結論
古野電気は、船に積む電子機器の世界的な専業メーカーだ。商船向けレーダーの世界シェアは 4 割強、漁船向けの魚群探知機は約 5 割を握る。売上の約 9 割が舶用で、その 8 割を海外で稼ぐ。
筆者の結論は「いい会社だが、今の値段は山の利益を前提にしている」だ。2026 年 2 月期の営業利益率は 11.6% と過去最高で、会社は今期の予想もさらに引き上げた。だがこの会社の利益率は、長く 2〜6% で動いてきた。変わったのは、造船所の発注が 2007 年並みの勢いで膨らみ、機器の売上が一気に厚くなったことだ。
10 年先には、造船の山は必ず過ぎる。それでも、積んだ機器の保守と更新という「売ったあとの収益」が残る。利益率は昔の 2〜3% 台には戻らないと筆者は見る。中立の筋書きは、売上 2,000 億円強、営業利益率 10% 前後だ。会社の中計の目標と同じ水準である。
ここまで認めても、値段は高い。10 年後の利益に付けられる倍率は、ROE が資本コストを少し上回るだけの会社の水準にとどまる。しかも悲観側には、中国の造船所が自国製の機器を標準採用する筋書きが現実味を持って控えている。総合の本質価値は今の時価総額を大きく下回り、割高と出た。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点ではこうなる。事業の質は良い。世界中で動く保守網と搭載実績は、簡単に崩れない。10 年後にも同じ事業が残っている確からしさは高い。
ただ、本質価値は山の利益から決めてはいけない。持ち主として手元に残る利益を考えると、造船の山で膨らんだ分は、平準に戻る前提で見るのが筋だ。筆者は、営業利益率 10% を中立の足場とする。過去のどの山よりも高いが、保守の積み上がりを認めた水準だ。
経営の資本の使い方は誠実だ。目標は低めで、還元も方針が明確だ。一方、ROE が資本コストを少し上回る程度の事業に、高い倍率は払えない。安全域を取るなら、山の利益に 15 倍を払う値段は厚みに欠ける。
持ち続けたい会社かと問われれば、イエスだ。ただ、払う値段は別の話だ。今の値段には、山が続く、または利益率が 15% に届く、という前提がすでに入っている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、船が動くために法的に必要な機器と、その後のサービスだ。レーダー、電子海図、衛星通信、自動操舵などを造船所と船主に売る。船は 25 年ほど使われるため、機器は新造時に積み、10〜15 年ごとに換装し、その間は保守で稼ぐ。
舶用は 2026 年 2 月期の売上 1,211 億円で全体の 86% を占める。商船が約 6 割、残りが漁船とプレジャーボートと筆者は推定する(開示は舶用の合計のみ)。商船は新造船の山で売上が伸び、保守サービスも増収の一因になった。漁船向けは魚群探知機やソナーの世界首位級で、プレジャーボート向けはシェア 1 割前後、競合は 4 社と会社は説明する。米州で高機能ソナーが伸びた。
産業用は売上 158 億円と小さいが、芽がある。防衛装備品が 55 億円(前期比 22.6% 増)、カーナビや自動運転向けの高精度 GNSS を含む ITS・GNSS が 88 億円だ。一方、無線 LAN・ハンディターミナルは学校向けの需要が落ち、33 億円と低調だ。
利益は舶用に集中している。舶用のセグメント利益は 167 億円、産業用は 8 億円だ。この会社を買うことは、造船と船の更新の循環に乗ることに近い。
優良さと弱いところ
古野電気の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、世界中の港で動くサービス網と、積んだ機器の実績にある。航海機器は条約で型式承認が要り、船員は慣れた機器を使い続けたがる。故障したら港で直せることが、船主には機器の性能と同じくらい大事だ。商船レーダーで 4 割強を握る土台がここにある。
漁船向けの魚群探知機では、超音波の技術と現場の使い込みで約 5 割を取っている。値段で勝負する市場ではなく、魚が見えるかどうかで選ばれる。
弱点は 3 つある。第一に、利益が造船の循環に左右される。2008 年 2 月期の営業利益率は 7.4% だったが、その後は 1〜2% 台まで落ち、赤字の年も 4 回ある。第二に、規模だ。売上 1,400 億円で、プレジャー市場ではガーミンなどの大手と戦う。第三に、中国の台頭だ。造船の手持ち工事量の約 7 割が中国にあり、中国の機器メーカーが自国の造船所に食い込めば、新造船の売上が細る。
