結論
アイホンは、インターホン一筋の専業メーカーだ。マンションの玄関で呼び出しを受ける機械から、病院のナースコールまでを作る。国内の売上シェアは約6割で、首位を譲ったことがない。
筆者の結論は「ほぼ適正」だ。強みは二つある。国内の堀と、時価総額の半分に当たる純現金だ。弱みも二つある。利益率が薄いことと、その現金が株主に戻ってこないことだ。
2026年3月期は売上630億円、営業利益28億円だった。営業利益は前の期から4分の1減った。北米では関税を警戒した代理店が在庫を絞り、国内では開発費と部品高が重なった。会社は今期、営業利益を40億円まで戻す計画だ。
10年先の中立は、売上870億円、営業利益62億円とみる。国内の量は横ばいで、値段は物価並みに上がり、北米が伸びる。それでも自己資本700億円に対して利益が薄く、ROEは6%前後にとどまる。資本コストに届かないので、利益に高い倍率は付けられない。
安全域は厚くない。純現金が下を支えるが、決め手は経営が現金をどう使うかだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、アイホンは「いい事業だが、いい投資先とまでは言い切れない会社」だ。
事業の質は悪くない。玄関の呼び出し機は10年先も要る。国内で6割のシェアを持ち、更新工事での指名も効く。予測しやすい事業という最初の関門は通る。
だが、オーナーの目で見ると、稼いだ利益が事業の中で働いていない。自己資本700億円のうち、純現金が228億円ある。それでも事業のROEは5%前後で、資本コストの7.5%に届かない。ためた利益が、額面ほどの価値を生んでいない。
鍵は経営の資本配分だ。現金が自社株買いや大幅な増配に向かえば、価値は上がる。M&Aに回すなら、これまでの小粒な買収にとどめてほしい。大型の買収で現金を失う展開が、いちばん怖い。
安全域は、純現金と国内の堀が与えてくれる。ただ、払う値段に十分な余白があるとまでは言えない。筆者は、現金が戻る確証が増えるまで、確信度を中くらいにとどめる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は、インターホンの機器を作って売り、設置と保守で長く付き合うことだ。
売り先は四つある。いちばん大きいのは集合住宅で、玄関のオートロックと各戸の室内機を一式にして、建設会社や管理会社を通して納める。次が戸建住宅向けのテレビドアホン。三つ目が病院・介護施設のナースコール。四つ目がオフィスや学校などの業務用だ。
国内は連結売上のおよそ4分の3を占める。インターホン工業会の統計では国内の売上シェアは約6割で、集合住宅の更新に特に強い。年間に約1万5,000棟、40万〜50万世帯へ納めているという。
海外は売上の4分の1で、その大半が北米だ。北米は業務用・施設用が中心で、競い合う相手はインターホン専業ではなく、防犯カメラやアクセス管理の会社である。欧州はフランスを拠点に、現地の専業や中国勢と競り合う。アジアはシンガポールを拠点に、ナースコールなどのシステム商品を広げている。
工場は日本のほか、タイとベトナムにある。原価はバーツやドルの動きに敏感だが、この分析では為替を動かさない。
保守などの継続収入は、全売上の1%強にすぎない。売って終わりの色が濃く、ストック型の会社ではない。
優良さと弱いところ
優良さの核は、屋外に置く機械ゆえの信頼と、更新工事での指名買いだ。玄関の呼び出し機は、雨風に十数年向き合う。壊れれば住民の暮らしに響く。管理会社は安さより実績を選び、全国で修理に応じる体制も新規参入の壁になる。
国内の首位は揺らいでいない。2位のパナソニックは量販店経由の戸建に強く、集合住宅では棲み分けている。2022年から値上げを重ねても需要は崩れなかったので、値決めの力はある程度ある。
弱点は資本効率だ。ROEは過去10年の中央値で5%、2026年3月期は3.5%にとどまった。自己資本比率は88%に達し、使い切れない現金が積み上がっている。営業利益率も、最高だった2022年3月期の10.7%から4.5%まで落ちた。
開発費の重さも気になる。外注費が膨らみ、研究開発費は高止まりしている。ソフト会社を3社買ってきたのは内製力を高める狙いだが、成果が利益率に出るかは見えない。
筆者は、堀はあるが、堀の内側の稼ぎが薄いと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の市場は、新築が細り、更新が太る入れ替わりの途中にある。
新築マンションの供給は、2030年度に60万戸台まで落ちるとの見方がある。2026年4〜6月期も、新築向けは着工減で大きく落ち込み、日本の営業損益は赤字になった。一方で、築年の進んだ集合住宅の更新は増える。会社は、向こう10年ほど更新が伸びるとみている。人口は減るので、長い目では慎重だ。
市場の大きさは、工業会の統計で輸出を含む出荷額が2025年度も1,000億円を超える見通しだ。国内向けはその8割ほどと筆者は推計する。
追い風もある。防犯への関心が高まり、戸建では配線の要らないワイヤレス型への更新が好調だ。集合住宅では、置き配に対応する新機能「Pabbit」が、オートロックの建物に入り込む手がかりになった。
北米は、関税で代理店が在庫を絞り、2026年3月期は現地通貨で18%減った。ただ2026年4〜6月期は売上が戻り、関税の還付も出ている。欧州は住宅不況と、現地の専業・中国勢の安値で苦戦する。アジアは中国の不動産不況が重いが、東南アジアでナースコールの受注が出てきた。
