結論
TOA はビルや学校、空港に入るスピーカーと放送設備を作り、設計から保守まで引き受ける会社だ。非常用放送は国内シェアが 50% 以上あり、首位にいる。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、割安とは言えないというものだ。国内は堅いが伸びず、伸びる海外は利益率が国内の半分しかない。
足もとは好調だ。2026 年 3 月期は売上 554 億円、営業利益 47 億円で、どちらも過去最高だった。庁舎の新設と価格の改定が国内を押し上げ、東南アジアと中東の大型案件が海外を支えた。
気になるのは資本の使い方だ。2025 年 12 月に自己株を公募で売り、最大 72 億円ほどを集めた。手元の純現金は 258 億円と時価総額の 4 割に近いが、中計の利益目標は小さい。3 年後の営業利益は 51 億円で、今より 4 億円しか増えない。
10 年で見ると、国内が細り海外が育つ中立の筋書きでも、利益は年 4% ほどの増加にとどまる。配当は厚いが、それを足しても期待の年率は 5% ほどで、資本コストの 7.5% には届かない。純現金と国内の固さが下値を支え、本質価値は今の時価総額を 1 割弱下回る程度に収まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、TOA を持ち続けたいかと考える。国内の非常用放送は、法令が守る固い事業だ。10 年後もなくならない。その点は魅力がある。
だが、その固い部分は伸びない。国内の市場は人口とともに細り、会社の中計も国内を 3 年で 1% しか伸ばさない。伸ばすのは海外だが、海外は利益率が低く、競争も厳しい。
資本の使い方に、筆者は慎重だ。純現金が時価総額の 4 割ある。それなのに、2025 年 12 月に自己株を公募で売って資金を集めた。余った現金を株主に戻すのではなく、足りない浮動株を作り、投資に回す姿勢が見える。配当を厚くしても、それは稼ぎの範囲だ。
利益の質は普通だ。営業利益は 47 億円で、過去最高だが、10 年前(42 億円)とほぼ同じ水準にとどまる。ROE は 4〜6% で、資本コストを下回り続けてきた。
安全域はある。純現金のおかげで、悲観の筋書きでも株価の床は高い。ただ、その床は今の値段の 3 割ほどで、上の筋書きの伸びも限られる。
わからない部分は、海外投資の中身だ。成長投資 120 億円と基盤投資 55 億円を使うが、利益の目標は 4 億円の増加にとどまる。この投資が資本コストを超える稼ぎを生むかは、現時点では確かめられない。
何で稼ぐ会社か
TOA の稼ぎ方は、機器を売るだけでは終わらない。放送設備は建物ごとに設計し、据え付けて調整し、その後も保守を請け負う。売上の 83% が音響、13% が映像、4% が鉄道車両向け機器だ。
国内(売上の約 6 割)は官公庁、学校、病院、商業施設が相手になる。非常用放送は消防法令に合わせた設計と機器の選定が要る。TOA は国内の市場の半分以上を押さえる。2026 年 3 月期は庁舎の新設・改修が続き、価格の改定も通って、国内の営業利益率は 16% に上がった。
海外(約 4 割)は 4 つの地域に分かれる。アジア・パシフィックは売上 102 億円で利益率が 17%。インドネシアの庁舎、マレーシアの空港が追い風だった。欧州・中東・アフリカは 77 億円で利益率は 9%。2024 年にオランダの空港放送会社 PA-Vox を子会社にした。米州は 30 億円で利益率が 7%。チェーン店向けの BGM と、カナダの教育施設向けワイヤレスマイクが主力だ。中国・東アジアは 19 億円と小さい。
生産は国内の子会社(滋賀のアコース、佐賀のタケックス)と、ベトナム、インドネシアの工場が分け持つ。研究開発は兵庫県宝塚市の拠点に置く。研究開発費は年 34 億円で、売上の 6% ほどだ。
会社が次に狙うのは「報せるソリューション」だ。マイクやカメラから情報を集め、音と映像と光で届け、保守まで続けて保守収入を増やす。まだ数字の目標は示していない。
優良さと弱いところ
TOA の強みは、国内の非常用放送という狭いが固い市場にある。法令で付ける義務があり、一度入れれば保守と更新が続く。設計と調整の経験がものを言うので、新しい会社が入りにくい。国内の利益率が 16% あるのは、その表れだ。
弱みは海外にある。海外の利益率は欧州・中東・アフリカで 9%、米州で 7%、中国・東アジアで 7% ほどだ。市場が分散していて、ボッシュやハーマンのような大手に囲まれる。TOA が値段を決められる場面は少ない。
財務は強い。自己資本比率は 76%、純現金は 258 億円ある。ただし、その厚みは 2025 年 12 月の自己株の公募処分で増えた分が大きい。調達の目的の一つに、TOPIX の継続採用に必要な浮動株比率の引き上げがあった。株主のための資本政策というより、指数の都合が見える。