資本の使い方は悪くない。自己資本比率は 63% で純現金、総還元性向 40% を方針とする。中計で ROE 10% 以上と、無理のない目標を置く点を筆者は評価する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
今は造船の山のただ中にいる。会社によれば、新造船の発注は 2007 年とほぼ同じペースで進む。日本の手持ち工事量は 3.4 年分あり、引き渡しは 2027〜28 年度に集中する。その先の売上はすでに見えている。
問題は 2030 年以降だ。国土交通省の資料が引くクラークソンズの予測では、世界の新造船は 2030 年に 0.82 億総トン、2034 年に 0.94 億総トンと伸びる。環境規制に合わせた船の入れ替えが需要を支える。ただ、造船は過去も 3〜5 年で大きく振れており、10 年で見れば山と谷の両方を通る。
競合の構図は市場ごとに違う。商船では日本無線(JRC)、コングスベルグ、レイセオン(RTX)がいる。プレジャーはガーミン、ナビコ(ブランズウィック傘下)、レイマリン(テレダイン・フリア傘下)が競る。漁船は市場が小さく、漁業者の高齢化で数量は細る。
自動運航への動きは両刃の剣だ。機器の数は増えるが、ソフトを握る相手に主導権を取られる恐れもある。
防衛は国の予算で伸びる。音響と GNSS の技術が生き、数量は 10 年で 2 倍近くになりうる。
資本政策と M&A
還元は総還元性向 40% が基本方針だ。2026 年 10 月には業績の上方修正と同時に、年間配当を大きく引き上げた。自己株式の取得も検討するとしている。
中計は 3 年を投資フェーズと位置づけ、保守網の拡充や防衛、新製品に資金を回す。純現金は時価総額の 4% ほどと小さく、余った現金を分けて評価する場面ではない。
筆頭株主は古野興産(13.3%)、次いで信託銀行の口座(9.2%)、第一生命(3.2%)だ。大きな買収の実績は目立たない。TOB や再編の可能性は、kabufu の計算では 10 年以内に 17% ほどと出る。政策保有株の規模は、今回の調べでは確かめられていない。
還元しても、利益が山を越えれば自己資本は積み上がる。10 年の中立で ROE は 9% 前後にとどまる。会社は ROE 10% 以上を目標とするが、資本の溜まり方によっては自己株買いの上積みが要る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
中計の 2028 年度目標は、すでに低すぎると見られている。2030 年に向けた成長ストーリーでは、売上 1,800 億円、営業利益率 15% 以上、ROE 15% 以上を掲げた。会社が前の目標を 6 年早く達成した実績を踏まえれば、新しい目標も前倒しになりうる。
商船は強い。新造船の発注は 2007 年並みで、日本の手持ち工事量は 3.4 年分ある。新造で積んだ機器は 10 年後の換装需要になり、保守で稼ぐ循環に入る。今期の予想では、部品価格の上昇を増収で吸収できる見通しを示した。
産業用の底上げも見逃せない。防衛装備品は前期 22.6% 増で、第 2 四半期累計の産業用の利益は約 4.4 倍になった。ここが伸びれば、利益率は舶用の景気に頼らず厚くなる。
さらに、自動運航は機器の数と単価を押し上げる。レーダーと電子海図を握る会社は、ソフトの更新収益を取れる。この見方に立てば、10 年後に利益率 15% 近くを保ち、倍率も 14 倍台が正当化される。
慎重な見方
利益率の高さは山のものだ。2008 年 2 月期の 7.4% から 2 年後には 1% 台まで落ちた。会社は今期、為替を足元より円安の水準で見ているが、円が戻れば利益が削られる。輸出が 8 割の会社にとって、為替は事業の質を映した数字ではない。
造船の山は 2030 年前後に過ぎる。その後の新造は減り、換装も船主が先送りする。保守は積み上がるが、新造の売上が落ちる分を埋めるには時間がかかる。
最大の不安は中国だ。造船の手持ち工事量の約 7 割が中国にある。中国の造船所は自国の機器を標準にする力があり、いったん標準が変われば、換装でもシェアを失いかねない。価格が下がれば、利益率は 5% 台に戻る。
