結論
放電精密加工研究所は、火花の放電で金属を削る「放電加工」を軸に、ガスタービンや航空機エンジンの部品を受託で加工する会社だ。売上の4割強は三菱重工グループで、同社は議決権の約35%も持つ。2026年2月期は売上143億円、営業利益11億円と過去最高を更新した。
筆者の結論は「割高」である。三菱重工のガスタービン増産は本物で、会社は中計の営業利益目標を1年前倒しで達成した。それでも、10年後の中立の純利益は15億円ほどで、事業の資本効率は資本コストをわずかに超える程度にとどまる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額の3分の1ほどだ。
理由は単純である。稼ぎの柱は、顧客が値段を握る受託加工だ。需要が強くても、伸びは加工できる人と設備の数で頭打ちになる。利益率が過去の山(10%強)を大きく超える根拠は、今のところ開示にない。強気の筋書きでも、10年後の価値は今の値段に届かない。
注目すべきは、需要の強さと株の値段が別の話だという点だ。事業は堅調だが、払う値段には安全域が乏しい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず事業が10年後も存在し、利益が読めるかを問う。当社は、三菱重工という強い顧客に支えられ、10年の需要は見通せる。ただ、売上の4割強を一つの顧客に依存する事業は、予測の確度を下げる。
オーナー利益の見立ては、見かけの利益より小さい。設備産業で、稼ぐほど新しい機械と人に再投資しなければならない。直近の営業利益11億円のうち、維持のための投資と減価償却を差し引いた分が、株主のものになる利益である。
堀は、加工の技能と認証だ。だが、顧客が価格を決める構造では、超過利益は長く続かない。資本効率の見通しも、資本コストを少し超える水準にとどまる。
安全域の点では、今の時価総額は直近の純利益の35倍前後で、10年先の成長をかなり織り込んでいる。事業の質は悪くない。しかし、払う値段が高すぎる。バリュー投資家なら、本業の堅実さを認めたうえで、この値段では待つと判断するだろう。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの7割は放電加工・表面処理だ。超硬合金や耐熱合金のような削りにくい材料に、電気の火花で複雑な形を彫る。主な品はガスタービンの翼と、航空機エンジンの部品、防衛装備品だ。さらに米国から導入した技術で、耐熱・耐食のコーティングも手がける。このセグメントだけで2026年2月期の利益は約20億円、利益率は約20%に達する。
金型が2割強を占める。アルミ押出用の金型は住宅サッシ向けで、LIXILグループが主な顧客だ。セラミックスハニカム押出用の金型は自動車の排ガス浄化向けで、日本碍子(NGK)が顧客になる。材料の仕入れから仕上げまで自社で通す。タイの子会社が金型の海外拠点を担う。
残りの1割弱が機械装置等で、直動式のデジタルサーボプレス「ZENFormer」とその小型版、さらにクロムを使わない防錆処理剤を手がける。自社製品で受託への依存を下げる狙いだが、利益率は3%前後と薄い。
顧客は集中している。三菱重工グループが売上の42.9%、LIXILが11.9%、川崎重工が7.9%、NGKが5.4%で、上位4グループで68%を占める。連結従業員は641名の小さな会社である。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、手を出しにくい加工の技能と設備だ。超硬材や難削材への放電加工、耐熱コーティングは、図面があれば誰でもできる仕事ではない。航空・エネルギーの品質認証と、長年の加工ノウハウが参入の壁になる。セグメントの利益率が20%に乗るのは、この壁の表れだ。
一方で、堀の厚さには限りがある。取引条件は「市場価格と当社の原価を勘案して決める」とされ、価格を自分で決める力は強くない。顧客が三菱重工に偏る点も、交渉力を弱める。三菱重工は資本業務提携で当社を支える側だが、同時に最大の値段の決め手でもある。
資本効率はまだ低い。過去10年のROEの中央値は4%台で、2021年2月期は純損失が大きく、赤字の期が4回あった。直近のROEは9.5%と改善したが、これは高い稼働率の一時の姿でもある。
経営は動きが速く、2024年の第三者割当で三菱重工から約20億円を受け入れ、ガスタービン向けに10数億円規模の設備投資を実行した。その規律は評価する。ただ、自己資本比率は45.7%で、借入には財務制限条項が付く。景気の谷では余裕がない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の中心はガスタービンだ。電力需要の増加とデータセンターの電源確保で、発電用ガスタービンの世界の発注は膨らんでいる。三菱重工のGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)は、2026年3月期の受注高が前期比80%増の約2.7兆円で、受注残は5兆円を超えたと報じられている。世界の大手は、GEヴェルノバ、シーメンス・エナジー、三菱重工の3社だ。
