結論
野村マイクロ・サイエンスは、半導体工場で洗浄に使う超純水の製造装置を、設計から据え付けまで請け負う専業メーカーだ。売上の大半が装置の工事で、海外が大半を占める。筆者の結論は「やや割高」である。事業の質は悪くないが、10 年後の中立の姿を置いても、今の時価総額を大きく超える材料が乏しい。
稼ぎの源は、世界で新しく建つ半導体工場の数だ。AI向けの先端ロジックや高帯域メモリーの増産で、工場の新設は今後も続く。超純水の設備は、工場が建つたびに一式で必要になる。この需要が実質で伸びることは、筆者もまず疑わない。
ただし、この商売は大型工事の受注と完工に利益が左右される。2025年3月期は超大型案件で売上が 964 億円まで膨らみ、次の期は 562 億円へ 4 割減った。山も谷も深い。しかも工事が進むほど、未回収の代金(契約資産)が積み上がり、借入が増える。純有利子負債は 400 億円を超え、自己資本の 1 倍に迫る。
10 年後の中立は、売上 1,500 億円台、営業利益率 15% ほど、ROE 15% 台とみる。資本コストは 7.75% と、領域の中では重めに置いた。理由は工事の山谷と借入の重さである。その結果、確率を加えた本質価値は今の時価総額を 4 分の 1 ほど下回る。会社の今期予想は強気だが、期初の四半期はまだ前年を下回っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「工場が建つたびに入る工事代金」で稼ぐ会社と見る。オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、利益そのものより小さい。工事が進むほど運転資本が膨らみ、利益の一部が代金の未回収に化けるからだ。
堀は、技術力と実績という、じわじわ効く種類のものだ。ただし大手二社が並び、価格を自社で決めきれない。10 年先の姿を考えると、需要は残るが、利益率が今より大きく広がる保証はない。
経営の資本配分は堅実で、評価できる。ただ、借入に頼って工事を取りに行く形は、需要が止まった時に安全域を削る。谷の年に、借入の重さがそのまま利益の薄さになる点を、筆者は最も気にしている。
結局、見るべきは 10 年後に残る稼ぐ力と、そこまでの借入の重さだ。中立の姿でも、ROE は 15% 台と資本コストを上回るが、倍率に大きな余裕はない。AI投資の追い風を事業の価値に織り込んでも、今の値段には安全域が足りない。
何で稼ぐ会社か
事業の中心は、半導体工場向けの超純水製造装置だ。水道水や地下水から不純物を限りなく取り除き、ウェーハの洗浄に使える水を作る。半導体の洗浄は工程のたびに繰り返されるので、工場一つあたりの水の量は大きい。この設備は工場の稼働に欠かせない。
売上の約 96% が水処理装置の事業で、残りが製薬・産業向けと保守・運転管理だ。ほぼ半導体一本といってよい。海外の比率は高く、米国が売上のおよそ半分を占める時期もある(二次情報)。韓国・台湾・中国の子会社が現地の工事を担う。
収益の形は工事の請負である。顧客が工場を建てると決めた時に受注し、1〜2 年かけて設計・製造・据え付けをして完工する。売上は進み具合に応じて計上するので、受注から数期にわたって利益が出る。受注が途切れる期は、売上が大きく落ちる。
運転管理や保守は、納めた設備を顧客の工場で動かし続ける仕事だ。景気に左右されにくい安定収益で、顧客との関係も深まる。会社は中期計画でこの運転管理の拡充を掲げているが、今は全体の 1 割ほどにとどまる(筆者の推定)。
競合は、国内ではオルガノと栗田工業が大きい。半導体向けの世界シェアは、栗田が 3〜4 割、オルガノが 2〜3 割、野村が 1 割強という見立てがある(出典の算出方法は不明)。野村は半導体専業で、大手二社より小さい分、先端の超純水の水質と省エネの提案で選ばれている。
優良さと弱いところ
優良さは「専業の技術力」と「資本の重さ」の二つの顔を持つ。
強みから言うと、ppq(1000兆分の1)の水準まで測れる分析力と、半導体の洗浄に合わせた装置の設計力がある。超純水は、わずかな不純物が歩留まりを落とすので、顧客は実績のある会社を選びやすい。新しい研究棟と開発棟を建て、次世代の水質に向けた開発を続けている点も評価できる。
弱みは、堀がそれほど深くないことだ。大手二社も同じ顧客に同じ提案をする。価格を自社で決められる独占的な立場ではなく、案件ごとの競争入札に近い。堀は「普通」とみて、強い堀とは置かない。
資本効率は、年によって極端に振れる。ROE は 2025 年 3 月期に 28% まで上がり、2026 年 3 月期には 9.7% へ落ちた。過去 10 年の中央値は 16% 台だ。工事の山では高く、谷では低い。
財務の安全度も、見かけより弱い。工事が先に進み、代金は後で入るので、受注が増える局面ほど借入が膨らむ。純負債は 400 億円を超え、営業利益に対する利払いの余裕は 3 倍を切る。金利が上がる前提では、この点は軽く見られない。
