結論
トレックス・セミコンダクターは、小さな機器の電圧を整える電源ICを設計するトレックスと、パワー半導体を受託製造するフェニテックの2社で成り立つ小型の半導体会社だ。売上は250億円、営業利益は11億円で、2期続けた営業赤字からようやく黒字に戻した。筆者の結論は割高である。稼ぐ力に対して株価の織り込みが厚く、ROEが資本コストを超える年が10年の中立の筋書きでは現れない。
理由は利益率の置き場所にある。会社は2030年度に売上360億円、営業利益45億円(利益率12.5%)を掲げる。だが過去12年で利益率が12%を超えたのは3期だけで、2度出した中計はどちらも大きく未達だった。
事業の質も限られる。電源ICは顧客が広く分散する汎用性の高い領域で、大手と台湾勢に値段を決められやすい。受託製造は償却費が重く、中国勢の低耐圧MOSFETの増産で採算が削られる。
材料もある。カナメ・キャピタルが1割超を持ち、資本政策の提案を検討中だ。還元が厚くなる余地はあるが、利益が増えなければ価値は増えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10年後にこの事業の稼ぐ力が今より強いか」を問う。トレックスの電源ICには切り替えの難しさという小さな堀がある。だがフェニテックは装置産業で、固定費が重く、稼働率次第で利益が大きく振れる。オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は、償却と設備投資がほぼ同じ大きさなので純利益に近いが、その純利益自体が小さい。
経営の資本配分は評価が分かれる。ベトナムの後工程の売却は、限りある資源を絞る良い判断だ。他方で、2期連続の赤字を許し、中計を2度外した実績は軽くない。
安全域は、自己資本が時価総額を上回る点に表面上はある。だがROEが資本コストに届かない会社では、ためた利益は額面より小さい価値しか持たない。帳簿の厚みは安全域にならない。10年後の事業の姿が見通しにくく、確信度は低い。そうした事業には、払う値段に厚い余裕を求めたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは2本ある。1本目は電源ICのトレックスだ。スマートフォン、補聴器、産業ロボットなど、小型機器の中で電圧を変換する部品を設計し、製造は外部に任せるファブレス型である。売上の約4割(104億円)を占める。省電力と小型化が売りで、新製品の36V耐圧の降圧DC/DCコンバータ(XC9704/05)で産業機器向けの中高耐圧品を広げている。
2本目はフェニテックだ。岡山と鹿児島の2工場で、低耐圧のMOSFETを中心にパワー半導体を受託製造する。売上は約6割(147億円)で、車載・医療向けが底堅い。SiC(炭化ケイ素)のSBDは量産に入り、MOSFETを開発中だ。
事業の組み換えも進めている。ベトナムの後工程子会社TVSの95%を台湾のPANJITに譲る契約を結び、2026年度上期に完了する見込みだ。譲渡益は約6億円で、設計と前工程に資源を絞る狙いだ。一方で、電極に使う金の価格が高騰し、原価を押し上げている。海外売上比率は7割近い。トレックスの製品は補聴器など医療機器、産業ロボット、車載の電装品に広がり、顧客の数は多い。
優良さと弱いところ
堀は浅い。電源ICはデザインインで一度採用されると切り替えにくいが、製品は小さく、顧客も数多くに分かれる。一社に値段を言える立場ではない。同じ領域にはルネサス、ローム、ST、TIなどの大手が並び、台湾・中国勢の追い上げも激しい。
フェニテックの強みは、国内で車載・医療向けに低耐圧MOSFETを造り続けてきた品質にある。ただし6インチ設備が中心で、大口径の最新工場と比べて原価が高く、償却費が年20億円と売上の8%にのぼる。稼働率が落ちるとすぐ赤字になる。2024年3月期の赤字は、この構造から出た。
財務は自己資本比率52%で厚いが、純有利子負債は34億円あり、2期の赤字で自己資本は246億円から188億円に減った。資本の使い方でいえば、今の水準では株主資本利益率が資本コストに届かない。
代表取締役の藤阪氏は4.5%を持つ。ただ、過去の計画達成の実績は乏しく、中計の数字は割り引いて見る必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電源ICの市場は、調査会社により年380〜460億ドルと推計され、年6〜7%の名目成長が見込まれる。物価の分(年3%)を除けば、数量の伸びは年3%台だ。EV化、ロボット、データセンター周辺の電力需要が追い風になる。
競争は厳しい。汎用の降圧型DC/DCやLDOでは、TI、アナログ・デバイセズ、STマイクロ、ルネサスのほか、台湾や中国のメーカーが価格を下げてくる。トレックスは小型・低消費電力の隙間で生き残る立場で、市場の0.2%に満たない。
