結論
オキサイドは、半導体検査やレーザー加工、医療機器に使う光学単結晶をつくる山梨の会社だ。売上は100億円で、2期続いた大幅赤字から黒字に戻りつつある。筆者の結論は「割高」。主力の結晶は堅調だが、利益はまだ小さい。今の時価総額は、会社予想の増益が続いたうえで、さらに数倍に伸びる姿を映している。
10年後の中立でも、利益は十数億円にとどまる。式で測った価値は、今の時価総額を大きく下回る。楽観の筋書きでも、今の値段には届かない。
ただし結晶の技術は本物で、世界の検査需要が伸びれば利益は動く。その確かめは、利益率が1割を超えるかどうかにある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、赤字から戻る途中の小さな会社に、先の成功を前払いで払う値段は取らない。結晶の技術は評価するが、利益が数億円の段階で時価総額が340億円ある。
10年後に純利益が十数億円まで伸びる中立でも、価値は今の3割にとどまる。安全域はなく、結晶の技術と成長は評価できるが、確かめたいのは利益率と借入の減り方だ。結晶の技術は残るので、赤字が止まり借入が減るのを見てから価値を見直せばよい。待つ費用は小さい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、レーザーの光を変える光学単結晶だ。半導体の検査装置、レーザー加工機、医療機器のメーカーが顧客で、結晶は装置の中の部品として使われる。2023年にはイスラエルのレーザー結晶メーカーRaicolを子会社にした。
もう一つの柱がSiCなどパワー半導体用の材料で、2024年12月に子会社のオキサイドパワークリスタルへ事業を移した。こちらはまだ収益が出ていない。
結晶は注文生産が多く、数量より品質と納期で選ばれる。1つあたりの単価は高いが、顧客は少数で、受注が数社に偏りやすい。装置の世代交代の時に採用を外れると、数量が大きく動く。
優良さと弱いところ
堀は、結晶をつくる技術とノウハウだ。結晶の育成は条件の調整が難しく、新規参入に年数がかかる。顧客の装置に組み込まれると、乗り換えにも検証の手間がかかる。
弱みは、規模の小ささと財務だ。売上は100億円しかなく、純負債は自己資本の1.1倍ある。過去3期は赤字で、増資や買収による株数の増加もあった。資本の使い方では、買収で成長を買う色が濃く、結果はまだ出ていない。
筆者は堀を普通と見る。ほぼ独占と言える製品は確認できなかった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の源は、半導体の微細化と検査の増加だ。先端の工程ほど検査が増え、深紫外レーザーの結晶が要る。医療用レーザーや産業用加工機も、世界で緩やかに伸びる。数量の伸びは実質で年5%前後と見る。
一方で、半導体の投資は循環する。顧客の装置メーカーの受注が落ちれば、結晶の注文も数か月で減る。
競合は海外の結晶メーカーと、中国勢だ。中国勢は汎用の結晶で値段を下げてくる。SiCは中国勢の増産で値段が崩れており、後発には厳しい。ここが、新規材料を慎重に見る理由になる。ここが、新規材料を慎重に見る理由になる。結晶の主力でも、中国勢の品質向上は注視する必要がある。
資本政策と M&A
無配が続き、利益は借入の返済と設備に回っている。配当の方針や自社株買いの具体的な数字は確認できなかった。
買収で成長を買ってきたが、Raicolとの統合や新規材料の立ち上げは、赤字の一因になった。借入は借り換えで金利が上がるので、返済が進まなければ利益を削る。
10年以内にTOBや買収に会う確率は、外部の推定で17%ほどある。
見通しをどちらに寄せたか
上側と下側の確率は同じに置いた。主力の結晶は堅調で上振れの余地はあるが、赤字と借入、新規材料の不確かさが重く、どの筋書きでも今の時価総額に届きにくい。下に寄せる理由はなく、確率は中央を厚くした。会社予想が達成されるかを見てから、上側へ寄せるか決める。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 2,113 円246 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 115 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 946 円110 億円、今との差 −67.9%、 期待の年率 −2.8%(資本コスト 9.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,464 円636 億円 | 344 円40 億円 | +96.8% | +7.0% | 581 円68 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,237 円377 億円 | 215 円25 億円 | +17.0% | +1.6% | 690 円80 億円 |
| 中立 | 40% | 2,056 円239 億円 | 86 円10 億円 | −27.4% | −3.2% | 857 円100 億円 |
| やや悲観 | 20% | 402 円47 億円 | 17 円2 億円 | −85.8% | −17.7% | 84 円10 億円 |