国内は2強の棲み分けで、海外は防犯カメラやクラウド型に市場の端から削られる形だ。分かれ目は、スマホで玄関に応じる仕組みを、自社の製品で取り込めるかにある。
資本政策と M&A
資本政策は、守りが厚く、攻めが薄い。
配当は、連結配当性向35%を目途とし、基本配当を設ける方針だ。ただ第8次中期計画の間は配当を引き上げ、総額で毎年約21億円を払っている。2026年3月期の配当性向は6〜9割で、方針よりかなり手厚い。中期計画の3期累計で、15億円ほどの追加還元も約束した。自社株買いは同期には実施しておらず、発行済株式の7%強を自己株として持つ。
純現金は228億円で、時価総額の半分に当たる。会社自身がPBR1倍割れを課題と認め、資本コストの開示を検討すると述べた。だが第9次中期計画は、中東情勢を理由に公表を延ばしている。新しい還元の目標はまだ出ていない。
M&Aは小粒だ。2021年にソフトウェア札幌、2023年にテシオテクノロジ、2024年に日本マイクロリンクを子会社にした。いずれも開発力の補強で、金額は非公表。大型の買収で現金を使う気配はない。
筆頭株主は会長の市川周作氏で、資産管理会社の分を含め11.7%を持つ。政策保有株は20銘柄まで減らしてきた。当サイトの参考値では、10年以内のTOBの確率は2割ほどある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の更新需要は、これからの10年がいちばん太い。築年の進んだ集合住宅が増え、年間1万5,000棟の納入実績を持つアイホンは指名を受けやすい。2022年から続けた値上げでも需要は崩れなかったので、価格を決める力は証明済みだ。開発費と部品高で落ちた国内の利益率は、価格改定の効果が下期に出れば戻る。
北米の落ち込みは一時のものだ。関税への不安で代理店が在庫を絞った反動で、2026年4〜6月期には売上が16%伸びた。開発人員を増やし、中南米にも販売網を広げている。市場に対するシェアはまだ2%台で、伸びしろは大きい。
財務は鉄壁だ。純現金228億円と自己資本比率88%があり、会社自身がPBR1倍割れを課題としている。次の中期計画で還元の目標を明確にすれば、資本効率は上向く。2032年にROE10%以上という長期目標もある。営業利益率が2022年3月期の10.7%に近づけば、利益は今の3倍を超える。
慎重な見方
利益が戻る前提が、そもそも甘い。営業利益率は2022年3月期の10.7%から、4年で4.5%まで落ちた。第8次中期計画の目標も、為替と開発費と賃上げを理由に自ら引き下げた。次の中期計画は、中東情勢を理由に公表を延ばしている。
国内は、新築が細る。2026年4〜6月期の日本セグメントは営業赤字だった。更新が伸びても、新築の減少と開発費の重さを埋めるには足りない。
北米の足元の利益は、関税の還付という一度きりの要因で膨らんだ数字で、実力ではない。そもそも北米の競争相手は、防犯カメラやクラウド型の玄関機器を持つ会社だ。インターホン専業の強みが通じにくい。欧州は中国勢の安値に押されて売上が減った。
現金は積み上がるだけで、株主に戻らない。創業家系の会長が筆頭株主で、PBR1倍割れが課題と言われ続けてきた。自己資本の3分の1が現金なのに、ROEは3.5%だ。資本コストを稼げない事業に、高い倍率は付かない。
スマホで玄関に応じる仕組みが広がれば、専用の室内機の需要そのものが細る。10年の間に、価格競争へ引きずり込まれる危うさがある。
どちらに重みを置いたか
国内の堀は本物で、純現金も下を支える。この二点で、悲観の確率は12%にとどめた。一方で、利益率は戻るとしても過去の山を超えず、現金が株主に戻る確証も薄い。そこで楽観は8%と低く置き、慎重な見方にやや寄せた。
結果として、事業の価値と現金を足した本質価値は、今の時価総額とほぼ同じになった。PBRが低いことは割安の根拠にならない。ROEが資本コストに届かないからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,203 円688 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,463 円240 億円)。 今の値に割り戻すと 3,180 円521 億円、今との差 +16.6%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,065 円1,321 億円 | 2,076 円340 億円 | +271.9% | +14.0% | 811 円133 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,211 円1,017 億円 | 1,832 円300 億円 | +194.9% | +11.4% | 1,609 円263 億円 |
| 中立 | 36% | 4,679 円766 億円 | 1,527 円250 億円 | +127.5% | +8.6% | 2,234 円366 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,255 円369 億円 | 1,160 円190 億円 | +25.2% | +2.3% | 820 円134 億円 |
