結論
富士精工は、愛知県豊田市に本社を置く、自動車の部品を削る専用の工具のメーカーだ。エンジンや変速機の部品を、決まった形に一度で仕上げる特注の刃物を作る。筆者の結論は、今の値段はやや割高だ。純現金は時価総額を大きく上回るが、本業の稼ぎは資本コストの3分の1ほどしかなく、現金も株主に戻りにくいからだ。
まず現金だ。2026年8月末の純現金は有価証券を含めて80億円を超え、政策保有の株も26億円ある。今の時価総額は50億円ほどなので、数字の上では事業がただ以下で買える。ただ、この現金は10年で純現金が倍以上に積み上がる間、ほとんど株主に戻らなかった。2026年に自己株買いを増やしたのは前向きな変化だが、創業家の影響の強い経営が、現金を大きく返す保証はない。
次に本業だ。主力の工具は内燃機関の部品を削るためのもので、電動車への移行で国内の需要が細る。会社自身が、内燃機関向けの工具の需要の低迷を、継続企業の前提に関わる事象として短信に書いている。海外の拠点は稼いでいるが、国内は赤字が続く。
10年で見ると、海外で稼ぎながら国内の縮みに耐え、現金を抱えたまま続く姿がいちばんありそうだ。現金の厚さが下値を守る一方、事業の値打ちは小さい。安く見えても、割り引けば今の値段をやや下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、純現金が時価総額を上回る会社は、一見すると掘り出し物だ。だが、大事なのはその現金が株主のものとして働くかどうかだ。富士精工の現金は、10年で倍以上に積み上がる間、ほとんど株主に戻らなかった。現金は利息しか生まず、資本コストで割り引けば、10年先の現金の今の値打ちは額面の半分に満たない。
オーナー利益、つまり設備の更新を済ませたあとに株主に残る利益は、本業だけならならして年に数億円だ。しかもその芯は、内燃機関の部品を削る工具で、電動車への移行で細っていく。堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客の工程に深く入った特注品の腕だが、それは自動車の部品の種類が変われば一から築き直す必要がある。
筆者は、この株の値打ちを決めるのは事業よりも経営の現金の使い方だと見る。2026年の自己株買いと消却が一度きりで終わるのか、方針として続くのか。後者なら価値は上がる。前者なら、現金の厚さは株主にとって見せかけの安全域にとどまる。
何で稼ぐ会社か
売り物は、自動車の部品の工場で使う切削工具だ。超硬合金、つまりタングステンの粉を焼き固めた硬い材料や、ダイヤモンドの焼結体を刃先に使い、エンジンのシリンダーや変速機の部品の穴を、決まった寸法に一度で仕上げる。工場の加工の工程ごとに形が違う特注品が多く、再研磨、つまりすり減った刃先を削り直す仕事も受ける。
顧客の中心は自動車メーカーと部品会社だ。本社のある豊田市の近くで自動車の生産に寄り添って育ち、国内の工場の加工の工程に入り込んできた。新しい車種の生産が始まる時に、その部品を削る工具がまとめて決まる。一度決まれば、その車種が作られる間は注文が続く。
地域で見ると、売上の4割強が日本、残りがアジア、北米と中米、オセアニア、欧州だ。2027年2月期の中間では、日本は小さな赤字で、利益の大半は北米とオセアニアの拠点が稼いだ。オセアニアでは一般向けの工具の販売もしている。
稼ぎの形を一言で言えば、自動車の生産の工程に特注の刃物を納め、使われるたびにすり減る分を売り続ける商売だ。車が作られる限り需要は続くが、作られる部品の種類が変われば、刃物の種類も変わる。電動車ではエンジンや変速機が無くなり、モーターや減速機の部品を削る別の刃物が要る。
優良さと弱いところ
特注の工具の腕はあるが、その腕が稼ぎに結びついていない。これが筆者の見立てだ。自動車の加工の工程に入り込み、一度採用されれば注文が続く点は、他社がまねしにくい強みだ。だが、顧客は大きな自動車メーカーと部品会社で、値段の主導権は向こうにある。工具の世界では、三菱マテリアルや住友電気工業、オーエスジー、海外のサンドビックといった大手が、品ぞろえと研究の厚さで勝る。
利益の記録がそれを示す。営業利益率は2000年代半ばに10%を超えたが、過去12年の中ほどでは2%前後に落ちた。2021年2月期と2025年2月期は営業赤字で、2025年2月期は大きな減損で純損失を出した。自己資本の稼ぎは過去10年の中ほどで2.5%と、資本コストを大きく下回る。
財務は極めて堅い。自己資本比率は7割を超え、借入はわずかだ。ただ、その堅さの中身は、事業に使われない現金と株だ。自己資本の4割近くが、利息か配当しか生まない資産に寝ている。経営の資本の使い方も物足りない。2024年に中期経営計画の数値目標を取り下げ、今は新しい計画もない。2026年の自己株買いと消却は、その中で数少ない前向きな動きだった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界の前提は、受注の波が大きい資本財と、電動車への移行の二つだ。工作機械の受注額は名目で年3〜5%伸び、数量にすると年0〜2%の伸びにとどまる。切削工具は工場の稼働に合わせて減って買い直されるので、機械本体より波は小さい。
富士精工に効くのは、自動車の部品の種類の変化だ。電動車ではエンジンや変速機が無くなり、シリンダーやクランクシャフト、歯車を削る工具の需要が消える。代わりにモーターの筐体や減速機、電池のケースを削る仕事が生まれるが、削る量は内燃機関より少なく、アルミの加工が増えて工具の形も変わる。ハイブリッド車はエンジンを積むので、日本の自動車メーカーがハイブリッド車を長く作る限り、需要の消え方はゆっくりになる。