パワー半導体は、MOSFET市場が2024年に約80億ドル、2030年に100億ドル超という見通しが多い。中国メーカーが低耐圧品で供給を急拡大しており、価格は物価に届きにくい。SiCは車載と産業で伸びるが、設備投資が重い。
足元は2025年3月期を底に増収が続く。2026年3月期は売上が5%増え、会社は2027年3月期に売上280億円(12%増)を予想する。半導体市況の回復が、遅れながらも効き始めた局面である。ただし利益率の上昇は抑えめに見込まれている。
資本政策と M&A
還元の方針は、連結配当性向20%以上と、株主資本配当率(DOE)3%程度の安定配当だ。年配当を据え置いており、2026年3月期の配当性向は51%、来期は42%の予定である。自社株買いは目立った実績がない。
投資は年16〜23億円で、償却の20億円とほぼ釣り合う。2027年3月期の設備投資は16億円に絞る。ベトナム子会社の売却で現金が入り、財務の傷みを和らげる。
株主構成では、カナメ・キャピタルが2024年から買い増し、1割超(直近で10〜11%)を持つ。保有目的に、配当、資本政策、役員構成などの提案を検討中と書いている。提案の中身はまだ明らかでない。株価が簿価に近い小型株であり、還元の拡大や事業の整理といった要請が出る余地は大きい。
kabufuの推計では、10年以内にTOBなど買収の対象になる確率は22%と、高めに出る。時価総額が175億円と小さく、買われやすい条件は揃っている。ただし本分析は、買収の上乗せを価値に入れず、事業そのものの本質価値で測っている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電源ICは、フィジカルAIという新しい需要に乗る。産業用ロボットやヒューマノイドは、1台あたりの電源ICの搭載数が多く、小型で省電力のトレックスの製品が向く。新製品の36V耐圧品は産業機器で好反応を得ており、商談は多数進行中だ。会社はフィジカルAI向けの電源ICを成長の柱に据え、設計の人員と開発費を増やす計画を示している。
フェニテックは、2025年3月期を底に増収が続き、車載向けの発注が増えて鹿児島工場への一部移管が始まった。償却費が2年で2割減り、固定費の重さは和らいでいる。SiCのSBDは量産に入り、MOSFETも開発中で、売上の構成が変わっていく。
ベトナムの後工程を手放し、設計と前工程に集中すれば、利益率は大きく上がる。会社が掲げる2030年度の営業利益45億円(利益率12.5%)は、過去に見せた水準で、無理はない。そこにカナメ・キャピタルが加わり、配当と自社株買い、事業の整理を求めうる。小さな会社が資本効率を意識し始めたことで、割安な評価が改められる展開がありうる。
慎重な見方
利益率12.5%は、過去12年のうち3期しか出ていない山の水準だ。しかも2021年と2022年に出した中計は、どちらも売上と利益の目標を大きく外した。今回の数字に裏づけはない。
足元の営業利益率は4.3%で、来期の会社予想も4.6%にとどまる。2期の赤字を出した会社が、わずか数年で山の利益率に戻るとは考えにくい。
フェニテックの低耐圧MOSFETは、中国メーカーが増産を続ける分野だ。価格は物価に追いつかず、金の値上がりを転嫁しきれていない。電源ICもTIやSTの大手に値段を握られ、市場の0.2%に満たない小さな存在では、価格を決める力が弱い。会社が重点に置くAIインフラやロボットも、大手が総力で取りにいく市場だ。後発の小粒が採用を積み上げる速度は、会社の見立てほど速くない可能性が高い。
株主の動きも、ただちに価値を増やさない。還元を厚くしても、稼ぐ力が上がらなければ、ためた利益を現金で返すだけだ。株価が簿価に近いのも、ROEが資本コストに届かない会社に市場が払う妥当な値段で、割安の証拠にならない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は新製品とカナメの要請という材料を持つが、過去の計画が2度外れ、利益率が山の水準に戻った前例が少ない点で、慎重な見方が重い。確率は中立を最も厚く置いた上で、2期連続の赤字という実績を踏まえ、やや悲観を楽観側より少し厚くした。ただし資本政策が動く可能性があるため、楽観の確率は5%未満にしていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,115 円224 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 616 円65 億円)。 今の値に割り戻すと 1,269 円134 億円、今との差 −20.1%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 9.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,584 円592 億円 | 991 円105 億円 | +314.1% | +15.3% | 526 円56 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,379 円358 億円 | 802 円85 億円 | +163.3% | +10.2% | 920 円97 億円 |
