結論
シンフォニアテクノロジーは、半導体工場のウエハ搬送装置と特殊モーターを軸に、航空機用電源、EV用の試験装置、電気設備まで手がける電機メーカーだ。100年を超えるモーター技術が土台にある。筆者の結論は、事業は確かに良くなったが、今の値段は10年先までの追い風を先取りしすぎている、というものだ。
追い風は本物である。営業利益率は10年前の3%台から14%台まで上がった。ロードポート(ウエハを製造装置へ出し入れする窓口)では世界首位をうたい、航空機用電源は国内で唯一のメーカーだ。受注残は約1,450億円と、売上の1年分を超える。
ただし、利益の中身は景気に左右される。稼ぎの柱は半導体装置の設備投資で、この需要は数年おきに大きく落ちる。2020年3月期の純利益は今の1割強まで縮んだ。EV向けの自動車試験装置は需要が細り、ウエハ搬送ではローツェなど専業が価格で競り合っている。
防衛は別の話だ。受注が長く続き、景気にあまり左右されない。ただ全社の中では小さく、半導体の波をならすには足りない。
10年の中立では、売上は今の1.7倍、純利益は1.5倍ほどに育つと見る。物価の上昇を除けば、成長は緩やかだ。そこに付く倍率は10倍強で、いまの25倍超とは開きが大きい。総合では本質価値が今の時価総額の4割強にとどまる「割高」だ。良い会社だが、いまの値段で持つ理由は見つからない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い事業の入り口にいる、小さな会社」と映る。
事業の本質は、顧客の装置に入り込む部品を作ることだ。入り込んだ後は替えられにくく、利益率も高い。ただ、顧客は数社の大手装置メーカーに集中し、その発注は景気で大きく振れる。オーナーとして持つなら、振れ幅を覚悟する必要がある。
堀は中くらいだ。ロードポートで首位でも、搬送の市場は小さく、専業が競る。航空機電源は国内唯一でも、売上の1割強(推定)にとどまる。10年先も今の利益率を保てる堀とまでは言えない。
資本の使い方は、いま試されている段階だ。設備投資が急に増え、能力を倍にする計画はうまくいけば大きな利益を生む。しかし需要が読みを外せば、設備が重荷になる。経営は慎重で、借金が軽いのは安心材料だ。
安全域は今の値段にはない。10年後の純利益を1.5倍と見ても、成長を織り込んだ値段が先に付いている。良い会社と、良い値段は別の話だ。
筆者がこの会社を持ちたいと思う値段は、今の半分に届かない水準になる。景気の谷で値段が大きく下がった時に、改めて見直したい。
何で稼ぐ会社か
シンフォニアは、4つの事業で稼ぐ。2026年3月期の売上は1,282億円で、モーション機器が4割、クリーン搬送システムとパワーエレクトロニクス機器、エンジニアリング&サービスが各2割前後だ。
クリーン搬送システムは、半導体の製造装置の前段でウエハを出し入れするロードポートやEFEM(装置の前に付く搬送モジュール)を作る。顧客は世界の大手装置メーカーと検査装置メーカーで、後者での採用が強みだ。豊橋製作所を中心に、生産能力を2倍にする投資を進めている。
モーション機器は最大の事業で、中身が広い。精密な位置決めに使うダイレクトドライブモーター、アクチュエーター、産業用ロボットや昇降機に使う電磁ブレーキなどがあり、半導体装置向けが伸びている。航空機用の電源システムもここに入る。国内唯一のメーカーで、400品目を超える。防衛の需要で受注残が厚い。
パワーエレクトロニクス機器は、EV・HEV向けのモーター試験装置、振動機、下水道施設などの電気設備、車両制御機器で構成する。自動車試験装置はEVの減速で受注が細っている。
エンジニアリング&サービスは、子会社のシンフォニアエンジニアリングが担う。電気設備の工事、保守、半導体の搬送ラインの据え付けが中心で、景気の波が小さい。
全社の方針は「技術オリエンテッド」。顧客の注文に合わせて技術で応える受注型で、標準品を大量に売る会社ではない。この性格が、高い利益率と景気の影響を受けやすい体質の両方を生んでいる。
優良さと弱いところ
筆者は、この会社の堀を「中くらい」と見る。世界首位の製品を持つが、市場自体が小さい。
強みは3つある。1つ目はロードポートの採用実績だ。装置メーカーは一度採用した部品を簡単に替えない。2つ目は100年超のモーターと電源の技術で、航空機電源や特殊モーターは他社が入りにくい。3つ目は豊橋の工場に積み上げた搬送の知見だ。
弱みも目立つ。主戦場のウエハ搬送は、ローツェやブルックス、ヒラタなどが競る市場だ。ローツェは専業で規模が大きい。大手装置メーカーは調達先を絞り、価格を強く求める。中国の装置メーカーが育てば、地場の搬送部品メーカーに発注が流れるおそれもある。
利益率は上がったが、安定しているとは言い切れない。営業利益率は2020年3月期に3%台まで落ち、10年の中央値は8%近くだ。直近の14%台は、半導体と防衛が同時に好調な時期の数字である。
資本の使い方は、いま変わる途中にある。ROEは15%前後まで上がったが、設備投資が前年の2.6倍に膨らみ、これから減価償却が重くなる。投資の成否は数年後にならないと分からない。
経営は慎重で、借金は軽い。政策保有株の売却を進め、配当の目安も「30%以上」に引き上げた。自社株買いには踏み込んでおらず、資本効率への姿勢は穏やかだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の需要は、半導体の設備投資、防衛と宇宙、国内のインフラ更新の3つに分かれる。それぞれ景気との関係が違う。