もう一つは原料だ。中国が重要鉱物の輸出の規制を強め、タングステンの値段が跳ね上がった。富士精工は2026年4月に超硬素材の調達に不透明感が生じたと開示し、10月には代わりの調達先を確保して必要な量は手当てできたと続報を出した。量は確保できても、値段は上がる。売値に移すまでの遅れが利益を削る。
競争の形は、大手の総合の工具会社と、特注品に強い中小の専業の二つの層だ。富士精工は後者で、顧客の工程に深く入る代わりに、規模の利点は小さい。業界の再編は、大手が技術を持つ中小を取り込む形で静かに進むとみる。
資本政策と M&A
還元は2026年に動いた。4月に自己株30万株を4.6億円で買い、70万株を消却した。7月にも12万株を2.2億円で買った。2027年2月期の配当は前の期の3倍強に増やす予想だ。
それでも、現金の厚さに比べれば還元は小さい。純現金は2015年の35億円から2026年には80億円を超え、利益が配当と自社株買いで戻りきらずに積み上がってきた。政策保有の株は26億円あり、2026年の上期に一部を売って4億円強の売却益を出したが、売る額の目標は示していない。
大株主は創業家に近い会社と社長を含む個人で、経営への影響は強い。時価総額が純現金を下回る今の値段は、外から見れば買収の標的になりうるが、創業家が手放さなければ実現しない。事業に要らない現金として50億円を分けて見るが、その戻り方は弱いとみる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の時価総額は50億円ほどで、純現金は80億円を超え、政策保有の株も26億円ある。事業は値段がマイナスで手に入る。こんな値段が長く続く理由はない。
経営も変わり始めた。2026年は4月と7月に計7億円近い自己株買いを行い、70万株を消却した。配当も前の期の3倍強に増やす予想だ。現金を株主に返す方向に舵を切ったのは明らかで、続ければ1株あたりの現金はさらに厚くなる。
本業も見かけほど悪くない。2027年2月期の中間は増収で、営業利益は前年の4倍近くに増えた。海外はアジアとオセアニア、欧州で伸び、北米の拠点は安定して稼ぐ。日本も赤字が縮んだ。ハイブリッド車が長く残る日本の自動車産業では、内燃機関向けの工具の需要は急には消えない。電動車のモーターや減速機を削る工具も、精度の高い特注品が要る点では同じで、富士精工の腕が生きる。
タングステンの調達の不安も、代わりの調達先の確保で峠を越えた。原料高は、特注品なら売値に移しやすい。現金が下値を守り、本業が少しずつ持ち直すなら、今の値段は安い。
慎重な見方
現金の厚さは、株主の価値の厚さと同じではない。純現金は2015年の35億円から80億円超に積み上がった。つまり、利益の多くは株主に戻らずに溜め込まれてきた。大株主は創業家に近い会社と社長で、経営は現金を大きく返す必要に迫られていない。2026年の自己株買いが続く保証はない。
本業の芯は細っている。主力は内燃機関の部品を削る特注の工具で、会社自身がその需要の低迷を、継続企業の前提に関わる事象として短信に書いている。電動車ではエンジンも変速機も無くなる。モーターや減速機を削る工具は削る量が少なく、大手の工具会社も同じ仕事を狙う。日本の事業は中間でも赤字だった。
記録も厳しい。過去12年で営業利益率が5%を超えたのは1年だけで、2025年2月期は大きな減損で純損失を出した。中期経営計画は2024年に数値目標ごと取り下げ、今は計画すらない。
タングステンの値段は中国の規制で跳ね上がり、量は確保できても原価は上がる。現金は資本コストで割り引けば値打ちが半分以下になり、本業が稼がなければ、時価総額が純現金を下回る今の値段も妥当な範囲だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうがやや強い。純現金の厚さと2026年の自己株買いは本物だが、10年で現金を溜め込んできた記録と、創業家の影響の強い経営を見ると、現金がまとまって株主に戻る確率は高くない。本業は内燃機関向けの工具の縮みという構造的な逆風を受ける。中心は現金を抱えたまま薄利で続く筋書きで、海外の伸びと自己株買いの継続による上振れに3割強を残した。電動車への移行の速さを見て、悲観側にも3割強の重みを置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 3,154 円87 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,009 円28 億円)。 今の値に割り戻すと 2,066 円57 億円、今との差 +14.8%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,382 円149 億円 | 2,524 円70 億円 | +339.2% | +15.9% | 791 円22 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,384 円122 億円 | 1,442 円40 億円 | +223.7% | +12.5% | 1,282 円36 億円 |
