結論
日本ギア工業は、発電所や工場の配管の弁(バルブ)を開け閉めする「駆動装置」を作る歯車の会社だ。売上は約 99 億円、小さな企業である。とくに原子力発電所向けでは、会社の説明で国内シェアが 9 割を超える。
筆者の結論は、事業の質は高いが、今の値段はほぼ妥当で、やや高いとも言える、というものだ。確率で重みを付けた価値は今の時価総額を 1 割ほど下回る。理由は、稼いだ資金が株主に戻らず、会社にたまり続けるからだ。
強みは営業利益率の高さだ。直近は 25% と、機械メーカーとしては異例の水準にある。納入した装置の保守や部品交換が利益を支え、工事事業の利益率は 3 割を超える。足元の受注残は 75 億円と、期初より 3 割ほど増えた。
弱みは三つある。需要が原子力や火力の政策に左右されること、売上の 12% が筆頭株主の成和向けで取引が一社に偏ること、配当性向が 8% と極端に低いことだ。純現金は 60 億円で時価総額の 3 割を超えるが、戻る見込みは半分程度と置いた。
10 年先の中立の営業利益は 30 億円ほどと、今より 2 割増える。売上の伸びはほとんどが物価で、数量は横ばいと見る。
足元の動きは悪くない。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、売上が横ばいでも営業利益が 3 割増えた。販管費が減ったためで、受注は 1 割増えている。会社の通期予想は慎重で、上振れの余地がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、日本ギア工業は「事業は一級、株主への扱いは二級」の会社だと見る。原発の弁を動かす装置という、代わりのききにくい仕事を持ち、利益率は 25% に達する。事業そのものの質は高い。
迷うのは資本の使い方だ。稼いだ資金の 9 割以上を会社にためている。ためた資金に事業での使い道があれば、それでよい。しかし、この会社の事業は規模が限られ、投資の機会は多くない。余った資金は、現金のまま利息を稼ぐだけになる。
もう一つは、需要が政策に左右される点だ。原発が再稼働を続ければ追い風だが、風向きが変わると、売上も利益率も下がる。わからない部分があるので、確信は中程度にとどめる。
安全域の面では、純現金が時価総額の 3 割あり、事業の利益に対する倍率も低い。悲観が起きても、現金が価値を支える。ただ、現金が株主に戻る保証がないので、筆者はその半分だけを価値に数えた。事業の質は一級だが、資金が戻らない分を割り引くと、今の値段にゆとりは小さい。
オーナーとして長く持ちたいかと問われれば、事業は持ちたい、資金の扱いは不安、が答えになる。配当性向が上がる兆しが見えれば、評価は一段上がる。
事業の経済性は、原発という限られた市場に縛られる。市場が限られると、再投資の機会も限られる。そうした会社は、稼いだ資金を株主に返すのが正しい資本配分だ。この点が改善されない限り、筆者は価値に割り引きを残す。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、駆動装置とその保守だ。発電所の配管には無数の弁がある。この弁を遠隔で開け閉めするのが駆動装置(アクチュエータ)で、歯車で回転力を増やす仕組みが核心になる。同社は 1938 年の創業で、神奈川県の藤沢に工場を置く。
事業は二つに分かれる。歯車及び歯車装置事業は売上 75 億円で、バルブ・アクチュエータ、ジャッキ、ミキサー、増減速機、自動車や建設機械向けの歯車を作る。工事事業は売上 24 億円で、こうした装置の据え付けと点検・保守を請け負い、利益率は 3 割を超える。
主な納入先は電力会社と、発電設備を作るプラントメーカーだ。原子力発電所向けと火力発電所向けが中心で、化学・紙パルプ・上下水道向けも持つ。売上の 12% は筆頭株主である成和向けで、成和は代理店や商社の役割を担うとみられる。
2026 年 3 月期は受注が 110 億円と前期より 14% 増え、売上 99 億円を大きく上回った。2027 年 3 月期の第 1 四半期も受注は 12% 増え、受注残は 75 億円に積み上がっている。会社の今期予想は売上 100 億円、営業利益 25 億円で、ほぼ横ばいを見込む。
藤沢工場は老朽化が進み、大規模な耐震工事と熱処理建屋の建設が計画に入っている。減価償却費と研究開発費が増える見込みだ。
製品の中身にも触れておく。バルブ・アクチュエータは、弁の軸を回して開閉する装置だ。モーターの回転を歯車で落とし、大きな力に変える。ジャッキは重い物を持ち上げる装置で、紙・パルプ工場や産業機械向けがある。歯車は自動車や建設機械の部品にも使われる。会社の利益の柱は、あくまで発電所向けの駆動装置と、その保守だ。