プレジャーは軟調で、米国の関税と大手の値下げにさらされる。防衛は伸びるが、売上は 55 億円と小さい。無線 LAN は縮んでいる。この見方に立てば、今の値段は山の利益に 15 倍を払っているにすぎない。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。事業の質は否定しないが、10 年後の利益に付く倍率は ROE と資本コストの差で決まり、その差が小さい。そこへ造船の循環と中国という 2 つの下振れが重なる。確率は悲観側にやや寄せ、やや悲観と悲観を合わせて 4 割とした。楽観は、会社の目標が前倒しになる筋書きとして 1 割弱に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 9,284 円2,935 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,053 円649 億円)。 今の値に割り戻すと 6,057 円1,915 億円、今との差 −20.7%、 期待の年率 +4.0%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 22,158 円7,005 億円 | 3,559 円1,125 億円 | +236.6% | +12.9% | 2,057 円650 億円 |
| やや楽観 | 17% | 15,201 円4,805 億円 | 2,724 円861 億円 | +134.6% | +8.9% | 3,047 円963 億円 |
| 中立 | 35% | 10,974 円3,469 億円 | 2,088 円660 億円 | +71.0% | +5.5% | 4,572 円1,445 億円 |
| やや悲観 | 27% | 3,659 円1,157 億円 | 1,518 円480 億円 | −32.2% | −3.8% | 1,398 円442 億円 |
| 悲観 | 13% | 751 円238 億円 | 1,265 円400 億円 | −73.6% | −12.5% | 262 円83 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,284 円2,935 億円 | 2,053 円649 億円 | +48.4% | +4.0% | 11,336 円3,584 億円 |
今の株価時価総額 7,640 円2,415 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 造船の好況が長引き、サービス収益が二割増しで積み上がる 利益 327 億円 · PER 20.2 倍 · 株価時価総額 22,158 円7,005 億円
造船の好況が想定より長く続き、新造船の引き渡しが 2030 年代前半まで高い水準にとどまる。古野は新造で積んだ機器を換装とサービスにつなぎ、商船の装備シェアを 3 割から 3 割 3 分へ伸ばす。
保守が収益の厚みを作り、商船の営業利益率は 19% に届く。漁船・プレジャーでは米州の高機能ソナーが伸び、利益率は 12% になる。
産業用は防衛装備品と高精度 GNSS が柱になり、売上は今の 2 倍を超える。全社の営業利益率は 14〜15% で、会社が掲げる 2030 年の目標に近い。
この筋書きでは、会社は自己株買いを積極的に進める。ROE は 14% 台になり、倍率も高い水準が正当化される。それでも確率は 1 割に届かない。10 年先まで山の利益率が続く前提が、ここまで多くを求めるからだ。
- 商船向け(新造・換装・保守):数量 6.4(古野の機器が載る世界の商船船腹(億総トン、実質)=世界の船腹 16 億総トン × 装備シェア 30%)× 価格 205(船腹 1 億総トンあたりの売上(億円。機器の値段と保守の単価の名目の指数))→ 売上 1,320 億円・営業利益 251 億円。換装とサービスの比率が高まり、装備シェアも 3 割から 3 割 3 分へ
- 漁船・プレジャーボート向け:数量 3.9(世界の漁船・プレジャー向け電子機器市場(億ドル、実質)× 古野シェア(約 14%))× 価格 1.38(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 811 億円・営業利益 97 億円。米州のソナー需要を捉え、漁船でも更新が進む
- 産業用・その他(防衛・ITS/GNSS・無線LAN):数量 2.1(国内外の防衛・GNSS 向け実質発注規模(億ドル)× 古野シェア(約 9%))× 価格 1.40(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 441 億円・営業利益 57 億円。防衛装備品と高精度 GNSS が柱に育つ