| 悲観 | 12% | 748 円123 億円 | 855 円140 億円 | −41.2% | −5.2% | 192 円32 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,203 円688 億円 | 1,463 円240 億円 | +107.8% | +7.6% | 5,666 円928 億円 |
今の株価時価総額 2,727 円447 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 更新と北米が重なり、利益率が過去の山に近づく 利益 76 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 8,065 円1,321 億円
更新の波と値上げが重なり、国内の利益率が過去の山に近づく。集合住宅の築年が進み、年間の納入棟数が増える。2022年から続けた価格改定が定着し、置き配のPabbitなど付加価値の高い製品が単価を押し上げる。国内の営業利益率は9%まで戻る。
北米は代理店の在庫調整が終わり、開発人員を増やした効果が出る。業務用で防犯カメラとつながる製品が受け入れられ、シェアは3%に届く。中南米にも販路が広がる。
欧州はフランス子会社の機能強化が実り、東南アジアではナースコールなどのシステム商品が伸びる。全社の営業利益率は10%に近づくが、2022年3月期の山は超えない。
経営は新しい中期計画でROEの目標と還元の枠を明確にする。大型の自社株買いで現金の一部が戻り、配当も上がる。
- 国内インターホン:数量 820(国内インターホン市場(今の値段で測った実質・億円)× シェア)× 価格 81.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 665 億円・営業利益 60 億円。更新と値上げが定着(市場820億円×シェア60.5%)
- 北米:数量 5,300(北米の業務用インターホン・ドアエントリー市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 4.0%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 213 億円・営業利益 26 億円。業務用でシェア3%へ(市場5,300億円×3.0%)
- 欧州・アジア・その他:数量 7,200(欧州・アジア(中国を除く)のインターホン市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 1.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 135 億円・営業利益 15 億円。ナースコールなど系統商品が伸びる(市場7,200億円×1.4%)
倍率:事業の純利益 74 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 16.56 倍、時価総額 1,321 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の利益率の回復、北米のシェア上昇、現金の還元が同時にそろう必要があり、条件が多い。第8次中期計画の目標を自ら下げた実績もあるので、8%と低めに置いた。
やや楽観 20% 更新が新築減を埋め、北米が戻る 利益 62 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 6,211 円1,017 億円
国内は更新が新築の減少を埋め、売上は物価並みに伸びる。値上げは通るが、開発費は重く、国内の営業利益率は8%弱まで戻る。
北米は関税の混乱から抜けて、市場の伸びとシェアの上昇で売上が着実に増える。欧州は持ち直し、東南アジアのナースコールが伸びる。全社の営業利益率は8%台半ばで、過去10年の中央値を上回るが、山には届かない。
還元は配当が中心で、小さな自社株買いが加わる。会社は資本コストの開示を始め、現金の一部を使う姿勢は見せるが、劇的には変わらない。
筆者が気にするのは、この筋書きで利益が伸びても、資本効率がまだ資本コストをわずかに上回る程度にとどまる点だ。堀は守られるが、現金が眠る構図は残る。
- 国内インターホン:数量 800(国内インターホン市場(今の値段で測った実質・億円)× シェア)× 価格 80.4%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 643 億円・営業利益 50 億円。更新が新築減を埋める(市場800億円×シェア60.0%)
- 北米:数量 5,000(北米の業務用インターホン・ドアエントリー市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 3.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 184 億円・営業利益 19 億円。北米が着実に戻る(市場5,000億円×2.75%)
- 欧州・アジア・その他:数量 7,000(欧州・アジア(中国を除く)のインターホン市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 1.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 113 億円・営業利益 11 億円。欧州が持ち直し、東南アジアが伸びる(市場7,000億円×1.2%)