経営の資本配分は、配当性向 30% を目標に 8 期連続で増配し、堅実だ。買収で価値を壊した形跡も見当たらない。ただ、自社株買いはほとんどしていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の根は、世界の半導体工場の新設と増設だ。AI向けの先端ロジックと高帯域メモリーの増産が、最も強い牽引役になっている。工場一つあたりに必要な水の量も、微細化と積層が進むほど増える。この領域の市場は、実質で年 4〜5% ほど伸びる、とみるのが筆者の中立だ。
2025年3月期は日米の超大型案件が重なり、業界全体の受注が膨らんだ。その反動で 2026年3月期は端境期となり、野村も売上が 4 割減った。会社はこれを一時的な谷と説明している。筆者も、需要の構造が壊れたとは見ない。工場の建設計画は続いているからだ。
競争の形は三つある。第一に、栗田工業とオルガノという二強と、野村の三者で、日本・台湾・米国の大型案件を分け合う。第二に、韓国・中国では現地の水処理会社が力をつけている。第三に、水の再利用が進むほど、装置は高度になるが、新しく売る水の総量は増えにくい。台湾では再利用率が 9 割に届いたとされる。
物価の面では、人件費や鋼材が上がっても、工事の価格に転嫁できる局面が多い。だから価格は物価並みに上がるとみる。ただ、需要が谷の年には、受注を取るために利益率を削る競争が起きやすい。
10 年の分かれ目は、①AI向けの工場投資が続くか、②米国・日本での新工場が計画どおり建つか、③中国・韓国勢が高度な案件まで食い込むか、の 3 点だ。
資本政策と M&A
資本政策は堅実だが、積極的とは言えない。配当性向 30% を目標に 8 期連続で増配し、2027年3月期も増配の予想だ(中間・期末の 2 回)。2026年3月期の配当総額は約 30 億円で、自社株買いは行っていない。
大きな買収の実績はなく、成長は自前の開発と海外子会社で進めてきた。次の中期計画の目標は、2031年3月期に売上 1,200 億円・営業利益 192 億円・ROE 30% 以上だ。工事の山谷が大きい以上、ROE 30% を安定して保つのは難しい。
現金は多くない。むしろ運転資本のために借入が増えている。2026年3月期末の純有利子負債は 411 億円だ。余った現金を足す余地はなく、むしろ金利上昇の負担を引く立場にある。
筆頭株主は北興化学工業で、持株比率は約 11% だ(二次情報)。支配株主ではないので、親子上場の歪みは小さい。外部の推計では、10 年以内に買収や TOB の対象になる確率は 2 割ほどとされる。水処理の大手が、半導体向けの技術と顧客を取り込む形が考えやすい。ただし、買収の話は確認できていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI向けの半導体投資は、まだ始まったばかりだ。先端ロジックも高帯域メモリーも、工場を新しく建てる動きが続く。工場が建てば、超純水の設備は必ず要る。しかも微細化と積層が進むほど、水の質への要求は厳しくなり、価格の高い装置が選ばれる。
野村は半導体専業で、顧客の工程に合わせた提案が強い。2025年3月期には売上が 964 億円、営業利益率が 16% に達し、実力を示した。2026年3月期は大型案件の端境期にすぎず、会社は 2027年3月期に売上 970 億円、営業利益 160 億円を見込む。受注が戻れば、固定費の負担が軽くなり、利益は一気に戻る。
米国と日本で新工場の計画が相次ぎ、世界で工場が分散していく。この動きは、海外に拠点を持つ野村に有利だ。運転管理の拡充も進み、納入した設備から入る安定収益が積み上がる。10 年後に売上 2,000 億円、利益率 17% という姿は、決して夢物語ではない。
慎重な見方
この会社の利益は、受注の山と谷に振り回される。2026年3月期は売上が 4 割減り、営業利益は半分以下になった。今期の予想は 970 億円と強気だが、期初の四半期の売上は前年を 25% 下回った。残り 3 四半期で 9 割近くを稼ぐ前提は重い。
財務の体質も弱い。工事が進むほど契約資産が積み上がり、借入が増える。純負債は 411 億円と自己資本に迫り、金利が上がれば利払いが利益を削る。谷の年は、売上が減っても借入の利息は減らない。
競争も厳しい。栗田工業とオルガノが大手として並び、韓国・中国の現地勢も力をつけている。価格を自社で決められる立場ではなく、受注のために利益率を削る局面は避けにくい。水の再利用が進むと、新しく売る水の量も伸びにくい。
さらに、売上の半分が米国など特定の地域と少数の大口顧客に偏る。一社の計画が変わるだけで、期の売上が大きく変わる。10 年を通して見れば、利益率は今の想定より低く、振れは大きい。
どちらに重みを置いたか
