結論
日本電波工業(NDK)は水晶振動子と水晶発振器の専業メーカーだ。クルマ・スマートフォン・通信機器の中で、電気信号の時刻を刻む小さな部品を作っている。人工水晶の育成から最終製品まで自社で通す珍しい会社でもある。
結論から言う。今の値段は、この会社の10年の稼ぐ力に対して高すぎる。確率を掛けた本質価値は今の時価総額を5割ほど下回り、総合で「割高」と出た。
理由は単純だ。NDK の売上は2015年3月期の477億円から2026年3月期の546億円まで、11年かけてほとんど動いていない。その間に営業赤字を2回出し、純資産は一時 54 億円まで細った。水晶は、作れば値段を市場に決められる部品だ。稼いだ利益のうち、資本コストを上回る部分が残りにくい。
追い風は本物だ。AI データセンターの光トランシーバ向け発振器は、産業機器の売上を3年で約3.8倍にする計画で、2027年3月期の営業利益は52億円(前期比 +55%)へ上方修正された。筆者もこの伸びは疑っていない。ただ、10年スパンで見ると、競合の追随と値下がりで超過利益は薄まる。中立の10年後でも ROE は資本コスト並みにとどまる。
楽観の筋書き(確率8%)では、AI 向けと防衛が育ち、売上は10年で2.3倍になる。それでも時価総額は今の1.8倍ほどだ。今の値段は、この楽観をかなり先取りしている。
バリュー投資の観点から
この会社を所有したいか、と自問すると答えは割れる。AI データセンターと車載の高精度品は、長く使える強みになりうる。一方で、会社の大半を占める量産の水晶は、値段を市場に決められる事業だ。
オーナー利益(再投資を引いて株主に残る利益)で見ると、今の営業利益 34 億円のうち、設備の更新と研究開発に回る分が大きい。減価償却が 39 億円と利益を上回っており、見かけの利益ほど株主に残らない。計画どおり先行投資が一巡すれば残る分は増えるが、その前提は会社の計画頼みだ。
資本の使い方は、守りに寄っている。無理な買収はせず、借入金の圧縮を進めてきた。これは評価できる。ただ、過去 11 年の ROE の中央値は 6.3% で、資本コストの 9.5% を下回る。株主のお金を預かって、利回りが借金の金利並みに届かない期間が長かった。
安全域の面では、足元の株価は AI 向けの伸びを大きく織り込んでいる。計画が成功しても、10 年の中立で ROE は 9% 台と資本コスト並みにとどまる。予測しにくい事業で、払う値段に余裕がない。確信は低く、慎重に見るべき銘柄と筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は水晶デバイスだ。売上の約7割が水晶振動子、約2割が水晶発振器で、残りは水晶を使った応用機器や光学部材になる。用途別では、車載が301億円で全体の55%、移動体通信・IoT が130億円、産業機器が44億円、特機(防衛・宇宙・公共無線)が17億円、光学が14億円(2026年3月期)。
車載は ADAS(先進運転支援)やエンジン制御、車載通信に使う部品で、1台あたりの搭載数が増える。顧客の認証に時間がかかる代わりに、一度採用されると長く使われる。会社は2026年度の車載を324億円と見ており、一部に顧客の先行的な在庫確保が混ざると注記している。
移動体通信・IoT は、スマートフォンや通信モジュール向けの極小品が中心だ。台数が伸びず、単価も下がりやすい。ここは稼ぐ場所ではなく、工場の稼働を支える場所と筆者は見る。
今いちばん注目されているのが産業機器だ。AI サーバの光トランシーバに使う312.5MHz などの高精度な差動出力発振器で、会社は1.6T 世代向けに設備能力を増強した。2026年度の産業機器の売上は96億円と、前期の2倍以上を見込む。
加えて、人工水晶の波長板を半導体製造装置向けに石英ガラスから置き換える光学の提案、QCM センサー、Si-MEMS という新分野がある。会社は2030年に売上1,000億円(現状の約1.8倍)を掲げている。
優良さと弱いところ
NDK の強みは、水晶の原石を育てるところから製品までを一貫して手がける点だ。素材から握るので、周波数の精度と温度特性の作り込みで差をつけられる。AI 向けの低ジッタ品や、車載の高信頼品では、この垂直統合が効く。
弱みは、同じ土俵に強い競合が多いことだ。セイコーエプソン、京セラ、大真空、台湾の TXC などが並ぶ。上位 5 社の合計でも市場の 4 割台とされ、寡占と呼べるほど集中していない。車載のような認証品なら顧客は離れにくいが、値段は買い手が強い。実際に、売上は 11 年間ほぼ横ばいだった。
資本の面では、2020年3月期に営業赤字 20 億円・自己資本 54 億円まで落ち込み、優先株(A 種種類株式)で外部資金 50 億円を受け入れた過去がある。いまは自己資本比率が 41.8%まで戻ったが、借入金は 261 億円と自己資本を上回る。
利益率は目下、先行投資で押されている。減価償却が 39 億円、研究開発が 28 億円と、営業利益 34 億円の 2 倍近い。新 SAP とスマートファクトリー化で、建屋を増やさず生産能力を約 3 倍にする計画だ。実現すれば固定費の負担が軽くなる。ただ、計画の達成はまだ見えていない。
