結論
大真空は、スマホ・クルマ・通信機器の中で時刻の基準を刻む「水晶デバイス」を作る、兵庫の専業メーカーだ。GPS向けの水晶では世界首位格で、売上の4割近くを車載が占める。2026年3月期は売上396億円に対し、営業利益は11億円と細い。
筆者の結論は「割高」だ。確率を掛けた10年後の価値は、今の時価総額の4割強にとどまる。中立の筋書きでも、純利益は10年後に15億円ほどだ。稼ぐ力が資本コストに届かない会社に、帳簿の自己資本ほどの値は付かない。
追い風は本物だ。AIサーバーの光トランシーバー向け発振器、自動運転の水晶、衛星通信が伸びる。会社が量産を始めた新型の水晶「Arkh」は、同じ面積で従来の5〜7倍を作れ、費用を大きく下げる。
だが、会社の計画はすでにずれている。2027年3月期に売上530億円を狙ったが、会社予想は410億円だ。純有利子負債は207億円と時価総額の8割を超え、営業キャッシュフローは赤字だった。配当も利益を上回る。成功を値段に織り込むのは、まだ早い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社は「良い商売」の条件のうち、二つが欠けている。一つは、売値を自分で決められないこと。もう一つは、稼いだ利益が株主に残らず、設備に吸われ続けることだ。
オーナー利益で測ると、事情はもっと厳しい。減価償却42億円を引いたうえで、設備投資を賄い、さらに配当を払う。純利益は4億円しかなく、配当は9億円だ。営業キャッシュフローが赤字なら、配当は借金でまかなっているのと同じになる。
堀はあるが、狭い。GPS向けの首位、フォトリソ加工、Arkhの特許は本物の強みだ。ただ、MEMSという別の技術が、その堀の外側から迫る。10年後も水晶デバイスが主役かどうかは、確かだと言い切れない。
安全域もない。簿価の自己資本に対しては割安に見えるが、稼ぐ力が資本コストに届かないため、簿価は床にならない。経営が資本を上手に使うかは、Arkhの量産と、遠い分野への投資をどう扱うかで決まる。
何で稼ぐ会社か
作っているのは、電気信号のタイミングを正確に刻む水晶振動子と水晶発振器、そして不要な電波を除く水晶フィルタだ。スマホのGPS、クルマの先進運転支援、基地局、パソコン、工場のロボットまで、時計の役目をする部品として入っている。単価は1個あたり数十円と小さく、量で稼ぐ商売だ。
売上の市場別の構成は、車載が37%、通信が26%、民生が27%、産業が10%だ(2026年3月期の9か月)。通信にはスマホのGPS、無線LAN、衛星通信、光トランシーバー向けが入る。拠点別では中国が売上の3割強、台湾が2割強、日本が2割弱で、生産も日本・台湾・中国・東南アジアに分かれる。
技術の軸は、半導体と同じ写真の技術で水晶を加工するフォトリソ製品と、それを進めたArkhだ。水晶をウエハの段階で一括して加工するため、従来のように1個ずつ作らず、セラミックの容器も接着剤もいらない。会社は光トランシーバー、ADAS(運転支援)・監視カメラ、GPSの3分野で、シェアを30〜40%へ高める目標を掲げる。
新事業として、空気中のCO2を回収して水素を作る事業にも取り組んでいる。2025年5月の説明資料には約140億円の投資が載ったが、決算短信に投資の決定はない。水晶とは縁の遠い分野で、資本の使い方としては気がかりだ。
優良さと弱いところ
強みは、水晶の育成から加工までを自社で持つ技術と、GPS向けで約3割という世界首位格のシェアだ。クルマ向けは認証に時間がかかる代わりに、一度採用されれば長く使われる。Arkhが狙いどおりに立ち上がれば、同じ面積で5〜7倍を作れ、設備投資も電気代も下がる。
弱みは、利益が薄く、揺れが大きいことだ。営業利益率は2022年3月期の12.6%から、2026年3月期は2.9%まで落ちた。理由は三つある。金を使うため金価格に振られること、台湾の工場が台湾ドル高で削られること、売り先に値段を決められることだ。2026年3月期の営業利益は、価格変動だけで12億円減った。
財務も弱い。自己資本比率は39.5%、純有利子負債は207億円で、営業利益は支払利息の3倍にすぎない。子会社の外部株主の持ち分(非支配持分)も89億円ある。ROEは1%で、資本コストを大きく下回る。
経営の質にも傷がある。2025年3月期には、期中の決算数値を訂正した。原因はヒューマンエラーで、会社は再発防止体制を整えたと説明している。補償費用も2期続けて出ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
水晶デバイスの世界市場は、2025年に36億ドル前後とみられ、2032年に60億ドルを超えるとの予測がある。年8%台の成長だが、これは名目で、物価の分を除けば数量の伸びは小さい。上位はエプソン、京セラ、台湾のTXC、日本電波工業、大真空で、5社で約5割を握る。
伸びる場所は、はっきりしている。AIサーバーの光トランシーバーが1.6Tへ進むと、高精度の差動出力発振器が要る。自動運転ではシステムを二重にするため、1台あたりの水晶が増える。低軌道衛星やGPSモジュールも増える。一方、スマホは台数が伸びず、メモリ価格の急騰で通信・民生の需要は押された。