強い主張は慎重な側だった。強気の言う需要の伸びは、10 年で見れば信じてよい。需要の伸びは強気の言う通りだが、この会社は需要の伸びを利益に変える段階で、借入と受注の山谷という二つの重りを背負っている。確率は中立を 33%、やや楽観を 20%、楽観を 10% とし、やや悲観を 24%、悲観を 13% と、慎重側に少し厚く置いた。中立でも ROE は資本コストを上回るが、倍率に余裕は乏しく、今の時価総額はその先取りに見える。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,358 円2,441 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 921 円353 億円)。 今の値に割り戻すと 3,648 円1,400 億円、今との差 +25.4%、 期待の年率 +9.6%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 14,763 円5,668 億円 | 1,693 円650 億円 | +465.5% | +18.9% | 1,646 円632 億円 |
| やや楽観 | 20% | 10,736 円4,122 億円 | 1,315 円505 億円 | +314.1% | +15.3% | 2,410 円925 億円 |
| 中立 | 33% | 6,968 円2,675 億円 | 990 円380 億円 | +173.5% | +10.6% | 2,626 円1,008 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,459 円560 億円 | 560 円215 億円 | −30.6% | −3.6% | 484 円186 億円 |
| 悲観 | 13% | 655 円252 億円 | 208 円80 億円 | −70.3% | −11.4% | 112 円43 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,358 円2,441 億円 | 921 円353 億円 | +150.1% | +9.6% | 7,279 円2,794 億円 |
今の株価時価総額 2,910 円1,117 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% AI の工場建設が続き、受注が積み上がる 利益 288 億円 · PER 19.7 倍 · 株価時価総額 14,763 円5,668 億円
AI向けの先端ロジックと高帯域メモリーの工場建設が、10 年を通して途切れない。世界の超純水設備の市場は今の 1.9 倍に広がる。野村は米国と日本の大型案件を取り、シェアを 14% まで高める。
水の再利用と省エネの提案が評価され、大手二社との価格競争も和らぐ。工事の規模が大きいほど固定費の負担が軽く、営業利益率は 17% に届く。運転管理の対象設備も増え、安定収益が厚くなる。
借入は、受注の増加に合わせて膨らむ局面があるが、利益の増加で吸収できる。配当は増え続け、ROE は 20% を超える。10 年の売上は 2,400 億円ほど、純利益は 290 億円になる。
- 半導体向け超純水装置(新設工事):数量 11.2(世界の半導体向け超純水設備の新設市場(億ドル、実質)× 野村のシェア)× 価格 1.34(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で物価 1.34 倍))→ 売上 2,251 億円・営業利益 383 億円。新設市場 × シェア、営業利益率 17%
- 運転管理・保守・製薬・産業向け:数量 200(運転管理・保守の対象設備の量(今を 100 とする指数))× 価格 1.34(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で 1.34 倍))→ 売上 153 億円・営業利益 34 億円。営業利益率 22%
倍率:事業の純利益 288 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.7 倍。全体の PER 19.68 倍、時価総額 5,668 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向け投資の持続と米国・日本の新工場が重なる強気の筋書きだが、受注の山谷は残るため 1 割にとどめた。
やや楽観 20% 需要は強く、シェアも高まる 利益 215 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 10,736 円4,122 億円
世界の市場は実質で 1.7 倍になり、野村のシェアは 12.5% まで上がる。端境期のあとに米国・日本の大型案件が戻り、売上は 1,900 億円台に乗る。