資本の効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 4.6% で、資本コストを大きく下回ってきた。会社は ROIC 6.4% を 3 年後に 6.6% へ上げる計画だが、この水準では資本コストには届かない。
経営は配当を厚くする方向だ。2026 年 3 月期から純資産配当率(DOE)5% 以上を基準にした。株主への姿勢は評価できる。ただ、稼ぐ力の改善が伴わなければ、配当は自己資本を取り崩すだけになる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の施設向け放送・音響の市場は、成熟している。人口は減るので、新しい建物は増えない。需要の中心は、庁舎や学校の建て替えと、法令に沿った設備の更新だ。世界のパブリックアドレス(建物の放送設備)の市場も、調査会社の予測では年 2〜4% ほどの伸びにとどまる。日本はそれより低く、1% 台の伸びとされる。
伸びるのは海外だ。東南アジアと南アジアは、庁舎、空港、地下鉄、病院の建設が続く。TOA の 2025 年 3 月期の海外受注は 1,195 億円で、前年度より 56% 増えた(東南アジア・南アジアの大型案件)。中東は建築需要が強く、アフリカでも大型案件が出た。
競争は地域ごとに違う。国内はパナソニックなどと、設計力と保守網で争う。海外は、ボッシュ、ハーマン、バイアンプのような世界大手と、現地の安い機器の両方が相手だ。
技術の変わり目も見ておきたい。放送がネットワークにつながり、音声の処理がソフトに寄る。スピーカー本体より、ネットワーク音響と運用の保守が稼ぎの中心へ移る。「報せるソリューション」は、この流れに乗る狙いだ。ただ、ソフトに強い IT 会社が入りやすくなる面もある。
空港の放送では、PA-Vox が欧州と中東で実績を持つ。空港は一度入れると 10 年以上使われるので、取れれば長く稼げる。
鉄道車両向けの機器は売上の 4% で、車両の更新に合わせて動く。
資本政策と M&A
TOA の資本政策は、この 1 年で大きく動いた。
2025 年 12 月、自己株 400 万株を公募で売り、最大 72 億円ほどを集めた。使い道は商品開発、基幹システムの更新、本社の改修、子会社の借入金の返済だ。浮動株を増やして TOPIX から外れないようにする狙いもあった。発表の直後は、株数が増える分の需給悪化を嫌って株価は下がった。
配当は DOE 5% 以上を基準に、年間の下限を決めた。配当性向 85% との高い方も目安になる。2026 年 3 月期の配当は前の期より増えたが、来期は減配の予想だ。
自社株買いの実績は、近年はほとんどない。政策保有株は縮める方針で、シスメックス、三菱 UFJ、因幡電機産業などを持つ。時価の合計はおよそ 70 億円と見られる。
M&A は 2024 年の PA-Vox の取得が最近の例だ。価額は公表されていない。長期戦略では 2034 年度に売上 1,000 億円超、海外を国内の 2 倍近くに育てる。海外の新拠点は、採算の基準を満たせば別に設ける。買収で規模を買う方向に動く余地は残る。
TOA を買う側の話ばかりではない。時価総額が 600 億円ほどで、純現金が 4 割ある。TOB の対象になる可能性は否定できないが、今のところ具体的な材料は見当たらない。
10年の還元は、自己資本配当率5%以上・配当性向85%の方針どおりで、中立は純利益の合計の約86%に置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
TOA は国内の非常用放送で首位に立つ。法令が需要を作り、設計と保守の経験が参入を阻む。今の国内の営業利益率は 16% で、過去より高い。価格の改定が通った証拠だ。
海外はこれからだ。東南アジアでは庁舎、空港、地下鉄の建設が続く。2025 年 3 月期の海外受注は 56% 増の 1,195 億円で、売上はこれから追いかける。インドネシアとマレーシアの案件は、すでに利益に貢献している。PA-Vox は欧州と中東の空港で実績があり、一度入れれば 10 年以上使われる。
長期戦略は 2034 年度に売上 1,000 億円超を掲げる。海外が国内を大きく上回る構図だ。海外の利益率が国内に近づけば、営業利益は今の 2 倍になりうる。
財務も厚い。純現金が 258 億円あり、配当の下限は DOE で守られている。景気が悪くなっても、会社が傷む心配は小さい。
さらに、自己株の公募で調達した資金は、商品開発と生産の自動化に使う。ここで競争力が上がれば、海外の利益率は想定より早く改善する。
慎重な見方
国内の稼ぎは、これ以上伸びない。会社自身が、3 年後の国内売上の伸びを 1% と置いている。人口が減り、新しい建物は減る。官公庁の庁舎の建て替えは、いずれ一巡する。