優良さと弱いところ
この会社の優良さは、取り替えにくさにある。原子力発電所の機器は、品質保証の認定と実績がなければ納められない。納めた装置は、点検や部品交換も同じ会社が行う。全国に保守拠点を置いているのはそのためだ。会社の説明では、国内の原発向けバルブ駆動装置のシェアは 9 割を超える。
利益率の高さが、その証拠だ。営業利益率は 2023 年 3 月期の 13% から、2024 年 3 月期に 22%、2026 年 3 月期に 25% へ上がった。保守や交換部品、高付加価値の装置の比率が上がったためとみられる。3 期続けて 2 割を超えたことで、一時的な山ではなく、水準が切り上がったと筆者は見る。
財務は堅い。自己資本比率は 84%、現金は 61 億円あり、借金はほぼない。営業の現金収入は年 24 億円で、利益がそのまま現金に変わっている。
弱点も多い。第一に、市場が小さい。国内の原発は 33 基しかなく、シェアが 9 割でも売上の伸びには限りがある。第二に、顧客が電力会社と成和に偏る。第三に、藤沢工場の更新が重い。第四に、少数株主への配慮が薄い。配当性向は 8% で、純利益の 9 割以上が会社に残る。
ROE は 2026 年 3 月期で 12% と高く見えるが、過去 10 年の中央値は 6% にとどまる。利益率が戻る前の水準だ。今の高い水準を保てるかが、この会社の評価を決める。
経営の姿勢は堅実だ。借金で攻めることはなく、現金を厚く持つ。反面、利益を株主に戻す意識は薄い。同じ筆頭株主の下にある取引先との関係が、売上の 12% を占める点も、外からは見えにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は国のエネルギー政策だ。第 7 次エネルギー基本計画は、2040 年度に原子力を 2 割程度とし、「依存度を可能な限り低減する」という文言をなくした。2026 年 4 月時点で、新しい規制基準の下で再稼働した原発は 33 基のうち 15 基。柏崎刈羽 6 号機が加わった。
再稼働が進めば、安全対策の工事と、定期検査での弁・駆動装置の点検が増える。さらに政府は 2040 年代までに 2〜5 基の建て替えを目指す。新しい原子炉には新しい駆動装置が要る。日本ギア工業のように、すでに納入実績のある会社は有利だ。
ただし、これは追い風であって確実な成長ではない。民間の分析には、2040 年度の目標の達成は難しいとの見方がある。運転期間の延長、地元の同意、規制審査の遅れで、再稼働の足取りは重い。火力発電所向けは、脱炭素の流れで長期には縮む。
市場の大きさは公的な統計がない。筆者の推定で、発電所・プラント向けの駆動装置・減速機・歯車の国内市場が約 700 億円、据え付けと保守の工事が約 150 億円だ。同社のシェアはそれぞれ 11% と 16% ほどになる。海外の大手にはロートルクなどがあるが、国内の原発では実績の差が大きい。
物価の面では、人件費と鋼材が上がる。ただし、点検・保守は電力会社が必ず発注する費用で、値上げが通りやすい。業種の前提との違いにも触れておく。機械要素部品の節は自動車やロボット向けが主役で、当社は発電所向けが中心だ。数量は原発の稼働と保守から積み上げた。
競合の構図も確認しておく。原子力向けの駆動装置は、品質保証の認定を取った少数の会社しか納められない。海外にはフローサーブ傘下のリミトルクや、ロートルクなどの大手がある。ただ日本の原発は、国内メーカーの実績が長い。同業の岡野バルブ製造が 2026 年 4 月に利益予想を大きく引き上げたことは、原発関連の需要が強いことを示している。
10 年の見通しとして、筆者は国内の市場が実質でほぼ横ばいと置く。楽観は再稼働と建て替えで 1 割の拡大、悲観は 3 割の縮小だ。
資本政策と M&A
資本政策は、この会社の最大の論点だ。配当は 2026 年 3 月期に小幅に増やしたが、配当性向は 8% にとどまる。利益の 9 割以上が会社に残る。自社株買いの実績はない。
その結果、純現金は 60 億円まで積み上がった。時価総額の 3 割を超える。藤沢工場の耐震工事や熱処理建屋に使う分、運転資金を除いても、30 億円台は事業に要らない現金とみられる。ただ、筆頭株主の成和が約 39% を持つオーナー支配に近い構造で、株主還元を強める圧力は弱い。東証のスタンダード市場では資本効率の改善が求められており、増配に動く可能性は残る。
M&A は目立たない。買収で規模を広げた実績はなく、売却の動きもない。10 年以内の TOB の確率は、統計の目安で 2 割ほどとされる。筆頭株主が約 4 割を持つため、成和による非上場化などが現実的な形だ。