営業利益率は 16% 台で、会社の中期計画の目標(16%)に近い。運転管理の比率が少し上がり、利益の安定性も増す。
ただし、受注には波が残り、谷の年には売上が 3 割ほど落ちる。ROE は 20% 前後まで上がるが、谷の年には 10% 台へ落ちる。
筆者は、この筋書きでも売上と利益の波が消えるとは見ない。大型案件の完工と新規受注のずれは構造であり、強気の中でも毎年は伸びない。それでも 10 年の平均では、中期計画の水準を上回る利益が積み上がる。
- 半導体向け超純水装置(新設工事):数量 8.9(世界の半導体向け超純水設備の新設市場(億ドル、実質)× 野村のシェア)× 価格 1.34(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で物価 1.34 倍))→ 売上 1,789 億円・営業利益 286 億円。新設市場 × シェア、営業利益率 16%
- 運転管理・保守・製薬・産業向け:数量 180(運転管理・保守の対象設備の量(今を 100 とする指数))× 価格 1.34(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で 1.34 倍))→ 売上 138 億円・営業利益 29 億円。営業利益率 21%
倍率:事業の純利益 215 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍。全体の PER 19.17 倍、時価総額 4,122 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI投資は続くが大型案件の波があり、強気ほどは伸びないとみて 2 割に置いた。
中立 33% 需要は伸びるが、工事の山谷は残る 利益 152 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 6,968 円2,675 億円
世界の市場は実質で 1.5 倍に育つ。野村のシェアは過去の平均に近い 11% で、端境期の 8% からは戻るが、さらに高まるとは見ない。売上は 1,500 億円台に乗る。
営業利益率は 15% ほどで、2025年3月期の 16% には届かない。価格は物価並みに上がるが、大手二社との競争で、それ以上の値上げは難しい。運転管理は設置済みの設備の増加にあわせて 1.6 倍ほどになる。
10 年を通して見ると、山の年と谷の年が交互に来る。平均すれば利益は 150 億円前後で、ROE は 15% 台。堅実だが、飛び抜けて優れた会社にはならない。
- 半導体向け超純水装置(新設工事):数量 6.9(世界の半導体向け超純水設備の新設市場(億ドル、実質)× 野村のシェア)× 価格 1.34(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で物価 1.34 倍))→ 売上 1,393 億円・営業利益 202 億円。新設市場 × シェア、営業利益率 14%
- 運転管理・保守・製薬・産業向け:数量 160(運転管理・保守の対象設備の量(今を 100 とする指数))× 価格 1.34(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で 1.34 倍))→ 売上 122 億円・営業利益 24 億円。営業利益率 20%
倍率:事業の純利益 152 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍。全体の PER 17.6 倍、時価総額 2,675 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の伸びは認めつつ、受注の山谷と借入の重さを強く見て、慎重側へ少し寄せた中心の筋書きに 3 割強を置いた。
やや悲観 24% 投資の端境期が長引き、利益率が下がる 利益 70 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,459 円560 億円
半導体工場の建設が計画どおりに進まず、端境期が何年も続く。世界の市場は実質で 1.2 倍にとどまり、野村のシェアは 9.5% に下がる。受注を取るために値引きし、価格は物価の伸びを下回る。
営業利益率は 10% 台前半まで下がる。売上が減っても、人件費と開発費は減らず、固定費の負担が重くなる。
借入は膨らみ、金利上昇が利益を削る。
配当は維持するが、増配は止まる。会社は運転管理の拡大で下支えしようとするが、全体の 1 割ほどでは、新設工事の落ち込みを埋めきれない。受注が戻る時期は、10 年の後半までずれ込む。ROE は 10% を割る水準で、資本コスト 7.75% をほとんど超えない。