| 中立 | 33% | 3,558 円99 億円 | 901 円25 億円 | +147.8% | +9.5% | 1,472 円41 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,511 円42 億円 | 541 円15 億円 | +14.0% | +1.3% | 451 円13 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,114 円31 億円 | 180 円5 億円 | −28.1% | −3.2% | 168 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,154 円87 億円 | 1,009 円28 億円 | +131.3% | +8.7% | 4,163 円115 億円 |
今の株価時価総額 1,800 円50 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 電動車の部品の加工を取り、現金を株主に返す 利益 12 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,382 円149 億円
国内はハイブリッド車が長く残り、内燃機関向けの工具の需要はゆっくりとしか減らない。その間に、電動車のモーターの筐体や減速機の歯車を削る専用の工具で、自動車メーカーと部品会社の新しい仕事を取る。
海外はアジアと北米、オセアニアの拠点が伸び、数量は今より1割半増える。タングステンの値上がりは売値に移し、単価は物価をやや上回って上がる。
営業利益率は5%台に戻り、国内の赤字も解消する。会社は余った現金のうち30億円を自己株買いで株主に返し、自己資本の稼ぎは上がる。それでも資本コストには届かず、事業そのものの値打ちは控えめだ。
- 日本:数量 167(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 6.90(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 5 億円。本数 0.95 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 4%
- 海外:数量 336(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 5.52(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 186 億円・営業利益 13 億円。本数 1.15 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 7%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)15 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 149 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動車のモーターや減速機の部品の加工は、精度の高い専用の工具を要し、富士精工の得意分野に近い。海外の拠点も伸びている。ただ、国内の内燃機関向けの縮みを埋めきる確証はなく、1割にとどめた。
やや楽観 22% 海外で稼ぎ、国内の縮みを埋める 利益 9 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,384 円122 億円
国内の内燃機関向けの工具は、電動車への移行で10年に1割強減る。ハイブリッド車向けの需要と、刃先の再研磨の仕事が下支えする。
海外はアジアの自動車部品の工場と、オセアニアの工具の販売が伸び、数量は少し増える。タングステンの値上がりは時間をかけて売値に移る。
営業利益率は5%に近づき、国内は小さな黒字に戻る。会社は余った現金のうち15億円を自己株買いに回す。自己資本の稼ぎは4%ほどで資本コストの半分に届かないが、現金が下値を守る。
10年後も、創業家の影響の強い経営は変わらない。それでも、2026年に始めた自己株買いは数年おきに続き、株主から見れば現金の一部が少しずつ戻ってくる。電動車向けの工具は柱にはならないが、国内の縮みの一部を埋める。
- 日本:数量 155(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 6.70(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 104 億円・営業利益 3 億円。本数 0.88 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 2.5%
- 海外:数量 307(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 5.44(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 167 億円・営業利益 10 億円。本数 1.05 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 6%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 122 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の拠点はアジアとオセアニア、欧州で伸び、2027年2月期の中間も増収だった。国内の赤字が縮む兆しもあり、中立に次ぐ重みを置いた。