最大の脅威は、シリコンのMEMS発振器だ。米国のSiTimeが先頭に立ち、あるリサーチ会社は、MEMSの比率が2024年の約2割から2031年に約3割へ上がると見ている。水晶は小型化と低消費電力の両面でMEMSに迫られ、置き換えの圧力は続く。ここでArkhのような費用の下がる新工法が、守りの武器になる。
価格の面では、金の高騰と円・台湾ドルの動きが、業界全体の利益を毎年揺らす。中国勢との価格競争も、低価格のスマホ向けでは避けられない。
資本政策と M&A
資本政策の課題は、利益より配当が大きいことだ。年間の配当は据え置かれ、配当性向は2期続けて200%を超える。配当は自己資本に対する比率(DOE)を軸にする方針とされ、利益が出なくても配当を保とうとする。その分は借入で賄われ、営業キャッシュフローは2026年3月期に18億円の赤字だった。
投資は重い。2026年3月期の設備投資は62億円、減価償却は42億円で、投資が償却を上回る。第二中計の3年累計150億円は、経産省の補助金を使って増やす。Arkh設備の納入遅れで、約20億円が2027年3月期に回った。借入は370億円あり、金利が上がれば利払いが増える。
売却できる資産は小さい。投資有価証券は35億円で、2026年3月期に3.5億円の売却益を出した。大株主は信託口が8%、長谷川福祉会が8%、三菱UFJ銀行が3%で、買収に動くほど偏った株主はいない。自社株買いの予定はなく、M&Aも近年ない。資本は、新工場とArkhに集中している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
Arkhは、費用の下がり方が桁違いだ。水晶をウエハごと一括して加工するため、同じ面積で従来の5〜7倍を作れ、設備投資も電気代も下がる。量産に入れば、売上が増えるより先に利益率が上がる。2022年3月期は営業利益が52億円、利益率は12.6%まで行った。供給が追いつけば、その水準に戻れる。
市場は追い風だ。AIサーバーの光トランシーバーは1.6Tの世代に進み、312.5MHzの差動発振器を作れる会社は限られる。大真空の同分野のシェアは10%未満で、伸びしろが大きい。クルマは自動運転でシステムが二重になり、1台あたりの水晶が増える。ADAS向けのシェアは約10%と、これも伸びる余地がある。
足元の弱さは一時的だ。2026年3月期の営業利益の悪化は、金価格、台湾ドル高、生産トラブルが重なった。どれも構造でなく、外因だ。棚卸は金を含む原材料で膨らんだだけで、売れ残りではない。会社は2027年3月期の営業利益を14億円と見ているが、設備の立ち上がりで、その先は大きく増える。
AIデータセンター向けの発振器で成長を見込む同業もある。大真空も同じ道をたどれば、10年後には営業利益率が1割に届き、時価総額は今の1.5倍になりうる。
慎重な見方
会社の計画は、もう守れていない。第二中計は2027年3月期に売上530億円、営業利益は過去最高の更新を掲げた。しかし、会社予想は売上410億円、営業利益14億円だ。計画の達成率は売上で8割、営業利益で3割に満たない。Arkhの量産設備も納入が遅れ、約20億円分の投資が翌期に回った。
利益の薄さは構造だ。水晶は値段を市場に決められる部品で、価格変動だけで営業利益が12億円も動いた。金の高騰は2027年3月期もさらに10億円の逆風になる。台湾ドル高が続けば、台湾の工場は赤字に近づく。ROEが10年中央値で1.9%という数字が、稼ぐ力の実態を示している。
財務の余裕はない。純有利子負債は207億円で時価総額の8割を超え、営業利益は支払利息の3倍だ。営業キャッシュフローは赤字で、配当は借入で賄っている。借り換えの金利が3.5%まで上がれば、利払いはさらに増える。非支配株主への配当も出ていく。
技術面では、MEMS発振器のシェアが2割から3割へ上がる見通しだ。水晶が守れる領域は、車載と高精度の光通信に絞られる。経営の信頼にも傷があり、決算の訂正と補償費用が重なった。遠い分野のCO2回収事業へ約140億円を投じる構想もあり、資本の使い方に不安が残る。
どちらに重みを置いたか
Arkhの費用優位と光通信・車載の追い風には説得力があるが、それを実現する前に、財務と利益の薄さが重くのしかかる。慎重な見方の指摘が強い。計画が2期続けて下振れていること、金と為替で利益が大きく動くこと、借入が重いことの3点で、強気の見方は具体的な反論を示せていない。
そこで、中立の営業利益率は、過去の山である12.6%を大きく下回る6.5%に置いた。確率は、中立を最も厚く、やや悲観を楽観側より厚くした。MEMSの置き換えと金・為替の揺れは、ともに悲観側に働くためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 461 円147 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 295 円94 億円)。 今の値に割り戻すと 374 円119 億円、今との差 −48.0%、 期待の年率 +0.5%(資本コスト 9.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,294 円412 億円 | 377 円120 億円 | +132.4% | +8.8% | 134 円43 億円 |