- 半導体向け超純水装置(新設工事):数量 4.9(世界の半導体向け超純水設備の新設市場(億ドル、実質)× 野村のシェア)× 価格 1.28(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で物価 1.34 倍))→ 売上 949 億円・営業利益 95 億円。新設市場 × シェア、営業利益率 10%
- 運転管理・保守・製薬・産業向け:数量 135(運転管理・保守の対象設備の量(今を 100 とする指数))× 価格 1.30(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で 1.34 倍))→ 売上 100 億円・営業利益 17 億円。営業利益率 17%
倍率:ROE 9.7% は k 7.75% をわずかに上回るだけで、長く続く ROE ≒ 9.3%、正当化 PER ≒ 11.4 倍が上限。構造の弱さを見て、そこから 7 割の 8.0 倍に置いた。
確率:受注の山谷が深く、大手二社と現地勢の競争も強まる。慎重な見方が強いので、4 分の 1 近くに置いた。
悲観 13% 大手と現地勢に押され、構造的に負ける 利益 10 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 655 円252 億円
韓国・中国の現地の水処理会社が、先端の案件にも入ってくる。栗田工業とオルガノは価格で対抗し、野村は受注のために採算を割る。世界の市場は伸びるが、野村のシェアは 6% に下がる。
営業利益率は工事が 3% まで落ち、利益はほとんど残らない。大型案件の採算悪化で、契約資産の一部が回収できず、追加損失が出る。
純利益は 10 億円にとどまり、稼ぐ力で測ると今の時価総額の 1 割にも届かない。残るのは、納入済みの設備と運転管理の契約だけだ。
配当は大きく減り、借入の返済が優先される。会社の評価は、成長する専業から、採算の薄い工事会社へ変わる。
- 半導体向け超純水装置(新設工事):数量 2.7(世界の半導体向け超純水設備の新設市場(億ドル、実質)× 野村のシェア)× 価格 1.15(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で物価 1.34 倍))→ 売上 466 億円・営業利益 14 億円。新設市場 × シェア、営業利益率 3%
- 運転管理・保守・製薬・産業向け:数量 110(運転管理・保守の対象設備の量(今を 100 とする指数))× 価格 1.20(物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で 1.34 倍))→ 売上 75 億円・営業利益 9 億円。営業利益率 12%
倍率:稼ぐ力(純利益 10 億円 ÷ k)は約 110 億円しかないので、床は売れる資産の側で測る。契約資産・売掛金などの回収価値から借入を引いた今の自己資本 393 億円に PBR 0.64 倍(約 6 割)を掛けた。積み上げた利益には掛けない。EV ÷ 営業利益で見ると 29 倍と高いが、これは利益が崩れた年の値で、床は資産の回収価値で測るため問題としない。EV でも見た:時価総額 252 億円に純有利子負債 411 億円を足した EV は 663 億円で、この筋書きの営業利益 23 億円に対して高く見える。ただしこの値は利益の倍率でなく処分価値(床 250 億円)で置いたもので、借金は床の中で先に返す前提。利益の倍率だけで割安・割高とは言っていない。
確率:中国・韓国勢の台頭と、大手二社の価格攻勢が重なり、採算が崩れる筋書き。構造的な負けの確率を 1 割強と置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体向け超純水装置(新設工事)
半導体工場の洗浄に使う超純水の製造設備を、設計・製造・据え付けまで請け負う。売上の大半を占める。
| 数量世界の半導体向け超純水設備の新設市場(億ドル、実質)× 野村のシェア | 価格物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で物価 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.4 | 1.00 | 505 | 56 |
| 10 年後 中立 | 6.9 | 1.34 | 1,393 | 202 |
取り方:市場は直近 3 期の売上の平均(約 750 億円)を、野村のシェア 12% 前後(外部の見立て 10〜15%)で割り戻した約 42 億ドル(推定)。2026年3月期のシェアは端境期で約 8%。売上 505 億円は全社 562 億円から保守等の推定 57 億円を引いた額。 10 年の数量(中立は 3.37→6.93 で 2.06 倍)は、実質の市場 1.5 倍(物価を除く)に、端境期の 8% から平常の 11% へのシェアの戻り(1.375 倍)を掛けたもの。名目の市場の伸びを数量に置いたものではなく、物価の分は価格の指数に別に掛けている。