バリュー投資家の目で見ると、堀(他社がまねできない強み)は、車載と AI 向けの一部に限られる。会社全体としては、資本コストを大きく超えて稼ぎ続ける型には届いていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
水晶デバイスの市場は成熟している。数量はスマートフォンと自動車の生産台数に連動し、全体の成長は物価並みか、それを少し下回る。新しい需要は、AI データセンターと自動運転の 2 つに集中している。
AI データセンターでは、光トランシーバが 800G から 1.6T へ速くなる。速いほど、基準になるクロックの精度が厳しくなり、高精度の発振器が要る。ここで NDK は先行している。ただ、同じ 312.5MHz 帯の発振器はエプソンも売っており、MEMS(半導体の技術で作る発振器)の SiTime も狙っている。需要の山が高いほど、競合の増産も早い。
自動車では、ADAS のカメラ・レーダー・通信モジュールの数が増えるため、1台あたりの水晶の数は増える。電動化も追い風だ。一方で、車載は価格改定の要求が毎年のようにくる。数量は増えても、単価は小型化と競争で下がっていく。
スマートフォン向けは、数量が伸びず、MEMS 発振器への置き換えと台湾・中国勢の価格攻勢が重なる。ここはゆっくり縮むと見るのが自然だ。
防衛・宇宙の需要は増えているが、市場が小さく、利益の振れも大きい。光学は半導体製造装置向けの採用が始まったばかりで、まだ試す段階にある。
同じ電子部品でも、MLCC のように世界シェア 4 割の会社が値上げを通せる市場とは違う。水晶は値段の決定権が弱い市場だ。10 年で見ると、数量の伸びが価格の下落を相殺する構図が続くと筆者は見る。
資本政策と M&A
資本政策の焦点は、財務の立て直しと成長投資の両立だ。2020年に A 種種類株式で 50 億円の出資を受け、SAW 事業を合弁化して固定費を圧縮した。その後は黒字を続け、2025年 3 月には有利子負債 250 億円のリファイナンスも終えた。
配当は利益の約 3 割を出している。自社株買いの実績は目立たない。2027年度までは DX・SAP・設備の先行投資期間とされ、フリーキャッシュフローは足元でマイナス圏にある。還元を急ぐ局面ではなく、借入金の返済と投資が優先される。
過去 20 年のうち 2023 年 3 月期に希薄化があり、増資や優先株の転換で株数が増えたことがある。今後も同種の資本調達を迫られる場面があれば、既存株主の価値は薄まる。
M&A では、買う側としての大きな実績はない。TOB で買われる側になる可能性は、株価が上がった今は低いと見る。大株主は信託口が 13.7%、証券会社・運用会社の大量保有報告が数件で、支配株主はいない。
人についての事実としては、元従業員による資材の盗取・転売(被害額は約 2.8 億円)が報じられた。金額は小さいが、内部管理の甘さを示す。再発防止の実効性は、見ておきたい点だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI データセンターの設備投資は、まだ初期だ。光トランシーバは 800G から 1.6T、3.2T へ進み、そのたびに高精度の発振器が必要になる。会社は産業機器の売上が FY2028 までに約 3.8 倍になると上方修正した。NDK は 1.6T 向け設備の増強を終え、顧客の認証を取っている。高精度品は競合も限られる。
車載では、ADAS のレベルが上がり、カメラ・レーダー・通信の数が増える。1台あたりの水晶の数は今後 10 年で確実に増える。会社の計画する生産能力 3 倍の自動化が成功すれば、固定費の重い今の構造が一変する。減価償却 39 億円・研究開発 28 億円の先行投資が一巡し、営業利益率は 2023 年 3 月期の 15.9% を超える可能性がある。
防衛と半導体製造装置向けの人工水晶の部材は、水晶を育てる力を持つ NDK にしかできない提案だ。2030 年の 1,000 億円は、車載の安定成長と産業機器・特機・光学の積み上げで十分に届く。10 年後には売上が 1,200 億円を超え、営業利益率は 14% に乗る。
その場合、ROE は 13% を超えて資本コストを上回り、倍率も上がる。時価総額は今の 1.8 倍ほどになる。
慎重な見方
売上が 11 年間ほぼ動かなかった事実は重い。2015 年 3 月期の 477 億円が、2026 年 3 月期に 546 億円だ。その間に営業赤字が 2 回あり、2020 年 3 月期は自己資本が 54 億円まで細った。薄利で、一度崩れると立て直しに外部資金が要る。
AI 向けの需要は本物でも、勝ち続けられるかは別だ。同じ 312.5MHz 帯の発振器をエプソンが売り、SiTime の MEMS 発振器も高速通信向けを狙う。需要が盛り上がるほど、競合の増産は早く、値段は下がる。会社が言う「7 倍超」は、低い今の数字からの倍率だ。
車載の足元には、顧客の先行的な在庫確保という一過性の押し上げがある。これが一巡すれば、上期のあとに下期が落ちる。移動体通信は MEMS への置き換えが進み、台湾・中国勢との価格競争が続く。
借入金 261 億円は、自己資本 319 億円に近い。金利が上がる局面では利払いが重くなる。営業利益は 34 億円しかなく、支払利息 7 億円を引くと手元に残るのは 26 億円だ。