海外は売上の 4 割まで来たが、稼ぎの質が低い。欧州・中東・アフリカの利益率は 9%、米州は 7% で、国内の半分だ。ボッシュやハーマンのような世界大手と、現地の安い機器の間に挟まれる。大型案件に頼るので、取りこぼすと固定費だけが残る。
中計の目標も控えめだ。3 年後の営業利益は 51 億円で、今より 4 億円しか増えない。成長投資に 120 億円と基盤投資に 55 億円を使うのに、利益の増え方が小さい。ROIC は 6.6% で、資本コストに届かない。
資本政策にも疑問がある。純現金が時価総額の 4 割あるのに、自己株を公募で売った。浮動株比率を上げて指数に残るためと見える。既存の株主から見れば、株数が増えて 1 株あたりの価値は薄まる。
来期は減配の予想だ。成長投資で ROIC が一時的に下がるとも言っている。ソフトに強い IT 会社が放送の分野に入ってくれば、価格はさらに下がる。
どちらに重みを置いたか
国内の固い事業と、厚い純現金は本物だ。ただ、利益を伸ばす力は弱く、中計の目標も小さい。海外の利益率が国内に近づくかは、まだ確かめられていない。
確率は慎重な見方に少し寄せた。中立を 37% の最大にしつつ、やや悲観と悲観を合わせて 38%、楽観とやや楽観を合わせて 25% とした。悲観の幅が狭いのは、純現金が床を支えるからだ。
利益で測ると、中立の筋書きでも、配当を足した期待の年率は資本コストにわずかに届かない。一方で純現金が下値を支えるので、総合は大きな割高にならず、適正の範囲に収まった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,137 円742 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 983 円341 億円)。 今の値に割り戻すと 1,722 円598 億円、今との差 +0.4%、 期待の年率 +6.2%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,237 円1,471 億円 | 1,383 円480 億円 | +227.9% | +12.6% | 393 円137 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,170 円1,101 億円 | 1,239 円430 億円 | +157.2% | +9.9% | 794 円275 億円 |
| 中立 | 37% | 2,467 円857 億円 | 1,051 円365 億円 | +105.3% | +7.5% | 1,302 円452 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,122 円390 億円 | 864 円300 億円 | +15.9% | +1.5% | 516 円179 億円 |
| 悲観 | 12% | 547 円190 億円 | 412 円143 億円 | −44.0% | −5.6% | 115 円40 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,137 円742 億円 | 983 円341 億円 | +82.0% | +6.2% | 3,120 円1,083 億円 |
今の株価時価総額 1,714 円595 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 海外が長期戦略の筋書きに近づく 利益 78 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 4,237 円1,471 億円
海外が長期戦略の筋書きに近づく。インドネシア、インド、中東で庁舎・空港・地下鉄の大型案件が連続し、アジア・パシフィックのシェアが 1.9% まで上がる。PA-Vox は欧州と中東の空港放送で実績を積み、欧州・中東・アフリカの利益率が 13% に乗る。国内は市場が横ばいで、価格の改定が定着して利益率は 17% に上がる。売上は 10 年で 1,000 億円近くになる。自己株の公募で得た資金が商品開発と生産の自動化に効き、原価率も下がる。会社は配当に自社株買いを加えて、余った現金も戻し始める。ネットワーク音響の運用保守が積み上がり、保守収入が稼ぎの安定装置になる。
- 日本:数量 3,000(国内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 14.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 442 億円・営業利益 75 億円。市場は横ばい、シェア維持。値上げ定着で利益率が上がる