株主優待はない。政策保有株も大きくはない。
重要なのは、東証の資本効率への要請がどう効くかだ。スタンダード市場の会社にも、資本コストを意識した経営が求められる。純資産が時価総額を上回る会社には、還元の強化や事業への再投資を求める声が強まっている。ただ、筆頭株主が約 4 割を持つこの会社では、その圧力が届きにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
原発は、国の政策が追い風になった。再稼働は 15 基まで進み、さらに建て替えも政府が表明した。再稼働のたびに、弁と駆動装置の点検・交換が発生する。納入実績のある日本ギア工業は、その需要を真っ先に取り込む。
利益率の高さは、一時的ではない。営業利益率は 3 期続けて 2 割を超え、受注残も 75 億円まで積み上がった。保守・交換部品は一度納めると何十年も続く、ストック型の収益だ。値上げも通しやすい。
財務は盤石で、現金は 61 億円ある。資本効率を問われる東証スタンダードの会社として、増配や自社株買いに動く余地は大きい。配当性向は 8% にすぎず、20% に上げるだけで、株主還元は倍以上になる。事業の質に比べ、資金が戻れば価値は上に動く。
海外の動きも追い風だ。世界でも原子力を見直す国が増え、安全な弁と駆動装置への関心が高い。日本で培った品質保証の経験は、将来の輸出の足がかりにもなる。
保守の仕事は、新設より安定している。運転が続く限り、弁は動かされ、すり減り、取り替えられる。納入した装置の数が増えるほど、保守の母数が増える。再稼働の15基に続いて、残りの炉の審査が進めば、その母数はさらに増える。
慎重な見方
市場が小さいのが最大の弱点だ。原発は国内に 33 基しかなく、シェアが 9 割でも売上の伸びには限りがある。しかも再稼働は地元の同意と規制審査で何度も遅れてきた。政策が変われば、需要は一気にしぼむ。
25% の利益率は、再稼働の山に乗った一時の水準にすぎない。2023 年 3 月期は 13% で、2022 年 3 月期は 2% だった。工事が減れば、固定費の重い工場の稼働が落ち、利益率は急に下がる。藤沢工場の更新費用も重い。
最大の問題は、稼いだ資金が株主に届かないことだ。筆頭株主の成和が約 4 割を持ち、売上の 12% を成和に頼っている。少数株主が還元を迫る手段はない。現金 60 億円は、帳簿の上にあるだけで、株主のものになるかは別の話だ。成和との取引が適正かどうかも、外からは見えにくい。
海外の大手が日本の建て替え案件に入ってくれば、国内シェアが 9 割でも先は守れない。会社の説明するシェアは、独立した検証もなく、市場の定義次第で数字が変わる点にも注意したい。
純現金が厚いことは安全域になるが、価値にはならない。60 億円の現金は、配当性向 8% の会社の中では、毎年増えるだけで株主に届かない。時間が経つほど現金の割合は膨らみ、ROE は下がる。資本が眠る会社は、事業が良くても評価が伸びない。
どちらに重みを置いたか
需要の質と利益率の高さには、強気の見方に説得力がある。ただし市場が小さく、政策に左右される点と、資金が戻らない点は、慎重な見方が正しい。筆者は、中立で営業利益率を今より少し低い 22% 台に置いた。確率は中立に最も重みを置き、楽観を小さく、やや悲観を厚くした。再稼働の遅れと政策の揺れは起こりやすいと見るからだ。悲観は 1 割とした。原発が止まる政策転換は考えにくいが、工事の受注が崩れる可能性はある。資産の厚さは、悲観の床として効く。ただ戻り方を半分に割り引いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,743 円391 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 335 円48 億円)。 今の値に割り戻すと 1,564 円223 億円、今との差 +41.2%、 期待の年率 +10.8%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,353 円620 億円 | 773 円110 億円 | +362.6% | +16.6% | 359 円51 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,946 円562 億円 | 492 円70 億円 | +300.6% | +14.9% | 888 円126 億円 |