半導体は伸びる市場だ。AIの計算需要が装置の投資を押し上げている。ウエハを運ぶ搬送機器の市場も、装置の台数と工程数に比例して広がる。ただ、装置投資は2〜3年おきに山と谷を繰り返す。谷では受注が大きく落ちる年が珍しくない。
防衛と宇宙は、国の予算に支えられる。防衛力の強化で航空機の電装品や地上電源の需要が増え、受注が数年にわたって続く。景気の波は小さいが、官公庁相手で値段交渉の余地は限られる。
国内のインフラは更新需要が中心だ。下水道、鉄道、工場の電気設備は人口と共に量は増えず、更新と保守で一定の需要が続く。伸びは緩い。
EV向けの試験装置は逆風だ。自動車各社がEVの開発を絞り、試験装置の発注が細っている。この事業は、いまの利益から薄くなると見ている。
競争の構図は事業ごとに違う。搬送ではローツェ、ブルックス、ヒラタ。モーターでは安川電機、ファナックなど大手が上にいて、シンフォニアは特殊用途で棲み分ける。
FA・ロボット業界全体では、中国系の追い上げと価格競争が構造的な逆風だ。同社は特殊用途に絞ることで影響を受けにくいが、価格競争と無縁ではない。
筆者は、この領域の中堅に共通する弱みを、顧客の少なさと需要の波だと見ている。キーエンスのように直販で値段を決める会社と違い、受注型の会社は景気の山で利益が膨らみ、谷で縮む。同社は防衛と電気設備の安定した事業を持つ点で、純粋な半導体装置の部品メーカーよりは波が小さい。
資本政策と M&A
資本政策は、堅実だが物足りない。配当の目安は性向30%以上で、3年間の還元総額は約120億円を見込む。自社株買いの方針は示していない。
M&Aは「外部との協業」として中計に入っているが、規模や対象は未定だ。技術者の増強が目的で、大きな買収に走る会社ではない。
設備投資は中計の3年で約500億円を投じる。うち320億円が拡大投資で、半導体搬送の能力倍増と航空宇宙の増強に使う。原資は営業キャッシュフローと政策保有株の縮減で、財務は無理をしていない。
大株主は信託銀行が中心で、神戸製鋼所の退職給付信託とダイキン工業が続く。神戸製鋼所の持ち分は年々薄れている。特定の支配株主はおらず、親子上場の問題は小さい。キャピタル・グループが5%超を持つ。TOBや大口株主の働きかけは確認できなかった。
筆者は、投資が先行している分、まず稼ぎの質を確かめたい。自社株買いが入れば、資本効率の評価は上がる。ただ、現金が余っているわけではなく、増配の余地も大きくない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の長期の成長は、まだ序盤にある。AIの計算需要は装置の投資を押し上げ、ウエハを運ぶ搬送機器の需要も同時に膨らむ。シンフォニアはロードポートで世界首位をうたい、検査装置メーカーに強い。装置の数が増えれば、同社の出荷も確実に増える。
能力倍増の投資は、需要の先回りだ。2030年に売上2,000億円、半導体関連800億円という目標は、受注残が売上の1年分を超える今、現実味がある。
航空宇宙も追い風が長い。防衛力の整備は10年単位の話で、国内唯一の航空機電源メーカーに代わりはいない。モーション機器の営業利益が前年比4割増えたことが、事業ミックスの質が変わった証拠だ。
利益率は14%台に乗った。中計は27年度に14%以上を掲げ、27年3月期の予想は営業利益210億円と増益を続ける。ROE15%も視野に入る。10年かけて売上が倍になれば、純利益は今の2倍を超える。
株主還元の余地も大きい。配当性向の目安は「30%以上」に引き上げられ、借金はほぼ無い。設備投資の山を越えれば、フリーキャッシュフローが増え、自社株買いに回せる。小さな会社は、利益が伸びる間に倍率も切り上がりやすい。
慎重な見方
今の利益は、半導体と防衛が同時に好調な、めったにない時期の数字だ。営業利益率は10年の中央値の2倍近くにあたり、過去には景気の谷で3%台まで落ちた。山の利益に高い倍率を付けるのは危うい。
ウエハ搬送は専業が多く、ローツェのような競合が規模で上回る。装置メーカーは調達を絞り、価格を強く求める。中国の装置メーカーが育てば、日本の搬送部品の発注先が変わるおそれもある。
EV向けの自動車試験装置は、すでに受注が細っている。この事業の落ち込みは続き、全社の利益を押し下げる。
能力倍増の投資も重荷になりうる。設備投資は前年の2.6倍で、減価償却はこれから重くなる。需要が読みを外せば、稼働率が落ち、利益率は急に下がる。
防衛は全社の1割強(推定)で、半導体の谷を埋められない。今の株価の倍率は景気の山で付いている。谷が来れば、利益と倍率が同時に縮み、時価総額は大きく減る。
資本の使い方にも疑問が残る。投資有価証券は増え、自社株買いは無い。設備投資が先行する間は、株主に戻る現金が細る。小さな会社は、顧客の1社の方針転換で受注が数割動く。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。追い風は事実だが、いまの利益が景気の山にあり、10年の中立でも純利益は1.5倍ほどの伸びにとどまる。この成長に付く倍率は10倍強で、今の値段に届かない。