倍率:事業の純利益 327 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍。全体の PER 20.24 倍、時価総額 6,618 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:楽観は 1 割未満。山の利益率が 10 年続き、さらに 15% に届く必要があり、過去の実績からは遠い。
やや楽観 17% 中計の 2028 年度目標を超え、収益性が一段上がる 利益 234 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 15,201 円4,805 億円
造船の山が過ぎても、商船の保守と換装が下支えし、売上は今の 1.6 倍の 2,300 億円近くまで伸びる。中計の 2028 年度目標(売上 1,500 億円・営業利益率 10%)を、10 年かけて超えていく姿だ。
商船の利益率は 16%、漁船・プレジャーは 10% に上がる。プレジャーでは戦略製品が当たり、赤字の無線 LAN は整理される。防衛が伸びて産業用の利益率も 10% に乗る。
営業利益率は 12% で、過去のどの山より高い。それでも会社の 2030 年目標(15%)には届かない。保守という積み上がる収益が、利益率の下値を支える。
ROE は 11% 台。資本コストを 3 ポイントほど上回る良い会社として評価される。
- 商船向け(新造・換装・保守):数量 5.8(古野の機器が載る世界の商船船腹(億総トン、実質)=世界の船腹 16 億総トン × 装備シェア 30%)× 価格 201(船腹 1 億総トンあたりの売上(億円。機器の値段と保守の単価の名目の指数))→ 売上 1,160 億円・営業利益 186 億円。換装の取り込みとサービスの拡大
- 漁船・プレジャーボート向け:数量 3.7(世界の漁船・プレジャー向け電子機器市場(億ドル、実質)× 古野シェア(約 14%))× 価格 1.34(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 736 億円・営業利益 74 億円。プレジャーの戦略製品が当たる
- 産業用・その他(防衛・ITS/GNSS・無線LAN):数量 1.9(国内外の防衛・GNSS 向け実質発注規模(億ドル)× 古野シェア(約 9%))× 価格 1.36(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 377 億円・営業利益 38 億円。防衛が伸び、赤字の無線 LAN を整理
倍率:事業の純利益 234 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍。全体の PER 18.82 倍、時価総額 4,404 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の目標前倒しの実績と、保守という積み上がる収益を認め、2 割弱を置いた。
中立 35% 山を越えたあと、高めの利益率を保つ 利益 173 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 10,974 円3,469 億円
造船の山は 2030 年前後に過ぎ、新造船の引き渡しは平準に戻る。商船の数量は今より 1 割弱増え、保守と換装がそれを支える。売上は名目で年 4% ほど伸び、10 年後に 2,000 億円強になる。
営業利益率は 10% 前後。今の 11.6% より低いが、2023 年 2 月期までの 2〜6% よりはずっと高い。商船は 14%、漁船・プレジャーは 8%、産業用は 7% で、この利益率が保てるのは、サービスの比率が上がるからだ。
漁船は漁業者の高齢化で細り、プレジャーが穴を埋める。防衛は予算の拡大で 2 倍近くになる。無線 LAN は伸びない。
ROE は 9% 前後で資本コストを 1 ポイントほど上回るだけだ。事業の質は良いが、倍率が高くなる水準ではない。
- 商船向け(新造・換装・保守):数量 5.2(古野の機器が載る世界の商船船腹(億総トン、実質)=世界の船腹 16 億総トン × 装備シェア 30%)× 価格 201(船腹 1 億総トンあたりの売上(億円。機器の値段と保守の単価の名目の指数))→ 売上 1,037 億円・営業利益 145 億円。新造船の山が過ぎて数量は平準へ。保守が下支え
- 漁船・プレジャーボート向け:数量 3.4(世界の漁船・プレジャー向け電子機器市場(億ドル、実質)× 古野シェア(約 14%))× 価格 1.34(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 683 億円・営業利益 55 億円。漁船は細り、プレジャーが補う