| 中立 | 37% | 3,474 円495 億円 | 316 円45 億円 | +242.1% | +13.1% | 1,402 円200 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,250 円178 億円 | 211 円30 億円 | +31.8% | +2.8% | 380 円54 億円 |
| 悲観 | 10% | 387 円55 億円 | 105 円15 億円 | −55.6% | −7.8% | 49 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,743 円391 億円 | 335 円48 億円 | +177.8% | +10.8% | 3,078 円438 億円 |
今の株価時価総額 1,108 円158 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 再稼働と建て替えが進み、保守と新設の両方で受注が膨らむ 利益 29 億円 · PER 19.8 倍 · 株価時価総額 4,353 円620 億円
再稼働が 20 基を超え、新しい原子炉の建て替えが具体的に動き出す。安全対策の工事と定期検査が続き、駆動装置の交換と保守が増える。国内の市場は実質で 1 割伸び、納入実績の差でシェアも少し上がる。
価格は物価をわずかに上回って上がる。電力会社の発注で、交換部品と保守の比率が高く、営業利益率は 24% 台まで届く。過去最高の水準を保つ形だ。工事事業の比率が高まり、受注残も厚い。
配当は東証の資本効率の要請を受けて性向 4 割まで上がり、ためた資金は株主に戻りはじめる。藤沢工場の更新は予定どおりに終わる。純利益は 29 億円ほどで、今の 1.7 倍だ。この筋書きでも、市場が小さい点は変わらない。
この筋書きは、国の政策が最もうまく噛み合った姿だ。市場が小さい点は変わらず、数量の伸びは 1 割にとどまる。物価の上昇ぶんが売上のほとんどを作るのも、他の筋書きと同じだ。
- 歯車・歯車装置:数量 770(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 15.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 115 億円・営業利益 26 億円。市場(実質)× シェア。シェアは 10.7% を基準に増減
- 工事(据付・保守):数量 175(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 22.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 39 億円・営業利益 12 億円。市場(実質)× シェア。据え付けと保守の工事
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 19.84 倍、時価総額 594 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再稼働の加速と建て替えの具体化が同時に起き、価格も通る必要がある。市場が小さく政策次第の事業なので、1 割を切る確率にとどめた。
やや楽観 20% 再稼働が着実に進み、保守が積み上がって利益が伸びる 利益 26 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 3,946 円562 億円
再稼働は着実に進み、保守と交換の発注が積み上がる。国内の市場は実質で 5% ほど伸び、工事はそれ以上に伸びる。価格は物価並みを少し上回る。
営業利益率は 23% 台で、今の水準から少し下がるにとどまる。新しい工場棟の償却費と人件費の増加を、工事事業の高い利益率が吸収する。受注残は厚く、売上が安定する。
配当は性向 3 割程度まで上がり、現金は少しずつ戻る。ROE は高いまま保たれる。純利益は 26 億円ほどで、今の 1.5 倍になる。
工事事業の比率が少し上がり、利益率を支える。ROE は 10% 近くを保つ。配当を増やす動きは緩やかで、ためた資金は半分ほどが株主に戻らない。
部品の交換が定期的に入るため、売上のぶれは小さい。景気の変動よりも、電力会社の点検計画が数量を決める。
- 歯車・歯車装置:数量 735(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 14.7%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 108 億円・営業利益 23 億円。市場(実質)× シェア。シェアは 10.7% を基準に増減