2027 年 3 月期の予想を反映した今の株価は、売上が横ばいだった 11 年を忘れた値段に見える。10 年の中立でも ROE は資本コスト並み。それなら倍率は 9 倍前後で、時価総額は今の 85% ほどにとどまる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。AI 向けの追い風は実在し、楽観の筋書きでも今の 1.8 倍にはなる。ただ、売上が 11 年動かず、赤字を 2 回出した過去と、値段を市場に決められる事業の性格は変わっていない。
確率は、中立に 33%、やや悲観に 27%、悲観に 10% を置き、楽観側は 8% と 22% にとどめた。悲観の 10% は、MEMS と中台勢に高精度品まで侵される構造的な負けに対する値で、資本コストの上乗せとは別に数えていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,708 円621 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 652 円150 億円)。 今の値に割り戻すと 1,568 円360 億円、今との差 −40.3%、 期待の年率 +2.5%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,209 円1,424 億円 | 1,256 円288 億円 | +184.3% | +11.0% | 597 円137 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,218 円967 億円 | 933 円214 億円 | +96.2% | +7.0% | 1,133 円260 億円 |
| 中立 | 33% | 3,156 円724 億円 | 759 円174 億円 | +49.1% | +4.1% | 1,292 円296 億円 |
| やや悲観 | 27% | 823 円189 億円 | 318 円73 億円 | −56.6% | −8.0% | 308 円71 億円 |
| 悲観 | 10% | 199 円46 億円 | 100 円23 億円 | −88.6% | −19.5% | 30 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,708 円621 億円 | 652 円150 億円 | +28.0% | +2.5% | 3,360 円771 億円 |
今の株価時価総額 2,626 円602 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% AI向けと防衛が育ち、稼げる水晶専業になる 利益 115 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 6,209 円1,424 億円
AI データセンターの光トランシーバが 3.2T 世代へ進み、NDK は高精度発振器の採用を守る。産業機器の売上は今の 44 億円から 380 億円規模に育つ。車載は ADAS の拡大で個数が 1.6 倍になり、生産能力を 3 倍にする自動化で固定費の負担が軽くなる。防衛と、半導体製造装置向けの人工水晶部材も育つ。売上は 1,200 億円台、営業利益率は 14% 台に乗る。
価格は、AI 向けの高単価品の構成が増えるため、他の筋書きより下がり方が小さい。それでも物価の 1.34 倍には届かない(小型化と競争の分)。ROE は 13% を超えて資本コストを上回り、強い成長が株価に反映される。水晶専業が初めて、資本コスト以上で稼ぎ続ける会社になる筋書きだ。
- 車載:数量 6.4(出荷個数(億個・推定))× 価格 87(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 554 億円・営業利益 78 億円。個数 1.60 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 14%
- 移動体通信・IoT:数量 11.4(出荷個数(億個・推定))× 価格 12(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 136 億円・営業利益 12 億円。個数 0.95 倍・単価 1.10 倍・営業利益率 9%
- 産業機器(AIデータセンター含む):数量 5.6(出荷個数(億個・推定))× 価格 69(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 385 億円・営業利益 77 億円。個数 7.00 倍・単価 1.25 倍・営業利益率 20%