- アジア・パシフィック+中国・東アジア:数量 12,000(域内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 2.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 306 億円・営業利益 52 億円。インドネシア・インドの庁舎や空港が続き、シェアが 1.9% へ
- 欧州・中東・アフリカ+米州:数量 15,000(欧米・中東・アフリカの施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 1.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 251 億円・営業利益 33 億円。空港放送と中東の建築需要を取り、規模で利益率が上がる
倍率:事業の純利益 77 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 17.9 倍、時価総額 1,471 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外が長期戦略(2034 年度に売上 1,000 億円超)に近づく筋書き。営業利益率が 10% を超えるには、欧米の利益率が国内に近づく必要があり、まだ確かめられないので 7% とした。
やや楽観 18% 海外が中計どおり伸びる 利益 62 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 3,170 円1,101 億円
海外の売上が中計どおりに伸びる。アジア・パシフィックは 3 年で 31%、欧州・中東・アフリカは 16%、米州は 15% の伸びが、その後も年 5% 前後で続く。海外の利益率は少しずつ上がり、欧米中東で 12% になる。国内は更新需要が下支えするが、市場は小さく細り、シェアは 1 ポイントに届かない程度に下がる。売上は 900 億円ほどになり、営業利益率は 9.5%。配当は DOE の下限を超えて出し続ける。経営は成長投資を慎重に実行し、大型買収は PA-Vox 級の規模にとどめる。海外の売上は 4 割台後半まで比率が上がり、PA-Vox の統合も進む。ただし海外の競争は厳しく、利益率の上がり方は緩やかで、国内の 16% には届かない。
- 日本:数量 2,949(国内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 14.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 427 億円・営業利益 71 億円。市場はほぼ横ばい、シェアは小幅に低下
- アジア・パシフィック+中国・東アジア:数量 11,400(域内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 2.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 254 億円・営業利益 39 億円。中計の伸び(3 年で 3 割)が続く
- 欧州・中東・アフリカ+米州:数量 14,400(欧米・中東・アフリカの施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 1.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 216 億円・営業利益 26 億円。空港と教育施設で積み上げ、利益率は 12%
倍率:事業の純利益 61 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 16.51 倍、時価総額 1,100 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の売上が中計どおり伸び(アジア・パシフィック 3 年で 31%、欧州・中東・アフリカ 16%、米州 15%)、利益率も少し上がる筋書き。会社の計画に近く、実現しやすいので 18% とした。
中立 37% 国内は堅く、海外が緩やかに育つ 利益 52 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 2,467 円857 億円
国内は堅く、海外が緩やかに育つ。国内の市場は人口とともに 3% ほど細るが、庁舎や学校の更新が下支えし、利益率は 16% を守る。海外は域内の需要が伸びる分だけ売上が増え、現地勢との競争で利益率は今並みにとどまる。欧米中東では PA-Vox の統合が進み、9% から 11% に上がる。売上は 830 億円ほど、営業利益は 74 億円(8.8%)になる。配当は純利益の 85% 前後を出し続け、純現金はほとんど増えない。海外の新拠点や小さな買収に資金を回し、大きな失敗はしない。国内の保守と更新の収入が土台になり、海外は案件ごとの利益で上乗せする。10 年で売上は 1.5 倍、営業利益は 1.6 倍ほどになる。
