%を足して7.0%。