結論
富士通は国内最大級のITサービス会社で、サービスソリューション(SI・クラウド・コンサル、売上の3分の2)を主力に、ハードウエア(サーバー・ネットワーク機器)とユビキタス(通信基地局・PC周辺の残存事業)を抱える。携帯電話事業(FCNT)とPC事業(FCCL)をすでに切り出し、海外は北米・欧州で構造改革を重ねてきた結果、2026年3月期は売上3兆5,030億円・調整後営業利益3,905億円(利益率11.2%)で4期連続の最高益となった。成長の柱に据えるFujitsu Uvance(社会課題解決型事業)はサービスソリューション内の売上比率目標10%→30%を2025年度に前倒しで達成し、2026年5月には2035年度までの「中長期経営ビジョン2035」を発表、年平均成長6〜9%・調整後営業利益率25〜30%という高い目標とNVIDIAとの協業拡大(自社CPU「FUJITSU-MONAKA」とGPUの密結合、AIエージェント基盤)を掲げた。ここでは3つの事業セグメントごとに実質の市場規模×(シェア×物価)で名目の売上を積み上げ、その時点の利益と、利益の質(堀・伸び・景気の振れ)と資本コスト7.5%(基本7.5%に循環の-0.25%)から倍率を決めて時価総額を出した。2026年3月期の純利益4,494億円・ROE22.2%には欧州構造改革に伴う税効果など一時的な押し上げが含まれ、地力のROEは15%前後と見るのが妥当であり、今のPER17倍・PBR3.8倍はAI・Uvanceの上乗せをかなり織り込んだ値段である。倍率は最後は利益で測り、今の利益はそのまま残り、資本コスト7.5%を超える新しい投資の稼ぎだけが競争で先に半分薄れるとした正当化PER(10年の中立で約18.5倍)の8割、PER15倍前後に置くと、10年後の中立は緩やかな増収増益(名目で年4%前後)で今の時価総額の1.2倍まで育つが、年率の期待は3〜4%にとどまる。総合では本質価値が今の時価総額を2割ほど下回る「やや割高」になった。k−gを3.5%以上に抑えた式でも倍率は前提に敏感で、長期の成長率を1%下げるだけで中立の倍率は2割ほど下がる。2035年ビジョンの野心的な目標がそのまま実現する保証はなく、ハード事業の構造的な縮小が続く限り成長はサービスソリューション単独に依存する。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、富士通は堀のあるストック型事業(基幹システムの保守・運用)と、堀の薄いハード事業(サーバー・ネットワーク機器・通信基地局)が併存する会社として見るべきである。過去10年、携帯電話・PC事業を切り出し続けてきたこと自体が、経営が「優良でない事業」を見極めて資本を退避させてきた証拠であり、資本配分の規律という点では評価できる。一方で、2026年3月期のROE22.2%は一時的な押し上げを含み、地力は15%前後と見るのが妥当で、これは優良企業の目安である20%超には届かない。Uvance・AI基盤事業への期待で今の株価はすでに相応の成長を織り込んでおり、2035年ビジョンの野心的な目標(営業利益率25〜30%)がそのまま実現するかどうかに安全域の多くが依存している。わからない部分(AIエージェント需要の実需化速度、NVIDIAとの協業の収益化時期)が大きい事業であり、確信度はNRIのような共同利用型システムの会社より一段低く置くべきである。
何で稼ぐ会社か
富士通の事業は3つのセグメントに分かれる。サービスソリューションは官公庁・金融・製造業向けのシステム構築・運用・クラウド移行・コンサルティングが中心で、全社売上の3分の2強・調整後営業利益の大半を稼ぐ主力事業。中でもUvanceは医療・モビリティ・サステナビリティなど社会課題に紐づく領域横断型の提案で、2026年3月期にサービスソリューション内の売上比率30%(当初目標の3.5倍)まで伸び、収益性の改善を主導している。ハードウエアソリューションはサーバー・ネットワーク機器の製造・販売で、国内の循環に左右されやすく売上は縮小傾向だが固定費の削減で利益率は改善している。ユビキタスソリューションは携帯電話(FCNT、2018年にポラリス・キャピタルへ譲渡後2023年に経営破綻)とPC(FCCL、2017年にレノボ・DBJへ譲渡)をノンコア化した後に残る、法人向け通信基地局やPC周辺の事業で、規模を縮小させながら着地点を探っている段階にある。海外事業は北米・欧州・アジア太平洋の各リージョンで構造改革を継続中で、北米はコンサル事業の立上げ、欧州は人員削減を含む再編、アジア太平洋も改革を進めており、2026年3月期は海外全体で減収ながら増益に転じた。顧客は官公庁・金融機関・製造業など裾野が広く、基幹システムの保守・運用によるストック収益が収益の安定装置になっている。
優良さと弱いところ