| やや楽観 | 19% | 784 円250 億円 | 339 円108 億円 | +56.3% | +4.6% | 214 円68 億円 |
| 中立 | 36% | 483 円154 億円 | 314 円100 億円 | +10.9% | +1.0% | 287 円91 億円 |
| やや悲観 | 25% | 111 円35 億円 | 267 円85 億円 | −47.5% | −6.2% | 94 円30 億円 |
| 悲観 | 12% | 59 円19 億円 | 173 円55 億円 | −67.8% | −10.7% | 28 円9 億円 |
| 加重平均 | 100% | 461 円147 億円 | 295 円94 億円 | +5.2% | +0.5% | 756 円241 億円 |
今の株価時価総額 719 円229 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 8% Arkhが費用の優位を実現し、光通信と車載で首位格になる 利益 39 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,294 円412 億円
Arkhの量産が計画どおり進み、同じ面積で5〜7倍を作れる費用の優位が、数字に出る。光トランシーバー向けの差動発振器で30%、ADAS・監視カメラで30%のシェアに近づく。AIサーバーの投資は10年続き、クルマの自動運転で1台あたりの水晶も増える。
MEMS発振器への置き換えは、光通信と車載の高精度品では起きない。個数は車載で7割、通信で6割増え、産業は2.4倍になる。値段はArkhの高機能品への移行で、車載は物価を上回って上がる。
営業利益率は10.5%に戻り、2022年3月期の山に近づく。借入は利益で返済でき、利払いも軽くなる。それでも、自己資本利益率は8%で資本コストに届かない。
- 車載:数量 3.7(車載向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.83(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 302 億円・営業利益 36 億円。個数×単価 3.65億個 × 100個あたり0.826万円(今の1.18倍)、利益率 12.0%
- 通信:数量 5.3(通信向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.34(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 177 億円・営業利益 18 億円。個数×単価 5.28億個 × 100個あたり0.336万円(今の1.05倍)、利益率 10.0%
- 民生:数量 5.4(民生向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.20(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 107 億円・営業利益 5 億円。個数×単価 5.35億個 × 100個あたり0.2万円(今の1.00倍)、利益率 5.0%
- 産業:数量 1.1(産業向け出荷個数(億個、推定))× 価格 1.11(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 125 億円・営業利益 21 億円。個数×単価 1.13億個 × 100個あたり1.105万円(今の1.30倍)、利益率 17.0%
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 412 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:Arkhの量産、光通信での採用、金・為替の落ち着きが同時に必要で、足元の利益率2.9%から1割超へ戻る道は長い。
やや楽観 19% Arkhが一部で採用され、利益率が8%台に戻る 利益 24 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 784 円250 億円
Arkhは光トランシーバーと一部の車載で採用され、量産は軌道に乗る。ただし、MEMSとの競争やスマホ向けの価格競争は続き、全面的な優位には届かない。通信と産業は伸び、民生は小型品の値下がりで目減りする。
個数は車載で55%、通信で45%増える。金の価格転嫁が進み、為替の揺れも小さくなる。営業利益率は8.3%と、足元の3倍近くになる。借入は横ばいで、利払いは増えるが、利益で吸収できる。
それでも、自己資本利益率は5〜6%と、資本コストの10%には遠い。成長は物価をやや上回る程度にとどまる。