- 工事(据付・保守):数量 165(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 21.6%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 36 億円・営業利益 11 億円。市場(実質)× シェア。据え付けと保守の工事
倍率:事業の純利益 25 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 19.31 倍、時価総額 517 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残が 3 割増え、足元の受注も 1 割増えている。再稼働は 15 基まで進み、点検・交換が積み上がる形は、すでに見えている。中立の次に起こりやすい筋書きとして厚めに置いた。
中立 37% 原発の保守が安定して続き、数量は横ばい、価格は物価並みに上がる 利益 23 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 3,474 円495 億円
国内の市場は実質で今と変わらない。再稼働の増加を、火力発電所向けの縮小が打ち消す。工事は、運転年数の長い原発の保守が増えて、わずかに伸びる。価格は物価並みに上がり、人件費の上昇も同じだけ販売価格に乗せる。
営業利益率は 22% 台。直近の 25% からは下がる。理由は、藤沢工場の更新で減価償却費が増えることと、高い利益率の交換部品の比率が落ち着くことだ。売上は 130 億円台、営業利益は 30 億円ほど。
配当は性向 2 割に向けて少しずつ上がるが、自社株買いは小さい。ためた資金の多くは会社に残り、自己資本は 10 年で 2 倍に膨らむ。特別な事件はなく、「質の高い小さな会社」として 10 年が過ぎる。
受注残は厚く、数年の売上は見通しやすい。ただ数量が増えないため、利益の伸びは物価の分に近い。
- 歯車・歯車装置:数量 700(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 14.4%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 101 億円・営業利益 21 億円。市場(実質)× シェア。シェアは 10.7% を基準に増減
- 工事(据付・保守):数量 155(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 21.2%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 33 億円・営業利益 10 億円。市場(実質)× シェア。据え付けと保守の工事
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 18.67 倍、時価総額 439 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再稼働は進むが遅れも多く、数量は横ばい。10 年の実績では、3 期続けて高い利益率を保っており、今の水準から少し下がる形を最も起こりやすいとして、最大の確率を置いた。
やや悲観 26% 再稼働が遅れ、火力が縮み、海外勢との価格競争で利益率が下がる 利益 13 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,250 円178 億円
再稼働が計画どおりに進まず、点検の発注が減る。火力発電所向けの駆動装置は、脱炭素の流れで縮む。国内の市場は実質で 15% 弱縮み、シェアも海外の大手に少し奪われる。
電力会社のコスト削減の要求が強まり、保守費の値引きを迫られる。営業利益率は 15% 台まで下がる。藤沢工場の更新費用は予定どおりかかるので、固定費の負担が重くなる。
配当は据え置きに近く、自社株買いはない。現金は積み上がるが、株主に戻らず、戻り方の半分がさらに削られる。純利益は 13 億円ほどで、今の 7 割だ。
それでも会社は黒字を保ち、無借金で続く。ただ、利益の伸びがなくなる中で現金が増え続け、資本効率は下がる。筆頭株主が経営を握るため、構造改革や還元の強化は期待しにくい。
海外勢の入札参加で、新設の案件での価格は下がる。保守でも、電力会社が複数社の見積もりを取る例が増える。