確率は、中立に3割強を置き、景気の谷と競争で崩れる側(やや悲観と悲観)に3割強を寄せた。強気の筋書きが実現しても、今の時価総額を大きくは上回らない。一方で、財務が軽く事業の中身が良いので、悲観は深く置いても1割強にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 11,342 円3,200 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,329 円657 億円)。 今の値に割り戻すと 6,980 円1,969 億円、今との差 −40.0%、 期待の年率 +1.6%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 20,053 円5,658 億円 | 3,204 円904 億円 | +99.8% | +7.2% | 2,326 円656 億円 |
| やや楽観 | 24% | 16,413 円4,631 億円 | 2,768 円781 億円 | +64.8% | +5.1% | 4,604 円1,299 億円 |
| 中立 | 32% | 12,379 円3,493 億円 | 2,311 円652 億円 | +26.2% | +2.4% | 4,701 円1,326 億円 |
| やや悲観 | 22% | 5,844 円1,649 億円 | 2,056 円580 億円 | −32.1% | −3.8% | 1,738 円490 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,250 円353 億円 | 1,269 円358 億円 | −78.4% | −14.2% | 302 円85 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,342 円3,200 億円 | 2,329 円657 億円 | +17.4% | +1.6% | 13,670 円3,857 億円 |
今の株価時価総額 11,640 円3,284 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:AIの半導体投資と防衛が10年続く 利益 338 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 20,053 円5,658 億円
AI向けの半導体投資が10年にわたって続き、ロードポートの採用が装置メーカーに広がる。同社の搬送は世界の大手装置と検査装置に入り込み、能力倍増の設備がフル稼働する。半導体関連の売上は、中計が掲げる800億円を大きく超える。
防衛の予算も伸びる。航空機電源の受注は年々積み上がり、増強した設備が埋まる。ダイレクトドライブモーターなどの特殊モーターは、半導体装置とロボットの両方で採用が増える。
利益率は17%近くまで上がり、会社の目標を超える。EV向け試験装置の落ち込みは、他の事業の伸びが十分に埋める。自社株買いも始まり、還元が厚くなる。
同社の特殊用途への絞り込みが、大手との直接競争を避ける盾になる。
- クリーン搬送システム:数量 3.9(世界のウエハ搬送機器(ロードポート・EFEM・ソーター)市場(億ドル、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 789 億円・営業利益 158 億円。数量 2.1 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 20.0%
- 航空宇宙・防衛機器:数量 2.0(国内の航空宇宙・防衛向け電装機器の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 402 億円・営業利益 76 億円。数量 2 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 19.0%
- モーション機器(航空宇宙を除く):数量 3.6(特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキの市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 718 億円・営業利益 101 億円。数量 1.5 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 14.0%
- パワーエレクトロニクス機器:数量 1.9(試験装置・電気設備・振動機の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 387 億円・営業利益 54 億円。数量 1.15 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 14.0%
- エンジニアリング&サービス:数量 2.0(電気設備工事・保守の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 409 億円・営業利益 65 億円。数量 1.25 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 16.0%
倍率:事業の純利益 338 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.73 倍、時価総額 5,658 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体と防衛の両方が10年にわたって想定を超える筋書きなので1割にとどめた。景気の波が入らない前提が厳しい。
やや楽観 24% やや強気:山谷を超えて成長が続く 利益 278 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 16,413 円4,631 億円