富士通の堀は、官公庁・金融・大企業の基幹システムに長年食い込んできたことで生まれる高い切り替えコストと、人材不足を背景に強まりつつある価格決定力にある。調整後営業利益率は2020年度の6.6%から2025年度には11.2%まで改善し、4期連続の最高益という実績は事業ポートフォリオの入れ替え(携帯・PCのノンコア化、Uvanceへの集中)が効いていることを示す。ROEは2026年3月期に22.2%まで跳ねたが、欧州構造改革に伴う法人税等調整額など一時的な押し上げを含み、会社自身の中期計画でも2027年3月期のROEは15%台に落ち着く見通しであり、地力のROEは15%前後と見るのが妥当である。自己資本比率は59.6%、純有利子負債は実質無借金(純現金)で財務は健全。弱点はハードウエア・ユビキタス事業の構造的な縮小が続き成長をサービスソリューション単独に依存していること、海外事業の収益改善が前年の大型公共案件の反動という一過性要因に支えられている面があり持続力が未検証なこと、そして生成AI・AIエージェントの普及が人月商売そのものの価格前提を変えかねないリスクを抱えていることである。経営は7割を社外取締役が占める体制で市場の声を取り込もうとしているが、ほぼ毎年のように早期退職・拠点再編の一時費用が発生し、実態の収益力を見えにくくしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内ITサービス市場は2024年に前年比7.4%増の7兆205億円(IDC)まで拡大し、富士通は日立・NEC・NTTデータ・IBM・アクセンチュアと並ぶ上位グループを形成する。2026年3月期3Q累計では富士通とNECの売上・営業利益が僅差で推移するなど競争は激しい。DX・クラウド移行・生成AI導入という需要の波が続く限り業界全体は緩やかな拡大が見込まれるが、国内IT投資は官公庁・金融の予算サイクルに左右される循環性を持ち、ハードウエア(サーバー・ネットワーク機器)・複合機に類する機器ビジネスは国内の投資循環の影響を受けやすい。富士通固有の変数は、Uvanceと自社AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」・自社LLM「Takane」をどこまで実需に結びつけられるかと、2026年5月に発表した「中長期経営ビジョン2035」(2035年度までの年平均成長6〜9%、調整後営業利益率25〜30%の目標)の実現度である。NVIDIAとの協業拡大(自社CPU「FUJITSU-MONAKA」とGPUの密結合、AIエージェント基盤の共同開発)やファナック・安川電機・川崎重工らとのフィジカルAI連携は新しい事業領域の種になりうるが、量子コンピューティングを含め投資回収には時間がかかる。競合のNEC・日立・NTTデータも同様にAI・クラウドへ経営資源を投じており、案件の取り合いは続く。
資本政策と M&A
富士通は株主還元に配当と自社株買いを併用しており、2026年3月期も10期連続の増配に加え、2025年5月〜2026年3月の期間で上限1,700億円の自己株式取得を実施し、ほぼ上限まで消化した。政策保有株は継続的に売却を進めて縮小させる方向にある。M&Aは成長領域への小型投資とノンコア事業の切り出しを両輪で進めてきた歴史があり、携帯電話(FCNT)・PC(FCCL)の譲渡という「身軽になる」M&Aが過去の実績である一方、今後10年で3兆円規模の成長投資枠(研究開発・先端人材・資本業務提携・買収等)を新規事業創出領域に投じる計画を掲げており、方向が逆転してM&Aによる規模の拡大に動く可能性がある。買収の巧拙は証明されていない論点であり、割高な買収や統合の失敗が起きれば、Uvance・AI基盤への期待で支えられている今の値段の前提を崩しうる。
点検済み:中立の調整後営業利益率が17%と、今(11.2%)や会社の2028年3月期予想(13%台)から開き過ぎていたため、サービスソリューション16.5%・ハードウエア5.5%・ユビキタス9%に置き直した(全社15.4%)。2035年ビジョンの25〜30%は採らない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