倍率:事業の純利益 60 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 15.37 倍、時価総額 1,017 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の更新需要と北米の回復は十分ありうる。ただ新築の減少は止まらず、利益率は過去の中央値を少し上回る程度にとどまる。20%と置いた。
中立 36% 堅い内需と緩やかな北米の回復。利益率は中央値並み 利益 49 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 4,679 円766 億円
国内は、新築の減少と更新の増加がほぼ釣り合う。市場の量は横ばいで、値段は物価並みに上がる。アイホンのシェアは6割近くを保つが、中国系の安値品や通信会社の参入で少し削られる。国内の営業利益率は6.5%まで戻る。
北米は関税の混乱から抜けて、緩やかに戻る。シェアは2.5%まで上がる。欧州は横ばいで、アジアは東南アジアのナースコールで伸びる。
全社の営業利益は62億円、利益率は7%台だ。過去10年の中央値と並び、最高だった2022年3月期の10.7%には届かない。現金は、配当を中心に少しずつ戻る。自社株買いは小さく、PBR1倍割れは続く。会社は小粒なソフト会社の買収を重ねるが、大型の買収はしない。
- 国内インターホン:数量 780(国内インターホン市場(今の値段で測った実質・億円)× シェア)× 価格 79.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 622 億円・営業利益 40 億円。更新と新築減が相殺(市場780億円×シェア59.5%)
- 北米:数量 4,700(北米の業務用インターホン・ドアエントリー市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 3.4%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 158 億円・営業利益 14 億円。北米は関税の混乱から戻る(市場4,700億円×2.5%)
- 欧州・アジア・その他:数量 6,800(欧州・アジア(中国を除く)のインターホン市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 1.3%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 91 億円・営業利益 7 億円。欧州は横ばい、アジアが伸びる(市場6,800億円×1.0%)
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 7.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 14.29 倍、時価総額 766 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の量は横ばい、値段は物価並み。北米は戻るが、利益率は過去10年の中央値の上、山の下に落ち着く。いちばん確からしい筋書きとして36%を置いた。
やや悲観 24% 新築減と価格競争で、薄利から抜け出せない 利益 30 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 2,255 円369 億円
国内は新築の減少が更新の増加を上回り、市場の量が少し縮む。値上げの余地は物価並みにとどまり、通信会社や中国系の安値品にシェアを譲る。開発費と人件費の上昇を吸収できず、国内の営業利益率は4.5%どまりだ。
北米は関税と景気の影響を受けて伸びが鈍り、欧州では中国勢との価格競争で売上が縮む。海外の利益はほとんど残らない。
会社は配当の水準を守るが、増やす余力はない。現金は事業の赤字の穴埋めと小さな買収に使われる。ROEは4%前後にとどまり、PBR1倍割れが続く。
この筋書きでは、堀は残るが、堀の内側の稼ぎが年々薄くなる。国内のシェアは守っても、利益が物価の上昇に追いつかず、実質では縮んでいく。創業家が筆頭株主の体制は変わらず、現金の使い方に外からの圧力もかからない。
- 国内インターホン:数量 740(国内インターホン市場(今の値段で測った実質・億円)× シェア)× 価格 77.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 575 億円・営業利益 26 億円。新築減と競争で薄利(市場740億円×シェア58.0%)
- 北米:数量 4,300(北米の業務用インターホン・ドアエントリー市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 2.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 127 億円・営業利益 8 億円。北米の伸びが鈍る(市場4,300億円×2.2%)