| 悲観 | 10% | 161 円19 億円 | 0 円0 億円 | −94.5% | −25.2% | 16 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,113 円246 億円 | 115 円13 億円 | −24.5% | −2.8% | 2,228 円259 億円 |
今の株価時価総額 2,951 円344 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:検査用結晶が伸び、新規材料も黒字化 利益 43 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 5,464 円636 億円
半導体検査用の深紫外レーザー結晶が世界の需要増に乗り、医療・産業用も伸びる。Raicol の統合が進み、利益率は計画の1割台前半を超えて2割に届く。SiC など新規材料も歩留まりが上がり、黒字の柱になる。無配をやめ、配当が始まる。10年後の営業利益は今の約10倍になる。
- 光学単結晶・レーザー用結晶(半導体検査・医療・産業):数量 17,000(出荷個数(個・年、推定))× 価格 134(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 228 億円・営業利益 50 億円。数量・値段・営業利益率の推定
- SiCなど新規材料・その他:数量 12,000(出荷量(ウエハ相当・枚・年、推定))× 価格 67(1枚あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 10 億円。数量・値段・営業利益率の推定。SiCは中国勢の増産で値段が物価に追いつかない
倍率:事業の ROE 22.0% が k を上回る。残る割合 1/2 で RONIC を出し、g 4% の式の上限そのものに置いた。
確率:主力の結晶の成長と新規材料の成功が重なる筋書き。新規材料はまだ収支が赤字で、成功の確率は低めに置く。
やや楽観 20% やや楽観:計画どおりに利益が戻る 利益 27 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 3,237 円377 億円
主力の光学結晶が数量・値段とも順調に伸び、利益率は計画どおり1割台後半まで上がる。借入は減り、財務の不安は薄れる。新規材料は小さな黒字にとどまる。10年後の利益は今の数倍にとどまる。配当は利益が安定した後に少額から始まる。10年後の利益は今の数倍で、高い水準に届かない。
- 光学単結晶・レーザー用結晶(半導体検査・医療・産業):数量 15,300(出荷個数(個・年、推定))× 価格 134(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 205 億円・営業利益 37 億円。数量・値段・営業利益率の推定
- SiCなど新規材料・その他:数量 5,400(出荷量(ウエハ相当・枚・年、推定))× 価格 63(1枚あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 2 億円。数量・値段・営業利益率の推定。SiCは中国勢の増産で値段が物価に追いつかない
倍率:事業の ROE 20.9% が k を上回る。残る割合 1/2 で RONIC を出し、g 4% の式の上限そのものに置いた。
確率:2028年2月期の会社予想(営業利益率12%)の延長線にある筋書き。
中立 40% 中立:主力は堅調、新規材料は伸びない 利益 18 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 2,056 円239 億円
半導体検査・医療向けの結晶は実質で年5%ほどの数量増を保ち、値段は物価並みに上がる。SiC など新規材料は中国勢の供給増で値段が物価に追いつかず(10年で1.2倍)、ほぼ収支とんとんにとどまる。全体の営業利益率は1割強に落ち着き、配当は小さく始まる。借入も返済が進み、財務の不安は薄れる。
- 光学単結晶・レーザー用結晶(半導体検査・医療・産業):数量 13,600(出荷個数(個・年、推定))× 価格 134(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 182 億円・営業利益 27 億円。数量・値段・営業利益率の推定
- SiCなど新規材料・その他:数量 3,900(出荷量(ウエハ相当・枚・年、推定))× 価格 60(1枚あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。数量・値段・営業利益率の推定。SiCは中国勢の増産で値段が物価に追いつかない
倍率:事業の ROE 18.0% が k を上回る。残る割合 1/2 で RONIC を出し、g 4% の式の上限そのものに置いた。
確率:上側と下側の確率は同じ。主力の結晶は堅調だが、3期連続の赤字から回復の途中で、新規材料の収益化はまだ見えない。
やや悲観 20% やや悲観:値段が負けて利益が伸びない 利益 5 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 402 円47 億円
結晶の数量は伸びるが、中国の結晶メーカーの追い上げで値段が物価に追いつかず、利益率は1割にとどまる。新規材料は赤字が続き、借入は減りにくい。結晶も値下げ圧力を受け、利益が伸びない。利益は小さく、配当はほぼ出ない。会社予想の増益が続かず、回復が止まる。
