結論
不二電機工業は、配電盤や制御盤の中で電線をつなぐ端子台と、回路を切り替えるカムスイッチを作る京都の小さなメーカーだ。売上は 40 億円に届かず、営業利益は 2〜4 億円の間を 10 年以上行き来している。筆者の結論は、今の値段はおおむね妥当からやや高めというものだ。理由は単純で、手元の現金は厚いが、事業そのものが資本コストを稼げていない。
電力会社の変電所、鉄道の車両と変電設備、工場の制御盤が主な行き先だ。どれも一度採用されると長く使われ、品質で選ばれる。だから赤字の年は無く、自己資本比率は 9 割を超える。ただ、市場そのものが国内の更新需要に縛られ、売上は 10 年前とほぼ同じ水準にある。
株価を支えているのは事業より現金だ。現金と預金、債券などを合わせると 40 億円を超え、時価総額の 7 割に近い。配当と自社株買いで利益のほぼ全部を戻しているのは評価できる。しかし積み上がった現金の山そのものを吐き出す気配は無く、創業家と奨学財団が大株主として残る。現金の価値を満額では数えにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社は「良い小さな事業」と「眠っている現金」の 2 つに分けて考えるべきだ。事業は堅いが、資本コストを稼ぐほど儲からない。毎年の利益はほぼ全部が配当と自社株買いで戻ってくるので、株主のものになる利益は会計上の利益に近い。そこは素直に評価できる。
ただ、利益の水準が低すぎる。現金を除いた事業の稼ぎは年 2 億円前後で、今の値段から現金を引いた残りの価値に見合うかは微妙だ。10 年たっても売上は 50 億円前後にとどまるとみる。
現金は確かに安全域になる。だが少数株主には、その使い道を決める力が無い。過去 10 年、自己資本は 100 億円前後で動かず、現金は配られも使われもしなかった。筆者は現金を満額で数えず、4 分の 3 で見る。そうすると今の値段に大きな割安は残らない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、電気の通り道をつなぐ小さな部品だ。売上の 45% を占める接続機器は、端子台・高耐圧端子台・コネクタ・大電流接触子で、配電盤や制御盤の中で電線を束ねる。27% の制御用開閉器は、カムスイッチや補助スイッチ、鉄道車両用のスイッチだ。残りは LED 表示灯と、警報を知らせるアナンシェータリレーなどの電子応用機器である。
買い手は重電メーカーと盤メーカーで、その先に電力会社の変電所、鉄道会社、一般の工場がいる。売上の 1 割を超える取引先は無く、海外は商社経由で 1 割ほど。従業員は 114 人で、金型を自社で起こして多品種を少量ずつ作る。年 2 億円前後の設備投資の半分近くが金型だ。
強みは、電力や鉄道の現場で求められる信頼性と、細かい仕様への対応力にある。変電所の盤は 30〜40 年使われ、部品の型式が図面に書き込まれると簡単には替わらない。弱みは規模だ。売上 40 億円の会社が研究開発と営業に割ける人手は限られ、IDEC やオムロン、春日電機のような同業と正面から量で戦う力は無い。
会社は 2033 年 1 月期に売上 50 億円という目標を掲げる。変電所のデジタル化に合わせた通信対応の端子台、アルミ電線に対応した端子台、配線の手間を減らす製品が柱だ。ただ前の計画では売上目標を 45 億円から 40 億円へ下げた経緯があり、筆者は目標をそのまま信じていない。
優良さと弱いところ
優良さは「壊れない部品を、決まった顧客に、長く納める」ところにある。赤字の期が過去 20 年で 1 度も無いのはその証拠だ。電力・鉄道向けは認定と実績がものを言い、新しい会社が値段だけで入り込むのは難しい。
一方で、値段を自分で決める力は強くない。買い手は三菱電機や東芝、日立のような大手の重電メーカーで、部品の 1 つにすぎない端子台に大きな上乗せは通らない。営業利益率は 1990 年代の 25% 台から、ここ 10 年は 6〜11% に下がった。材料と人件費の上昇を値上げで追いかけているのが実情だ。
資本の効率は低い。ROE は 2〜4% で、資本コストの半分にも届かない。原因の大半は使われていない現金だが、現金を除いた事業だけで見ても ROE は 4〜5% にとどまる。経営は配当性向 50% を掲げ、実際には 7 割を配り、自社株買いと消却も続ける。利益を溜め込まない姿勢は良い。足りないのは、溜まった山を軽くする決断だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の市場は、新設より更新で回る。配電盤や制御盤は 30 年を超えて使われ、高度成長期からバブル期に建った変電所や工場の設備が、いま順に入れ替わっている。電力会社は送配電網の強化に投資を増やしており、2020 年代後半は更新の波がやや高い。
数量の伸びは小さい。国内の設備の数はほとんど増えず、人口が減る中で工場の新設も限られる。伸びしろはデータセンターと半導体工場の受電設備、鉄道の車両更新、そしてアジアの盤メーカーへの輸出だ。筆者は 10 年で接続機器の数量が 1 割ほど増え、開閉器や表示灯は横ばいと見る。