AIデータセンター向けの発振器は産業の売上を2倍にするが、全社の利益を変えるほどではない。配当は据え置かれ、純利益の大半が株主に回る形ではなく、設備の更新に使われ続ける。
- 車載:数量 3.2(車載向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.79(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 256 億円・営業利益 26 億円。個数×単価 3.23億個 × 100個あたり0.791万円(今の1.13倍)、利益率 10.0%
- 通信:数量 4.6(通信向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.32(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 149 億円・営業利益 12 億円。個数×単価 4.64億個 × 100個あたり0.32万円(今の1.00倍)、利益率 8.0%
- 民生:数量 5.1(民生向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.19(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 4 億円。個数×単価 5.08億個 × 100個あたり0.19万円(今の0.95倍)、利益率 4.0%
- 産業:数量 0.9(産業向け出荷個数(億個、推定))× 価格 1.04(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 98 億円・営業利益 14 億円。個数×単価 0.94億個 × 100個あたり1.037万円(今の1.22倍)、利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 250 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載・光通信の需要は堅く、Arkhが一部で採用される可能性は十分あるが、会社の計画はすでに下振れている。
中立 36% 需要は伸びるが値段が下がり、利益率は6%台に戻る程度 利益 15 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 483 円154 億円
車載、光通信、衛星の需要は伸びる。個数は車載で4割、通信で25%増える。ただし、スマホ向けは台数が伸びず、民生は1割減る。単価は小型化と競争で物価に届かず、通信と民生は下がり続ける。
Arkhは一部で費用の優位を示し、営業利益率は6.5%まで上がる。減価償却は新設備の分が加わっても約48億円と、物価で一律に上がる57億円ほどには増えない。償却の重さが軽くなる分だけ、利益率は上がる。一方で設備投資は償却を上回り続け、借入は減らない。
金価格と為替のぶれは残る。売上は512億円、純利益は15億円で、物価を除くとほぼ横ばいだ。配当は据え置かれ、自己資本利益率は4%にとどまる。
- 車載:数量 2.9(車載向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.77(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 225 億円・営業利益 19 億円。個数×単価 2.92億個 × 100個あたり0.77万円(今の1.10倍)、利益率 8.5%
- 通信:数量 4.0(通信向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.31(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 125 億円・営業利益 8 億円。個数×単価 4億個 × 100個あたり0.314万円(今の0.98倍)、利益率 6.0%
- 民生:数量 4.8(民生向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.18(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 3 億円。個数×単価 4.81億個 × 100個あたり0.184万円(今の0.92倍)、利益率 3.0%
- 産業:数量 0.8(産業向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.98(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 9 億円。個数×単価 0.75億個 × 100個あたり0.977万円(今の1.15倍)、利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.8% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 154 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の伸びと単価の下落が釣り合い、営業利益率が6%台に戻る筋書きに最も厚く置いた。