半導体の投資は山と谷を繰り返しながら、10年で見ると右肩上がりになる。ロードポートの首位は守り、検査装置メーカー向けの強みも続く。搬送の値段は競争で物価ほどには上がらない。
防衛と宇宙は堅調で、航空宇宙の売上は今の2倍を超える。能力を倍にした設備は、遅れながらも埋まっていく。特殊モーターはロボットと半導体装置の両方で採用が増える。EV向けの試験装置は縮むが、下水道などの電気設備の更新が下支えする。
利益率は15%台で安定し、中計の14%以上を守る。配当は性向30%超を保ち、自社株買いは小さく始まる程度だ。強気の筋書きほど勢いはないが、会社の計画が大筋で実現した姿である。
子会社の工事部門も、半導体の搬送ラインの据え付けで伸びる。
- クリーン搬送システム:数量 3.5(世界のウエハ搬送機器(ロードポート・EFEM・ソーター)市場(億ドル、実質)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 675 億円・営業利益 122 億円。数量 1.85 倍・値段 1.30 倍・営業利益率 18.0%
- 航空宇宙・防衛機器:数量 1.8(国内の航空宇宙・防衛向け電装機器の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 352 億円・営業利益 62 億円。数量 1.75 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 17.5%
- モーション機器(航空宇宙を除く):数量 3.3(特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキの市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 660 億円・営業利益 86 億円。数量 1.38 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 13.0%
- パワーエレクトロニクス機器:数量 1.8(試験装置・電気設備・振動機の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 353 億円・営業利益 46 億円。数量 1.05 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 13.0%
- エンジニアリング&サービス:数量 1.9(電気設備工事・保守の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 383 億円・営業利益 59 億円。数量 1.17 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 15.5%
倍率:事業の純利益 278 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.24 倍、時価総額 4,518 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の方向(半導体・防衛の拡大)が景気の波を挟みつつ実現する筋書き。受注残が厚く、実現しやすいので2割台半ばに置いた。
中立 32% 中立:景気の波を受けながら緩やかに成長 利益 215 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 12,379 円3,493 億円
半導体と防衛の需要は続くが、10年で見れば景気の波が必ず入る。搬送の数量は今の1.6倍まで伸びるが、競争で値段は物価ほど上がらない。
航空宇宙は防衛力の整備で伸び続ける。モーション機器は半導体装置とロボットの需要で数量が1.25倍になり、値段は物価並みに上がる。パワーエレクトロニクスは、EV試験装置の減少を電気設備の更新と振動機が埋め、数量は横ばいだ。
利益率は13%前後に落ち着く。いまの14%台は、山の時期の数字で、10年平均の姿は少し低い。能力倍増の投資で減価償却が増える点も効く。売上は今の1.7倍、純利益は1.5倍になる。
受注残が厚いため、5年ほどは増益が続く。その後、半導体の谷が1回入り、10年平均の姿に戻る。
- クリーン搬送システム:数量 3.0(世界のウエハ搬送機器(ロードポート・EFEM・ソーター)市場(億ドル、実質)× シェア)× 価格 1.25(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 561 億円・営業利益 87 億円。数量 1.6 倍・値段 1.25 倍・営業利益率 15.5%
- 航空宇宙・防衛機器:数量 1.5(国内の航空宇宙・防衛向け電装機器の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 302 億円・営業利益 47 億円。数量 1.5 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 15.5%
- モーション機器(航空宇宙を除く):数量 3.0(特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキの市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 598 億円・営業利益 69 億円。数量 1.25 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 11.5%