- 歯車・歯車装置:数量 600(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 14.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 84 億円・営業利益 13 億円。市場(実質)× シェア。シェアは 10.7% を基準に増減
- 工事(据付・保守):数量 135(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 20.5%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 28 億円・営業利益 6 億円。市場(実質)× シェア。据え付けと保守の工事
倍率:事業の ROE 5.2%(現金の利息と余った現金を除く)が k 7.50% を下回り、PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。構造的に負けた筋書きで、利益は縮み再稼働の遅れと海外勢との価格競争が重なるため、上限の 64% に当たる 8.5 倍に置いた(中立の PER より低い)。
確率:再稼働は地元の同意と審査で何度も遅れてきた。火力の縮小は確実で、保守費の削減圧力もかかる。強気の筋書きより起こりやすいとみて、やや厚めに置いた。
悲観 10% 原子力の発注が細り、品質や納期の問題も重なって工事が崩れる 利益 4 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 387 円55 億円
政策の揺れや事故で再稼働が止まり、点検と交換の発注が大きく減る。火力は縮み、海外勢が価格で入ってくる。国内の市場は実質で 3 割縮み、シェアも落ちる。
営業利益率は 4% まで落ち、固定費の重い工場の稼働率が下がる。藤沢工場の更新費用が重く、減損も出る。配当は縮小する。
それでも無借金で、現金が残る。筆頭株主による非上場化や再編の可能性が高まるが、少数株主に有利な価格になる保証はない。事業が崩れても、現金が価値の床になる。
原発の保守が細り、利益率の高い工事事業が崩れるのが痛い。会社が持つ現金は残るが、使い道が定まらず、価値は帳簿より大きく割り引かれる。非上場化の提案が出ても、価格は低くなりやすい。
工場の稼働率が下がると、熱処理など自社で持つ工程の固定費が重くのしかかる。人員の整理も避けられない。
- 歯車・歯車装置:数量 480(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 13.2%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 64 億円・営業利益 3 億円。市場(実質)× シェア。シェアは 10.7% を基準に増減
- 工事(据付・保守):数量 100(国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 19.5%(実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 20 億円・営業利益 2 億円。市場(実質)× シェア。据え付けと保守の工事
倍率:悲観は床を稼ぐ力ではなく資産で測る。事業の純利益は 3.5 億円と小さく、PER では現金を割る。今の自己資本 145 億円に掛ける形で、現金(戻り方 0.5 を掛けた後)の評価に当たる 0.38 倍に置いた(中立の PBR より低い)。
確率:原発の再稼働が止まり、さらに納期や品質の問題が出る形で、構造的な負けにあたる。需要が消える政策転換は考えにくく、現金も厚いので、1 割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
歯車・歯車装置
バルブ・アクチュエータ、ジャッキ、ミキサー、増減速機、各種歯車の製造。原発・火力発電所向けが中心。
| 数量国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 10.7% | 75 | 17 |
| 10 年後 中立 | 700 | 14.4% | 101 | 21 |
取り方:発電所・プラント向けの駆動装置・減速機・歯車の国内市場を約 700 億円と推定し、売上 75.1 億円からシェア約 10.7%。公的な統計がなく、推定は幅が大きい。事業部の利益 16.9 億円(利益率 22.4%)は開示。
工事(据付・保守)
駆動装置などの据え付け、点検、保守。納入した装置の面倒を見る事業で、利益率が高い。