- 特機・光学・その他:数量 1.2(出荷個数相当(億個・推定))× 価格 142(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 170 億円・営業利益 20 億円。個数 2.00 倍・単価 1.20 倍・営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 115 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.38 倍、時価総額 1,424 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI データセンターの増設が 3.2T 世代まで続き、NDK が高精度品の採用を守り切る。会社の 2030 年 1,000 億円計画を超える筋書きで、水晶専業の薄利が続いた 11 年の実績と、競合の増産を考えると、実現は一部に限られる。
やや楽観 22% AI向けが堅調に伸びる 利益 82 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 4,218 円967 億円
産業機器は計画にほぼ沿って伸び、売上は 300 億円弱になる。車載の個数は 1.45 倍まで増えるが、単価は小型化と競争で伸びが鈍る。2030 年の売上 1,000 億円計画には届き、2036 年 3 月期には 1,050 億円ほどになる。営業利益率は 12% 台に上がり、先行投資が一巡して固定費の負担が軽くなる。ただ、価格競争は続くので、ROE は 11% 近くにとどまる。
価格は、車載で物価の 1.34 倍に届かない 1.12 倍、産業機器で 1.22 倍と置く。小型化で 1 個あたりの値段が下がる分と、競合の追随を見込んだ値だ。AI 向けの需要は強いが、高精度品でも先行者の利益は数年で薄まる。
- 車載:数量 5.8(出荷個数(億個・推定))× 価格 84(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 489 億円・営業利益 64 億円。個数 1.45 倍・単価 1.12 倍・営業利益率 13%
- 移動体通信・IoT:数量 11.0(出荷個数(億個・推定))× 価格 12(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 128 億円・営業利益 10 億円。個数 0.92 倍・単価 1.07 倍・営業利益率 8%
- 産業機器(AIデータセンター含む):数量 4.4(出荷個数(億個・推定))× 価格 67(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 295 億円・営業利益 50 億円。個数 5.50 倍・単価 1.22 倍・営業利益率 17%
- 特機・光学・その他:数量 1.0(出荷個数相当(億個・推定))× 価格 138(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 13 億円。個数 1.60 倍・単価 1.17 倍・営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.7 倍。全体の PER 11.72 倍、時価総額 961 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画(FY2028 に産業機器が約 3.8 倍)が概ね達成され、車載が安定成長する筋書き。2027 年 3 月期の予想の上方修正が示す勢いと、先行投資の一巡で利益率が戻る余地を見て、これを十分あり得る筋書きとした。
中立 33% AI向けは伸びるが、薄い利益に戻りやすい 利益 63 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 3,156 円724 億円
産業機器は計画より控えめに、10 年で個数が 4.5 倍、単価は 1.2 倍になる。車載は ADAS の普及で個数が 1.35 倍に伸びる一方、単価の伸びは物価に届かない。売上は 940 億円ほどで、2030 年の 1,000 億円計画には 6 年ほど遅れる。営業利益率は 10.6% と、過去 11 年の最高水準に近づく。それでも ROE は 9% 台で、資本コストに届かない。値段を決められない事業の宿命が、利益の薄さとして残る。
価格は、10 年で車載 1.12 倍・移動体 1.05 倍・産業機器 1.20 倍・その他 1.15 倍と、物価の 1.34 倍を下回る。理由は小型化による 1 個あたりの値下がりと、台湾・中国勢や MEMS 発振器との競争だ。個数は伸びるが、その分を値下がりが打ち消す。
- 車載:数量 5.4(出荷個数(億個・推定))× 価格 84(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 455 億円・営業利益 52 億円。個数 1.35 倍・単価 1.12 倍・営業利益率 12%
- 移動体通信・IoT:数量 10.8(出荷個数(億個・推定))× 価格 11(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 123 億円・営業利益 9 億円。個数 0.90 倍・単価 1.05 倍・営業利益率 7%
- 産業機器(AIデータセンター含む):数量 3.6(出荷個数(億個・推定))× 価格 66(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 238 億円・営業利益 36 億円。個数 4.50 倍・単価 1.20 倍・営業利益率 15%