Uvanceはすでにサービスソリューション内の売上比率30%を当初目標の3倍以上のペースで達成しており、社会課題解決型という高付加価値の提案モデルが定着し始めている。調整後営業利益率は2020年度6.6%から2025年度11.2%へ5年で倍近くに改善し、ノンコア事業(携帯・PC)の切り出しが完全に終わった今、収益性の改善曲線はまだ途中にある。2026年5月の中長期経営ビジョン2035が掲げる調整後営業利益率25〜30%は野心的だが、NVIDIAとの協業拡大(自社CPU「FUJITSU-MONAKA」とGPUの密結合、AIエージェント基盤)やソブリンプラットフォーム(各国が自国でAI基盤を持つ需要)という新しい市場の立ち上がりと合わせて考えれば、達成確率は低くない。官公庁・金融向けの強い顧客基盤を持つ富士通が自社LLM「Takane」・Kozuchiを武器に生成AI時代の「エージェント構築の元請け」という新しい役割を取れれば、サービスソリューションの成長率は今の計画より高くなる。政策保有株の売却と自社株買いの継続は資本効率の改善をさらに後押しする。
慎重な見方
2026年3月期の純利益4,494億円・ROE22.2%は欧州構造改革に伴う税効果など一時的な要因に支えられており、会社自身の中期計画でも2027年3月期のROEは15%台に落ち着く見通しで、持続的な稼ぐ力はそこまで強くない。海外事業の増益は前年の大型公共案件の反動という一過性の裏返しであり、北米の金利高止まりやコンサル事業の立上げの成否は未知数。ハードウエア・ユビキタス事業は構造的に縮小が続き、成長をサービスソリューション単独に依存する構図は変わらず、2035年ビジョンの年平均成長6〜9%という目標は過去10年の実績(売上は年率で縮小してきた)と大きく異なる前提を置いている。生成AI・AIエージェントの普及は、システム開発・運用の人月商売という富士通の収益モデルの単価前提そのものを壊すリスクがあり、NECやNTTデータなど同様の競合もAI・クラウドに資源を集中させるため案件の取り合いは激化する。今後10年で3兆円を新規事業に投じる計画は、過去に海外M&Aでの苦戦(欧州事業再編での大きな一時費用)を経験した会社として、割高な買収や統合の失敗という逆のリスクも抱える。
どちらに重みを置いたか
富士通はノンコア事業の切り出しをすでに終えて身軽になっており、Uvanceによる収益性改善は実績として積み上がっている点に分がある。ただし2026年3月期の高いROEには一時要因が含まれ、2035年ビジョンの高い目標は実現の確証がなく、ハード事業の縮小という構造的な逆風も消えていないため、確率は中立寄りにやや強気を加える程度に置いた。資本コスト7.5%と名目の成長で測り、利益で測る正当化PERの8割(中立15倍前後)に置くと、10年の中立でも今の時価総額を2割ほど上回る程度にとどまり、総合で「やや割高」になった。k−gが小さく倍率が前提に敏感な点は割り引いて読むべきだ。10年後はAI・Uvanceの実需化の成否で分散が大きくなる分、慎重な見方の確率もNRIより高めに置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,038 円10.44 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,319 円2.28 兆円)。 今の値に割り戻すと 3,848 円6.65 兆円、今との差 −15.9%、 期待の年率 +4.9%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 11,968 円20.69 兆円 | 2,269 円3.92 兆円 | +211.3% | +12.0% | 1,424 円2.46 兆円 |
| やや楽観 | 20% | 9,718 円16.80 兆円 | 1,843 円3.19 兆円 | +152.8% | +9.7% | 2,312 円4.00 兆円 |
| 中立 | 30% | 6,549 円11.32 兆円 | 1,322 円2.28 兆円 | +72.1% | +5.6% | 2,361 円4.08 兆円 |
| やや悲観 | 25% | 3,405 円5.89 兆円 | 950 円1.64 兆円 | −4.8% | −0.5% | 1,089 円1.88 兆円 |
| 悲観 | 15% | 542 円9,368 億円 | 594 円1.03 兆円 | −75.2% | −13.0% | 170 円2,946 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,038 円10.44 兆円 | 1,319 円2.28 兆円 | +60.9% | +4.9% | 7,356 円12.72 兆円 |
今の株価時価総額 4,573 円7.91 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 2035年ビジョンの主要目標を実現 利益 9,639 億円 · PER 21.0 倍 · 株価時価総額 11,968 円20.69 兆円