- 欧州・アジア・その他:数量 6,300(欧州・アジア(中国を除く)のインターホン市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 1.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 72 億円・営業利益 4 億円。欧州は価格競争で縮む(市場6,300億円×0.85%)
倍率:事業のROEが4%前後で、資本コスト7%に遠く届かない。PERの上限1÷k=13.3倍の約8割を稼ぐ力として置いた。余った現金は、谷で食う前提で0.75倍の90億円にした。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 10.5 倍・時価総額 369 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:新築の減少、開発費の重さ、海外の価格競争は構造的で、会社は目標を自ら下げた実績がある。慎重な見方を厚めに置き24%とした。
悲観 12% 構造的に負ける:スマホ・クラウド型に呼び出し機が置き換わる 利益 9 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 748 円123 億円
スマホやクラウド型の玄関機器が普及し、専用の室内機の需要が細る。通信会社や海外の電子機器メーカーが、集合住宅の更新に安値で入り込む。アイホンは国内のシェアを5割まで落とし、価格を維持できなくなる。
北米は防犯カメラ会社との競争で業務用の販売が伸びず、赤字になる。欧州とアジアも価格競争で利益が消える。開発費は減らせず、全社の営業利益は10億円に届かない。
それでも純現金と自己資本比率の高さで、会社はすぐには傷まない。配当は減らして続けるが、現金は株主に戻らず、事業の損失の穴埋めに少しずつ使われる。稼ぐ力は細り、時価総額は事業の薄い利益と現金の一部の価値だけになる。
- 国内インターホン:数量 700(国内インターホン市場(今の値段で測った実質・億円)× シェア)× 価格 67.0%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 469 億円・営業利益 8 億円。スマホ・クラウド型に侵食される(市場700億円×シェア50%)
- 北米:数量 3,800(北米の業務用インターホン・ドアエントリー市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 2.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 82 億円・営業利益 −2 億円。業務用で赤字(市場3,800億円×1.6%)
- 欧州・アジア・その他:数量 5,800(欧州・アジア(中国を除く)のインターホン市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア)× 価格 0.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 54 億円・営業利益 0 億円。欧州・アジアで利益が消える(市場5,800億円×0.7%)
倍率:悲観の純利益9億円はROE1%台で、資本コスト7%を大きく下回る。稼ぐ力はPERの上限1÷k=13.3倍の約7割を置いた。余った現金は失敗した投資と赤字で半減(60億円)とみて、戻り方0.5を掛けた。市場の値付けは根拠にしない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9.5 倍・時価総額 122 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:スマホで玄関に応じる仕組みの普及と、海外での価格競争が重なる筋書き。国内の首位と純現金があるので12%にとどめ、悲観を5%未満には置かない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内インターホン
集合住宅・戸建・医療介護・施設向けのインターホンとナースコール。国内外部売上の推定。
| 数量国内インターホン市場(今の値段で測った実質・億円)× シェア | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 790 | 60.1% | 475 | 17 |
| 10 年後 中立 | 780 | 79.7% | 622 | 40 |
取り方:連結売上630億円から海外市場の売上155億円を引いた国内の外部売上(約475億円)を、国内インターホン市場に対するシェア約60%(工業会の統計で59〜61%)で割り、市場を約790億円(実質)とした。市場の開示は出荷額だけなので推計。営業利益28億円の地域配分は開示されず(日本セグメントは輸出分の利益を含む)、国内17億円・北米5.5億円・欧州他5.5億円と推定した。数量は実質の市場、物価3%は価格(シェア×物価の倍率)に入れた。
北米
米国・カナダなど北米の業務用・施設用インターホン。現地子会社が代理店経由で販売。
| 数量北米の業務用インターホン・ドアエントリー市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 2.4% | 95 | 6 |
| 10 年後 中立 | 4,700 | 3.4% | 158 | 14 |