運転管理・保守・製薬・産業向け
納入した設備の運転管理・保守と、製薬・産業向けの水処理。景気に左右されにくい安定収益。
| 数量運転管理・保守の対象設備の量(今を 100 とする指数) | 価格物価と単価の指数(今を 1.00。10 年で 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.00 | 57 | 11 |
| 10 年後 中立 | 160 | 1.34 | 122 | 24 |
取り方:開示がないため、売上の約 96% が水処理装置という記事と全社の売上から逆算した推定(約 1 割)。利益率は運転管理の性格から約 19% と置いた。 10 年の指数(中立は 100→160)は設置済みの設備の増加という実物で、名目の伸びではない。物価の分は価格の指数に別に掛けている。
リスクと懸念
受注の山谷(工事の端境期)
売上は大型案件の受注と完工で決まる。2026年3月期は 4 割減った。工事が数期にまたがるため、受注の空白は 1〜2 年遅れて売上に出る。谷の年は固定費の負担が重く、利益が大きく崩れる。
運転資本と借入の重さ
工事が進むほど契約資産が積み上がり、代金の回収は後になる。純有利子負債は 411 億円で自己資本に迫る。金利が上がる前提では、借り換えのたびに利払いが利益を削る。
大口顧客と地域への偏り
売上の半分近くが米国など特定の地域で、案件も少数の大口に偏る。一社の投資計画の延期や中止が、期の売上を大きく動かす。顧客の名前や比率の詳細は確認できていない。
大手二社と現地勢の競争
栗田工業とオルガノは野村より大きく、同じ顧客に提案する。韓国・中国には現地の水処理会社もある。入札型の案件が多く、値段を自社で決めきれない。
期初の遅れと今期予想の重さ
今期は売上 970 億円、営業利益 160 億円を見込むが、期初の四半期の売上は 92 億円で前年を下回った。残り 3 四半期に 9 割近くが偏る。工事の着工が再び遅れれば、予想を下げることになる。
水の再利用と市場の質
水の再利用が進むと、新しく売る水の総量は増えにくい。装置は高度になるが、台数は伸びない可能性がある。国や地域の水規制も案件の規模を左右する。
今後の分かれ目
- 今期の受注が会社予想を上回り、受注残が積み上がる
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし運転資本の増え方と純負債も確認する。
- 期初の遅れが続き、通期の売上予想が引き下げられる
- 慎重側の確率を厚くする。工事の遅れが一時的か、顧客の計画変更かを見分ける。
- 米国・日本で超大型の新工場が追加で受注できる
- シェアを高めに置く。中立のシェア 11% を 12〜13% へ上げて見直す。
- 韓国・中国の現地勢が先端の案件でも受注し始める
- 悲観の確率を上げ、営業利益率の想定を下げる。価格の伸びが物価を下回る期間も延ばす。
- 運転管理・保守の売上比率が 2 割を超えて伸びる
- 収益が安定するので、循環の上乗せを小さくしてよい。利益率の下限も上がる。
- 水処理の大手が買収の提案をする
- 買収価格が本質価値を上回るかを見る。技術と顧客の価値が評価される形なら、楽観側に寄せる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残
- 契約資産と純有利子負債の推移
- 米国・日本の新工場の着工時期
- 栗田工業・オルガノの半導体向け受注
- 運転管理・保守の売上比率
倍率と資本コストの決め方
市場の大きさは直近 3 期の売上の平均を、野村のシェアの外部推計 10〜15% で割り戻して推定し、そこに実質の伸びと物価を掛けて 10 年を積んだ。k は 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。倍率は長く続く ROE と g 4% から出した正当化 PER の 7〜9 割に置き、今の株価や同業の PER とは比べていない。悲観の床は、今の自己資本に回収価値の割合を掛けた。新リース会計基準で営業利益や純負債の形が 2028 年 3 月期から変わるが、この分析は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。今の時価総額は最後に比べただけである。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→19.68 倍・やや楽観 PER 11.7→19.17 倍・中立 PER 11.5→17.6 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。個別のリスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 7.75%。