- パワーエレクトロニクス機器:数量 1.7(試験装置・電気設備・振動機の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 336 億円・営業利益 39 億円。数量 1 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 11.5%
- エンジニアリング&サービス:数量 1.8(電気設備工事・保守の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 360 億円・営業利益 49 億円。数量 1.1 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 13.5%
倍率:事業の純利益 215 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.35 倍、時価総額 3,303 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:景気の波を含む平均的な姿。事業の中身が3つの需要に分かれ、予測のぶれが大きいので3割強にとどめた。
やや悲観 22% やや弱気:半導体の長い谷と能力過剰 利益 146 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 5,844 円1,649 億円
半導体投資が長い谷に入る。AIの需要は続くが、装置の投資は先食いされ、数年にわたり停滞する。能力を倍にした設備が余り、搬送の値段が下がる。
EV向けの試験装置は大きく縮み、パワーエレクトロニクスの数量は2割近く減る。モーションも半導体向けが鈍り、値段は物価ほど上がらない。防衛は堅調だが、全社を支える規模にはならない。
利益率は11%まで落ちる。2020年3月期のような谷を、10年のうちにもう一度経験する筋書きだ。純利益は今と同じ水準にとどまり、自己資本の利益率は資本コストを下回る。それでも財務は軽いので、配当は性向30%超を保てる。
中計が掲げた2030年の売上2,000億円には届かず、設備を絞る判断が遅れる。
- クリーン搬送システム:数量 2.4(世界のウエハ搬送機器(ロードポート・EFEM・ソーター)市場(億ドル、実質)× シェア)× 価格 1.15(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 419 億円・営業利益 55 億円。数量 1.3 倍・値段 1.15 倍・営業利益率 13.0%
- 航空宇宙・防衛機器:数量 1.3(国内の航空宇宙・防衛向け電装機器の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 254 億円・営業利益 36 億円。数量 1.3 倍・値段 1.30 倍・営業利益率 14.0%
- モーション機器(航空宇宙を除く):数量 2.5(特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキの市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.25(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 469 億円・営業利益 45 億円。数量 1.05 倍・値段 1.25 倍・営業利益率 9.5%
- パワーエレクトロニクス機器:数量 1.4(試験装置・電気設備・振動機の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.25(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 267 億円・営業利益 24 億円。数量 0.85 倍・値段 1.25 倍・営業利益率 9.0%
- エンジニアリング&サービス:数量 1.6(電気設備工事・保守の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 317 億円・営業利益 38 億円。数量 1 倍・値段 1.30 倍・営業利益率 12.0%
倍率:ROE 7.8% は k 7.75% を下回り、新規投資は k 並みの稼ぎしかない。正当化 PER は 1÷k=12.1 倍が上限。搬送の価格競争と過剰設備で利益の質が低いため、上限の約 8 割の 9.5 倍に置いた。
確率:半導体投資は2〜3年おきに波があり、10年のうちに長い谷が入る確率は高い。能力倍増の投資の時期と重なる点を重く見て2割強とした。
悲観 12% 弱気:搬送で負け、投資が重荷になる 利益 44 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,250 円353 億円
構造的に負ける筋書きだ。中国の装置産業が育ち、日本の搬送部品はシェアを失う。ローツェなどの専業が価格を下げ、ロードポートは標準品になる。大手装置メーカーは調達先を絞り、同社の採用は減る。
能力倍増の投資は稼働せず、減損に追い込まれる。EV向けの試験装置は市場ごと消え、モーターもロボット向けの価格競争で利益が出なくなる。防衛は残るが、全社の落ち込みを埋められない。