| 中立 | 34% | 2,092 円222 億円 | 642 円68 億円 | +72.2% | +5.6% | 930 円98 億円 |
| やや悲観 | 24% | 625 円66 億円 | 519 円55 億円 | −27.9% | −3.2% | 275 円29 億円 |
| 悲観 | 12% | 532 円56 億円 | 142 円15 億円 | −57.6% | −8.2% | 81 円9 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,115 円224 億円 | 616 円65 億円 | +72.0% | +5.6% | 2,731 円289 億円 |
今の株価時価総額 1,588 円168 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 中計を超え、電源ICとSiCが両輪で育つ 利益 49 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 5,584 円592 億円
フィジカルAI(産業用ロボット・ヒューマノイド)とデータセンター周辺で、トレックスの小型・低消費電力の電源ICが多くの機器に採用される。36V 耐圧の新シリーズなど中高耐圧品が広がり、同社の主戦場である小さな電源ICの市場で、わずかだがシェアが上がる。フェニテックは車載・医療向けの低耐圧MOSFETで稼働率を高く保ち、SiCのSBDとMOSFETが量産に乗って、売上の構成が改善する。ベトナムの後工程を手放して設計と前工程に絞った効果が出て、利益率は過去の山に近づく。株主との対話も進み、配当と自社株買いは利益の3割程度まで厚くなる。10年後の売上は 530 億円前後、営業利益率は 12% 台で、中計が描いた姿をほぼ実現した形になる。
- トレックス(電源IC):数量 640(世界の電源IC市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 38.2%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 244 億円・営業利益 34 億円。電源IC市場 640 億ドル(実質)× シェア 0.19%、営業利益率 14%
- フェニテック(パワー半導体の受託製造):数量 140(世界のパワーディスクリート市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 2.07(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価に届かない時は理由を書く))→ 売上 289 億円・営業利益 32 億円。パワーディスクリート市場 140 億ドル(実質)、価格は物価並み+SiC・車載の構成改善 5%、営業利益率 11%
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 592 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の 2030 年度 360 億・営業利益 45 億を達成した上で、さらに利益率が伸びる必要がある。過去の計画は 2 度続けて大きく未達で、この筋書きの確率は低く置く。ただしカナメ・キャピタルの働きかけで資本政策が動く余地を考え、5% 未満にはしない。
やや楽観 22% 中計の6〜7割の達成にとどまる 利益 33 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 3,379 円358 億円
電源ICは産業機器と医療機器(補聴器)で堅調に伸び、フィジカルAI向けの商談が実を結んで年に 7% 近い成長が続く。フェニテックは車載向けの引き合いが底堅く、岡山と鹿児島の2工場で生産を分け合って稼働率が上がる。ただしSiCの立ち上がりは遅く、中国メーカーの低耐圧MOSFETの値下げで、値上げが原価の上昇に追いつかない年もある。売上は 460 億円前後、営業利益率は 9〜10% と、会社の 2030 年度目標よりは低いが、過去の平均を上回る水準に落ち着く。配当は DOE 3% を守りつつ、株主からの要請で少し厚くなる。
- トレックス(電源IC):数量 585(世界の電源IC市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 35.2%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 206 億円・営業利益 24 億円。電源IC市場 585 億ドル(実質)× シェア 0.175%、営業利益率 11.5%