- 産業用・その他(防衛・ITS/GNSS・無線LAN):数量 1.6(国内外の防衛・GNSS 向け実質発注規模(億ドル)× 古野シェア(約 9%))× 価格 1.34(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 322 億円・営業利益 23 億円。防衛は伸びるが、無線 LAN は伸びない
倍率:事業の純利益 173 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.66 倍、時価総額 3,055 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:山を越えたあとも、営業利益率 10% を保つ筋書きに最も重みを置いた。
やや悲観 27% 造船の谷で売上が縮み、中国勢にシェアを削られる 利益 83 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 3,659 円1,157 億円
造船が谷に入り、新造の引き渡しが落ち込む。同時に、中国の舶用機器メーカーが低価格で食い込み、古野の装備シェアは 3 割から 2 割 9 分に下がる。商船の数量は今の 1 割近く減る。
商船の営業利益率は 9% まで下がる。値下げ圧力を、保守では吸収しきれない。プレジャーでは米国の関税と競合の値下げで利益率が 5% に落ちる。防衛は残るが、利益率は薄い。
全社の営業利益率は 6%。会社は今の目標に届かないまま、過去の山よりやや高いだけの水準に戻る。ROE は 5% 台で資本コストを下回り、ためた利益は額面より低く評価される。
こうした景気循環の谷は、過去 20 年で 4 回の赤字を含めて何度もあった。10 年で 1 回は訪れると見るのが自然だ。
- 商船向け(新造・換装・保守):数量 4.4(古野の機器が載る世界の商船船腹(億総トン、実質)=世界の船腹 16 億総トン × 装備シェア 30%)× 価格 191(船腹 1 億総トンあたりの売上(億円。機器の値段と保守の単価の名目の指数))→ 売上 846 億円・営業利益 76 億円。新造船が谷に入り、中国の舶用機器が低価格で食い込む
- 漁船・プレジャーボート向け:数量 3.1(世界の漁船・プレジャー向け電子機器市場(億ドル、実質)× 古野シェア(約 14%))× 価格 1.30(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 606 億円・営業利益 30 億円。プレジャーで米国の関税と競合の値下げ
- 産業用・その他(防衛・ITS/GNSS・無線LAN):数量 1.4(国内外の防衛・GNSS 向け実質発注規模(億ドル)× 古野シェア(約 9%))× 価格 1.30(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 263 億円・営業利益 11 億円。防衛は残るが利益率は薄い
倍率:悲観側の ROE 5.1% は資本コスト 7.25% を下回る。ためた利益は額面未満の価値なので、PER は上限 1÷k=12.5 倍よりさらに低い 10 倍とした。
確率:造船は過去も大きく振れた。10 年で谷を 1 回通る可能性と、中国の食い込みを合わせ、3 割近くに寄せた。
悲観 13% 構造的に負ける:中国の標準品が商船の機器を奪う 利益 25 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 751 円238 億円
構造的に負ける。中国の造船所が自国製の航海機器を標準として採用し、古野は新造だけでなく換装でもシェアを失う。装備シェアは 3 割から 2 割 5 分に落ち、商船の数量は今の 3 割近く減る。
値段も下がる。中国製の標準品が基準になり、サービスの値付けも維持できない。商船の利益率は 5% まで下がる。プレジャーは大手に押され、利益率は 3%、産業用は防衛を除いて縮み、収支はゼロに近い。
全社の売上は 1,300 億円を下回り、営業利益はわずか数十億円になる。もう優良な会社ではない。配当は維持されるが、自己株買いをする余力は小さい。
稼ぐ力は小さいが、純現金は残る。それが価値の下限になる。