増産のボトルネックは、翼などの高温部品の加工能力にある。放電加工や特殊コーティングは外注に出る工程で、当社のような加工会社に仕事が回る。ここが当社の追い風の正体である。
航空機エンジンも、新型機の量産が進み、整備需要が厚い。防衛では、日本の防衛費の拡大が装備品の生産を押し上げる。当社の航空・宇宙の売上は、2024年2月期の約2倍になる計画だ。
逆風は住宅と自動車である。LIXIL向けのアルミ押出金型は、新築住宅の減少で伸びない。セラミックスハニカムは、電気自動車への移行で長期には頭打ちになりうる。
業界の循環にも注意が要る。発電設備の発注は景気と政策に左右され、ブームの後に反動が来る。受託加工の競合は、三菱重工自身の内製と、他の中堅加工会社である。能力の増設を急げば、過去と同じく稼働率の低下で利益が振れる。
資本政策と M&A
還元の方針は、連結配当性向30%を目安とする安定配当だ。2026年2月期の配当総額は約1.9億円で、純利益の23%にとどまった。自社株買いは2023年2月期に1億円ほど行った程度で、重視していない。優待はない。
資本の使い道は、設備投資が最優先だ。2026年2月期の投資は18億円に達し、ガスタービン部品や航空機エンジン向けの生産ラインを増やしている。
大きな出来事は2024年の三菱重工との資本業務提携である。三菱重工は第三者割当で約355万株を引き受け、約20億円を払い込んだ。持分は議決権の35%で、東京中小企業投資育成が6〜7%を持つ。政策保有株も16銘柄、約19億円ある。
三菱重工が持分をさらに高めて完全子会社にする可能性は、ゼロとは言えない。ただ、その場合の価格は、三菱重工が当社を必要とする度合いと、少数株主への配慮で決まる。筆者は、買収を期待して価値を上乗せしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ガスタービンの需要は、一過性のブームでなく構造的に続く。電力需要の増加とデータセンターの電源確保で、各国が発電設備の更新と新設を急ぐ。三菱重工のGTCCの受注残は5兆円を超え、数年先まで工場が埋まっている。当社はその最終工程に近い放電加工と表面処理を担い、増産のボトルネックを押さえている。
会社は足元で証明した。中計2027で2026年2月期の営業利益目標8.9億円を、1年前倒しで11億円に達成した。2027年2月期は売上160億円、営業利益12億円を見込み、航空・宇宙の売上は2024年2月期の約2倍になる。ガスタービン部品の大型投資の回収は、2027年2月期の後半に始まる。
三菱重工は議決権の35%を持つ大株主であり、当社の加工能力の安定供給は、自社の増産計画に直結する。当社を失えば困るのは顧客側だ。これは単なる発注者と受注者の関係を超えた、長期の相互依存になる。
利益率にも上昇余地がある。セグメント利益率は20%に乗り、設備が稼働すれば固定費の負担が薄まる。航空エンジンと防衛装備品は量産化で単価と利益がさらに積み上がる。10年後に営業利益率が10%を超えても不思議ではない。三菱重工による完全子会社化の可能性も、少数株主にはプラスに働く。
慎重な見方
三菱重工の増産は、当社の利益を約束しない。売上の4割強を一つの顧客が占め、取引条件は「市場価格と当社の原価を勘案して決める」とされる。価格を決めるのは顧客であり、需要が強くても超過利益は顧客に持っていかれやすい。
過去を見ると、営業利益率の山は10%強で、赤字の期は4回あった。2021年2月期は純損失が28億円に膨らんだ。今回の好業績も、設備が満杯に動く間の姿にすぎない。ガスタービンの発注が一巡すれば、新設した能力は余り、固定費が重く残る。
自己資本比率は45.7%と高くなく、借入には財務制限条項がある。景気が悪化したときの余裕は小さい。住宅向けの金型は縮み、自動車向けのセラミックスも電動化で長期には細る。第二の柱はまだ育っていない。
株価の問題も大きい。足元の時価総額は直近の純利益の35倍前後で、利益が倍になっても、10年後のROEは資本コスト付近にとどまる。ROEが資本コストを大きく超えないなら、成長しても価値はあまり増えない。伸びがそのまま株主の価値になるわけではない。
さらに、三菱重工が内製に戻す、あるいは別の加工先に分けるといった動きが出れば、受注は急に細る。大株主は、少数株主の味方とは限らない。
どちらに重みを置いたか