- 特機・光学・その他:数量 0.9(出荷個数相当(億個・推定))× 価格 136(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 123 億円・営業利益 11 億円。個数 1.50 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 9%
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.3 倍。全体の PER 11.29 倍、時価総額 711 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2 人の主張の落としどころ。AI 向けと車載の伸びは認めるが、競合と値下がりで超過利益は薄まるとする、最も標準的な筋書き。
やや悲観 27% 価格競争で利益が細る 利益 19 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 823 円189 億円
AI 向けの伸びは続くが、エプソンや MEMS 勢が採用を分け、産業機器の単価が上がらない。車載の個数は 1.1 倍に伸びるものの、単価の伸びは 5% にとどまる。移動体・IoT は MEMS への置き換えで個数が 2 割減る。売上は 650 億円台で、2030 年の 1,000 億円計画は届かない。営業利益率は 5% 台にとどまり、純利益は今とほぼ同じ水準で推移する。
借入金の利払いが残り、設備の更新投資も続くので、配当に回せる余裕は小さい。会社は成長を掲げ続けるが、稼ぐ力は 2015〜2019 年の薄利に近づく。新 SAP とスマートファクトリー化の効果は出るものの、値下がりに吸い取られる。
- 車載:数量 4.4(出荷個数(億個・推定))× 価格 79(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 348 億円・営業利益 23 億円。個数 1.10 倍・単価 1.05 倍・営業利益率 6%
- 移動体通信・IoT:数量 9.6(出荷個数(億個・推定))× 価格 11(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 104 億円・営業利益 3 億円。個数 0.80 倍・単価 1.00 倍・営業利益率 3%
- 産業機器(AIデータセンター含む):数量 2.0(出荷個数(億個・推定))× 価格 55(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 110 億円・営業利益 9 億円。個数 2.50 倍・単価 1.00 倍・営業利益率 8%
- 特機・光学・その他:数量 0.7(出荷個数相当(億個・推定))× 価格 124(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 90 億円・営業利益 5 億円。個数 1.20 倍・単価 1.05 倍・営業利益率 5%
倍率:ROE 3.8% は資本コストを大きく下回る。ためた利益は額面未満の価値なので、稼ぐ力(純利益÷k、PER は 1÷k=10.5 倍が上限)の 76% を置いた。成長が乏しい利益に、式の上限は当てない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8 倍・時価総額 148 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:AI 向けでエプソンや MEMS に採用を分けられ、車載の単価も下がる筋書き。売上が 11 年動かなかった実績と、値段を市場に決められる事業の性格から、中立の次に厚く置いた。
悲観 10% MEMSと中台勢に押され、薄利に逆戻りする 利益 6 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 199 円46 億円
AI 向けの採用を外れ、産業機器は期待したほど育たない。車載も単価が下がり、個数は 5% 減る。移動体・IoT は MEMS への置き換えで個数が 4 割減る。売上は 480 億円ほどに下がり、営業利益率は 3% にとどまる。借入金は残り、利払いが利益の大半を食う。配当は大きく切り詰められ、2015〜2019 年のような薄利の会社に戻る。
先行投資で作った設備は、稼働率が上がらず重荷になる。減損が出れば自己資本は細り、2020 年のように外部の資金に頼る場面が再び来る。数量は減り、価格も下がる、構造的に弱い会社になる。
- 車載:数量 3.8(出荷個数(億個・推定))× 価格 71(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 272 億円・営業利益 11 億円。個数 0.95 倍・単価 0.95 倍・営業利益率 4%
- 移動体通信・IoT:数量 7.2(出荷個数(億個・推定))× 価格 9.75(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 0 億円。個数 0.60 倍・単価 0.90 倍・営業利益率 0%