- 商船向け(新造・換装・保守):数量 3.3(古野の機器が載る世界の商船船腹(億総トン、実質)=世界の船腹 16 億総トン × 装備シェア 30%)× 価格 177(船腹 1 億総トンあたりの売上(億円。機器の値段と保守の単価の名目の指数))→ 売上 584 億円・営業利益 29 億円。中国の造船所が自国製の機器を標準採用し、換装でもシェアを失う
- 漁船・プレジャーボート向け:数量 2.6(世界の漁船・プレジャー向け電子機器市場(億ドル、実質)× 古野シェア(約 14%))× 価格 1.20(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 472 億円・営業利益 14 億円。プレジャーはガーミンなど大手に押される
- 産業用・その他(防衛・ITS/GNSS・無線LAN):数量 1.1(国内外の防衛・GNSS 向け実質発注規模(億ドル)× 古野シェア(約 9%))× 価格 1.20(名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算))→ 売上 198 億円・営業利益 0 億円。防衛以外は縮小
倍率:悲観の純利益 25 億円は ROE 1.9% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 10.0 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 9.5 倍(時価総額 237.5 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。稼ぐ力(利益 ÷ k)に近い 12 倍を置き、純現金は別に床として足している。
確率:中国の造船が手持ち工事量の約 7 割を占め、自国機器の標準化が進む筋書きは現実的。悲観を 1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
商船向け(新造・換装・保守)
貨物船・タンカーなどの船に積むレーダー・電子海図・衛星通信・自動操舵などの航海機器と、その保守サービス。
| 数量古野の機器が載る世界の商船船腹(億総トン、実質)=世界の船腹 16 億総トン × 装備シェア 30% | 価格船腹 1 億総トンあたりの売上(億円。機器の値段と保守の単価の名目の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 4.8 | 150 | 720 | 126 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 201 | 1,037 | 145 |
取り方:開示は舶用全体 1,211 億円だけなので、商船は舶用の約 6 割(720 億円)と推定した。世界の船腹は約 16 億総トン、レーダーの世界シェアは 4 割強、全機器の装備シェアは 3 割と置いて、装備相当の船腹 4.8 億総トンから売上を割り戻した(いずれも推定)。数量は実質(隻数と船の大きさ)、物価 3% は価格に入れる。新造船の山で今の売上は平準より厚いので、10 年後の中立では循環分 −10% を数量に入れた。商船の利益は舶用の利益 167.6 億円を商船と漁船・プレジャーに 126 億円と 41.6 億円に分けた推定。
漁船・プレジャーボート向け
漁船の魚群探知機・ソナーと、プレジャーボートの GPS プロッター・レーダー・ソナー。
| 数量世界の漁船・プレジャー向け電子機器市場(億ドル、実質)× 古野シェア(約 14%) | 価格名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3.3 | 1.00 | 491 | 42 |
| 10 年後 中立 | 3.4 | 1.34 | 683 | 55 |
取り方:舶用 1,211 億円のうち商船を除いた 491 億円と推定。漁船向けは 180 億円ほど(世界シェア約 5 割)、プレジャーは 310 億円ほど(シェア約 1 割)とみて、市場は合わせて約 23 億ドル(推定)、古野の取り分は 14% 前後。シェアは数量の側に置き、価格は値段の指数にした。ドル円は 150 円で固定。
産業用・その他(防衛・ITS/GNSS・無線LAN)
防衛装備品、カーナビ・自動運転向けの高精度 GNSS、無線 LAN・ハンディターミナルなど。
| 数量国内外の防衛・GNSS 向け実質発注規模(億ドル)× 古野シェア(約 9%) | 価格名目の価格指数(今を 1.0。1 億ドル相当あたり 150 億円換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 1.3 | 1.00 | 195 | 8 |