ソブリンプラットフォーム・フィジカルAI・インテリジェントソサエティの新規事業がAIサービス世界市場の拡大に乗って本格的に立ち上がり、NVIDIAとの協業(FUJITSU-MONAKAとGPUの密結合、AIエージェント基盤)が収益化する。富岳の技術を土台にした量子コンピューティングも一部商用化され、ファナック・安川電機・川崎重工らとのフィジカルAI連携も実を結ぶ。Uvanceはサービスソリューションの主力となり、官公庁・金融向けの強い顧客基盤を武器にAIエージェント構築の元請けという新しい役割で単価も上がる。海外事業も北米・欧州ともに完全に立て直り、調整後営業利益率は25%前後まで改善し、2035年ビジョンの目標にほぼ到達する。
- サービスソリューション:数量 8.5(国内ITサービス市場規模(今の値段で測った実質・兆円))× 価格 5,896(国内 IT サービス市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 2 万(海外分を含む換算)× 物価の倍率)→ 売上 49,986 億円・営業利益 11,997 億円。AIエージェント元請け化で高収益化(実質の市場 8.478兆円 × シェア 22.0%、物価込みで名目)
- ハードウエアソリューション:数量 17,910(国内サーバー・ネットワーク機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 41.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 7,504 億円・営業利益 1,201 億円。AI基盤向け機器で復調(実質の市場 17910.0億円 × シェア 31.3%、物価込みで名目)
- ユビキタスソリューション:数量 7,090(法人向け通信インフラ・周辺機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 63.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 4,502 億円・営業利益 600 億円。通信インフラ需要で底打ち(実質の市場 7090.0億円 × シェア 47.4%、物価込みで名目)
倍率:事業の純利益 9,639 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.0 倍。全体の PER 21.02 倍、時価総額 202,612 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中長期経営ビジョン2035の調整後営業利益率25〜30%・AI新規事業3兆円という目標がほぼ実現するシナリオ。野心的な目標の完全実現は確率を抑えて10%とした。
やや楽観 20% 新規事業が種として育つ 利益 7,939 億円 · PER 20.4 倍 · 株価時価総額 9,718 円16.80 兆円
AIエージェント・ソブリンプラットフォームの需要が官公庁・金融向けを中心に立ち上がり、Uvanceの比率がサービスソリューションの中でさらに高まる。NVIDIAとの協業の一部(AIエージェント基盤、FUJITSU-MONAKA関連)が収益化し、海外事業もおおむね改善して北米・欧州とも安定した増収増益に落ち着く。ハードウエア・ユビキタスは縮小が止まり横ばいに近づくが、2035年ビジョンが掲げる調整後営業利益率25〜30%までは届かず、20%台前半にとどまる。新規事業は種として育つが、まだ全社の成長を牽引する柱には成長しきっていない。
- サービスソリューション:数量 8.4(国内ITサービス市場規模(今の値段で測った実質・兆円))× 価格 5,494(国内 IT サービス市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 2 万(海外分を含む換算)× 物価の倍率)→ 売上 46,001 億円・営業利益 9,500 億円。Uvance拡大継続(実質の市場 8.373兆円 × シェア 20.5%、物価込みで名目)
- ハードウエアソリューション:数量 17,164(国内サーバー・ネットワーク機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 40.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 6,986 億円・営業利益 798 億円。横ばいに近づく(実質の市場 17164.0億円 × シェア 30.4%、物価込みで名目)
- ユビキタスソリューション:数量 6,716(法人向け通信インフラ・周辺機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 59.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 3,996 億円・営業利益 450 億円。縮小停止(実質の市場 6716.0億円 × シェア 44.4%、物価込みで名目)