やや悲観 25% MEMSと中国勢に押され、値段が下がり利益率が4%にとどまる 利益 5 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 111 円35 億円
MEMS発振器が光通信とスマホ向けの一部を置き換え、中国勢の水晶が汎用品の値段を押し下げる。Arkhは立ち上がるが、顧客の認証に時間がかかり、設備の稼働率が上がらない。個数は車載で15%、通信で5%増えるにとどまり、民生は2割減る。
単価は物価に届かず、通信と民生では名目でも下がる。金価格の上昇を価格に転嫁しきれず、営業利益率は4%に低迷する。借入は重いまま、借り換えの金利が3.5%に上がり、利払いが利益を圧迫する。
配当は利益の裏づけを失い、水準を下げざるを得ない。純利益は5億円で、足元と同じ水準が10年続く。それでも配当は減価償却の現金と有価証券の売却で払い続けるため、10年の還元の合計は純利益の合計を大きく超える。
- 車載:数量 2.4(車載向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.74(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 176 億円・営業利益 12 億円。個数×単価 2.4億個 × 100個あたり0.735万円(今の1.05倍)、利益率 6.5%
- 通信:数量 3.4(通信向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.29(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 99 億円・営業利益 4 億円。個数×単価 3.36億個 × 100個あたり0.294万円(今の0.92倍)、利益率 4.0%
- 民生:数量 4.3(民生向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.18(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 1 億円。個数×単価 4.28億個 × 100個あたり0.176万円(今の0.88倍)、利益率 1.5%
- 産業:数量 0.6(産業向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.89(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 4 億円。個数×単価 0.56億個 × 100個あたり0.892万円(今の1.05倍)、利益率 8.0%
倍率:ROE 1〜2% は k を大きく下回る。PER の上限 1÷k(10 倍)の 70% を置いた。PBR が 0.1 倍と低いのは、償却の重い装置産業で簿価の自己資本が稼ぎを生まないため。EV(時価総額+純有利子負債 207 億+非支配持分 89 億)÷ EBITDA(営業利益+償却約 45 億)でも約 5 倍で、借金の重い装置産業として極端な安値ではない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 7 倍・時価総額 35 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:MEMSの置き換えと金・為替の揺れ、重い借入が重なる筋書き。会社の計画が2期続けて下振れており、中立と並ぶ重みを置いた。
悲観 12% 技術で置き換えられ、構造的に優良さを失う 利益 3 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 59 円19 億円
MEMS発振器と中国勢の水晶に、光通信とスマホ、一部の車載を奪われる。Arkhへの投資は十分に回収できず、減損を迫られる。個数は車載で5%、通信で15%、民生で35%減り、単価も物価に追いつかず、実質で半値に近づく。
営業利益率は3%台にとどまり、借入の利払いだけで利益の大半が消える。配当は大幅に減らされ、設備投資も絞って借金を返す。会社は縮小均衡に入る。
水晶デバイスは細く長く残るが、優良さはなくなる。純利益は3億円にも届かず、稼ぐ力は小さくなる。
借入は返済を進めて減るが、非支配株主への配当や補償費用が重なり、株主に残る額は小さい。経営は、決算の訂正に続く信頼の回復にも手を取られる。
- 車載:数量 2.0(車載向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.69(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 136 億円・営業利益 8 億円。個数×単価 1.98億個 × 100個あたり0.686万円(今の0.98倍)、利益率 6.0%