- 光学単結晶・レーザー用結晶(半導体検査・医療・産業):数量 10,200(出荷個数(個・年、推定))× 価格 125(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 128 億円・営業利益 13 億円。数量・値段・営業利益率の推定
- SiCなど新規材料・その他:数量 3,000(出荷量(ウエハ相当・枚・年、推定))× 価格 50(1枚あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 −1 億円。数量・値段・営業利益率の推定。SiCは中国勢の増産で値段が物価に追いつかない
倍率:ROE が 5% 台で k に届かず、伸びを数えない稼ぐ力の値(1÷k)より低く置いた。
確率:中国勢の結晶・SiC の追い上げで値段が負ける筋書き。上側と同じ確率。
悲観 10% 悲観:顧客と技術を失い、減損が続く 利益 −3 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 161 円19 億円
主要顧客の切り替えか技術の置き換えで光学結晶の数量が減り、値段も下がる。もう優良とは言えない会社になる。新規材料は事業を畳むほど振るわず、Raicol などの減損も出る。赤字が続き、自己資本が削られる。借入の返済のため資産を売ることも考える段階になる。
- 光学単結晶・レーザー用結晶(半導体検査・医療・産業):数量 7,650(出荷個数(個・年、推定))× 価格 110(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 84 億円・営業利益 4 億円。数量・値段・営業利益率の推定
- SiCなど新規材料・その他:数量 1,500(出荷量(ウエハ相当・枚・年、推定))× 価格 50(1枚あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 −2 億円。数量・値段・営業利益率の推定。SiCは中国勢の増産で値段が物価に追いつかない
倍率:赤字で稼ぐ力が測れない。床は今の自己資本の4割(減損と売れる設備・在庫の税後)に置いた。
確率:構造的に負ける筋書き。借入が重く、赤字が続けば自己資本が削られる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光学単結晶・レーザー用結晶(半導体検査・医療・産業)
レーザーの光を変える結晶と関連部品。Raicolを含む。
| 数量出荷個数(個・年、推定) | 価格1個あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 8,500 | 100 | 85 | 11 |
| 10 年後 中立 | 13,600 | 134 | 182 | 27 |
取り方:セグメントの開示が取れず、売上100億円のうち結晶を約85%、利益を約13%と推定。個数と単価は売上から逆算した推定。
SiCなど新規材料・その他
パワー半導体用のSiCウエハなど。立ち上げ中で収益が出ていない。
| 数量出荷量(ウエハ相当・枚・年、推定) | 価格1枚あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3,000 | 50 | 15 | −2 |
| 10 年後 中立 | 3,900 | 60 | 23 | 1 |
取り方:売上の約15%、赤字と推定。全社の営業利益5.4億円から、本社費(約-4億円)を引いて合わせた。
リスクと懸念
顧客が少数で、受注が偏る
結晶は装置メーカーの部品で、顧客は数社に偏りやすい。1社が仕様を変える・内製化すれば、数量が急に落ちる。
中国勢の値下げ
汎用の結晶とSiCでは中国勢が増産しており、値段が物価に追いつかないおそれがある。新規材料の収益化が遅れる最大の理由になる。
借入と金利
純負債は自己資本の1.1倍ある。借り換えで金利が上がると利払いが増え、赤字が続けば自己資本が削られる。増資で株が増える可能性もある。
買収の減損
Raicolの買収などでのれんや設備がある。収益が計画を下回れば、減損で自己資本が減る。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2期続けて10%を超える
- 会社予想の12%に近づき、やや楽観の筋書きの確率を上げる。
- 新規材料(SiC)が黒字化する
- 楽観の筋書きに近づく。ただし値段の下落が続く間は慎重に見る。
- 主要顧客が仕様変更や内製化に動く
- 数量が落ち、悲観の筋書きに寄る。
- 借入が減らず、増資や減損が出る
- 自己資本が削られ、安全域がさらに薄くなる。
見ておくもの
- 営業利益率が10%を超えるか
- 新規材料の黒字化
- 純負債の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(正当化PER)と筋書きごとのROEから置いた。今の株価や同業のPERは使っていない。10年先の利益は会社予想の延長で、今の値段に合わせていない。式の上限そのものに置いた。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。