倍率:事業の純利益 7,939 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.4 倍。全体の PER 20.44 倍、時価総額 162,273 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新規事業創出領域の一部が育ち、Uvanceも着実に拡大するが2035年目標には届かない、蓋然性のある楽観シナリオ。
中立 30% 緩やかな増収増益が10年続く 利益 5,637 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 6,549 円11.32 兆円
Uvance・AI基盤事業は着実に育つが2035年ビジョンが掲げる目標の全部には届かず、調整後営業利益率は15%前後まで改善する程度にとどまる(今の11.2%、会社の2028年3月期予想13%台の延長で、2035年ビジョンの25〜30%は採らない)。ハードウエア・ユビキタスは緩やかな縮小が続き、全社の成長はサービスソリューション単独に依存する構図が変わらない。海外事業はおおむね安定するが高い成長は見込めず、NVIDIAとの協業・量子コンピューティングも研究開発の域を出ない部分が残る。国内ITサービス市場自体はAI・クラウド移行需要で緩やかに拡大を続け、富士通はその成長の範囲内で地位を維持する。NECやNTTデータとの競争は続くが、官公庁・金融向けの基幹システムの切り替えコストに守られて、大きくシェアを落とすことはない。
- サービスソリューション:数量 8.2(国内ITサービス市場規模(今の値段で測った実質・兆円))× 価格 5,092(国内 IT サービス市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 2 万(海外分を含む換算)× 物価の倍率)→ 売上 41,989 億円・営業利益 6,928 億円。緩やかなUvance拡大(実質の市場 8.246兆円 × シェア 19.0%、物価込みで名目)
- ハードウエアソリューション:数量 16,045(国内サーバー・ネットワーク機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 40.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 6,498 億円・営業利益 357 億円。緩やかな縮小(実質の市場 16045.0億円 × シェア 30.2%、物価込みで名目)
- ユビキタスソリューション:数量 6,343(法人向け通信インフラ・周辺機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 52.8%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 3,349 億円・営業利益 301 億円。緩やかな縮小(実質の市場 6343.0億円 × シェア 39.4%、物価込みで名目)
倍率:事業の純利益 5,637 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍。全体の PER 18.95 倍、時価総額 106,816 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の長期ビジョンの一部だけが実現し、サービスソリューション中心の緩やかな成長が続く、最も蓋然性の高いシナリオ。
やや悲観 25% 新規事業が実需化せず成長が鈍る 利益 4,041 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,405 円5.89 兆円
AIエージェント・ソブリンプラットフォームの需要立ち上がりが想定より遅く、Uvanceの成長も鈍化する。生成AIの普及でシステム開発の人月単価に下押し圧力がかかり始め、長年築いてきたサービスソリューションの利益率改善が止まる。NVIDIAとの協業や量子コンピューティングも商用化まで届かず、3兆円の成長投資枠の多くが回収できないまま残る。ハードウエア・ユビキタスの縮小は止まらず、NEC・NTTデータとの競争も激しくなって、全社の成長は限定的になる。海外事業も改善が一巡したあとは伸び悩み、北米・欧州ともに追加の構造改革コストが断続的に発生する。