- 通信:数量 2.7(通信向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.27(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 3 億円。個数×単価 2.72億個 × 100個あたり0.272万円(今の0.85倍)、利益率 4.0%
- 民生:数量 3.5(民生向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.16(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 56 億円・営業利益 0 億円。個数×単価 3.48億個 × 100個あたり0.16万円(今の0.80倍)、利益率 0.0%
- 産業:数量 0.4(産業向け出荷個数(億個、推定))× 価格 0.81(100個あたり売上(万円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。個数×単価 0.38億個 × 100個あたり0.807万円(今の0.95倍)、利益率 6.0%
倍率:稼ぐ力(純利益÷k)の 65% を置いた。優良でなくなった後の利益で、自己資本の厚さは根拠にしない。PBR 0.05 倍は減損と稼ぎの細さの結果。EV ÷ 営業利益は約 23 倍と高く見えるが、償却が営業利益を薄くしているため、EBITDA でも見た。EV(時価総額+純有利子負債 207 億+非支配持分 89 億)÷ EBITDA(営業利益+償却約 40 億)は約 6 倍で、借金を含めて見ても割安に偏ってはいない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 6.5 倍・時価総額 19 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:技術の置き換えが進み、Arkhの投資も回収できない構造的な負け。借入が重く、起これば深いので1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載
クルマ向けの水晶振動子・発振器。ADAS、エンジン制御、車載通信などに使う。
| 数量車載向け出荷個数(億個、推定) | 価格100個あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 0.70 | 146 | 7 |
| 10 年後 中立 | 2.9 | 0.77 | 225 | 19 |
取り方:車載向けは、決算補足資料の市場別構成(9か月で37%)から売上約146億円とし、振動子と発振器が混ざる平均単価(100個あたり0.7万円)で割って年約2.1億個と推定した(個数は非開示)。個数は実質、物価と高付加価値化は単価に入れる。10年の中立は単価1.10倍と、物価の1.34倍に届かない。ADAS向けの高付加価値化は効くが、小型化による値下がりと顧客の値下げ要求が続くため。営業利益は全社11.3億円を車載5%・通信3.5%・民生1%・産業4%で配分し、残りを本社費・研究開発として調整に入れた。
通信
スマホのGPS・無線LAN、衛星通信、基地局、光トランシーバー向けの水晶デバイス。
| 数量通信向け出荷個数(億個、推定) | 価格100個あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 0.32 | 102 | 4 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 0.31 | 125 | 8 |
取り方:通信向けは構成26%から売上約102億円とし、スマホ向けの低単価品と高精度の発振器が混ざる平均単価(100個あたり0.32万円)で割って年約3.2億個と推定した。個数は実質、物価と製品構成の変化は単価に入れる。10年の中立は単価0.98倍。スマホ向けの低価格品は中国勢との競争で名目でも下がり、光通信向けの高単価品の構成比上昇でようやく横ばいになるため。営業利益率は3.5%で配分した。
民生
パソコン、ウェアラブル、家電向けの水晶デバイス。
| 数量民生向け出荷個数(億個、推定) | 価格100個あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.4 | 0.20 | 107 | 1 |
| 10 年後 中立 | 4.8 | 0.18 | 89 | 3 |
取り方:民生向けは構成27%から売上約107億円とし、パソコン・ウェアラブル向けの小型品中心の平均単価(100個あたり0.2万円)で割って年約5.4億個と推定した。個数は実質。10年の中立は単価0.92倍。小型化と価格競争が続き、名目でも下がるため。営業利益率は1%で配分した。
産業
FA・ロボット、計測、データセンター機器向けの水晶デバイス。