- フェニテック(パワー半導体の受託製造):数量 128(世界のパワーディスクリート市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 2.01(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価に届かない時は理由を書く))→ 売上 257 億円・営業利益 21 億円。パワーディスクリート市場 128 億ドル(実質)、価格は物価並み+構成改善 2%、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.0 倍。全体の PER 10.98 倍、時価総額 358 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の数値目標は 2 度とも未達だったが、2025/03 期を底に増収が 4 四半期以上続き、フェニテックの黒字化と原価対策も進み始めている。中計の進み具合が計画の 6〜7 割という筋書きは十分ありうるので、中立の次に厚く置く。
中立 34% 売上は伸びるが、利益率は平均止まり 利益 21 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 2,092 円222 億円
電源ICの市場は年 6% ほどで広がるが、トレックスは大手との競争のなかで小型・低消費電力の隙間に残り、シェアはほぼ横ばいになる。フェニテックは低耐圧MOSFETの受託で稼働は保てるが、中国メーカーの供給拡大で価格が物価ほどには上がらず、金やウエハーの原価高を全部は転嫁できない。フェニテックの価格は10年で物価の1.34倍に届かず1.20倍にとどまる、と置いた。そのため売上の伸びは年 4〜5% で、営業利益率は 7% 台にとどまる。償却費は既存設備の分が 20 億円前後で動かず、新規投資は年 16 億円程度に抑える。利益の大半は配当に回り、自己資本の伸びも緩やかで、ROE は 7% 台の低い水準が続く。
- トレックス(電源IC):数量 560(世界の電源IC市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 33.2%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 186 億円・営業利益 17 億円。電源IC市場 560 億ドル(実質)× シェア 0.165%(据え置き)、営業利益率 9%
- フェニテック(パワー半導体の受託製造):数量 122(世界のパワーディスクリート市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 1.76(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価に届かない時は理由を書く))→ 売上 215 億円・営業利益 13 億円。パワーディスクリート市場 122 億ドル(実質)、価格は物価(1.34)に届かず 1.20 倍、営業利益率 6%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 9.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.81 倍、時価総額 222 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 12 年の営業利益率の平均が 6〜8% で、山の 13〜15% は 3 回しか現れていない。中計の 12.5% は山の水準で、達成実績の裏づけがない。中立は平均の少し下に置き、確率を最も厚くした。
やや悲観 24% 中国勢の値下げで、低耐圧が薄利に沈む 利益 10 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 625 円66 億円
中国メーカーの低耐圧パワー半導体の増産で、フェニテックの受託価格は物価どころか横ばいに近い。稼働率を守るために値引きに応じ、営業利益率は 3% に張りつく。トレックスも汎用の降圧DC/DCで大手や台湾勢に押され、新製品の採用は進むが利益率は 6% 止まりになる。ベトナム後工程の売却後は外部の委託先に頼るため、原価と納期の自由度も下がる。売上は 330 億円前後で伸びが鈍く、営業利益は 15 億円に届かない。配当は DOE 3% を守れず、利益に合わせて減る。自己資本はゆっくり目減りし、ROE は資本コストをはるかに下回る。こうして10年たっても、会社は小さな部品メーカーのまま、利益を積み上げられずに終わる。
- トレックス(電源IC):数量 480(世界の電源IC市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 32.2%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 154 億円・営業利益 9 億円。電源IC市場 480 億ドル(実質)× シェア 0.16%、営業利益率 6%