- 日本:数量 2,910(国内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 14.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 413 億円・営業利益 66 億円。更新需要が下支えするが市場は人口とともに細る
- アジア・パシフィック+中国・東アジア:数量 10,800(域内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 2.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 234 億円・営業利益 35 億円。域内の需要は伸びるが、現地勢との競争で利益率は今並み
- 欧州・中東・アフリカ+米州:数量 13,800(欧米・中東・アフリカの施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 1.3%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 185 億円・営業利益 20 億円。PA-Vox の統合が進み、利益率は 9% から 11% へ
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 14.95 倍、時価総額 856 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内は市場とともに細り、海外は中計よりやや低い伸びで育つ。営業利益率は 8.8%。最も蓋然性が高いので 37%。
やや悲観 26% 海外の投資が重く、国内の需要も細る 利益 31 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,122 円390 億円
海外への投資が重く、国内の需要も細る。官公庁の庁舎の更新が一巡し、国内の市場は 8% 縮む。価格競争も強まり、利益率は 14.5% に下がる。アジアでは中国メーカーの安い機器に押されて値が崩れ、利益率は 12%。欧米中東は大型案件の取りこぼしが続き、固定費だけが残って 8% にとどまる。売上は 700 億円ほどで、営業利益は 43 億円と今を下回る。配当は DOE の下限で守るが、純利益を超える年が出て、自己資本はほとんど増えない。成長投資の一部は回収できず、減損が出る。経営は配当を守ろうとするが、利益が薄くなった分、純現金は少しずつ減っていく。国内が細る速さに海外の成長が追いつかず、会社全体の売上は伸びても利益は今の水準を割る。
- 日本:数量 2,760(国内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 13.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 377 億円・営業利益 55 億円。官公庁の更新が一巡し、価格競争も強まる
- アジア・パシフィック+中国・東アジア:数量 9,600(域内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 1.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 187 億円・営業利益 22 億円。中国勢との競争で値が崩れ、利益率が下がる
- 欧州・中東・アフリカ+米州:数量 12,600(欧米・中東・アフリカの施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 1.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 144 億円・営業利益 12 億円。大型案件の取りこぼしが続き、固定費だけが残る
倍率:事業の ROE は約 6% で資本コストを下回る。ためた利益は額面未満の価値なので PER は 1÷k の 13.3 倍が上限。国内の需要が細り海外の投資が回収できない姿から、その 8 割弱の 10.5 倍に置いた。余った現金は 0.75 倍で足している。
確率:官公庁の更新需要が一巡し、海外の大型案件を取りこぼす筋書き。海外の投資が重い割に利益が付いてこない姿は、中計の小さな利益目標からも十分に起こりうるので 26% とした。