中立 33% 現金を抱えたまま、薄利の工具会社として続く 利益 6 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,558 円99 億円
国内の内燃機関向けの工具は10年で2割減り、電動車向けの仕事では埋めきれない。国内は赤字すれすれが続く。
海外の数量は少し減るが、単価は物価並みに上がり、利益の芯は海外が担う。営業利益率は3%前後で、過去12年の中ほどよりやや上にとどまる。
純現金は厚いまま積み上がり、受取利息と配当が利益の一部を支える。配当と小さな自己株買いは続くが、余った現金の大半は手元に残る。創業家の影響の強い経営は、現金を大きく動かさない。
2026年の自己株買いは数年に一度の単発にとどまり、還元は配当が中心になる。電動車のモーターや減速機の部品を削る工具の受注は少しずつ増えるが、大手の工具会社と分け合う形で、国内の縮みを埋めるには足りない。タングステンの値段は高止まりし、売値への転嫁は1〜2年遅れて追いつく。
- 日本:数量 141(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 6.50(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 92 億円・営業利益 1 億円。本数 0.80 倍 × 単価 1.30 倍、利益率 1%
- 海外:数量 278(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 5.36(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 149 億円・営業利益 7 億円。本数 0.95 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 99 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動車への移行は進むが、ハイブリッド車が残る間は内燃機関向けの工具の需要は急には消えない。海外で埋めつつも国内は赤字すれすれという、今の延長の道筋がいちばんありそうだ。
やや悲観 22% 内燃機関の工具が細り、国内の赤字が広がる 利益 2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,511 円42 億円
電動車への移行が想定より速く進み、国内の内燃機関向けの工具は10年で3分の1減る。電動車向けの工具は大手の工具会社に取られる。
海外も中国勢の安い工具に押され、数量は1割半減る。タングステンの値上がりを売値に移しきれず、国内は赤字が広がる。
会社は国内の工場を縮め、人を減らす。純現金は赤字の穴埋めと整理の費用で少しずつ減る。価値は事業の稼ぎより、残る現金と株で測る形に近づく。
配当は細り、自己株買いは止まる。創業家の影響の強い経営は、事業の立て直しを優先し、現金を株主に返す判断を先送りする。少数株主にとって、厚い純現金は帳簿の上にあるだけの資産になる。
- 日本:数量 114(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 6.25(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 72 億円・営業利益 −2 億円。本数 0.65 倍 × 単価 1.25 倍、赤字
- 海外:数量 249(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 5.12(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 127 億円・営業利益 4 億円。本数 0.85 倍 × 単価 1.28 倍、利益率 3.5%
倍率:事業の稼ぐ力は小さいので、今の自己資本 207.6 億円に床の PBR を掛けた。中身は floor_assets_why の純現金と政策保有の株の残り。
確率:会社自身が内燃機関向けの工具の需要の低迷を継続企業の前提に関わる事象として書いている。電動車への移行が速まれば国内の赤字は広がるので、厚めに置いた。
悲観 13% 電動車の波に呑まれ、工場を畳む 利益 −3 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 1,114 円31 億円
電動車への移行が一気に進み、エンジンや変速機の部品を削る工具の需要は国内で半分に減る。海外でも内燃機関の工場の閉鎖が続き、数量は3割減る。
国内は大きな赤字が続き、工場の統合と人員の整理に費用がかかる。配当は減り、自己株買いも止まる。
価値は事業の稼ぎでは測れず、純現金と政策保有の株から赤字と整理の費用を引いた残りのうち、少数株主が受け取れる見込みの分でしか測れない。創業家が残る限り、清算で株主に現金を配る道も細い。
10年後の会社は、海外の小さな拠点と国内の再研磨の仕事を抱えた、縮んだ工具会社になる。厚かった純現金は、赤字と整理の費用で半分以下に減る。
- 日本:数量 88.0(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 6.00(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 53 億円・営業利益 −4 億円。本数 0.50 倍 × 単価 1.20 倍、大きな赤字