- 産業機器(AIデータセンター含む):数量 1.6(出荷個数(億個・推定))× 価格 44(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 4 億円。個数 2.00 倍・単価 0.80 倍・営業利益率 5%
- 特機・光学・その他:数量 0.6(出荷個数相当(億個・推定))× 価格 112(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 67 億円・営業利益 3 億円。個数 1.00 倍・単価 0.95 倍・営業利益率 4%
倍率:悲観の純利益 6 億円は ROE 1.5% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 8.0 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 7.6 倍(時価総額 45.6 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。借入金が残り、土地・設備・投資有価証券の売れる額は開示から確かめられないので、売れる資産の床は立てなかった。
確率:AI 向け・車載の高精度品でも MEMS と台湾・中国勢に侵される、構造的な負け。2015〜2019 年のような薄利に戻る筋書きで、一度崩れると外部資金に頼ってきた過去がある。確率は事業の構造から置き、資本コストの上乗せ(quality)とは別に数えない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載
ADAS・パワートレイン・車載通信向けの水晶振動子と水晶発振器。NDK の売上のおよそ 55% を占める柱。
| 数量出荷個数(億個・推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 75 | 301 | 24 |
| 10 年後 中立 | 5.4 | 84 | 455 | 52 |
取り方:個数は開示がない。車載向け売上 301 億円(会社開示)を、振動子と高機能な発振器の混ざる平均単価で割って年 4 億個と推定した。営業利益は部門別の開示がなく、全社 6.1% を車載 8%・移動体 4%・産業機器 10%・その他 5% に配分し、残りを本社費として調整に入れた。個数は実質の数量で、クルマ 1 台あたりの水晶の数が増えることで伸びる。単価は名目。物価の 3% に対し、小型化と台湾・中国メーカーとの競争で実質では下がり続けるため、中立の 10 年は 1.12 倍(物価の 1.34 倍に届かない)と置いた。
移動体通信・IoT
スマートフォン・通信機器・IoT 機器向けの小型水晶振動子・発振器。成熟した市場で、単価の低い量産品が中心。
| 数量出荷個数(億個・推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 11 | 130 | 5 |
| 10 年後 中立 | 10.8 | 11 | 123 | 9 |
取り方:移動体・IoT 向け売上 130 億円(会社開示)を、極小サイズの量産品の低い単価で割って年 12 億個と推定した。スマートフォンの台数は伸びず、数量は中立で 10 年 0.9 倍と置いた。単価は名目で、10 年 1.05 倍(物価の 1.34 倍に届かない)。極小品の価格競争と、MEMS 発振器への一部置き換えがあるため。営業利益率は全社より低い 4% で配分した。
産業機器(AIデータセンター含む)
光トランシーバ・AI サーバ・通信基地局・計測器向けの高機能な水晶発振器。足元で最も伸びが速い。
| 数量出荷個数(億個・推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 55 | 44 | 4 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 66 | 238 | 36 |
取り方:産業機器向け売上 44 億円(会社開示)を、高機能な発振器と振動子の混ざった平均単価で割って年 0.8 億個と推定した。会社は FY2025 から FY2028 に産業機器の売上が約 3.8 倍になる(AI データセンター向けは 7 倍超)と公表している。中立は 10 年で個数 4.5 倍・単価 1.20 倍(物価の 1.34 倍に届かない。AI 向けの高単価品の構成効果はあるが、競合の追随で値下がりが進む)。営業利益率は 10% で配分した。
特機・光学・その他
防衛・宇宙・公共無線向けの特機、人工水晶を使う光学製品、医療機器向けなどの小口の事業。
| 数量出荷個数相当(億個・推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 118 | 71 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 136 | 123 | 11 |