- サービスソリューション:数量 8.1(国内ITサービス市場規模(今の値段で測った実質・兆円))× 価格 4,690(国内 IT サービス市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 2 万(海外分を含む換算)× 物価の倍率)→ 売上 38,008 億円・営業利益 5,201 億円。AI実需化の遅れ、単価下押し(実質の市場 8.104兆円 × シェア 17.5%、物価込みで名目)
- ハードウエアソリューション:数量 14,552(国内サーバー・ネットワーク機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 37.8%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 5,501 億円・営業利益 350 億円。縮小継続(実質の市場 14552.0億円 × シェア 28.2%、物価込みで名目)
- ユビキタスソリューション:数量 5,821(法人向け通信インフラ・周辺機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 51.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 3,004 億円・営業利益 200 億円。縮小継続(実質の市場 5821.0億円 × シェア 38.5%、物価込みで名目)
倍率:ROE 10.1%・資本コスト 7.5% から正当化 PER 16.2 倍(g 3.7%・残る割合 0.50)を計算し、その 80% をやや悲観の倍率に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 12.98 倍・時価総額 52,452 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:Uvance・AI基盤事業の立ち上がりが計画より遅れ、ハード事業の縮小を補いきれないシナリオ。生成AIが人月商売の単価を下げる副作用も一部現れる想定。
悲観 15% 構造的に負ける:AI化で人月商売が崩れる 利益 740 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 542 円9,368 億円
AIエージェントが汎用的なシステム開発・運用を代替し、人月商売を前提にしたサービスソリューションの収益モデルが崩れる。Uvanceも期待された社会課題解決の受注が広がらず、3兆円を投じた新規事業創出領域もほとんど収益化できないまま終わる。海外事業は北米・欧州ともに再建できずに縮小が続き、NVIDIAとの協業・量子コンピューティングへの投資も回収できない。ハードウエア・ユビキタスは市場そのものが縮小し続け、富士通は官公庁・金融の一部の長期保守案件を除いて競争力を失い、NECやNTTデータ、新興のAIベンダーに案件を奪われる。それでも官公庁向けシステムの切り替えコストの高さと純現金のおかげで、純利益が 740 億円まで細り、稼ぐ力(純利益÷資本コスト)が株価の床になる。
- サービスソリューション:数量 6.7(国内ITサービス市場規模(今の値段で測った実質・兆円))× 価格 4,020(国内 IT サービス市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 2 万(海外分を含む換算)× 物価の倍率)→ 売上 26,998 億円・営業利益 1,500 億円。人月商売の崩壊、保守案件のみ残る(実質の市場 6.716兆円 × シェア 15.0%、物価込みで名目)
- ハードウエアソリューション:数量 11,940(国内サーバー・ネットワーク機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 37.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 4,501 億円・営業利益 150 億円。市場縮小(実質の市場 11940.0億円 × シェア 28.1%、物価込みで名目)
- ユビキタスソリューション:数量 4,851(法人向け通信インフラ・周辺機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 51.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 2,503 億円・営業利益 50 億円。市場縮小(実質の市場 4851.0億円 × シェア 38.5%、物価込みで名目)