営業利益率は5%台まで落ち、純利益は今の3割まで減る。優良な中堅メーカーから、ふつうの電機メーカーに戻る。株主への還元も、配当を守るので精いっぱいになる。
中計の「技術オリエンテッド」は、顧客に選ばれてこそ成り立つ。選ばれなくなれば、強みが弱みに変わる。
- クリーン搬送システム:数量 1.7(世界のウエハ搬送機器(ロードポート・EFEM・ソーター)市場(億ドル、実質)× シェア)× 価格 1.00(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 252 億円・営業利益 15 億円。数量 0.9 倍・値段 1.00 倍・営業利益率 6.0%
- 航空宇宙・防衛機器:数量 1.1(国内の航空宇宙・防衛向け電装機器の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.15(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 181 億円・営業利益 16 億円。数量 1.05 倍・値段 1.15 倍・営業利益率 9.0%
- モーション機器(航空宇宙を除く):数量 1.9(特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキの市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.10(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 314 億円・営業利益 13 億円。数量 0.8 倍・値段 1.10 倍・営業利益率 4.0%
- パワーエレクトロニクス機器:数量 1.0(試験装置・電気設備・振動機の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.10(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 166 億円・営業利益 5 億円。数量 0.6 倍・値段 1.10 倍・営業利益率 3.0%
- エンジニアリング&サービス:数量 1.4(電気設備工事・保守の市場(億ドル換算、実質)× シェア)× 価格 1.15(値段の指数(今を 1.00、名目))→ 売上 239 億円・営業利益 17 億円。数量 0.85 倍・値段 1.15 倍・営業利益率 7.0%
倍率:ROE 3.9% は k を大きく下回り、稼ぐ力は純利益 ÷ k = 535 億円(約 12 倍)が上限。構造的に負けて残る事業は縮小傾向で、8 倍に置いた。今の自己資本への PBR は 0.3 倍台。
確率:技術と競争で構造的に負ける筋書き。特殊用途に絞っているので全面的な崩れは起きにくいが、中国の装置産業の台頭とEV試験装置の消滅が重なる確率として1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
クリーン搬送システム
半導体製造装置の前段でウエハを出し入れするロードポートとEFEM、真空搬送などを作る。顧客は世界の装置メーカーと検査装置メーカー。
| 数量世界のウエハ搬送機器(ロードポート・EFEM・ソーター)市場(億ドル、実質)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 1.00 | 280 | 48 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 1.25 | 561 | 87 |
取り方:事業の売上280億円(決算短信)。市場は約20億ドル(ブルックス・ローツェ・ヒラタ・サイメックス・シンフォニアなど上位4社で約7割という調査と、ローツェの売上規模からの推定)、シェア約9.4%と置いて1.87億ドル。150円で円換算。営業利益48億円は決算短信の値。
航空宇宙・防衛機器
航空機用電源システム、地上電源車(GPU)、ロケット向け機器。国内唯一の航空機電源メーカーで、防衛需要の受注残が厚い。
| 数量国内の航空宇宙・防衛向け電装機器の市場(億ドル換算、実質)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 1.00 | 150 | 25 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 1.34 | 302 | 47 |
取り方:モーション機器の中の航空宇宙の売上と利益は非開示なので推定。市場約1,500億円(防衛・民間・宇宙の電装と地上支援機器)、シェア10%、営業利益率17%と置いた。残りのモーション機器と合わせて決算短信のモーション機器(売上507億円・営業利益69億円)になる。
モーション機器(航空宇宙を除く)
ダイレクトドライブモーター、アクチュエーター、電磁クラッチ・ブレーキ。半導体装置、ロボット、昇降機、工作機械向け。
| 数量特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキの市場(億ドル換算、実質)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.4 | 1.00 | 357 | 44 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 1.34 | 598 | 69 |