技術の変化は脅威でもある。変電所のデジタル化が進むと、電線をつなぐ端子台の一部は光ファイバーと通信に置き換わる。会社は通信規格 IEC61850 に対応した伝送端子台で先回りしているが、置き換わる部品の数の方が多い可能性はある。
競争は国内の中堅どうしで、IDEC、春日電機、東洋技研、オムロンなどが並ぶ。海外の安い端子台も入ってくるが、電力・鉄道の仕様書に載るまでの壁が高い。景気の谷では工場向けが落ちるが、電力・鉄道向けは落ちにくい。2009 年 1 月期でも営業利益率は 17% を保った。
資本政策と M&A
還元の姿勢ははっきりしている。配当性向 50% を目標にしながら、利益が伸びない年も配当の額を据え置き、2026 年 1 月期の配当性向は 72% だった。同じ期に 1.8 億円の自社株買いを行い、取得した株の一部を消却した。配当と自社株買いを合わせると、純利益の 1.5 倍を戻した計算になる。
それでも現金と預金は 38 億円、債券などの有価証券は 17 億円残る。このうち 11 億円ほどは取引先などの上場株 16 銘柄で、配当は利益に入っている。株主名簿の上位には奨学財団と創業家の藤本氏が並び、合わせて 2 割強を持つ。外からの買収は起きにくく、現金の山が一度に配られる見込みも小さい。
自分から買う側に回る M&A の実績はほとんど無い。手元の現金で同業の小さな会社を買えば数量を伸ばせるが、その気配は今のところ見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方はこうだ。時価総額 56 億円に対して、借金を引いた現金と有価証券が 50 億円を超える。事業はほぼただで手に入る計算で、その事業は 20 年赤字を出していない。下値は現金が守ってくれる。
事業にも追い風がある。送配電網の更新、データセンターと半導体工場の受電設備、鉄道の車両更新が重なり、会社は 2027 年 1 月期に売上 12% 増を見込む。変電所のデジタル化に合わせた通信対応の端子台は、置き換わる側でなく置き換える側に回る製品だ。売上 50 億円、営業利益率 10% に届けば、利益は今の 2 倍になる。
還元も厚い。配当性向は 7 割を超え、自社株買いと消却も続ける。東証の資本効率の要請が強まれば、現金の一部を特別配当や大きな自社株買いで返す決断も十分ありうる。そうなれば株価は現金の価値に近づく。小さな会社なので、同業や商社が現金ごと買いに来る可能性も残る。その時の買値は、少なくとも現金の額を下回らないはずだ。
慎重な見方
慎重な見方はこう突く。現金が厚いのは 20 年前から同じで、その間に株主へ一度に返されたことは無い。財団と創業家が大株主に残り、外から変える力も働かない。使われない現金は、帳簿の額ほどの価値を持たない。
事業も伸びていない。売上は 2015 年 1 月期の 38 億円から 2026 年 1 月期の 38 億円まで、11 年でまったく増えていない。前の中期計画の売上目標は途中で 45 億円から 40 億円に下げられた。物価が年 3% で上がる中で売上が横ばいなら、実質の数量は縮んでいる。
利益率も削られている。1990 年代に 25% あった営業利益率は 6% 台まで落ちた。買い手は大手の重電メーカーで、値上げの交渉力は弱い。変電所のデジタル化が進めば、電線をつなぐ部品の数そのものが減る。人手の限られた小さな会社が、その変化に合わせて製品を作り替え続けられるかは心もとない。現金が厚いことは倒れない理由にはなるが、稼ぐ理由にはならない。
どちらに重みを置いたか
事実に強く支えられているのは慎重な見方だ。売上が 11 年横ばいという実績は、追い風の話より重い。一方で、現金の厚さと 20 年赤字なしという守りの強さは本物で、極端な悲観も当たらない。確率は中立を厚くし、悲観と楽観をそれぞれ 1 割に置いた。現金は戻り方 0.75 で数え、還元の実績と大株主の構成の両方を映した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 1,168 円61 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 469 円24 億円)。 今の値に割り戻すと 861 円45 億円、今との差 −20.3%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,713 円89 億円 | 633 円33 億円 | +117.2% | +8.1% | 235 円12 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,469 円76 億円 | 550 円29 億円 | +87.0% | +6.5% | 444 円23 億円 |
| 中立 | 38% | 1,276 円66 億円 | 485 円25 億円 | +63.1% | +5.0% | 669 円35 億円 |
| やや悲観 | 20% | 695 円36 億円 | 406 円21 億円 | +1.9% | +0.2% | 220 円11 億円 |
| 悲観 | 10% | 500 円26 億円 | 192 円10 億円 | −35.8% | −4.3% | 69 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,168 円61 億円 | 469 円24 億円 | +51.6% | +4.3% | 1,638 円85 億円 |