| 数量産業向け出荷個数(億個、推定) | 価格100個あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.5 | 0.85 | 40 | 2 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 0.98 | 74 | 9 |
取り方:産業向けは構成10%から売上約40億円とし、FA向けの高単価品と、AIデータセンター向けの発振器が混ざる平均単価(100個あたり0.85万円)で割って年約0.47億個と推定した。個数は実質。10年の中立は単価1.15倍。AIデータセンター向けの高単価品の構成効果はあるが、競合の追随で物価の1.34倍には届かないため。営業利益率は4%で配分した。
リスクと懸念
金・為替による利益のぶれ
水晶の電極に金を使うため、金価格が上がると原価が膨らむ。2027年3月期の営業利益の計画にも、金価格で約10億円の逆風が入っている。台湾ドル高も台湾工場の利益を削り、2026年3月期は台湾の営業利益が9割減った。
重い借入と赤字の営業キャッシュフロー
純有利子負債は207億円、借入は370億円ある。2026年3月期の営業キャッシュフローは18億円の赤字で、配当は借入で賄われている。借り換えのたびに金利が上がれば、利払いが利益を食う。
Arkhの立ち上げ遅れと投資の回収
第二中計の設備投資は3年で150億円だが、量産設備の納入が遅れ、約20億円が翌期に回った。顧客の採用が進まず、稼働率が上がらなければ、償却だけが先に重くなる。
MEMS発振器への置き換え
シリコンのMEMS発振器は、小型・低消費電力で水晶に迫る。リサーチ会社は、MEMSの比率が2024年の約2割から2031年に約3割へ上がると見ている。光通信や車載で置き換えが進めば、水晶の用途が狭まる。
品質・ガバナンスの問題
2025年3月期には、期中の決算数値を訂正した。補償費用も2期続けて計上され、2026年3月期は営業外で7.5億円に達した。原因の詳細は決算短信に示されていない。再発すれば、顧客の信頼と資金調達の両方に響く。
遠い分野への投資
空気中のCO2を回収して水素を作る事業に、約140億円を投じる構想が説明資料に載った。決算短信に投資の決定はないが、本業の借入が重い中で実行されれば、資本配分の失敗になりうる。
今後の分かれ目
- Arkh水晶発振器が光トランシーバー向けで量産に入り、営業利益率が5%を超えて定着したら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。費用優位が数字で確認できたことになる。
- 金価格がさらに上がり、価格転嫁が間に合わず営業利益が会社予想の14億円を割ったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。価格を決める力の弱さが確定する。
- 営業キャッシュフローが黒字に戻り、借入が減り始めたら
- 借金の上乗せ(k の +1.0%)を見直し、資本コストを下げる余地を考える。
- CO2回収事業に数十億円規模の投資を決めたら
- 資本配分の失敗として、やや悲観の確率を引き上げる。
- MEMS発振器が車載や光トランシーバーで水晶を置き換える事例が出たら
- 水晶の用途が狭まる悲観側へ確率を移す。
- 配当を利益に見合う水準へ下げ、財務を立て直す方針を示したら
- 財務の安全域が改善したとして、悲観の確率を下げる。
見ておくもの
- Arkh(水晶発振器・振動子)の量産の立ち上がりと、光トランシーバー向けの採用
- 営業利益率(会社予想は3.4%)と、価格変動・金価格の要因分析
- 営業キャッシュフローと純有利子負債の推移
- 台湾ドルと金価格の動き(営業利益への影響額)
- MEMS発振器のシェアと、車載・光通信での水晶の置き換え
倍率と資本コストの決め方
市場別(車載・通信・民生・産業)に、個数(実質)と1個の単価(名目、物価の10年1.34倍に届かない業種)で積んだ。k は基本 7.5% に quality +2.5%(循環 +0.5・値決め力 +0.5・借金 +1.0・寿命 +0.5)で 10.0%。中立は ROE が 4% で k を下回り、PER の上限は 1÷k の 10 倍。その 85% を置いた。楽観でも ROE は 8% で k に届かず、同じ式で 9.5 倍にとどめた。今の株価は PER 60 倍近いが、倍率の根拠には使っていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の 65% で置き、過去の PBR は使っていない。新リース会計の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.5→10.53 倍・やや楽観 PER 9→10.53 倍・中立 PER 8.5→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +2.5%(循環 +0.5・値決め力 +0.5・借金 +1.0・寿命 +0.5)を足して k 9.5%。赤字や存続の疑いはなく、extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 10.00% → 9.50%。