取り方:モーション機器507億円から航空宇宙の推定150億円を引いた357億円。市場約6,000億円(特殊モーター・アクチュエーター・ブレーキ)の約6%という推定。営業利益は69億円から航空宇宙の25億円を引いた44億円(利益率12%)。
パワーエレクトロニクス機器
EV・HEV向けのモーター試験装置、振動機、下水道などの電気設備、車両制御機器。
| 数量試験装置・電気設備・振動機の市場(億ドル換算、実質)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 1.00 | 251 | 33 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 1.34 | 336 | 39 |
取り方:事業の売上251億円・営業利益33億円(決算短信)。市場約5,000億円の約5%と置いた推定。自動車試験装置の減少で前期比4.5%減収。
エンジニアリング&サービス
子会社シンフォニアエンジニアリングによる電気設備の工事・保守、半導体搬送ラインの据え付け。
| 数量電気設備工事・保守の市場(億ドル換算、実質)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 1.00 | 244 | 37 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 1.34 | 360 | 49 |
取り方:事業の売上243億円・営業利益37億円(決算短信)。市場約4,000億円の約6%と置いた推定。受注は前期比4割増で、大型の電気設備工事が入った。
リスクと懸念
半導体の設備投資の谷
売上と利益の柱は半導体装置向けで、装置の投資は2〜3年おきに山と谷を繰り返す。谷では受注が急に細り、能力を倍にした設備が余る。過去には2020年3月期に純利益が今の1割強まで縮んだ。
搬送の価格競争と顧客の集中
ウエハ搬送ではローツェ、ブルックス、ヒラタなどが競る。顧客は数社の大手装置メーカーに偏り、調達を絞って価格を求められる。ロードポートが標準品になれば、利益率が崩れる。
中国の装置産業の台頭
中国の装置メーカーが育てば、日本の搬送部品の発注先が地場に移るおそれがある。輸出規制の強化も、顧客の投資計画を乱す。同社の搬送機器は米国・台湾・日本の装置向けが中心だ。
EV向け試験装置の縮小
EVの開発を絞る自動車各社の動きで、自動車用試験装置の受注が減っている。パワーエレクトロニクスの売上は前期4.5%減だった。この事業は戻らない前提で見ておく必要がある。
設備投資の負担
設備投資は前期に約98億円と2.6倍に増え、中計の3年で拡大投資に320億円を使う。需要が読みを外せば、稼働率が下がり、減価償却が利益を押し下げる。減損の可能性も残る。
防衛需要の偏り
航空宇宙は国の予算に頼るため、予算の組み方や調達の時期で受注が動く。官公庁向けは値段交渉の余地も小さい。全社の中では規模が小さく、半導体の谷を埋める力は限られる。
今後の分かれ目
- AI向けの半導体装置の投資が2〜3年先も伸び続け、受注が増えたら
- 強気側の筋書きに重みを移してよい。ただし能力倍増の投資が先に効いてくるため、利益の伸びは売上より遅れる。
- 半導体装置の投資が減速し、クリーン搬送の受注が前年を割ったら
- 弱気側の筋書きに重みを移す。能力倍増の稼働率が下がり、利益率が一気に下がる。
- 航空宇宙の受注残が積み上がり、増強した設備が埋まったら
- 事業ミックスの質が上がるので、中立の利益率を少し上げて見てよい。
- 自社株買いや大幅な増配を決めたら
- 資本効率への姿勢が変わった合図。還元が厚くなる分、中立の自己資本利益率が上がる。ただし現金は多くないため、借金での買い戻しは評価しない。
- 中国系の装置メーカーが大手の座に入り、日本の搬送部品から発注を移し始めたら
- シェアを失う筋書き(弱気)の確率を上げる。ロードポートの値崩れが利益を直撃する。
- 他社による買収提案(TOB)が出たら
- 本質価値は変わらないが、買い手がつく値段は事業の価値に近くなる。いまの値段より低い提案なら、割高の見立ては変わらない。
見ておくもの
- クリーン搬送システムの受注高と受注残
- 半導体装置メーカー各社の設備投資計画
- 航空宇宙・防衛の受注残と生産能力の稼働
- パワーエレクトロニクスの自動車試験装置の受注
- 営業利益率(14%台を保てるか)
- 設備投資と減価償却の増え方、減損の有無
- 自社株買いと配当性向の見直し
倍率と資本コストの決め方
倍率は式だけで決めた。k は基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%、g は 4%、残る割合は普通の 1/2。中立の ROE は 10% で、正当化 PER は 13 倍、利益の質から 8.5 割の 11.2 倍に置いた。今の PER(25 倍超)や同業・過去の倍率は見ていない。今の株価が倍でも半分でも筋書きの数字は変わらない。足元の営業利益率 14.4% は景気の山とみて、10 年中立は 13% 台に落とした(過去 10 年の中央値は 8% 近く)。リースは店舗型でないため影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→16.73 倍・やや楽観 PER 12.1→16.24 倍・中立 PER 11.2→15.35 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。