今の株価時価総額 1,080 円56 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 更新の波と海外で売上 60 億円台へ 利益 5 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,713 円89 億円
送配電網の更新が 2030 年代前半まで続き、データセンターと半導体工場の受電設備が端子台の数量を押し上げる。通信対応の伝送端子台が変電所のデジタル化の標準品として採用され、置き換わる側から置き換える側に回る。アジアの盤メーカー向けの輸出も 2 割近くまで育ち、接続機器の出荷は 10 年で 3 割強増える。値上げも物価並み以上に通り、営業利益率は 10% に戻る。手元の現金は配当と自社株買いで少しずつ減らし、ROE はようやく 5% 台に乗る。それでも資本コストには届かず、倍率は大きく上がらない。
- 接続機器(端子台・コネクタ):数量 193(出荷個数(万個・年、推定))× 価格 1,680(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 4 億円。出荷 1.35 倍 × 単価 1.40 倍、利益率 12%
- 制御用開閉器・表示灯・電子応用機器:数量 79.0(出荷台数(万台・年、推定))× 価格 4,080(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 3 億円。出荷 1.15 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 8%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)28 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 89 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:売上は 11 年横ばいで、会社の目標も一度下げている。データセンター・送配電・海外が同時に効く必要があり、確率は 1 割にとどめる。
やや楽観 22% 計画どおり売上 50 億円台に乗る 利益 4 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,469 円76 億円
会社の長期目標に近い形で売上が 50 億円台に乗る。変電所と鉄道の更新が続き、接続機器の出荷は 10 年で 2 割増える。開閉器と表示灯は鉄道車両向けが下支えし、数量は 1 割弱の伸び。値上げは物価並みに通り、金型の自社化と省人化で営業利益率は 8% 台半ばまで戻る。還元は今の水準を保ち、現金はほぼ同じ額で残る。資本の効率は少し上がるが、事業の ROE は 5% 前後で資本コストの下にとどまる。小さな会社のまま、堅く稼いで堅く配る姿が 10 年続く形で、株主にとっての上積みは利益の伸びの分だけになる。
- 接続機器(端子台・コネクタ):数量 172(出荷個数(万個・年、推定))× 価格 1,644(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 3 億円。出荷 1.20 倍 × 単価 1.37 倍、利益率 10.5%
- 制御用開閉器・表示灯・電子応用機器:数量 73.5(出荷台数(万台・年、推定))× 価格 4,050(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。出荷 1.07 倍 × 単価 1.35 倍、利益率 7%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)28 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 76 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の長期目標(2033 年 1 月期に売上 50 億円)に近い筋で、送配電の更新という足元の追い風が裏づける。前の計画を下方修正した実績を踏まえ 2 割強。
中立 38% 数量はほぼ横ばい、値上げで名目だけ伸びる 利益 4 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,276 円66 億円
更新の波は続くが、変電所のデジタル化で 1 か所あたりの端子台の数は減り、差し引きで接続機器の出荷は 10 年で 1 割増にとどまる。開閉器と表示灯は横ばい。値上げは物価並みに通るので、売上は名目で 53 億円前後になる。人件費と材料の上昇を値上げで追いかける形は変わらず、営業利益率は 7% 台半ば。現金の利息が年 1 億円近く入るので、純利益は営業利益に近い水準になる。還元は利益の 8 割台を続け、現金の山は動かない。事業は資本コストを稼げないまま続き、価値の半分近くを現金が占める姿も変わらない。買収も大きな還元も起きない、いちばん平凡な 10 年だ。