- フェニテック(パワー半導体の受託製造):数量 110(世界のパワーディスクリート市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 1.61(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価に届かない時は理由を書く))→ 売上 178 億円・営業利益 5 億円。パワーディスクリート市場 110 億ドル(実質)、価格 1.10 倍(中国勢の値下げで物価に届かない)、営業利益率 3%
倍率:ROE 4.3% が k 9.25% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k=10.8 倍。利益が景気と為替・金価格で振れ、一過性の益も混ざる質なので、上限の 6.0 割の 6.49 倍に置いた。
確率:2024/03 期・2025/03 期と 2 年続けて営業赤字を出した直近の実績が、この筋書きの現実味を支える。中国勢の低耐圧MOSFET参入は続いており、フェニテックの採算は足元でもまだ 4% 前後に過ぎない。確率は中立に近い厚みで置く。
悲観 12% フェニテックが構造的に赤字、電源ICも薄れる 利益 −8 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 532 円56 億円
中国メーカーのMOSFETとSiCが国内外の顧客を奪い、フェニテックの2工場は稼働率が落ちる。償却費 20 億円は動かないので、売上が減ると赤字が固定化し、鹿児島工場の設備投資は回収できない。新しい世代のSiCも他社に先を越され、車載の主要顧客を失う場面も出る。トレックスの電源ICも、大手と中国勢に挟まれて価格が下がり続ける。会社は投資を止めて配当を絞るが、稼ぐ力はもう残らない。売上は 245 億円前後で営業赤字となり、設備と棚卸資産の整理に入る。優良な事業としての評価は外れ、ここでの価値は事業の売れる資産が決める。
- トレックス(電源IC):数量 400(世界の電源IC市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 28.1%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 113 億円・営業利益 1 億円。電源IC市場 400 億ドル(実質)× シェア 0.14%、営業利益率 1%
- フェニテック(パワー半導体の受託製造):数量 90.0(世界のパワーディスクリート市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 146.8%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価に届かない時は理由を書く))→ 売上 132 億円・営業利益 −5 億円。パワーディスクリート市場 90 億ドル(実質)、価格は 10 年横ばい(値下げが物価分を食う)、営業利益率 -4%
倍率:稼ぐ力は営業赤字で測れない。構造的に負けた10年なので、今の自己資本188億円のうち、売掛金・棚卸資産を7割、工場設備を3割ほどで売れた手取りの税引き後(約56億円)を床に、今の自己資本に0.30倍を掛けた。ためた利益には掛けていない。中立(PER)より低く、やや悲観の稼ぐ力より低い。
確率:2024〜25 年に 2 期連続で営業赤字を出した事実があり、中国の自給率上昇と汎用電源ICの価格下落が重なる筋書きは構造的な負けとして無視できない。ただし自己資本比率が 52% あり、財務が行き詰まる前に事業の入れ替えが入るため、確率は 12% にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
トレックス(電源IC)
ファブレスで設計する小型・省電力の電源IC(DC/DC、LDO)。産業機器・医療機器・車載向け。
| 数量世界の電源IC市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 420 | 24.7% | 104 | 5 |
| 10 年後 中立 | 560 | 33.2% | 186 | 17 |
取り方:電源IC(PMIC)の世界市場は調査会社により380〜460億ドルで、中央の420億ドルを使った。トレックスのセグメント売上103.9億円を1ドル150円で割ると0.69億ドルで、シェアは約0.165%(推定)。営業利益は5.1億円(4.9%)。市場の見通しは名目なので、数量は今の値段の実質に直し、物価はシェア×150円×物価の倍率という価格に入れた。
フェニテック(パワー半導体の受託製造)