| 数量国内の該当市場(億円、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(シェア × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 15.8% | 24 | 8 |
| 10 年後 中立 | 155 | 21.2% | 33 | 10 |
取り方:据え付け・点検・保守の工事の国内市場を約 150 億円と推定し、売上 23.7 億円からシェア約 15.8%。推定。事業部の利益 7.7 億円(利益率 32.5%)は開示。
リスクと懸念
原子力政策と再稼働の遅れ
需要の核は原発の再稼働と保守だ。地元の同意や規制審査の遅れで、再稼働が止まれば、点検と交換の発注も遅れる。政権交代や事故をきっかけに、方針が変わる可能性も消えない。市場が小さいので、影響は大きい。原発の弁の駆動装置は、需要の中身が定期点検と交換に偏る。点検の周期が延びれば、発注が一時的に減る。
顧客と販売先の偏り
売上の 12% は筆頭株主の成和向けで、残りも電力会社とプラントメーカーに集中する。一社の発注計画が変わるだけで、四半期の売上が大きく動く。成和との取引条件は外から見えにくい。電力会社が価格交渉で優位に立つ構造も、値上げの余地を縮める。電力会社の設備投資の計画の変更は、受注の時期をずらす。
利益率の反落
営業利益率は 25% と過去最高で、2023 年 3 月期は 13%、2022 年 3 月期は 2% だった。高付加価値品や交換部品の比率が下がれば、固定費の重い工場の稼働が落ち、利益率は急に下がりうる。点検や保守の工事は、人手が限られる。技能者が確保できなければ、受注が売上に変わらない。
藤沢工場の更新
老朽化した藤沢工場の大規模耐震工事と熱処理建屋の建設は、減価償却費と研究開発費を押し上げる。計画が膨らむか、工事で生産が止まれば、納期と利益に響く。建築費の上昇も重い。減価償却費は新しい建屋の分だけ増え続け、10 年では利益を圧迫する。
少数株主の扱い
配当性向は 8% で、自社株買いもない。筆頭株主が約 4 割を持ち、少数株主の意見は通りにくい。ためた資金が事業で生かされず、現金のまま眠る恐れがある。東証の要請で動きがあっても、筆頭株主の意向次第では実質的な変化は小さい。
火力発電の縮小と海外大手
火力発電所向けの装置は、脱炭素の流れで長期には縮む。原発でも、海外の大手が建て替えの案件で入ってくれば、国内シェアは守れない。技術者の高齢化と採用難も重い。国内の原発の稼働が遅れる間は、点検の機会も限られる。
今後の分かれ目
- 原発の再稼働がさらに進み、建て替えの具体的な案件が出たら
- 数量の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を厚くする。
- 再稼働が地元の反対や規制審査で止まり、点検の発注が減ったら
- 数量と利益率の前提を下げ、やや悲観側の確率を上げる。
- 配当性向の引き上げや自社株買いが発表されたら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に引き上げ、価値を上方修正する。
- 営業利益率が 2 期続けて 20% を下回ったら
- 高い水準が山だったとみて、中立の利益率を下げる。
- 成和による非上場化や TOB の提案が出たら
- 現金の厚さと安定株主の存在が評価されるが、価格の交渉次第で少数株主の取り分が決まる。
- 藤沢工場の更新が膨らむか遅れたら
- 投資額と減価償却費の前提を見直し、利益率を下げる。
見ておくもの
- 受注高と受注残高(四半期)
- 営業利益率(四半期)
- 原発の再稼働基数と建て替えの進み
- 配当・自社株買い
- 藤沢工場の更新の進捗と投資額
倍率と資本コストの決め方
歯車・歯車装置と工事の 2 つに分け、国内市場(実質)× 当社のシェア × 物価並みの価格で売上を積んだ。中立の営業利益率は直近の 25% より低い 22% 台に置き、3 期続いた実績と受注残を根拠にした。倍率は強い堀の式(残る割合 2/3)から出し、今の株価や過去の倍率には寄せていない。余った現金は戻り方 0.5 で別に足した。減価償却は取得済みの設備ぶんを物価で増やさず、新工場の分だけ足した。新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.5→19.84 倍・やや楽観 PER 14.7→19.31 倍・中立 PER 12.7→18.67 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0% = 7.5%。筆頭株主による支配と資金が戻りにくい点は k に足さず、戻り方の係数と確率で表した。