- 接続機器(端子台・コネクタ):数量 157(出荷個数(万個・年、推定))× 価格 1,608(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 2 億円。出荷 1.10 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 9%
- 制御用開閉器・表示灯・電子応用機器:数量 68.7(出荷台数(万台・年、推定))× 価格 4,020(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 2 億円。出荷横ばい × 単価 1.34 倍、利益率 6%
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)28 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 66 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 11 年の売上横ばいと、足元の更新の追い風を両方映した中心の筋。どちらの言い分にも傾けず 4 割弱。
やや悲観 20% 値上げが半分しか通らず利益が細る 利益 2 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 695 円36 億円
大手重電メーカーへの値上げが物価の半分ほどしか通らず、工場向けでは海外製や大手 FA 部品メーカーに数量を削られる。接続機器の出荷は 1 割近く減り、開閉器も 1 割減る。売上は名目で 43 億円前後と、物価を差し引けば 2 割縮む。固定費は減らず、営業利益率は 4% 台に落ちる。それでも配当の額は守ろうとし、利益を上回る還元で現金が少しずつ減る。新製品の比率は計画の 6.5% に届かず、変電所のデジタル化にも後手に回る。赤字には落ちないが、稼ぐ力は今より一段細い会社になる。現金の山は配当の穴埋めで少しずつ削られ、株主に戻る額も細っていく。
- 接続機器(端子台・コネクタ):数量 132(出荷個数(万個・年、推定))× 価格 1,500(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。出荷 0.92 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 6%
- 制御用開閉器・表示灯・電子応用機器:数量 61.8(出荷台数(万台・年、推定))× 価格 3,660(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。出荷 0.90 倍 × 単価 1.22 倍、利益率 3.5%
倍率:事業の ROE 2.2%(事業の純利益÷現金を除いた自己資本)が k 8.00% に届かないので、ためた利益は額面未満の価値しか持たず PER の上限は 1÷k=12.5 倍。やや悲観は利益の伸びが無く質も落ちるので、上限の 70% の 8.8 倍。余った現金 28.5 億円は利息分(1.4%)を純利益から外し、戻り方 0.75 を掛けて足す
確率:値上げの交渉力が弱いことと、売上が実質で縮んできた実績から 2 割。営業利益率が 6% 台まで落ちた足元がこの筋に近い。
悲観 10% デジタル化で端子台の数が減り、事業がほぼ稼げなくなる 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 500 円26 億円
変電所の保護・制御が通信で結ばれる形に一気に移り、電線をつなぐ端子台の需要が大きく減る。通信対応の製品は大手の電機メーカーが自前で抱え、この会社には回ってこない。工場向けは安い海外製に置き換わり、出荷は 10 年で 3 割減る。値上げは通らず、営業利益はほぼゼロになる。配当は減らしながら続けるが、現金は少しずつ取り崩される。創業家と財団が残るので事業を売る決断も遅れ、現金は帳簿ほどの価値を持たない。政策保有の上場株も手放されず、事業を支える役目のまま残る。株主に残るのは、取り崩されながら眠る現金の一部だけになる。
- 接続機器(端子台・コネクタ):数量 100(出荷個数(万個・年、推定))× 価格 1,380(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 0 億円。出荷 0.70 倍 × 単価 1.15 倍、利益率 0%
- 制御用開閉器・表示灯・電子応用機器:数量 48.1(出荷台数(万台・年、推定))× 価格 3,360(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 16 億円・営業利益 0 億円。出荷 0.70 倍 × 単価 1.12 倍、利益率 −1%
倍率:事業はほぼ稼がず、稼ぐ力では測れない。価値は床の資産 26 億円で決まり、今の自己資本 104 億円に対して 0.25 倍。
確率:20 年赤字なしの守りは強いが、変電所のデジタル化という構造の変化は現実に進んでいる。両方を踏まえ 1 割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