悲観 12% 国内の首位が崩れ、海外は赤字が残る 利益 6 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 547 円190 億円
国内の首位が崩れ、海外は赤字が残る構造的な負けだ。放送がネットワークにつながり、ソフトに強い IT 会社や海外大手が国内の非常用放送にも入ってくる。価格が崩れ、国内の利益率は 9% まで下がる。アジアは安い現地製品に押され、欧米中東は PA-Vox を含めて買収の効果が出ず、損益は均衡まで落ちる。成長投資の多くは回収できず、減損を迫られる。会社は 3 年ほど配当を守ったのち、大きく減らす。それでも純現金と保有株が残るので、会社が傷んで消えるわけではない。株価は稼ぐ力ではなく、現金と売れる資産に支えられる。配当は純利益を超えて払う年が出るので、現金や保有株の売却で賄う。
- 日本:数量 2,550(国内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 12.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 325 億円・営業利益 29 億円。非常用放送の価格が崩れ、数量も減る
- アジア・パシフィック+中国・東アジア:数量 8,000(域内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 1.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 129 億円・営業利益 5 億円。安い現地製品に押される
- 欧州・中東・アフリカ+米州:数量 10,800(欧米・中東・アフリカの施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定))× 価格 0.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 94 億円・営業利益 0 億円。買収の効果が出ず、損益は均衡まで
倍率:純利益が 6 億円と小さく、稼ぐ力(6 億円÷k)は 80 億円ほど。純現金と保有株の税引後を足した売れる資産(約 190 億円)のほうが大きいので、その額を床として置いた。今の自己資本に 0.326 倍を掛けた形で、事業の稼ぎからは説明できない分を現金が支えている。
確率:国内の首位が崩れ、海外の買収も効果が出ない構造的な負け。純現金が床を支えるので、確率は 12% にとどめた。放送のネットワーク化で IT 会社が入りやすくなる点が主な根拠。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本
官公庁・学校・商業施設・オフィス向けの非常用放送、構内放送、会議・音響設備と、鉄道車両向け機器。国内の開発・生産は子会社が担う。
| 数量国内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 10.9% | 326 | 53 |
| 10 年後 中立 | 2,910 | 14.2% | 413 | 66 |
取り方:国内の施設向け放送・音響設備(非常用放送、構内放送、会議・PA)は TOA のほかパナソニック、ヤマハ、オーディオテクニカなどが分け合う。市場規模の開示は無く 3,000 億円と推定、TOA の売上から逆算したシェアは約 11%。非常用放送は国内シェア 50% 以上。数量は今の値段で測った実質、物価 3% は価格(シェア × 物価の倍率)に入れた。
アジア・パシフィック+中国・東アジア
東南アジア・南アジア・豪州・中国・台湾向けの放送・会議・空港や庁舎の音響システム。ベトナムとインドネシアの工場が供給する。
| 数量域内の施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 1.5% | 121 | 19 |
| 10 年後 中立 | 10,800 | 2.2% | 234 | 35 |
取り方:アジア・パシフィック 102 億円と中国・東アジア 19 億円の合計。域内の施設向け放送・音響設備を 8,000 億円と推定し、シェアは約 1.5%(現地の中小・中国メーカーが多く分散した市場)。インドネシアの庁舎・マレーシアの空港など大型案件が伸びを作る。数量は実質、物価は価格に入れた。
欧州・中東・アフリカ+米州
空港・商業施設・教育施設・チェーン店向けの放送・BGM・ワイヤレスマイク。2024 年にオランダの空港放送会社 PA-Vox を傘下に入れた。
| 数量欧米・中東・アフリカの施設向け放送・音響設備市場(実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12,000 | 0.9% | 107 | 9 |