岡山・鹿児島の2工場で低耐圧MOSFET、SiC、CMOS ICなどを受託製造。車載・医療・産業向け。
| 数量世界のパワーディスクリート市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価に届かない時は理由を書く) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 146.8% | 147 | 6 |
| 10 年後 中立 | 122 | 1.76 | 215 | 13 |
取り方:パワーMOSFETは2024年に約79億ドル、SiCやダイオードなどを加えたパワーディスクリートで約100億ドルと推定した(出典の推計に幅があり、定義による)。セグメント売上146.8億円は約0.98億ドルで、シェアは約1.0%(受託なので顧客の製品の分母とは厳密には一致しない推定)。営業利益は5.7億円(3.9%)。価格は今後、中国勢の低耐圧MOSFET増産と金などの原価高の転嫁の遅れで、中立でも物価の1.34倍には届かず1.20倍と置いた(物価に届かない理由)。
リスクと懸念
中国勢の増産による価格下落
低耐圧MOSFETや汎用電源ICは中国・台湾メーカーが増産を続けており、フェニテックの受託価格とトレックスの降圧DC/DCの単価は、物価の上昇に届かない恐れがある。稼働率を守るための値引きは、薄い利益率を直撃する。
固定費の重さ(稼働率の赤字転落)
フェニテックの償却費は年20億円で、売上の8%に当たる。2工場の稼働率が数ポイント落ちるだけで営業利益が消え、2024年3月期と2025年3月期のように2期続けて赤字を出す。設備投資の判断が遅れれば回復も遅れる。
中計の未達(過去2回)
2021年と2022年に掲げた中計は、売上・利益ともに大きく外した。今回の2030年度360億円・45億円も、数量の回復と原価対策の両方がそろう前提で、未達の経験からすれば割り引いて見る必要がある。
金など原材料の高騰
電極材料の金の価格が高く、原価を押し上げている。会社は転嫁と使用量の削減を進めるが、価格転嫁は顧客との交渉次第で、遅れる間は利益が削られる。
資本政策の不透明さ(カナメ・キャピタルの提案)
カナメ・キャピタルは1割超を持ち、提案を検討中と開示している。還元の拡大は良い面だが、事業売却や投資の縮小など、方針が急に変わる可能性もある。内容が出るまで判断しにくい。
為替と海外比率
海外売上は7割近い。想定は1ドル155円で、円高になれば売上と利益は減る。2026年3月期の経常利益は為替差益で営業利益を上回っており、本業の力より見かけが良く出ている面がある。
今後の分かれ目
- カナメ・キャピタルが具体的な資本政策(自社株買い、配当の引き上げ、事業整理)を提案し、会社が受け入れたら
- 還元の大きい筋書きに重みを移す。ただし利益が増えない限り、価値は還元の分しか動かない。
- 営業利益率が2期続けて8%を超え、フェニテックの稼働率が回復したら
- やや楽観・楽観の確率を上げ、利益率の前提を引き上げる。
- 中国メーカーの低耐圧MOSFETの値下げが続き、フェニテックの売上が再び減ったら
- やや悲観・悲観の筋書きに重みを移す。
- SiCのMOSFETの量産と、車載での採用が確認されたら
- フェニテックの構成改善が進むとみて、価格の前提を上げる。
- TVS売却後の外部委託が順調に進み、原価率が改善したら
- トレックスの営業利益率の前提を引き上げる。
- 他社が本件の買収に動き、TOBの発表があったら
- 買収価格で価値が決まる局面になる。本分析の値は事業の本質価値なので、乖離を確かめる。
見ておくもの
- フェニテックの稼働率と営業利益率(四半期)
- トレックスの新製品(XC9704/05)の採用社数とフィジカルAI向けの売上
- 金の原価の転嫁状況
- カナメ・キャピタルの大量保有報告書と提案の中身
- TVS譲渡の完了と6億円前後の譲渡益、その後の外部委託先の原価
倍率と資本コストの決め方
数量×価格をセグメントごとに積み上げ、ROEと資本コストから倍率を決めた。中立はROE約7%がk 9.25%を下回るので、PERの上限は1÷k(10.8倍)で、利益の質に応じて7割の7.6倍に置いた。今のPER(約15倍)や、簿価に近いPBRには寄せていない。市場の評価より低く出るが、これは事業の稼ぐ力が資本コストに届かないことの結果だ。悲観の床は、今の自己資本の3割という売れる資産の推定で、過去のPBRの底には依らない。新リース会計の影響は小さい。償却費は既存設備の分が20億円前後で動かず、新規投資分だけが足される前提で利益率を置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.3→12.12 倍・やや楽観 PER 8.79→10.98 倍・中立 PER 7.78→10.81 倍)。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。