事業の見通しでは前者に分がある。三菱重工のGTCC受注残は5兆円を超え、2030年前後まで需要は見える。だが、価値の計算では後者の指摘が重い。資本効率が資本コストの近くにとどまる事業は、利益が伸びても倍率が伸びない。中立の筋書きでは、10年後の時価総額は今の6割にとどまる。確率は中立を最も厚くし、やや悲観に楽観より重みを寄せた。顧客の集中と過去の赤字を考えたためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 1,724 円184 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 281 円30 億円)。 今の値に割り戻すと 930 円99 億円、今との差 −62.5%、 期待の年率 −2.1%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,872 円414 億円 | 451 円48 億円 | +74.5% | +5.7% | 432 円46 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,756 円295 億円 | 379 円41 億円 | +26.5% | +2.4% | 627 円67 億円 |
| 中立 | 38% | 1,648 円176 億円 | 299 円32 億円 | −21.4% | −2.4% | 740 円79 億円 |
| やや悲観 | 22% | 594 円64 億円 | 187 円20 億円 | −68.5% | −10.9% | 172 円18 億円 |
| 悲観 | 10% | 285 円30 億円 | 56 円6 億円 | −86.3% | −18.0% | 34 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,724 円184 億円 | 281 円30 億円 | −19.1% | −2.1% | 2,005 円214 億円 |
今の株価時価総額 2,478 円265 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 三菱重工の増産が長く続き、高付加価値の加工を取り込む 利益 30 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 3,872 円414 億円
データセンターと電力の更新で、ガスタービンの発注が2030年代前半まで途切れない。三菱重工は生産を大きく増やし、当社は加工の外注先として設備と人を増やし続ける。受託加工の量は今の2倍強になり、動翼・静翼の遮熱コーティングや高難度の穴加工といった付加価値の高い工程も任されて、1時間あたりの売上が物価以上に伸びる。航空エンジンと防衛装備品の量産も立ち上がり、売上のばらつきを和らげる。金型は住宅向けの減少をセラミックス向けの新規で埋めて横ばいを保ち、サーボプレスは省エネ・省人の需要で伸びる。固定費は売上の伸びほど増えず、全社の営業利益率は12%まで上がって、過去の山を超える。ただし大口顧客への依存は残ったままだ。
- 放電加工・表面処理:数量 158(受託加工の年間加工時間(万時間・推定、実質))× 価格 1.85(加工1時間あたり売上(万円・名目))→ 売上 291 億円・営業利益 64 億円。数量2.10倍×価格1.40倍、セグメント利益率22%
- 金型:数量 3,367(金型の出荷面数(面・年・推定))× 価格 1.40(1面あたり売上(百万円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 5 億円。数量1.00倍×価格1.40倍、セグメント利益率11%
- 機械装置等:数量 936(出荷件数(件・年・推定))× 価格 2.80(1件あたり売上(百万円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 2 億円。数量1.80倍×価格1.40倍、セグメント利益率9%
倍率:事業の純利益 30 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.93 倍、時価総額 414 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ガスタービンの世界的な増設が10年近く続き、当社がその加工能力を押さえ続ける筋書きは、一つひとつの条件が揃う必要がある。実現すれば大きいが、揃う確率は1割にとどめた。
やや楽観 20% 増産が計画どおり進み、利益率が過去の山に近づく 利益 23 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 2,756 円295 億円
ガスタービン部品と航空・防衛の増産が計画どおりに進み、放電加工・表面処理の受託量は10年で1.8倍になる。三菱重工からの発注は、価格交渉でも原価の上昇をおおむね転嫁できる形で続く。2027年2月期に始まるガスタービン部品の投資回収が順調に進み、設備の稼働率は高く保たれる。セグメントの利益率は21%と、2026年2月期の実績並みを維持する。金型は住宅向けの縮小をセラミックスハニカム用の金型が支え、わずかな減少にとどまる。機械装置等も新製品の寄与で緩やかに伸びる。全社の営業利益率は10.8%で、過去の山の10.4%をわずかに超える。人の採用と設備への先行投資が回収に入り、利益が積み上がる10年になる。