| 10 年後 中立 | 13,800 | 1.3% | 185 | 20 |
取り方:欧州・中東・アフリカ 77 億円と米州 30 億円の合計。ボッシュ、ハーマン、バイアンプなど大手が並ぶ市場を 1 兆 2,000 億円と推定し、TOA のシェアは約 0.9%。まだ小さい分、案件の当たり外れで利益率が振れる(利益率は今 9%)。数量は実質、物価は価格に入れた。
リスクと懸念
国内の稼ぎが伸びない
会社自身が国内売上を 3 年で 1% しか伸ばさない計画だ。人口が減り新築が減る中で、庁舎や学校の更新が一巡すれば、売上の約 6 割・利益の大半を稼ぐ国内がまず細る。価格の改定が続かなければ、国内の利益率 16% も守れない。
海外の稼ぎの質が低い
海外の利益率は欧州・中東・アフリカが 9%、米州が 7%、中国・東アジアが 7% ほどで、国内の半分だ。大型案件に頼るため、一件を取りこぼすと固定費だけが残る。世界大手と現地の安い機器の両方が競争相手になる。
ネットワーク化で参入者が増える
放送や音響がネットワークにつながり、音声処理がソフトに寄る。ソフトに強い IT 会社やクラウド事業者が入れば、機器の価格は下がる。TOA の設計・調整の経験は残るが、保守の稼ぎを守れるかが問われる。
資本政策への信頼
純現金が時価総額の 4 割ある中で、2025 年 12 月に自己株を公募で売り、最大 72 億円ほどを集めた。TOPIX 継続のための浮動株比率の引き上げという目的も語られた。余った資金を戻さず、投資や買収に回す姿勢が続けば、資本効率は低いままになる。
成長投資の回収
3 年で成長投資 120 億円と基盤投資 55 億円を使う計画に対し、営業利益の目標は 51 億円と今より 4 億円しか増えない。ROIC の目標も 6.6% で資本コストに届かない。投資が稼ぎに結びつかなければ、減損が出る。
買収の統合
2024 年に取得した PA-Vox は空港放送に強いが、価額も業績も公表されていない。長期戦略は海外を国内の 2 倍近くに育てるとしており、買収で規模を買えば、統合の失敗やのれんの減損の恐れが出る。
配当の持続
配当は DOE 5% 以上と配当性向 85% の高い方が目安だが、来期は減配の予想だ。成長投資で利益が伸びない中で配当を守り続ければ、自己資本が積み上がらず、将来の投資余力を削る。
今後の分かれ目
- 国内の営業利益率が 17% を超えて定着する
- 価格の改定が競争に勝った結果と読める。国内の稼ぎが想定より強く、やや楽観の筋書きに近づく。
- 欧州・中東・アフリカの営業利益率が 3 年のうちに 12% に乗る
- PA-Vox の統合と空港放送の取り込みが効いている証拠で、海外が国内に近づく楽観側の筋書きの確率が上がる。
- 海外の大型案件で赤字や減損が出る
- 海外の稼ぎの質が低いという見方が裏付けられる。やや悲観の筋書きに近づく。
- 国内の非常用放送に IT 会社や海外大手が本格的に参入し、価格が下がる
- 国内の固い事業が崩れ始める兆しで、悲観の筋書きの確率を上げる必要がある。
- 余った現金で自社株買いを始める
- 資本効率への姿勢が変わったと読め、余った現金の戻り方を 1.0 に近づけて見直す。
- 100 億円を超える大型買収を発表する
- 規模を買う方向への転換で、統合の成否が次の変数になる。価額と買う相手の利益率を確かめてから見直す。
見ておくもの
- 国内・海外の営業利益率(特に欧州・中東・アフリカ)
- アジア・パシフィックの受注残と大型案件の動き
- 中計の ROIC(6.6% の目標)の進捗
- 配当の水準(DOE 5% の基準と配当性向)
- 自社株買い・政策保有株の売却の有無
- PA-Vox の業績と空港放送の受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去の PER・PBR を見ず、事業の ROE・資本コスト 7.5%・長期の成長 4% から計算した正当化 PER を基に決めた。中立は ROE が資本コストを上回るので 1÷k の 13.3 倍を下回らせていない。やや悲観は上限の 1÷k の 8 割弱、悲観は稼ぐ力と売れる資産で置いた。余った現金は戻り方 0.5 で別に足した。同じ領域の会社より中立 PER が高いのは、純現金を別に分けたうえで、国内の非常用放送という利益の質の高い部分を評価したため。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16→17.9 倍・やや楽観 PER 14.8→16.51 倍・中立 PER 13.4→14.95 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足して k とした。純現金で extra は置かない。