倍率:悲観の純利益 740 億円は ROE 2.6% で k 7.5% を下回る。ためた利益は額面未満の価値なので PER は 1÷k=13.8 倍が上限で、その 95% を稼ぐ力として置いた。官公庁向けの保守収益は残るが、自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 12.66 倍・時価総額 9,368 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:10年という期間でAIエージェントがシステム開発・運用の多くを代替し、富士通が顧客をNEC・NTTデータ等や新興AIベンダーに奪われる構造的な負けシナリオ。悲観が5%以上であることの理由として、生成AIによる業界構造の転換は電気機器セクター共通のテーマであり富士通単独の特殊事情ではないため確率を高めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
サービスソリューション
官公庁・金融・製造業向けのSI・クラウド移行・コンサル・Uvance(社会課題解決型事業)。
| 数量国内ITサービス市場規模(今の値段で測った実質・兆円) | 価格国内 IT サービス市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 2 万(海外分を含む換算)× 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.0 | 3,340 | 23,469 | 3,614 |
| 10 年後 中立 | 8.2 | 5,092 | 41,989 | 6,928 |
取り方:国内ITサービス市場7兆205億円(IDC、2024年)に対する富士通のシェアとして、サービスソリューション売上を逆算(海外分も含むため国内市場より実際のシェア相当は高めに出る簡易な置き方)。数量は今の値段で測った実質の市場、物価 3% は価格(シェア × 換算 × 物価の倍率)に入れた。前の版の 3 年の市場(中立 7.3 兆円)は今の値段のままだったので物価を足し(名目 8.0 兆円、年 4% 強)、10 年の市場(中立 11 兆円=年 4.6%)は調査会社の名目の伸びなので実質に直した。
ハードウエアソリューション
サーバー・ネットワーク機器の製造・販売。国内の投資循環に左右される。
| 数量国内サーバー・ネットワーク機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20,000 | 33.6% | 6,729 | 370 |
| 10 年後 中立 | 16,045 | 40.5% | 6,498 | 357 |
取り方:国内サーバー・ネットワーク機器市場を2兆円規模と仮置きし、売上から逆算したシェアを置いた(市場規模の開示は無い)。前の版の市場は名目の見通し(中立で 10 年 1.08 倍)なので、実質に直すと 2 割縮む。物価 3% は価格(シェア × 物価の倍率)に入れた。中立のシェアが 33.6% から 3 年で 31% へ下がるので、価格(シェア × 物価)は 3 年で今の 1.01 倍と物価ほどは上がらない。
ユビキタスソリューション
携帯電話(FCNT)・PC(FCCL)をノンコア化した後に残る法人向け通信基地局・PC周辺機器。規模縮小が継続。
| 数量法人向け通信インフラ・周辺機器市場規模(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 31.5% | 2,517 | 313 |
| 10 年後 中立 | 6,343 | 52.8% | 3,349 | 301 |
取り方:法人向け通信インフラ・周辺機器市場を8,000億円規模と仮置きし、売上から逆算したシェアを置いた(市場規模の開示は無い。事業規模縮小が続くため今後は市場規模自体を縮小させて置く)。前の版の市場は名目の見通しなので実質に直し、物価 3% は価格(シェア × 物価の倍率)に入れた。
リスクと懸念
海外事業の増益は一過性要因の裏返し
2026年3月期の海外全体の増益は前年の大型公共案件の反動という一過性要因の影響が大きく、北米のコンサル事業立ち上げ・欧州の構造改革が持続的な収益改善につながるかは要検証。再び大規模な一時費用が発生するリスクがある。
AIエージェントが人月商売の前提を変える
生成AI・AIエージェントの普及はシステム開発・運用の単価や必要人数の前提を変えかねない。富士通自身がKozuchi・Takaneでこの波に乗る側になれるかは未知数で、乗れなければサービスソリューションの収益モデルが崩れるリスクがある。
ほぼ毎年の一時費用が実態の収益力を見えにくくする
国内早期退職・海外拠点再編の一時費用がほぼ毎年のように発生しており、調整後営業利益は改善しているものの、法定の営業利益・純利益は一時要因でぶれやすく、地力の収益力を外部から見誤りやすい。今後も事業の入れ替えが続く限り、この種の一時費用はなくならない。