接続機器(端子台・コネクタ)
配電盤・制御盤の中で電線をつなぐ端子台、高耐圧端子台、コネクタ、大電流接触子。売上の 45%。
| 数量出荷個数(万個・年、推定) | 価格1 個あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 143 | 1,200 | 17 | 1 |
| 10 年後 中立 | 157 | 1,608 | 25 | 2 |
取り方:有報の製品別の構成比 45.4% を売上 37.8 億円に掛けた 17.2 億円を、端子台の平均単価を 1 個あたり 1.2 千と推定して約 143 万個に割った(個数は開示なし・推定)。営業利益は全社 2.48 億円を利益率 8% と推定して配分。
制御用開閉器・表示灯・電子応用機器
カムスイッチ・補助スイッチ・鉄道車両用スイッチ、LED 表示灯、アナンシェータリレーなど。売上の 55%。
| 数量出荷台数(万台・年、推定) | 価格1 台あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 68.7 | 3,000 | 21 | 1 |
| 10 年後 中立 | 68.7 | 4,020 | 28 | 2 |
取り方:制御用開閉器 27.3%・表示灯 12.4%・電子応用 13.9% などの合計 54.6% を売上に掛けた 20.6 億円を、平均単価を 1 台あたり 3 千と推定して約 69 万台に割った(台数は開示なし・推定)。営業利益は残りの 1.11 億円(利益率 5.4%)。
リスクと懸念
変電所のデジタル化で部品の数が減る
変電所の保護・制御は、電線を何百本も盤に引き込む形から、光ファイバーと通信でつなぐ形へ移っている。会社は通信規格に対応した伝送端子台を出しているが、1 つの変電所で使う端子台の個数は減る。更新の波が来ても、数量が以前ほど増えない恐れがある。
大手重電メーカーへの値上げが通らない
買い手は重電メーカーや盤メーカーで、端子台は部品の 1 つにすぎない。材料の銅や樹脂、人件費が年 3% で上がる中、値上げが半分しか通らなければ、営業利益率は 10 年で数ポイント削られる。利益の小さな会社には、その差がそのまま効く。
現金が株主に戻らない
現金と有価証券は時価総額の 8 割を超えるが、財団と創業家が大株主に残り、山そのものを返す動きは無い。利益分の還元は続いても、現金が 10 年眠り続ければ、その価値は帳簿の額を下回る。
小さな会社の人と技術の継承
従業員は 114 人で、平均勤続は 20 年近い。熟練の金型技術と、電力・鉄道の仕様に通じた技術者の世代交代がうまくいかなければ、多品種の少量生産という強みが崩れる。採用の競争も、地方の小さな会社ほど厳しい。
海外の安い部品と同業の攻勢
一般の工場向けの端子台は、海外製や大手の FA 部品メーカーとの価格競争にさらされる。電力・鉄道の仕様書という壁が低い分野から順にシェアを削られると、工場の生産量が減って固定費が重くなる。
今後の分かれ目
- 大きな特別配当や、現金の半分を超える自社株買いを打ち出したら
- 現金の戻り方を 1.0 に上げてよい。その分だけ価値は時価総額の 1 割ほど上がる。
- 売上が 45 億円を超え、営業利益率が 9% 台に乗ったら
- 中期計画が数字で進んでいる証拠で、やや楽観の筋書きに重みを移す。
- 変電所向けで通信対応の端子台の受注が増え、従来品の減りを上回ったら
- デジタル化を脅威でなく追い風にできた形で、悲観の確率を下げてよい。
- 売上が物価を下回る伸びのまま、営業利益率が 5% を割ったら
- 実質の数量が縮み、値上げも通っていない。やや悲観の筋書きに近づいたと見る。
- 同業の買収や事業の売却など、現金を使う大きな動きが出たら
- 買う値段と相手の稼ぐ力を見て、現金の価値を数え直す。高値で買えば悲観に寄せる。
見ておくもの
- 製品別の売上(接続機器・制御用開閉器)と、電力・鉄道向けの受注
- 営業利益率と値上げの浸透
- 配当性向・自社株買いの額と、現金及び預金の残高
- 大株主(奨学財団・創業家)の持株の変化
- 中期経営計画「新 STEP50」の売上 50 億円への進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の ROE が k 8.0% に届かないので PER の上限を 1÷k とし、その 7〜9 割に置いた。今の PBR 0.5 倍台や過去の PBR の底は使っていない。現金は政策保有株を除いた現金・預金と債券から運転に要る分と借入を引いた 38 億円を余りとし、戻り方 0.75 で足した。政策保有株 11 億円は配当を利益に残すので足さず、悲観の床にだけ入れた。今の株価が倍でも半分でも、価値の数字は動かない作りにしてある。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.25→12.5 倍・やや楽観 PER 11→12.5 倍・中立 PER 10.62→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。