取り方:特機 17 億円・光学製品 14 億円・その他 40 億円(会社開示)を合わせた 71 億円を、単価の高い特注品が中心として割り、年 0.6 億個相当と推定した。中立は 10 年で個数 1.5 倍(防衛需要の増加と、半導体製造装置向け光学部材の取り込み)、単価 1.15 倍。営業利益率は 5% で配分した。
リスクと懸念
売上の停滞と薄利
売上は 2015 年 3 月期の 477 億円から 2026 年 3 月期の 546 億円まで 11 年ほぼ動かず、営業利益率の中央値は 1 桁だ。AI 向けの上振れが一巡すれば、元の薄利に戻りかねない。値段を市場に決められる事業構造が背景にある。
AI 向け発振器の競合と値下がり
産業機器の急伸は、エプソンや MEMS の SiTime など競合の増産で値崩れしやすい。1.6T 世代の次の規格で採用を外れると、増強した設備が遊ぶ。需要の山が高いほど、谷も深い。
MEMS 発振器への置き換え
半導体の技術で作る MEMS 発振器は、小型・耐衝撃・低消費電力で水晶を侵食している。移動体通信・IoT では置き換えが進み、車載や産業機器に及ぶと、水晶専業の NDK は逃げ場が少ない。
借入金と金利
借入金は 261 億円で自己資本 319 億円に迫る。借り換えのたびに金利が上がると、営業利益 34 億円から 7 億円の利払いが引かれて利益が薄くなる。赤字に落ちれば、再び外部資金が要る。
先行投資の回収が遅れるリスク
減価償却 39 億円と研究開発 28 億円が営業利益を大きく上回る。新 SAP・スマートファクトリー化で生産能力を 3 倍にする計画が遅れると、固定費の重さが残る。2027 年度までを先行投資期間とする計画だ。
為替と海外売上
売上の大半が海外で、会社予想は 1 ドル 157.5 円を前提にしている。円高に振れれば、AI 向けの増収があっても円換算の利益が減る。車載の先行的な在庫確保も、下期以降に反動が出る可能性がある。
内部管理
元従業員による資材の盗取・転売(被害額約 2.8 億円)が報じられた。金額は小さいが、在庫と購買の管理に穴があったことを示す。SAP の導入で管理は変わるはずだが、実効性はこれから確かめる段階にある。
今後の分かれ目
- 産業機器の売上が FY2028 に 160 億円台へ届き、次の 3.2T 世代でも採用が続いたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げ、産業機器の価格前提を見直す。
- エプソンや SiTime が AI 向けの高精度品で NDK の採用を奪い始めたら
- やや悲観・悲観の確率を上げ、産業機器の個数と単価を下げる。
- 生産能力を 3 倍にする自動化が実現し、営業利益率が 10% を超えて定着したら
- 中立の利益率を上げ、ROE が資本コストを上回る前提に近づける。
- 車載の先行的な在庫確保が一巡し、下期以降の車載売上が前年を割ったら
- 車載の個数前提を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- 金利が想定より高止まりし、借入金の利払いが営業利益の 3 割を超えたら
- 純利益を下げ、増資や優先株の可能性を含めてやや悲観側に寄せる。
- 半導体製造装置向けの人工水晶部材が量産採用に進んだら
- 特機・光学の個数と利益率を上げ、楽観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 産業機器の四半期売上(1Q 17 億円)と AI 向けの中期見通し(FY2028 に FY2025 の約 3.8 倍)
- 営業利益率が 8% 台から 10% を超えて定着するか
- 車載の売上(2026 年度計画 324 億円)と先行的な在庫確保の反動
- 借入金(26 年 6 月末 248 億円)の圧縮と自己資本比率の推移
- MEMS 発振器・エプソンの高精度品の採用状況
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から決めた。資本コスト 9%(基本 7.5% に quality +2.0%)、長期成長 4.0%、堀は弱い(残る割合 1/3)として正当化 PER を出し、ROE が資本コストを下回る中立は上限 1/k(10.5 倍)に ROE÷k(0.99)を掛けた 9 割の 9.4 倍に置いた。今の株価・過去の PER・同業の倍率は根拠にしていない。数量は個数(実質)、単価は名目で、車載・移動体・産業機器・特機光学の 4 つを個数×単価で積み上げた。今の PER は会社予想ベースでも 20 倍を超えるが、それに寄せていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。借入金が純現金でないため余った現金は分けていない。リースはこの会社では大きな論点でなく、新リース会計基準の形変わり(2028 年 3 月期から)は、10 年後の数字を今と同じ形(家賃を費用に入れる形)にそろえて見ている。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +2.0% を足した 9.5%。個別のリスク(内部管理・M&A)は k に足さず、確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.50% → 9.00%。