- 放電加工・表面処理:数量 135(受託加工の年間加工時間(万時間・推定、実質))× 価格 1.82(加工1時間あたり売上(万円・名目))→ 売上 246 億円・営業利益 52 億円。数量1.80倍×価格1.38倍、セグメント利益率21%
- 金型:数量 3,232(金型の出荷面数(面・年・推定))× 価格 1.36(1面あたり売上(百万円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 4 億円。数量0.96倍×価格1.36倍、セグメント利益率10%
- 機械装置等:数量 780(出荷件数(件・年・推定))× 価格 2.74(1件あたり売上(百万円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 2 億円。数量1.50倍×価格1.37倍、セグメント利益率7%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.09 倍、時価総額 294 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の道筋どおり三菱重工の増産が2030年ごろまで続き、その後も高止まりする姿。会社の足元の実績が裏づけになるので、中立に次ぐ重みを置いた。
中立 38% 三菱重工の増産に乗って伸びるが、利益率は過去の山の手前で止まる 利益 15 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 1,648 円176 億円
三菱重工のガスタービン増産は2030年ごろまで続き、当社の受託加工量は10年で1.55倍になる。伸びの足を引っ張るのは需要でなく、加工できる人と設備の数だ。価格は物価並みの上昇にとどまる。三菱重工との取引は「市場価格と当社の原価を勘案して決める」形で、値上げを大きく通せる関係ではない。放電加工・表面処理のセグメント利益率は19%と、足元よりやや低く置く。航空エンジン・防衛装備品の量産化は進むが、利益への寄与は限られる。金型は住宅の縮小で量が減り、機械装置等は新規事業の投資が先行して薄利のままだ。本社費と販管費は物価と採用で膨らみ、全社の営業利益率は8.6%と過去の山の手前で止まる。
- 放電加工・表面処理:数量 116(受託加工の年間加工時間(万時間・推定、実質))× 価格 1.77(加工1時間あたり売上(万円・名目))→ 売上 206 億円・営業利益 39 億円。数量1.55倍×価格1.34倍、セグメント利益率19%
- 金型:数量 3,098(金型の出荷面数(面・年・推定))× 価格 1.34(1面あたり売上(百万円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 4 億円。数量0.92倍×価格1.34倍、セグメント利益率9%
- 機械装置等:数量 676(出荷件数(件・年・推定))× 価格 2.68(1件あたり売上(百万円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 1 億円。数量1.30倍×価格1.34倍、セグメント利益率5%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.7 倍。全体の PER 11.73 倍、時価総額 176 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ガスタービンの受注残は厚く、2030年前後までの需要は見えている。一方で顧客の集中と人の確保という制約があり、伸びは能力で頭打ちになる。この落としどころを最も重く見た。
やや悲観 22% 増産のあと需要が踊り場に入り、値上げも通らない 利益 6 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 594 円64 億円
ガスタービンの増設ブームが2030年前後で一巡し、三菱重工の発注は高止まりのまま伸びなくなる。当社の受託量は10年で1.2倍にとどまり、新設した能力の一部は稼働が下がる。三菱重工は取引条件の見直しを求め、物価の上昇分を価格に十分に転嫁できない。放電加工・表面処理の利益率は17%まで下がる。住宅向けの金型は縮小が続き、利益率は6%に落ちる。固定費として積み上がった人件費と減価償却は重く、全社の営業利益率は5%を割る。配当は続くが、投資の回収が遅れて自己資本の伸びは鈍い。事業が壊れるわけではなく、受託加工の専業として普通の資本効率に戻る10年だ。
- 放電加工・表面処理:数量 90.0(受託加工の年間加工時間(万時間・推定、実質))× 価格 1.72(加工1時間あたり売上(万円・名目))→ 売上 155 億円・営業利益 26 億円。数量1.20倍×価格1.30倍、セグメント利益率17%