| 10 年後 中立 | 1.6 | 1.34 | 322 | 23 |
取り方:産業用 158 億円(ITS・GNSS 88 億円、防衛装備品 55 億円、無線 LAN 33 億円)に、舶用でも産業用でもない約 37 億円を足して 195 億円とした(連結 1,406 億円との差)。対象市場は約 14 億ドル、古野のシェアは約 9% と推定。防衛は国の予算で数量が伸びる見込みで、無線 LAN・ハンディターミナルは文教の低迷が続く。
リスクと懸念
造船の山が過ぎたあとの谷
新造船の発注は 2007 年並みで、日本の手持ち工事量は 3.4 年分ある。だが 2008 年のあと営業利益率は 1% 台まで落ち、赤字の年も 4 回ある。山が終われば、今の売上と利益は一気に薄くなりうる。保守がどこまで下支えできるかが分かれ目だ。
中国勢の台頭と標準化
造船の手持ち工事量の約 7 割は中国にある。中国の造船所が自国の航海機器を標準とすれば、新造だけでなく換装も奪われる。古野は中国市場で販売が伸びたが、その市場こそ最大の依存先でもある。
為替の戻り
2027 年 2 月期の予想は、ドルもユーロも前期より円安の前提だ。売上の 8 割が海外で、円が少し戻るだけで利益が数十億円動く。この分析はドル円を 150 円で固定しているため、会社予想より利益は薄く出る。
部品価格の上昇と調達
電子部品や半導体の価格上昇は、増収で吸収できているが、売上が伸びなくなると利益を直接削る。調達は世界の供給網に依存し、地政学の混乱が納期に響く。
プレジャーボート市場の軟化
プレジャーの世界市場は軟調で、古野のシェアは 1 割ほどだ。ガーミン、ナビコ、レイマリンが競り、米国の関税の影響も受ける。米州は前期 29% 伸びたが、持続するかは分からない。
産業用の規模が小さい
防衛装備品は伸びているが売上は 55 億円で、全体の 4%。国の予算に左右される。無線 LAN・ハンディターミナルは学校向けが落ちており、足を引っ張る。
今後の分かれ目
- 新造船の発注が 2030 年を前に急減する
- 商船の売上は大きく減り、営業利益率は 10% を割る。保守の比率が高まるまでの数年は、中立よりやや悲観に近づく。
- 中国の造船所が自国製の航海機器を標準にする
- 換装でも古野のシェアが落ち、商船の利益率が 10% 台前半から 1 桁へ下がる。悲観の筋書きに近づく。
- 保守・サービスの売上と利益が開示され、全社の 3 割を超える
- 利益の山谷が小さくなる。中立の利益率 10% は守りやすくなり、やや楽観に重みが移る。
- 防衛装備品が毎年 2 割以上伸び、産業用の利益率が 10% を超える
- 舶用の景気に頼らない利益が育つ。全社の利益率が 12% に近づき、やや楽観の筋書きに近づく。
- ドル円が会社予想の前提より 2 割ほど円高に戻る
- 売上の 8 割が海外のため、利益は大きく削られる。この分析は 150 円固定で、そこからの下振れとして読む。
見ておくもの
- 舶用の営業利益率と保守サービスの売上比率
- 新造船の発注量と日本の手持ち工事量(日本船舶輸出組合)
- 中国の造船所での古野製品の採用の動き
- 防衛装備品と ITS・GNSS の売上の伸び
- 自己株式の取得の発表と総還元性向
- ドル円とユーロ円の水準
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10 年中立の ROE 9.2%・資本コスト 7.25% から式で決めた。ROE が資本コストを少し超えるだけなので、1÷k(12.5 倍)に近い 12.7 倍になった。今の PER や同業の倍率は根拠にしていない。結果として、今の値段は中立の本質価値を大きく上回る。
会社の今期予想は今より円安を前提とするが、この分析はドル円 150 円固定で、中立の利益は円安の分を含まない。賃借(海外拠点)は小さく、数字の形は変えていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→20.24 倍・やや楽観 PER 12.9→18.82 倍・中立 PER 12.7→17.66 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5% を足して k 7.25%。個別のリスク(中国、為替、関税)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。