- 海外:数量 205(工具の出荷本数(千本・年、推定))× 価格 5.00(1 本あたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 102 億円・営業利益 1 億円。本数 0.70 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 1%
倍率:赤字なので PER は当てず、今の自己資本 207.6 億円に床の PBR を掛けた。中身は floor_assets_why の純現金と政策保有の株の残り。
確率:主力は内燃機関の部品を削る専用の工具で、電動車への移行は構造的な逆風だ。純現金が厚く倒れはしないが、国内の事業の大きな縮小は否定できないので、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本
国内の自動車メーカー・部品会社向けの特注の切削工具と再研磨。
| 数量工具の出荷本数(千本・年、推定) | 価格1 本あたりの平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 176 | 5.00 | 88 | −2 |
| 10 年後 中立 | 141 | 6.50 | 92 | 1 |
取り方:本数は非開示。2027年2月期の中間の地域別売上の比率(日本43%)を2026年2月期の売上204.7億円に当てて88億円、特注の超硬・ダイヤモンド工具と再研磨をならした単価を1本5万(万円で5)とし、年約17.6万本と推定した。利益は中間のセグメント損失から通期を推定。
海外
アジア・北米と中米・オセアニア・欧州の拠点での工具の製造と販売。
| 数量工具の出荷本数(千本・年、推定) | 価格1 本あたりの平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 293 | 4.00 | 117 | 5 |
| 10 年後 中立 | 278 | 5.36 | 149 | 7 |
取り方:全社売上から日本を引いた約117億円を、一般向けの工具も含めてならした1本4万(万円で4)で割り、年約29万本と推定した。利益は北米・オセアニアなどのセグメント利益から通期を推定。
リスクと懸念
電動車への移行
主力は内燃機関の部品を削る特注の工具だ。電動車への移行が速まれば、国内の需要は一気に細る。会社自身が、その需要の低迷を継続企業の前提に関わる事象として開示している。
現金が株主に戻らない
純現金は時価総額を上回るが、10年で積み上がる間ほとんど戻らなかった。創業家の影響の強い経営が自己株買いを続けなければ、現金の値打ちは資本コストで目減りする。
タングステンの調達と値段
中国の輸出規制で超硬素材の調達に不透明感が生じ、代わりの調達先で量は確保した。値段は高騰しており、売値に移すまでの遅れが利益を削る。
顧客の集中と値決め
顧客は大手の自動車メーカーと部品会社で、値段の主導権は向こうにある。新しい車種で工具の採用を逃せば、その車種が作られる間は仕事が戻らない。
国内の赤字の長期化
日本の事業は中間でも赤字だった。工場と人の固定費は数量ほど早くは減らず、国内の縮小が続けば整理の費用もかさむ。
経営の計画の不在
中期経営計画は2024年に数値目標ごと取り下げ、新しい計画は出ていない。現金と事業の使い道が見えにくい。
今後の分かれ目
- 自己株買いを毎年の方針として続け、総還元を利益以上にしたら
- 現金の戻り方を 1.0 に見直し、価値を引き上げる。
- 電動車のモーターや減速機の部品向けの工具の受注が目に見えて増えたら
- 国内の縮みを埋める柱が育ったとみて、やや楽観に重みを移す。
- 日本の事業が通期で黒字に戻ったら
- 中立とやや楽観の確率を上げる。
- 政策保有の株の売却の目標額を示したら
- 売る分を余った資産として足すことを考える。
- 国内の工場の統合や大きな減損が出たら
- 内燃機関向けの縮みが速いとみて、悲観側に寄せる。
- 創業家や外部から株の買い付けの提案が出たら
- 純現金を下回る値段が正される道とみて、楽観側を見直す。
見ておくもの
- 自己株買いの継続と総還元
- 日本のセグメント損益
- 電動車向けの工具の受注
- タングステンの値段と売値への転嫁
- 純現金と政策保有の株の残高
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段から置かず、資本コスト8.5%と10年後の事業の稼ぎだけで決めた。余った現金を除いた事業の ROE はどの筋書きでも k を大きく下回るので、PER は 1÷k を上限にその6割強に置き、余った現金50億円は戻り方0.75で別に足した。楽観側は自己株買いで余った現金が減る分を筋書きに書いた。悲観側は純現金と政策保有の株の税後の残りを床にした。時価総額が純現金を下回ることは計算のあとに見ただけで、割安の根拠にしていない。2026年の自己株買い6.7億円は株数に入っているので、自己資本の起点から引き、還元には入れていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 6.6→11.76 倍・やや楽観 PER 6.5→11.76 倍・中立 PER 6.5→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。