- 金型:数量 2,862(金型の出荷面数(面・年・推定))× 価格 1.28(1面あたり売上(百万円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 2 億円。数量0.85倍×価格1.28倍、セグメント利益率6%
- 機械装置等:数量 520(出荷件数(件・年・推定))× 価格 2.60(1件あたり売上(百万円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 0 億円。数量1.00倍×価格1.30倍、セグメント利益率2%
倍率:ROE 4.7% が k 8.75% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PER の上限は 1÷k=11.4 倍。値上げが通らず稼ぐ力が弱まった姿なので、上限の 8.3 割の 9.5 倍に置いた。
確率:ガスタービンの増設は永遠には続かず、発注が一巡した後の落ち込みと、大口顧客の価格交渉力が重なる姿。過去に赤字が4期あった会社であり、無視できない重みを置いた。
悲観 10% 主要顧客の発注が細り、能力が余る 利益 −5 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 285 円30 億円
ガスタービンの増設が反動で止まり、同時に三菱重工が高難度の加工を内製に戻すか、別の加工先に分ける。当社が積み増した設備と人は余り、受託量は今の4分の3まで減る。売上の4割強を占める顧客の価格交渉に逆らえず、価格は物価の上昇に追いつかない。放電加工・表面処理の利益率は8%まで落ちる。金型も住宅向けの縮小で、採算はほぼゼロになる。固定費の削減は進めるが追いつかず、営業利益は赤字に沈み、設備の減損も出る。2021年2月期と2023年2月期の赤字の再来に近い。配当は大きく減らして続けるが、事業の価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産で測る局面に入る。
- 放電加工・表面処理:数量 56.3(受託加工の年間加工時間(万時間・推定、実質))× 価格 1.59(加工1時間あたり売上(万円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 7 億円。数量0.75倍×価格1.20倍、セグメント利益率8%
- 金型:数量 2,357(金型の出荷面数(面・年・推定))× 価格 1.15(1面あたり売上(百万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。数量0.70倍×価格1.15倍、セグメント利益率2%
- 機械装置等:数量 364(出荷件数(件・年・推定))× 価格 2.40(1件あたり売上(百万円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。数量0.70倍×価格1.20倍、セグメント利益率0%
倍率:赤字で、稼ぐ力では測れない。床は今の自己資本 86.8 億円に PBR 0.35 倍を掛けた 30 億円で、政策保有株と余った設備・土地の税後から純有利子負債を引いた額(floor_assets_oku)に等しい。市場の倍率は使っていない。
確率:三菱重工が加工を内製に戻す、または別の加工先に振り分ける、さらに増産ブームの反動が重なる複合の姿。低頻度だが、顧客の集中を考えると外せない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
放電加工・表面処理
ガスタービン・航空機エンジン・防衛装備品の部品を、放電加工と耐熱コーティングで受託加工する。
| 数量受託加工の年間加工時間(万時間・推定、実質) | 価格加工1時間あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 75.0 | 1.32 | 99 | 20 |
| 10 年後 中立 | 116 | 1.77 | 206 | 39 |
取り方:セグメントの外部売上99.06億円。加工時間は開示がないので、1時間あたり約1.3万円(機械賃率に付加価値の高い工程を含む)と置いて年75万時間と推定した。利益はセグメント利益20.25億円(本社費・全社の販管費は調整額に入れる)。数量は実質の加工時間で、物価3%は価格に入れる。
金型
アルミ押出用金型(住宅サッシ向け)、セラミックスハニカム押出用金型(排ガス浄化向け)、金属プレス用金型。
| 数量金型の出荷面数(面・年・推定) | 価格1面あたり売上(百万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3,367 | 1.00 | 34 | 3 |
| 10 年後 中立 | 3,098 | 1.34 | 42 | 4 |
取り方:外部売上33.67億円を、1面あたり平均100万円(押出用金型は高額、プレス型は低額の平均)と置いて年3,367面と推定した。利益はセグメント利益2.97億円。数量は住宅着工とセラミックス需要に連動する実質の面数で、物価は価格に入れる。