取り方:北米の売上は海外155億円のおよそ6割にあたる約95億円(2026年3月期は円貨で前期比19%減)。北米の業務用インターホンとドアエントリーの市場は開示がなく、約4,000億円(約27億ドル)と仮置きし、シェアを約2.4%と逆算した。競合は防犯カメラ・アクセス管理の会社。利益の配分は推定。数量は実質の市場、物価3%は価格に入れた。
欧州・アジア・その他
フランスを軸とする欧州と、シンガポールを軸とするアジア・オセアニア、その他の輸出。
| 数量欧州・アジア(中国を除く)のインターホン市場(今の値段で測った実質・億円、推定)× シェア | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,000 | 1.0% | 60 | 6 |
| 10 年後 中立 | 6,800 | 1.3% | 91 | 7 |
取り方:欧州(四半期で10〜11億円、年約42億円)とアジア・オセアニア他(約18億円)の合計約60億円。市場は約6,000億円と仮置きし、シェアを約1%と逆算した(開示なし)。欧州は現地の専業・中国勢との競争、アジアは中国を除く東南アジア中心。数量は実質の市場、物価3%は価格に入れた。
リスクと懸念
米国の関税と北米の景気
北米は売上の約15%。関税への不安で代理店が在庫を絞り、2026年3月期は現地通貨で18%減った。足元の利益には関税の還付という一度きりの要因が入っており、関税が再び強まれば、また在庫調整が起きる。
国内の新築住宅の減少
国内は売上の4分の3。新築マンションと戸建の着工が細っており、2026年4〜6月期は日本の営業損益が赤字だった。更新需要が伸びても、新築の減少を埋めきれない年が続けば、国内の利益率は戻らない。
現金が株主に戻らない
純現金は時価総額の半分に当たる228億円。創業家系の会長が筆頭株主で、PBR1倍割れも長く続く。自社株買いが小さいままだと、現金の価値は株価に反映されにくい。逆に大型の買収で使えば、価値を壊しかねない。
開発費の重さと利益率の低下
外注費の増加などで研究開発費は高止まりし、営業利益率は10.7%から4.5%まで下がった。ソフト会社を3社買収して内製力を高めているが、成果が売上と利益率に出なければ、固定費だけが残る。
スマホ・クラウド型と海外勢の安値
玄関機器がスマホ中心に変われば、専用の室内機の需要が細る。欧州では現地の専業と中国勢の安値で売上が減っている。国内でも通信会社や海外の電子機器メーカーが集合住宅の更新に参入すれば、値上げが難しくなる。
中東情勢と部材高、工場の稼働
中東情勢で半導体やプラスチックが値上がりし、建築資材の供給不安で工期も遅れる。会社はこれを理由に第9次中期計画の公表を延ばした。タイとベトナムの工場の電力が不安定になれば、生産にも響く。
今後の分かれ目
- 第9次中期計画でROEの目標と、自社株買いを含む還元の枠が明示される
- 現金が株主に戻る確証が増え、余った現金の戻り方を高く見られる。楽観側の確率を上げてよい。
- 国内の営業利益率が、価格改定の効果で7%台に戻る
- 更新需要と値上げが利益に結びついた証拠になり、中立から強気側の筋書きに近づく。
- 北米の売上が関税の影響を除いても前年を上回り続ける
- 代理店の在庫調整が終わった証拠になる。北米のシェアが上がる筋書きの確率を上げる。
- 集合住宅の更新で、通信会社やスマホ中心の安価な仕組みが採用される例が増える
- 専用機の優位が崩れ始めたサインで、構造的な負けの確率を上げる。
- 現金を使った大型の買収が発表される
- 資本配分の方針が変わったことを意味する。買収先の収益性と価格を確かめるまで、余った現金の戻り方を低く見直す。
- 大株主や投資家が、PBR1倍割れの是正を強く求めて動く
- 還元の上振れやTOBの可能性が高まり、現金の戻り方を高く見られる。
見ておくもの
- 第9次中期計画の公表時期と、ROE・還元の目標
- 国内の営業利益率と、新築・更新それぞれの売上の動き
- 北米の現地通貨ベースの売上と、代理店の在庫の水準
- 欧州での中国勢との価格競争の状況
- 研究開発費と、ソフト子会社の成果
- 自社株買いの有無と、自己株の比率
- インターホン工業会の出荷統計
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価やPERを見ず、各筋書きの事業のROEと資本コスト7%から正当化PERを計算し、ROEが資本コストに届かない筋書きは上限1÷k=13.3倍の範囲で置いた。余った現金は戻り方0.5で別に足し、現金を捨てても二重に数えてもいない。本質価値が今の時価総額に近い点は、PBR0.64倍の割安感に引かれたものではなく、現金と国内の堀の価値が、薄いROEの割引と釣り合った結果だ。リースの約束は小さく、新リース会計基準での数字の形の変化は価値に影響しない(10年後の数字は今と同じ形で置いた)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→16.56 倍・やや楽観 PER 12.7→15.37 倍・中立 PER 12→14.29 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0%(循環 +0.25、値決め力 −0.25)。純現金で借金の上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.00%。