ハードウエア・ユビキタス事業の構造的な縮小
携帯電話・PC事業のノンコア化後も、サーバー・ネットワーク機器・通信基地局の事業は縮小が続いており、成長をサービスソリューション単独に依存する構図が変わらない。非ハード事業への転換が進まなければ長期的な収益基盤が細る。
2035年ビジョンの野心的な目標が実現しない
中長期経営ビジョン2035が掲げる調整後営業利益率25〜30%・新規事業3兆円という目標は、過去の実績(売上の年率縮小、調整後営業利益率11.2%)から大きく飛躍しており、実現しなければ今の株価が前提にしている成長期待が剥落する。
成長投資枠3兆円のM&A実行リスク
今後10年で3兆円規模を研究開発・資本業務提携・M&Aに投じる計画は、過去の海外M&A(Core BTSのような事例は同業他社に見られる)での統合の難しさを踏まえると、割高な買収や統合の失敗という逆のリスクを抱える。
競合との案件の取り合いの激化
NEC・NTTデータ・日立などもAI・クラウドに経営資源を集中させており、国内ITサービス市場の成長を上回るペースで競争が激化すれば、富士通の価格決定力・シェアが削られる。2026年3月期3Q累計ではNECの売上・営業利益が富士通に迫るなど、僅差の競争が続いている。
今後の分かれ目
- Uvanceの売上比率がサービスソリューション内でさらに上昇し、調整後営業利益率が15%を超える
- サービスソリューション単独の成長で全社を牽引できる体質になり、ハードウエア・ユビキタスの縮小を補って余る増益シナリオに近づく。
- NVIDIAとの協業(FUJITSU-MONAKAとGPUの密結合、AIエージェント基盤)が具体的な受注・収益に結びつく
- 2035年ビジョンの新規事業創出領域が種として育っている証拠になり、楽観シナリオの確率が上がる。
- 海外事業で再び大規模な一時費用(のれん減損・拠点再編)が発生する
- 海外事業の改善が一過性だったことが裏付けられ、悲観シナリオに近づく。
- 生成AI・AIエージェントの普及でシステム開発の人月単価に明確な下押しが現れる
- 業界構造の転換が現実のものになり、10年後の構造的な負けシナリオの確率が上がる。
- 3兆円の成長投資枠で大型の海外M&Aを実行し、のれんが大きく積み上がる
- 統合の成否が次の数年の業績を左右する新たな変数になり、過去の海外事業再編の経験からリスクを高めに見る必要が出る。
- 国内公共・金融のIT投資予算が大きく削減される
- サービスソリューションの新規受注が鈍り、循環の下り側のシナリオ(やや悲観)に近づく。
見ておくもの
- サービスソリューションの調整後営業利益率の推移
- Uvanceの売上・比率の進捗
- 海外(北米・欧州)の構造改革費用の発生状況
- NVIDIAとの協業の具体的な受注・収益化の進捗
- 国内ITサービス市場の成長率とNEC・NTTデータ・日立との競争状況
- 政策保有株の売却・自己株式取得の進捗
- 中長期経営ビジョン2035の中間目標の達成状況
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER を見ず、セグメントごとの数量×価格で積んだ利益と、その時点の ROE・資本コスト(7.25%=基本 7.5% + 循環の -0.25%)・長期の成長から正当化 PER を計算し、その 8〜9 割に置いた。悲観は純利益÷k の稼ぐ力で置き、過去の PBR・清算価値は根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.66→21.02 倍・やや楽観 PER 16.85→20.44 倍・中立 PER 14.5→18.95 倍・悲観 PER 13.1→12.66 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。事業で決める:基本 7.5% に quality -0.25%(循環:景気に左右されにくい運用・保守が中心)を足して k 7.5%。純現金で extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.50%。
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読んだ資料
- 富士通 2026年3月期決算・セグメント情報(日経クロステック)
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- 富士通、北米事業再編で純利益500億円計上(日本経済新聞)
- 富士通、欧州事業再編(日本経済新聞)
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