機械装置等
直動式デジタルサーボプレス、クロムフリー防錆剤、プレス部品の受託加工。
| 数量出荷件数(件・年・推定) | 価格1件あたり売上(百万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 520 | 2.00 | 10 | 0 |
| 10 年後 中立 | 676 | 2.68 | 18 | 1 |
取り方:外部売上10.39億円を、装置・防錆剤・部品の1件平均200万円と置いて年520件と推定した。装置は1台数千万円、防錆剤や部品は小口で、平均はこの程度とみた。利益はセグメント利益0.33億円。
リスクと懸念
一社への依存
三菱重工グループが売上の42.9%を占める。取引条件は市場価格と当社の原価を勘案して決める形で、価格交渉力は強くない。発注の内製回帰や、別の加工先への振り分けが起きれば、受注は急に細る。
設備投資の回収
2026年2月期の設備投資は18億円で、ガスタービン部品には10数億円規模の大型投資を行った。回収は2027年2月期の後半から始まる計画で、発注が予定より遅れれば、減価償却と人件費が先に重くなる。
増産の反動
ガスタービンの増設はいつか一巡する。需要の山が過ぎると、新しく積んだ設備の稼働が下がる。過去に営業赤字が4期あり、2021年2月期は純損失が28億円に膨らんだ。利益が振れやすい構造は変わっていない。
人の確保とコスト
加工の技能は人に宿る。連結従業員は641名の小さな会社で、2027年2月期は採用や技術開発で販管費が約5億円増える計画だ。人件費の上昇を価格に転嫁できなければ、利益率は上がらない。
住宅・自動車向けの縮小
LIXIL向けのアルミ押出金型は新築住宅の減少で伸びず、NGK向けのセラミックスも電動化で長期には頭打ちになりうる。金型は売上の2割強だが、利益率は8.6%と低く、二つ目の柱として力不足だ。
財務の余裕の乏しさ
自己資本比率は45.7%で、純有利子負債は11億円と小さいが、借入には財務制限条項が付く。リース債務も増えており、2028年2月期から新リース会計基準で負債の見え方が変わる。谷の年に余裕は小さい。
支配株主との関係
三菱重工は議決権の35%を持つ大株主だ。提携は事業の安定をもたらすが、少数株主の利益と顧客の利益が食い違う場面もある。完全子会社化の際の価格が、本質価値に見合うとは限らない。
今後の分かれ目
- 三菱重工が当社への発注を追加で増やす長期契約や、出資比率の引き上げを発表したら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし、取引条件が当社に有利に変わるかを同時に確かめる。
- 放電加工・表面処理のセグメント利益率が20%台前半で定着したら
- 中立の利益率を引き上げて見直す。価格の転嫁が通っている証拠になる。
- 三菱重工のガスタービン受注が減速し、受注残が減り始めたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。当社の設備は先に余る。
- 三菱重工が当社へのTOBで完全子会社化を提案したら
- 提示価格を本質価値と比べる。筋書きの価値を超えるなら受け入れるのが合理的だが、超える保証はない。
- 防衛装備品・航空機エンジンの量産が計画より遅れ続けたら
- 中計の達成を割り引き、中立の数量を下げる。
- サーボプレスなど自社製品が黒字化して売上が倍増したら
- 受託への依存が下がり、資本コストの寿命の項を見直せる。
見ておくもの
- 三菱重工のGTCC受注高・受注残と生産計画
- 放電加工・表面処理の売上高・セグメント利益率(四半期)
- 三菱重工向け売上比率(42.9%)の推移
- 設備投資額と稼働率、減価償却費
- 販管費(2027年2月期に約5億円増の計画)の進み方
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g))と事業の資本効率から決め、今の株価や同業の倍率は使っていない。中立のROEは約9%でkの8.75%をわずかに超えるだけなので、PERは下限の1÷kに近い11.5倍とした。今の約35倍には寄せていない。売上は数量(加工時間・面数・件数)×価格(物価並みの1.34倍)で積み、利益率は過去の山10.4%以下の8.6%に置いた。悲観は赤字の稼ぐ力でなく、売れる資産で床を置いた。リースは今と同じ形(家賃を営業費用に入れる)でそろえ、2028年2月期からの新リース会計基準で営業利益が少し増え、負債が増える見え方になる点だけ注記する。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→13.93 倍・やや楽観 PER 12→13.09 倍・中立 PER 11.5→11.73 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。